2022.03.12 Sat
被写体
瞳が宝石のように輝くと言うのは、こういうときのことを言うのだろう。
歓喜に潤ませて、現像された写真を取り出して踊るようにはしゃいだ。こういう気分になったのはいつ以来のことだろうかと記憶を反芻しながら、子供の頃に見つけた自分だけの宝物を見つけたように少女は部屋の中で踊る。
「はぁ、すっごい、やっぱり綺麗だ!」
ばぁぁぁぁっと、脳髄に電流が走るように一瞬、閃光が瞳に走った。
谷川景の世界は確かに変革をし始めていた。この光景、あの時、初めて出会った少女の顔、徐々に、この世界が変化してきていることなど気づくわけもない。
ただ、日常に彩り始めたことを心と身体は実感していて、ベッドの上で寝このようにゴロゴロとはしゃぐ姿は、正に一生の宝物を見つけた少女のよう。機械に初めて電気が走り蠢くように景は、先日、現像した写真を見つめて惚けていた。
「木崎さんと明日さんのキスは美しい……」
現像された写真を見て思わずうっとりしてしまう。逆光も何もない、ドストレートに朝の教室を捉えた一枚の写真。そして、その真ん中には恋人同士のように手を搦め合い、木漏れ日が二人を祝福するように刺し込んでいるときに、本当の恋人同士のようにキスをしている明日小路と木崎江利花。
ドラマで見る、男と女のキスとは違う。
演技とか、そういうものでもない、本物のキス。駅前とかで見る男女のキスとは違う、これは官能的で、耽美で、それでいて、その先も求めるような貪欲ささえも解ってしまうようなキス。
だからこそ、煽られてしまう。
そして、見たくなってしまう。
この二人の、これからの先の人生を見たくなってしまう。
そして、あわよくば、彼女達の人生を自分のカメラで納めて、ファインダー越しで見つめていたい。そういう欲望が先走りして……
「これ、見られてたんだ……」
二人のキスの写真を見せてしまう。
「あ、あの、綺麗だったから思わず撮影しちゃって……」
「あ、あぁ、そういうことね。」
小路と江利花の関係は、何人かの勘のいいクラスメイト達は見抜いていることだろう。
小路は誰とでも仲がいい。
しかし、最近、江利花と一緒にいるときの小路は、どこか違うのだ。
カメラを始めてから、人間の観察眼に力が付いたように思える。
そして、欲望の炎も肉体の内側から炙られるように、煽られるように欲望は浮かび上がる。もっと見たいとでも言うように、それは、燻ぶられるように、その先を妄想するも、妄想すれば妄想するほど、まだ、体験もしたことも見たこともないからか、霧がかかって視界から消えてしまう。求めていたものを得ようとすればするほどに。
「ね、ねぇ、もっと撮影したい……ふ、二人の……」
「え?」
二人が衣服を脱ぎ、愛し合おうとするたびに……漫画で呼んでも、AVの違法視聴を見ても、求めているものはない。どれも、二人のイメージに合わないからこそ、求めてしまうのだ。
小路と江利花のセックスを……レズセックスが見たい。景の思春期のスイッチは、そういったものをファインダー越しで見たいという感情が先走りしてしまう。しかし、そんなこと、目の前にいる二人に言えるわけがない。それでも望みたい。この先を見ることをお願いしたいと。
「少しだけ、キスの先にある二人の画になる写真を撮りたいんだ。」
谷川景の頼みを聞いて思わず緊張が走る。絶対に拒絶されるかもしれない。
「そ、その先って……?」
「ま、まさか……」
一瞬、二人が顔を合わせて頬を紅くする。あ、やはり、キスよりも先のことに興味があるような言い回しに思わず景は望みが叶うかもしれないと思わず息を呑んだ。
「あ、あの……ヌード、何だけど……良いかな?」
「ぬ、ヌード!?」
「え、えぇぇぇ!?」
(綺麗……)
