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神無月の巫女 対 レガリア The Three Sacred Stars 後編「決着」

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所謂、第二話です。これに一番、時間をかけた気がする。


 破壊神たちの襲撃が終わり、警戒命令が解かれてエナストリアの住民たちは一先ず元の生活に落ち着くことになったのだが、多くの人はだいじな荷物を回収してシェルターに戻る。レガリア・ギアとは違った明確な殺戮を目的とした破壊神達の行動に人々の心には不安が広がる。何しろ、絶対的に無敵であったアレクト、テイシス、メガエラの世間から見れば光の巨人と巨大な光の剣が来訪しなければ勝てなかったのだ。
 不安に陥りながらも、それでも本来の生活に一抹の恐怖を隠しながら生きるのは女王であるユインシエルを心配させないためなのか、会見を行い、現状を語るユインシエル皇女の表情が一番、不安に染まり曇りがちになりそうな表情でありながら明るく振舞う。どことなく、その表情からは健気という言葉が似あう。
 壊滅的な一部の都市。
 家を失った国民。
 しかし、彼らから不安を取り除くようにエナストリアの最北端、最南端、最東端、最西端に突如、出現した巨大な光の樹木が輝き始めている。それは、今後の戦いで必要になる姫子と千歌音が月の社の破片から生み出したもの。一応の神樹の張り巡らされたバリアによって、もう、内部から大地を割ったり、空から降ってくることは無いだろうが、もしかすれば、大地に散った破壊神達の要素が化物になる可能性だが。それに対しては二人の巫女が対策を打っているという。
 抽象的で、それが確固たる証ではないのに、抗議と言うのが出ないというのはユインシエルの人徳の為すところなのかもしれない。
 何よりも国と国民を愛していると思われているユインシエルの痛みを、国民はそれなりに理解しようとしている証でもあった。
 「お姉ちゃん……」
 しかし、今、ユイは初めて国民以上に最愛の人が再度、傷ついたことに誰よりも胸を痛めていた。女王としては失格だと思われても、それ以上に……
 「大丈夫。今、生きているから。」
 母に触れられたことで自分の中にかけられていた記憶のプロテクトが自然に解かれて行く。
 それは自分が自分でかけたもの。楽しいこと程思い出しと、それは失うと辛い記憶になるから。幼いレナは自然と自分に記憶にプロテクトをかけて全てを忘れようとしていた。


 「レナ……」
 いつまでも楽しい時間は続くと思っていた。
 幸せと言うのは、そこにあるのが当たり前だと思っていたし、その当たり前が特別であることなど気付くことも無かった。気付いた時には手遅れなんてのは、よくあることで、この頃は、そんなことに気付くこともなく幸せを謳歌していた。
 この時は、まだ不安な騒ぎで眠れなくなるなんてことは無かったというのに、寧ろ、楽しい思い出しか無かった。
 「んー、なんでもない。」
 毎日が楽しかったという思い出しかない。失ってしまえば、全部が辛い思い出になってしまうほどに楽しかった。
 「一緒に寝たいんじゃない?」
 「あら、夜が怖い?」
 後ろに隠している枕を見つけて、姫子が少しからかうようにレナに視線を合わせて微笑んだ。
 「ち、ちが、そうじゃないもん……」
 一人で寝ることが多くなりながらも、それでも、オロチの支配する何かが闊歩する世界だと一人で寝るのは子供の心を巣食う恐れと言うのがある。動物的な恐怖の本能と言うのは、己にとって絶対的な存在と一緒にいるだけで、それだけで収まってしまうことがある。それだけ、人によっては親と言う存在はあまりにも大きい存在であるのかもしれない。
 恐怖に巡りあった時であろうとも、すぐそばに両親がいれば怖くはないし、一緒にいるだけで安心する。
 「レナはまだまだ甘えん坊さんね。」
 「そういいつつ、しっかり枕を持ってきてるケイに言われたくない。」
 「わ、私は姫子ママと千歌音ママが怖がってるといけないと思ったから……」
 ふふんと笑いながら、レナに指摘されて焦り、子供特有の言い訳をしながらわきに抱えていた枕を背中に隠す姿が姫子と千歌音には微笑ましい。
 「あー、レナー、ケイ、ずるいずるいー!」
 ティアが頬を膨らませながら嫉妬を向けるように、そのまま姫子と千歌音の間をダイブするようにベッドにもぐりこむ。
 「私も一緒に寝るー!」
 「わ、私も……」
 一番幼いティアは躊躇いなく姫子と千歌音の間に入って腕を取って笑顔でセンターを取る。それに影響されるように、レナもケイもサラもノアも嫉妬の眼差しで見つめてくる。
 ただ、九歳と言う、十代に届く年齢と言うのは、どうも素直になれない部分が出てくる。それが大人になるということなのだろうというのを母親として感じて、それを成長と実感して五人の娘を二人で抱きしめた。
 「じゃぁ、皆で一緒に寝ようか。」
 「ま、ママがそういうなら……」
 全てが幸せだった。
 これが崩壊したら、全部が辛い思い出になってしまうほどには。


 めきめきと剣神天群雲剣 に強大なパワーを送った巨大な神樹がエナストリアの国境端で育っていく。植え付けられて、まだ、一日も経っていないというのに、それは二階建ての家一個分の高さを擁して神秘的な光を発していて、夕陽に照らされて幻想的な光を発している。
 昼の太陽の光を浴びて成長した生い茂る緑の葉から夜露が滴り落ちて神秘の煌めきを醸し出し、輝きが破壊神の襲来によって文明と言う光を失ったエナストリア王国の光になっていく。
 溌溂とした子供たちのように生い茂る神樹の存在に照らされて育てられ、人の心に潤いを与えてくれる。襲撃が無ければ一日中見て花見のようなことをしていたいほどだと、その神樹を見た人たちは口にする。
 新たなエナストリアの観光資源になると思われたものの、政府によって発表された今回の事件の顛末によって、また破壊神の来訪を知らせられた人たちはシェルターに避難して、今か今かと襲撃に怯えている状況だった。このまま来なければいいのだろうが、そういう訳にも行かないと、ユインシエルの耳に入ったのは、レナが眠ってからすぐに二人の巫女に聞かされた。
 「あれは……」
 「順調に育っているけど、まだ、足りないのよ……あれでは……」
 「ユイ……?」
 「レナ……起きた?!」
 両手に暖かい感触。ただ只管、時間が止まったかのように沈黙は流れていた。
 目覚めれば、何者かによって、突然、世界中に現れたモニュメントが破壊されているというニュースが流れている。力は失っていない証拠だと気づき、一つの安堵を覚えた。そして、また、夢を見ていた。母親と出会うことで自然と記憶にかけられていた鍵が解除されたかのようだ。
 目覚めた後に部屋の隅々をキョロキョロしながら見まわして、ここが、どこなのか確かめる。レナの中にある空間認識能力は、徐々に重たい身体をゆっくりと覚醒させて少し汚れた天井と柔らかなベッドの感触、視覚は部屋の隅々にある自分とユイの私物を見つめて、改めて脳は、ここは敵の作り出したい空間ではなく自分の世界だということを認識する。
 そうして一先ずの安堵を得て両手に宿る二つの暖かさを感じ取っていた。身体は欠損していないように全身が繋がっているのを全ての関節を蠢かして感じ取る。目玉をキョロキョロさせて首を動かし、生きていることを実感した。あの時、アレクトの痛みが自分に入り込むように切断されたかのような、いや、食いちぎられたかのような痛みが肉体に入り込んだからこそ、あの時、気を失いそうになったのだろう。
 そうして現実に意識は徐々に蘇り、今、自分はここにいるということを実感する。胃が痙攣して、胃液が全て逆流してしまいそうなほどの衝動が襲い反吐が出そうな衝動を、急ぎ、口を抑えたが、いつまで我慢しても胃液が来ることは無い。それが杞憂だと認識して、肉体と意識は改めて現実に戻る。改めてとんでもない戦いをしていたのだろうと思う。
 「夢、見てた。知らない人が二人、私を抱きしめてた。」
 「うん……」
 「レナ……」
 歓喜の涙とでも言うべきなのだろうか。姫子と千歌音は、夢の中にいた女性は涙を流していた。でも、レナは、その二人に見覚えが無かった。故に、何故、自分の名前を知っているのか。そして、どうして、この人は自分の為に涙を流しているのか。ポカーンとしながら戻された現実はレナにとってはユイ以外に知らない人が泣いている。
 「ずっと、レナの手を握ってたんだよ。」
 ユイの声が聞こえる。起きたばかりの肉体には最愛のパートナーであるユイの声が何よりも心地よい。ただ、それは、どこか、自分の二人の女性に対して不信感のようなものを含ませた言い方だった。無理もないが、こればっかりはユイが二人から聞いたレナの母親である姫子と千歌音。
 娘が殺される半ばにおいて来訪した母親など、ドラマにしては出来過ぎているし、それにレナの両親だとしたらと様々な疑問が浮かび上がってくるのも無理はない。
 「どれくらい、寝てたの?朝だったよね?戦ったの。」
 「夕方までずっと寝てたよ。」
 破壊神に蹂躙されて、巨人が舞い降りて、そして巨大な剣が破壊神を貫いて消滅させた。
 「レナ?」
 二人の女性を無視するようにレナはユイに話しかけて、少々、ショックと言うような何か無視される哀しみに満たされた顔を浮かべて、妙にやりきれなくなる。二人の母親と名乗る女の髪に隠れたイヤリングが夕陽に照らされて太陽と月あかりのように輝きが見える程に髪を揺らすほど母親である姫子と千歌音はレナが目覚めたのを確かめて愛しそうに抱きしめた。
 先刻の戦いから目覚めたばかりのレナを見てユイにレナよりも早く、この世界で母親と名乗った姫子と千歌音と名乗る二人の女は、ずっと、この場所で寝室でレナの手を握っていたのだとユイは語る。
 「私の、お母さん……?」
 「記憶は……ないのね。」
 「うん。夢に出てきて、ママって呼んでたけど……でも、本当にママなのか解らないの……」
 あっけらかんと、だが、少なくとも覚えて無いことに罪悪感を抱いていることが解るほどに子供が悪いことをしたことを隠し通すように、顔を少し背けて自分のせいで心が傷ついた人を見ないように頷いた。どうにも記憶の境界線と言うのは曖昧だ。
 記憶にかかったノイズはレナから離れることは無い。この二人との間に出来た楽しい記憶を思い出そうとすれば酷い音と頭痛が肉体を襲い、吐き気を催す。
 「驚くのは、無理もないでしょうね。レナ、貴女は……私達のことを死んだと思っているでしょうから。それに私達は・……」
 「解らない……でも、前まで、親って言葉、嫌いだったから……」
 起きたばかりのレナの頬を撫でながら姫子は愛しい娘との再会を喜びながらも、何かを後悔しているかのように、その幼い肌に触れている。この記憶の喪失の代償は自分達の責任だとでも言わんとしている顔だ。ユイは何となくだけど察した。
 「やっぱり、憎んでいるの?レガリアと……契約させたこと……」
 (やっぱり、あの二人がレナにレガリアと契約させたの?)
