PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

マクロスLily Episode.2「突撃ラブハート」

i45.jpg
的な、感じで。


 「んー、あの子の歌、良いわー……」
 美月は眠りにつきながら、園命の歌を脳髄に響かせ、身体全身に園命の歌を満たして、満足したセックスし終わった後のような蕩けた顔を見せていた。
 ミンメイや、シャロン、エルマ、エミリア、ミレーヌ、ランカ、シェリルでは物足りない。しかし、なぜか、今の状態では歴代の歌姫たちに劣るというのに此処までハマってしまうはどういうことか。忘れていたが、ミルキードールズなんてものもあったが、それはそれで違う。バサラは来るものはあったが何かが違う。あの広場で聞いた園命の歌は美月・イルマにとって、最高の出会いだったのかもしれない。
 「園命……命ぉ……」
 偵察部隊の帰還から6時間経った後のことだった。
 惑星アリアの宙域に巨大戦艦が静かに止まっていたことは誰も知らなかった。ステルス性能を最大限にまであげた隠密奇襲を目的としたサイレントウォーシップ……そのステルス機能がフルに発揮されれば、どれだけの大きさだろうと関係は無い。届いた光の存在。強行偵察、同時に作戦を円滑に進めるために隷属させるための行動を起こさせたが、予想外のことは起きるもの。
 そして、彼女自身が何かを得た瞬間、一つの何かが入り込んだ。
 偶然だったのか、意図したものだったのか。
 良くわからないが、自分の肉体の中で細胞が蠢いている。
 先ほどから遺伝子を叩き起こすのような何かに襲われていた。
 医者に診てもらったが、特別な異常は感じられない。
 リゾート惑星で出会った、とある少女と同じ、園命に出会えてから久しぶりに湧き上がるような精神の高揚感に、この肉体は包み込まれていた。
 それから、突き動かす衝動と鼓動の原因を知りたくなるも、その要因は自分が一番良く解ってはいる。あの少女は自分の傍に置きたくなるような、そういうアイドルだ。女同士の関係を熟知した関係だ。
 園命は自分たちと同じであり、全く違う存在である女同士のカップルから生まれた子供であるというのは直感的に理解できる。少女から送られた光のラブコールが美月をゾクゾクさせた。
 「ふぅん、可愛いじゃない。まだ生娘ね……あの歌、それに、彼女の中にある思い……益々、ほしくなるじゃない。」
 腰まである黒髪に白とピンクのメッシュが入っており緩やかな曲線を描く。
 髪の手入れは良くなされていることが解る。
 さらりとした髪を振るいながら、メルトラン専用のメディア雑誌を手に取り、足を組んで読んでいた。少し垂れた一重の赤い目と、ぷっくりとした桃色の唇、鼻筋は良く通り、こんな場所にいなければモデルでもしていただろう少し焼けた褐色肌と大きな乳房と不釣り合いなくびれのアンバランスさが淫靡だ。乳房にはぷっくりと乳輪が浮き出ており、先端にある乳頭は淡い桃色で甘さがにじみ出ている。肉つきの良い尻と言い、ほど良く健康的に今まで過ごしてきたと言ってもいい。
 Gストリングの下着だけ穿き、巨大なる女が、そこにいる。
 背が大きいと言うことではなく、言葉通り、巨人と言う言葉が相応しい。10m近い巨体をベッドに座らせて君臨していた。周りにも巨大な美女を侍らせて、不敵に、そして妖艶に微笑む姿は美しい。「お姉さま」なんて言いたくなる雰囲気を醸し出し、熟れた女の声を出す。
 これでも年齢は22歳……そして、宇宙海賊リーリヤの長である。
 名は美月・イルマ。生粋のメルトランであるが、文化の影響を受けたメルトランの両親は新たに生まれた自分たちの娘に美月・イルマと言う文化の発祥の地である地球人の名前を与えた。だが、平和な世の中に馴染めず、はぐれゼントランとなる道を選び、かつての同胞艦隊と共に宇宙に出て、そして、出会ったゼントランの戦艦を盗んでは戦力を増強させてきた。それは今も変わらずに略奪行為を繰り返している。
 両親の操縦技術、指揮能力、そして美貌を全て受け継ぎ、最も厄介な宇宙海賊として、美月・イルマは、この宇宙の大航海時代に君臨している。
 マイクローン時には奪取した試作され、それに改良を施し実戦向けとなったYF-XXゼントラーディアン・バルキリーを駆り、メルトランの姿であれば独自に改造させたクァドラン・ジーリョを駆る。エースのミリアに並ぶか、それ以上とも呼ばれ、現代に蘇った宇宙の亡霊とも呼ばれるほどに、その保持している戦力は厄介なものだった。
 惑星ARIAの上空、攻撃を受けないギリギリの場所に鎮座している巨大戦艦。全長約4000m、全高620m、その名をノプティ・バガニス……過去にブリタイ・クリダニクと呼ばれる存在が指揮した戦艦として有名である。ゼントラーディ軍の艦隊指揮用戦艦。長期の作戦による運用を目的として作られており、特に攻撃耐性に優れる。 他の戦艦が一千周期と持たない物が多い中、このクラスの戦艦には15万周期を超す物すら存在している程。海賊船……と、言うには余りにも大きすぎる。その中にはマイクローンサイズ用の通路や設備等が増設されている。一隻あれば、それだけでマクロス級以上の戦力を誇る恐ろしさだ。
 さらなる戦力は、かつて惑星ラクスの崩壊で運命を共にしたと思われたマクロス5を修復し活用。
 空戦ポッドに、ヌージャデル・ガ、クァドランシリーズ含め、ある程度のゼントランのマシンは揃っているし、従来のバルキリーや、壊滅したSMSから応酬した最新鋭のバルキリーも独自に進化して、この海賊集団の戦力として揃っている。
 しかし、この世界において脅威であるはずの存在が好きかってやれることに対しては理由がある。それが統合軍政府の腐敗が大まかな理由であり、相手は、ただのハグレゼントランとしか見ていない。地球政府は、宇宙の人間が思っている以上にお気楽に捉えていることが良く解る一例であるともいえる。
 同時に異様とも言えるステルス性能を持つ大艦隊だ。レーダーで捉えることすら難しく、それで、どこかしらの艦隊がやられても、そこにあるのは不甲斐なさしかない。同時に、良く解らない海賊集団に半壊にさせられて、資源を奪われていった。など、軍人としてのプライドが許さないと、言う部分も強く出る。さらに言えば、まともに戦えば壊滅はするだろうが、艦隊とて下手をすれば全滅も免れない。ある程度、損壊させておいて、資源を渡す。と、いうのが一番、リスクの低いケースとしてみなされてしまってもいるわけなのだ。
 此処まで聞くと悪の組織的な面だが、それ以上になぜか、侵略しようとする惑星、マクロス艦隊がよからぬ野望を抱いて、そこに偶然、侵略し破壊行為を行う。そうして野望が暴露されて、気づけば、美月の艦隊は、脅威でありつつも統合軍は目を瞑り黙認している部分もある。腐敗と、そういう部分、勝手に宇宙の掃除をしてくれる存在として見ているからこそ、今日まで、ここに君臨している。
 「園命……」
 女だけで構成された宇宙海賊。組織にはメルトランだけではなくマイクロンサイズの女までいる。美月・イルマの魅力に取りつかれて統合政府を裏切ったマイクローンもいれば、その美貌に取りつかれて一個のプラント艦を手土産に裏切ったマイクローンまでいる。昔からの部下も含めて、その魅力に抗える女性と言うのは余程の変わり者扱いされる世界であるともいえる。
 「可愛い子。」
 海賊の目的はいたって単純明快。海賊そのままだ。欲しい物は手に入れるのと同時に部下を食わせていくための食材、弾薬を含む資源の確保だ。汗水たらして働くよりも、そうして略奪した方が、こういう艦隊の場合は手っ取り早い。それなりに自炊はしているものの、それでも贅沢と言うものはしたくなるようだ。
 一個のマクロス艦隊か、それ以上の戦力を有している、この宇宙海賊リーリヤ……難しい言葉で取り繕わなくても厄介にもほどがあると言えよう。
 「決めました。彼女は私の華嫁にします。」
 巨大デジタルモニターに園命の姿が現われた。
 その歌声と姿を映した園命の姿が目に映り、そして、カメラの前で踊りながら唄う。揺れる蒼い髪、可憐な少女の顔が美月の身体、脳髄に刻まれていく。熱気バサラの娘と言う扱いになっている園命の動画は簡単に出てくる。そして惑星ARIAに園命はいるのだ。
 「海賊らしく頂戴しちゃいましょう。」
 自分の部隊に所属する人間達が帰ってきて渡された記録動画の中に、園命の歌声が入っていた。そのアイドル然とした、でも必死さが伝わってくる歌声に耳が虜になり、その素性を調べさせれば、簡単に園命の存在が出てくるわけだ。
 「お姉さまが、この小娘を?」
 「えぇ。いけない?」
 うっとりとしたような表情で命の唄う姿と顔を見つめている。その服装も、唄っている声と顔も可愛らしさに惚れると、同時に己の信念が感じられた。長年、長く女に触れている分、そういうのは画面からでも肌で感じることが出来る。
 「一目惚れ、かしらね。」
 その信念を挫き自分色に染めて、自分の為だけに唄わせる花嫁とする。
