2011.01.28 Fri
ACT-ⅡⅩⅧ「醜悪」
人なんて、その程度の話。
「我、求めるは知世のみ。」
愛した人は、ティアナ・ランスターの中にいる。
求めるは、その人。
ただ、その人のみ。
我が手の中に・・・
その人を求めるだけ。
欲望を求めるだけ。
ただ、愛する人を求めるためだけに。
いや、何のために戦うのか。
そんな、理由など、自分の中に存在していない。
浦島悠介は戦う理由は、皆無。
全ては建前
「ラジエルに・・・勝ったんだね・・・」
少年は、また、別世界の記憶を蒼い海で見る。
ここは、はるか未来の世界。
人は、人であれば良い。
ここにいる人間の中に、特殊な能力を持つ人間はいない。
人が人らしく生きる世界。
人が、人でいられる、理想の世界。
全ての人が、望んだ、最高の形といっても過言では、無い気がする。
あぁ、ただ、そのまま、体は身を委ねて、全ての罪は浄化される。
ただ、何れ、また、あの世界に行かなければならないような気がした。
そうでなければ、勝てはしない。
ただ、そう思った。
自分の武器を、この世界に持ち込んでしまった武器を本来、持つべき者達にもたせなければならない。
「そして、そのとき・・・僕の戦いが、本当に始る。」
蒼い海が、二つの、紅い光によって、照らされる。
いや、浮上しそうな、そのような、印象を受ける。
その紅は、血の色ではない。
どこか、希望のあるような、そのような、紅に、少年は見えた。
「悠矢?また・・・海を見てるの?」
「うん・・・ちょっとね。」
アイナ・キャロル・・・
戦うことのない、少女。
彼女が戦っているのは、ゴンドラと言う、ある意味、最大の強敵と思える相手。
「悠矢は、無駄な所で、才能があるよね・・・」
「そう・・・かな?」
「うん。そーだよ。」
アイナが言う、無駄な部分とは、無駄な才能と言う所だ。
それなりに、出来ている事もあれば、できない物もある。
そう言うものを、悠矢は持っている。
そして、その、本来無駄な才能と言うのが、ここに来て発揮されたという事だ。
「アイナだって、ウンディーネの天才とか、かかれたじゃないか。」
「そう・・・なんだけどね。」
月刊ウンディーネの記事に、そのようなことが書いてあったのを、思い出す。
記載された月刊ウンディーネを悠矢は読み始めた。
14歳の天才・・・
アリシア・フローレンスの再来・・・
等と、書いてあった気がする。
「アリス・キャロルと、水無灯里の間に生まれた、美少女・・・アイナ・キャロルか・・・」
愛那とは、このように、漢字で書く。
それか、アイナ・・・
カタカナで、このように書く。
写真で見る、美少女は、水無灯里と言う女の髪色を受け継ぎ、髪艶はアリス・キャロルのような印象を受ける。
目元がアリス・キャロルに似ている以外は、後は、全て灯里。
話していると、少々、天然なところがあるが、しっかりしているのは、上手く、二人の母の遺伝子がミックスされたから。
と、言う事になるのだろう。
不可思議な中で、全ての罪を浄化できるような、そんな、印象さえある。
「そんなに、じろじろ見ないでよ。」
顔を、少し、紅くしながらアイナは、頬を紅くし、クスリと笑いながら、悠矢の頬を突いた。
「じゃ、仕事行こうか。」
「そうだね・・・」
「悠矢、ウンディーネやってみない?」
突然の事に驚きながらも、悠矢は、それを冗談と受け入れた。
ウンディーネの歴史は、悠矢はしっているつもりだ。
ただ、微笑を浮かべながら、変わらない笑みで、アイナと会話を続ける。
こうして、話している時間が、心地良い。
クスリと笑う、アイナの姿が、とても、可愛らしかった。
普通に、タイル式の道を歩きながら、アイナに、そのようなことを言われる。
思い出すことは、以前も、母や兄と、いや、数え切れない人たちと、そのようなことがあったということ。
「それで、僕にウンディーネをやれと?」
「だって、才能あるんだもん。ママたちに掛け合ってみるから、どうかな?」
「期待しないで待ってるよ。」
ふと、視線を感じた。
何かが、俺を見ている。
優しい、暖かい感情が、自分の中に向けられているような気がした。
ふと、振り向くと・・・
そこには、大きい金色の瞳をした、クロネコがいた。
「母さん・・・・・・?」
少年が、そう、呼んだとき、そこには、猫はいなかった。
そして、彼にとって、普通の生活が、また始る。
「ケット・シーを見た人って、絶対に幸せになれるんだって。」
「ケット・シー・・・?」
「北欧のお話に出てくる、猫の王様の事だよ。今、見えた気がしたんだ。」
「俺も、見たような気がする。」
おぼろげなアイナとは違い、はっきりと、その姿を見たような気がした。
ケット・シーを見れば
「幸せになれる・・・か。」
「灯里ママもね・・・シングル時代に見たんだって。」
「そう・・・」
ただ、そう、呟いた後、悠矢は祈った。
「アリシアお姉ちゃん・・・」
「燈也?」
「ぼくのいたせかいで・・・なにもしていない・・・」
「私が、全てを守ったわ。大丈夫よ。これから、選別が始るわ。」
守ったのは、まだ、救い様のある人間と、救える人間。
そして、見せしめのために残した、管理局の人間だけ。
粛正されるべき命は、既に、そこに無い。
存在していない。
今回の件、管理局の人間以外は、基本、全て・・・
自力で生き残ったと思うが、そうではない。
全ては、見せしめのための、人形でしかないのだ。
粛正されるための人形・・・
ただ、もう、生かされてしまっているだけの存在。
存在価値など、敵としては、既に、そこに無い。
力など、いらないとでも言った所だろうか。
所詮、小さな蟻一匹が火を吐く龍と戦うような物だ。
単に、見せしめのために、生かされた、死を運命付けられた、兵士達。
そのことを知る由も無い。
「うん・・・」
安定していない。
燈也の姿が、安定していなかった。
それは、すずかにも言えたことだが。
初めて、戦った年齢、それと、14のとき・・・
二人の精神が最も乱れているあの時代の姿になっている。
適応年齢の姿を見せていない。
あの事件以降、三年前の事件以降、燈也は不安定だ。
アリシア自体が、戦闘に出ることは無くなった。
燈也が不安になるからだ。
そんな、燈也を癒しているのが、母であるプレシアと、姉であるアリシア。
彼女であるすずかも、精神的に不安定になっている。
一端、燈也を部屋に戻した後に、アリシアは別の場所へと向かった。
「アリシアさん・・・お父様に、何をしたのですか!?」
二人の冥府の神から生まれた娘、冥王イクスは怒りの感情を隠さずに、アリシアにぶつけた。
幼い外見からは想像できないほどの剣幕だった。
そう言う、表情をさせてしまった、自分が嫌になることがある。
全ての人が、幸福になることは難しい。
