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マクロスLily Episode.1「REMENBER KISS」

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第1話ー本格始動ー


 「いつも、あの子は、何か言ってましたか?」
 「自分は器でしかなくて、ファンが求めているのは自分じゃないんだろうな。って……」
 娘が消えた。
 無駄に広いリビングの一室で、そんな報告を受けた二人は、来るべき時が来た。と、でも言うかのような顔をしていた。全て、このことが解っていたかのような顔だった。「あの子らしいかな。」と、微笑を浮かべながら最初に口にした。
 既に、今回の事件の顛末が解っているかのような、そんな口ぶりだった。
 ランカスターは秋の姿になり始めて紅葉が星々の大地を埋め尽くし始めていた。これから寒くなる季節に入る。そうして変わりゆく季節を感じていれば、いつの間にか、何人かの娘は、この家から巣立つ。そして年月がたてば世界も変わる。世界が変われば、アイドルグループの数が増えて、この星に住む伝説と呼ばれた二人以外にも数々の逸材は世界に増えている。
 未だに溢れる芸能弾圧も新たなスポンサーを得て、未だに存続中。と、でも言ったところか。そうして、対立の図は泥沼化しながら続いている。あれから、奇跡を起こしたと言うのに人と言うのは人の黒い欲望で出来上がった組織の寝元は奇跡一つで変わるものではない。
 だから、今でも、この状態は続いていた。とはいえ、局面は変わってきた。しかし、人数も減れば過激なことをする人間も増える。
 「お話は解りました。」
 そんな世界、そして芸能弾圧反対派の本拠地と言える、ゾディアックの本拠地であるランカスターの園家邸宅に住んでいる、この物語を司る登場人物の両親が住んでいる場所である。そこに本来、いない人物、来客がいる。
 「今日はランカスターで、乃木坂0046のライブ……命の姿が見られるとは思ったのだけれど。」
 「やっぱり、何処かに行ってしまったのね。」
 落ち着いた様子で娘一人の消失を受け入れている二人の女性。赤い髪と青い髪が特徴的な、その二人は数十年以上も前のことではあるがAKB0048に所属していた時、トップアイドルの地位をほしいままにし、さらにツインセンターノヴァと言う名を与えられた二人のアイドルが、そこにいる。
 園智恵理と園凪沙。
 今では、この世界を代表するおしどり夫婦として、この世界に君臨している。3人の子供をもうけて、二人の娘はAKB0048で現在も活躍中であり、もう一人は乃木坂0046に所属していた。
 「その、かつての0048に所属していたお二人が見ていた、その世界のことなのかと。」
 焦りを感じていない二人の女の姿に黒のスーツを身に纏う女は不審に思う。自分の娘が消えたのだ。愛しているのなら、普通なら、血の毛が引いてしまうのに、この二人は、心配していないように見えるのだ
 「だって、わかっちゃうから。本当に恐いことがある時や、嫌なことがあったら、その時、本当に帰ってくる。」
 超常現象、オカルト的な要素は、この世界に入ってから生ける伝説と呼べる二人がアイドル現役時代、かなりの奇跡と呼べることを起こしてきた。それを目の前で見てしまえば信じられるが、この現役を引退した今でも一種の千里眼に近い事をやってのけていることに驚く。この二人の発言を聞いていると、全てが穏便にすんでいると言うことのように聞こえた。
 「それでも心配じゃ、無いんですか?」
 「解っているから。」
 だから、今は大丈夫。
 その気になれば自分で帰ってくる。
 ただただ、二人は笑顔で応えた。
 「乃木坂0046、初めてのランカスターのライブの中でも、命は……やる気を感じられませんでした……」
 かつての地球に存在していたAKB48の公式ライバルと言う名の乃木坂46が、最近、この世界で復活した。その現代によみがえった乃木坂0046に所属していた3人目の娘、園命。2代目齋藤飛鳥を襲名した。とはいえ、それを疎ましく感じていたが。
 「消えたことは感じていたよ。」
 下手をすれば、乃木坂のメンバーは、当然、そういう事態については初めてであるが故に、その異常事態に、何も出来なかった。ランカスターでのライブの時だった。命のキララから二人のキララを通して、命自身の思念を感じ取った。3人目の娘が、この世界ではなく、別の場所に旅立ち、そして、かつての世界で知り合った、とある人間と一緒にいる。と、言うことを。
 「あの還れない世界には、まだ行っていません。」
 まだ、あの世界に行っていないことを断言する。
 寧ろ、別世界、自分たちと同じ大地と大空がある世界にいる。そして、良く知っている人物と一緒にいる。そのことを口にした。
 「その、正直、お嬢さんのこと心配にならないんですか?」
 「だって、感じるから。あの子は自分で無事だ。って言ってる。」
 「まだ、概念的なものにはなっていないと?」
 「だから、何度もそう言っているでしょう?」
 そうなのだから、そうとしか言いようがない。
 二人は口をそろえて、そう答えた。
 「解るから。」
 だが、それでも信じられない人間はいる。奇跡を見ても信じない人がいるように。ただ、同じ年代の少女ならば、そんな物を見てしまえばトラウマになってしまう物なのかもしれない。
 「でも……」
 今、本当に一番、彼女に会いたい人。元の世界でも齋藤飛鳥のパートナーだったからこそ、不満と不安が入り混じった声をあげてしまった。子犬のように震えながら、今にも泣きそうに声で訴えてくる。
 「あしゅに、会いたいんです……そんな言葉だけじゃ!!」
 2代目橋本奈々未が今にも泣きそうな消え入りそうな声で本心を話す。とにかく、まだ、光の概念になってはいない。と、言うことに安心しきれない、同時に世界にいないことは変わりない。だからこそ、不安になってしまう。親友、いや、それ以上に娘のことを思っているのだろうか。智恵理と凪沙は、この子が自分の娘を愛していることに気づく。そして、まだ、付き合う前であると言うことも。 「自分と言う物を強く抱いている子だったからね。」
 「大丈夫。あの子はたぶん、戻ってくるよ。」
 確かなものが、二人の中にはあった。何となく、と、言うわけではない。先も言ったようにキララが、それを伝えてくれるからだ。今のところ、そう言った物は伝えられていない。しかし、仮にピンチの状態になったとしても救いに行けないことは事実ではあるが、そこら辺は大丈夫だ。と、言える確たる自信が、二人の中にある。
 しかし、2代目橋本奈々未である一条流歌は、それが解らない。
 「でも!もし、今いる世界で!命が……」
 崩れそうな声だった。その先のことを想像することを恐れるような。目の前の生きる伝説を目にしても、それでも食い付くように言葉を紡いだのは、橋本奈々未・流歌が初めてかもしれない。
 「それでも生きてる。」
 「キララが、そう教えてくれるから。」
 園凪沙と園智恵理の周りを飛び回っている二つのキララと呼ばれる光情報思念体から報告は流れてくる。概念では無い、あの世界にいる。それは、かつて凪沙と智恵理が銀河を震わせた男と出会った場所でもあった。
 「そして、あの子は今、熱気バサラといるから。」
 その名前を口にして目の前にいる二人は怪訝な顔を浮かべた。当然だ。誰も知らないのだから。それでも二人は知っている。しかし、嘘を言っているようにも思えない。2代目松村沙友理は、そんな大切な友人の両親の言葉に苦虫を潰したような顔を浮かべていた。
 しかし、二人が手を重ねながら穏やかな顔を浮かべる二人の顔を見てしまうと、何も言えなかった。


 「残念だけど、私のママの名前は園凪沙と園智恵理って言うんだよ。」
 一条輝とリン・ミンメイの隠し子か。熱気バサラの隠し子か。それとも、転生したリン・ミンメイなのか。
 「ゴシップは、こういうの好きだよね。」
 拾った新聞を見ながら、こういうケースは自分達の星と変わらないと、そういうことを客観的に思ってしまう。よくも、勝手に、ゴシップは、こういうのを書くものだ。その特徴的な青い髪を見て、そう口にする人は多い。ただ、残念ながら、そういうわけでもない。ストレートロングの青い髪を揺らしながら、その世界に舞い降りたときは、誰もがそう口にした。
 青い髪は片方の母親譲りで、それはそれで仕方の無い気もする。ただ、「誰かの代わりと言うのよりかはマシかな。まだ、私として見てくれているような気がする。」あの世界に置いて、自分と言う自分は、どういう存在だったのか、嫌でも忘れられない。
 しかし、ここでは、誰かの完全なる代わりとして見られることはない。だから、向こうで本来、唄われていない歌を唄えば。
 「貴女の歌、すっごい良かった。」
 こう言われることもある。
 自分で作った大事な歌とでも言うべきか。熱気バサラのYF-29改の軽いメンテナンスを行っていた時に出会った少女に、そう言われたことを思い出す。
 「ホントに?」
 「うん!」
 この少女も、後にワルキューレなるアイドルユニットで歌を唄うアイドルになるとは思わなかったが。
 ただ、素直に自分の歌を評価してくれることが、何処か嬉しかった。
  しかし、そう褒められても命の心は常にバサラと最初に出会ったときの言葉と、そして一つの言葉が突き刺さる。