 「海賊らしく、貰って行くわよ?」
 優雅な言い方をしながら、その奥には獲物をとらえた蛇のような獰猛さがある。
 「そして、彼女を手に入れたら、この惑星からは去りましょう。」
 「え、でも……それでは……」
 「それだけの価値が私の中にはあるわ。」
 心の中の世界は彼女のみが知る。と、でも言ったところか。ある種の惹きつけられるのか、そういった、どこか心に闇を持つような部分を隠せない少女が好きなのか、初めて出会った時から、胸が締め付けられるような庇護欲に掻き立てられる可愛さを美月の中では、命に対して、そのように評価する。ああいう、夢を持っていながら壁に突き当たり、どうすれば良いのか解らずもがいていると夢に破れた少女は、どうなるのか。悲惨なことになる前に、自分の愛で権力で、そして力で満たしたくなる。成功すれば、彼女は自分のために唄うだろう。
 最初の出会い、リゾート惑星である「アクア」での、最初の出会いは一目惚れであったと言ってもい。まだ、粗削りにもほどがあるし、少女の内部には様々な部分が絡み合って難があったが、自分の中にある何かが浄化されていくような不思議と興味を抱かせるほどには、気づけば、命のデータを漁っていた。今までの女とは大違いとでも言うべきなのだろうか。
 必死に生気の感じない歌で頑張ろうとし、報われないと解っていながらも、そうしなければ、彼女のアイデンティティを保てない園命、そうした歪な少女と言うものを愛でたくもなるのは、どこから来るのか。努力は決して実るものでは無い。こういう世界であればなおさらだ。それでも他人を責めることなく自分だけを責めて一人涙するような少女、このまま、折れてしまえば過去の栄光に囚われてAV女優にでもなるような道があるかもしれない。そうして、男に穢されるくらいなら、自分色に染めたいという欲求が生まれてくる。
 特にドラマであるような悲劇の女的な部分があるわけでもない。ただ、そういう女が好みであるのかもしれない。そう思ったのは園命の持つ潜在的なアイドルとしての資質、その毒牙にやられてしまったのか、掴みようのない何か、ふと、一目惚れに近い、気づけば好きになってしまっていたという言葉が、自分の中に生まれていた。
 特別、人を好きになるのに、自分の性癖や、過去やら、強い切欠など必要ないのだろう。
 まだ、それなりの人間で言えば19と言える年齢でありつつも、そのカリスマ性から様々な女を抱いて来た分、見つめてきた。だからこそ園命が、どういう思いで歌を唄っているのかわかる。ただただ、園命の抱くアイドルとしての資質と今の自分の状況に気付いていながらも、それでも、なお歌を辞めずに真摯に立ち向かう姿、一人でどうにかしなければならない悲鳴にも似た、どうあがいても絶望とも言える壁に挟まれた命の思いを乗せた歌が美月の肉体と精神に響き、そして、響いた命の歌が、いつまでも美月の中で響き、そして、庇護欲的なものが掻き立てられて自分の女にしたくなる。
 そこに、さらに海賊らしく狙った獲物は必ず欲しいし意地でも手に入れたいと言う、欲求がある。部下たちを食わすためと、欲しい物を手に入れるためなら、自分の身体が穢されること以外は何でも取る。それが彼女たちのスタイルだ。
 「彼女を渡すなら惑星ARIAは壊滅させない。彼女を渡さないなら、この惑星を破壊する。」
 「脅迫……ですか。」
 「聞かない場合は、後者ですね。」
 「えぇ。彼女を攫って、そして惑星ARIAを破壊するの。でも、そんなことをしたら悲しむわね。」
 妖艶だが恐ろしく猟奇的と悲壮感に満ちた顔だった。過去のケース、半壊させてある程度の資源を奪っていくケースが大半だったが園命が手に入らないなら、躊躇いなく破壊するか、資源を全て略奪して帰るかのどちらかになるだろう。
 しかし、園命が手に入れれば無暗な破壊はしない。脅すだけで調度いい。生きていれば、また略奪が必要になる。
 「ほしい物は手に入れる。そうでしょう?」
 優雅に見えて内に秘めた物欲は何よりも恐ろしい。文化を好みミンメイアタックやら、シェリルアタック、ランカアタックすらも通じることのなかった文化に馴染んだメルトラン、いや女だけの大宇宙海賊。
 しかし、それでも今回の戦闘の場合は何人かの投降、さらに撃墜、中破しての退却と驚かずにはいられなかった。
 「熱気バサラ……私はともかく、他のメンバーにとってゾクゾクには抗えないものがある……」
 刺激が強い。と、でも言うべきか。熱気バサラの歌の魅力は異次元的なものを感じているからこそ、今、あの星にバサラがいることは下手をすれば海賊組織そのものの瓦解を招きかねない。命がバサラではなく別のアイドルと一緒にいれば今回の仕事は楽になるのだが。さらに、命の奪取をするなら、SMSも出てくる。それならば常々、相手をしているし下手な正規軍の集団よりも厄介なのも知っているのだが、今回のSMSは、その中にいる白いボディに百合のエンブレムをあしらったVF-27が一騎当千の活躍をしたという報告も受けている。
 園命の歌を聞いた途端、厄介な存在が、さらに厄介になった。
 此処から、どうするか。
 簡単なことだ。
 SMS事態を封じてしまうほどの脅しをかければ良いだけなのだから。ある種、絶対的な美月にとっては必要な宝をえるために必要な措置ともいえる。それをどうにかするために直接的で、単純だが、最も有効な手段をとる。
 「どれだけ汚くても、私たちの栄光のために。」
 「はい。美月姉さま。」
 全ての海賊たちは、そのメルトラン海賊の長を「お姉さま」と呼ぶ。そう強要したわけではない。その人格、外見、オーラのようなものが、そう言わせる。
 「手に入れれば、此方のもの。」
 華のような可憐さを持ちながら、その奥には、可憐とは言い難い欲望が渦巻いている。園命と言う一人の少女、美月にとっては、この海賊に所属しているバサラと同じように、命の歌に対して脳髄や肉体に染み込むような歌を紡ぐ。歌唱力だけを見ればバサラに達していないが、それと同じくらいに輝かしいものを内に秘めているのも解るのだ。
 「お姉さま……」
 捨てられる子犬のような顔つきをした、そのメルトランの副官であり、侍女とも言える相手は切なそうな声を上げる。
 「大丈夫よ。この子が来たところで皆を捨てるわけではないわ。」
 笑顔を見せて安心させて、美月はベッドに彼女を押し倒し、肉体を交え始めた。
 さらに命声と歌を聞いて、美月・イルマは軽いエクスタシーを感じていた。混ざり合いながら、一つになるような愛撫を繰り返し、相手が絶頂に達したのと同時にノプティ・バガニスのブリッジに連絡を入れた。
 「あの惑星、破壊しておいて。そう。ARIAよりも、ちょっと離れたところにあるやつ。そのあとに、再び超大型誘導収束ビーム砲のエネルギーチャージを開始すること。」
 この命令の後、惑星ARIAより、少し離れた無人惑星が木端微塵に破壊された。生粋のメルトランとして生まれた、その存在は海賊の長になる運命が決まっていた。それでも悪くは無いし、逆に楽しい。勝者の立場と言うものは、いつもそうだ。


 時間は少し遡る。出会って、旅を初めてなんていうが、そんな旅なんてしているわけでもなくバサラが一端、戻ると口にしたマクロス7船団に命は初めて来訪した。それまでに様々な惑星に降り立って、唄い、そして、休憩を入れていたし、マクロス7船団のシティ7に立ち寄った時のことである。
 「凄い娘……今でもすごい力を持っているのに、それで満足していない。」
 シティ7で生活する中で、昼は基本、どこかでバサラと一緒に唄う。そこまで命のことを誰かが神秘的な少女と呼び、その娘が唄っている。それを聞いて、ゆっくりと自分の中で楽しさの様なものが湧き、一人の女が身体を動かした。その視線と同時に、例の少女の観客から何故かシンパシー的な物が伝わってきて、良く解らないが心が乗って来て、久しぶりにうたって充実感の様なものを感じていた。
 「貴女、私のところに所属する気はない?」
 バサラが何処かに向かった後、休憩していた時に、彼女は自分に話しかけてきた。それが、後にワルキューレで名を轟かす美雲・ギンヌメールだったことなど、この時の命には知る由もない。互いに素性が不明な者同士で、抜群の歌唱力をもつ者同士のシンパシー的な物は感じ取っていた。
 ただ、グループアイドル的な物は自分に合わなかった部分もある。乃木坂0046ほど押し付け的なグループではないにしろだ。この時、誘いを受けていれば、どうなったのだろう。また、運命は大きく変わっていたかもしれない。
 ただ、それ以上に自分の中ではバサラと一緒にいた方が、もっとダイレクトな経験が出来るのではないのかと言う部分から誘いは断った。
 「まだ、私は自分に満足していないの。だから、そんな状態で、貴女の計画に参加したら迷惑をかけるわ。」
 「そう……残念。」
 「貴女の歌には生気を感じない。美しい空想や純な情緒を傷つけないでこれを優しく育むような、豊かさが。奪ってしまった。貴女望んだ未知の周りにあった物が。」
