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鎧塚みぞれの瞳には何かが見えている。

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響け!ユーフォニアムを知らなくて、リズと青い鳥を初めて見た時の鎧塚みぞれの印象って、こういう感じだったので、それを文章にしてみた。


 「また何かと話してる……」
 吹奏楽部の練習の終了後、水を何年も浴びていない干乾びたラベンダーのよう声を出して喉に潤いを求めながら学園の自販機近くで缶ジュースを手にして、そのまま一気に飲んでしまおうと思った時、傘木希美は何かと話している最愛のパートナー、鎧塚みぞれを見つけた。
 「しかも、凄い笑み。」
 今、自分はとてつもなく醜い顔をしているだろうという自負はある。
 そうなってしまう程に、この状況というのは傘木希美にとっては穏やかな状況ではないのだ。なにかこう、清純な笑顔が自分のものではないという感情がもろに出ていることだろう。歪という言葉が良く似合っていた。
 時折という訳ではない。それは、結構、頻繁なことだと鎧塚みぞれを見守る傘木希美の視線。
 「また、何かと話してる……」
 目を瞑ってしまいそうなほどにまで細めて凝らしながら見ても、みぞれの先に何かいる訳じゃない。しかし、何かと楽しそうに話しているような、まるで自分といる時の様な滅多に見せることのない万華鏡の様に表情が彩られた、鎧塚みぞれの姿に、一瞬、もやっとした感情が胸に渦巻いた。
 紆余曲折あって、みぞれとは色々とあったし、公私ともに最高の存在ではあるのだが、まだまだ、彼女には謎があると思うと、いや、改めて鎧塚みぞれの視線に立つように見直すと新たな発見が見えてくる。
 これに関しては、傘木希美曰く、普段は、そういうことだったのかとか、どうとか、改めて自分は鎧塚みぞれをちゃんと見ていなかったことに猛省すると同時に、もっと興味が湧いて、みぞれの事が知りたくなる。
 受験勉強が手につかなくなるほど、気付けば視線は、みぞれを見てしまう。あぁ、これが愛することなのだと知った時だ。だからこそ自分の目に映ることのない何かと笑顔で談笑する、みぞれと、その視線の先の主に嫉妬する。自分以外の何かに、みぞれは自分と一緒にいる時の様な表情を見せる。
 胸がチクッとした。
 最初は採決をする時の注射のような痛みだったのに、徐々に殺されたような、そういう痛みへと広がっていった。その表情は自分だけのものなのだと思い込んでいた傲慢さがあったことは認めるが、それでも、それでも、やはり嫉妬してしまうのだ。
 思えば、自分が、みぞれを本気で意識し始めてから今までに体験したことの感情がクレマチスのように咲き誇る。これが付き合うという事なのだろうと自覚する。自分の中に入りこんできた、みぞれが自分の心の中に華の種を植えたかのよう。どうにも、それが開花してしまったらしい。
 踵を返して逃げようとも思うが、どうにも鎧塚みぞれの公私ともに最高のパートナーであるという自負から、それを許せないし、逃げたくないという自分がいる。イマジナリーフレンドなんて言葉があるが、みぞれの表情を見ていると、それはあたかも実際に存在しているかのようで、やはり、どうにも、それを許容できない。みぞれの演技力は、イマジナリーフレンドを具現化するほど器用ではない。
 そして、やはり、そういうものに対して夢中で話し込む、みぞれを見ていると最終的には解り合えないのだろうか。そんなことすら考えてネガティブになる。どうしても知りたくなる。
 (みぞれが見ているもの。)
 (みぞれの視線の先にあるもの。)
 「みぞれ、何を見ているの?」
 眉を潜めながら、みぞれに告げようとするも、みぞれの時間を、ああも楽しそうに話している、みぞれの邪魔をしても良いのだろうかと、希美の中にある面倒くさい感情が邪魔をする。こういうときは、もっと己のエゴに塗れて自分勝手に、あの世界に介入できれば良いのにと内心、毒づくが、みぞれの前ではそれが出来ず、どうにも、それが態度に出ているようで、夏紀達からは揶揄われるように、しおらしくなったと口にする。
 それに掠れて蛙が潰されたような声が出てしまい、向こうにいる、みぞれには届かない。
 僅かな距離だというのに、埋まることのないじれったさに一人、沈んでしまいそうになる。手を差し伸べれば、今、何かを見つめている、みぞれは自分に気付いて手を取ってくれるだろうか。