その難しさを、改めて、彼女は実感していた。
イクスヴェリアは、幸せではないのだ。
「何もしていないわ。ただ、もう、戦わないようにしただけ。本来の・・・」
「それでも・・・あんな顔をした、お父様は!!お父様ではありません・・・!!お父様は死人のような目をしています・・・!!」
優しい笑顔のある子供に戻しているだけだ。
自分の弟に。
子供の主張は、矛盾がありすぎるが、その分、真っ直ぐすぎて良い。
ちゃんと、燈也が、燈也と言う人間になるのは、まだ、遠い。
戦いを知らない燈也になるのは・・・
まだ、遠い。
「貴方は、人を殺す、お父様を見たい?」
純粋に、人を殺す仕事でもある、それが、正義として許される仕事でもある時空管理局。
アリシア・テスタロッサは、哀しみの表情をしながら、イクスと同じ目線に立ち、彼女に尋ねた。
「いえ・・・」
「だったら、今の燈也を・・・貴方のお父様を我慢してあげて?大丈夫よ。」
「何故・・・?」
「本来、あるべき形を取り戻せば、それは、貴方の父親なのだから・・・」
そうなる前に、ミッドチルダは潰したい。
アリシア・テスタロッサ・・・
嫌、全ての人間が望む事である。
ここにいる、全ての人間限定であるが。救い様の無い人間を殺し、邪気の無い人間を集めて、新たな、世界を構成する。
それが、この組織の目的でもある。
殆どの世界は、消滅した。
「燈也のような子が増えないようにしたい・・・」
優しい・・・
自分の弟に戻すため、アリシア・テスタロッサは鬼になる。
「・・・っ・・・!!」
一人の男は目覚めた。
最も、重傷を負っていた、男が、最初に目覚めたのだ。
「随分、眠ってた、気がする。」
「クロノ君!?」
「よぉ・・・」
ゆっくりと、体を起こし、戦士は今、目を覚ます。
「眠ってたぶん、使えるものは、全部つかえるようにした・・・」
かつての、クロノの印象は、消え、逆に、ワイルドになったような、印象を受ける。
そして、この戦いから、自分が随分と甘かったという事を再認識した。
スラッシュケインを改めて、手に持ち、拳を握りながら、動き出す。
ベッドから降りて、首を回して、肩を鳴らす。
「はぁ・・・」
眠っていた時間、無駄にはしなかった。
その中で、ただ、只管思ったことが、現実として起こり、自分に力を貸しただけのことだ。
いや、開放されたといった方が正しいかもしれない。
「随分と、やってくれたなぁ・・・全くよぉ・・・」
敵として、相対したもう一人の自分である、クロノ・ハーヴェイを倒す。
ただ、それだけだ。
「随分と・・・やってくれたからなぁ・・・」
ふと、横目で、なのはと、フェイトを見た。
そして、はやてをみる。
「ここは?」
「わからへんよ・・・外の景色なんて、見てへんし。」
3年、ずっと、ここにいた。
酸素が、供給されているという事は、地上であると考えたいが。
「憐さんが着てたけど、いつの間にか、消えて・・・いつの間にか、戻ってくるし。」
「憐が・・・」
ボソッと、呟いた後、憐の気配をクロノは探し出す。
何をしている。
今は、独断専行をしている場合ではない筈だ。
そう、思いながら、かすかに残っているような気がする、憐の気配を探ろうとした。
「そんなこと、できるん?」
「癖の強いあいつの魔力だ・・・嫌でも・・・」
「言われてなくても、出てくるわよ。どう?目覚めの気分は。」
「最悪だ・・・・・・」
「でしょうね。」
「憐か。」
「解るくせに、馬鹿ねー」
いつもと変わらない調子で、憐は、クロノに応えた。
「何をしていた?」
「見学って所かしら。」
「見学?」
「戦闘の・・・ティーダと戦ったり、そんな感じよ。」
「ティーダ・・・か・・・」
ティーダ・ランスター・・・
既に、面識のある二人。
「なぁ・・・ティーダ・ランスターって、そこまですごいんか?資料を見る限りじゃ・・・」
「ま、それが、馬鹿の考える事よね。」
「馬鹿!?」
「憐・・・!」
クロノが、憐を叱責する。
はやては、過去にある資料しか見たこと無い。
「あんなの、全部嘘・・・」
「ま、あの死体、実はフェイクだったからな・・・」
「なんやて!?」
その言葉に、衝撃を受けるものは、少なくは無い。
「闇の巨神・・・呼び出したのか・・・」
「エルヴェリオン・・・まさか、ここで、呼び出すとはね・・・」
ティーダ・ランスターは、驚いた。
「闇の巨神・・・だったかしら?」
「ビブロスに接収され、一時期、その世界の外敵になったものの、本来は、四大巨神の一角である、闇の巨神エルヴェリオン・・・その黒で統一された姿は、美しい。」
「とはいえ・・・ラジエルまで、倒すなんて・・・凄いな。」
「ラジエル・・・あぁ。」
「本来、ミカエル、メタトロン、ガブリエルの中にある、四大天使のうちの一人、ラジエル。全てにおいて、学習し、全てを得る。」
無限に進化しつづける、四大天使の一人。
「全く・・・さ・・・まだ、なれないドラグリオンで捕らえるつもりだったんだけどなぁ・・・」
「そんな柔な連中じゃないってことでしょ?」
「まぁね・・・レイディーンかぁ・・・無意識なのか、燈也が送ったのか。」
髪を持ち上げながら、失敗したと、ティーダは言う。
エルヴェリオンやレイディーン・・・
予測不可能だった。
しかも、レイディーンが、ラジエルを食い破るとは、思いもしなかったというわけだ。
「天使と言っても・・・内部からは弱いのかしら?」
「さぁ?傲慢じゃないですか。」
「あら、天使も傲慢なのね。」
「さぁ・・・?ただ、ま・・・そんなもんでしょ。」
正直、自分でも解らない。
そう、言うかのように、ティーダは言う。
「憐さん。来ません?」
「まだ、いいわ。何となく、見たくてね。あの子達のする事。」
「そうですか・・・」
残念そうな顔を浮かべた後、
「ティアナ、瑠璃ちゃん・・・」
ただ、愛する、妹と、自分の義妹を見つめた後、ティーダは消えた。
残念だと、いいながら。
「憐・ヴィオラだな?」
唐突にかけられた、声。
振り向けば、質素な管理局の制服を着用した男二人が、デバイスを構えて、立っていた。
「あら、随分と手荒いことで。」
「動くな!!憐・ヴィオラ!!」
「我々に同行してもらう!!」
「い・や・よ。」
答えを聞かずに、一瞬飛び上がったような仕草を見せ、相手に空を見せたときに、ドゥーエ・クロウで突き刺した。
躊躇いや、容赦も無く。
「変わらない物ね。いえ、それは、私もか。ねぇ?ドゥーエ・・・」
管理局残党、敗者の群れに取り込まれる、悠介達を見ながら、憐はここから、ただ、眺めて、飽きたのと同時に離脱した。
一瞬、壁に、血のような赤で書かれた、文字に目がついた。
Do not forgive the person handful of Administration Bureau.