 「何?それ。」
 「私の歌にも止めている答え。考えても考えても……解らないの。」
 自分は自分でいたい。いや、自分と言う物をより確実にしたい。そういう人間が、人の作るグループアイドルにチームと言うものに入るのは失礼なモノだろう。
 「ねぇ、何れ、私たちの歌を聞きに来て。」
 「貴女も、私が何かを掴めたら聞きに来て。私は、園命。」
 「私は、美雲・ギンヌメール。」
 一つの星で、こうして、この世界に、これからの歴史を刻むであろう二人のアイドルが友情を結ぶ。
 命と美雲の出会いは、自分の中にあった何かを一瞬、忘れさせるほど年頃の少女としての会話が出来た。しかし、それがなんなのか解らなかった。そう強く思った。
 それからしばらくして、美雲・ギンヌメールとは再会を誓い合って別れた。彼女の出会いが命に何を与えたのだろうといえば、僅かな出会いだけで、そんな人生が変わることなど滅多に無い。結局、出会っても問題は解決することなく、長いことシティ7でミレーヌやレイ辺りからギター等の楽器の手解きを受けていた。そうされる中で、己の中の思考というものを纏めようとしたが、そうそう上手くいくことではない。少女のキャパシティを越えてしまっているのだ。
 「襲名って、そんなに大切なことなのかな?」
 母や姉たちの襲名を見ていて羨ましいとは思わなかった。それは、時折、母たちが呟いていた、これからは襲名することが辛くなることにもなってくるだろうという言葉を口にしていたからだ。幼いながらに、その言葉の意味を自分が自分で無くなるような感じと捉えた命からすれば、それは、なんだかホラーチックでたまらない。しかし、徐々に年齢を重ねるたびに、そして、襲名をして、その意味を改めて感じ取った。
 落語や歌舞伎役者のようなものだと言っても、何か元の世界の場合は異質なものを感じがしてならない。
 アイドルになりたかったのか。しかし、それは誰かの器になって輝くことではなく、己の輝きをふるうことを意味する。やっぱり、あの世界で輝くのは憧れを抱いてしまうし、姉や母達を越えるアイドルになろうと頑張っていた。アイドルになりたい理由なんて、単純なもので、その単純な理由で母のスパルタ教育には耐えることは出来た。
 過去の時代に遡って過去の栄光によって発展をさせようとするスタイルに、確かに文明は新たに作り上げられたし、その文明の力は凄いと思った。だが過去の英霊と呼ばれるアイドル達の力を借りる意味はあったのだろうか。その組織的文化を引き継ぐだけで、名前まで必要だったのだろうかと、ネームバリュー的には必要だったのかもしれないが、だが、それぞれ襲名しなくても輝く力は存在していると言うのに、何故、襲名と言う物に拘りを抱くのか。過去の人物が現代に蘇ったわけでもあるまいに、そこまで必要なものかすらも解らない。
 「何故、襲名するの?」
 最初に、そのようなことを尋ねたが、皆、同じことばかり言う。
 そうすることでAKB48の意思を継ぐことが出来る。
 あの頃の栄光を、そして魂の資質を輝かせることによって、もっと輝く存在となる。
 だが、両親たちと幼い時に一緒に故郷でのライブを見たとき、襲名メンバー以上の輝きを見た命は、そこに襲名を目指す少女達の気持ちが理解できなかったのだ。それは過去のアイドル、当時、21世紀に活躍した、あのアイドル達の再現であって、本当の自分達を必要としない。少女は本能的に、どこか違和感を、この頃から感じていたと言ってもいいだろう。
 自分たちの体の中にいる過去の英霊たちの魂の器を必要としているのだと、あの組織に所属して理解し、齋藤飛鳥を襲名した時、不思議と、そこに周りの言う名誉や、そう言った物は感じなかった。寧ろ、何か力的なものは感じず、変わったものは自分を取り巻く環境。まさに、生き神であるかのように扱われる本来の自分とアイドルとしての自分の乖離性を強く感じ取った。そして、自分のファンだった存在は自分ではなく襲名した存在として見るようになる。憧れを感じなかった命からすれば、それは宗教的な気持ち悪さに身震いした。
 皆が憧れを持って、平気で他人になり、そしてファンになろうとする。その信念が理解できなかった。だから、AKB0048ではなく、乃木坂のほうが楽曲的にも好みだったということもあり乃木坂0046という出来たばかりのアイドルに入ろうとした。しかし、名称が変わっても同じだった。解ってはいたが、何かが変わるだろうとは思っていたが、そうそう変わるものではない。やはり、目的は自分ではなく過去の英霊達の器なのだと思った。だから、自分から、この組織を変えようと思ったが、そう上手くいくことがなかったのは、改めて現実に打ちのめされ、現実を知った。
 「お姉ちゃん達は、そういうのに良く耐えられたな……」
 命には二人の姉がいた。
 二人とも命から見れば輝かしいと言えるほどに向こうの世界の住人と言う言葉が相応しい。襲名と言うシステムに疑問を持っていた自分とは大違いだ。平然と他の魂を受け入れて、そして成りきると同時に新たな自分と言う要素を加えていった。あの二人は襲名しなくても自分よりも輝けるだろう。
 最初から自分と言う物を前に出し過ぎてはいなかった。案の定、数年、経った後には姉たちは有名になって、襲名までしていた。襲名なんてする気はない。自分は自分で輝きたい。自分として。新たな乃木坂のメンバーとして有名になるつもりだったが、襲名した時点で魂とファンは、それを許さなかった。
 ならば、もっとオリジナルを超えるために圧倒した歌唱力を付けなければならない。そのために練習をした。新たな乃木坂46のメンバーとして、オリジナルに負けないようにと、頑張ってきたが、その努力は無駄に終わった。齋藤飛鳥を襲名しても、常に自分だけ前に出ればファンは認めない。魂は拒否するかのように輝き始める。だが、それでも己と言う物を前に強く出したかった命は、それに抗い続けた。ドラマとは違い、毎日、毎時間、自分と違う人を演じる違和感と言うのは自分と言うものを強く持つ人間ほど違和感を覚える。
 昨日までが園命だったのに、襲名してしまえば別の名前で呼ばれる、悪く言えば亡霊の名前で、この先生きることになる。確かに、過去のメンバーには敬意を払ってはいるが、それだけだ。
 そうして、世間からも何からも抗い続けた結果、自分の中に静かなバケモノ……が生まれた。
 枠から外れて己と言う物を輝かせようとする、異端者としての烙印の名称が与えられた。ファンが望んでいたのは園命と言うニューメンバーでは無く結局、齋藤飛鳥の肉体の器だったのだ。自分を全部、出すということは許されない。誰もが襲名と言うものに向かって走り出す中、襲名してしまえば園命は自分として売り出すことの出来ないし、2代目齋藤飛鳥として意地でも売り出される。そうして売れる人間は喜ばれるが、自分がそうではないと知った瞬間、周りと価値観は共有できなくなる。孤独になっていく。
 そして色々と忘れていく。人と接する楽しささえも。そうしていくうちに、あの場所から居場所が無くなっていった気がした。
 誰にも話せなかったのだ。
 そうしていくうちに人と触れ合うことを忘れていく。
 この世界に違和感を強く感じ、自分の理想と自分が味わった現実の乖離が広がっていく。
 そうして行くうちに孤独感に苛まれて輝くことが出来なくなった。そうしてキララに導かれるままに、この世界に来たときに出会ったのが熱気バサラだった。すでに、両親は熱気バサラと対面しており、バサラも命の顔を見て驚きの声をあげたのを覚えている。
 「お前、まさか凪沙と智恵理の……」
 どちらかと言えば、母達が少しだけお世話になった人間とでもいうべきか。確かに、凄いロックアーティストだと言うことは聞いていたが、一緒にいるだけで、その魂、バサラを感じ取ることが出来る。熱いビートを一緒に共有した仲だからこそわかるらしい。
 園命の奥にある魂の鼓動、数々のものが。同時にバサラの伝説や、その行為を直接見て感銘を受けた。バサラは敵に歌を聞かせて、戦いを止めたことで認められていったと言う。こんな人がいるのだと驚いたのだ。自分達の母も同じことをしていたが熱気バサラと言う存在は、それ以上に凄かったのだ。
 改めて、ここで、その名前を何度も聞くと人が寄ってたかって、バサラの歌を聴こうとするのだから熱気バサラと言う人間を。それを成せば、あの世界に戻り自分を認めてくれる。そうして、いつの間にか組織に敬意を払わなくなった命自身、いつしかAKBや乃木坂を越えるアイドルになることもできると、さらに、そういう強い野心を抱いた。オリジナルメンバーを超えるほどの存在として認められる。野心を抱き、己の歌、欲望を抱いて自分の歌を作り、あの世界に持って帰ってカルチャーショックでも与えれば自分は自分と言うアイドルでいられる。
 行くあて、住む場所もないから、バサラは旅に同行することに許可をしてくれて、そのまま一緒に旅をすることになった。しかし、自分の考えていることに関しては口にしていない。