 あの時、みぞれの苦しみ、それを思うと、みぞれは自分の手を取ってくれないかもしれない。
 退廃的な感情が「どうせ、お前は……」と、人の感情を殺すような言葉と一緒に耳から入り込み、全身に溶け込み始めた。ふと、中学時代の時の自分の身勝手さが脳裏に過り、嗚咽しそうになる。今、自分が抱いている不安を、みぞれは何度も体験したのだろうと考えれば考えてしまう程に。精神から身体の毛穴全てを媒体として漏れ出す嫉妬というのは、どうにもならない。
 みぞれの中にある自分の感情を知った時、酷く自分が歪に見えた。何より、手持ちの缶ジュースの冷たさが気にならない程に不快な抜けることのない蒸し暑い熱が、慣れなければ熱中症になってしまいそうな真夏の部屋のように肉体には渦巻いている。人として、何より、鎧塚みぞれの恋人として。
 みぞれにとって希美が特別な存在だと知った時、自分にとって、みぞれが誰よりも一番の特別になった時、それを改めて理解した時、罪悪の感情が、これまで身勝手なことをしてきた分、何度も何度も身体を射抜いた。十字架にはりつけにされた、どこぞの偉人のような気分にもなる。自分が平然と、みぞれ以外の人に笑顔を見せていた時、何を思っていたのだろうか。無垢な少女、まだまだあどけなさを残した十代の精神が、激しい感情に囚われて乱れやすい中学、思春期という年代。こんなものではなかっただろう。そのことの全てを溜めこんで……
 「みぞれは何を見ているの?」
 (こう尋ねれば、私には教えてくれるだろうか。)
 それとも
 (拒絶されるのかな?)
 じわじわと、背中から流れる汗が衣替えしたばかりの制服を濡らす。
 奇妙な匂いが不快に変わり、目の前の彼女に嫉妬するように視線をずらしながら手の甲に流れる一筋の汗が風に当たり、季節の変わり目と同時に、どうすることのできない己の感情に揺さぶられると、自然と意識が混濁し始めた。
 みぞれは、見せてくれるだろうか。
 希美に見せてくれるだろうか。
 今、みぞれが、その純真無垢な瞳で見ている何かを見せてくれるだろうか。
 焦点が合わず、目の前の、みぞれが水彩画のように彩られる、みぞれを見つめながら身体は自然と精神との乖離を望むように意識を手放し、仄暗い虚無の海へと身を落とそうとしていた。あぁ、この時、黒髪を靡かせて彼女が自分のところに来てくれたら。今、話している良く解らない存在との会話を切り上げてくれたら。
 自分に気付いてくれたら。
 混濁する前に多くの願望が脳裏に過る。
 こうであればよかった。
 もっと、こうしておけばよかった。
 まるで、これは走馬灯のよう。
 喉は乾いているし、手持ちの缶ジュースは既に冷たさを失っていた。
 「希美。」
 瞬時に、愛する人の声が自分の名前を呼ぶ。
 「みぞれ……」
 途切れてしまいそうな意識を抱きあげるように、鎧塚みぞれは既に希美の傍にいた。
 「希美、大丈夫?後ろを向いたら、希美が倒れそうだったから……・」
 「みぞれが私以外に、笑顔を見せてるアレに教えてもらったの?」
 みぞれに触れられることで現世蘇った意識が発した言葉は、感謝の言葉ではなく、みぞれが自分以外に見せる笑顔の相手の主のことだった。
 「え?」
 何で、それを知っているのだろうと一瞬、驚きの表情を見せつつも、みぞれの顔は、もしかしたら、希美も見えているのかもしれないという淡い期待を寄せた顔を浮かべていた。
 「みぞれ……私……」
 しかし、当然、見えているわけでは無いが、そこにいるのは何か解る。
 だからこそ、その嫉妬の感情が、こうして、みぞれに助けられたこと以上に感謝の言葉よりも順序が逆になってしまう。
 (寂しかった。)
 いや、寂しいとは違う。
 嫉妬していた。
 寂しいというのは己の中にある醜い感情を美化させようとする人の逃避の仕方だと己を反省する。
 「みぞれが、私以外の何かに嬉しそうな顔を見せるのが嫌だった。」
 猛烈なほどの嫉妬、自分以外に見せる、みぞれの最高の表情、その全て、そして抱いたことの何もかもを懺悔するように話した。そんな、みぞれと言えば、どうにも自分に対して、嫉妬と言う感情を芽生えさせたことが嬉しいのか、それでも一瞬、罪悪の感情を浮かべて曇らせながらも、自分が話している相手に対する嫉妬が芽生えたことに、少々の喜びがあった。
 そして希美は誤解している。
 確かに話している相手がいるが、それは、希美の思っているような存在ではない。
