2020.12.21 Mon
ひとめぼれ
弟が消えた。
まるで行方不明になってしまったかのように。
しかし、消えたのはそれだけではない。
M4と呼ばれる男性アイドルグループはもとより、この世界に存在しなかったかのように消滅し、文字通り、女だけになった世界。消えた男性アイドルグループの代わりに見たこともない女性アイドルが、その地位を奪い、熱狂させていく。
「そうだよね……」
おそらく、それは、消えたのではなく自分たちが別の世界に送られてしまったということになるのかもしれない。
だって、四つ星学園の元同僚は自分とつながっているのだから。
その中で、入れ替わるように様々な学校が出ては消え、そして教員も変わっていく。
客も何もかも、この世界からは変わっていくのだから、そうなると、新しく出来た世界の中に自分はいると考えてしまう。
なぜ、選ばれたのかなど、解ってはいないが。
この世界は選ばれた少女達だけが残っている。選ばれた少女たちが当たり前のようにアイドルをし、当たり前のように、この世界で生きている。
失われた物以上に、幸福な心地よさが、この世界にはある。
「なんで……?」
最初は驚きだったが、慣れてしまえば、それは日常ともなる。
この世界になってから肉体の様子がおかしい。
雪乃ホタルの肉体が徐々に回復しているような気がした。
それは、アイドルとして根本的な力であり、それは一時的な肉体の気まぐれだと思っていた。気まぐれに歌ってみれば、それは苦痛と言うものが全くない心地よい快楽だった。
慣れてきた日常、いなくなった弟のことよりも、肉体が疼く感触がどうにも……
これがかつてのアイドルとしての自分を活性化させるようにしているのだろうか?とすら思えている。一日、数回のオナニーじゃ我慢できない。寧ろ、テレビに映る少女達や、女優たちを見ると生唾を飲む音すら響かせてしまう自分がいる。
初日から、この世界に来たと実感した自分の肉体に起こる異変。
いや、アイドルをしている分、女同士の関係は当然、ホタルは当時のS4を全員、魅了したほどでもあるし向けられる羨望の眼差しは身体を芯から燃やしてしまいそうなほどの愛欲と言うものが肉体に宿るのをトップスタァだったホタルは誰よりも知っている。
正直に言えば、この世界に踏み出してしまいたいという欲望がある。
しかし、今更、自分が出ても……
そんな恐れがあった……
筈だったというのに芸能ニュースで見せる少女たちの痴態は、自分の時代に無かった快楽。あれが許されるというのなら……
躊躇いが興奮を上回る。
我慢が出来ず、より、前に出たい衝動と欲望が突き動かされる。
ただの薔薇園の主だったはずなのに……
「綺麗な薔薇ね?」
「ありがとう、ございます。」
「どうしたの?」
「い、いえ……」
「貴女は、愛らしい人ね。」
初対面の人に向かって、こういうことを言う人はおかしい人だ。
それは、アイドルに向かって言うのならわかるが、自分は今はアイドルではない。
「まだ、その身体の中は、情熱の炎が輝いている……人を惹きつけてしまうほどの。」
「あ、あの……」
いつの間に、この人は入ってきたのだろうか。
気づけば目の前にいた、翡翠色の髪が優雅に輝く愁いを帯びたような瞳が美しい。
いつまでも見ていたくなるような人を誘惑させる蠱惑的な紅い輝きがホタルを囚えて離さない。目の前にいる人は余りにもホタルと言う人間を女に変えてしまうほどの美しさがある。薔薇の香りにも負けないような鼻腔を擽るフェロモンに、モデルのような体系から放たれる色気にマジマジと見つめてしまう。
勝気さ漂う釣り目には愁いを帯びたような瞳が見つめる薔薇と翡翠色の髪が絡み合うコントラストが美しく、絵になるという言葉は、こういう女性のためにあるのだろう。
薔薇が美女に媚びているといるかのように咲き誇る。
植物は人以上に本能に従順なものなのかもしれない。
それは自分も同じ。
視界に、ずっと収めておきたい。