 ただ、内心は解っているようで、「お前、そんなんだからダメなんだよ。」と、口にする。野心を抱くことは悪いことなのだろうか。それとも、バサラにとっては野心とは歌に比べてちっぽけなものなのだろうか。
 この年齢だから、何でもできると思っていたが、現実と言うのは、そうそう自分が思っている以上に何でも出来るものでは無いと何度も何度も、その壁にぶち当たってきた。そうしていくうちに、鉄面皮のような自分が生まれたのだろう。努力はするものだが、それが何度も何度も無駄になればやる気がなくなるのと同じだ。
 少々、小言のようなことを言うもののバサラとの放浪の旅は有意義だった。そこで、自分が自分としてバサラの曲を歌う。そして、周りが反応して手を叩いて出迎えてくれた。今回の惑星ARIAに降り立った時も……だが、まだ、バサラの領域にまでは行っていない。だから、頑張ろうと努力していた。そうしたことが走馬灯のように流れて、現実に戻ってきた時、唇に暖かさを感じた。


 こいつ、何をしていやがる。男なら、そう言って飛びかかっているだろうが、命の場合は思考が混乱をきたして、口で抗議することしかできなかった。
 最初は蕩けた顔を浮かべていたが、徐々に絶句と言う言葉が似合う顔つきに変わりだしていくのも可愛いと思いつつ、陽美は、もう一度、怪しく微笑み唇を重ねた。抵抗なく、そのまま、舌を刺し込み、腰に手を回して抱きしめた。
 「ちょ、なにしてるんですか!?」
 「好きだからよ。貴女のことが。」
 「ば、バカっ!私、まだ、ファーストキスなのに……」
 「なら、光栄ね。それで、私のことに夢中になってくれたら、もっと光栄なんだけど。」
 「え、ちょっと、何を……」
 「ずーーーっと、歌の事ばっかり。それしか見てないから。どこか、つまんなさそうだから気づかれないかなーって。でも、流石に気付いたか。」
 歌のことを考えること、この人の言う話が気になって仕方ない。だからこそ、この人のことの言う自分の歌の総評を気にして相手のことを考えなくなる。自分の世界のアイドルなら、もうアイドルとして失格だ。可愛げのある頬を膨らませながら、自分の肉体をチェックするかのように掌の暖かさをいつの間にか受け入れていた。
 ファンであるとはいえ、綺麗で、今まで優しくしてもらったことから、簡単に心を許しすぎた。油断していたと自分の迂闊さを恥じてしまう。ただ、陽美のピンクの唇は柔らかかった。思い出す度に、少し頬を染めてしまう。悪い気分じゃない。このようなことを受け入れてしまっている。
 「レズサキュバス……可哀想に。毒牙にかかっちゃって。」
 「ちょっと、そういう風に言うのはやめてよ。大体、私は自分からしたのは命が初めてだし。可愛い女の子を見ちゃうと、こういうことしたくなるでしょ?」
 「そう言って、あんたから逃げた女は何人いるのさ。」
 「本当に自分からしたのは、この子だけ!今までの相手は自分から求めてきたから、してあげただけだよ!」
 この人はいったい……命の心が、そう叫びたがっていた。整備の人間が、そのように茶々を入れた。その台詞から、どれだけ、彼女が自分以外の女と交わったかなんてのを理解することが出来る。
 「とんでもないレズビッチだ。ってことは良く解りました。」
 「うぅん……そういうわけではないんだけど。ただ、来るものは拒まないだけ。ってか、命の場合、ずいぶんと人の感触を忘れてるんじゃない?それで、たまには、こういう交流もありかなって。」
 「そんな……いや……でも、ミレーヌさんとかとは絡んでますし……」
 「ふぅん、こういうことも?」
 顎をつかまれ、クイッと顔を上げられ、再びキスの目線に戻される。
 こうして、思い出してしまうのは、そこまで人と触れてなかったという思い出。
 他人とこうしてべたべたと触れ合う忘れていたとでも言うべきか。ずっと、襲名してから縁の無かったもの、自分から距離を撮り続けていたもの。こうして萎縮してしまうというか、どこか構えてしまう中で、それすらも潜り抜けて、この人は自分の中に入って口づけを交わす。
 バサラはバサラで歌バカだから、そこまで距離を縮めてくることは無い。
 言われれば言い返せない程女と交わったのは事実だ。先週も彼女に振られた。元より、生まれてからと言って良いほど生粋のレズビアンとして今まで生きてきた。しかし、簡単に靡く女は好きじゃない。それでも、新しい彼女、いや、自分が本当に求める目当ての女に会えるまでは退屈だからレズセックスフレンドとして接していたが、相手は当然、本気の場合もあるし、しかし陽美が本気ではないと言うことを口にしてしまえば当然、離れていく。
 本気になろうとする女は、どういうものなのか。求婚を申し込めば断ってしまう。ただ、自分に惚れるだけの女ではダメなのだ。今まで出会ってきた女は自分と結ばれるために全てを擲ってきたことが多かった。
 「そういう人と付き合えば泣かされそう……」
 「そうでも無いんじゃない?」
 「どういうことですか?」
 「うぅん、私は貴女がタイプ。って事かしら。」
 守りたくなる女が好きなのだ。と、言う。それでいて自分の信念を強く持った女性に憧れていく。
 ドストライクな女性に出会えれば惚れやすいと言えば、惚れやすいのかもしれない。昔、見た芯の強く信念を持った王女を守り、そして最後は、その王女と結ばれる女騎士の小説を読んだ影響もあったのかもしれない。
 何れ、出会う運命の女の子を夢に見て今日まで鍛えてきたのだ。
 そんな中、命の歌が流れて、今日、再会までしてキスまでした。純真、それでいて自分のことを良く解っている。ふてくされても、自分の大きな夢に対して芯を持って諦めないところに純粋さを感じる。漫画的に何もかも前向きにとらえて受け入れるのは気持ちが悪いからこそ、ああいう感じで失敗して不貞腐れている方が可愛さを感じる。
 少し吼えてストレス発散をする方が可愛い。
 そういう意味では園命は、ある種、陽美・マリアフォキナ・フォミュラ・ジーナスの理想の少女と言えるのかもしれない。過去には熱気バサラに憧れていたが、女ではないと言う理由でそこで恋愛対象には入らず、バサラのように信念を貫く強い意志を持った女がいれば。と、心の底から思ったものだ。
 「そこに、貴女が現れた。」
 「それじゃぁ、あなたは、その物語の騎士にでもなったつもりなんですか?私、王女って柄じゃないですけど。」
 「柄じゃない?私が、貴女を王女だと思えば王女なの。愛すべきクイーン。いえ、勝利の女神ね。」
 随分とむちゃくちゃな理論だと思った。
 何処かで、こういう美人に好かれることは嬉しいとは思ったが、流石にいきなり唇を重ねる人間には距離を取りたくなる。命にとっての恋愛とは
 「ちゃんと順序や段階を重ねていくもので……」
 「あら、でもキスから始まるのもあるわ。」
 そうなのだろうか。と、まだ、子供だからわからないのだと、そういうことだって考えてしまう。怪訝な顔を浮かべて強気の口調で反論するも、ことごとく、屁理屈を捏ねられて返されてしまった。
 「一目惚れって、続かないらしいですよ?」
 「なら、今から私と、もっと深めればいいの。」
 その眼は本気だった。自分に好意を持つ人間に真剣な眼差しで見つめられたのは、これが初めてかもしれない。いや、知らなかっただけかもしれないけど。しかし、説得力的なものと同時に色々と感じる物が出てきて警戒心は出てくる。
 「騎士気取りのレズビッチめ……」
 「あら、でも彼女がいるときは結構、一途よ?たぶんね。」
 「騎士気取りだからですか?」
 「ま、まぁ、それはね。」
 そういう自分の愛する女を守るために騎士たる自分が何をすべきか。
 この時代の剣であり、盾と言う物は無論、バルキリーだ。それを駆るために、それなりの努力はしてきた。そうして、優秀なパイロットになった陽美はSMSにスカウトされて、その優秀な腕を買われてテストパイロットの地位を得た。彼女が今、得た機体こそVF-27δ+アスモデウス、簡単にいえば従来のVF-27を普通の人間でも動かせるようにカスタムした機体である。 元より愛機のVF-25メサイアと共通の設計母体を持つが故に、そこに元来持っていたVF-25のパーツを合わせることによって人間用に調整され、一般兵にもVF-27を操縦できるようにしようと、「ガルド・ワークス」が開発し、送られてきたマシンである。
 悪く言えば、元はサイボーグ専用のマシンであるが故に、そうではない人間は本領発揮できないが故にデチューンとでも言うべきではあるが。そのサイボーグでは無い人間が、25のパーツをプラスすることによって、何処まで27の性能を引き出すことが出来るかと、言う名目で作られたバルキリーである。
 その性能は現行の量産されているバルキリーの中では最高峰とも言える爆発的な力を生み出すかのように思われたが、結局のところはVF-27の皮を被ったVF-25メサイアに毛が生えた程度と、そう変わらなかった。はっきりと言ってしまえば趣味の機体と、まで言いきってしまって良い。