管理局の人攫いを許すな。
そう、書かれていることに、目を突いたが、その前に、此方に目が行った。
「レイディーン・・・これが、その力か・・・」
本当の、レイディーンの力が、ここにある。
食い破るように、現れた、本物の、漆黒のレイディーン・・・
そして、それに共鳴するかのように、現れたのは、エルヴェリオン・・・
闇神・・・
ラジエルのコアを破壊。
全てが、粒子となり、悠介の中に戻った物の、レイディーンは戻りはしなかった。
新たに、ここで、主を捜すかのように。
「私が・・・継ぎます。」
「良いよ。こいつは、瑠璃とティアを見ている。」
レイディーンがみていたのは、娘である、瑠璃と、愛弟子であるティアナ・ランスターだった。
求めるかのように。
「ティア参りましょう。」
「うん・・・」
起動キーは瑠璃とティアナに書き換えられた。
新たな主を認めたかのように、レイディーンは、二人の体の中に、粒子となって溶け込んでいった。
これで、今のレイディーンの主は、ティアナと瑠璃になった。
それと同時に、取り囲むかのように、管理局残党が現れた。
終わった直後に、隠れて、配置されていたのはわかっていた。
おそらく、この都市の地下に潜んでいたのだろう。
あの衝撃破の中で、相当、強い、シェルターの中に潜んでいたのだろう。
あの、燈也から魅せられた映像の中にあったのは、それでも、辛うじて生き延びた、奇跡の人達。
そんなことを思ったとき、悠介の鼓膜に鬱陶しいと思えるような声が、響いた。
先ほどの、機動兵器ゲーデに乗っていた男の叫び声のような気がした。
自分達を恐れているから、大きな声で、虚勢を張る。
良く、解っている事だろう。
口上手く、説明して、自分達の力を手に入れたい。
そんなところだろう。
「我々と来てもらおう。あー、浦島悠介?ティアナ・ランスター、月村瑠璃。」
「呼ばれるのは、ある程度、解っていたことだけどけど・・・」
嫌な物がある。
嫌な物を感じることができる。
奇跡とは、かけ離れたような、何か、嫌な物が残る、黒い物。
デバイスやら、マシンガンを構えて、ふと、横を見れば、ヴィヴィオの後頭部に銃口をつけている。
「アルフ・・・」
悠介が、そう呼び、アルフは、悠介の足もとに移動した。
こちらの血を飲ませたぶん、今の、アルフの主は悠介ということになる。
既に、ヴィヴィオが人質に取られたのであれば、こちらは動くことはできない。
相手の要求に応じるのみだ。
ヴィヴィオに状況に合わせて、こちらに来るように、指示を出しておくべきだったと、いまさら、後悔をする。
「こちらの指示に従ってもらう。素直に従えば、我々は、この子供を殺さずに済む。」
どの道、素直に従わなければ、殺す。
悠介には、そう聞こえた。
子供だろうが、なんだろうが、関係無いと。
ここで、その子に当てている銃を下ろせ・・・
そう言っても、無駄であることが解る。
「それより、あんた達の代表は・・・あんただろ?それを見せてくれよ。」
あんたの姿を・・・
素直に出れば、信頼はできる。
今は、無用な争いを避けるべきであると、考えた。
それに、ヴィヴィオを人質にとられている時点で、動けない。
悠介が、草薙の剣を地面に置き、両手を上げた。
他のメンバーも、自らのデバイスを地面に置いた。
そうすれば、思ったとおり、残党の首領が出てきた。
顔だけは威厳のある男とでも言っておこう。
改めて、自分達にデバイスを向けている人間たちの中には、女もいる。
さて、どうする。
いや、ヴィヴィオを人質に取った時点で、最低限の保証はしてもらうが。
「了解しました。でも、こちら側全員の安全と扱いは、保障してもらえますよね?」
相手は、いやでも、あの天使達と互角に戦うほどの力が欲しいだろう。
ここで、自分達に、どういう扱いをすれば、良いのか、解る筈だ。
それほど、相手とて、馬鹿ではない。
「良いだろう。君達の待遇は、我々が保証する。」
今更だが、瑠璃とティアナがみてきた物はなんだろうと思う。
敵に寝返りたくなるほどの、何か。
この、地上の凄惨な状況かと思ったが、どうも、違うようだ。
「にいさま・・・本当に良くのですか?」
「行かなきゃヴィヴィオが、殺される。」
はやてたちも、来ているかもしれないと言う、淡い希望の中で、悠介達は地表に落とした、デバイスを再び拾う前に、別の兵士がそれを回収していた。
「お預かりします。暴れられちゃ、叶いませんから。」
やはり、信用はされていない。
それくらいのことは解っていた。
その兵士に、自らのデバイスを渡す。
草薙の剣の機能は、この兵士は、知らないと見える。
それだけで、十分だった。
それに、体の中に、レイディーンや、エルヴェリオンがある時点で、いつでも、脱出はできる。
「後、ヴィヴィオを介抱してくださいませんか?今は、何も出来ない、子供ですわ。」
瑠璃がそう、言った時、素直にヴィヴィオは解放された。
デバイスが、人質と同じ状態になった今、ヴィヴィオは必要無いと考えたのだろう。
手錠をかけない理由は、こちらに疑いをかけたくないが故の事だろう。
疑いをかければ、絶対に、反感を覚える。
反乱を行う。
故に、武器を没収するだけにし、今後は、こちらと有益に繋がりを持つためと、考えられるが、しかし、悠介にとっては、ヴィヴィオを人質にした時点で、完全に、不信感を覚えていたのだが。
これで、何があるのか。
少しばかりの事に目を瞑り、管理局のために働く事になるのか。
管理局事態と闘うことになるのか。
それは、この者たちに、全て、かかっているといってもいいだろう。
管理局の残党は、愚かなのか?
ただ、そう、思った。
二つとも、人質をとっていれば・・・
いや、武器を没収し、人質した分、ヴィヴィオも人質にしておけば、余計に、手は出せない筈だが。
子供を人質に取ったままで、外道と思われたくないのか、どうなのか。
信頼と不安は、五分五分と見てもいいだろう。
「お姉ちゃん・・・」
「大丈夫よ。ヴィヴィオ。」
その代わり、こちらは、残党を信頼してはいない。
時空管理局残党組織・・・地下に通じる扉を開き、案内された、地下には、広大な設備があった。
あの衝撃を受けても、壊れなかったと言うのことは、
「ここは、民間会社が、勝手に作ったシェルターを我々が、使用しているだけだ。」
「徴用って訳ね・・・・・・」
聞こえないように、ボソッと、呟いた後に、ジロっと、目の前を歩く、男を睨んだ。
神への反逆を狙うのは、確かだろう。
しかし、この程度の戦力で何が出切ると言うのだろうか。
等と、思う。
既に、崩壊していた、時空管理局本局は、地上本部を破壊し、一部、自然と融合しつつある。
何を、企んでいるのだろう。
神への反逆にしても、先ほどのものをみた筈だと思ったのだが。
おそらく、自分達が、ここの組織にとって、最後のカードなのだ。
ただ、そう、思った。
「欲しいのは、ドラグリオン、エルヴェリオン、レイディーンか・・・」
そして、それを、操る、鍵となる自分。
所詮、奴らにとっては、一応の危険物質であるがゆえに、単なる、兵器としか扱わない事も解る。
地下を降りる階段をどれくらい、通っただろう。
「武器は・・・少ないか・・・」
「レイディーンを回収しない時点で、おかしいけどね。」
「流石に、回収は出来ないでしょう?」
「そうなんだけどね・・・」
「ま、ここからは・・・ね。」
ただ、下るだけ・・・
どれだけ、歩いたか解らないが、よく、ありがちな扉が、目の前に現れた。
ありがちな扉を開ければ、想像通りの小奇麗な施設かと思ったが、中は、一部潰れており、そして、いくつかの転がっている腕。
刺繍が、いや、血の匂いが広がり、ここにも、ダメージがあったのかと思う。
「あんた達の、本当の代表は?」
「ついてくれば解る。」
先ほど、自分達を怒鳴った、男達が、先導し、他の戦闘員はその場で解散された。