 今すぐ、保健室にでも連れていって希美をゆっくりさせなきゃいけない状況にもかかわらず、そんなことがいつの間にか二の次になって、希美は言葉を紡いでしまった手前、みぞれの話を聞きたくて、みぞれも釈明の準備を始めていた。
 愛などという人の感情やエネルギーというのは不思議なものである。
 混濁した意識すらも持ち直し、そして今に至るのだから。
 「私は昔から、見えるから。」
 「昔から……?」
 「見守ってくれてた。」
 「見守って……」
 気にしてくれた嬉しさはありながら、いざ、自分が、その見ていたものに対するソレを信じてくれるだろうかという不安もあるが、しかし、希美に向ける笑顔を、常に自分を見守っていてくれた何かに向けたこと、それに対して嫉妬、大勢の中にいる内の一人から、本当に特別な存在になったことが、みぞれには嬉しくて、それに対することが不安な部分を打ち消してしまう程に嬉しかった。恋人になった希美には、何れは離さなければならないし、紹介したいとも、いや教えたいと思っていたこと。それが、今、来てしまったという話。
 「でも希美が思うのと、ちょっと違う。」
 「違うの?」
 みぞれからすれば、何故、それが見守ってくれていたのだろうか?というのは解らない。
 ただ、それでも、この人によってはストレスを解消するための標的になりそうな、みぞれを遠巻きから見守ってくれていたのだろうと、今にしてみれば、みぞれは、自分を見守ってくれている、それが、そういうものから守ってくれていたのかもしれないと自分に都合の良いように解釈するようになっていた。
 希美が一時的に吹奏楽を辞めた後に吹奏楽を続けたのも、それで心が壊れなかったのも。普通の人には見えないソレのおかげかもしれない。見えないのだと理解したのは、自宅で食事している時、ふとソレが横切り、誰もが気にすることなく歩いている。どこか特別なもので誰にでも見れるものではないようだ。この都会というコンクリートジャングルの中で蠢く異形。
 それは優しく、ただただ優しく、自分と交流し優しく包み込んでくれた。希美との関係が壊れそうになった時も、どんな時も。今までの経験を通して、ソレに甘えては自分を保ち続ける、いわば、こういうのを今となっては親友と呼ぶのかもしれない。
 種族が違う……
 そう……
 それを今、希美が興味を持っている。
 自分のたった一つの変化だけで気づいたこと、それは鎧塚みぞれが望んだ、希美の一番になるという事。もし、彼女にも、それが見えたら何を思うだろうか。
 「ねぇ、信じてくれる?」
 「え?」
 「私が見ているものを。」
 「……」
 何が見えているのだろうか。
 目の前にいる筈のそれ。手を伸ばしても、触れることが許されない存在。
 普通の人には見えないのだろうというのが、純粋に好奇心をそそられる。
 ……と言えば、まぁ、それもあるのだが、前述の通り、大半は嫉妬の感情が溢れている。そして、やはり、それはイマジナリーフレンドの様な類ではないらしい。現実に確かにいるが見えない存在。みぞれが自分と一緒にいる時と同じような笑顔にさせる存在。
 「今でも、目の前にいるの?」
 「希美の事を見て、においを嗅いでる。」
 「におい……?」
 「うん。」
 どうにも、みぞれの言葉には黒さと言うもの、嘘がない。
 純粋に、それがいることを表しているかのよう。妄想の中の友人であれば、それを打ち消すように自分がキスでも、それ以上のことでもするというのに、どうしようもない何かが、そこにいると口にする。
 「!?」
 一瞬、ふわっとした何かが希美の頭を撫でたような気がした。全身が毛むくじゃらとでもいうような、そういう、もっふりとしたような買いたてのぬいぐるみに抱き着いた時の様な感覚が希美を包み込むかのようだ。
 「昔から、私、ずっとこれが見えてた。でも皆が、それを見えていない状況に気付いて、何もしなかった。」
 ただ、今の性格を形成したのは、それが理由という訳でもないようだ。この性格は素であるという事は言うまでもないが、寧ろ、その素の性格が、希美を撫でた存在が変に達観して目の前の存在を言わなかったのだろうとも思う。
 「怖く、無かったの?」
 「うん。優しいから。」
 自分以外の事ではにかむ、みぞれを見るのはやはり許せない自分がいる。何があっても信じたいとは思うが、ただ、この確証が見えない部分が、どうにも怖い。そういう空想上の物語を作り出すのが、鎧塚みぞれだとは思わないし、この会話からの、みぞれの表情は本当に大切な思い出として、今も大切な友人として接していることが良く解る。