 YF-29、30のパーツを使えば話は別になるだろうが、とはいえ、試作型のマシンの高価なパーツを取り込んでも正規量産機としての採用には程遠くなる。とはいえ、このマシンを陽美は気に入っているが故に使用し続けているわけだが。操縦系統は、かつてのYF-21のようにパイロットの脳と機体側のセントラルコンピュータを光学回路で直結することで、完全な思考のみでの操縦を可能としている。
 また、機体に登録されたパイロットの脳波を感知することで、遠隔操作式の無人機としても運用可能であり、思考制御に異常が発生した場合の保険として、スロットルレバーやフットペダルなどの手動操縦機器も備えられている。コクピットは、起動時に座席やその他内装機材が擬似的に透過し全周囲モニターとなるバーチャル・コクピットを採用と、至れり尽くせりの機体ではあり、さらに、25系統のパーツを再利用していると言うことで、パラディンパック、トルネードパック、アーマードパック等の使用は可能になった。
 だが所詮はVF-25の皮を被ったVF27に毛が生えた程度と言う予想した通りの戦闘力を得ることは出来ず、結果、生産は中止。順調に行けば新たな量産モデルとしてVF-28のナンバーを付けられるはずだった。結局、新型バルキリーは一から作り直すことになった。そうして、行く先が無くなった、このマシンはMSMに配備されて陽美専用機と言うことに落ち着くことになった。VF-27δ+に百合の花をあしらったエンブレムに純白のボディは、かつて陽美が読んだ白百合の女騎士の物語の主役の登場人物に対するオマージュであり、自分が現代に蘇った白百合の女騎士であると、言う自己顕示でもあった。
 予定されていた性能は出てないにしろ、基本性能が高いのは言うまでもなく王女を守る騎士の機体としては申し分のない性能だ。とはいえ女騎士を目指す女の性格を表わしているかのように搭乗機の名前が色欲を司るアスモデウスという名前なのは皮肉と言えるが。
 「私のために、ずっと一緒にいてくれない?」
 「い、いきなりキスする人と付き合えるわけないじゃないですか!」
 「じゃぁ、もっと互いのことを良く知ろう。」
 「はい!?」
 キス以上のこととなれば、命の純潔が捧げる行為そのもの……と、言ってもいい。
 「王女を守る騎士にしては……」
 随分と不束なことを要求してくる。
 「大体、私、恋愛とか、そういうの……まだ、良いですから。」
 「歌に夢中だから?」
 「それも、あります……バサラとまではいきませんけど、私も……」
 ああいう歌を作らなければならない。そうでなければと、一人抱え込む。
 「ふぅん。それで、恋愛はする気、無しか。まだ、10代なのに窮屈そうな人生ね。」
 追い詰められているような顔をしているのを見逃すことはなかった。今まで、そういう人間と付き合ってきたこともあるから、陽美は見逃すことはなかった。
 「でもさ。そういう状態で歌を作っても、今日よりも悪いほうに作用されると思うよ?ってか、いい歌も作れないんじゃない?」
 「え?」
 なにもわかっていないくせに。妙に人の心の中に入り込んでくるかのような物言いにイラついた。なぜ、この人は。ここまで。自分を知っているかのような、そういう物言いなのか。
 「何かにとらわれちゃってるようだし。そういう状態で作っても、いいの、できないよ。」
 「それは、確かに、まだ私は歌を作り始めたばっかですし、未熟なのはわかってますけど!」
 「そういうのじゃないよ。」
 「じゃぁ、なんですか!?」
 知っているかのような口ぶりをして、さっき、出会ったばかりの少しだけ心開いた女が馴れ馴れしく自分の心に介入してくることに、自分のことを解っているかのような言い回しに不快感のようなものを抱いてしまう。無駄に女を知っているから、そういう心情すら手に取るようにも解るのだろう。
 推測でモノを言っているのなら笑ってごまかせばいい。それがアイドルなのではあるが、その推測が合ってしまっていると笑ってごまかすほどの余裕もない。自分の神経を逆なでするようなことばかりを口にすることに不快感を抱く。それが真実だからこそ、余計にイラつかせてしまう。まだ、少女の精神が未熟である証だった。
 バサラから足りないものがあるといわれ、今のような状態を覗きこまれる。
 しかも、自分の知らない何かを自分よりも知っているからこそ、苛立ちまで覚えてしまう。怒りの目を向けても、こちらを哀れむような目で見てくるだけ。それから、何かするようなこともない。キスでもかましたら一発殴ってストレス解消にもなるだろうが、それを見透かしているようにも思える。思わず、こっちから手が出しそうになったと、命は掠れた声で口に出そうとした。
 何を言えばいいのか思考が放棄して、感情に任せた言葉しか紡げないと考えると、何もできなくなった。陽美は、その姿を小動物のようだと評する。肩が震えて、抗議の目で陽美を見つめなおす。その視線が愛しく思えてくる。自分というものを知らない少女、知ろうとしているけど迷宮に舞い込んだ。
 (でも、何か、引っかかる……私に足りないもの、何かが引っかかったような……)
 この少女が。
 守ってあげたい、答えを出すまで、ずっと寄り添ってあげたくなる。自分の言葉でしでかしたことを棚に上げながらも、陽美は、その反応から”まだ、瞳は死んでいない。”ことを理解する。
 そこまであるのも、迷うのも命の信念があってこそのことなのだから。それが折れないように、少し、転んでも、まっすぐに、その夢に辿り着くように。小動物は恐る恐る、言葉を紡ぎ、この思いを告げることしかできなかった。
 おそらく、目の前の自分に対して恐怖しか感じていないのだろう。自分のことを知らないのに知っている。そういう人。
 「なんで……」
 「ラブコール、送ったじゃない。サウンドビームって形で。私に助けを求めるようなこと。」
 「そんなこと……」
 いや、サウンドビームが発動したのは確かにあった。あの時の感情がなんだったのかは分からなかったが。思い出し、それを浴びていたのか。まさか、そうなっているとは思わなかった。唄が通じないことに対する素直な不満の咆哮。
 「貴女こと、伝わってきた。」
 「ッ……」
 何も言わずに走りYF-29改に走りコクピットの中に閉じこもった。
 その前に命のスカートのポケットの中をまさぐったが、それに気づくことはなかった。それ以上に、頭の中は陽美の言葉で埋まっていたからだ。そういうことを望んでいたのだろうか。誰かに解ってほしいとか、そういうことを考えていたのか。苦悩が形となって表れた、あの瞬間。思いが咆哮となった瞬間のこと。
 「ありゃりゃ、嫌われちゃったか。」
 「1日で振られるとか、最高新記録ね。」
 「うるさい!!まだ、振られてないよ!!」
 ただただ、陽美は、これ以上の会話は望めないと思いながらも調子に乗りすぎたと反省しつつ、本部の中にある自室に足を進めた。
 「まぁ、苦労するだろうね。」
 それなりに陽美も苦労はしたが、命ほどではない。寧ろ、あれは陽美からすれば
 「苦労しすぎ……あそこまで背負ってるとパンクしちゃうよ。いや、その発散が、あのサウンドビームだったのかな。」
 「そうだ。明日のテスト用にトルネードパック、付けておくよ?」
 「んー。」
 今日よりも悪い結果になる。解らない。真剣に歌を作っても、それだけでは何が足りないと言うのか。バサラも同じことを言う。何かの意見を聞くにしても、バサラは教えてくれなかった。陽美は、それに気付いた。自分ですら気づかなかったことに。悔しくて、思わず上唇を噛んだ。
 「何さ……初めて会ったくせに……」
 YF-29改のコクピットは他のバルキリーよりも大きめで、そこでバサラも命も居眠りができるようになっている。当然、曲を作ることもできるのだが、先の台詞も含めて、曲すら作れない状態になっていた。自分のことがよくわからなくなっている。前々から、こういうことはあって、何かアドバイスをもらおうとして、バサラを探しに行ったが、どこにもおらず、帰ってくるのを待とうとしたがバサラは帰ってこなかった。元より、こういうことになっても、何かを教えてくれず、唄うだけ。
 過去にミレーヌ・ジーナスに会った時、その時にバサラの唄う歌の奥にあるバサラの言葉に自分と言う枷を抜け出す意味があるというのを聞いてはいたが、まだ、触れ合って、そこまで経ってもいないから解らない。
 NEW FRONTIER……その意味が、まだ、良く解らない。
 そして、バサラ自身、どこにいるのかを考えてみれば、あの性格だから、何処かで野宿でもしているのだろう。この未開の惑星となると、探したら迷子になってミイラにでもなりそうなのは自分だ。下手に動けない。
 さらに、この状況に、マクロス・リリィ政府はてんてこ舞い状態で惑星ARIAの近くにある、それなりにサイズが近い惑星が消滅したらしい。
 幸い、その余波による衝撃波的な物は襲ってこないらしいが、何があったのだと、マクロス・リリィ政府は焦り回っていた。