 レガリアに契約させたことを悔やんでいるのが解る表情だった。
 口をパクパクさせて何かを懺悔しているようだが、レナには聞かせたくないのか、でも、ぽたぽたとレナの淡い幼い皮膚にはっきりと伝わるようなほどの大粒の涙がレナの頬に流れている。今まで、ずっと捨てられていた。そんな考えが心の片隅の中にあって、それが一気に払拭されたような、自分が子供だったという現実を突きつけられる。
 ヨハンを倒して、ルクスとユイが名付けた少女と別れて数日後から見る夢は過去からの復活。
 ぶっきらぼうに手を伸ばして、そっと、姫子の頬を撫でた。幼いが伸ばした手を両手で慈しむように掴み、姫子は娘の体温や、脈や、何もかもを確かめるように生きていることを実感する。娘の温もり、娘の脈、心臓の鼓動、何もかもを、自分の身体に刻み付けるように、その手を取っていた。
 ただ、この状況に理解できないのはユイもだし、レナも理解できなかった。恐らく、子供の本能がそうさせているのだろうと思う。
 「あなたたちは、どういう人なんですか?レナの両親なら、どうして……?」
 「私の両親……」
 感情が抑えきれないのだろう。
 ユイの思うことも無理はないし、この責め苦は甘んじて受け入れなければならない。それに、先ほど、下手をすれば命を落としていただろうし、ユイからすれば大切な彼女を放っておいてレガリアと契約させて呪縛を与えてレナを長く放っておいた忌むべき両親と見られても他ならないからだ。だが、短い時間の中で解ってしまう。この二人はレナを心から愛しているのが伝わってくる。それは、自分の母親が死ぬまでユイとレナのことを案じていた時と同じ顔だったから。しかし、だから尚更。
 娘として、親として、少なくとも生きている時はレナに無限の可能性の世界へと導くように育てていたというのが解る。それが自分と同じ、女性を愛する女性と言う部分からか、それとも別の部分かもしれないが、そういう部分が垣間見えた。
 「ユイ、怒らなくて良いから。多分、私の手を握ってくれている二人は、信頼して良いと思う。」
 「レナ……」
 「二人の記憶、まだ蘇られないけど、何となくだけど……私達を助けたことは信頼して良いと思う。」
 レナの制止する声を聴いても、なお、納得できないところがある。そもそも、レナを放っておいた理由やら、何やら、ユイからすれば大事な人を何千年も放っておいた許せない人だから。ただ、レナが、そういうのであれば止めなければならないと自分の中の感情を抑えながらも納得できない部分がある。そして、勝手に記憶の改竄とレナまで何を口にしているのだろうと思う。
 「良い彼女を持ったわね。レナは。」
 「う、ん。」
 ぎこちなく返事をしてしまいながらも、申し訳ないと思いつつ、ただ二人の巫女は歯痒さを交えた表情を見せつつも、ただ、愛娘に忘れられていながらも、それでも、そこから、新しい関係を構築しようとしている姿勢が見える。本当は記憶を取り戻させて、レナと幸せな生活を送りたいというのがユイからは、両親を失ったユイからは、かつて、レナがそうしようと努力したような表情を思い出す。この二人は、確かに親子なのかもしれない。恐らく、同じタイプの人間だと、その血を受け継いでいるのだろうとも姫子と千歌音はレナの中にあるユイの感情を理解する。
 「まず私達の話をしないといけないわね。神無月の巫女……姫神の巫女、かおん、ひみこ、様々な名前があったけど、後は忘れた。本当の名前は、私は姫宮千歌音。そして……私の最愛の人である……」
 「姫宮姫子です。」
 「ただ、世界の理を変えた巫女と覚えておいて。」
 「世界の理?」
 唐突に、ここだけ聞けば飛んだ虚言を放つ女だと思うことだろうが、此処まで、どう見ても虚言に近いことが続いてきた分、どうも登場の仕方が仕方であるから真に受けてしまう自分に反応しながら、どうにも嘘を言うにしてはあまりにも真実味が無さすぎるし、真実であるのなら、あんな巨大なレガリアに乗ってやってくることも色々と考えてしまう部分がある。二人の言葉と同時に、夕陽が自分の世界に入り込むのを見た。明るく照らす朝と夜の中間を示す陽射しが二人の太陽と月を司り、母と名乗る巫女を照らす。二人のことを考えて現実を遠く見ていた時、レナの中の生きている証の一つが蠢いた。
 「もう、夕方……」
 「レナ。夕ご飯、そろそろできるから。」
 「なら、今は難しい話はやめましょう。お腹がいっぱいになった時に、聞かせるのが一番良いから。」
 気づけば、心地よい夕焼けの陽射しが当たる部屋の中で、目覚めて、神無月の巫女だなんだと自分の知らない母と名乗る二人の真相を知るのは流石に頭痛が痛いとも言いたくなる。
 しかも、世界の理を買えたと言われても、自分の人生は大っぴらに言って、夢物語そのものだが、それ以上に母の話も突拍子と言えば突拍子だ。自分の話も棚に上げておいて、この麗らかな陽気に長く転寝していたレナの身体は少々、あまりにも現実離れした話で気怠くなっている。
 あの朝の戦いから、ずっと寝ていたと思うと、それはそれで気怠くなるわけだと勝手に納得する。そうして、また厄介な出来事は御免と思いつつも避けられそうにない事態に面倒くささを象徴する人間的な溜息をレナは吐かざるを得なかった。
 ルクス・エクスマキナの件も終わり、それを起動させようとする厄介な連中も消滅したことで、もうこれ以上、何かがあるわけがないと思っていたというのに、突如、現れた七体の破壊神と、それの集合体を破壊した黒と銀の巨人と白銀の巨人の出現。
 アレから、少なくても一日以上、眠っていた。
 破壊神の襲来から一日近くだ。突拍子もないと言えば、突拍子もないが、これが、今、現実として出来てしまっている以上、ある程度は受け入れるしかない。
 折角、ユイと結ばれた日だったというのに一日を潰されたレナの中での怒りは沸々とマグマのように熱く燃え上がる。どうして、前の事件と言い、ユイと大切な障害を乗り越えた時には、丁度よく邪魔な連中というのは面倒な力を伴って来なくてもいいのにやってくるというのか。そんな祝福はいらないから、本心を言えばいい加減にしてほしいし、”死んでしまえ”なんて言葉をストレートに言いたくもなる。結ばれた日に、ああなるのだから、人の恋路を邪魔する奴は地獄に堕ちろという格言を作り出した人間の気持ちが解る。
 それ程、ユイと一緒にいる時間というのを大事にしているからこそ、この時間を壊すような狡猾でいつの間にか巣食っている図々しいゴキブリのような屑どもに対して青筋を立てて隠せない感情を表情に浮かび上がらせていた。
 「今は、ゆっくりしなさい。」
 窘めながら姫子が、そっと、レナの額に掌を当てた。妙に、ほんわかした、心地よい風と太陽の光を浴びながらタオルケットを巻いて日向ぼっこでもしているような心地良さがレナの肉体に包まるように纏わりついた。包まれていると、母の腕に抱かれているような感触、事実、今、姫子はレナを抱きしめていた。記憶には無いけど、これが母の腕に抱かれるというものなのだろうというのは理解できる。
 「早くて今晩には本体の襲撃が来るわ。」
 「はい……」
 素直に従ってしまうレナは一瞬、自分が子供に戻ったような感覚に戻った。誰よりも破壊神を知っているから、その説得力に妙に頷いてしまうのだろうが、一万近く生きてきた体だと言うのに、心は一瞬にして九歳そのものの幼さに心だけが時間旅行したかのような気分に陥った。
 一瞬のことだが、頭がぐらぐらするほどの酔いが肉体の中に襲い掛かる。その頭の酔いは、それがより、二人が自分の母親だということを的確にしているような気がした。なら、何故、一緒に過ごした記憶を思い出せないのかと思考を蜘蛛の糸のように張り巡らせて、何かしら引っ掻けようとするが、それは単なる思考遊びに過ぎず、今のレナには雲を地面から掴むかの如く無理なことだった。
 「大体、二人は、ここにいて良いんですか?」
 神無月の巫女やら、色々とあったし、ユイの気になることに対しては申し訳ないが、その本体をいつ、どこで姿を出すのかの方が気になる。それ以上に姫子と千歌音は何かがあるかのように、どこか余裕を感じているような気がした。
 「また、何か、ああいうのが来るんじゃないの?」
 朝の破壊神のことを思い浮かべて怪訝な顔を向けながらも、あれがまた来るとなれば、正直、レナとしては勘弁してほしい。
 「少し助っ人を呼んだから、そこは安心して。本当は色々としたいのだろうけど、私達の呼んだ助っ人と仲間達が思いの外、本来の彼らの計画を崩しているから。」
 本来の計画と言うのは、恐らく、あの夢で見た一斉に青空を黒に埋め尽くすほどの多くの怪獣や破壊神を呼び出して一気に群れを成して襲うことを言うのだろうと、レナは悟る。ただ、もう、あの時の二の舞はしないとでも言うかのような強かさをもって、二人は、ある程度の余裕をもって、今、この場所にいる。
 どうしてだか、柔和な笑みを浮かべる二人を見れば、そこまでは理解できる。
 本来の予定が崩されるというのは、はらわたが煮えくり返りそうなほどに不快なのはわかる。ある意味、この戦いと言うのは世界を破壊するウィルスと、それを退治するワクチンとの戦いのようなものであるとも言える。
 「助けに行かなくていいの?」
 「そんなに柔な子たちじゃないわ。」
 二人の問題は今は、娘であるレナと、その思い人であるユイを守ること。それが、親としての義務であり、そこにある余裕、何かレナがイングリッドやケイ達を信頼しているような、仲間を思う顔を二人は浮かべていた。そして、少々の焦げ臭いにおいが鼻を刺す。
 「ユイ。」
 「あ、行ってくるね。」
 臭いは、恐らく、調理中に、そのまま火をつけたまま焦がしたものなのだろうと思いながら、鎌首をもたげているルクス・エクスマキナの残骸を見つめる。
 「ねぇ、今、さっきの奴の主とルクス・エクスマキナを叩くことは出来ないの?」
 「どうにかしたかったんだけどね。」
 レナ達の危機に反応して魂の修復の完了と共に月の社から出撃して、惑星を救う醜い首輪を破壊しようと考えたものの、そのワンアクションを起こそうとした時、攻撃を仕掛けて、そして消えた。
 前に無かった自己防衛機能を持って剣神天群雲剣 を迎撃しようと躍起になっていたのだ。剣神天群雲剣 と、かつて互角に渡り合ったオロチから発せられた攻撃をまともに食らえば終わりを告げる。浄化されようとも、無限に迎撃対象を倒すために増殖させて敵を迎え撃つ。そして、いつまでも、そこに縮こまっていてはレナ達が奴らの玩具になってしまう可能性がある。そういう幾つもの状況が重なり、姫子と千歌音はレナを助ける道を選んだ。
 「でも、そういうのがあるのなら、何で、あの時、直接……」
 「復活のために人の恐怖心を吸い取る為でしょうね。惑星を直接、その防衛兵器で攻撃しないのにも、彼らなりの事情があるのよ。人を殺すことが目的ではなく、人の人生を面白おかしく書き換えるのが目的だもの。駒が一つでも減ってしまえば、それは楽しみが一つ減るのも同じ。そして、彼等の操り人形になったレナ達を見せることで、私達に絶望を見せようとした。」
 「ヨハンのやろうとした……」
 「そう。あれはオロチの為に理想郷を作り上げようとした行為よ。皆の愛が、それを妨げたけどね。」
 そこに邪悪な力を感じる。それが明らかなゲロ以下の存在の匂いを漂わせて鎌首をもたげている奴の正体が、そこにいる。だから、一度、ルクス・エクスマキナの残骸を破壊しようとした時、何も出来なかった。三体のレガリアでルクス・エクスマキナの残骸を破壊しようと思ったが、傷一つ付けられなかった理由と言うのも、ご都合的なバリア、いや、破壊神の本体が、あの時点で既に宿っていたからだという。
 それに合わせて、長くオロチ対策を練っていた二人も覚醒したという。過去の世界から、すべてのことを終えて、二人はあるべき姿に戻り、永劫の時間を生きて破壊神を狩るだけだという。
 「……」