 「子供のころからずっと見えてた。」
 「子供のころから?何で言ってくれなかったの?」
 「言っても信じてもらえないと思ったから。」
 所詮、自分の思いがあっても、あの時は、希美にとって、みぞれは大勢の中の一人だったからこそ、もし、こんな会話をして希美に奇異な目で見られるのはしのびない。
 「でも、今は……」
 大勢の中の一人ではなく、みぞれだけの望みであることも確かなこと。
 「うん。」
 そして、みぞれの視線の先にいるなにかも、確かに、そうなのだろう。
 みぞれが嘘をついているとは、希美には、どうしても見えなくて猜疑心が芽生えることは無かった。奇跡を見ても信じない人がいる。その類の人間にはなりたくはない。そういう意地が、そうさせているのかもしれない。それと自分だけが、みぞれを理解してあげることが出来るという傲慢さが希美の中に蠢く。
 (みぞれにとっては、それと、私……どっちが……)
 どっちが一番なのだろう。
 妙な拘りは消えることが無い。
 これに対する探究は許されないことなのだろうか。
 いるとしても、その存在が、みぞれにとっての一番になることは、どうしても許せない自分がいる。
 「大丈夫だよ?」
 「みぞれ……?」
 「希美の考えているようなのじゃないから。」
 考えても考えても、それがどうにもならない。
 この目に映らなければ、どうしようもない、みぞれには見えているソレ。
 みぞれには、どうにも、希美の考えているようなものが見えるのだろう。不安を打ち消すように、先ほどまでオーボエを拭いていた柔らかな指が絡み合い、みぞれはいつものように甘えるように。
 「私が見ているモノはね?私が不安になっている時、こうして抱きしめてくれた。そして後押しして、今の望みと、こういう関係になれた。」
 そっと半身を委ねるように愛する人を抱きしめた。
 みぞれという名前とは裏腹に暖かな柔らかい包み込むような体温。この暖かさは、恐らく、みぞれの成長を見守ってきた、ソレが、そうさせてきたのだろう。
 安心させるように、母親が抱きしめるような、みぞれの身体の柔らかさに、そっと希美も体を委ねようと身を寄せる。ソレに対しては嫉妬が風が渦巻くが、みぞれに、この暖かさを穏やかさを与えた存在というのは、誰なのか……解らないまま希美は、甘えてきた、みぞれに身を寄せながら甘えた。
 一瞬、自分も、今の、みぞれの一端を構成しているのだろうが、それが全てではないし、自分の後ろ、いや、自分の隣で今の鎧塚みぞれを構成したソレ。
 普段は、こうして日ごろのストレスを癒し合っているというのに、今日はちょっと違う。悔しさの意味も込めて見せつけるように、瞳を閉じて、ちょっとだけ、肩に頭を乗せて甘えてくる、みぞれを見やり強く抱きしめた。
 まるで、もう、みぞれに手を出すな。
 見えない何かに告げるように。
 その時、風が吹いて狂ったように踊る紅葉が希美と、みぞれを包み込んで一瞬の驚きで目がパッと開いた。
 そして、そこに、希美の瞳の中に自分と同じように今の鎧塚みぞれを構成してきた、ソレはいた。
 目の前に、ずんぐりとした大きな熊よりも大きな身体の獣がポツンと目の前に立っている。一言で抱くなら「へんないきもの」これに尽きるだろう。どことなく可愛らしい、それ。灰色の大きな身体に、白い模様の腹には、同じ灰色で上から規則よく「へ」の字が並んでいる。体毛はとてもモフモフしていた。「ドゥオ、ドゥオ、ヴォロー」という野太い熊の様な声を発して、恋人らしい仕草を見て羨ましくなったのか、いや、それを楽しい遊びだと思ったかのように、へんないきものもは、そっと希美と、みぞれを抱きしめた。
 (柔らかい……)
 もこもこという感触が良く似合う。
 あぁ、これが、もし希美の考えているもの通りのものだったら、希美は、今までそれに抱いていた嫉妬心を捨て感謝しなければならない立場にある。
 その名は吹奏楽部で一度演奏したことのある、その歌で流れた時の様に、子供の時にだけ訪れる不思議な出会いそのものを象徴する。希美も、一度、それをテレビで見たことがある。その実体は太古の昔から、この国に住む何処かの森の主で彼に出会える事はとても運のいい事。
 自分達二人をもふもふの身体に包み込む獣を見て思いだす。そして気が住んだのか、希美も一度は現実ではなくテレビや、ぬいぐるみ等の玩具で見たことのある、ソレは二人を解放し白くて綺麗な歯を見せて、にっこりと微笑んだ。何故、今、これが、ここにいるのか。