ただ、目の前にいる、男は何か、恐れをなしているような気がした。
邪険に扱っているのは、それが、原因のようなきがした。
目の前の男はおそれている。
敵となることを。
男が立ち止まり、扉の奥で、号令のような物を叫んでいた。
早く、案内しろと思ったが、これが、軍隊の形式と言う物なのだろう。
「この奥だ。」
「どうも。」
瑠璃が、優しい笑顔で、その兵士に、お辞儀をし、案内された、部屋の中に入っていった。
男は、よく漫画とかで見る、小太りの兵隊の指揮官だった。
片目は潰れているのが、印象的ではあるが。
おそらく、しょうも無い、理由で怪我をしたのだろうと思った。
世の中で嫌な物が指揮官になるということもある。
これは、ソレの具現化したものかと思った。
一応は、それなりに、部下からの人望もあるのだろう。
だが、世間と言う物は、人受けのよさそうな物を殺し、人受けの悪そうな人間を生かす。
これは、どういうことか。
「べナム・ジェイカー准将だ。」
軽く、会釈し、女を取り扱うだけは、一人前そうな顔をしている。
「単刀直入に言うけどさ、どうするつもり?断ったら?」
「すまないが、監禁させてもらう。」
「へーへー・・・」
今の言い方に、随分と、嫌、答え方に、随分と、腹が煮えたことだろうと、悠介は思った。
気付いている。
瑠璃とティアナが、ここに着てから、明らかに嫌な顔をしていることを。
「質問して良いですか?」
瑠璃とティアナが悠介を差し置いて、前にでた。
前回のミッドチルダ内での、小競り合いで良く知っている。
「何か?」
「レギオンである、死体を利用して作られたガーディアン・・・さらに、核弾頭・・・アレを資源の乏しいこの世界で、どう、製作したのですか?」
「それは、こちらにも機密と言う物がある。」
機密・・・
そう言えば、全ては、黙秘と言う中に、葬られる。
おそらく、ソレは、わざと敵が残したのではないのだろうかと思った。
「そのような答えでは、こちらも、あなた方に協力することはできかねません。」
「ほう・・・なぜかな?」
「得体の知れない兵器を製作し、なおかつ、世界を破壊するほどの兵器をも持っている・・・そんな、危なっかしい組織に、背中を預ける事が出来ますか?」
「レジ明日提督の設計、そして製作したガーディアン・・・ゲーデは素晴らしい物だ。」
「しかし、あの時、ジェイル・スカリッティの揺り篭での戦いのとき、ファントムに触れられた、ゲーデは、事実上、パイロットとどうかし、レギオンと化した。さらに、レギオンと同調するための薬。」
ソレは、徐々に、
「レギオン化を進行させることによって、ゲーデを動かす事ができる・・・」
ゲーデ・・・
ソレの意味は、死神と言う意味。パ
イロットを殺して、地獄に送る。正に、ゲーデという名前に相応しい。
「あの戦闘でも見れば、解ったのではありませんか?ゲーデも、核弾頭も、不必要だと。」
「それは、ゲーデのパイロットが軟弱であるあるからだ。私情に走れば、勝機を失う。」
あくまでも、時空管理局が勝利する。
そのようなコンセプトの元、この組織は動いている。
全ては勝利の元に成り立っている、傲慢な組織。
勝利しか知らないといってもいい。
自分が、他世界を観察しつづける事によって、自分達が世界を護っているという傲慢さが生まれ、さらには、神と勘違いし、自分たちは、全ての世界で頂点に立ちつづける、最強の存在であると考える。
故に、自分達以上の技術力を持っていたとしたら、簡単に破壊される。
今回が、良い例だ。
管理局の組織など、脆弱であると、思い切り見せ付けられた。
筈であるが・・・
それを信じない人間と言う物は多い。
ここにいる人間含めて、全てのミッドの人間が、そう、思っているのかもしれない。
今回のゲーデとの戦いとて、特殊能力の力ではない。
「私情以前の問題だろう。性能の差・・・そういうことじゃないのかね?」
などと、悠介は、ポツリと呟いた。
全ては、性能の差。特殊な力など無い。
「核兵器をも吸収する敵・・・いえ、無効化する敵・・・それであの、敵を倒せるとでも思っているのですか?」
「無効化・・・?それは、あの敵が、そのような能力を持っていたからなのではないのかね?」
「他の敵は、それを持っているほどの力は無いと?」
ソウルディストラクションを、零距離で放った姿は見ていたはずだ。
とは言え、あの時、俗に言う、怒りの力によって破壊したのだが。
あの時ほどの出力は出ていたわけではない。
自惚れは
「自分を殺す・・・か。」
今回も、レイディーンがいなければ、勝利する事は出来なかった。
そして、共鳴し、エルヴェリオンを出してくれるまでは。
その事実を解ろうとしないのが、この人間達であるという訳だ。
「当然だ。我々は、絶対に勝つ存在なのだよ。」
「その根拠は?」
「みていただこう。」
男がモニターを出した。
そこには、大量のガーディアンが存在していた。
総勢、30機といったところだろうか。
ゲーデ・・・
カラーリングには荒が見えるが、今は、そのような物を気にしている場合ではないだろう。
外見は大したものだとは思った。
しかし、限られた、管理局の生き残りで、どうやって、これを作ったのか。
「人攫い・・・等と、言う言葉が、目に入りましたけど?」
「人攫い?それは、誤解だよ。我々は、避難民を助けただけだ。まだ、生きている、避難民のね。」
「そして、それを・・・ゲーデ、核弾頭の開発に注いだと・・・」
「注いだ?われわれは、助けた。それを返すのは当然のことだ。」
「それは解りますけどね。じゃぁ、何で、あの街の瓦礫に、人攫いを許すなっていう、文字があったわけです?」
「それは、悪戯だよ。我々は、民衆の為に、しているし、民衆は、それを喜んでいる。」
虚無・・・
この男は、ただ、そう、喜んでいるのは、この男だけではないのだろうか。
そのように思えた。
「みてみるかね?われわれの、正義の行動を。」
「正義ね・・・」
この男の言う、正義は、どこにあるのだろう。
そう、思いながら、男は、直々に案内してくれるらしい。
男は立ち上がり、部屋から出て、俗に言う、隠し通路を通り、ゲーデを整備されている場所に、案内させられた。
その場所は、死臭の香りがした。
既に、そこにいる人は、人ではないような扱い。
そんな感じがした。
既に、何人か、死んでいる。
死体は葬られることなく、一か所に集められていた。
「アレは・・・?」
「使い物にならなくなった人間は、人間爆弾として再利用する。」
「ッ・・・!!!」
「貴様!!!何を、何を、考えて!?」
人間爆弾・・・
その言葉に、衝撃を受けた人間は多いだろう。
しかし、この状況になれば、人間も、また、兵器となる。
死んでもなお、灰人になってもなお、まだ、人として死ぬ事を許されない。
その場所には、蝿のような虫が多かっていた。
しかし、爆薬がつんでいる、危険な体。
「あんた・・・」
「尊い犠牲だ。我々の勝利の為に!!」
「それで、すむかよ!!」
悠介の中にある、何かが、大きく乱れ始める。
『おぉぉぉぉ!!!!』
准将が、そのような声をあげた途端、周りの兵士が、呼応するように、雄叫びのような、掛け声をあげた。
そういう、人心を掌握するほどのカリスマは備わっているのだろう。
いや、でかいことを言うのだけは、一人前なのだ。
「我々は、またとない、強力な力を手に入れた!!」
そのまま、演説をし始める、准将に、呆れながら、横目で確かに、燈也の言っていることを、確信していた。
「狂ってやがる・・・」
そう、おもいながら、ついて行ってみた物は、人間が奴隷として扱われている、酷いものだった。
人を人とも思わない、やりくちだった。
奴隷・・・
戦意高揚の為に、管理局の生き残りは女を犯し、兵器開発の為に男は命を捧げられて、死にいたる。
勝利の為に、男は犠牲になり、勝利の為に、女は身を捧げる。
そして、最終的には・・・
人間爆弾として使用される。
「あれが、MK-Ωの正体・・・」
「その通りだよ。」
死んだ人間の極僅かな体から採取したリンカーコア等の使用。
それによって、複数量産・・・
「我々が勝ち、戦うための戦意高揚だよ。」
勝利するために、必要なこと・・・
このようなことは、まさかとは思ったが、本当にあると思うと、狂っている人間としか思えなかった。
人間爆弾などと言う、明らかに、後味が悪くて吐き気のするもの。
「人間爆弾など・・・」
狂いすぎている。
これほどの物を見れば、常人ならば、気が狂う。
燈也が、かつて言っていたことは、管理局が最低の組織であるということ。
確かに、その通りだ。
傲慢が生んだ、天罰であると言える。
この状態は。
こうなることは、ある程度、管理局の運命だったのではないのだろうかとも、思うようになった。
傲慢な考えのもとに、支配してきた人間が、それをするのは見えていることだが。
管理局の人攫いに、正義など無い。
ただ、それを口実に、使えない民間人はぼろ雑巾になるまで扱い、あとは、自分だけが生き残る。
それが、目的か。
しかし、それが、戦争かと、忘れていた物を思い出す。
そして、
「はぁー・・・「俺は、あんたを殺したいよ・・・」って、思ったっしょ?」
背後から、殺意が聞こえてきた。
殺意が、声となって聞こえてきた。
嫌な声だ・・・
その声は、美しかった。
人を魅了するほどの声を持っていることも解る。
しかし、それに、殺意を乗せると、恐怖となり、嫌な声となる。
背中に、嫌な何かが、ゾクゾクっと、流れるような感覚を覚えた。
これは、なんだ。
何だ、この、嫌な物はと、思いながらも、その時、演説を聞いていた、一人の兵士が肉片となって、崩壊した。
「生き残ったのは、自分たちの力・・・って、思ってるよね。でも、違うよ?」
一体のゲーデが、粒子となって、崩壊した。
跡形もなく・・・
そこに、無かったかのように。
「ラーラー・・・」
歌いながら、二体目のゲーデも崩壊する。
「本当はね?アリシア様のお陰なんだよ?君たちが、生き残ったのはさ。」
女の声…
その声が響く。
そして、姿を現した。
その姿は・・・
天使・・・
愛した人は、ティアナ・ランスターの中にいる。
求めるは、その人。
ただ、その人のみ。
我が手の中に・・・
その人を求めるだけ。
欲望を求めるだけ。
ただ、愛する人を求めるためだけに。
いや、何のために戦うのか。
そんな、理由など、自分の中に存在していない。
浦島悠介は戦う理由は、皆無。
全ては建前
「ラジエルに・・・勝ったんだね・・・」
少年は、また、別世界の記憶を蒼い海で見る。
ここは、はるか未来の世界。
人は、人であれば良い。
ここにいる人間の中に、特殊な能力を持つ人間はいない。
人が人らしく生きる世界。
人が、人でいられる、理想の世界。
全ての人が、望んだ、最高の形といっても過言では、無い気がする。
あぁ、ただ、そのまま、体は身を委ねて、全ての罪は浄化される。
ただ、何れ、また、あの世界に行かなければならないような気がした。
そうでなければ、勝てはしない。
ただ、そう思った。
自分の武器を、この世界に持ち込んでしまった武器を本来、持つべき者達にもたせなければならない。
「そして、そのとき・・・僕の戦いが、本当に始る。」
蒼い海が、二つの、紅い光によって、照らされる。
いや、浮上しそうな、そのような、印象を受ける。
その紅は、血の色ではない。
どこか、希望のあるような、そのような、紅に、少年は見えた。
「悠矢?また・・・海を見てるの?」
「うん・・・ちょっとね。」
アイナ・キャロル・・・
戦うことのない、少女。
彼女が戦っているのは、ゴンドラと言う、ある意味、最大の強敵と思える相手。
「悠矢は、無駄な所で、才能があるよね・・・」
「そう・・・かな?」
「うん。そーだよ。」
アイナが言う、無駄な部分とは、無駄な才能と言う所だ。
それなりに、出来ている事もあれば、できない物もある。
そう言うものを、悠矢は持っている。
そして、その、本来無駄な才能と言うのが、ここに来て発揮されたという事だ。
「アイナだって、ウンディーネの天才とか、かかれたじゃないか。」
「そう・・・なんだけどね。」
月刊ウンディーネの記事に、そのようなことが書いてあったのを、思い出す。
記載された月刊ウンディーネを悠矢は読み始めた。
14歳の天才・・・
アリシア・フローレンスの再来・・・
等と、書いてあった気がする。
「アリス・キャロルと、水無灯里の間に生まれた、美少女・・・アイナ・キャロルか・・・」
愛那とは、このように、漢字で書く。
それか、アイナ・・・
カタカナで、このように書く。
写真で見る、美少女は、水無灯里と言う女の髪色を受け継ぎ、髪艶はアリス・キャロルのような印象を受ける。
目元がアリス・キャロルに似ている以外は、後は、全て灯里。
話していると、少々、天然なところがあるが、しっかりしているのは、上手く、二人の母の遺伝子がミックスされたから。
と、言う事になるのだろう。
不可思議な中で、全ての罪を浄化できるような、そんな、印象さえある。
「そんなに、じろじろ見ないでよ。」
顔を、少し、紅くしながらアイナは、頬を紅くし、クスリと笑いながら、悠矢の頬を突いた。
「じゃ、仕事行こうか。」
「そうだね・・・」
「悠矢、ウンディーネやってみない?」
突然の事に驚きながらも、悠矢は、それを冗談と受け入れた。
ウンディーネの歴史は、悠矢はしっているつもりだ。
ただ、微笑を浮かべながら、変わらない笑みで、アイナと会話を続ける。
こうして、話している時間が、心地良い。
クスリと笑う、アイナの姿が、とても、可愛らしかった。
普通に、タイル式の道を歩きながら、アイナに、そのようなことを言われる。
思い出すことは、以前も、母や兄と、いや、数え切れない人たちと、そのようなことがあったということ。
「それで、僕にウンディーネをやれと?」
「だって、才能あるんだもん。ママたちに掛け合ってみるから、どうかな?」
「期待しないで待ってるよ。」
ふと、視線を感じた。
何かが、俺を見ている。
優しい、暖かい感情が、自分の中に向けられているような気がした。
ふと、振り向くと・・・
そこには、大きい金色の瞳をした、クロネコがいた。
「母さん・・・・・・?」
少年が、そう、呼んだとき、そこには、猫はいなかった。
そして、彼にとって、普通の生活が、また始る。
「ケット・シーを見た人って、絶対に幸せになれるんだって。」
「ケット・シー・・・?」
「北欧のお話に出てくる、猫の王様の事だよ。今、見えた気がしたんだ。」
「俺も、見たような気がする。」
おぼろげなアイナとは違い、はっきりと、その姿を見たような気がした。
ケット・シーを見れば
「幸せになれる・・・か。」
「灯里ママもね・・・シングル時代に見たんだって。」
「そう・・・」
ただ、そう、呟いた後、悠矢は祈った。
「アリシアお姉ちゃん・・・」
「燈也?」
「ぼくのいたせかいで・・・なにもしていない・・・」
「私が、全てを守ったわ。大丈夫よ。これから、選別が始るわ。」
守ったのは、まだ、救い様のある人間と、救える人間。
そして、見せしめのために残した、管理局の人間だけ。
粛正されるべき命は、既に、そこに無い。
存在していない。
今回の件、管理局の人間以外は、基本、全て・・・
自力で生き残ったと思うが、そうではない。
全ては、見せしめのための、人形でしかないのだ。
粛正されるための人形・・・
ただ、もう、生かされてしまっているだけの存在。
存在価値など、敵としては、既に、そこに無い。
力など、いらないとでも言った所だろうか。
所詮、小さな蟻一匹が火を吐く龍と戦うような物だ。
単に、見せしめのために、生かされた、死を運命付けられた、兵士達。
そのことを知る由も無い。
「うん・・・」
安定していない。
燈也の姿が、安定していなかった。
それは、すずかにも言えたことだが。
初めて、戦った年齢、それと、14のとき・・・
二人の精神が最も乱れているあの時代の姿になっている。
適応年齢の姿を見せていない。
あの事件以降、三年前の事件以降、燈也は不安定だ。
アリシア自体が、戦闘に出ることは無くなった。
燈也が不安になるからだ。
そんな、燈也を癒しているのが、母であるプレシアと、姉であるアリシア。
彼女であるすずかも、精神的に不安定になっている。
一端、燈也を部屋に戻した後に、アリシアは別の場所へと向かった。
「アリシアさん・・・お父様に、何をしたのですか!?」
二人の冥府の神から生まれた娘、冥王イクスは怒りの感情を隠さずに、アリシアにぶつけた。
幼い外見からは想像できないほどの剣幕だった。
そう言う、表情をさせてしまった、自分が嫌になることがある。
全ての人が、幸福になることは難しい。
その難しさを、改めて、彼女は実感していた。
イクスヴェリアは、幸せではないのだ。
「何もしていないわ。ただ、もう、戦わないようにしただけ。本来の・・・」
「それでも・・・あんな顔をした、お父様は!!お父様ではありません・・・!!お父様は死人のような目をしています・・・!!」
優しい笑顔のある子供に戻しているだけだ。
自分の弟に。
子供の主張は、矛盾がありすぎるが、その分、真っ直ぐすぎて良い。
ちゃんと、燈也が、燈也と言う人間になるのは、まだ、遠い。
戦いを知らない燈也になるのは・・・
まだ、遠い。
「貴方は、人を殺す、お父様を見たい?」
純粋に、人を殺す仕事でもある、それが、正義として許される仕事でもある時空管理局。
アリシア・テスタロッサは、哀しみの表情をしながら、イクスと同じ目線に立ち、彼女に尋ねた。
「いえ・・・」
「だったら、今の燈也を・・・貴方のお父様を我慢してあげて?大丈夫よ。」
「何故・・・?」
「本来、あるべき形を取り戻せば、それは、貴方の父親なのだから・・・」
そうなる前に、ミッドチルダは潰したい。
アリシア・テスタロッサ・・・
嫌、全ての人間が望む事である。
ここにいる、全ての人間限定であるが。救い様の無い人間を殺し、邪気の無い人間を集めて、新たな、世界を構成する。
それが、この組織の目的でもある。
殆どの世界は、消滅した。
「燈也のような子が増えないようにしたい・・・」
優しい・・・
自分の弟に戻すため、アリシア・テスタロッサは鬼になる。
「・・・っ・・・!!」
一人の男は目覚めた。
最も、重傷を負っていた、男が、最初に目覚めたのだ。
「随分、眠ってた、気がする。」
「クロノ君!?」
「よぉ・・・」
ゆっくりと、体を起こし、戦士は今、目を覚ます。
「眠ってたぶん、使えるものは、全部つかえるようにした・・・」
かつての、クロノの印象は、消え、逆に、ワイルドになったような、印象を受ける。
そして、この戦いから、自分が随分と甘かったという事を再認識した。
スラッシュケインを改めて、手に持ち、拳を握りながら、動き出す。
ベッドから降りて、首を回して、肩を鳴らす。
「はぁ・・・」
眠っていた時間、無駄にはしなかった。
その中で、ただ、只管思ったことが、現実として起こり、自分に力を貸しただけのことだ。
いや、開放されたといった方が正しいかもしれない。
「随分と、やってくれたなぁ・・・全くよぉ・・・」
敵として、相対したもう一人の自分である、クロノ・ハーヴェイを倒す。
ただ、それだけだ。
「随分と・・・やってくれたからなぁ・・・」
ふと、横目で、なのはと、フェイトを見た。
そして、はやてをみる。
「ここは?」
「わからへんよ・・・外の景色なんて、見てへんし。」
3年、ずっと、ここにいた。
酸素が、供給されているという事は、地上であると考えたいが。
「憐さんが着てたけど、いつの間にか、消えて・・・いつの間にか、戻ってくるし。」
「憐が・・・」
ボソッと、呟いた後、憐の気配をクロノは探し出す。
何をしている。
今は、独断専行をしている場合ではない筈だ。
そう、思いながら、かすかに残っているような気がする、憐の気配を探ろうとした。
「そんなこと、できるん?」
「癖の強いあいつの魔力だ・・・嫌でも・・・」
「言われてなくても、出てくるわよ。どう?目覚めの気分は。」
「最悪だ・・・・・・」
「でしょうね。」
「憐か。」
「解るくせに、馬鹿ねー」
いつもと変わらない調子で、憐は、クロノに応えた。
「何をしていた?」
「見学って所かしら。」
「見学?」
「戦闘の・・・ティーダと戦ったり、そんな感じよ。」
「ティーダ・・・か・・・」
ティーダ・ランスター・・・
既に、面識のある二人。
「なぁ・・・ティーダ・ランスターって、そこまですごいんか?資料を見る限りじゃ・・・」
「ま、それが、馬鹿の考える事よね。」
「馬鹿!?」
「憐・・・!」
クロノが、憐を叱責する。
はやては、過去にある資料しか見たこと無い。
「あんなの、全部嘘・・・」
「ま、あの死体、実はフェイクだったからな・・・」
「なんやて!?」
その言葉に、衝撃を受けるものは、少なくは無い。
「闇の巨神・・・呼び出したのか・・・」
「エルヴェリオン・・・まさか、ここで、呼び出すとはね・・・」
ティーダ・ランスターは、驚いた。
「闇の巨神・・・だったかしら?」
「ビブロスに接収され、一時期、その世界の外敵になったものの、本来は、四大巨神の一角である、闇の巨神エルヴェリオン・・・その黒で統一された姿は、美しい。」
「とはいえ・・・ラジエルまで、倒すなんて・・・凄いな。」
「ラジエル・・・あぁ。」
「本来、ミカエル、メタトロン、ガブリエルの中にある、四大天使のうちの一人、ラジエル。全てにおいて、学習し、全てを得る。」
無限に進化しつづける、四大天使の一人。
「全く・・・さ・・・まだ、なれないドラグリオンで捕らえるつもりだったんだけどなぁ・・・」
「そんな柔な連中じゃないってことでしょ?」
「まぁね・・・レイディーンかぁ・・・無意識なのか、燈也が送ったのか。」
髪を持ち上げながら、失敗したと、ティーダは言う。
エルヴェリオンやレイディーン・・・
予測不可能だった。
しかも、レイディーンが、ラジエルを食い破るとは、思いもしなかったというわけだ。
「天使と言っても・・・内部からは弱いのかしら?」
「さぁ?傲慢じゃないですか。」
「あら、天使も傲慢なのね。」
「さぁ・・・?ただ、ま・・・そんなもんでしょ。」
正直、自分でも解らない。
そう、言うかのように、ティーダは言う。
「憐さん。来ません?」
「まだ、いいわ。何となく、見たくてね。あの子達のする事。」
「そうですか・・・」
残念そうな顔を浮かべた後、
「ティアナ、瑠璃ちゃん・・・」
ただ、愛する、妹と、自分の義妹を見つめた後、ティーダは消えた。
残念だと、いいながら。
「憐・ヴィオラだな?」
唐突にかけられた、声。
振り向けば、質素な管理局の制服を着用した男二人が、デバイスを構えて、立っていた。
「あら、随分と手荒いことで。」
「動くな!!憐・ヴィオラ!!」
「我々に同行してもらう!!」
「い・や・よ。」
答えを聞かずに、一瞬飛び上がったような仕草を見せ、相手に空を見せたときに、ドゥーエ・クロウで突き刺した。
躊躇いや、容赦も無く。
「変わらない物ね。いえ、それは、私もか。ねぇ?ドゥーエ・・・」
管理局残党、敗者の群れに取り込まれる、悠介達を見ながら、憐はここから、ただ、眺めて、飽きたのと同時に離脱した。
一瞬、壁に、血のような赤で書かれた、文字に目がついた。
Do not forgive the person handful of Administration Bureau.
管理局の人攫いを許すな。
そう、書かれていることに、目を突いたが、その前に、此方に目が行った。
「レイディーン・・・これが、その力か・・・」
本当の、レイディーンの力が、ここにある。
食い破るように、現れた、本物の、漆黒のレイディーン・・・
そして、それに共鳴するかのように、現れたのは、エルヴェリオン・・・
闇神・・・
ラジエルのコアを破壊。
全てが、粒子となり、悠介の中に戻った物の、レイディーンは戻りはしなかった。
新たに、ここで、主を捜すかのように。
「私が・・・継ぎます。」
「良いよ。こいつは、瑠璃とティアを見ている。」
レイディーンがみていたのは、娘である、瑠璃と、愛弟子であるティアナ・ランスターだった。
求めるかのように。
「ティア参りましょう。」
「うん・・・」
起動キーは瑠璃とティアナに書き換えられた。
新たな主を認めたかのように、レイディーンは、二人の体の中に、粒子となって溶け込んでいった。
これで、今のレイディーンの主は、ティアナと瑠璃になった。
それと同時に、取り囲むかのように、管理局残党が現れた。
終わった直後に、隠れて、配置されていたのはわかっていた。
おそらく、この都市の地下に潜んでいたのだろう。
あの衝撃破の中で、相当、強い、シェルターの中に潜んでいたのだろう。
あの、燈也から魅せられた映像の中にあったのは、それでも、辛うじて生き延びた、奇跡の人達。
そんなことを思ったとき、悠介の鼓膜に鬱陶しいと思えるような声が、響いた。
先ほどの、機動兵器ゲーデに乗っていた男の叫び声のような気がした。
自分達を恐れているから、大きな声で、虚勢を張る。
良く、解っている事だろう。
口上手く、説明して、自分達の力を手に入れたい。
そんなところだろう。
「我々と来てもらおう。あー、浦島悠介?ティアナ・ランスター、月村瑠璃。」
「呼ばれるのは、ある程度、解っていたことだけどけど・・・」
嫌な物がある。
嫌な物を感じることができる。
奇跡とは、かけ離れたような、何か、嫌な物が残る、黒い物。
デバイスやら、マシンガンを構えて、ふと、横を見れば、ヴィヴィオの後頭部に銃口をつけている。
「アルフ・・・」
悠介が、そう呼び、アルフは、悠介の足もとに移動した。
こちらの血を飲ませたぶん、今の、アルフの主は悠介ということになる。
既に、ヴィヴィオが人質に取られたのであれば、こちらは動くことはできない。
相手の要求に応じるのみだ。
ヴィヴィオに状況に合わせて、こちらに来るように、指示を出しておくべきだったと、いまさら、後悔をする。
「こちらの指示に従ってもらう。素直に従えば、我々は、この子供を殺さずに済む。」
どの道、素直に従わなければ、殺す。
悠介には、そう聞こえた。
子供だろうが、なんだろうが、関係無いと。
ここで、その子に当てている銃を下ろせ・・・
そう言っても、無駄であることが解る。
「それより、あんた達の代表は・・・あんただろ?それを見せてくれよ。」
あんたの姿を・・・
素直に出れば、信頼はできる。
今は、無用な争いを避けるべきであると、考えた。
それに、ヴィヴィオを人質にとられている時点で、動けない。
悠介が、草薙の剣を地面に置き、両手を上げた。
他のメンバーも、自らのデバイスを地面に置いた。
そうすれば、思ったとおり、残党の首領が出てきた。
顔だけは威厳のある男とでも言っておこう。
改めて、自分達にデバイスを向けている人間たちの中には、女もいる。
さて、どうする。
いや、ヴィヴィオを人質に取った時点で、最低限の保証はしてもらうが。
「了解しました。でも、こちら側全員の安全と扱いは、保障してもらえますよね?」
相手は、いやでも、あの天使達と互角に戦うほどの力が欲しいだろう。
ここで、自分達に、どういう扱いをすれば、良いのか、解る筈だ。
それほど、相手とて、馬鹿ではない。
「良いだろう。君達の待遇は、我々が保証する。」
今更だが、瑠璃とティアナがみてきた物はなんだろうと思う。
敵に寝返りたくなるほどの、何か。
この、地上の凄惨な状況かと思ったが、どうも、違うようだ。
「にいさま・・・本当に良くのですか?」
「行かなきゃヴィヴィオが、殺される。」
はやてたちも、来ているかもしれないと言う、淡い希望の中で、悠介達は地表に落とした、デバイスを再び拾う前に、別の兵士がそれを回収していた。
「お預かりします。暴れられちゃ、叶いませんから。」
やはり、信用はされていない。
それくらいのことは解っていた。
その兵士に、自らのデバイスを渡す。
草薙の剣の機能は、この兵士は、知らないと見える。
それだけで、十分だった。
それに、体の中に、レイディーンや、エルヴェリオンがある時点で、いつでも、脱出はできる。
「後、ヴィヴィオを介抱してくださいませんか?今は、何も出来ない、子供ですわ。」
瑠璃がそう、言った時、素直にヴィヴィオは解放された。
デバイスが、人質と同じ状態になった今、ヴィヴィオは必要無いと考えたのだろう。
手錠をかけない理由は、こちらに疑いをかけたくないが故の事だろう。
疑いをかければ、絶対に、反感を覚える。
反乱を行う。
故に、武器を没収するだけにし、今後は、こちらと有益に繋がりを持つためと、考えられるが、しかし、悠介にとっては、ヴィヴィオを人質にした時点で、完全に、不信感を覚えていたのだが。
これで、何があるのか。
少しばかりの事に目を瞑り、管理局のために働く事になるのか。
管理局事態と闘うことになるのか。
それは、この者たちに、全て、かかっているといってもいいだろう。
管理局の残党は、愚かなのか?
ただ、そう、思った。
二つとも、人質をとっていれば・・・
いや、武器を没収し、人質した分、ヴィヴィオも人質にしておけば、余計に、手は出せない筈だが。
子供を人質に取ったままで、外道と思われたくないのか、どうなのか。
信頼と不安は、五分五分と見てもいいだろう。
「お姉ちゃん・・・」
「大丈夫よ。ヴィヴィオ。」
その代わり、こちらは、残党を信頼してはいない。
時空管理局残党組織・・・地下に通じる扉を開き、案内された、地下には、広大な設備があった。
あの衝撃を受けても、壊れなかったと言うのことは、
「ここは、民間会社が、勝手に作ったシェルターを我々が、使用しているだけだ。」
「徴用って訳ね・・・・・・」
聞こえないように、ボソッと、呟いた後に、ジロっと、目の前を歩く、男を睨んだ。
神への反逆を狙うのは、確かだろう。
しかし、この程度の戦力で何が出切ると言うのだろうか。
等と、思う。
既に、崩壊していた、時空管理局本局は、地上本部を破壊し、一部、自然と融合しつつある。
何を、企んでいるのだろう。
神への反逆にしても、先ほどのものをみた筈だと思ったのだが。
おそらく、自分達が、ここの組織にとって、最後のカードなのだ。
ただ、そう、思った。
「欲しいのは、ドラグリオン、エルヴェリオン、レイディーンか・・・」
そして、それを、操る、鍵となる自分。
所詮、奴らにとっては、一応の危険物質であるがゆえに、単なる、兵器としか扱わない事も解る。
地下を降りる階段をどれくらい、通っただろう。
「武器は・・・少ないか・・・」
「レイディーンを回収しない時点で、おかしいけどね。」
「流石に、回収は出来ないでしょう?」
「そうなんだけどね・・・」
「ま、ここからは・・・ね。」
ただ、下るだけ・・・
どれだけ、歩いたか解らないが、よく、ありがちな扉が、目の前に現れた。
ありがちな扉を開ければ、想像通りの小奇麗な施設かと思ったが、中は、一部潰れており、そして、いくつかの転がっている腕。
刺繍が、いや、血の匂いが広がり、ここにも、ダメージがあったのかと思う。
「あんた達の、本当の代表は?」
「ついてくれば解る。」
先ほど、自分達を怒鳴った、男達が、先導し、他の戦闘員はその場で解散された。
ただ、目の前にいる、男は何か、恐れをなしているような気がした。
邪険に扱っているのは、それが、原因のようなきがした。
目の前の男はおそれている。
敵となることを。
男が立ち止まり、扉の奥で、号令のような物を叫んでいた。
早く、案内しろと思ったが、これが、軍隊の形式と言う物なのだろう。
「この奥だ。」
「どうも。」
瑠璃が、優しい笑顔で、その兵士に、お辞儀をし、案内された、部屋の中に入っていった。
男は、よく漫画とかで見る、小太りの兵隊の指揮官だった。
片目は潰れているのが、印象的ではあるが。
おそらく、しょうも無い、理由で怪我をしたのだろうと思った。
世の中で嫌な物が指揮官になるということもある。
これは、ソレの具現化したものかと思った。
一応は、それなりに、部下からの人望もあるのだろう。
だが、世間と言う物は、人受けのよさそうな物を殺し、人受けの悪そうな人間を生かす。
これは、どういうことか。
「べナム・ジェイカー准将だ。」
軽く、会釈し、女を取り扱うだけは、一人前そうな顔をしている。
「単刀直入に言うけどさ、どうするつもり?断ったら?」
「すまないが、監禁させてもらう。」
「へーへー・・・」