 目覚めたばかり、心配が抜けたばかりの二人の緊張感がほどけたのか難しい話の前に、流石に空腹の鐘が鳴った。難しいことを切り上げ、ユイは「ご飯を作ってきます」と言いながら既に席を立っていた。
 「ユイちゃんは、どういう子?」
 「良い子だと思う。」
 変に、ドラマのように親面してくる二人の両親に変なことを言う気もない。どうも、そういう部分は長く生きているうちに終わったのだろうとも思うし、どうしようもないというか、ユイと一緒にいることで、色々と緩和されたようにも思える。そしていつものように二人一緒、いや、今日は客人がいるから自分達の家のキッチンでユイは調理。
 レナは、ただ、それをじっと眺めて談話しながら、今後のことを思い出す。
 最近、見る夢。
 (怖い夢に出てくる、この二人……)
 それと同時に現れた二人の巫女であり母と名乗る女性。
 ただ、それが何なのか、日が経つにつれ、最近、解るようになってきた気がした。あの破壊神に巨人に巫女、思っていた以上に緊迫でありつつも余裕の感じる状況。緊張しなければいけないのに、どことなく余裕を持って、この夢に対して終わりそうな、己の中にある疑問を考えさせないほどの焦りというよりもまったりという感情が似合う。
 「ユイ……?」
 虚ろに夢の意味を考えていた時、レナの言葉も気になりつつ、ユイは、己の世界を見つめたとき、少し不安げな顔を浮かべて国の民を憂う。ただでさえ、不安な出来事は多くなっているのだ。これ以上に負担がかかることはあってはならなないが、世界は非情を伴って常に回りだす。
 「ユイ、大丈夫?」
 少し焦げ臭いに微睡の怖い夢の世界から帰還し、レナは注意する。
 「あ!?ご、ごめん!」
 最近のエナストリア国の周辺に不安な影がちらつき始めたし、その元凶が、二人が初めて身体と思いを重ねて結ばれてから直後に近い時間になる。人間の養分ともいうべきか、それを吸収するためなのか巨大な機械人形、いや、ヒト型、獣型、様々なロボットの中に人間のミイラが収まっている。そこには、エナストリアの住民や他の国の住民が取り込まれて死んでいるという。レガリア・ギアとは違う未知の存在が、この場所で密かに暗躍しているというわけだ。かつて、日本という国の東京に現れた素粒子Z0を撒き散らす存在と酷似している部分があったがゆえに宇宙開発公団に照会はして見たものの、全くの別の存在であるらしい。やはり、姫子と千歌音の語った巫女と破壊神の出来事が全て関わっているのだろう。
 ふと、その横顔を見てしまえば自分の国民が、そうして死体になって晒されていく現状に対して何もできないというのは皇女であるユイからすれば辛いことなのかもしれない。それは恋人同士であるユイとレナの関係からしても、どうにもならない問題。そして、それは二人の巫女と破壊神も関係しているのだろう。
 今まで見てきた夢の記憶と照らし合わせれば、それくらいのことは理解できてくる。
 「そうでしょ?」
 「そうね……ああやって、人の養分を吸い取ってる。」
 それがユイを苦しめている。そういう時、どうすればいいのだろう。ただただ、レナは立ち上がり、母親と名乗る二人の巫女を放って調理場に移動してユイを抱きしめて、気持ちを、こうして和らげるように共有するしかない。淡い希望を抱きながら、こういうユイの心が泣いている時で、こういう時こそどうにかしなければならないというのに。
 「ただ、抱きしめてあげなさい。」
 「そうやって哀しみを共有するの。」
 あの時、ルクス・エクスマキナの事件の後、レナとの壮絶な別れの試練を乗り越えて色んなパターンの別れの妄想がユイを苦しめていた。別れたくない。そして今、また別れる可能性がある。もし、これでレナが死んでしまったら自分はレナを思い出にして乗り越えて見知らぬ人間と結婚するのだろうか。そうして乗り越えることの怖さ。レナが一番だから……レナが欲しいからこそ、その自分が一番愛情を捧げた少女への愛。それを断ち切られてしまいそうな恐怖で悩んでいた時に晴れてレナが自分を導いてくれた、大きく深刻な悩みを解決してくれてから崩れ去る出来事。
 自分たちの純潔を捧げあって永遠とする二人が勝手に作り上げた崇高な儀式。
 破壊神が来るまでは、レナはユイとどういう関係になりたかったのだろうなんて、あの敵が出てくるまでは考えていた。永遠に一緒にいる関係、恋人同士の契りを交わして一つの問題を解決した矢先に、この破壊神の問題だ。
 いずれ、ユイも国の跡継ぎを生み出すために自分以外の存在、自分と肉体構造すら違うものと結ばれなければならないと思うと胸が痛いとか、そういう枷から解き放ったというのに。そうして、それでも大好きだということで互いに最初の悩みは解決したというのに、こうして、別の問題で、しかも世界が崩壊するかもしれないという問題で、またユイが落ち込んでいる。レナを、また失うかもしれない。自分が消えてレナを哀しませてしまうかもしれない絶望感が襲う。
 人の恋路を邪魔して、オロチと言うのは何様なのだろうかと先ほどまで抱いていた恐怖が、徐々に怒りに変わっていく自分がいる。ああして、ユイを不安にさせたのだから、その罪はレナの中で自分が消滅することよりも重いと苛立ちを覚えた。
 「大丈夫だよ。ありがとね。」
 そっと、抱きしめてくるレナの肉体の暖かさ、さっきの戦いで全開したことに喜びつつも、この温もりがいつ消えてしまうのだろうかと不安になる。あのレナの両親と名乗る二人が出てこなければ負けていたことは、戦いを経験したユイが一番良く解っているからだ。手に取るようにユイの感情が解るレナは、力なく笑顔を作り頷く姿が見ていて辛い。
 不安の心臓の鼓動がレナの中にも伝わってくる。あの戦いで、どれほど、自分は迷惑をかけたのだろうということも考えるし、これから起きる問題からすれば重苦しい溜息が本来は楽しいはずの家庭の憩いの場に重苦しい空気が流れた時、ルクス・エクスマキナの残骸が、レナ達を嘲笑うかのように見つめていた。一難去ってまた一難とは、まさに、このことだ。暫くして、ユイが落ち着きを取り戻して日常生活に戻っていた。
 だが、それでもまた苦しくて辛いことが波のようにやってくる。この長く生きてきたことの中で、それが自分の中で何よりも苦しいことになっている。こうして悩んでいるユイに何もできなくなっている自分の無力さを呪いたくなる。
 ユイの彼女なのに。
 無力なのが無限に近い時間を生きていた時よりも辛い。こういうとき、まだユイと契約をしていなければ一人でアレクトを駆って解決していただろうが、今はアレクトを動かすにはユイの認証も必要になるから、そういう訳には行かないから一人で動けない。
 一応、二人でアレクトを駆って探索などをしてはいるものの、そうそう到着した時には敵と呼ばれる機械は鉄屑になってパイロットは死んでいる。機械のパーツを解析しても、そこらへんで作られる鉄の技術で精製可能で、それがいつの間にか。なんてのが当たり前。そうした意味でも、あの時頑張った分、次は……と、言う形でケイとイングリッド、そしてサラとティアはエナストリア王国の周りを探索中で、そろそろ戻ってくる。
 ユイは人数分の食事を、今、こうして調理している。レツを呼ぼうかと思ったが、このことに関わらせて大怪我を負わせるかもしれないのは申し訳ないとして遠慮し、レツにはまだ連絡を入れて異常事態が起きる前に、今はシェルターにいてほしいと連絡は入れてある。
 「ユイ……」
 いずれにしても今回の破壊神での戦闘は自分達の無力を感じさせるには十分だ。世界を助けた三体のレガリアを翻弄させる。事件も含めて、今回の出来事、そしてレナに関わる二人の両親のこと、国を思うユイの心の負担が増えていく。気丈ではあるものの、料理を焦がすとか、そういうことをしていれば、その多生の負担のようなものは長く生きているレナにとっては手に取るように解る。
 それに幸福の絶頂にいたのに地面に叩き落とされるのも辛いことだろう。
 「ユイ……」
 「嫌だな……折角、レナと結ばれたのに、余計なこと考えちゃうの……折角、姉妹じゃなくて、一歩先に進んだ存在になれたのに……」
 「うん……」
 本来は、もうユイを戦いに巻き込みたくないというのに、どうして、また……
 (私達を戦わせようとするの……?)
 満月を見つめながら呪詛を吐き捨てる。
 (こういう時……どうにかならないの……?)
 「私たちは、それを阻止するために来訪したんだよ。」
 「レナ……」
 「え……」
 呪詛を吐き捨て、レナの心境を感じ取ったのか二人の巫女がユイとレナを抱きしめた。姫子と千歌音からすれば幸せが始まる筈であったというのに、引き離された過去がある。まだ、こうして巫女として長くオロチと戦う前の話だ。懐かしくも憎い。
 「オロチ……」
 「オロチ?」
 姫子と千歌音は強い怒りを抱く表情を浮かべつつも優しくレナの頭を撫でた。オロチ、その名前こそ、姫子と千歌音の長年の宿敵でもあるからだ。
 「レナ、ご飯ができたよ。少し離れて?」
 「うん。」
 レナの体温が離れて少し不安になった。思わずユイはレナの手を掴んで、身体から離そうとしなかった。ただただ、その様子を目の前にいる二人の女性は無言で見つめていた。無駄に、重苦しい。
 突然の両親と言っても、記憶のないレナからすれば、何から話せばいいのか解らないだろうから短いキャッチボールのように会話も平凡な返しだけ。
 (そういえば、この二人……)
 重苦しい空気は沈黙しか生まず、ユイはチラチラと改めて二人の母親を見る。レナが眠っていた時は、余り気付かなかったが、ただ夜空のように蒼い髪を持った鋭い眼光を持つ女性はレナを大人にしたら、そういう外見になるだろうし、太陽のような朱色の神を持った女性が先ほど、一瞬見せた笑顔は、レナの笑顔によく似ている。
 それこそが、神無月の巫女と呼ばれる、かつてのレナの世界をオロチから救った巫女の存在であり、レナ・エナストリアの母親と名乗る姫宮姫子と姫宮千歌音。そして、姫子と千歌音が二人の母親であることをユイはレナが寝ている時に名乗られた。少し言葉を紡ぐだけで優しさが包まれた声が心を落ち着かせるも、どこか、それでも、目の前の二人にどう接すればいいのか解らない。それが、どんどん、この重苦しい雰囲気を重くしていく。何か、会話をしなければと思うものの、ユイ自身、今、何かを言っても、ここで如何に母親的な行動を二人がとっても、それがレナに対する贖罪に繋がるとは思えない部分もあるし、ただ、何を話せばいいのだろうかと、それは、目の前の娘もそうだ。積もる話も無ければ世間話なんてするわけにもいかないし、二人の顔から見える罪悪感と言うのは、子供を何千年も放っておいたことに対しての罪悪感から、気安く話しかけてもいいものなのだろうかと言う部分さえも感じ取れて、壁が何かを邪魔しているかのようにも見える。
 こういう時、サラとティア辺りがいれば、壁など無かったように、この重苦しい空気を打破できるのかもしれないが、様々な要素が絡み合った分、そういう訳にもいかないのだと、いや、聞きたいことはあるのだが、どれから聞けばいいのか解らないし、それに関してはケイ達が帰って来た方が良いかもしれない。
 蜘蛛の巣や将棋のように、何千もの会話の口実を考えるが、どれもこれも強引すぎたり、こういう状況で自然的なものを求めている。
 「ねぇ、ユイちゃんって呼んでいいかな……?」
 唐突に、姫子がじれったくなったのか、作り笑顔、とはいえ出来損ないの着せ替え人形のような顔を浮かべて、それがもろの苦笑いを浮かべてユイに提案した。
 「え、はい。」
 唐突過ぎて思わず頷いた。
 「レナの大切な人だし、図々しいけど、そういう風に呼びたいの。」
 流石に、姫子からすれば、この状況と言うのは巫女と名乗る二人であっても厳しい物であったのだろう。誰かが死んだわけでもないのに葬式のように言葉を交わさない状況を作り上げたことに対して、甘い勧誘のような優しく柔和な口調は、それだけで空気を打破した。
 「ユイちゃん、ユイちゃんかぁ。」