この人に、好かれたいと思えるような、欲望の種は発芽し始めている……もう……わかってしまう。
この種は、大きく芽吹くことが。
大きく胸元が開いたスーツが見せる胸の谷間にホタルは目が離せなくなった。
触れたら、それだけで落ちてしまいそうな膨らみにどぎまぎしながらも、今、この人に出会えたことを一秒たりとも……この人は、存在そのものが芸術品であり、生まれながらのアイドルなのだと思わせる。
何をしている。
まるで、急に目の前にアイドルが表れて緊張しているファンそのものではないか。
自分は一級品のヒロインとして扱われてきたはずだというのに、そんな金繰りを引き裂いて彼女は自分と言うものを心の奥底まで見ている。
まるで、そのまま彼女の両腕にゆっくりと抱きしめられるような感情から生まれる高揚。
目の前の人に夢中になってしまいそうだ。
いつまでも見ていると、意識すらも奪われてしまいそうなほどの美貌を持っている人と言うのはいるのだろう。それが、この人なのだ。
「どうしたの?貴女……」
「え?」
「さっきから、貴女の情熱的な瞳が私の身体を火照らせるのだけれど?」
翡翠色の瞳に見つめられると吸い込まれてしまいそうになる。このまま、彼女の眷属になってしまいそうなほど、濃厚で強烈な快楽への誘い。
その奥底に見える感情は……
ずっと、この人を見ていたい。
翡翠色でありながら、淡い桃色が漂うような気がして、それは人を篭絡させる毒のようにも見える。
「可愛い顔ね。」
陶器を思わせるほどに白く、そして暖かな感触がホタルの輪郭を撫でる。
華奢な指が自分を撫でている。
ふわりとした感触が顎まで伝い、クイッとゆっくり顔を上げて、モリガンがゆっくりと口角を上げて微笑んだ。
見つめられる視線は自分に触れる指は、ホタルの中にある心に直接触れられているかのようで全てを見透かされているような気分だ。
今、この空間、二人だけの世界。
見つめ合う瞳と瞳が、無限に広がる宇宙のように、ただただ二人きり。
丸裸にさせられているような、この感情と言うのは抗うことのできない心地よさ。
なぜ、この人になら、その全てを見せてもいいとすら思えてくるのか。
美しすぎる溶け込むような、このまま一つになってしまいそうなほどの……
「貴女になら……」
もっと曝け出したい。
この人の前では、それすらも恥ずかしいことではないとすら思わせる。
先ほどまで聞いていた弟のことなど……本来のことなど……心の中に溶け込んでくる、名前の知らない目の前の女性への思いが今、溢れかえりそうだ。
丸裸にされているような、この感情は、どうしようもなく肉体を火照らせる。
どうして、今、出会ったばかりの人に、こういう感情を抱いているのだ。
「いらっしゃい。」
耳元で囁かれる甘い吐息交じりの誘惑が心地よく、じゅわりとどうしようもない熱が媚肉を中心に走るようにドロッとした液体が走る。
「貴女は……」
「私は……」
吐息が思考を目の前の女性一色の染め上げた時、理解する。
生まれながらのアイドルは……生まれながらの……
「サキュバス……」
彼女を知り
彼女の手を取り
彼女と唇を重ねて
「私は……理解するのだ。一目惚れしたのだと……」
「ホタル。」
「モリガン……」
それは恋に慣れた女と、久しぶりに恋をした女の……
| 適度なSS(黒歴史置場?) | 00:00 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑
花園
画像と本文とのギャップがこれまた。
美月さんみくるさん2人の要素を併せ持ち、中の人は初代プリキュア(の、白い方)というホタルさん。
スターズの(元)最強トップアイドルが、再登場のモリガンに籠絡されてゆく。エグめな予感しかしない!
一方でまたアイドルとして一花咲かせられるのではという予兆の描写も見逃せません。…薔薇園の主だけに。
| kwai | 2020/12/21 21:29 | URL |