今の言い方に、随分と、嫌、答え方に、随分と、腹が煮えたことだろうと、悠介は思った。
気付いている。
瑠璃とティアナが、ここに着てから、明らかに嫌な顔をしていることを。
「質問して良いですか?」
瑠璃とティアナが悠介を差し置いて、前にでた。
前回のミッドチルダ内での、小競り合いで良く知っている。
「何か?」
「レギオンである、死体を利用して作られたガーディアン・・・さらに、核弾頭・・・アレを資源の乏しいこの世界で、どう、製作したのですか?」
「それは、こちらにも機密と言う物がある。」
機密・・・
そう言えば、全ては、黙秘と言う中に、葬られる。
おそらく、ソレは、わざと敵が残したのではないのだろうかと思った。
「そのような答えでは、こちらも、あなた方に協力することはできかねません。」
「ほう・・・なぜかな?」
「得体の知れない兵器を製作し、なおかつ、世界を破壊するほどの兵器をも持っている・・・そんな、危なっかしい組織に、背中を預ける事が出来ますか?」
「レジ明日提督の設計、そして製作したガーディアン・・・ゲーデは素晴らしい物だ。」
「しかし、あの時、ジェイル・スカリッティの揺り篭での戦いのとき、ファントムに触れられた、ゲーデは、事実上、パイロットとどうかし、レギオンと化した。さらに、レギオンと同調するための薬。」
ソレは、徐々に、
「レギオン化を進行させることによって、ゲーデを動かす事ができる・・・」
ゲーデ・・・
ソレの意味は、死神と言う意味。パ
イロットを殺して、地獄に送る。正に、ゲーデという名前に相応しい。
「あの戦闘でも見れば、解ったのではありませんか?ゲーデも、核弾頭も、不必要だと。」
「それは、ゲーデのパイロットが軟弱であるあるからだ。私情に走れば、勝機を失う。」
あくまでも、時空管理局が勝利する。
そのようなコンセプトの元、この組織は動いている。
全ては勝利の元に成り立っている、傲慢な組織。
勝利しか知らないといってもいい。
自分が、他世界を観察しつづける事によって、自分達が世界を護っているという傲慢さが生まれ、さらには、神と勘違いし、自分たちは、全ての世界で頂点に立ちつづける、最強の存在であると考える。
故に、自分達以上の技術力を持っていたとしたら、簡単に破壊される。
今回が、良い例だ。
管理局の組織など、脆弱であると、思い切り見せ付けられた。
筈であるが・・・
それを信じない人間と言う物は多い。
ここにいる人間含めて、全てのミッドの人間が、そう、思っているのかもしれない。
今回のゲーデとの戦いとて、特殊能力の力ではない。
「私情以前の問題だろう。性能の差・・・そういうことじゃないのかね?」
などと、悠介は、ポツリと呟いた。
全ては、性能の差。特殊な力など無い。
「核兵器をも吸収する敵・・・いえ、無効化する敵・・・それであの、敵を倒せるとでも思っているのですか?」
「無効化・・・?それは、あの敵が、そのような能力を持っていたからなのではないのかね?」
「他の敵は、それを持っているほどの力は無いと?」
ソウルディストラクションを、零距離で放った姿は見ていたはずだ。
とは言え、あの時、俗に言う、怒りの力によって破壊したのだが。
あの時ほどの出力は出ていたわけではない。
自惚れは
「自分を殺す・・・か。」
今回も、レイディーンがいなければ、勝利する事は出来なかった。
そして、共鳴し、エルヴェリオンを出してくれるまでは。
その事実を解ろうとしないのが、この人間達であるという訳だ。
「当然だ。我々は、絶対に勝つ存在なのだよ。」
「その根拠は?」
「みていただこう。」
男がモニターを出した。
そこには、大量のガーディアンが存在していた。
総勢、30機といったところだろうか。
ゲーデ・・・
カラーリングには荒が見えるが、今は、そのような物を気にしている場合ではないだろう。
外見は大したものだとは思った。
しかし、限られた、管理局の生き残りで、どうやって、これを作ったのか。
「人攫い・・・等と、言う言葉が、目に入りましたけど?」
「人攫い?それは、誤解だよ。我々は、避難民を助けただけだ。まだ、生きている、避難民のね。」
「そして、それを・・・ゲーデ、核弾頭の開発に注いだと・・・」
「注いだ?われわれは、助けた。それを返すのは当然のことだ。」
「それは解りますけどね。じゃぁ、何で、あの街の瓦礫に、人攫いを許すなっていう、文字があったわけです?」
「それは、悪戯だよ。我々は、民衆の為に、しているし、民衆は、それを喜んでいる。」
虚無・・・
この男は、ただ、そう、喜んでいるのは、この男だけではないのだろうか。
そのように思えた。
「みてみるかね?われわれの、正義の行動を。」
「正義ね・・・」
この男の言う、正義は、どこにあるのだろう。
そう、思いながら、男は、直々に案内してくれるらしい。
男は立ち上がり、部屋から出て、俗に言う、隠し通路を通り、ゲーデを整備されている場所に、案内させられた。
その場所は、死臭の香りがした。
既に、そこにいる人は、人ではないような扱い。
そんな感じがした。
既に、何人か、死んでいる。
死体は葬られることなく、一か所に集められていた。
「アレは・・・?」
「使い物にならなくなった人間は、人間爆弾として再利用する。」
「ッ・・・!!!」
「貴様!!!何を、何を、考えて!?」
人間爆弾・・・
その言葉に、衝撃を受けた人間は多いだろう。
しかし、この状況になれば、人間も、また、兵器となる。
死んでもなお、灰人になってもなお、まだ、人として死ぬ事を許されない。
その場所には、蝿のような虫が多かっていた。
しかし、爆薬がつんでいる、危険な体。
「あんた・・・」
「尊い犠牲だ。我々の勝利の為に!!」
「それで、すむかよ!!」
悠介の中にある、何かが、大きく乱れ始める。
『おぉぉぉぉ!!!!』
准将が、そのような声をあげた途端、周りの兵士が、呼応するように、雄叫びのような、掛け声をあげた。
そういう、人心を掌握するほどのカリスマは備わっているのだろう。
いや、でかいことを言うのだけは、一人前なのだ。
「我々は、またとない、強力な力を手に入れた!!」
そのまま、演説をし始める、准将に、呆れながら、横目で確かに、燈也の言っていることを、確信していた。
「狂ってやがる・・・」
そう、おもいながら、ついて行ってみた物は、人間が奴隷として扱われている、酷いものだった。
人を人とも思わない、やりくちだった。
奴隷・・・
戦意高揚の為に、管理局の生き残りは女を犯し、兵器開発の為に男は命を捧げられて、死にいたる。
勝利の為に、男は犠牲になり、勝利の為に、女は身を捧げる。
そして、最終的には・・・
人間爆弾として使用される。
「あれが、MK-Ωの正体・・・」
「その通りだよ。」
死んだ人間の極僅かな体から採取したリンカーコア等の使用。
それによって、複数量産・・・
「我々が勝ち、戦うための戦意高揚だよ。」
勝利するために、必要なこと・・・
このようなことは、まさかとは思ったが、本当にあると思うと、狂っている人間としか思えなかった。
人間爆弾などと言う、明らかに、後味が悪くて吐き気のするもの。
「人間爆弾など・・・」
狂いすぎている。
これほどの物を見れば、常人ならば、気が狂う。
燈也が、かつて言っていたことは、管理局が最低の組織であるということ。
確かに、その通りだ。
傲慢が生んだ、天罰であると言える。
この状態は。
こうなることは、ある程度、管理局の運命だったのではないのだろうかとも、思うようになった。
傲慢な考えのもとに、支配してきた人間が、それをするのは見えていることだが。
管理局の人攫いに、正義など無い。
ただ、それを口実に、使えない民間人はぼろ雑巾になるまで扱い、あとは、自分だけが生き残る。
それが、目的か。
しかし、それが、戦争かと、忘れていた物を思い出す。
そして、
「はぁー・・・「俺は、あんたを殺したいよ・・・」って、思ったっしょ?」
背後から、殺意が聞こえてきた。
殺意が、声となって聞こえてきた。
嫌な声だ・・・
その声は、美しかった。
人を魅了するほどの声を持っていることも解る。
しかし、それに、殺意を乗せると、恐怖となり、嫌な声となる。
背中に、嫌な何かが、ゾクゾクっと、流れるような感覚を覚えた。
これは、なんだ。
何だ、この、嫌な物はと、思いながらも、その時、演説を聞いていた、一人の兵士が肉片となって、崩壊した。
「生き残ったのは、自分たちの力・・・って、思ってるよね。でも、違うよ?」
一体のゲーデが、粒子となって、崩壊した。
跡形もなく・・・
そこに、無かったかのように。
「ラーラー・・・」
歌いながら、二体目のゲーデも崩壊する。
「本当はね?アリシア様のお陰なんだよ?君たちが、生き残ったのはさ。」
女の声…
その声が響く。
そして、姿を現した。
その姿は・・・
天使・・・
| TESTAMENT IS SAVER | 00:31 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