 そういう言葉に誘われるように姫子の声が、徐々にどろどろと、まず、ユイの中に生まれた緊張の壁を溶かす。今の現状の中でレナの顔が呆けているように見えるに映るのはレナの両親と再会できたと言う実感が無いからなのだろうか、ただ、無意識に、再会を喜んでいるかのように先ほどから二人の母親の手を繋いでいることに気付く。
 そして二人の巫女はレナの暖かい手を確かめるように繋いでいる。
 「とりあえず、話しましょうか。なぜ、私達が、ここに来たのか。今、二人が感じている異変を。」
 一瞬の、ある意味、今まで以上に現実離れした、この出来事に、まずは席についてもらう。このタイミングで現れたと言うこと、立ち話では終わることが無いと思い、ユイは夕食の席を、まずは設けることにした。
 「ねぇ、イングリッドとケイちゃん、サラちゃんとティアちゃんも来るから、それまで待った方が良いよね……?」
 「そう、だね。」
 「もう少し、お話を待ってくれませんか?」
 「えぇ。」
 「考えなくても、その方がこちらも都合が良いわね。」
 ケイと、サラとティアは太古にレガリアが動いていた時代の住民。この二人の巫女が話すことは、レガリアの契約者ならば全てが聞かなければならないことだろう。そうしてユイたちは他のメンバーに声をかけ始めた。
 「それじゃぁ、ちょっと人数が多くなったし、早めに、その分のご飯も作っちゃおう。」
 「あ、うん。そうだね……」
 メンバーが来るまで、その分の食事を調理している時は巫女のような神聖さが消えたのか、それとも、そういう部分が消えたのか、ただの人になっていた。
 最初の神々しさは消えて、今は、ただ娘と再会できて嬉しい動物のような母親の顔そのものだ。将を射んとする者はまず馬を射よ。とは言うが、姫子のかつての声が、一瞬だけ自分の母親の声に聞こえたと言う部分もあるのか、ユイはいつの間にか子猫のように姫子の甘い声に導かれている。
 「ユイちゃん、大丈夫?」
 顔が母親に褒められて有頂天になった子供のような笑顔を浮かべている。そんな、レナも聞くにないはずなのに大切な人が褒められたからなのか、妙に外見に相応しい年齢の女の子の笑顔を浮かべている。
 「ユイちゃん、随分と良い子ね。」
 「うん。自慢の……妹で、彼女。」
 単純で、それが、どこか可愛い。
 姫子も千歌音のことを誉められれば嬉しいし、千歌音だって、そうだ。その血は、脈々と直接、魂の繋がりをレナの両親と名乗る二人の巫女は感じていた。
 「月で眠っている時、貴女達のことを夢を見ていたけど、こうして現実でユイちゃんを見て、レナが慕っている姿を見ると嬉しいわ。」
 「月で寝ていた?」
 「えぇ。私達の体は、一度、力の回復と共に魂だけの存在になって蘇生したから。」
 オロチから少なくとも、これから娘を護る世界を守る為に持てる力の全てを持って、あの時はオロチの眷属を全て消滅させるために。更に、一度、全ての力を解放するための肉体の消滅まで行い、全ての力を解放して、リムガルドフォール以上の現象を起こし、オロチを封じて、魂は、その直後に社に回収されて肉体の再生と力の復活に蠢いたが。
 「当然だけど、レナは覚えてないよね。」
 「でも、それで良いよ。」
 何処か久しぶりの家族の再会はぎこちない。
 頭を撫でられて不快な感情はしないが、どこか懐かしいと、寂しげな表情が口にする。レナからすれば母の気持ちはどこか空気を掴むと言えばおかしいが、何か手を握った時に感じる空気のような感覚に似ているのか、どことなく解っているし、あの頃は、そうならざるを得ない状況だったのも解っているが、何を離せばいいのか解らない。
 そして千歌音と姫子からすればユイ以上に愛娘を一人にして何年も途方に暮れそうになるほどの時間、放置して眠りにつかなければならない状況に罪悪感を抱いているからこそ、気軽に話していいのか解らない。
 「あ、二人の服……持ってくる……」
 「えぇ。お願い……」
 他愛もないけど凄い話を調理している時に聞かされる。愛娘のレナよりも、ユイとの会話の方が気が楽と言うのも、随分とおかしな話だ。己の中にある、娘に抱いている恐怖心のようなものを害虫を触るかのような手で胸に触れながら、何処か、愚かしくも何ともならない感情に深い溜息をつくしかない。
 何万年もの月日が買えたというのなら、それは自分達の責任の重さと言うのも実感してるし、生きていればと言うのも、それは、また甘えた感情だったのかもしれない。
 「ここ、もう少し弱火のほうが良いよ。」
 「え、あ、はい。」
 そして、気を紛らわすように、ユイの亡くなった母親に似ている姫子は、そっと、ユイの作る料理の手伝いをしていた。少し皺を感じる姫子のどれくらい生きたか解らないが柔らかくも、ずっと握っていたくなる猫の肉球のような柔らかさを持つ掌、その重なる手の暖かさや臭いは、忘れもしない幼い日に亡くなった母の匂いそのもので、思わず甘えたくなってしまう。短い時間だけど、もう少し、一緒にいたくなってしまう。
 「料理、得意なんですね。」
 「昔は、私と千歌音ちゃんも、普通の女の子だったから。」
 少し照れくさそうにしながら、ユイの手伝いをする姿を見て、そっとユイは寄り添いたくなる。母親が、まだ生きていたら、こうして一緒に料理でも作って、もっと家族のようなことをしていたのだろうか。
 「ん?」
 「い、いえ、何でもないす……」
 「レナを、ありがとう……私達の事情に、あの子と貴女を巻き込んで……申し訳ないわ。」
 一緒に話すうちに、姫子が他人のように見えなくなっていく。写真で見た母と何処か面影がある。ただの他人の空似かもしれないし、何かしらの隔世遺伝としての部分が自分達に現れているのかもしれないと考えたが、それ以上に忘れていた母親の温もりを、この人は持っている。記憶を失っても本当に、過去にレナを愛していたと分かるほどには。この母と似た人にユイは少し甘えるように肩を寄せてきた。
 「ん?」
 「ご、ごめんなさい……」
 「大丈夫だよ。」
 知らず知らずにユイは無意識の中に眠る母親に近い人に甘えたかったのかもしれないと思いながら、綺麗な人と思いつつ、ただ、それでも、柔らかな温もり、自分を優しく抱きしめてくれる感触は母親の愛そのものだった。料理する手を止めて良い香りのする巫女服に身を委ねていた時だ。
 「あ、姫子さん……これ、持ってきた。巫女服だと色々と不便だと思うから、着替えて。」
 「あぁ、ありがと。レナ。」
 (姫子さんか……)
 何処か抜けない哀しみに近い表情を受けながらも、レナは少しふくれっ面をしながら、レナは姫子に着替えを渡し出ていく。姫子にユイを取られるのが嫌だと思ったのだろうか。そんな感情が何処か見え隠れして、そういうところは少し千歌音に似ている。そう思いながらレナに渡された着替えを持って、巫女服からユイたちの普段着に着替えるために別の部屋に移動していた。
 (少し、胸がきついかも……)
 (あぁ、姫子も?)
 「レナ……少し、多めに作っておいてよかったよ。ケイちゃんとイングリッドの分と、サラちゃんとティアちゃんの分とか、あの事件があって、皆、報告する。っていうから、すぐに、こっちに来るって。姫子さんと千歌音さんの分、後、姫子さん達の分、足りないから手伝って。」
 「うん……」
 人見知りの子供のように、レナは側にいた千歌音から離れて、急ぎ、ユイのそばに駆けよって抱きしめた。仕方ないと思いながらも、少し手を伸ばして名残惜しそうな顔を浮かべられると、レナとて記憶は無いが罪悪感に駆られてしまう。
 恐らく、良い母親で愛情を一身に受けたのだろう。触れている中で嫌でもわかってしまう。どうせなら、毒親であればよかったのにと思ってしまうほどには、レナにとっては一緒にいると、何故だか、ユイと一緒にいる時のような幸福さえ覚えてしまう。募る罪悪感とどうしようもなさを、どこでぶつければいいのかと、ぶつければより強くなる罪悪感を抱き、ただただ、何も出来ずにユイの暖かさに甘えた。
 「私、お母さんって名乗ってる人たちと、……もう数えきれないほど、一緒に過ごしてない時間の方が多いから。さっきも、千歌音さんと何を話せばいいのか解らなくて、ずっと、黙ってた。」
 「そうだよね。でも、姫子さんと千歌音さん……私達のお母さんに、どこか似てたんだ……」
 「私、昔、両親を恨んでた時があった。でも、ユイに出会ってから、色々と変わって、そういう感情、あの時の戦いを経験して色々と理解して……」
 そして夢を見た。
 あの時、何があったのか。なぜ、愛情を注いで育ったというのに……
 戦における、その難しさと言うのは、どれほどキツイのかと言うのは嫌でも感じた。
 姫子と千歌音の戦いというのも、そういうものであるのかもしれないし、考えるだけで辛い思いはしてきたのだろうと思えば、強く言えるわけがない。ルクス・エクスマキナの戦いで得られた経験というのは大きい物であったと自覚しながら、何処か懐かしく話すようにレナはユイの隣にゆっくり座り思い出す。
 「レナの二人の、お母さん、綺麗だったね。」
 「だね。記憶には無かったけど、でも、凄く優しく私に接してくれてたんだと思う。いつも見る夢でも、そうだった。あの人は、私が、この身体の年齢になるまでいつも素敵で優しかったんだと思う。時々、あの人たちに言われてなんか、嬉しくなっちゃうことがあるけど、そういうことなんだろうなって。それに、姫子さん……似てたね。」
 「そうだね……」
 やはり、あの人の面影がある。
 前女王のマヤ・アステリア。
 何処か姫子に声が似ている部分もある。
 「だから、なんかお母さんに話しかけられてるみたいで、甘えそうになっちゃった。でも、姫子さんと千歌音さんの持つ母性って、本物なんだろうな。って思えちゃうの。」
 「うん……」
 それに少し嫉妬してしまった自分がいたことも。ユイが甘える人間のポジションはレナだけのものだったから。時間が流れる中で、互いにレナの両親のことについて話し合った。まさか、こんなことがあるだなんて思わなかった。
 「でも、今度も会えなくなるのかな……」
 「どうかな……」
 長く会えなかった両親との再会は記憶が蘇らないし、ぎこちないながらもレナにいい刺激を与えたようで、ユイに話したことでレナの、どこか緊張していた部分はほぐれていく。ユイの中にはやっぱり、今のレナにとっては両親じゃなくて自分が一番なんだな。ユイは少しの優越感を得て、これが大好きな人の彼女になるということなのかもと感動に近い実感を覚えて笑顔になって、嬉しくなってレナを抱きしめていた。
 抱きしめてくるユイの温もりを感じてレナも強く握り返す。結ばれたての恋人同士というのは、こういう些細なことでも嬉しくなってしまう。
 「お待たせ。」
 「ひゃっ!?」
 突然、出てきたレナの両親の顔が映り思わず二人は身体を離した。やましいことをしているわけではないというのは解っているものの、こうして二人きりの時間を見つめられてしまうのは恥ずかしさがある。
 「あらあら。」
 「良いのよ。二人とも、恋人同士なのでしょう?」
 ”昔の私達の時代に比べたらマシ”
 そう言っているように声に出さない言葉が聞こえた気がして、ユイは一瞬、不安になった。恐らく、その若さを保っている部分でも理由があるのだろう。永遠に近い刻を生きていることへの苦痛のような部分なのか。それとも、同性愛者というものが迫害を受けている時代があったと言うが、その時に、この二人は。ユイには解らないし、レナは知りたくもないのか顔を合わせようともしなかった。
 「ごめんなさい。ただ、気兼ねなく二人は一緒にいてほしいし、幸せになってほしいから。それよりも、これ、ありがとね。」
 「はい。」
 姫子が苦笑しながら少し重くなった空気を緩和させる言葉を紡いだ。それで、少し大げさに動きながら着心地をチェックしていた。
 「知り合いのなんですけど、ぴったりでよかったです。アオイ達のために用意していた普段着を用意しておいてよかった。」