 SMSは出撃が来るまでは待機。そんな情報が回ってきて、当然、集中も出来るわけ無いし、大まかな政治的な仕事は自分たちに回ってくるわけでもない。それはSMSとて同じことメカニック以外は暫くは自室で待機とのことだ。
 星の空に光の龍が走った。
 なんて事を聞く。
 そういうのを聞いても驚かないのは、バサラと、それなりに、惑星消失に類する体験をしてきたからだろうか。そうすることでインスピレーションが湧いたりしたものだが、特に焦ることのない自分の図太さに驚いていた。
 それよりも曲が出来ないことの方が死活問題に近いと言える。
 「もう、無理……頭、回らない。」
 キャノピーをあげてコクピットから出て、その日は簡単に曲の制作をやめて、美音の元に向かうことにした。
 しかし、考えてみれば居場所やら、そういう情報を教えてもらっていなかった。気がある素振りを見せながら、そういうのを渡さないと言うことに本気では無いんじゃないか。そう思わざるを得ないのも仕方のないことだ。
 ただ、本題として陽美の部屋に向かうというのは、やはり、あの様々な言葉が脳裏に走ったからで、そこから、自分が何を得れるのか。そういうことが出来たような気がしたからだ。意固地にもなってはしまうが、それ以上に何か自分に対して引っかかるものがあるというのは、あの人が何かを持っているということなのだろうという、そういう思いが命を突き動かす。
 なぜ、引っかかったのか。
 美月と触れ合った時と同じような、そういう感覚、最初に出会った時から、この人も、あの人も自分の中では妙に引っかかる言葉を口にする。
 心に放たれた靄のようなもの、それを知ってしまえば取り除けるのではないか。
 少女は、本能と自分の考えのままに足を前に出した時だ。
 「どこに行くんだい?お嬢さん。」
 MSMマクロス・リリィ支部の本部をうろつけば当然、不審人物的な扱いをされてもよさそうなときだ。
 完全に太陽に焼かれたような筋肉質の女性が目の前に現れた。思わず、その褐色の肌とタンクトップからはみ出そうな爆乳、太ももの付け根までがまる出しな短パンと言う大胆、下手をすれば露出狂とも言える恰好をしている。そんな女が自分に声をかける。
 どういう趣味をすれば、そういう服装で平気で歩けるのかと、上から下までマジマジと見てしまう。髪型はオールバックで後ろに全部ひとまとめにしている。全部、纏めて腰まで伸びた、その髪は広げたら、どれだけ広がるんだろうとか、そんなくだらない妄想をしたくもなる。
 ぷっくりと膨らんだ唇とキリッとした目元と端正な顔立ちは女を引き寄せる女の顔をしている。ついでに言えば、その筋肉で殴られたら怖そうだ。
 「え、えと、その……」
 そこを見れば当然、警戒もしたくなるし、一体、この人はどういう人なのだろうと考えてしまう。怪訝そうな顔が見えてしまったのか、女は口を開き己の名前を名乗った。
 「樹里・ヴォーキン。SMSのメカニック兼、パイロット。」
 「はぁ……」
 「なんか、用件があってうろついてるんだろ?」
 思えば、陽美と口論していた声の持ち主は、この人だった。とか思いながら、少し凶暴さを兼ね備えた声だと、そういうことも思う。
 「トイレに行こうとして帰れなくて迷った?」
 中々、本筋を話そうとしない態度に、何処かイラつきを覚えたのか、からかうようなことを言いだした。それをからかいだと思わずに命は思い出したように口を開く。
 「陽美さんの部屋って、どちらですか?」
 驚いた。
 と、でも言いたいかのように眉間に皺を寄せた。
 さっきまで唇を奪われたり、そういうことをされてしまえば、その反応も無理はないか。
 「あぁ、連れて行こうか。」
 「お願いします。」
 「物好きね。さっきは、あんなに怒っていたのに。」
 「いえ、やっぱり、どこか気になるところがあるんです。」
 「ふぅん。」
 とはいえ、所詮は他人事。そういう顔に自分の意見が出やすい女だ。短時間の観察で理解する。お礼を述べてから樹里は歩き出す。
 どうやら、ついてこい。と、言っているようだ。最初から、そう言えば良い物を。なんて思いながらも付いていく。ただ、そこに行くまでが暇だったから、多少の会話を交えた。
 「陽美さんの元カノさん……ですか?」
 「単なる同僚。互いに女の好みが違うのよ。だから反りが合わないし、付き合ったこともない。」
 「好み……」
 「あいつは、自分に擦り寄ってくる女が、そう好きじゃないのよ。そして、貴女は落ちないで拒否した。逆に、もっと欲しくなってるんじゃない?あたしはミーハーで擦り寄ってくる女でも構わないんだけど。」
 「そう、なんですか……」
 「寧ろ、そう靡かない子をゆっくり自分色に染めるのが好み。って言ってた。あたしは絶対にセックスで落とす自信がある。」
 「……」
 「ふふん。」
 何が嬉しいのか勝ち誇った顔をしている。
 そういう性的な事情は陽美よりも旺盛なのかもしれないと考えると、自分の母である智恵理を思い出す。あれもあれで発情すれば凪沙に襲う思い出が蘇る。思い出して、対した思い出では無いと踏んで、すぐさま、その記憶を消したが。
 「そですか……」
 思えば長く、会いすぎていない。いや、あの時代、アイドルになったと、言う時点で卒業しない限り、会いに行ける回数は指で数えるほどしかないが。
 「キスを突然したから、怒って会いたくないのかと思ったけど。」
 「そう、ですか?」
 「あいつ、自分からキスはしないから。相当、気に入られたんじゃない?」
 意外なことを改めて聞いて、思わず嘘を言っているのではないか。と表わすように樹里の顔を目を見開いて睨んだ。
 「でも、女性とは、そういう経験とか……」
 「まぁ、欲求不満にもなるから、セックスくらいはするんじゃない。ただ、絶対にヴァージンはあげない。って言って、自分のは触らせないけど。」
 「気持ち良くなるんですか?」
 「知らない。」
 「はぁ……」
 「付き合いは長いけど、そういうの初めてだよ。襲ってくるんじゃない?もしかしたら。」
 「でも、それって……」
 「可愛い女の子がいれば、そうもなるわ。」
 どうも嘘を言っているようには思えないし、それは真実なのだろう。とも思うが、ただ、どうもあの軽さは。
 「別に理由がある訳じゃないよ。あの軽さは。元から、なんか、そういう楽しいことは楽しい。って思える性格なんだよね。あいつ。だから、それが妙に軽いって見られるし。ただ、変な小説に感化されて、可愛い女の子を守る騎士になる。ってわけわかんないこと言ってたけど。」
 「詳しいんですね。」
 「ガキの頃からの腐れ縁。ドラマみたいな重い設定とか、あいつには無いんだよ。」
 サラっと言い流して、苦々しい思い出でも蘇ったのか、突然、嫌な顔をした。
 「何か……」
 「何でもない。」
 ただ、女を守りたくてバルキリーのパイロットになった。確かに、そこ行くと、そんなにドラマ的な物は無い。
 「ついでに、良い職にもなるしなー。給料も良いし。」
 「なるほど……」
 そこに行くと、自分がアイドルになった理由も似たようなものかもしれないなんて思う。そもそも、歌を唄うこと自体が好きだった。と、言うのもあるが。今の命にとって、そのようなことを言っている場合では無い。
 「ってかさ。あの女に近づくって、相当、物好きだね。」
 「そうかもです。」
 そういう理由では無いのだが。
 「そういう奴じゃ……無いです。」
 考えようにも、それを忘れようにも、陽美の言葉が引っかかる。それを聞きたいがために、わざわざ向かう。
 「ま、そうだろうな。あそこまで性に爛れた女に、君のような子は好きにならないわな。結構、楽しいんだけど。」
 この人は、何を言っているのだろう。人の人生にとやかく言う気は無いが。
 「まぁ、あいつは、あいつで一途だよ。」
 「本命の恋人が出来ても浮気はしそうですけどね。」
 「それは、どうだろ。」
 雑談を繰り返している間に陽美の部屋の扉の前に立っていた。気を遣わしたのか扉まで開けて、簡単に陽美と会わせてくれた。
 「樹里さん、ありがとうございました。」
 「んー。良いよ。レイプされたら慰めてやるからおいで。」
 「……」
 愉快な人だけど、話すにしても、どうも開けっぴろげすぎて遠のきたくなってくる。とはいえ、悪い人では無いのだろう。ただただ、そういうことを思いながら、こうして目の前にいる存在に合わせてくれたのだから。さして、目の前の金髪美人の部屋は意外と片付いていた。
 「ささ、いらっしゃい。」
 ああいう性格だから、こういう部分もズボラだろう。と、思ってはいたが、そうでもないようだ。
 「ってか、解んなかった?ここ。」
 「はぁ?」
 「ポケットの中に、この部屋の案内図、いれたんだけど?」
 「え?」
 ポケットを弄れば、そこに確かに案内図があった。思い当たる部分は、確かにある。
 「って、そんな無駄話、しに来たんじゃないです。」
 「そう?」