 「貴女の歌には感じない。美しい空想や純な情緒を傷つけないでこれを優しく育むような、豊かさが。奪ってしまった。そして野心だけは確かに残って、貴女望んだ未知の周りにあった物が閉ざされた世界。」
 「なんていうか、歌ってる時だけ生気を感じないんだよね。上手いのに。」
 それは、前に……二人の女性から言われた言葉が引っかかる。怪訝たる顔を浮かべつつも、どこか、自分の中にいる静かなバケモノと呼び、軽蔑する存在のことを見透かしているかのような、そういう言葉。


 「シェリル・ノーム、ランカ・リー堂々の恋人宣言……優柔不断二股パイロット男はポイ捨て……」
 灼熱の太陽なんてわけにはいかないが、暖かさと寒さが少し共存したかのような心地よい気温に住み心地を覚え、その心地よさはベッドの上で心地よく寝ている時のような気分になる。
 「あの世界じゃ、私は器。」
 気づけば、この世界にいた。望んでしまったから、ここにいるのかもしれない。
 「でも、何処にいようと私は私。私が生きていられる限り、ここは、ずっと私の居場所。」
 子供のころ、何かのドラマで見た受け売りではあるが、だから見知らぬ世界でも、それが強く出来る。現実を受け入れつつ、なお理想を望む。
 「どこにいようとも、その場所で、自分が本当に好きだと思える自分を目指すんだ。」
 その思いが更に強くなった。
 元より、あるべき環境と言うものに不満を持ってしまうのは仕方のないことだとして、その不満からの逃避に努力をする。と、言うのは当然のことだが、努力だけでどうにかならない不満と言うのはやはりある。
「だから、あなたは出てこなくていい。」
 厳しくも優しく教えてくれた母のレッスンは好きだった。それは、最初のころ、培った技術は発揮されたはずではあったのだが、いつの間にか、そうならなくなった。何かが欠落して、いつの間にか生気のない歌と解る人間には解ってしまう。バサラも、それに対しては気づいてはいるようだが、あえて教えてくれない。教えても意味が無いモノだと伝えられているから。
 日常において心の内に訴える言葉は受け入れられたのか、静かなバケモノは出てこなくなる。それは、それでありがたいのだが、襲名メンバーのオリジナルの魂が抜けても、静かなバケモノは、ただただ残っている。唄う時だけに出てくる、望まぬ存在が自分の中にいる。自分で唄いたいというのに、どうも、唄うことを許してはくれなさそうだ。
 その世界を選んでしまったが故の不幸なのか。次第に現実と理想の乖離性が広がって、襲名してからは、どうも身が入らない。アイドルになりたかったのは事実。そうして不満しか無かった世界の中で、自分の実力だけで試せる、ある意味では地獄と理想が共存する別世界に入ってしまえば人とは、望んでいれば、それだけで家族やら、かつての仲間のことは片隅にとどめておいて楽しめる生物のようだ。とはいえ、今の現状は地獄であるというのも受け入れてはいる。
 それが、前に出会った二人の女の言葉に右往左往している自分だ。
 「これから、どうなるんだろ。結局、向こうと此処で同じことしてる気がする。」
 少女は、そのような念を抱いて締まったがゆえに、この世界にきてしまったのかもしれない。だが、あの元の世界のステージは一度実感してみればわかる。自分が、そこにいない。求められているのは自分ではなく、自分と言う名の他人の魂を降臨させるための器なのだ。そして、ここにも自分がいないと言われている。
 元の世界では、それを光栄と思う人間もいれば、そこに違和感を感じる人間もいる。自分と言う皮を被った過去の亡霊を望んでいるのだ。とはいえ、その過去の亡霊が力を貸す。と、言うのもあるのだろうが、ただ、自分は自分であり続けることの難しさ。過去の亡霊になりきらなければならないが故の煩わしさはどうにでもできるものではない。
 乃木坂やAKBが好きだからこそ新たな組織のメンバーとして己を、過去のメンバーよりも昇華させた存在になりたい。そう思う者達にとっては過酷な場所とも言えるだろう。そのためには、さらなる輝きを得られる存在になる必要がある。母や姉達は、自分以外の誰かになることに良しとしていた。だが、自分の思うことを受け入れて母たちも訓練してくれた。
 襲名等と言う己でありながら、誰かの魂と一つになることを良しとする。違和感を強く感じていた。昔から自我と言う物が強かったところもある。しかし、そうした自我のような物を得てしまった者達は、あの世界では取り残される。
 でも自分は自分でいたい。
 だからなのか、この世界に来てから、自分の中にいたもう一人の魂は帰っていった。彼女の中にいた世界は、そうして広がった気になった。
 「って、歌詞、間違えた。」
 園命はここにいる。
 かつて、巨人と戦争して歌で戦争を終わらせた宇宙。
 そんな歴史の勉強を多少しながら肩まで伸びた蒼い髪を揺らし、母である凪沙の血を受け継いだ幼い顔は間抜け面を浮かべていた。思うように事が進まないと、誰もがそうなってしまう。それは誰であろうと変わることは無い。別世界で最高のアイドルと呼ばれた二人の娘であろうともだ。
 「あー、もう、今日は気分が乗らない!!」
 曲を作るうえで一人になってしまったことからか余計な思考が入り込み、ただでさえ狭い空間、不快な快晴の天気の時、家にこもり切ってる時に感じる最悪の気怠さを纏った空気をコクピットの中で感じ、身体を伸ばし作業を止めた。
 今日は気分が乗らない。
 そのままの通りに曲を作る気になれず引きこもっていた場所から新鮮な空気を浴びるために慣れたように空間の中にあるスイッチを押してキャノピーをあげて、そのまま勢い良く外の世界に飛び出した。
 スカートが翻らないか心配になって股間を抑えつつ、誰も見ていないだろうか。と、心配になるが、そこに誰もいないことに安堵のため息を吐いた。改めて後ろに振り替える。そこにあるのは一機の派手なカラーの戦闘機。この戦闘機の本来の持ち主である男は戦闘目的では無い戦闘機。言われたことと言えば、このマシンにミサイル等と言う面倒な物は積んでいないと言う。
 それ以上に先ほどまで煮詰まっていたかのような頭痛によって不満な顔を浮かべていたが、外の空気を浴びたことで、それも多少は晴れた。
 全て、歌を聞かせるためのもの。そして、自分が音楽の作業をしていた物。少女が降りると同時に、クラゲのような生物が周りに飛び交う。
 「キララは変わりないね。」
 キララと呼ばれた物。
 アイドルのオーラに引き寄せられて、アイドルのオーラを感じて輝くライブの照明や「キララドライブ」と呼ばれるワープのエネルギー源となる。とは、言え、この世界で、ある程度の機能は無用の長物ではあるが。
 「あんたが望むもは、もう私の身体にはいないんだけどね。」
 ”それでも必要だ。”そういうことを言うかのように離れるのをやめようとはしない。
 「バサラー。」
 その戦闘機の本来の持ち主である命が名前を呼んだバサラの話しによると、レイ・ラブロックなる人物からバースデープレゼントとしてもらったYF-29と言う名の戦闘機らしい。
 戦闘機に脚が生えたような外見で、この付近に止まっている。ガウォークと言うらしいが、その外見は、まるで、ライブスーツと呼ばれたAKB0048ライブスーツを改良した乃木坂0046ライブスーツによく似ていた。燃えるような紅から、それを見た人は「バサラのファイヤーバルキリー」と言う。
 「ねぇ、バサラ。大規模な海賊が来るらしいよ?急いで、この星から出た方が良くない?」
 外の風を浴びながら首を鳴らし、思い切り体を伸ばす。気にしない素振りを見せながらも、流石に、その手の大規模集団との戦闘は味わっているし、その危険も良く解っているからこそ助言を与えるが、持ち主は笑顔を浮かべるだけ。いつも、この調子。海賊に歌を聞かせるつもりなのだろうとそういうことを思ったが、ここに待ち人が来るという。話を聞かずにギターを鳴らす。いつものバサラか。大海賊くらいでビビる存在ではないことくらいも知っている。だが、その海賊自体が危険すぎるから、色々と多感な年ごろは心配しているのだが。
 何も答えないバサラに溜息を吐きながら金色の瞳は空を見つめて、多少発育の良い胸が揺れる。その他の身体は健康そのものなんて言い方が相応しい。ミニスカートでシェリル・ノームの衣装を齧ったような私服を身につけて、外の空気と光を肉体に取り込んで暑い夏のような、この気候を肌で感じていた。多少暑いが外の世界の空気は新鮮だ。と、オヤジ臭いことを言いながら園命は住み渡る青空をつまらなさそうな顔で眺めていた。
 近くには都会と呼べる街が広がっている。まだ、発展途上、開発途中という言葉が相応しいが活気に溢れている。かつていた世界の乃木坂スターを思い出したり、しかし、それでいてクラシックな雰囲気もあり、そこは故郷のランカスターを思い出す。その街の郊外にマシンを置いて勝手に活動している。
 勝手の侵入やら、政府に関しては、それはどうなっているのか。と思ったが、熱気バサラと言う男の場合は、それ自体がすでにフリーパス状態になっているらしい。
 「ここで待ち合せちまったからな。」
 「誰よ……」
 「お前もよく知ってるよ。」
 命が、マシンの近くにいた髪が逆立ち、丸眼鏡をかけた長身の男と会話を始めた。それなりの年齢である筈なのに、全く、そう老けて見えないのは一体、どういうことなのだろうか。実質、活躍したのは、20年ほど前だと言うが、その顔は悪くて20代前半、良くて10代後半と言った、そういう顔つきで一向に老いと言うものを感じさせないほど若々しい。さらに、歌声はワイルドで、この世界の何よりも偉大な歌手の一人として称えられている。