 ラフなTシャツとロングのスカートを簡単に着こなしている部分は、やはり、長い年月を生きてきた巫女でありつつも普通の女性ということになるのだろう。ユイは巫女になる前は普通の女の子だったという言葉を思い出す。自分達より、4,5歳ほど年上に見える顔。
 嘘とは言えない、その言葉の中にある二人の軌跡は、ちゃんと聞こうとすれば辛いものなのだろう。
 「それじゃ、とりあえず、この後に来る子たちの為に料理をしましょうか。」
 「私達も手伝うよ。レナも、手伝って。」
 「うん……」
 少しクールに、でも嬉しそうに親の前で少しだけ素直になれないレナも頷いた。
 レナからすれば、どう接すればいいのか解らないというのも本音なのだろう。
 親と過ごした時間よりも、一人で生きてきた時間の方がはるかに長い。
 ユイと一緒にいるときの時間の方が両親と一緒にいる時間よりも長いからこそ、どうすればいいのか解らない。戸惑うのも無理はない。でも、こうして再会することが出来たのなら触れ合いたいという気持ちもわかる。
 (でも、どうしたらいいんだろ……)
 思えばレナは常にユイの姉としてそこにいて、ユイ自身もレナの過去に触れようとはしなかった。それ以上に、自分と一緒にいる時間が大切だと思ったからだ。
 「レナ。」
 それ以上のことは言わなかったが、ただ、その瞳は手伝ってほしいと訴えていた。姫子と千歌音もレナとの間に失った時間を少しでも取り戻したいと思っている。この三人の間に何があったのか、ユイとしては気になるところではあるし、おそらく、それはレガリアが関係していることなのだろうというのは理解できる。
 10代にも満たないレナやケイ、サラとティアの身体がレガリアに選ばれた理由というのは、何があったのだろうか。気になるところではあるが、詮索の欲望を切り捨ててユイは自分がきまずい二人の橋渡しになれるように動き出す。
 「ほら、レナ。折角、会えたんだから、お母さんたちを手伝ってあげよう?」
 ユイが背中を押して、レナが改めて動き出す。レナからすれば、恋人の言うことは聞きたいという部分もあったのかもしれない。
 「それじゃぁ、早く作ってしまいましょうか。ケイ達も来るみたいだし。」
 「そう、だね……」
 「それじゃぁ、まずは皆で料理を作りましょうか。久しぶりに皆に会えるし。」
 何かを理解している。
 先ほどの自分達のことを夢で見ていたというのも、あながち嘘ではないのかもしれない。でも、そうなると、この二人はどういう存在なのか。しかも、このタイミングでしかも唐突な登場は、これが何か今回の事件の解決に一気に向かうのではないかと勘が訴えていた時だ。そして、この後、レナにとっては再び後悔の日が訪れるのかもしれない。レナが一瞬、不安の顔を浮かべて、思わず姫子と千歌音の二人を抱きしめた。
 「ねぇ、こレから起こることで、私とユイが離れ離れになる。ってこと、無いよね……?」
 やはり、こうして結ばれたのに別れるというのは正直、辛いものがあるし、己の人生を考えればユイと出会えてからの時間は、この砂時計が落ちる程でしかないのだろうから不安にもなる気持ちは解らないでもない。
 「そういうことされるの困るんだから。」
 「大丈夫。今度は、全てにおいて、貴女を幸せにするために、今、私達の仲間が動いてくれてるから。」
 絶対的な自信を持つ言葉で姫子と千歌音はレナとユイの眼を見て落ち着かせた。レナは、二人の裾を掴んで離そうとしない。
 「絶対に、もう、あの時のようなことはさせないから……」
 「私達に任せて」
 「うん……」
 言葉に力強さを感じた。強い決意を瞳に秘めているのが、その口調から解る程で、親の絶対的に信頼できる言葉を耳で受けて身体に溶け込んでいく。親に甘えたくなる衝動を胸に秘めて、あまりの二人の自信に力なくうなずいてレナは、改めて一度呼吸してから姫子と千歌音に抱き着いた。
 二人の母親は、それを優しく受け止めた。レナの顔には、また失うことへの恐怖に近いものがあったが、どこか、そういう恐怖心は熱湯の中にいれた氷のように溶けていく。記憶のない親を信じることの出来る感情に、ユイも自然と引き込まれて行く。失った母は、最期まで女王で国民を不安にさせないように生きてきた母のようだ。
 「良いのよ。」
 「いらっしゃい。レナの彼女なら、私達の娘でもあるのだし。」
 母親に似た声の女性に抱き着いた。それからは料理をしながら、これまでの話を思い出をレナは、その体に相応しい年齢のように興奮して話して、ユイとの関係や、どれだけ愛しているのか、そんなことまで語り二人は無視することなく聞き入れた。
 やはり、会えない間の娘の話は楽しかったようで、レナも初めて本当の母親の前で笑顔を見せていた。
 「よかった。いつものレナの笑顔だ。」
 レナ自身もやっと、いや、ユイに言われたからかもしれない。
 「千歌音さん、そうじゃない。眠り過ぎたからコツとか忘れてる。」
 「いうわね……」
 そうして、ユイもアシストしていくことで、徐々にレナと親子の間に出来た溝のようなものがゆっくりと埋まっていくのが見えた。蘇らない記憶があったとしても、二人は親子なんだということをユイは見つめていた。
 それでも、ユイとレナの距離を空けないようにアシストしてくれるのも、やっぱり、あの二人が母親であるということが解る。
 「良い子を彼女にしたね。」
 姫子がユイを見て微笑んでから、わざと聞こえるようにレナに耳打ちする。思わずレナに歓喜の感情がレナの中に桜吹雪が舞う心地よさのように渦巻く。彼女であるユイが、そうやって早い段階で母親に認められるのは嬉しくてなってしまった自分がいる。
 「ユイちゃんは優しい姫子にそっくりよ。」
 それを聞いた千歌音は、思わず、口の端だけをあげて笑顔を浮かべた。
 「そういうこと……言わなくても大事にするから……」
 「レナ、お母さんたち、公認だね。」
 ついつい、ユイは嬉しくなって頬擦りした。さっきまでの思いは何処に行ったのだろうかと思えるほどには。レナをとても大切にしていることが解ってしまったから、だからこそ、その奥にある理由には重大なものがあったのだろうと、そこには重大な決断があったことが自然とユイが問い詰めることをやめていたし、それでも、その決断が自分をレナと引き合わせてくれたのだからと、思うと悪く言ことは出来なくなっていた。
 「も、もう、ユイぃ!」
 「ほぉら、二人とも、そうしていると遅れる。」
 自然と、こうして触れ合っていくうちに融解する離れた両親と義理の娘と本当の娘。姫子と千歌音は、少しの間だけ料理する手を止めてユイとレナの二人を抱きしめた。暖かさ、二人とも忘れていた、いや、どこかで求めていた両親の温もりを、こうして思い出し楽しい会話の、この一時、煌めく宝石のような時間はあっという間に終わりを告げて、そして料理を四人が終わらせて盛り付けをした後に、ケイ達が帰って来たのは。
 「姫子ママと千歌音ママ……?」
 「サラ、ティア、ケイ……」
 迷子になっていた子供たちがずっと探していた母親を見つけたように駆け寄ってくる。
 「サラちゃんたちとは、どういう関係なんです?」
 「養子でね。前の時代に引き取ったレナと同じくらい、大切な子供たち。」
 ケイたちに記憶があったのかと言えば、当然、そこに記憶は無かった。
 ただ、レナと同じように懐かしがる素振りを見せていたが、やはり、思い出すことは無い。ただ、それでも、これから起きる一つの災難の為に全員が、席に着いて食事を終えた時、姫子がゆっくりと口を開いた。
 「月には古い社と大きな剣があるの。そこから辿れば遥か昔、レナを産んだ時よりもはるか前の時間、私達は、一万と二十年前、そこからオロチの復活を予感して、この世界に来た。」
 ふと、寒々とした夜空、大きな満月を眺めて姫子は口を動かした。食事をしていた円卓の上で今回の来訪の真相を話す。ケイを初めとしてサラとティア、ノアは記憶にない懐かしき隣人の声に驚きを隠せなかったが、それ以上にレナ達が生まれる遥か前から生きている存在ということにも驚かされた。
 そしてレナは実際の二人の娘として生まれた瞬間、そしてケイ、サラとティア、ノアは、過去の世界でオロチに殺された両親の代わりに二人が養子にした子達である。ある意味、古の人間にとって親とも言えなくない姫子と千歌音が、こうして現代に蘇るというのは実際のシーンを見てしまえば彼女たちにとって驚き以外の感想はないのだろう。
 ましてやレナに至っては両親なのだから。ただ、先ほど、一緒に作った料理という部分から、多少は触れ合えるようになってきたようだ。
 「でも、どうして二人が、ここに……?」
 「そうね……驚くのも無理はないわね。」
 ケイとサラとティアとノアは両親を早いうちに失った分、姫子と千歌音に引き取られて、両親のように慕っていた話をし始めた。
 そこで初めてレナと出会い友人になった太古の文明を一緒に過ごした家族たちの話。
 しかし、その思い出話よりも、今回、姫子と千歌音が降臨した理由の方が今は大事だと千歌音が制して姫子が話しを進めた。
 「話が少しずれたわね。話を進めましょう。」
 「大分昔の話よ。私達が転生をして神無月の巫女と呼ばれ、そして初めて運命を乗り越えて今の姿になった時。」
 「私達の出身地である、この地球と呼ばれた、この惑星の遥か昔の姿……」
 「この惑星が地球?」
 「ここは……」
 遥か昔、一万年前の惨劇と天変地異によって、あるべき文明が崩壊し、地球という名前を捨てたのが、この惑星の真意。
 「そして、私と千歌音ちゃんの大事な記憶がずっと眠っていた新しく蘇り、惨劇を忘れるように地球という名前を捨てた惑星。」
 姫子がそう口にすると、最初に見せられたのは学生服を身に纏う二人の母親の姿と、巨大なリボルバーのようなもの。それは遥か古に創られた八重螺旋並行世界、別名オロチシステム。
 「これが、どう関係あるの?」
 「ルクス・エクスマキナとオロチ、そして、オロチと私達の関係ってところかしら。」
 長く生きて輪廻を巡る内に過去の自分たちが、そして戦っているうちに知った、自分達の幸福を阻むもの。その中核を破壊し、全てのオロチによって委ねられる世界を破壊して人は次の未来へと足を進む。最後の片方の巫女が命を落とすと、世界の弾の入ったリボルバーが回転して次の世界が装填されて各オロチが望んだ世界に近い世界になる。だが、時期が来ればオロチと巫女の戦いが繰り返される。 人の変わりたいという気持ちを利用して延々と繰り返される殺し合いを作り出してしまった人の哀しみを利用した神々の玩具箱とも言える下衆なシステムの慣れの果て。
 全てはオロチの作り出した玩具箱の中の玩具であり、結ばれたことによる別れも何もかも、神と呼ばれる存在に運命を玩ばれていると、それこそ、この世界の人は神の玩具そのものであった。負の思念体が集まれば、神は、その人の感情を利用して気に入ら無くなれば今度は自分達の欲求を満たすためだけに世界の人間を殺して、新世界とは名ばかりの人にとっては腐った現実を新たに創造する。
 人のストレスと負の情念で苦しむことに快楽を感じてならない闇を司る邪神は聖書に出てくる果実を、より邪悪にしたような自分達の愛を玩ぶ二人の巫女にとっては許すことの出来ない存在だった。新たな世界が生まれても、そこで恋愛をして結ばれても、同じ結末が待っていることへの呪い。巫女が生き残れば殺さなければならない永遠の世界が紡がれてきた世界。だが、巫女もゲームを盛り上げるための邪神の生み出した要素でしかない。
 オロチが勝っても負けても動き出すオロチシステムそのものを破壊しなければ、このシステムがある二人の巫女が幸せになる事も幸せな家庭を築くことも永遠に無い。仮初の王者を作り上げて、結局は神が好き勝手に蠢く不快な世界。少なくともレナが生まれる遥か古の時代よりも少し前の時代は、そうなるように支配されていたはずだった。