 少し恥ずかしそうに、でも、それを偲んでプライドを捨てて聞きに来た。自分の目標を得るためなら、多少のプライドを捨てるのは致し彼方ないと、身体を売り払うこと以外は、そういうことも思っている。
 自分の一歩、新たなステージに行くためなら必要なことだと。どうせ、取って食うわけでもないだろうと命は口を開いた。
 「どういうことですか……?」
 「へ?」
 「バサラは私に、何かが足りない。とも、言いました。でも、貴女は私に足りないものを知っている。だから、教えてもらいに来たんです。」
 「それは知らない。ってか、知ってるとも言ってないし。」
 「でも、あの時の!!」
 「あぁ、あれはね。」
 読み取ったのは命の感情と言う名の思念だけ。バサラが命に足りない物を知っていると言うわけではない。虚ろというわけではないが、プライドを瓦解させて教えを請う姿、下手に出る姿は抱きしめたくなる。
 「ただ、解る気はするけどね。でも、それって自分で見つけないとダメだと思うよ?そういうこと。」
 「自分で……」
 「こっちにおいで。」
 「え……?」
 誘われるがまま、今度は欲望を前に出したような物が無い気がした。今さらだけどライダースーツのような物は身に纏っていないし、普通にパジャマを身につけている、その仕草は良い処のお嬢さんのようにも思えた。これが、本来の彼女の姿なのだろうか。あの格納庫での一件は偽りだったのではないか。何か、惹かれるものがあるのか、その言葉に従って用意された陽美の膝と言う名の椅子に顔が見えるように座り込んだ。
 「最近、こういう感覚、忘れているんじゃない?自分の中にいる、もう一人の自分を打ち消すために頑張ろうとして。我武者羅になって、自分を忘れると。」
 「わかるんですか……?」
 「これでも、結構、付き合ってきたし。そういうのを見る目はあるよ。」
 命自身は驚きつつも、陽美自身の、こちらを裸にするかのように見つめる視線は、その全てを理解しているかのように見えた。全身を舐めまわされているように見つめられているというのに、この人は、自分の肉体を熱くさせる。この人も、知っているのだろうと、自分の中にいる獣の事すらも悩まし気に命は陽美を見つめた。
 その悩ましげな視線が愛しすぎて、こうして陽美のところに来た喜びを伝えるかのように自分の膝に座ってきた命を抱きしめた。じんわりとした温もりが伝わってくる。こうして人に抱きしめられるのも、バサラはそういうことをしないからなおさら懐かしい気がする。
 敢えて、歌を聞かせる前は人と距離を取っていたし、どこかの賑やかな星で、話しかけてこられたけど、その時も、距離を取って離していた。
 あのころは沙友理が、そういうことをしてくれたと思い出す。ただ、自然と受け入れながらも心は拒絶してしまっていた。彼女は、襲名していたから、自分とは同じであり違う人だったから。此処最近、両親の温もりも姉たちの温もりも味わっていないし、色々と言葉を掛けられても、こういうことは無かった。
 寧ろ、あの世界は自分と周りが乖離しており絶対的な襲名に対する憧れと自分が自分でいたいと言うアイデンティティのぶつかり合いなど解ってくれる人など、いなかったし、それを求めること自体が傲慢だから、だから他人との接触を断たなければならない。そうでなければ価値観の違う自分とはいずれ違うものになる。それなら今のうちに……
 「そうやって、他人との接触を拒絶しなきゃいけないのは辛かったでしょ?それが、貴女を自分の殻に閉じ込めてしまっていたのね。やりたいことがあるけど、それが出来ない。」
 「そんなこと……」
 「こもっていると、他人にも届けられないよ。」
 「そう、ですかね……」
 「ねぇ、前から聞きたかったけど命にとって歌ってなんなの?仲裁するための道具とか、そういうのじゃないでしょ?」
 「え、そんなの……」
 自分にとって歌とは。そんなこと、考えてみなくても簡単に出てくるはずだった。自分にとって歌とは。そんな単純である筈の答えが出てこなくなり、声がつっかえて思わず絶句した。単純で、ずっと大切で、考えなくても出る筈の答えだったというのに、それが出てこない。
 雲をつかむような、そういう感覚に襲われ、出てきそうなのに出てこない答えのもどかしさに気持ちが悪くなってくる。徐々に汗が噴き出て、目を全開にして呼吸が荒くなり始めていた。大切だったはずのモノなのに、答えが出てこない。肉体が震えとなって、その姿は傷ついた小動物のように痛々しくも見えてしまう。
凄い大切で、大事にしていたはずの自分にとっての歌に対する答え。今まで、応えられていたというのに、どうして今になって何も言えなくなってしまったのだろう。
 自分にとって歌とは何だったのだろう。改めて考えるが、納得いく答えが簡単に出てくるわけもなかった。どれくらい考えても、自分の抱いていた何かに比べたら、それは小さい存在であることを自分の潜在意識は知っているから。だから、本当は覚えているはずなのに、それが出てこない。
 気持ち悪くなってくる。背中にゾクゾクとした悪寒が走り嘔吐しそうになるほど醜い声を上げてしまっている。
 自分にとって歌とは何だ。
 仲裁するための道具ではない。
 自分にとっての歌。
 自分の歌。
 自分の歌の意味。
 自分の歌
 なんで、自分は唄っていたのだろう。
 出ることのない答えの気持ち悪さに塞ぎこむようになった時だった。
 暖かい感触が命を包み込んだ。
 「ごめん……ごめんね……辛いことだったんだね……」
 陽美の肉感が命の身体を包み込んでいたことに気付いたのは、これによって、確かな心地よさのようなものを肉体と精神で感じ取った時だった。ふわりとした柔らかい陽美の肉体の暖かさが自分の中に入り込む。そうすることで、徐々に気持ち悪さから解放されるように嘔吐や震えが逃げて行った。そして、この感触にずっと甘えていたくなる。冷静に思考できる時間が戻ってくるのを、静かに感じ取っていた。
 感情のコントロールが出来ていなかった。これが出来なかっただけかもしれない。自分の答えが本来あるはずだった己の答えを思い出せず、つっかえてしまうというだけで。答えが出ない理由に関して考えたところで意味は無い。本当は答えを出すことが大事なのだから。しかし、この感情は不快感に近い自分の不甲斐なさは、どうにでも出来るものでは無かった。
 陽美の身体越しに伝わってきた、あの方向からくるメッセージは、今の彼女の存在、そのものなのかもしれない。一つの答えに辿りついたような気がしたのかもしれない。胸の中に、何かが埋まるような、暖かさが灯った。大切なものを探しに迷宮に迷い込んで結局、探すことも出来ずに永久に迷い込んでしまった出てこれなくなった哀れな少女。
 「ここで、命は自由になって良いんだよ。全て、命に行動の思う通りに行動する自由があるんだから。」
 「どうして……」
 「だって、好きな人が困ってるし、力になりたいよ。」
 ドストレートな愛情表現に、思わず命は緊張してしまう。
 こうして少しでも、今、彼女の悩んでいることから気を逸らすことが出来れば。抱きしめて伝わってくる少女の中の恐怖を背中をさすりながら取り除こうとしていた。
 陽美の、そういう優しさが伝わってきてしまうから、人の与えてくれる優しさは自分の中にある恐れか何かを和らげてしまう効果があるようだ。今、こうして抱きしめられて、人の温かさを感じ取って、己の心の中にある、何かが融解されて行くのを感じた。ずっと、忘れてしまっていた、この温もりと言うのは、いつ以来のことだったか。
 苦痛を得るたびに忘れてきてしまっていた、この感覚、以前、ライブ等で感じた筈の昂る感情を、今、ここで理解して感じている自分がいる。
 「怖かった……何か、解らないけど……」
 流石に嘔吐も、そういう気持ち悪さも、陽美に抱きしめられることで消えて最終的に自分にとって歌とは何だったのかを冷静に考える機会を命から貰った。心を許した訳ではない。そう自分に言い聞かせているのに、心と体は理性とは裏腹に、これを待っていたかのように求めて両手は身体を離そうとしない。ただ、なんとなく話しただけだ。それだけでも大分違うのなら。
 「まぁ、良く解んないけどね。」
 「あそこの芸能界は此処と比べると異質ですから。」
 ただ、知らない人間からすれば個人を売ることが出来ないと言うのは辛い物なのだろう。しかし、それが普通ともなれば立場が無くなる。そういう位置に立ったことは無いが。
 「慣れることは辛い?」
 「最初は辛かったですよ。でも、そのうち、どうでも良くなってきました。それが続いたら、そうして行くうちに考えることをやめちゃった。」
 「それ、やっぱ寂しいんじゃない?話し相手すら無くす。って。」
 「それは、まぁ……」
 だから、陽美はそっと、命を抱きしめて頭を撫でた。メンバーは気軽に話しかけてきたが、徐々に、その数は減っていく。次第に身内からも周りからも取っつき難い存在だと口にする。それでも、自分に対して、話しかけていたのは、沙友理だけだったか。ただ、決定的な価値観が違う。自分たちとは違う、まっさらな価値観を持つ人が、こうして人の温もりを与えてくれることに自分の体は感動しているのは何故なのか。それは、自分のことを殆ど知らない陽美と言うのがあったのだろうか。解らない感情のままに、こうして体内は心の浄化を行われていくような、そのような気がした。