 それは良く解らない。
 しかし、それは先ほどまで渦巻いていた精神や、肉体を蝕んでいた人が自ら生み出す毒気を簡単に抜いて、どこかに消し去ってしまっていた。
 この超常なるコレの思考など、人には到底、おぼつかない領域にいるのだろうが、だが、これが、みぞれをずっと見守ってきたのは解る。抱きしめた時に感じた温もりというのは、人に癒しと安心と安らぎを与える。
 「……あれ?みぞれの見えていたものって、ついこの間、金曜ロードショーでやってた……」 
 そんな表現が正しい程にはポカンと間抜け面を晒している。
 「トトロさんと……」
 紹介しようとした時、紅葉と一緒に一陣の風が吹き荒れると同時に、巨大な、希美からすれば、言葉そのものの存在が現れたとしか言いようがない。バスの様な体系をした、巨大な猫が目の前にいるという現実が、更に希美から毒気を抜いていく。にやぁっとした笑顔が、どうにも自分達の関係を祝福しているようにも見えて、確かに自意識があるのだとわかるし、もう、何もかもが現実という言葉のちっぽけさ、己の見てきた常識を打ち破る。
 「ネコバスさん。」
 言うまでもなく、それはネコバスだった。希美の倍近くある鼠色で、にっかりなんて言葉が似合う立派な尻尾を持った黒い丸目の主と、金色の毛並みに、実際に生きたバスの様な体格に大きなねこの顔と、猫の尻尾、そして複数の足。突如、現れた神秘のソレ。トトロは希美がポカーンとしている間に、トトロは二人に別れを告げるように、もこもこした手で二人を撫でて、ネコバスに乗り込み、風のように何処かに去り、それを見やった。
 一瞬、幻だと思った。
 「そう、だよね……」 
 しかし、それが見えた。
 現に、トトロもネコバスも自分達を祝福するように、そこにいた。
 そして別れ際に頭を撫でられた感触が確かに残っている。万華鏡のように鮮やかな笑顔で、秘密を共有できた喜びを隠せない、これ以上にない程の満面の笑みを鎧塚みぞれは浮かべて最愛の傘木希美に告げた。
 「希美と共有、出来た。」
 そして希美は今まで嫉妬していた感情は何だったのだろうと、いつの間にか胸の中に渦巻いていた痛みは見えてしまったものが見えてしまったモノのせいか、いつの間にか取り払われていた。
 子供のころにしか見ることのできない存在を、こうして見ることが出来るというのは……再度、此方にやってきて踵を返すように走り去っていったトトロたちを見送った。ネコバス達が去ったことで発生した強風が特徴的な希美のポニーテールと、みぞれの青のかかった黒髪が揺れている。
 「希美もみぞれも、何、見てんの?なんかあった?」
 「トトロとネコバス……」
 「は?」
 通りすがりの夏紀と優子はぽかんと口を開けたままだった。

| 適度なSS(黒歴史置場?) | 00:00 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

紫色の意味するモノ

童心と百合は、必ずしも矛盾しない!(クワッ)私も薄汚れた大人になる前にトトロや猫バスに会いたかったよ…

※以後本文から逸脱したコメントになります
リズと青い鳥では最後の方に赤色と青色が混ざりあって紫色になるイメージシーンがありました。
少女☆歌劇 レヴュースタァライトの最終話でも最後に映し出されたポジションゼロの色は紫色になっています。
アイカツフレンズ28話ではピュアパレットが互いにハートの片割れペンダントを手にするのですが、その中央部はクリア素材になっており組み合わせると紫色になるという仕掛けが。
この偶然とは思えないシンクロニシティに、軽く戦慄したのでした。

| kwai | 2018/10/23 01:04 | URL |

kwai さんへ

トトロも、ねこばすも、きっと見える筈・……

そんな感じで、やっぱり、あれですかね。
百合では紫がブームのような、そういう感じがします。
混ざり合うことで、それは神秘的なものになるという……・
そういう感じがしないでもないです。
思えば、姫子と千歌音の色も混ざり合えば紫ですから、あの時から約束されていたようにも思えます。

| 月 | 2018/10/23 16:49 | URL |















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