 常に、どういう状況にいようとも毅然として歌を伝える姿勢は驚きと感動で満ちるほどで、どれだけ激しい場所にいても、突き進むかのような熱い歌声を伝えるほど、歌に対しては常に瞳をギラつかせてミサイルや弾丸が飛び交おうが、手にギターを持って毅然とした態度で常に相手に対して真剣に向き合い、大口を開けて全力で歌のだ。
 その顔からは可能性に挑戦する姿勢を常に崩さないと、言う部分が見て取れる。
 これから出会う相手を心待ちにして一緒にセッションすることに対して胸を躍らせているのが良く解る。バサラと呼ばれた男は、そうして己と言う物を通す。
 「そうだったの?」
 「おう。」
 初めて、そんなことを聞いた。
 そんな顔を命は浮かべた。
 蒼い髪の頭を優しく掻きながら、目の前の風景をボーっと見つめている。ここまで発展した星が、この世界にはあちこちにある。元の世界から考えてみると、そんなことは珍しい。芸能弾圧なんて愚かなことをしていた分、文明が発展しても鉄の軋む音と、それに対抗する昔の歌しか聞こえない。軍事と言う名の文明なんて言葉に蝕まれた機械を操る支配者達が宇宙に蔓延る、そんな世界だった。
 「凄い活気……良いな。」
 そういう世界に来たのは例のリゾートシティ以来だ。
 「ってか、知り合いが来るまではどうするのさ。」
 バサラの今回の目的は最近、この惑星でとある知り合いに出会うことらしいが、それだけのために、わざわざ、どうしてこの場所に来るのだろうかとも疑いの表情を向ければ「へっ」と、言いながら人に思考を読み取らせようとしない笑顔を浮かべる。いや、歌うつもりなのだろう。彼が歌を唄う理由は、それしかないのだから。
 新しい惑星も好きだし、そういう意味では、ここが、どういうものかわかっているのだろうか。見知らぬ惑星の住民だからこそ、そこの住民に自分の歌を聞かせたい。そういうのもあるのだろうが。
 覗き込んでも読み取れない表情にもやもやとしながら、バサラの流儀に乗ることにした。それでも、結構、純粋なのだ。歌うことは己の中にある何かを忘れさせ、よみがえらせるかもしれないから。
 別に知り合いにあうなら、そこで何かがあるわけでもない。それに、バサラが会いたがるほどの知り合いだ。どういう人なのかも気になってくる。
 「唄って過ごすのさ。」
 「唄って……か。」
 バサラが奏でるアコースティックギターが耳に響く。そうして行くうちに、街に住んでいる人達が二人を好奇の目で眺めている。
 「良い風……」
 ブワッと、風が吹き、少女の肌を包み込むように吹き荒れた。スカートはふわっと舞いあがり、下着が見えそうになって思わず、再び股間を抑えて下着が周りに見えないように抑えつけ、栄えていく街並みを眺めていた。
 歌が思うように作れないが故の出来事のせいで、ちょっと御機嫌は斜めな気分だったが、それすらも吹き飛んでいくような心地よい風だった。優しい旋律、風に身を任せる心地よさが命の気分をリフレッシュさせていた。
 その風に合わせたような繊細さがあるアコースティックギターの音が耳に響き、風に乗って命もバサラが奏でる曲に合わせて唄い出す。
 「さあ始まるぜ SATURDAY NIGHT」
 赤いバルキリーの隣に一人の少女が立ってバサラと歌を唄っている。
 園命。
 赤い色とは真逆の蒼い髪の少女。
 化粧をしない、生まれたまま美人に成長したような姿のまま、一重で整った顔立ちと白い肌。小さいながらも大きく開いた口から出る美しい歌声は人を魅了する。アイドルだっただけあって顔つきは誰もが足を止めてしまうほどと言っても良いだろう。伊達に前の世界でアイドルをやっていたわけではない。と、言うことが伺えた。
 それでいて、15年ほど前のFire Bomberの名曲を、そのメインボーカルである熱気バサラと一緒に唄っているのだから人を惹きつけない方がおかしいとも言えるが。Fire Bomber、世代を重ねるたびに曲が古くなり塗り替えられて溺れていく中で、その存在感のせいか、そこに宿る魂がそうさせるのか古さを感じない熱いビートを感じる曲が、この惑星の中枢を司るマクロス・リリィがよく見える郊外で流れる。
 人の喧騒が溢れる都市の郊外に赤いバルキリー。
 「うわ、ギャラリーがもう来てる……」
 「良いじゃねーか。聞かせてやろうぜ。あの姉ちゃんが最初の来客だ。」
 優しい笑顔を浮かべて止まることなくギターを鳴らす。
 「あー、あの人……」
 それでもとどまることなくバサラはギターを掻き鳴らし、園命は唄う。制約的なものがない歌は良い。ここで自分に何かを求める人はいないから、落ち着いて歌うことができる。
 「へぇ……ホントに来てるんだ。しかも、可愛いし。」
 最初に来たギャラリーこと、金髪ロングストレートでライダースーツを身に纏った女性が視界に入った。目があって女は命を見て頬を赤く染めながら笑う。何処か、獲物を見つけたような声色だが、歌っている最中には気づかない。心底、彼女に会いたくて仕方がなかったような、長年、会えなかった恋人に会えたような、そういう声色と表情が、妙に命の脳裏に焼きつき始めていた。
 命自身も、昔、一度、リゾート惑星で出会ったことがある。その美貌を持った女性を命自身も忘れることはできなかった。なぜなら、彼女が自分の歌に「生気が無い」と言った人間なのだから、忘れられるわけもない。
 此方の歌を聴いているだけと言うのに、その姿は妙に惹きつけられる。歌よりも自分を見ている。と、でも言うかのような、そんな顔を浮かべていた。
 「激しい雨音に立ちすくむ時は ギターをかき鳴らし心を鎮めよう。」
 ゆっくりと優雅に、しかし、グラビアアイドルのようにポーズをとりつつ、妖艶な座り方をして、最初の、この惑星でのお客様は命の顔を見つめながら、ただただ、少女の歌を聞いていた。時に一緒に口ずさむように歌いながら。
 (綺麗な人……一番、早く、ここに来たし。)
 露出狂がグラビアアイドルでもやっているのだろうか。そう思えるほどの露出だと、思ったが、真夏に近い、この惑星の雰囲気を感じ取ると、ああいう衣装になってしまうのも無理は無いのかもしれない。
  (何で、あの人、そんなに私を見て……)
 舐めまわすように、いや、官能的な視線を送るような表情に心を乱されそうになりながらも、歌に集中と言うよりも個人を見て楽しむタイプの人間なのだろうか。元の世界でも、そういう人物はいたからこそ、別に違和感はないが、どうせなら曲も楽しんでいけばいいのに。偏見的な見方で歌を続けていた。
 「横顔見ると思う あなたを好きと思う」
 バサラが突然、アコースティックギターの曲調をアイドル時代の曲に変えてきた。
 バサラは気紛れだ。
 そういう部分は長く旅をしてきた分、解ってはいるが。
 「これ、踊っちゃうんだけど……癖で。」
 気にせずに音を鳴らす。
 踊りながら安定して歌う姿に金髪の女性は言葉、そのままに見惚れていた。
 「可愛い……アイドル、やってたのかな?でも、あんな可愛い子だったら有名だろうし。」
 「とりあえず、バサラとは長くいるようですよ。旅して歌の修業をしているそうです。」
 集まるギャラリーの言葉を解り易く解説しながら金髪の女は、園命の声に芯から体内に入りこんで来る活力のような物を感じた。先ほどのバラード調から打って変ってのアイドル調に即座に対応でき、さらに踊りながら安定して歌う。聞いたことは無い歌ではあったが、それでも、楽しそうに歌って踊る命の姿を見ると、肉体が反応する。
 「顔立ちとか、ホント、可愛いよねぇ……」
 元気にしている。
 こちらに向ける作った表情は流石につまらないが、歌う前に見せた少女特有の顔の変化は好きだった。最近で言えば、シェリル・ノームや、ランカ・リーなんてのがいたが、この女にはどうもストライクにならなかった。生意気盛りと言うのも感じないし、かといってあざとさも感じないような、そういう誰かに媚びる気の無い雰囲気を漂わせている。
 そう行くとバサラを思い出す。バサラも誰にも媚びることなく自分の歌を伝えるために突き進んでいた。そういう部分から過去にバサラの歌をかじって聞いていた時のときめきを思い出す。
 暫くしてバサラと一緒に歩き渡る蒼い髪の少女の存在を知った。顔立ちの処女っぽさと言い、そういう部分が金髪の女をそそらせた。今回、真っ先に此処に来たのも赤いバルキリーが侵入した。そう言う報告があってのことだ。
 一度、バサラと、その隣にいる蒼い髪の少女の存在が気になった。一曲が終わり、ダンスの疲れが出たのか、少し地べたに尻を付けて休み始めた。バサラは適当に曲を奏でている。バルキリーが出てきて、いきなり歌って、コンディションを整えず歌ったのだから疲れない訳がなかった。よろっと、したところで目があって女が命に声をかけた。
 「パフォーマンスとか、そういうのは素晴らしいのに相変わらず生気のない歌ね。でも、前向きだ。」
 「ありがとうございます。やっぱり、貴女でしたね。」
 強がりを言いつつもアイドルとして満面の笑みで自分の曲の感想を受け止めて言葉で返す。相も変わらず、この人の感想は。と、言いつつも、前にリゾート惑星で出会ったときにも、そういう感想を言われた。お陰で、自分の歌に対する答えと言うのを探す切欠にはなったのではあるが。
 「まだ、見つけてないようね。」
 「そう、ですね。」