 「あ、あの……その……」
 こうされるのは無かった気がする。
 こうして人に抱きしめられることも。
 慣れてしまえばそれで構わない。
 寂しいのは拭えないが。
 あの世界で、誰ひとりとて話相手はいなかった。
 だから、一人、距離を取っていた時期が懐かしい。
 そうして、ふわりとした物が、自分の中に生まれてくる。
 忘れていた、この愛しさと言う感覚は言葉には出来ないどうしようもない何かが生まれてしまう。
 バサラに頭を撫でられても、そうなることは無かったと言うのに、どうして、女性になると、簡単に心に渦巻く思いと言うのは不思議なものがある。
 女性の前では、ちょろくなってる自分が何故かいる。女性に、こうも優しくされると、何かダメになってしまうのかもしれない。優しくされたことが嬉しいのか。女性だからなのだろうか、この胸の大きさが、そうさせてしまうのか。自然と柔らかさは少女に安堵をもたらしていた。解らぬままに、溺れてしまう自分がいる。
 久しぶりに感じた温もりに神経を集中させていた。自然と頬に熱い何かが流れていることに気付いた。こうして人と接することで忘れていた感情を取り戻すような感覚を思い出した。
 それは、この人が自分の失った何かを知っている、解っている人だからなのか。
 陽美自身、ミレーヌ・ジーナスという存在がいたからこそ、ある程度、音楽には精通しているほうだし命の奥に眠る大切なものは手に取るほど解る。しかし、元の世界にいた芸能の価値観が命の本来の良さを殺していることにも話を聞いていれば解る。それが、とても人を不幸にしやすいということも。
 「でも、陽美さんは……」
 「まぁ、それは、私だって女関係で色々とあったけどさ。ついでに、樹里とも喧嘩はしてきたし。でも、そのたびに、樹里がいないと解ってくれる腐れ縁がいないの。まぁ、あいつと付き合う気は無かったんだけどね。命もさ、そう思い込んできただけじゃない?」
 思い込んでいただけなのかもしれないが、今となっては思い出せない。
 誰がいて、誰がいたのか。
 いや、顔は覚えているが、襲名した途端、本名を忘れてしまったかのように襲名した名前を名乗り始めたからだ。名前、かつての自分の名前を捨てたかのように。
 「だから、私がさ。その存在に……」
 「あなたとは……知り合ったばかりですし……」
 「うん?」
 だから、そういうのは、まだ。
 「せめて、そういうのって友人からなんじゃないんですか?」
 「うぅん、でも、命って可愛いから誰かにとられそうだし。」
 「そんなの……無いですよ。」
 「なんで?」
 「それは……」
 言われてみれば、なぜ、ないと言い切れたのだろうと、ふと思う。
 「いつしか、自分から遠ざけていたんじゃない?バサラは、あまり自分の中に入り込もうとしなかったから気安く接することが出来ただけで。」
 「それは……あるかも……です。」
 そっと頭を撫でられて思わず黙ってしまう。
 「そうやって理解できなかったから……」
 一方的なものになってしまう。
 しかし、それが何なのか。確信は、言わなかった。それが命のためにならないと思ったからだ。それに教えたとしても、それを克服できるとは限らない。ただただ抱きしめてあげることしかできない。
 「助けてほしかったんですかね……あの白いバルキリーのパイロットが、貴女だ。ってことも知らなかったのに。」
 「そうだと思うよ。」
 「樹里さんから聞きました。そんな大層な理由もなく、ここに来た。って。」
 「そうねー。」
 女騎士になって大好きな姫を悪党たちから守る。小説の主人公に憧れたから。そして、守りたくなる相手に出会って一目惚れした。
 「良く、そういうこと恥ずかしげも言えますね。」
 「だって、好きなんだもん。」
 「惚れやすい……」
 「貴女みたいな子が出てきた時だけ。」
 否応なく、他愛、そして不毛な会話が繰り広げられていく。ただ、そんな無駄話の時間が楽しくなった。忘れていた人と話すと言う感覚を。
 「すぐに手を出すと思ってた。」
 「それは失礼ね。樹里じゃないんだから。」
 それが妙に楽しい。
 合わせてくれるから。
 なのかもしれないが、それでもちゃんと自分の話もしてくる。人の話を聞く楽しさや、そんな物が蘇っていった。人間的な感情が消えた。訳ではない。ただ、そうして行くうちに何かしらのモノが欠落してしまった。だが、そこまで重いわけではない。
 「重症にならなくて良かった。」
 「重症?」
 「そう。そうして壊れていくパイロットは、何人も見てきたからね。最終的にはバカみたいに特攻とかして恰好つけて消えていくんだから。」
 「前の恋人の話?」
 「うーん、まぁ、それなりに長いことパイロットやってると、そういうの見えてくるから。」
 それなりに場数は踏んでいると、自慢げに言う。
 「そうして自分の彼女が、そうなったら嫌だなーって思うし。」
 「そう、ですか……」
 「それに、命は私の女神だよ。」
 「え、と……」
 「命の歌は、あの時の戦場でいつも以上に気持ち良く空を飛べたから。お陰で、いつも以上の戦果を出せた。感謝してるよ。歌を聴かなかったら、町の被害はもっと酷かったろうし。」
 真剣な告白と受け止められるような言葉に笑顔で見つめられて、思わずドキッと命の心臓が掴まれたような気がした。口元が少し震えている。それを察して心を覗くような目つきで見つめてくる視線に耐えられそうにない。少し、息が苦しくなって陽美の膝元から離れた。ただ、離れようとすることはせずにベッドに音を立てて倒れ込む。少し、艶っぽい顔を浮かべつつ、この部屋の毒気にやられたかのように唇に触れる。あのころのことを思い出したかのように。
 「魔女のキス……?」
 この顔は綺麗だ。
 陽美に話すだけで楽になってくる自分がいる。陽美と言う女性。最初のころに比べて、随分とも変わったものだと、この短時間の中で思う。移ろいやすい性格をしているのだろうか。ただ、優しく自分の悩みを聞いてくれただけだと言うのに。
 「そういうの誘っているように見えちゃうんだけど?」
 「そう、なんですか……?」
 誘ってなんかいない。
 その言葉が出なかった。覆いかぶさるように陽美が自分を見つめてくる。間近で顔を見て吐息が顔にかかってくる。自分の中に平然と彼女は入ってくる。
 「ねぇ……」
 まだ、一日しか経っていないと言うのに。いや、出会ったのは数ヵ月前。でも、ちゃんと触れ合ったのは今日が初めて。どうして、こうも気になってくるのか。自分の心を全てを絡め取ろうとしているかのように甘く囁く言葉。
 陽美自身も、それを抵抗しない、強気で否定しない部分を誘っているものだと思っていた。足りない物を埋めてくれそうだ。ふと、触れた暖かなきっかけから、このようなことまで考えてしまう。
 唐突に思い出した寂しさと哀しさが、内面で具現化し、その陽美が与えた暖かさのような物が常に自分に光のようになって降り注いでくる。求めてしまいそうだった。すがってしまいそうになる。
 「まだ、私……陽美さんのこと……」
 好きと言っていない。だが、この蘇りかけた思いのような物は好意と言う感情になればなるほど嬉しかっている自分がいるのが、まだ、それに応えると自分は、それにいっぱい、甘えてしまいそうな気がする。しかし、抜けていく力が白く染められていく思考が、今を忘れさせてしまう。抵抗することを良しとしない自分がいる。
 「ダメ……」
 それでも抵抗の言葉を発した、その時だった。
 「後で、沢山、聞くよ。」
 陽美が妖しく微笑んだとき、その手は胸に触れることなくそっと額に触れた。
 「あの……」
 「今は夜。肌に悪いんだから寝なさい。」
 にっこりと笑いながら陽美の暖かさに触れて、気づけば久しぶりのベッドの感触に眠りについていた。最初に、この世界に来たときは、こんなにぐっすり眠れることも、その後もなかった。しっかりと眠ることをすっかり忘れていた。変な言い回しだが、命にとっては、そうなる。ミレーヌ・ジーナスの部屋で寝ても楽しいとは感じたが、こうした暖かい感触を思い出すことは無かった。
 だが、この人と一緒にいるのは、なぜだか、心地よいと自分の中で感じている。
 好きになったのだろうか。
 少女の中に忘れていた感情が走る。
 そして、自分にとって歌とは何だったのか。改めて、それを考えていた。

| マクロスLily | 00:00 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://civer.blog122.fc2.com/tb.php/786-524e67f2

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT