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神無月の巫女 対 レガリア The Three Sacred Stars 幕間「戦士は戻る。」

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戻る。


 月には古い社がある。社に辿り着くためには古い木製の階段があり、誰もが、社の主に会うためには、その階段を上らなければならない。
 腰に刀剣を携えた鎧武者のような魔人のような何かが光の柱と共に舞い降りて、社へと続く階段を優雅に、そして穏やかに魔人のような姿から、所謂、人間のような姿に戻り、相変わらずの風景だと思いながら黒いスーツを身に纏った、一見、紳士に見えながらも、どこか猟奇的で獲物を捕らえる蛇のようなギラつかせた瞳を持っているが顔立ちは基本、整っている。
 身体はモデルのように細く、そして背が高い。黙っていれば二枚目の雰囲気を醸し出していた。人間でありながら、人間ではない。人間に擬態しているわけではないが、彼は地球人ではなく地球人によく似た姿を持った宇宙人である。さらに、彼を表現するのであれば、この宇宙の世界の人間ではない銀河の果ての別世界からやってきた社の主に雇われた傭兵である。
 社のある一定領域には宇宙とは思えないほどに人が住めるほどには澄み切った空気が溢れている。まるで、人の中にある嫌な思い出を何もかも流してしまいそうなほどに。
 「いつの間に地球に、あんな不細工な首輪がついたんだ?いや、あれから地球は名前を変えたのか。1万年前の記憶を忘れるために地球の名前を捨てたか。」
 黙っていれば人を惹きつけるほどの顔立ちと言えるし、表面上は美男子と表現してもおかしくはない。
 ただ、そのギラつかせた瞳というのが、どこか他者を寄せ付けない雰囲気を作り上げており、そこに至るまでは、この世界に戻ってくるまで大きな事件があったからかもしれない。
 悪を恐れず憎まず、この胸に抱けというのは全ての人が成すには難しいことだ。それが、どれだけ誇りがある高潔な人物であろうともだ。
 ここに来ると、黒スーツの男は、己を戒めるための出来事が嫌でも脳裏に走り、瞬時に映像化される。
 まともな思い出から苦痛の思い出になるというのは、いずれも知性というものがある生命体にとっては辛いことになるだろう。
 誰だって、そうだ。
 この地球に来てから、一瞬で、その思い出が脳裏に血液が肉体を駆け巡るように思い出は走る。
 そして起こるのが決まって、皮膚を血が出るまで鑢で擦られるような頭痛が走る。スーツの男は、猟奇的な瞳を閉じて、整った顔立ちを歪ませながら、この男の中にある、この世界における嫌な思い出というのはどう言うものか解る。この世界に来ることと言うのは、男の時間の中で、どれほどの事か。この世界に来るまでに燦々たる程のことをしでかした分、そういう記憶も運び去ってはくれまいかとボソッと呟いたものの、そういう訳にも行かないようだ。
 『久しぶりね。ジャグラー』
 ジャグラス・ジャグラーが月の社に降り立ち、地球を最初に見た時の台詞がそれだったそれは、この世界の地球を邪神から守る役割を与えられた二人の巫女がいるらしい。
 巫女というだけでジャグラーは曰く付きの名前を思い出すが、それで、ここにいる二人の巫女に八つ当たりするのは流石に大人気の無いことだ。以前は、普通の人間で巫女に転生して運命を乗り越えていたらしいが、最終的に永遠に愛し合うことを選び、自分達がシステムの根幹になることで、終わることのない愛の春を現在も謳歌している。
 未だに完全に目覚めぬことのない二人の巫女に呼ばれて久しぶりに訪れる月の大地を前に懐かしい気持ちの中に嬉しさがあった。
 この社の中は環境が地球のように風が吹き、その風は旧友に出会うことの出来た幼馴染を喜ぶように、再び舞い降りたジャグラス・ジャグラーを歓迎する表れのように涼しくも力強く吹き荒れた。
 社の扉が開き、それを歓迎と受け入れ中に入り込み、ジャグラーはゆっくりと正座しながら落ち着かぬ心。ジャグラーが対峙するのは、所謂、この世界における神に等しい存在だ。
 一度、この世界に来てから、また戻ってくるまで様々なことがあった。それを読み取られるのは思い出したくない記憶を蒸し返されることと同義だったが、最初に出てきた言葉は予想外の言葉だった。
 『悪いわね。』
 『まだ、私達は姿を見せられるほど完全じゃないから。』
 「まだ、あの時から癒えていないのか。」
 思わず地球におけるSSPの三人と話すときのような世間話調の答え方をしてしまっている自分に咳払いした。
 『えぇ。』
 「あれから、ここじゃぁ、結構、経ったんだろ?」
 ただ、それでも、世間話調になってしまっているのは、落ち着いてみれば、この世界における風の健やかさのようなものがそうさせているのだろうが、ジャグラーは、どうも調子が落ち着かない、いや、調子が狂うようなスタイルに頭を抱えた。
 ジャグラーがぶっきらぼうに返事をし、脳裏に嫌な思い出として一つの出来事が蘇る。
 それは、また、自分に力があればと自惚れから来るものではあるが、それでも、この世界の地球を護れなかったことは、痛手にも近い。
 思えば、あの事件が、別世界での地球における自分の暴走のトリガーの一つと言えるのかもしれない。ここでも守れなかったことが、力を求めて追い求めていくうちに、あのような愚行を起こしたことを考えてしまえば。
 「それで、俺の依頼は、あれか。地球に纏わりつく不細工なリングの主の処理の為に一緒に戦え。そういうことだな。」
 『察しが早くて助かるわ。』
 「俺がやってきたこと……」
 『関係ないと思うよ。』
 「そう言ってもらえると助かる。」
 ジャグラーが不敵な笑みを浮かべながら、こいつらを裏切るかもしれないという演技を入れてみたが、それを見抜いているかのようにスルーするような反応をした。どうも勝てないということに口にするように、今度は苦笑いを浮かべるしかなかった。
 「しかし、そんなに時間がかかるものなのか?魂と体の再生は。」
 『色々とあるのよ。ただ、その間に、アクシデントは起こったんだけど。』
 「それは、どうした?」
 『娘たちが何とかしてくれた。』
 「嬢ちゃんたちが?」
 『色々と私達もやることがあったのよ。』
 『最低の親と罵ってくれても構わないわ。』
 「そうかい。……で、あれに契約した嬢ちゃん達がね。生きてるのか?」
 『当然。そうじゃなかったら、もっと、混沌とした雰囲気が出てるわ。』
 「なるほど。」
 最低の親と罵る気にはなれなかった。それは自分にも一端の責任はあるからだ。完全に人を信じていたがゆえに油断したことがある。
 そして、それは自分がレナ達をレガリアという枷に縛り付けてしまった要因を作ってしまったがゆえに、その贖罪の為に、今回の巫女の招集に呼ばれてきた部分がある。
 代わりに娘たちが戦う、そういう世界を見てきたこともあるのだろうが、そこまでしてやらなければならない一つの出来事というのは余程のことになるのだろう。
 ジャグラーからすれば、今、さっき、この場所に戻ってきた分、察することしか出来ないし、あれほどの娘たちを溺愛していた二人の母親のことだ。
 だからこそ、二人の母親のことを責めずに、あの日の過ちを思い返していた。

 命の樹……
 自らの目的を 「争いのない宇宙の創造」だと嘯く敵と戦い、流れて舞い降りてきたのが、この宇宙である。何かに導かれるとか、そういうものではないが、いつの間にか、ここにいた。誰も自分という存在を知らない。
 生命の樹を切り倒して、ウルトラマンと呼ばれる巨人が一つの世界を救ってから、どれくらいが経ったことだろうか。クレナイ・ガイと別れて、そして、この世界に来訪して。そこで出会ったのは、この世界を守護する、光の巨人のような存在だった。しかし、この世界は巨人化ということは無く、巨大人型兵器に契約して乗り込み戦うというスタイル。
 いつの間にか、この世界にいた。あの戦いの後、銀河を放浪して、いつ、ここに辿り着いたのか。なんてのは覚えていない。ただ、ジャグラーは、いつの間にかここにいたのだ。
 今までサポートしていた相手に助けられ、そして、いつの間にか生命の樹を斬って戦争を終わらせて、気付けば蚊帳の外だった。そんな傷心中の中で、この世界はジャグラーを優しく受け入れた。誰も知らないからだろうとは思ったが、事情を話せば、「なら、ここでゆっくりすればいいわ。」と、姫子の太陽のような柔らかさを持つような言葉に自然と、ジャグラーは、この場所で余生を過ごすことも悪く無いとは思っていた。
 「この人、心がボロボロに傷ついてる。ゆっくりして良いんだよ?姫子ママも、千歌音ママも追い出さないし。」
 多分、そうさせたのは、姫宮レナの言葉から来るものだったのだろうとも思う。
 「あ、あぁ……」
 訝しげに、人の心を読むような台詞を出されればポカーンとするが、姫宮レナの言葉は妙に当たる。
 恐らく、この言葉からジャグラーは、この世界から優しくされたのだろうとは思った。
 ただ、妙なもので、下手にプライドが邪魔することなく、ここで己を鍛え上げることを許され、それなりの地位や役職まで斡旋してくれたのは感謝としか言いようがあるまい。
 これほどの幸福を感じてしまっていいのだろうか?そう思えるくらいには刺激が無い平和な世界だ。
 飽和された世界の中で、別の衣服を与えられて、血みどろが纏わりついた戦士の衣を脱いだ。
 やはり、あの戦闘の衣装というのは捨てられない。多少、血なまぐさい世界に身を置いていた身からするとこそばゆさの様なものがある。そうして、過ごしていくうちにぬるま湯につかる幸福とでも言うべきか、時折、惑星カノンでやらかしたことが、こべりついた泥のようにベットリと、どうも、拭えるものではないらしい。
 だから、ああいう場面を想起させると、この場所で幸福を感じて良いのだろうかと傷心のジャグラーは自問自答する。思い出すたびに胸が己の刀で抉られるような痛みが走り、それが頭痛になって不快な朝が訪れるというのに、起きて、近くの河川敷で朝から刃を振りながら己を律するための時間を消費して数時間も経てば髪が靡くような爽やかな風に心を奪われてしまいそうになる。
 幸福で良いのだろうかと、自分に尋ねるが、自分自身は答えが出ない。
 「良いのか?」
 「反省しているなら良いんじゃない?食べる?アイス。」
 「あ、あぁ……」
 突如、現れた姫宮レナは恐れることなくジャグラーにアイスを渡した。冷たいのに、そのアイスが妙に暖かく感じて自然と純粋に殺意のない笑みが零れる。レナは、そんなジャグラーに対して、どういう感情を抱くわけでもなく、ただただ、アイスを頬張って子供のような笑顔を姫子と千歌音に向けていた。
 優しくされるということを忘れていたし、妙な暖かさすら人と関わる度に色々と忘れていた人間的なものが、徐々に、心と呼べる場所があるという、そこに埋もれていく。
 関わればミコットのような不幸が訪れ、自分自身が惑星カノンの住民がジャグラーを不幸の対象として見たように見られてしまうかもしれない。そういう傷ついた心の中で他人との接触というのは非常に気が重く、足取りは重くなる。
 そうして異世界から来た渡り鳥を受け入れるように表れてきたのが姫宮姫子と姫宮千歌音、そして姫宮レナの二人だった。
 そういう力に選ばれる存在というのは極めて普段は普通の人とは変わらないようだ。
 この世界にいる力に選ばれた二人も、そうだった。さらに、この頃からだろう。
 ガイが、この世界に舞い降りたのも。事情から、会うことも少なかったが、それでも気にかけてくるのは当時のジャグラーからすればウザったらしかったし、それ以上に、ジャグラーから避けていた。
 どうやら、エレメントなるものを探索していたとは言うが興味はない。
 「美味しい。」
 「あぁ、そうだな。」
 そうして気を抜けるような会話から、いつしか、光の戦士への執着はなくなっていったのは、いつのころからだろうか。ここで、大分、暮らしてからな気がしてならない。この魔法の鏡というものがあるのなら、そういうもので見せているのかもしれない幸福な世界での自分の姿。
 「両親はどうした?」
 いつもは、引っ付いている筈なのに、今日はいない。
 「ケイ達に取られた。だから、溜めたお小遣いを使って腹いせにアイス。」
 「そういうことか……」
 キンキンに冷えたアイスが妙に風を浴びても火照った心地よく美味しい。
 トレーニングによって暖まった身体には、良い感じに冷える。レナの顔を見ると、両親の面影を良く残している。最初に、レナの両親である会話していく中で自分の境遇を話したことを思い出す。
 「レナ、ここにいたの?」
 「あ、姫子ママと千歌音ママ。」
 姫子と千歌音は、まるで自分達と同じようだと言うかのように笑いあう。あの、色々という四文字の中には、確かにそう思わせるような説得力もあった。
 『なぁ、聞かせてくれないか?あんたも似たような口か?』
 『そうね。昔の恋敵が、貴方のライバルのような力を持っていた。』
 その言葉を聞くだけでジャグラーは千歌音の中にあったことを、ある程度、察した。
 恐らく、そこから、姫子を巡る戦いや、そこから、面倒なことが色々とあったのだろうというのは、どこか口を開く筋肉にさえ重みを感じるような動きを見れば真実でもあるし、察することだってできる。ただ、それを乗り越えて、今があるというのは、姫子と千歌音の両手を掴んで離そうとしない、二人の面影を良く受け継いだ娘を見ればよく解る。
 姫宮レナと言ったか。
 後は、他に養子を四人を迎えたという。
 『そうして、私は大切な人を一時期、守ることが出来ずに、色々とね。』
 その色々という、たった四文字の言葉の中には、表情の動きを見るだけで辛いことがあったことは解る。そして、その辛いことを受け入れた、この千歌音という女の妻である童顔で栗色の髪の毛を持つ姫子という少女は、相当、心というものが強いのだろうとジャグラーは理解できる。力があるものと、中途半端に力がある存在の差というのは大きい。
 「悔しさはあったわ。それに人としても良く出来ていたから。」
 だからこそ正攻法では勝負できないし、それに、千歌音の時代は、同性愛と言うものにネガティブな印象を抱くのが当たり前の時代だったというのもある。
 ならば、姫子が幸せでいてくれるなら、かつての恋敵に全てを託そうと思っていた。それでも人として出来た人間ならば、姫子を一瞬でも委ねても良いとは思ったが、それは自分の心の偽りでもある。ただ、人が出来ていたからこそ、彼ならば、姫子を委ねても良いとは思ったが、千歌音の憶測を越えて、姫子は千歌音を選んでくれた。
 だから、より大切な存在へと昇華された。自分を選んでくれたからこそ、幸せそうな顔をしていると、言葉から伝わってくる感情の一つ一つでジャグラーは理解できた。そういう負の感情から得られる力の危険性と言うのは理解できる。
 「皮肉な物よ。あれが、この結果に繋がったと思うと。」
 遠目から見つめる姫子とレナが遊ぶ姿は、どこか罪悪感を匂わせて、それが何故だか生命の樹を斬り倒した後に感じたぽっかりとした何かに似ている。多くは語らないが、その瞳の中に映った世界というのは、絶対に姫子を幸せにするという意思もある。どう言うものがあったのかは知らないが、自分と重ねることは何かが違う。ただ、千歌音からすれば何かの負の感情に至って得る力の危うさというのを説いたのだろうが。
 「そういうものか?」
 「さぁ?どうかしら。後は、貴方がどうするべきかでは無くて?」
 「どうするべきか……ね。」
 そうして、かつては人が出来過ぎているがゆえに憎かった恋敵。だが、そうして恋愛に勝利し姫子との間に千歌音の横に纏わりつく一人の娘が生まれた。それでも、姫子と千歌音の場合は、こうして愛し合い、レナという娘を得ることが出来たというのは相当な幸せであるという事なのだろう。何かしらの、自分も千歌音のような栄光を得ることが出来るだろうか。
 自問自答をしながら、ただ……目の前で何かしらの遊びをしている姫子とレナを見つめていた。
 「幸福か。」
 幸福を家族を、ゆっくり見る時間の中で感じるようになる。
 すくすくと育った、このレナという少女の体を見ていれば解る。
 今まで見てきて回った惑星は貧困というのが当たり前で個人では救うことの出来ない家族を多く見てきた。怪獣、宇宙人、そんなものに蹂躙されて。多くは救えない。
 それでも自分の手で救えるのならば、ジャグラーは己を鍛え上げた。誰よりも。それこそ一心不乱に、己の剣術を磨き上げて、精神を鍛え、そして、ストイックに強くなっていったはずだった。自分に力があるならばと戦士の頂に昇って見れば誰よりも力を求めていた自分ではなかった。そうして、こういう家族は仕方ないが、個人では救うことが出来ない。
 それでも、ガイは全ての人間を救おうとした。リアリストであるジャグラーと、ロマンチストであるガイ。
 この差が光の巨人の力を与えるか、与えないかの差なのだろうと。それが最終的にガイに助けられて、自分の力の意味も、何もかも……そう考えていた時には、この惑星に辿り着いてから平和という名のぬるま湯の世界に浸り、自分の中にある問いを考えながら、そのまま、この世界の幸せの為に従事することも悪いことではないだろう。
 そう考えていた時に、この平和というのも邪神オロチという存在によって成り立っている世界に降り立ったのは幸福であったのかもしれない。オロチと呼ばれる、考えるだけで肌寒くなるような邪神がいて、姫子と千歌音の降臨は、ある意味では、この世界に不幸というものが訪れている証でもあるのだろう。平和に見えて、この世界は共通の敵という存在がいることで全ての国が団結している。そこに現れた光の巨人のような二人の巫女の存在は、さぞ、平和の象徴的なものに見えるのだろう。
 惑星カノンにおける、あの生命の樹と女王のように。
 戦士であるのなら、これ以上、考えることもないだろうと、いつの間にか陽に照らされて、ゾンビのように爛れたアイスを見てレナに見えない場所でアイスを捨て少々、噎せ返り吐きかける。あの時の思い出が、惑星カノンでのトラウマがジャグラーを侵食した。ただただ、遠目に世界を見つめて、今は、ただ平和なだけの空を見つめていた。オーブと剣神天群雲剣を持ってレガリアという新エネルギーを利用した防衛兵器の開発は行われて、そして自分も、それに乗って戦うことを希望している。
 自らの剣術を活かせる特別機の制作というのは実に嬉しいことだ。マシンの名前はテイシスと言ったか。蛇心流の力を活かせる剣撃タイプのマシンを駆れるというなら、それで、この家族を守るだけの力を持てるのなら、それはそれで悪くはあるまい。
 「レナ?どうしたの。」
 「姫子ママ、もふもふ」
 「よしよし。」
 「レナは甘えん坊さんだね。」
 「二人がいるから……」
 大切に育てられてきた二人の娘を見て、全てを護れずとも、この家族だけでもと思えるようになったのは、この世界で以前のようなストイックさと言う毒気が抜かれたからだろう。
 幸せな家族が当然のように幸せに生きる、こういう場所というのは、どうも肌には合わないと自分を偽りながら、だからこそ、毒気を抜かれて、こうして今の穏やかでいられる自分がいる。思えば、命の樹を巡る戦いにおいて、自分は、どこか急ぎ過ぎた部分があったと、改めて自分を見つめなおす機会としては良い世界だったとも言える。
 「姫子ママ。」 
 ただの娘。
 女同士と言う関係の中で生まれながらも平然と受け入れる、この世界というのは恵まれているという事なのだろうとは思う。だからこそ、恵まれて人が人、自分が自分らしくいられる、この世界を、妙に守りたくなる。あの時のリベンジ、いや、生命の樹の時のような二の轍は踏むまいと思っているのから、戦士であり人としての幸せを求めようとする。
 「そういえば、あの子は、二人の娘だろ?なんか、不思議な力とか持ってるんじゃないか?」
 「どうかしら。」
 「私達にできることは、ガイのように変身するように、剣神天群雲剣を呼び出すこと位よ。あの中に入って、私達は全ての力が発揮されるから。この子に、そういう力があるなら、何か神秘的なものを見つけてからじゃないかしら。」
 それは謀らずとも後の世界でルクス・エクス・マキナとの決戦において現れる。レナが三つのレガリアを合体させて現れる、その予兆でもあったのかもしれない。
 「面倒だな。」
 「そうかしら?でも、これで良いと思う、戦いの痛みや苦しみは、私と千歌音ちゃんだけで知れば良いから。この子は、普通に幸せになってほしい。何かあるかもしれないけど、でも、そう言う力とか、そういうものに無縁で、この子は、この子の幸せを掴んでほしいな。」
 姫子と千歌音が互いに頷きあいながら納得しあう。
 そんな家族の光景を見て思い出す。
 あぁ、そういえば、そうだ。
 こういう家族を尽きることのない悪意と敵意により、繰り返される戦いの世界から守る為に戦っていたんだ。
 ジャグラーの中で蘇る信念は、それを思い出させた。
 ある意味、幸福を理解できた瞬間だった。この瞬間が、いつまでも永遠に終わらない物語のように続けばいいと思っていたが、物語に何れ、おわりは来るように、それはやってきて終わりを告げた。
 「何が……何が、光の巨人だ!!何が、全てを救うウルトラマンだ!!」
 何が光の巨人の力か。
 結局、何も護れてはいない。
 それは、また自分の非力さに対する怒りでもあった。
 極楽の家族愛に浸れる幸せに身をよじらせながら、この世界の人を信じた途端に、エメラルドグリーンの髪の少年がジャグラーの隙をついて、レナとケイ、サラとティア、ノアの腹部がパックリと斬られて夥しい血を流して倒れていた。少年は悪魔のような顔を浮かべて、悪魔のような顔を浮かべて、その場から去っていった。
 己は大切な人を守る為に鍛えたというのに救えないというのでは、何の為に光の巨人という存在がいるのか解ったものではない。
 ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張った結果が、あれだというのなら、レナ達は、何故、犠牲になったのか。
 レナは、姫子は、千歌音は。
 この星の文明が破壊される中で姫子と千歌音、レナ、ケイ、サラ、ティア、いや、それ以上の人々を犠牲にしてまで収まった、この戦い。
 光の巨人の力は全てを救うのではなかったのか。
 ジャグラーの中で渇望していた力に対する絶望感は己と共に黒いラインが身体の入った光の巨人オーブを恨みを込めて見つめていた。
 己の力の無力さを誰かにぶつけたかったのかもしれない。
 しかし、これは、これではあんまりではないか。呪詛のように吐き続けた光の巨人への言葉は、ジャグラーの中で力に対する渇望が憎しみを増幅させて闇に飲まれて行ったのは、この頃からだ。
 所詮、光の巨人と言えども人が変身した力では救えない。
 レナ達のような少女は助けられない。
 それどころか、永遠に生きるという咎を与える原因を自分が与えてしまった。
 ならば、もっと、もっと力があれば。
 誰かを護りたいという思いが力となる。
 取り戻していた筈のものが儚くも崩れ去る。
 そうして心は闇に蝕まれて行く。
 「もっと力があったら……」
 ミコットも、この世界も……
 「誰かを護りたい」
 そのための力なら、闇の力であっても構わない……
 力があればと、呪詛のように、この世界からガイに連れ出されるときに呟いた。
 強くならなければならない。
 いつからだろう。
 この世界の幸福が辛い思い出になって、力だけを求めるようになったのは。
 宇宙少女と出会い、ガイとの完全な決別、闇の魔王獣を復活させて、一瞬、ナターシャがレナに見えたから、思わず助けて……ガイに愛を説かれた時、一度、忘れかけながらも、この世界で姫子と千歌音、そして、レナやケイ、サラとティアとの思い出が蘇った。
 「俺は、何がしたかったんだ?」
 ガイに殴られて気付いた時のジャグラーの中で蘇った、この世界における思い出。
 あぁ、そうだ。レナ達を、この世界で幸せに過ごす人たちを、あの時は守ろうとしていたんだ。
 ジャグラーがマガタノオロチをオーブオリジンと戦う前に思い出した独白の中で思い出す。
________________________________________

 目の前にいる敵は本当に、かつて、この世界を滅ぼそうとした悪鬼。 
 身体はボロボロ、しかし、魂は高潔のまま。
 恐らく、この立派な不細工な首輪の中でも昨日は殆ど、破壊された状態なのだろうというのは理解できる。この世界に舞い降りて初めて出会ったのは、この世界に自分に絶望を与えた怨敵だった。
 随分と、鼻に着く態度だ。
 久しぶりに醜いとさけずみたくなるほどだが、それでもジャグラーが、あれから育んだ闇と呼べる曖昧なものに縋らなければならないほどなのだろうと思えば、それはそれで殺意というものが湧く。
 (頼み方ってのを知らんのか?こいつは。)
 内心で悪態をつきながら、適当に相槌を済ませてから、本来の雇われ主の場所に行く。元より、誘われたというだけで参加する意味などない。それに、ジャグラーからすればオロチに着くというのは、この世界で出会った人たちを裏切るという行為に他ならない。己の闇で、自分の中にあるオロチに対する憎しみを隠して考えておくと口にしながら、内心にあるのは自分に頼るようでは、オロチはもう手遅れという事でもある。
 「愚か者め。」
 内心でオロチを嘲笑する。
 万感の思いに身を委ねていた時、本来の依頼主のいる間で目を開いた。
 社の中が金色に輝きだし、さらに背後には白銀の巨人が現れる。
 剣神天群雲剣だ。
 そして……
 「この先、この力が必要になるでしょう。」
 「ダークリング?いや、偽物か?」
 姫子と千歌音の二人。
 魂と肉体の修復を終えて、そして、その後ろには多くの対オロチ戦の為に集められた大きな力が一つや二つではない。どれほどオロチにとっての脅威を集めたというのか。ますます、オロチの敗北は決まった光景に思わず同情もしたくなって変な笑みさえ零れてくる。
 「まだ、私たちは完ぺきではないわ。」
 「今は、まだ、ここから出られないの。後、数刻だけ時間をちょうだい。」
 「了解した。こっちだって、なじみの友人に、そう頼まれるのはうれしい。それに、そろそろ、あいつも、この異変に気づいて来るようだしな。」
 月の青い空を見上げて光が来る、その先の世界を見渡していた。ちょっとした同窓会のようだ。にわかに信じられない状況が、派手なパーティの前兆のように……
 懐かしい友人に出会うというのは、こういう気持ちなのだろうとジャグラーの中で何か、鎖のようなものが解けたような感触が胸に溶けた。それは、そうだ。ずっと、あの世界の崩壊を見てから、気にかけて、あんな馬鹿なことをしでかしていたのだから。
 「イミテーションのリング……ふ。悪くない。」
 中途半端に闇と言う毒素を抜かれてからダークリングは、未だに戻ってくることは無い。今頃、誰かの手にあるのだろうが、それよりも今は、ここにある一つの世界を助けることの方が重要だ。それだけを噛み締めて、ジャグラーはギョロついた瞳を閉じて、イミテーションリングを祈るように。
 「ただ、この世界を抜ければ、それは力を失うわ。」
 「いえ。こちらとて、お二人に頼りにされるのは嬉しい。あの頃のリベンジが出来る。だからこそ、頼みがある。」
 「頼み?」
 「あの緑の髪の男は、俺に殺らせろ。」
 これはジャグラーのリベンジでもある。オロチと言う自分の安らぎとも言えた場所を破壊した場所。あの時、守れなかったモノを、こうしてリベンジ。その奥に湧き上がる沸々とした感情、自分の中で未だに凝り固まった何としても出来ない憎い存在。奴を斬ることで、ある種、自分の中にある蟠りの一つは取り除くことが出来る。
 そういう感情も含み、何よりも思うのは怒りである。
 ヨハン。
 あの男だけは。
 レナ達を、下手すれば殺してしまうほどにまで痛みを刻み付けたやつは。
 絶対に。
 この手で斬ると。
 ジャグラーは誓う。
 『私達がやりたいところだけど……』
 『貴方が望むなら。』
 許可は得た。
 静かに一礼してジャグラーはイミテーションリングを掲げた。
 「アグルさん!ダークメフィストさん!人の心の闇を光に変えた力、お借りします!」
 目指すは、かつて地球と呼ばれていた惑星。

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