 金髪の女自身、まっすぐに感想を伝えてはいるし、悪意が無いことも解ってはいるのだが、それを克服する手立てが無いからこそ、多感な少女はムスッとした顔を、つい浮かべてしまう。
 (そういう表情も可愛いなー……)
 夏風に煽られて、額から汗を流している姿が10代の少女と言うことを感じさせた。汗は頬を蔦って、そのまま、地面に落ち、すぐに大地に溶け込んだ。
 熱にやられたのか一瞬、瞳が蕩けた感じになったが、すぐに持ち直す。熱い吐息が女にかかってきそうなほどに息を吐いて、少し距離を取ってからバルキリーのコクピットの中にあるペットボトルの水を取りだしてバサラに、もう一本投げてから地面に座り込んで口にする。喉を鳴らす姿まで、思わず凝視してしまう。唇にペットボトルを付けて、そのまま中の水が命の体内に吸収されていく姿をゆっくり見ていたし、それすらも官能的に見えてしまう。
 「どうして、バサラと旅を?」
 「母の知り合いなので。」
 「お母さんの……?」
 「はい。」
 バサラの知り合いの女性と言えば、即座にFire Bomberのメンバーであるミレーヌ・ジーナスが思い浮かぶが、そうでは無いようにもみえる。長く旅をしていると、そういう知り合いも増えてくる物なのかもしれないと漠然と考えながら、そんなことよりも目の前の美少女に手を触れたくなる。
 「さぁて、もう一曲、行きますか。」
 「頑張れー命ちゃん。」
 「何で、名前、知ってるんですか?!」
 「可愛い女の子の名前は覚えるよ。」
 命は金髪の女性との会話を切り上げて立ち上がってから尻についた土を払い、バサラが奏でる歌を唄い始める。
 「熱気バサラじゃないか?あれ。」
 お世辞抜きに美人と普通に言える少女と往年の人気アーティストの唄う姿を見て、誰もが足を止める。
 「最近、青い髪の女の子と一緒に旅をしている。って言う噂だけど。」
 随分と有名になったものだ。しかし、それは自分だけでなくバサラと一緒にいるからだろうと自己分析する。
 バサラは、余程、この世界で有名なのだ。
 そう、思わせる出来事を何度もしている。
 今回の、このギャラリーの会話を含めて、如何に凄い人物なのか。そう言うのを解らせる。
 気づけば、この世界の週刊誌等はバサラの娘……と、まで言われるほどだ。気分によって熱気バサラがアコースティックギターを掻き鳴らし、その音楽に合わせて少女が唄う。熱気バサラが何をアコースティックギターで奏でるかは、いつも、気分しだい。気分でバサラが唄うときはデュエットになるし、バサラがギターを掻き鳴らすだけの時は少女のソロになる。
 「間違いないよ。写真もあるし。」
 惑星アリアと名付けられた、この場所にマクロス・リリィ船団が降り立った人の住む未開拓惑星、既に降り立って、数年経って、惑星には都市が出来あがっていた。首都シティ・リリィを主軸として広がりを見せる惑星アリア。幸いにもハグレゼントラーディ、プロトデビルン、バジュラの群れなどに遭遇することもなく、ただの略奪集団には遭遇したが、SMSマクロス・リリィ支社によって無事に解決して、この惑星に辿りついた。それは運が良いのだろう。
 とはいえ、これから、この世界が未来永劫平和であるとは限らない。その不安の種は、この惑星に宇宙の彼方から忍びよっていた。全ての住民が安らかに暮らせる。そう思った時に、この惑星やマクロス・リリィの資源は装備を狙う宇宙海賊がやってきた。と、言うことだ。
 共通している事は全員、女であると言う。冷酷無比と、そんな物騒な言葉が飛び交い始めた。相手が女だからということで安全かと思えば、そういうこともない。油断していれば、あの世に一直線。
 「バサラって、昔、メルトランのはぐれゼントラーディ艦隊に歌を聞かせて全てを解決させたんだよね?」
 「まぁな。」
 そう言えば、そんなこともあった。なんて言葉を吐きだすようにバサラは言う。真相は必ず話してくれないし、この「まぁな」なんていう時の台詞は、その通りだ。そもそもバサラと口論するのは無駄だし理屈は通じないとミレーヌ・ジーナスから教えてもらっているし、こういう返事になると、ある程度、軽い相槌をするのは、この生活の慣れから来るものだろう。
 「ノリが良い奴らだったぜ。」
 「ノリか。」
 過去の話は、それなりに聞いてみれば教えてくれた。ドラマのような出来事だ。傍目から見れば多いとは思ったが、命の二人の母の起こしたスペクタクルな物を現実に見てしまえば、その話にも説得力が出てくる。更に、バサラの名前を出せば、周りのギャラリーがこうして集まってくるのも、その過去の栄光を如実に表している。
 「ここに来ると思い出すまだ夢ばかり見ていた頃を星からたなびく風が俺を昨日へとさらってく。」
 曲調を変えて命が、それに対応して歌い出す。気づけば、バルキリーの周りを人が過去って、その歌を静かに聞いている。まるで、これから宇宙海賊が攻めてくるなどと言う雰囲気とは無縁であるかのようだ。
 「派手なブルーの空、笑顔を映す君 2人で描いた1000年先の未来」
 その宇宙海賊たちは過去に巨人たちの戦争を終わらせたようにメルトランの宇宙海賊たちに文化的な攻撃を仕掛けたが、録音とはいえシェリル・ノーム、ランカ・リーの歌は通じることは無かった。そうして気づけば半壊にまで追い込み、資源や人材を奪って修復すれば、またやってくる。
 バジュラや、プロトデビルンのような世界を震撼させるほどの脅威は無いものの、脅威であることは確かだし、迷惑であることは間違いない。バサラの目的は、ここで、知り合いに出会うついでに、その宇宙海賊たちに歌を聞かせることである。
 「まだ忘れたわけじゃないんだぜあの時の約束を。」
 マクロス・リリィとて、そういう軍事組織が無いわけではない。
 全マクロス船団、余程のことが無い限り崩壊とは無縁な強大な軍事力がある。まずは民間軍事会社S.M.S、マクロス・リリィに駐留する民間軍事プロバイダー、Strategic Military Servicesがあり、そして元来のマクロス・リリィのバルキリーがある。だが、その二つの組織を手玉に取るほど相手の戦力は底知れず。下手をすればマクロス艦隊が壊滅状態になる。と、そういう噂もある。
 報告は不確かだが、SMSが潰されたり、その技術者が宇宙海賊に技術や情報を撃ったりなど、そういうことも普通にあるのだ。
 バサラからすれば、そういう連中こそ歌を聞かせたくなるらしく、巨大な戦力以上に爆発力のある歌を聞かせるために、今まで、そういうことを繰り返してきたらしい。だが、この世界に来たのは友人に会うためで、そういうのは全くの偶然だったというが。
 REMEMBER16が終わった後に、今度は命が作った歌をバサラがギターで弾いて唄い始める。しかし、このステージを含め、今まで、命の頭上を飛び交うキララが輝くことは無かった。それが、どういうことなのかは知っている。まさに、まだ、自分の歌には生気が無いのだ。
 知らない人は、立ち止まりリズムを取るが、先ほどの金髪の女性は、ただ厳しい顔で見つめるだけ。
 「戦力以上に爆発力のある歌……か。」
 ただ園命は、その言葉を信じている。熱気バサラと言う男は、それが出来る存在。2曲、弾き終わり、満足した顔でバサラは立ち上がる。そういったものを見てくると、自分の抱いていた野心は、まだまだ小さいとも思わせるし、ある種、そういった野心を捨てたからこそ、母たちもアキバスターの防衛でバサラのような奇跡を起こせたのではないのか。こういうことを考える。
 曲を歌い終わり、バサラがどこかへ歩き出す。まだ、友人と会う時間ではないのだろうか。とにかく、その行動は命はもちろん、ミレーヌ・ジーナスを持っても理解できない。だが、いざとなれば駆けつける。
 「散歩?」
 「あぁ。」
 「んじゃ、私も今晩の御飯、買いに行って来るね。」
 「頼んだ。」
 気づけば、この世界の通貨が二人の周りに散らばっていた。
 乞食のようなスタイルで、それを拾い上げてバルキリーが奪われないようにロックをかけて街に入る。意図して、こういうことを行っているわけではない。自然と、そうなる。歌が終わればギャラリーがコインや、紙幣を落として、そして気づけば去っていく。宇宙的アーティストの路上ライブと言うだけで、ありがたいのだろう。
 「良い歌だったわ。」
 「え……?」
 太陽に輝きながら心地よく吹き、緩やかに黒髪が桃色のメッシュとともに揺れる。
 少し垂れた一重の奥にある赤い目は血に塗れたかのような、それとも恋心に満ちたかのような淡い赤を映し出しおり、ぷっくりとした桃色の唇、鼻筋は良く通り、こんな場所にいなければモデルでもしていただろう少し焼けた褐色肌と大きな乳房と不釣り合いなくびれのアンバランスさが淫靡だ。乳房にはぷっくりと乳輪が浮き出ており、うっすらと桃色の乳輪が見えるし先端にある乳頭は淡い桃色で甘さがにじみ出ている。
 露出の高い衣装と、ここでは、そういう人間が多いのか。バストは軽く100を超えているだろうかと、そんな無粋なことを考えてしまうほどに、下乳が少し、はみ出ているようにも見えた。それでいて、どこか、高貴な雰囲気を醸し出しているのは、その身にある美しさがそうさせているのだろうか。
 考えつつも、思わず、さっきのライダースーツを身にまとった女性と同等かと、ついつい、比べてしまう。そして、この人も知っている。かつて、リゾート惑星で話しかけて自分の歌に辛口な感想を告げた人だ。
 だが、そういう感想を投げられて、不思議と嫌いにはなれない。寧ろ、バカ正直に褒めるよりも、ちゃんと悪い部分や、そういうことを告げてくれる人に対して、妙にちゃんと自分を見てくれていると思ってしまうのか、惹かれてしまうような錯覚を、この肉体は覚えている。甘やかして評価される世界と、的外れな批判の世界にいたからこそ、こういう二人の意見と言うのはありがたいし、どうも、この二人は忘れられず気になってくる。
 この感情は、どういうものなのだろうと、キララを通して伝わってくる自分への思いは熱く彩られてくる。
 「ありがとうございます。」
 その姿には見とれてしまうほどの強い毒気のようなものがあった。
 命の表情が硬くなり、思わず背けたくなったが、それを許そうとしない眼力があった。
 「この前も言ったけど私といっしょに来る気はない?私、あなたのこと気に入ったの。そうね、私の華嫁に。」
 「え、あ、それは……」
 歌を褒められたこともあるが、どうも、前にも言われたけど、それどころではないし、この人についていくと歌どころではなくなる気がする。しかし、今日にいたっては、それ以上に歌だけで求婚されるとは思わなかった。ただ、この人についていきたい一つの理由に今の自分のどこが駄目なのかを知っている。それを命自身が直感的に理解しているからこそ気になる。
 「お戯れを……」
 「あら、嘘ではなくってよ?」
 頬を紅く染めながら色気を感じさせる目線を送り付ける。じわりとしてしまう己の体に驚きつつ、心臓の鼓動が激しくなったのを覚えた。
 「お姉さん、お名前は……」
 「美月。美月・イルマよ。」
 「美月……さん……」
 そっと、頬に掌が当たる。暖かかった。猫にでもなかったかのように命は、その手に触れた。心地の良い体の痺れに包まれる。眠りたくなるような、この人に抱かれて寝れば良い夢が見られるとでも思えるほどには。とはいえ、先ほどのプロポーズにはさすがに驚くが。
 「ミオンさん、もうちょ……」
 もうちょっと話がしたい。
 何故か、わからないが、何か話せば楽しいかもしれないと稚拙な考えが、そう告げる。居心地のようなものが何か違う。そんな暖かさのようなものに触れていたい。所謂、高嶺の花のようでありながら、それを鼻にかけることなく威圧的な雰囲気すらも出さずに接してくる。仕事をしている時の二人の母のようにも思えた。
 一目惚れは安易とは言うが、心奪われそうにもなる。身体が熱くなる。言葉を発することを忘れてしまいそうだ。蹲って寝てしまいたい。この人に抱かれても良いとすら。
 (なに、考えてんだろ……)
 そう思わせるほどの美貌を持っていた。ただ、魅了されてしまっているのだろうというのは体の反応でわかる。そう思った時だった。美月が端末を取り出して時計を見た。
 「そうそう、早く、この町から離れなさい。」
 「え、美月さん?」
 美月は命の頭を撫でてから、この場所から離れた。もっと、話したかった。魂が抜けるよう何かを感じつつ、その背中を、命は自然と見送っていることに気づく。そう思った矢先には既に視界から消えていた。ある程度のライブの拝聴代を残して。
 「買い物、行かなきゃ。」
 「買い物なら一緒に行かない?」
 「え、はい?」
 突然、声を掛けられて振り返れば金髪ロング、ストレートの女性がそこにいた。黒いライダースーツのような物を身に纏う姿はセクシーと言う言葉が、これほど相応しい女性もいないだろう。胸元が妙にはだけているし、嫌でも、白い肌に合わせた大きな乳房に目がいきそうになる。見事に発達したスタイルとくびれと、威圧的と言うわけでもなく、軽やかで優しく流れる清水のような声は思わず身を委ねたくなるような声質は、その妖艶さに磨きをかけていた。 年齢相応と言うべき、その大人の女と言う雰囲気を感じさせる。大人な外見の顔つきは人の心を見た目だけで落としてしまいそうだ。
 「あ、そう言えば、貴女は最初に来てくれたお客さん。」
 命の歌を聞いていたギャラリーの中で、一番最初に来た金髪の女性がいたのを思い出す。どうも、さっきの人に意識を引っ張られつつあるようだと、目の前の人の顔を見つめた。この人も、この人で、美月と似たような感じがある。
 「命に興味を抱いてね。」
 (うわー、綺麗な人……)
 まがりなりにもアイドルをやっていた自分の自信すら無くしてしまいそうだ。先ほどの女性も含めて。
 「まったく、いきなりプロポーズなんていやな女ね。」
 「そう、ですかね。」
 悪い気分ではなかった。と、言う部分を付け加えながらも、その女性の姿を見て自信を失いそうになる。いるところにはいるのだ。自分より綺麗な人間など。この世界には何人もいる。
 「はぁ……」
 思わずため息も出る。
 「一緒にどうかな?デートとか。」
 「え、と、お客様なのは嬉しいけど、その……貴女が誰なのか解らないまま付き合うのも、ちょっと。名前も知らないですし。私は、その、あの惑星の時から覚えていますけど。」
 そう言えば、この人に名前を名乗ったけど、この人は名乗っていない。なんて、どうでも良いことを思い出す。
 「そう?私は陽美・マリアフォキナ・フォミュラ・ジーナス。SMSに所属しているパイロットよ。」
 すぐさま、名前を名乗り、そして、その証を掲示した。
 「陽美さん?」
 「えぇ。」
 よく、知らないが、これさえあれば、なんてものになるらしい。特徴的なキリッとした一重の奥から覗く青い瞳が心の奥底まで見透かすように見つめてくる。ただ、キララは、このアイリと名乗る女性に淫らなものを感じてはいないのか警戒をする色は出していない。とりあえずは信用できる相手のようだ。そういうことは解った。
 「私は名乗ったよ。君の名前は?知ってるけどさ。」
 「私、園命です。って、さっきも名乗りました。」
 「今どき、生粋の日本名なんて珍しい……」
 改めて、その名前を聞いて純粋に驚いた表情を見せた。確かに、地球なんて遥か彼方の母星になってしまった今では、そういうことも珍しくは無いだろう。と、妙に納得してしまう。それに関しては、自分たちの元いた世界もそうなのだが。とはいえ、珍しく日本人が多かったのか、全員、髪の色はともかく和名だったことを思い出す。
 「熱気……じゃ、無いんだ。」
 「バサラの娘じゃないですから。」
 一緒にいるから間違えられるが、そうではない。血はつながっていないことを何度も言う。顔も、そんなに似てない。と、言うが母親が隣にいない。しかも、本当の母親は別世界にいる。って言っても、信じてもらえないかもしれない。
 そもそも、バサラからすれば熱気バサラが本名なのかすらわからないし、そんな人間と一緒にいるのだ。誰もが気になることではあるだろう。
 「ところで、私は話相手に足る信用を得たのかな?」
 「そうでなくても、こっちが嫌だ。って言っても話すんですよね?」
 「まぁ、そうね。」
 (強引だ。)
 正直に言えば、こういうタイプの人間は苦手ではないものの、少し、煩わしさが生まれてくるはずなのに、どうも、それがわいてこないのは自分の中で不思議だ。なぜ、こういう風にも、この人の前ではなってしまうのか、下手をすれば唇まで許してしまいそう。とりあえず、何かあればキララが何かするが。
 「それで……」
 から、始まった会話は長く、他愛のない世間話が続いた。深いところには入りこんでこないし、それはそれで、此方に気を使っているのだろう。ただただ、自分に興味があるような眼だ。自分を知りたがっている。それだけ。
 何となくだが、乃木坂0046に所属していた時に何かと一緒にいたことのあった松村沙友理と似ていた。悪い気持ではない。久しぶりにバサラ以外の人と長話したことで、インスピレーションみたいなものが湧いてくる。何処となく、楽しい。この人は、そういう会話が得意なんだ。と顔を見ながら思っていた。
 「可愛いね。」
 「何がです?」
 「命の全部。」
 何故か良く解らないが楽しい。なんて思っていた矢先に、この発言だ。
 「一目惚れだよ。命の歌を聞いた時から。」
 前言撤回をしながら、この人の目的はなんだろう。なんて考えていた。ちらちら、横を見るが、いまいち、それがつかめない。これが忘れていた他人と会話をするということなのだろう。思えば同性と話したことすら最近は無かった。
 「怖い?」
 「そりゃ、そうですよ。」
 「突然、そんなことをあけっぴろげに言われれば警戒もしたくります……」
 程度の低いナンパにも程がある。
 「でも、君は私と同じだと思うけどなー。」
 「ま、まぁ、女の子も恋愛対象にはなりますけど……」
 「どんな人でも会ったばかりの人は……ありえませんから。」
 「前に、会ったけどね。」
 それが当然と言うものではないか。と、でも言うようにしたが陽美は首を傾げている。何を言っているのか。そういう顔でもある。恋愛の考えが通用しないのだろう。当然、多くの人とはバサラとの旅で色々と接してきた。だが、陽美のような女は今まで、出会ったことがないのだ。いや、例外がいるなら美月という女か。
 「後、バサラは君の恋人……」
 「それもありえません。バサラは私の先生ですから。」
 「先生……?」
 理由を聞こうとした、その時だった。
 その耳に不快なほどマクロス・リリィから侵略者が攻め込んできたことを表わすサイレンが鳴ったのは。
 「命!早くシェルターに向かって!」
 不快とも言える音。
 陽美の顔は、先ほどの軟派な人間ではなく、すでに毅然とした職業軍人としての遺伝子が蠢いていた。
 しかし、その不快さゆえに、今から行われる行為の重さを物語っていた気がした。
 「私は、行かなきゃいけないから。」
 海賊の襲撃に合わせてアイリはシェルターの場所を教えてSMSの本部に向かう。
 (あぁ、もう……あの子の唇、奪いたかったのに……)
 それとは逆に住民たちが近くのシェルターに逃げ始める。敵が実態を表した。ゼントラン制のパワードスーツに、鹵獲されたバルキリーまで、突然、その場から現れたようだった。マクロス・リリィの管制システムならば、すでに気づいているはずだ。それなのに気づくことなく、忍者のように突如、出現したというのだから。正規軍や所属しているSMSの怠慢さに苛立ちを陽美は覚えていた。  「誰も、この異常事態に気づかなかったわけ?!」
 近くに止めていたバイクを駆り、急ぎ格納庫に向かう。
 「それは、気づけなかった私も同じことか……」
 すでに正規軍とSMSはスクランブルに入っていた。自分のマシンはすでにいつでも発進できる状態に入っているという通信を受け取り、制限速度を軽くオーバーして、格納庫に入り込んだ。
 「やばいじゃん……」
 敵がビームのようなものを発した時、地面が抉れ、建築物は崩壊し、湯気を立ててドロドロとした不快な匂いが立ち込める。茶色の土の中に隠れた獣が住んでいるかのように赤く脈動している。
 完全なステルスとでもいうのか。同時に、アイリの瞳に敵のマシンに描かれているエンブレムが目に入った。
 「宇宙海賊……まさか……連中ね。」
 最悪の略奪者たちが、いつの間にか、この場所に来ていたというのか。そんな不快感を匂わしながら、そう遠くないSMSの格納庫に入り込み、自分専用のバルキリーを見つけ、既に駆け込んでいた。とにかく、今は深く考えるのをやめて、とにかく目の前の敵を倒すための下準備を始める。
 「おい!パイロットスーツ!!」
 「つけてる暇なんてない!全部、手動でやる!!」
 そのままコクピットに入り、SMS本部から報告が入り込む。
 「何も感じなかったわけ!?」
 「レーダーは、まったく感知してないんだよ!」
 その言葉に偽りは感じなかった。
 怠慢と思われても仕方ないとはが焦りの声からして、本当に気付かなかったようだ。ならば、あのステルス性能は相当高いものである。しかし、ビームの発射と同時に姿を現したということは戦闘に入り、自機から一定の熱が上昇するとステルスを維持できなくなる。ならば、そのまま素手で。とも、思うが突如、現れる巨大なマシンに街をえぐるビーム……これだけで混乱と恐怖を煽るには丁度いい。
 支配、隷属、そんなものを植え付けるには、そういうことをしたほうがいい。
 昔見た、光の巨人が宇宙人と戦うドラマと同じように、その効果は覿面だった。町は混乱を極めてスクランブルの要請から出撃まで、かなりの時間をロスしている間に町の被害は甚大になってしまっていた。
 「ったく、あの子がいる。ってのに、厄介なことをしてくれた。ゆっくり、逢瀬も重ねられないじゃない。」
 キャノピーを閉じて……
 「本格的なステルスマシンってわけか……」
 白いバルキリーが戦場へと出撃する。

 
 「私は……」
命はシェルターに向かわずYF-29がある場所へ走る。
 向かった場所には、既にバサラがいた。命を待っていたかのようだ。命は慣れた手つきでYF-29に乗り込み、バサラはYF-29のガウォークを動かして、そのままバトロイド形態に変形させて戦場に入ろうとしていた時には惑星アリア、マクロス・リリィシティは戦場になっていた。この状況、既に、何度体験したことだろう。恐怖に侵されることなく、両頬を叩いてから気合を入れて命は、そのコクピットの中に入り込んだ。
 周りを見ればバルキリータイプを4機、ヌージャデルガータイプを3機、クァドラン・ロータイプを3機、海賊は投入してきた。SMSとマクロス・リリィ所属の軍隊が海賊と戦うも、SMSはともかく、戦いに不慣れな軍隊は少数に叩き落とされていく。
 「全く、あれが正規軍だ。って言うんだから……」
 アイリは舌を打って愛機であるVF-27δで戦場を駆ける。既に、流動的に動いている、この戦場の中で友軍機に構っている暇などない。死ぬのはお前が悪いのだ。そう口にするように、肉体の中に詰まっていた戦的高揚感を発散するために、狂気的な顔を浮かべ、敵部隊と対峙した。
 「命!!響かせてやれ!!奴らの心にお前の歌を!!!」
 バサラが吼えて、YF-29のコクピットの中で操縦桿の役割を果たしているギターを動かした。
 「うん……!」
 バサラがギターを鳴らし始めて、戦場に大音響が響き渡る。熱気バサラと言う人間が奏でるギターの音が、この世界に蔓延る。これが、バサラの戦いのやり方。
 「GOOD BLUE」
 しかし、唄うのはバサラ自身ではなく園命が最初に作った唄が戦場に流れ始めた。飛び交うミサイルを避けながら命は唄う。戦場で吼えるように魂を燃焼させて。自分は自分である。それを証明するかのように。
 強く、気高く、熱く、バサラの演奏に合わせて自分の歌を唄う。身体の内から湧き上がる想いを全て発散するように、時に吠えて、時に肉体を乗り出すかのように勢いを付けて。緩急を付けながら、曲に合わせて唄う。
 熱唱と言ってもいい。
 キララに輝きは無い。それでも、対抗するかのように命の歌に、さらに磨きがかかる。しかし、どれだけ、歌唱力が上がったと実感しても、この世界に来て、そして、この世界に来る前の最後のライブでも輝くことは無い。もっと、強く、もっと激しく、命は自由に唄う。
 ただただ、目の前の相手に聞かせるように。戦場に歌が溢れても、何も変わらない。
 それ以上に、YF-29の機能すら、まともに動いてはくれなかった。ただ、命の歌が戦場に響くのみ。もっと、限界を越えたところまでと、自分が唄い出す。
 強く、強く、強く。
 自分の想いを伝えるかのように。
 歌を聞かせること。
 それがバサラと命のすることである。
 熱気バサラの見せた奇跡と己の野心、それは最終的に自分の目指すところにあるのかもしれない。それを感じて、今、ここにいて、そして唄う。ただただ、キララが歌に反応して輝くだけの存在だと言うのに輝くことは無い。気にせず叫び声をあげるように、気高く歌う。だが戦場は無慈悲にマクロス・リリィ所属のバルキリーが撃墜されていくだけだった。
 こっちの歌を聞いてくれない。「GOOD BLUE」が終わる。そう思った時には、最後のフレーズを唄い終わっていた。
 それと同時にYF-29から弱弱しい一筋のサウンドビームが空を駆け、宇宙に出ていた。虚しく歌声がこだましただけの世界。
 「まただ。」
 悔しい顔を浮かべていたとき、既にバサラの歌が始まっていた。
 「やっぱり、バサラじゃないと……ダメなのかな……」
 自分の歌ではダメだった。
 バサラが「NEW FRONTIER」を唄い始めた途端、YF-29改が光に包まれた。本来の機能が発揮したかのように。そうして、コクピットの中でフォールドサウンドウェーブシステムが発動し、直接、相手のマシンの中にいるパイロットたちに歌を届けていた。音を象ったサウンドビームが敵のマシンに直撃し、マシンは動きを止めて、何体かは逃げ始めていた。
 歌が響き渡る。
 「やっぱ、凄い……」
 唄う中でいつの間に、戦場では無くなっていた、この場所。
 思わず、町の被害を見て唖然とした。発展途上だが、人の活気が、さっきまであったものが消えていた。人は恐怖に支配されて、海賊達の与えた恐怖に誰もが屈服するかのように思えた。
 だが、バサラの歌が、それを中和していた。
 重傷者もいたし、崩壊はしたが、バサラが歌うことによって活気は戻ろうとしていた。とはいえ、町の被害は甚大だ。これから復興するとなると、それはまた長い道のりになる。やはり、バサラの歌と自分の歌は違う。決定的なまでに。思わず、それに嫉妬と言えば烏滸がましいかもしれないが、嫉妬せざるを得ないほどに悔しさは感じていた。
 それは自分の歌が無能そのものの証を建てられたことと同意だったからだ。
 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 少女の絶望感に駆られたかのような魂の咆哮が響き、それを一瞬だけキララが反応し介して虚しさのウェーブとなって、YF-29改から発射され、白いバルキリーに直撃した。
 「今日は、いつも以上に心地良く戦えたな……あの子の歌のせいかな。まさか、戦場で聞くとは思わなかったけど。」
 陽美は安心しきっていた。
 いつも以上に調子よく、空を飛べたこと、それ以上に戦果を殆ど、自分の物に出来たことに驚いていた。いつも以上に敵を追い込んでいたし、戦場も早く、こちらのペースに回すことが出来た。殆どの戦果を自分でやったことに、流石に驚いた。生気は感じないものの園命の歌を聞いてからだ。
 歌で戦争を終わらせた。
 と、言うが、それは歌を聞いた一定のパイロットが、鬼のように暴れ回り戦果をあげたからではないだろうか。静止して、目の前の存在、不法侵入したバルキリーを見つめて考えていたときだ。
 勝利の女神がバルキリーの中にいる。
 確信的な物がアイリの中に生まれたとき、突然、発したサウンドビームに驚き、思わず操縦桿を動かすことを忘れていた。直接的な被害は無いが、暴発的という言葉が相応しいほどの突然の射出に対処は出来なかった。そのバルキリーのパイロットであるアイリは命の心を感じ取ってしまっていた。
 「ん……あの子の、心……?」
 脳裏に入り込んでくる命の思いと信念の強さ、夢、記憶、過去。かなりの苦労をしていることを感じ取る。その心情、先ほどの咆哮の意味。その顔には自らの無力さそのものを卑下する表情に満ち溢れていた。
 「へぇ……」
 

 一方は一方で曲が終わる前に片が付いてしまったことに不満のようなものが渦巻いてしまった。
 一曲が終わる前に連中は撤退し戦場はいつもの平穏を取り戻していたのだ。
 「おい、まだ、終わってねーぞ!?」
 「それでも、戦いは終わったんだし良いんじゃない?」
 「そういうことじゃねーんだよ。」
 バサラは自分の歌を最後まで聞かなかったこと、命は自分の歌が相手に通じなかったことに対して不満が募る。
 「私に比べたら……充分、凄いよ。」
 「まだ、始まったばっかだろ?あんまり、くよくよすんなよ。」
 「だって、バサラは、それなりに満足してるだろうけどさ。」
 それに関してはバサラと、こうして歌いあっていると未熟な面が目立つ。自分のいた世界の矮小さを知ってしまうほどだ。物凄く、自分の存在の小ささを思い知る。そして、嫌な汗が流れ落ちる。自分の中で不快感情がわくと、必ず流れる、この汗が。
 「だって、私は私なりにバサラのいう熱いハートを持って歌ったんだよ?」
 「扉はもう開いているんだぜ?それに、もう命は飛び込んでるんだ。後は、もっと熱く胸に火をつけて、情熱をたぎらせるのさ。そして新しい光になる。」
 「言うのは簡単だけどさ。私、これで、ああいうのに接触して今回で30回目だけど、全然、反応しない……」
 「そういうことだってあるさ。でも、今回は一回爆発したじゃねーか。」
 馴れているとはいえ、そうならないことは辛い。命の中の歌にかける情熱と言うのは、そういうものなのだろうか。なんて、思いたくもなる。いじけた態度を取りつつ、何で、自分の歌はダメなのか。そんなことを考えながら反省する。とはいえ、答なんてものは出ない。
 全力で唄ってはいる。自分の中で。あくまでも自分の中では。と、言うことではあるが、そう言い聞かせても納得できない物がある。何が足りないのだろう。自分の歌が、通じない。自分で作る歌は控えめに言っても良い歌だと思う。
 でも、このマシンのポテンシャルを引きだすことは出来ないし、そうして歌を伝えることも出来ない。
 「YF-29、聞こえますか?熱気バサラ、Fire Bomberのメインボーカル、熱気バサラさん?とりあえず、そのバルキリー、郊外に置いておかれるのも面倒なので、SMSの格納庫にまで来てくれませんか?誘導しますんで。」
 「おぉ、悪いな。」
 誘導されて、バサラがSMSの格納庫に足を付けたとき、無限の歓声が響く。
 「やっぱ、バサラは凄い。」
 かつての栄光は、この世界では通じない。
 そんなことを嫌でも、何回も味わいつつも、徐々にアーティストとしての頭角くらいは出ているが、あくまでも今はバサラの隣にいるオマケにしかならない。何となくだが、元の世界のことを思い出す。求めているのは自分ではない。と、言う世界。
 「バサラ!」
 誰もがバサラを称賛する。当然だ。バサラの歌が流れ始めた途端、敵は動きを止め、その間に戦意を失ったりしたのだから。自分の歌、歌唱力の圧倒的な差を見せつけられる。代わりに一気に殲滅するつもりだった正規軍は統制が取れないまま、教科書通りの戦法を見破られ、死人こそいなかったものの重軽傷者のオンパレードだった。
  「はぁぁぁぁぁ……」
 深いため息をついて羨ましがりながら、耳障りだ。と、でも言うかのようなバサラをジーっと見つめていた。そんなブルーな気分になっていた時、命の感情を察してか、なだめるように熱気バサラがギターを鳴らす。曲は、さっき戦場で命が唄った「GOOD BLUE」を弾き始めた。
 それに合わせて、命も歌い始めてバルキリーのコクピットから出た。SMSの格納庫で、なぜ、このようなことを等と、思いつつも周りを見れば命を見つめている。
 自然と、野心とか、そういうものを抱かない時の、こういう歌は不必要だというのか、静かなバケモノが登場することはなく、先ほどかいていた不快な汗もどこかに消えていく。
 純粋にまっすぐ歌うものの、ここにいる全員が命の歌に惹きつけられている。そういうわけではない。熱気バサラという一人の英雄として見られている男がいるだけで、命の歌はスナック菓子のおまけに付いてる矮小なカードに等しい位には彼らの中では価値はない。一人の女を除けばの話だが。
 唄い終わった後にはバサラは命の頭をくしゃくしゃと撫でながら
 「まぁ、足りないものがあるから、まだ響かないのさ。熱いハートを叩きつける。それが歌さ。」
 「だから、それのやりかたを教えてよ。」
 「自分で見つけないと駄目なのさ。命なりの伝え方、あるだろ?」
 そう口にして自分で考えさせる。
 考えても解らないし、探し方も解らないというのに、そういうことをさせるのは、どうなのか。一般人からして至極当然の理解できないことを言われて、頭の中に靄のようなものがかかる。何となく言いたいことは解るような気がするのだが、だが、掴もうとした瞬間に消えていく答えというものにやきもきして消えていく。心に穴が開いて、そしていつの間にか塞がってしまう、不思議な感覚。
 今は、考えても、まだ答えは出ない。だから、少しの間だけ考えるのは止めて気晴らしをする。
 考える命を他所にバサラは格納庫から出ていった。
 「また野宿でもするのかなー」

 
 「生気は感じないけど、本当、いい歌だった。願わくば、私に抱かれながら、延々と響かせてほしいくらいには。」
 蕩けるような表情をしながら美月・イルマは自軍のバルキリーに回収されて、園命の歌を思い出していた。戦場で輝く命の光、それを浴びた瞬間、命の思念のようなものが入り込んできた。そうして、彼女自身も感じ取っていた。園命に足りないものを。そして、自負をする。命に足りないものを埋められるのは自分だけだと。あの表情、金色の瞳を自分の姿でいっぱいにできることを妄想する美月・イルマの表情は美しく蕩けたいた。


 「良い歌だったよ。」
 「ありがとうございます。」
 そんな会話が続く。
 これで、お前の歌は悪くないから自信を持て。と、言うことをバサラは言いたいのだろうか。
 そう考えたが、それでは、何かが違うのだ。
 「良い歌だった。」
 「そりゃ、バサラですからね。」
 「そうじゃないよ。貴女の歌。」
 気づけば隣に先ほどの金髪の女性パイロットが立っていた。
 (陽美と言ったか。)
 本当にSMSと言う、この組織に所属している人間だったのか。と思いながら、ご機嫌斜めの命は今日のことを反省しようとしていたが、陽美は気にせずに話しかけてくる。
 この状況で、そういう毒を混ぜつつ気休めを言われても、いい気分というものでは無い。
 「生気は感じないけどさ、今までで、一番良かった。」
 「どこがですか……ホントによかったら……」
 「そうかもね。確かに、何かが欠落して、怒ってるような歌い方だった。でも、今回は不思議と、君の感情が伝わってきたから。」
 命からすれば散々な結果に涙しか流れないと言うのに、一人にしてほしいと言うのにだ。大好きなことなのに成果が出ない。むしろ、正規軍に重傷者を出してしまったことを知って歯がゆくなってくる。悔しさに歯を噛みしめて言いようのない感情が溢れだす。さらに、今は、グサグサ言われているのだから、やはり、少しグサグサと言われると喉が渇いたときのような辛さが芽生えてくる。
 最初は、もっと、獣のように大きな声をあげて泣いたのを思い出す。
 あのころに比べれば悔しさは強くなったが、涙の出る量が減っていった。自分の歌の時に、自分が唄っている時に怪我人を出してしまったことも悔しいし、何より思った以上に自分が無力であることを現実の壁を強く感じることに頭が痛い。
 「でも、私は君の歌で力を貰えたよ。だから、私は何人分の力を得られたし、お陰で、いつも以上に戦果をあげて、だから……戦死者は出ずに済んだ。」
 そう言われると、単純ではあるが少しは救われるのかもしれない。ただ、そう前向きでないとダメな部分もあるのだろうとミレーヌからバサラの話を聞いていて思う。それに自分の歌が、そういう意味で役に立っているのなら、それなりに思うこともある。ただ、戦闘を終わらせることは出来なかったが。
 「本当……ですか?」
 「うん。」
 偽りなく、陽美は頷いた。
 思わず命は陽美の胸に飛び込んでいた。
 巨大な乳房が当たる感触が妙に優しく感じる。
 「そんな顔、似合わないよ。ほら、これで涙を拭いて。」
 差し出されたハンカチで涙を拭きつつも陽美に誘導されて近くのベンチに一緒に座り込んだ。同性と、こういうことをするのは久しぶりだ。
 「ほら、こっちに頭を置いて。」
 言われるがままに上半身を倒し、膝の上に頭を預けた。膝枕の体制と気づいた瞬間には、心地良さに負けて、このままになっていた。頭を撫でられ、あやされる。バカにされているような感じもしたが変に落ち着いてきた。だから許してしまう。他愛のない世間話に膝枕の暖かさ。姉たちに、そうしてもらった記憶が蘇る。そう言えば、ああいうこともあった。と、脳に走った思い出がボーっと流れていった。
 何か、話したくなってしまうような。
 「どうして、ああいうことを?」
 「興味、あります?」
 「それはね。コクピットから出て泣いちゃってるんだから。」
 「最初は、もっと泣きました。」
 何故か、話してしまう。
 はっきりとした声で。
 最初にバサラと一緒に戦場に出たとき。
 あの時の戦場は地獄そのものだった。
 ゼントランのテロリストが小さな村を襲い、村人全員が瀕死に近い重傷を負った。テロリストが攻めてきた理由は簡単だ。食料の確保。自分たちの正義のためならテロさえ許されると言う歪んだ正義の元に行われた行為。
 そこではFire Bomberの歌が盛んで、バサラの伝説を話してくれた人達と仲良くなった思い出があった。歌で戦争を終わらせた。歌で平和を作り上げた大偉人であると、村人たちから教わり、そして、熱気バサラと言う存在に命が強く興味を抱いた村だった。そして、バサラに、あまりにも酷すぎる歌だからこそ、旅の同行を許された。
 そして、旅立ちの前の日の夜のことだ。テロリストたちが攻めてきたのは。唄いながら、戦場を駆け回ったものの、まるで見向きもしない。戦いと言う物を止めると言うことすらしなかった。血で溢れる村を見て恐怖を覚えた。バサラや自分の歌に気を取られて死人は出なかったものの、知っていた人達が仲良くなった人達が血で肉体を染めてしまうのは、そして、それに対して何も出来ないのは悔しかった。
 途中でバサラの知り合いらしき黒いバルキリーが救援に来て敵を完全に殲滅させたものの、後味が悪くて思い切り泣いた。
 そして、もっと、自分の歌で争いを止められるように上手くなる。それが、己の野心を成就させるために絶対的に必要な力と感じたから、その決心を付けた。
 確かに歌の技術は上がってはいったが、命の歌で戦いが止まることなど一度もなかった。震えて、その晩は眠れなかったことを覚えて逃げるように最初にバルキリーのコクピットに引きこもったことを忘れられずに覚えている。
 一度も。
 その後、何回も戦闘に遭遇し、自分も歌ったが、磨いた力は発揮されることなく終わり、バサラの歌が解決する。
 自分の歌唱力の低さに絶望しつつも、それでも、諦めたくないと言う思いは己の抱いていた野心と共に歌の上達へと繋がってはいった。だが、成果は無い。数えること30回……しかし、そこに確たる証は何も無かった。思い出すだけで、今でも体が震えてしまう。そんな出来事だ。
 時折、かすれ声になって冷たい何かがまぶたに溜まっていた。
 あの戦場ではたったの数分が、1時間以上の無限に等しい時間が流れていたような気もする。
 「大変だ。と、しか言いようがないわね。」
 身体の震えを察してか陽美は暖かい手で身体を撫でられた。ふわりとした手のひらの感覚が緊張をほぐしていくような冷静さを取り戻していく。
 「そう。」
 そんなことを語っていたときだ。重苦しい雰囲気は嫌いなのか話題を変えてきたのは。
 「そういえば、誰に教えてもらったの?貴女の歌。」
 ちょっと軽めの声。スキンシップと言うより、友人と接する時のような、そういう声。いつから、そういう風になったのだろう。と、考えながらも聞かれたことを話した。重苦しい話題だから、話題を変えたのだろう。
 「まぁ、バサラの発声方法を真似たし。バサラといっぱい旅をしてきたし、バサラと一緒に唄ってきたから。それに、ママ達の英才教育もあるし。まぁ、言い訳に過ぎないけど。」
 解っている。
 努力はしてきたけど、そう簡単に報われる世界なわけが無い。いや、努力しても報われないことを知ることがある。あの世界、襲名したのは運が良かったのだろう。あの世界に甘んじていれば良かったのに。もう一人の自分が、そんなことを言う。
 とはいえ、この世界に来たのだから自分の満足する結果を作るまで帰る気は無いのだが。そこまで簡単にはいかないのだ。とはいえ、期待してたのは確かだ。だが、今まで以上にダメだったと無慈悲な現実が肉体に突き刺さる。これが乃木坂0046のエースの姿だと思うと、それもそれで情けない。
 「本当に良い歌だったわ。」
 「そりゃ、バサラがいたからでしょう?」
 「バサラのは当然だけど、貴女の歌の方もよ。」
 「嘘……」
 「嘘じゃない。本心よ。」
 「それは、どうも。」
 少しトーンを落として、凄んだように言われれば流石に素直に褒め言葉を受け取る。
 そして、自然と隣にすり寄って腰に触れて引き寄せてきた。
 「バサラだって、最初はそうだったんだから。」
 ただ、バサラの最初の時代にはフォールドクォーツや、サウンドブースターなんてものも装備されていないと、付け加えていた。と、なると、そういう装備がありながら、自分の歌は、あの海賊たちに届かなかったと言える。そう考えると、ますます、自信がなくなってきた。
 バサラの偉大さを嫌でも肌で感じてしまう。
 「それに、あのバルキリーはバサラ用に調整されてるから。」
 サウンドブースターの機能や、その他もろもろはバサラ用にチューンアップされているが故に、それこそ、バサラの領域に入らなければならない。念のために言っておくと、ミレーヌ・ジーナス、シェリル・ノーム、ランカ・リー、ミルキードールズ、エルマ・ホイリー、エミリア・ジーナス等の歌姫達も作動させることは出来ない。リン・ミンメイになれば、それは不明ではあるが。完全にバサラ専用のYF-29と言うわけだ。サウンドブースターの出力調整を含めて、出力をあげれば、それに値するチバソングの必要値も上がってくる。そんな物に乗って、システムを全て発動させようなんて言う命の考えは前向きに捉えれば常に挑戦していると、言えなくもないが、悪く言えば無謀の極致と言ってもいいほどだ。
 「仕方ないさ。彼の場合は。」
 「それは壁はあって当然……なのは、解りますけど。」
 自分とて、あの世界で、それなりに成果をあげてきた。やはり、あれは自分の実力ではなく、中に入っていたもう一人の自分が力を貸したからこその結果と言うことになるのだろうか。やはり、そうなると求めていたのは自分ではない。と、行く結論に行きつく。 
 「はぁ……」
 そうして、どんどん、自己嫌悪に陥っていく。
 「あ、あぁ、元気出して。貴方の歌が良かったのは本当なんだから。」
 戦場で自分の歌を聞かせて、自分の力で戦いを終わらせる。そうすれば、あの世界で、AKB0048や、乃木坂0046、他の姉妹グループを越える存在になれる。そう思っていたし、そういう野心も抱いていた。だが、現実はそう上手くいかない。何度も何度も、この現実に直面する。
 「さっきの質問だけど貴女は、バサラの恋人、いや、その若さなら娘さんかしら?」
 「だから恋人でもなんでもないって。どっちかって言うと先生と生徒の関係かな。」
 赤いバルキリー、それを見てしまえば、誰だって、この世界では熱気バサラと言う最高のロックアーティストを思い出す。それ以降のバンドグループや、アイドルは、皆、熱気バサラをリスペクトするほどだ。後世の歴史において、これほど影響を与えたと言えるほどのアーティストはいない。
 「先生と生徒?」
 園命は言う。
 熱気バサラと長く旅をしてきたとはいえ、バサラは教えない。命はバサラの全てを学ぶと言うよりも旅をする中で発声の仕方を盗み、曲の作り方を盗む。
 全てにおいて、と言うわけではないがバサラが教えてくれたり、アドバイスをくれたりすることもある。所謂、一種の見稽古と呼べることをして、バサラほどではないものの、多少の作曲と作詞は暇さえあれば行って、バサラが勝手に拾い、アコースティックギターを奏でて訂正する。そんなことを延々と続けて惑星に着陸し、そこで野宿したり、その惑星で知り合った人の家で寝泊まりしたり、そういう生活を繰り返して今まで過ごしてきた。
 「大変だったんだ。」
 「それからは、自分の作った歌で、ああいう海賊たちをバサラのように止める。って、感じですかね。」
 「ふぅん。大変だ。」
 「まぁ、そうですよ。大変です。」
 「ところでさ。」
 「はい?そろそろ、歌を作りたいんで、バルキリーの中に入りたいんですが。」
 「私は、もっと、知りたいな。君のこと。」
 「いや、あの……」
 「迷惑かしら。」
 「はい。」
 はっきりと言う。しかし、このアイリと言う女は徐々に口説きに入ってきた。断った。と、言うのに、そのことが解っていないようだ。大胆と言えば大胆。しかし、何故か鼓動は求めるように激しく、そして、自分がアンニュイな気持ちに入っていると言うのに、なぜ、こうなってしまうのか理解できないまま、話は進んでくる。
 「君と私の身体の相性とか。」
 「は!?」
 平然と、極自然なスタイルで白い指が命の顎を掴み、クイっと上げた。命は当然、この人、突然、何をしているんだ。徐々に顔が近付いてくる。状況がつかめない。
 「ちょ……」
 そして気づけば唇が重なっていた。
 「可愛いよ……命。命の歌も、命も。」
 その顔は、自分の両親も同じタイプだからわかる。母である智恵理が凪沙とキスをするときの表情によく似ている。気づけば、そのまま、一つになっていることを感じ取っていた。
 智恵理は可愛い凪沙を見てしまうと唇を重ねることが抑えられなくなると、口にしていたが、まさか、これは、陽美も、こういうことなのだろうか。考えが纏まらないうちに思考は快楽を求めていた。
 唇の感触を確かめながら陽美が言う。唇が奪われた。そんなことに気付いたのは暖かみが身体全部に走ってからだった。
 ただ、どうしてか、妙に、この感覚が自分にとっては嬉しかった。
 忘れていた暖かみを、なぜか、思い出していたからだった。
 「みゃ、脈絡もなく、何してんですか!?」
 しかし、ふと、現実に戻ってSMSの格納庫に命の声が響く。しかし、表情は絶句することなく、ただただ、恋人たちがし終えた後のような満足感に溢れていた。

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