頼んだ写真は出来ないと思っていた。しかし、興味があるというよりも小路の積極性と言うのは良い意味で景を裏切った。
「そういえば、こうやって見せ合うの初めてだった……」
「そ、そうだよ……」
「あ、あの、まだエッチとかしなくても……」
「それは、当たり前だから……」
「ご、ごめんねぇ……私……色々と見てみたくて……」
思春期の欲求は抑えられないものだ。
それは、被写体が美しければ美しい程に。
(江利花ちゃんの前で、こうして勢いで脱いじゃったけど……)
(小路さんの裸、お風呂で見たけど、こうしてまじまじと見るのは初めてだけど……)
誰かの前で裸になるのは初めてだけど、もっと知りたくなる。
思えば恋人同士、キスをすれば、もっと、それ以上のことをしたくなる。
放課後、夕陽が差し込む第二美術室には、誰もいない。
被写体の美しさがオレンジの夕陽に照らされる白雪のような柔肌は、言葉を失ってしまいそうになるほど美しい。惚けて、ファインダー越しで見つめることを思わず忘れてしまうほどには絵になる。
(やっぱり、明日さんも木崎さんも、絵になるんだよね……綺麗な二人……)
二人とも美少女なのだと再認識してしまう。
「と、とりあえず、二人とも、まず、そのまま抱きしめて……」
最初は、その言葉に驚きながらも景の言葉に思わず言うことを聞いてしまい、二人は景の言う通りに動く。
柔らかそうな二人の美肌が抱きしめ合うことで重なり合う。
まだ、未成熟の乳房同士がキスするように潰れあい、それはまるで大人のキスをするように腰の動くたびに、胸が揺れてビンと勃起したふたつの乳首。真っ赤に充血しきったその場所は、まるでかすかな空気の揺れでさえ感じるように。擦れ合うだけで、「んっんっ♥」「あっ、はぁっ♥」と、快楽電流が二人の身体を通ったのかのように淡く卑猥な声を出す。
思わず景は、その声を聞いてごくりと音を鳴らして唾を飲んだ。これは、外せない。欲望が加速し、その光景をファインダー越しで見つめた。
「ちょ、ちょ、小路さん、変なっ、んぅっ♥」
「はぁ、だ、だって、変な気分で……♥」
「あ……」
淫部からあふれ出てくる官能の甘い汁。
その卑猥な香りを感じるだけで、景はうっとりと酔いそうになってしまう。二人は徐々に自分達の世界に没入していく。それを自分は、今、最高の席で見つめてカメラで納めている。
既に、二人は舞台の世界の住民になってしまったかのように景のことなど視界に無かった。景自身は舞台の特等席で、ただ、ひたすら、シャッターを押し続けた。
「小路さんの……」
「ちょ、そ、そこは……っ♥」
華奢な指は這うように、小路の淫部に指が走り、くちゅっと卑しい水音が響いた瞬間に江利花の身体が跳ねて背筋をピーンと立てて硬直した。四方から締めつける肉の圧力に溺れるように、小路は江利花に全身が心地よい締め付けに襲われるように蕩けた顔を浮かべている。
(すごい、凄いエッチで、淫靡だ……)
見ているこっちまで、淫熱が肉体を満たし始めるのが解る。
まだ、オナニーも、そんなにしたことないのに、目の前の光景を見るだけで膣肉の奥が濃厚な女汁にまみれながら、今にも絶頂してしまいそうなほどに高まっている。
「小路さん、あんまりエッチな汁を垂らさないでよ。わたしの手までこんなにヌルヌルになっちゃったじゃない……」
「だって、いやっ……ヒクヒクしちゃう! 奥のほうまで、こすれてるぅ!」
小路は江利花の腕の動きに合わせるように、腰を激しく揺らしはじめた。
それは江利花を求めてしまっていることがわかる、牝の本能に満ち満ちた動きでアイドルに憧れた小路が、今だけは、江利花だけのアイドルになった瞬間。躍動感に満ちた卑猥なダンス、思わず、枕営業するアイドルと言うのは、こういう感じなのだろうかと景の中で下世話な気持ちが目覚めてしまいそうになるほど。
そして、そんな、江利花専属のアイドルは間違いなく、江利花を魅了して、景すらも魅了している腰の動きだった。
普段、アイドルの真似をしてからだが鍛えられた、正に小路が磨き上げてきたものの賜物だ。
ツンと香る淫臭がますます部屋の空気を芳醇に染めていた。
「こ、小路さんっ!?」
小路は羞恥の表情で江利花の臀部に手を伸ばした。最初は遠慮がちに触れるだけだった手のひらは、すぐに白桃を鷲づかみにする荒い動きに転化して、指先は弾くようにふたつの勃起をいたぶりはじめた。
「うわ……凄い……」
既に二人の世界は成熟されていく。
そこいたのは、快楽と言うスパイスに溺れる二人の少女と、それを収めて淫熱にうなされるカメラを持った女。
「もっと、もっと……見たい……お願い、もっと、見せて……」
心臓の鼓動がバクバクに高鳴る。
収めきれない興奮に稲妻が肉体を貫くような衝動が景に走った。床がいつの間にか、淫靡な香りの漂う水たまりを作り上げて……
後日、二人の顔を隠して出した写真は金賞を受賞した。
「あぁ……まさか、あの写真で出しちゃうなんて、こんなことになるなんて……」
あの二人には感謝だが、それ以上に、この写真を賞に出してしまったことに一種の罪悪感のようなものが募りながらも、小路と江利花は快く許してくれたので、それはそれで何とか良しとしようと自己処理した。
「いや、まさか、こうなるなんて思わなかった……」
一応、無断と言うわけではない。ただ、その中で、一番良く撮影できたものを二人からちゃんと許可は取ったし、ちゃんと二人の正体がわからないように送ったのだが、それがむしろ、良かったらしく賞を受賞するほどの作品になってしまったと言うのは驚きと言う感情が心を支配する。
あのクラスの女生徒の全ての裸体を撮影したら、どうなるのだろうと……
谷川景は徐々に、レズセックスの淫靡さに興味を持ち、そして惹かれて執りつかれる。
(皆、どんなセックスしてるんだろ……)
あの入学式から一年経とうとしている今だからこそ、関係が目まぐるしく変わってきた少女達を、このフィルムで納めたいという欲求はたびたび出てきてしまう。苗代 靖子と鷲尾 瞳など、面白くなりそうだと膨れ上がる欲望は際限がない。この趣味に走ってから、爆発的に進行する欲望の群れに翻弄されてしまう今を楽しいと思った。
「あら、遅いお帰りね。谷川景ちゃん。」
学園から帰るとき、にっこりと笑う二人のレズビアンカップルに挨拶をされた。最近、引っ越してきたわけではないし、ずっといたが、名前を知らなかった美女カップル。
「あ、姫子さん、千歌音さん……いや、写真に夢中になってたら、遅くなっちゃって。」
(あれ?私、この二人の名前、何で知っているんだろう?)
「ふふ、熱心ね。」
「あら、どうしたの?」
「あ、いえ……」
(あれ?姫子さん?千歌音さん?なんで……)
世界が動き始めていた。
「光ちゃんと気が合いそうね。雨音と寧々も誘って……」
「ふふ……」
| 適度なSS(黒歴史置場?) | 00:00 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑
欲望
谷川さんの心のアクセルが全開になってる…真に美しいものを目の当たりにして止められなくなった様です。
小路×江利花も彼女の情熱に当てられてか、ノーブレーキで行為に及ぶ事に…2人の没入感が凄い。
そして、百合カップルの写真で見事に金賞受賞。どこかで見た様な…とは思いましたが、どうやら無事に姫千歌経由でルミナス=ブルーの世界に繋がりましたね。
百合カップル写真家の先輩格である光から、谷川さんは何を学ぶのか、そしてクラス全員撮影の行方は?
今からちょっとドキドキです。
| kwai | 2022/03/12 23:44 | URL |