 だが、二人の巫女も、それだけで終わらせるつもりは全くなかった。自分達の運命を玩ばれることをよしとしない二人の巫女は気が長くなるような、ただ、自分達の愛を引き裂く存在を砕くことが出来ればよいと何度も何度も繰り返す。それがここにいる姫子と千歌音の前世とも言える多くの過去の自分達だ。その時に、現れたのが巫女の宿命というものを知らずに生まれてきた来栖川姫子という一人の少女であり、巫女の宿命を知った姫宮千歌音の二人である。何人もの巫女たちが生まれてはオロチシステムによって愛する人を殺さなければならない結末、何故、自分達が、そのようなことをしなければならない。
 その運命を超越して、世界を変革しながらも己の都合の良いように作り上げるためのオロチシステムはオロチに選ばれながらもオロチに叛逆した一人の少年の裏切りによって破壊されて、最後の修復によって全てやり直されたはずだったが、光あるところに影があるように、オロチは形を変えて出現し、それと数えるのが億劫になるほどの戦いを繰り返してきたのだ。
 別世界でオロチが形を変えて現れるのであれば、本来の世界にいる姫子と千歌音は他世界に分身を送り、世界を救う。かおん、ひみこ、媛子、千華音……自分達が名付けた少女たちが世界を救うさまが映し出されて行く。その運命に抗い続けながら、神無月の巫女は悲観する運命の中で助けを求め慟哭した。 その慟哭を聞き、その運命に苦しむ二人を助けるために現れたのが三人の光の巨神……
 「あ……」
 「この三体の巨神の名はキング、レジェンド、ノア。私達に多くの力を、オロチを封印する為に、そして、それでも私達が私達でいられるために力を貸してくれた存在。彼らが力を貸してくれたから、私達の今が、ここにある。」
 神秘的だった。
 まさに奇跡という言葉を体現したような三人の巨神が二人の巫女を永遠にするために送られた光の力。
 この三体が力を貸したことでオロチは外部の皇帝の名を冠した支配者、ダークキラー、トレギア、ゴーデス、魔王獣と言った邪悪な者たちの力を借りて復活せなばならなかった。オロチはコアから永遠に闇の波動を出して己を復活させるものを呼んでいたのだ。そして、その波動が多くの人間を悪の道に走らせて自分の手ごまとして扱う。
 それから、神無月の巫女と呼ばれる二人は光の巨人たちと出会い戦う歴史を繰り返しつつも、それでも仲間を得たことによって過酷な運命を自分たちのままで乗り越えて愛し合い、レナを儲けることが出来たのだ。
 二人の巫女は超常的な力を発動させて、食卓を囲んでいた部屋は360度プラネタリウムのような宇宙が広がる暗黒世界に映り、姫子と千歌音の言葉に合わせて場面が映画のように変わり始めた。
 宇宙に肉体を浮かせたような感覚に陥り、ユイとレナは溺れそうになりながらも互いに支え合い、イングリッドはケイを抱きしめ、サラとティアは泳ぐように遊んでいた。
 「さて、ここからが、この地球という惑星の歴史。」
 月の社のこと、そして、多くの前世の自分達である神無月の巫女としての宿命を背負わされた二人の過去から始まる、この地球の太古の記憶、形を変えた巫女たちの希望の形と、形を変えたオロチの子孫たちとの戦いでもある。そして、その言葉には可能性を信じた世界や、千歌音と乗り切った未来があったことを告げて、そっと手を握り、千歌音も握り返した。鉄の城のような存在が巨大な拳に変形して巨悪を打ち砕く姿。地球の環境を直すための装置を作り出したはずが、それが原因になって地球の怒りを買うと同時に海と宇宙から強大な力を持った神が街を破壊する巨大な神の獣の姿。7人の青年達が機会と融合し宇宙の犯罪者と戦う姿。巨神に合体する列車達が別次元の人間の野望を砕く。魔を断つ剣の名を持つ城壁のような巨大兵器が強大な力を持った魔導師達に立ち向かう姿。獅子の顔を胸に持つ巨神兵が太古の生物と現代兵器が融合した世界の宝を狙う海賊達と激闘を繰り広げている。確かな巨悪の前にカウンターとしての希望は必ず存在している。
 「この様々な世界には希望と呼べる存在いて、時には私達の世界に来て助けてくれた。光の巨神も、その一つ。」
 その姿は顔が逆さまの巨大なアンモナイトの姿のような邪神と金色に輝く光の巨神が映し出された。全ての人の持つ光が巨神に力を貸し与えているかのような人の持つ光の力、所謂、希望を象徴したような姿だった。鳳凰を司る巨神が人々と融合し、闇の存在に落ちた暗黒の支配者を打ち倒す姿。
 何巡か巡り巡った世界の中で、それは確かにあった現実でもあるのだ。その歴史を噛み締めてはいる。しかし、長く生きているからこそ、そういうことがあるという側面に対してだ。そして希望を司った存在達は人々の発展と進化を望んだ。
 「でも、その世界の希望になった人たちの願いもすべては徒労に終わったんでしょう?」
 何巡も繰り返しながらも必ず起きる人間同士の殺し合いというのは必ずあるのも、それも紛れもない真実だった。人は何度、同じ過ちを繰り返してきたのか。人間同士が戦いを終わらせても、今度は別の場所から支配者が来る。人とは、いや、生物というのは、その繰り返しを無限ループのように繰り返す。生物と呼べる存在の愚かさと虚しさをレナは、その一言で終わらせた。
 「レナの言うとおりなのかな……でも、希望はあったんですよね……?」
 「えぇ。そして、今は、あなた達がかつて、私達と一緒に戦った希望。」
 暗い影を落とすような言葉を吐きながらユイは言う。
 そして、そんなものがなくても一億人が一世紀かけて築き上げたものを、たった一人が一日で壊してしまうことが出来る程のものが存在する。だが、それでも常にパンドラの箱の中には希望があったように、オロチを封印するために戦ってくれる仲間がいた。かつて人の形になる巨大な剣と共に光の巨人が降臨して過去に、この世界に訪れた邪神を討滅したのだという。そうして、いくつかの時代を見せられて、とうとう、太古の時代が映し出されて、ケイ達は驚く。
 そこには、エリヌースのレガリアである三体が目覚めを待っているかのようにボディを丁重に扱われて眠りについていた。
 「レガリアって、じゃぁ、本来は対オロチ専用に作られた……」
 イングリッドがふとした映像と、今までの自分が体験したことを意図を手繰り寄せるように一つ一つ整理して結びつけて、姫子はその反応を見て力なく頷いた。神が自分の姿を模して人を作ったように、レガリアのコンセプトは、まさに、そこに通じる部分がある。
巨大な人の形をした存在というだけで、それが従来の兵器を簡単に覆してしまえば飛躍的な性能を得てしまえば、戦車と戦闘機など、従来の兵器は、まさに玩具と化してしまう。その要因の最もたるものが人に興味を示す、ある種、意思を持つに近いエネルギーであるルクスそのものは自分のように意思を持ちコンタクトを計る為に人に興味を持ち、人の作り上げた当時はまだ概念でしか無かった形だけの人型兵器レガリアに力を宿すことにした。そして契約すれば……と、従来の通りである。
 その真相とは古の世界で突如、出現した従来の兵器では敵わなくなったオロチの差し金によって出現した怪獣等によって従来の様に核兵器などに頼ることなく殲滅できる人型兵器の開発が急がれた。しかし、所詮は、ロボットアニメのように上手く殲滅できる巨大人型兵器など、夢のまた夢の存在だったのだ。
 「じゃぁ、ルクスが、こっちに来た理由って……」
 オロチの新たな肉体であるルクス・エクスマキナ。
 巫女たちに敗北したオロチが多次元の世界の力であるルクスを悪用したことによって、ルクスは形の無いエネルギー生命体であり、オロチシステムという、ある種、本来の身体と言ってもいい肉体を失ったオロチは、その邪神の超常現象的な力からルクスと接触し、新たなエネルギー源として暴食し始めて、新たな肉体としてヨハンを邪神の使徒として、そのエネルギーを最大まで利用できる新たな身体として古代人を騙しながら最大の絶望を与えるためにルクス・エクスマキナを作り出した。
 固定した姿かたちを持たないルクスは自分達が生きるために、また助けを乞うために古の時代の人類たちにコンタクトを取った。そのエネルギー生命体を利用して生まれたのが、第一号レガリアと言う存在である。ルクスは、この時代の人間と似た姿であるレガリアと名付けられた兵器と一つになることで、ただのエネルギー生命体だった筈が人と契約すると同時に人を知り、オロチと戦うためのレガリアの軍勢を作る為の知識を提供した。
 そして舞い降りた剣神天群雲剣と光の巨人。
 神と光の巨人の力を解析し、ルクスと混ぜ合わせることで産まれたのが剣神天群雲剣のデッドコピーとして作られ、ルクスがふんだんに利用されたエリヌースのレガリアの三体だ。
 今まで、何故、そこまで過去に超常現象に近い能力を扱う兵器を作り上げていたのかというのは疑問に思っていたが、後に聞いた水を操るレガリアことロウ、そのような兵器を生み出す絶対的な理由がオロチの存在。オロチ対策用の兵器なら。
「私達が一万年よりも少し前に目覚めた時代、そこには当然の如くオロチの、まぁ、邪悪な波動に感情を支配された怪獣を使役して世界を蹂躙していた。まず、ここから話さないとね。」
 怪獣と呼ばれる巨大生物に対抗するための兵器の一つが、ルクスという、古代人が見つけた未知のエネルギーを利用した人型兵器であり、まだ、それらは未解析の状態で武器として転用された。だが、多く復活した怪獣軍団を前に、それは多勢に無勢とも言える状態であり、当時の防衛隊というのは怪獣映画に出てくる防衛隊のような自然の神秘の前に人の科学の力が赤子の玩具に見える程に脆い力だった。
そこで再覚醒した巫女たちが助けを求める声が聞こえたという、姫子と千歌音は剣神天群雲剣と共に当時、古代人たちが住んでいた地球でオロチの使徒となっていた怪獣軍団を倒した。その光の巨神は人に希望を与えて人の姿となり、この世界に暫くは滞在して、太古の人々から光の巨神となった。また、それからしばらくした後に戦士の頂と呼ばれる場所からミッションとして来訪した、”オーブ”と名乗ったことでオーブと呼ばれた存在と心を闇に魅入られながらも戦士としての誇りを腐らせていない一人の傭兵と出会うことになる。
 彼らと共に剣神天群雲剣と共に己の再復興を誓う象徴になるはずだった。剣神天群雲剣は、まさに太古の人間にとって理想そのものであると言えた。永遠の命、そして神秘の力、得られるだけで羨望の眼差しで見られたことは間違いないだろう。
 そうして、それを操る二人の巫女は神の使いであり奇跡を起こす者である。そこから導き手として姫子と千歌音は多くの人々のために、その土地に居座り続けた。それが過去に起きた、この世界を助けた光の巨人と大きな聖剣が邪神を一度、封じたという最初の神話の一つ。
 「この後に、レナ達は生まれたの。」
 「レナ達が生まれる前に、再生と崩壊、これを何回、繰り返し見たことか。」
 軽めに千歌音が口にする言葉は果てしなく遠い過去の話。それを思い出話のように語る二人は、何年か事の周期で目覚めて、そして今がある。
 「最初はレガリアに契約させる気は無かったの。」
 「そう、なの?」
 「当たり前でしょう……人として幸せになってほしかったから……」
 「でも、そこで、あの事件があったんですね。」
 「そうね。少し話は跳ぶけど、そう。オロチに心を支配された者たちが異空間で作り出した存在、ルクス・エクスマキナの暴走……いえ、オロチによる支配。」
 「オロチ……」
 その名前を聞いた瞬間、トラウマのようなものが抉られたかのようにレナの身体の中に音叉で鳴らしたような音の波が響き渡り、それが頭痛となってレナの顔を歪ませた。オロチ、聞き覚えが、過去の記憶の中にあるが、思い出したくは無いという拒絶反応のようだ。
 ルクス・エクスマキナ……
 オロチの種子が人の中で芽吹き、より確実な方法を得る形で新たなオロチシステムを絶対的な形で支配する存在を姫子と千歌音の意思が介在しない場所”黄泉平坂”に多くの人を招き作られていた、新たな身体。
 オロチがいつか復活することを予期した姫子と千歌音の二人は……
 「オロチの第二封印措置として古代の人間と私達が一緒に作り上げたのが剣神天群雲剣のをモデルにしたエリヌースのレガリア、つまりアレクト、テイシス、メガエラの開発の着手だったの。」
 元より初期のプロトタイプを除けばレガリアと呼ばれる存在も光の巨神と神無月の巫女の二人の駆る剣神天群雲剣の力を解析して、関節構造等を理解して必要なエネルギーをルクスと言う血液で代用したデッドコピー。
 レナ達、エリヌースのレガリアの契約者が不老長寿を得るようになったのは、ルクスの莫大なエネルギーの力もそうだがエリヌースのレガリアという存在自体がレナの言う”大きな剣”の他のレガリアと違い、デッドコピーというよりも直系の子供達であるからに他ならない。リューやロウのレガリアが神無月の巫女の尖兵であるのなら、三体のレガリアは親衛隊と言っても良い。
 レガリア本来の目的はレナ達、古代の人間が神と崇めた巨大な剣の次世代を担うのと同時に、共にオロチを封印する、その先兵達と闘うための役割も与えられてきたがゆえに、そのシステムは巨大な剣と、ほぼ同じシステムで構築されているという。本来、人型兵器としてではなく、そこで作られた戦闘機等の延長線上にある兵器、人型よりも優位に立つ性能を持っていたが、この当時、発見されたルクスというエネルギーは姫子と千歌音が来訪するまで莫大な力を持つ強大なエネルギーとして発見されていたが、何故か、ある程度の武器には転用できたものの機動兵器には流用できずに悩んでいたところである。
 ルクスが使者が人の形を成して現れたように剣神天群雲剣と光の巨神に反応し、巨大な人の形となり、そのヒントを与え、彼らは人を知るために自分達が望む肉体を意志を持つように求めた。それが古代人たちの文明の発展と巫女の率いる神の軍団として参加するという強固な意志を持った者たちの役割を持たせるためのレガリアという兵器の始まりである。
 完成した巨大な人型兵器レガリアは戦車を蹂躙し、戦闘機を軽くいなすほどの力を持っていた。
 「うん。そして、レガリアの完成度を見てレナ達の操る三体のレガリアの開発に着手した。」
 ある程度の解析が成され、それで作り上げられたレガリアの最終モデルが剣神天群雲剣と光の巨神の能力を宿した、最終決戦用として剣神天群雲剣の護衛用としてつくられたのがエリヌースのレガリアの本来の役割であると同時に、剣神天群雲剣の力の6割ほどをコピーしたオロチ第二封印措置システムとしてのエリヌースのレガリア。
 巫女との封印の役割を与えられた三つの奇跡を起こし、もっともルクスの恩恵を受けた存在。しかし、これで巨神に極めて近いものではあるが劣る物を作り出した太古の人間たちは神の軍団として巨神たちと戦う者達、ここまでのモノを作れたのだから自分達のものに出来ると欲望が肥大化しオロチに取りつかれてしまった人間たちの戦いの始まり。
 「その中心にいたのが……」
 「オロチ側の代表として戦っていたのが、この男よ。貴方達の前で少年の姿で現れヨハンと名乗った少年。」
 「そして、私達にとっては親として、もっとも許せない存在……」
 ヨハン、その名前を聞くだけで許せないものが沸々と、穏やかな表情から怒りの感情に満ち満ちて行くように変わっていく。それから、重い口を開くように、それからの戦いの歴史を語り始めた。
 オロチの降臨によって古代の時代の最終戦争が始まり、オロチを封印する役目を持った光の軍隊としての役割は機能せずに終わってしまった。最悪の状況を回避した時には太古の栄華は滅びてしまったのだ。最初は、次の封印が解けた時に自分たちを助けてくれた存在と共に戦うという崇高な志があったにも関わらず、オロチはそれを無に帰すようにだ。そして、その時の記憶の中にいたのが。
 「ヨハン……!?」
 「彼は自らクローンを作り、オロチの端末になることを望んだわ。」
 月の社の夢の中で見ていた、ユイ達の戦いの記憶。ルクス・エクスマキナを作るようにかどわかした聖書の創世記に出てくる蛇のような男。しかし、その存在に気付くことなく天災であるかのように、それは出現して、無限の怪獣は、それは手遅れの状態だった。完全体として目覚めたオロチは端末の人間や精神を支配した人間を使い、ルクス・エクスマキナで世界を完全に書き換えるつもりだった。かつて創り上げた世界を己の好きなように代弁者を産みながらも最終的に己の理想として世界を作り替えるオロチシステムの代替としてルクス・エクス・マキナで人は永遠の平和を夢見てオロチに嘯かれてルクスの力を使い作り上げようとした存在。
 だが、オロチによって実現される、オロチの永遠の平和は人にとっては地獄そのものである。永遠なる平和を築く筈が地獄を作る手伝いをされ、平和を願った心は地獄こそ平和と書き換えられて、そして精神がオロチに満たされ己ではなくなっていく。
 「オロチの望む永遠の平和のために。」
 「破壊神だ……」
 「人間って……技術が進歩しても心の弱さは成長してないし、全くえらくならないんですね……・」
 「そうだね。良かれと思って作ったものが暴走することなんてよくあるよ。でも、そこには確かに希望が存在するの。」
 「それが、レナとユイちゃんを初めとする、貴方達よ。」
 そして準備が整えば世界を侵略するために、億の兵団を持ってオロチは自分の世界を確立するために動き出す。そして、オロチの波動を感じた宇宙人や巨大生物、俗にいう怪獣と呼ばれる存在や、宇宙の獣を意味する厄介な存在達を引き寄せて、別世界から持ち込んだ遺伝子という名の種子を持ち出して、大地の養分を吸い取り、超獣、怪獣というものを蘇らせて人に絶望を与えつつ心の養分を吸収して注意をそちらに引き寄せる。
 「気付かなかったの?この裏で、オロチって言うのが……」
 「恥ずかしい話だけどね。気付かなかった。あの頃は、物凄く……幸福だったから。」
 何処か悲壮を交えた、後悔の笑み。楽しかったというのは本心なのだろうが、これ以上にない幸福だったからこそ、目の前の幸福を破壊する小さな刃にすら気付かなかった。その奥にある何かを見抜けなかったこと、ルクスのことを見抜けなかったことがあるのだろうが、それでもレナ達のせいだと罪悪感を押し付けることは無い。そこにあるのは、圧倒的な後悔だった。寧ろ、自分達のせいで、娘たちに苦行を負わせてしまったことに対する絶対的な後悔。
 「姫子さん?千歌音さん?」
 それが娘たちの記憶喪失を招いたというのなら、全てにおいて自分達の責任であると同時に、あの時代に住んでいた全ての人たちに対して抱く罪悪感を抱く。
 (リュウとロー……)
 ふと、出会ったレガリアの契約者たちのことを思い出す。彼女たちも、二人の巫女に護られてばかりではいられないからこそ、レガリアと契約して、あの生ける屍となり、全てを背負わせてしまった謝罪と、今こうして生きている感謝の言葉を述べた二人と、この自分達の母親と名乗る二人は似ている。
 「これ……」
 「レナ達の時代の最後。」
 言葉が黒の世界に消えていくようにルクス・エクスマキナはオロチと一つになって時空破壊神として君臨する。いうなれば、まさに混沌という言葉が似合う世界だった。
 ルクス・エクスマキナが支配した者達を率いて、既に世界は蹂躙という言葉がふさわしく、抵抗している者達蜂から尽きて敗北するだけ。しかし、全てを止めた時には、既に遅く世界の改変は始まろうとしていた。オロチの集団を壊滅させるために生まれたレガリアの軍勢達は突然の奇襲によって壊滅状態に陥り、死を迎えた。しかし、生産された数を考えればオロチの率いる夥しい怪獣軍団の前には多勢に無勢。
 「レナが……」
 ユイが呻く。
 言霊に引き寄せられるように、場面は太古の時代を生きていたレナが映された。
 それが突然、大地を抉るように現れ攻撃を開始して、気付けばレナ達は数秒で死に至る程の重傷を負っていた。近くにはボディガードの男もいた筈が、それを気付かせない程に。レナ達はいつ間にか、今まで負ったことがないくらいに、身体の半分が失ってしまいそうなほどにぱっくりと己の身体に傷口が広がっていた。下手をすれば、そのまま、真っ二つになって死んでしまいそうなほどに。
 映像の中とはいえ、自分達の肉体が切断されそうな状況を見つめるのは流石にグロテスクで、夥しく流れる赤い血に、吐き気が全身を電流のように駆け巡り、不快感が身体の鮮血を黄土色の何かが上書きするように巡るような感覚だった。
 自分の肉体から内臓が意思を持って腹を突き破り、外に出たがるように鮮血を噴き出すシーンは趣味の悪い残酷なだけのパニック映画を見ているかのようだ。しかも、その対象が他者ではなく自分達。かつての過去の自分達が映画の子役女優のようにグロテスクな映画の主演として、スクリーンの向こうの過去の現実に映し出されている。
 そして、それを行ったのが。
 「ヨハン!!!」
 天使の顔をして内なる心は憎悪の胤を人に植え付ける悪魔そのものだった。
 事実、そうして、この場にいる人間たちの憎悪を植え付けて、起こってしまったのは太古の時代の崩壊そのものである。
 悪魔のような笑い声を浮かべて、その手に持ったナイフでレナ達を斬りつけたことに何も思わずに残酷な笑顔を曝け出して逃げていく。誰もが、あの無邪気さに騙される。恐らく近くにいた男はヨハンを逃げて来た子供程度にしか思っていなかったのだろう。しかし、その殺意を持たずに平然と無垢な少女達を斬りつける。
 現れては消えていく。
 そして、自分達の側にいた男は、レナ達を護れなかった後悔から己の力を呪うかのように哀しみの慟哭をあげていた。
 これが起こってしまった現実。そして、これが、嫌でも再度、繰り返されようとしているという事実。
 この時、死に瀕してしまいそうなほどの大きな傷を負っていた。
 そして、徐々にレガリアと契約していく道手順が絵本を開いて、そのイラストだけで物語が解ってしまうように見えていく。二人が後悔と口にした理由が額から汗が滴り落ちる時間と一緒に理解してくる。記憶は蘇らないが、それでも、この後に起こることは解ってしまう。それから、全てが、今の時代に繋がっていることは容易に想像できた。
 レナ達は嘔吐しそうな身体の暴走を抑えるように我慢し、二人の巫女も現実とはいえ、自分達の娘が傷つくことを良しとせずに顔を背けた。
 「あ……」
 そして、いつの間にかノアが取り込まれてしまっていた。全ての命がオロチの思惑になる前に、これを、そのまま放っておけばノアだけでなくレナは、ケイは、サラとティアは死んでしまう。だからこそ、彼女たちの命を救うためにはエリヌースのレガリアの契約者にせざるを得なかった。
 そのシーンが映像として流れて、歯をカチカチと冬の寒さに耐えられない子供のように鳴らして、徐々に記憶という殻が剥けていく。長く閉じ込めていた感情がレナの心の中で雛鳥のように目覚めようとしている。
 そして古代文明が崩壊するほどに姫子と千歌音は……力を制御できずに感情のままに……暴走した。
 「そうだ……」
 生命の維持も兼ねて、アレクトにレナを。テイシスにサラとティアを。ケイにメガエラを。
 「私達、押し付けられたんじゃないんだ……姫子さんたちに……」
 「助けられたんだ……」
 「いえ。助けられなかったのは事実だし、結果が、これだもの。」
 本当に助けたのならレガリアと契約させるようなことはしないと口にした。あの襲撃でレナ達に傷を負わせてしまった時点で、いや、襲撃そのものを許してしまった時点で、こうなる運命だったのかもしれないと言葉にしないものの思考を身体に巡らせた。治癒する方法はあったが、既にオロチの本体が暴れて世界の改変が始まっている以上、その時間もない。
 これは見抜けなかった巫女たちの生み出した要因であり、カウンターとはいえ、搭乗したばかりの彼女たちに、まだ扱えないし、テイシスはともかく、アレクトとメガエラは完全な契約をしていないがゆえにカウンターとして発揮するにしても威力不足で、どのみち足手まとい。それ故に、その世界の改変を全て元に戻すために、姫子と千歌音は一度、全ての力を肉体が消失するまでの限界を発動させて使い、ルクス・エクスマキナを三体のレガリアに封印。
 そして肉体の再生と力を取り戻すために月の社で眠りについた。そして、これから親無しで生きていくこと、姫子と千歌音の記憶があるのは辛いことになるし、拠り所にしても存在するのに存在しないという現実は心を折られるかもしれない。故に本当の親は死んで孤児として、それでも強く生きるように、ただ望むことしか出来なかった。
 大まかな流れを聞かされても記憶は思い出せないが、ただ、オロチという存在の生で自分達の世界が、ルクス・エクスマキナという存在が作られた理由を知った。心の中に禍々しい憎しみの炎が人の形を成して呪いように手を伸ばす。
 「邪神が封印された時、私、見てた……」
 「レナ?」
 「姫子さんが、良く……月の社のこと、教えてくれた……」
 窓に映る満月を眺めてレナが何かを思い出したように呟いた。レナの記憶の中に、一瞬だけ姫子にひざまくらしてくれたこと、その時に、話してくれた一つの遠い昔話のことを思い出す。大きな剣の中には二人の永遠の巫女が眠っている。
 「月にある、大きな……剣……剣神天群雲剣……オロチを封印できる唯一の存在……」
 神無月の巫女の二人が覚醒した証、それは。姫子と千歌音が全ての力と肉体の喪失まで行い行われた改変された世界を元に戻した後に、ルクス・エクス・マキナは三体のエリヌースのレガリアによって封印され、レガリアの子たちは彷徨い続けることになった。少なくとも一万年も彷徨い続けたことでレナ達は二人の母親を呪ったこともあった。
 「でも、私達は、今、こうして大事な人たちと出会えたから。この時、初めて、大切な人に出会えて生まれた意味を理解したから、後悔してない。」
 ユイと出会えたことは感謝してもしきれない。だから、レナの中に二人の母親に対する恨みはなかったし、今は、恨んでない。
 感謝してるくらいだ。
 「でも、私達は……」
 今でも、それを悔いている。
 後悔の表情を隠さずに、その瞳は娘たちの顔をまともに見ることが出来ていないことにユイは気付く。涙を隠している。慟哭したいほどの後悔だったのだろう。親からすれば、子供たちをああいう状況にまで落とすというのは苦渋の決断と言うのは、一度、レナを失う状況にまで陥ったユイは痛いほど理解できる。
 あの時、助かったとはいえ、奇跡が起きなければ、あの状況でヨハンを倒す為にアレクトを起動させなければレナとは永遠の別れになっていたし、どのみち、ユイの我儘を尊重してヨハンの良いようにさせていたとしても、どのみち、ユイはレナとは永遠の別れになっていた筈だった。二人の思いが奇跡を起こしたからこそ、いまがある。
 それは、ヨハンにケイを洗脳されたイングリッドも同じ感情でいた。
 「でも、生きてて良かった……」
 記憶喪失、思い出せない両親への封印された記憶は、それ自体を罰、十字架と考える。だが、ここまで無事に大切な人と出会えたことが実の娘としては嬉しくて仕方ないという安堵の感情も見えた。記憶を失っても愛する人が、そこにいれば、それで良いというのは、それはそれで胸が張り裂けるほど、慟哭したくなるほどの悲しみが、姫子と千歌音の中にはあるのではないだろうか。愛娘であるレナだけではなく、その養子であるケイたちの記憶も無いというのは、実際、平常心を装っていたとしても、時折、見せる暗い表情の影は言い切れない人としての感情が、そこにあるのだろうと語りかける姿を見て二人の最愛の愛娘の彼女は思う。
 「本当はレナが望むなら成人になるまで、レガリアの契約もさせたくなかったし、そのつもりもなかったのよ。レナはレナのまま、皆は皆のままでいてほしかった。って、言えば、言い訳だね……憎しみに捕らわれてしまった分、自分の憎しみに負けてしまった分、私達は冷静な判断が出来なかった。」
 「親として最低なことをしたわ……焦っていたから、選択を熟慮できなかったわ……そして、貴女に憎しみを植え付けてしまった……恨まれても仕方ないわ。」
 レガリアと言う魂と肉体を、ある意味では時の牢獄に閉じ込めるということは出来ないし、その覚悟を持つ人間に与えることですら酷なことだ。
 「私達は、恨んでも良いから、貴女の中に私と千歌音ちゃんがいてほしかった。悪役でも、自分達を捨てた両親であっても。でも、レナ達は、それが怖かったんだね……だからレナ達が自分で封じた記憶。」
 「え?」
 「楽しい記憶ほど、日常を失ってしまうと、思い出すと辛いし、憎んでしまうよ。」
 姫子の中で千歌音と一度、離れ離れになった時の哀しみを思い出す。
 既に、世界から、何もかも、千歌音に対する痕跡は無くて、あったのは互いへの感情という、普通の人ならば崩れてしまいそうなほどに、塩の柱と肉体が変化したほうが、まだ楽だと思えるほどには慟哭しそうな感情を無理やり抑え込んで、それでも再生された後の世界で再会したこと。
 (あれ?)
 姫子の瞳を見つめた時、姫子のかつての思い出が、一瞬だけユイの神経を走った。今まで築き上げてきただいじなモノが、全て水泡に帰してしまう虚しさはユイからすれば、ルクス・エクス・マキナで全ての人から記憶を奪われた状況に近いモノがあるのかもしれない。考えただけで、悍ましくなる。
 大事な人から自分の記憶が消える、大事な人が消されるというものを体験した、あの体験は短いながらもレナの生きた道を疑似的に経験した事は、世界から自分と言うイレギュラーを追い返そうとしているかのように駆除されて行く害虫に等しい気分になったことが苦みを口に服した顔をユイが浮かべた。
 そして、それが、また起きようとしていることを考えると怒りも湧くが、それ以上に恐怖に近い感情も湧く。それに、エナストリアが巻き込まれた以上、戦わなければならないということも十二分に理解できる。それが、下手をすれば、今後の自分達の生活に不安を与えて種になる可能性があるということも、ヨハンの危険性や、あの危険な装置を見てしまえばわかる。今、力を持っているのは自分達だけと言う部分もあるし、レガリアと契約した時点で、こういう部分は覚悟していた部分もある。何より、エナストリアの国が巻き込まれた以上、戦えない者達の牙になるために、そして、何よりもレナとの大切な生活とこれからの道を守る為に戦ってきたユイが心配になるのは一つ。
 「レナが私の前からいなくなる……そんなことにはなりませんか?」
 真剣な眼差しでユイは姫子に問いかけた。唇が震えて、ユイの中で言葉を発しただけで一瞬、恐怖が眩暈となって襲い掛かる。意識を何かに吸われてしまいそうだ。言葉にしてしまうだけで全身に遺物を詰められたような違和感が覚えて、自然と脳内がレナがいなくなった世界をシュミレートされてしまう。
 そのいなくなった後の結果は自分が自分でなくなるような、自分のアイデンティティが否定されたような世界。レナとの思い出と一緒に生きた世界と自分の否定にもなる。レナが消えることはあってはならないし、もう、これから、それがあるならユイは許すつもりもない。血の気が引いて、顔が青ざめて、それだけでユイの中に渦巻く嵐のような感情は、何を考えているのか解る。
 「そうさせない。絶対に。」
 強い口調で姫子がユインシエルに告げる。あの悲劇を、もう、レナにもレナの愛する人にも味わってほしくないと力強く宣言する。ユイの中に起きた心の嵐を輝かせて、それを晴らすように姫子の言葉がユイの中の嵐を晴らして太陽のように変わっていく。まだ、余り出会っていない人だというのに、それでも、力強く感じてしまうのはレナの母親としてと言う部分もありながら、レナを愛する人を護るという親としての使命感があるのだと言葉を聞いてレナは、そっと姫子に身体を委ねるように摺り寄った。
 「それに、勝つための保険は出してあるの。」
 「保険って、まさか……」
 レナの脳裏に過る。
 「そう。一万年前、私達と一緒に戦った戦友。」
 「ねぇ、そこまでは解ったけど、何とかならなかったの?オロチって。」
 サラの疑問はもっともだろう。だが、オロチの存在意義は人の悪意とストレス、憎悪を含む負の感情を利用して何度も蘇る人の負の感情をつかさどる神に等しい存在への変質。人と言う存在がいる限り、完全に滅することは出来ない。いわば、人の心の闇ではなく、人の負の感情を糧にして産まれる結晶体であるオロチ。人からマイナスの感情を奪い取らなければ、それは、どうにもならないし、それは、それで人が人でなくなる瞬間でもあるだろう。
 「それが私達、神無月の巫女と共に戦うエリヌースのレガリアの本来のパイロットたちの役割。そうして、永遠を刻むはずだった。」
 「本当に、レナ達に、その大役を担わせる気は無かったんだよ。」
 「そっか……」
 息を切らしたようにレナの瞳に、白黒のテープが雑になっているかのような映像がレナの脳裏に再生される。最後に見た母たちの笑顔はとても明るいもので、それは精一杯不安にさせないためのレナ達に見せた笑顔だったのだろう。しかし、迫り狂う炎とは違う消える恐怖の世界の中で母たちは苦心して自分達を生かすためにエリヌース・レガリアの契約者としてレナ達はある意味、再誕させた。
 「レナ、どうしたの……?」
 「あの頃の、二人の顔……思い出したから……」
 いつもの彼女の様子ではないことは誰から見ても解る。そして、それはレナ、サラ、ティアの顔も見て解る。一万年の記憶で結ばれた者たちが、あの時、最後に見た瞬間は最愛の母たちの笑顔。戦場に向かい、書き換えられた世界を元に戻すために動く二人の母と光の巨神。
 「だから……」
 レナの記憶が母たちとの最後の別れの時を。思い出す記憶の中では自分達は子供過ぎて理解できず、ただ、危ないという状況の中で自分達を生かすことだけを考えてくれた。
 「本当なら、もう少し、一緒にいたかったんだけどね。」
 「でも、また会えてよかった。」
 一つの誤算と言えば、ルクス・エクスマキナの早い復活ではあったが、それをユイ達が阻止してくれたのは、今、この時間においてオロチの復活は完全にできなくなり、あの頃と違う状況になったということだ。だが、ヨハンは、もしものことがあった時の為にいつでもオロチの魂を玉座に降臨する準備はしていたようだ。王でありつつも、それは、代理の存在。いや、ヨハンが王だとするなら、オロチは王の崇拝する神と言ったところか。
 「じゃぁ、あの時、あっさり負けを認めた理由は……」
 「すでに、オロチの降臨の用意はしていたからでしょうね。そして、それはすでに降臨している。」
 「すでに……?」
 「えぇ。一度、ルクス・エクスマキナを破壊しようとしたでしょう?」
 それは、ユイがレナとレガリアの契約をしてからの出来事であり、そして、あの場所でヨハンの駆るレガリアを圧倒するまでの出来事。辛くも二人の関係を一気に進めた、ある種の忌まわしくも大事な思い出とでもいう時間である。
 「そういえば、そこまでオロチのことを感じておきながら何で、前までは助けてくれなかったの?」
 「そうね。他のことに力を使いすぎてオロチの復活を予期できなかった部分もあるわ。」
 どうせなら、あの時に来てくれればと、この場にいる誰もが思った。
 「それに対しては本当に謝らないといけないのは解ってる。まだ、魂の修復と身体の再生は完全では無かったの。それに、いろいろと、こういう時のための準備もしていたこともあるけど……でも、こんなのは言い訳ね。」
 「ごめんなさい。」
 あの時に動けない理由、魂の修復に肉体の再生と、伊達に長く生きているとか、そういうわけでもないのだろうと、言葉を聞くだけで蘇る一瞬の過去の母との思い出の中に、類似するものというものがあるというのだが、その先に手を伸ばそうとすると雲を掴んだかのように消えていく。
 そして、その先を知ろうとすればホラー番組のように青白い手がレナの肩をそっとつかみ、その先に行くことを、それを知ろうとすることを拒否する。触れられた血の気の無い手はぞわぞわと力を込めてレナを行かせないようにして、引き戻そうとする。その先に何があるというのか。この先の思い出に、その先に大切なものがあるのなら。しかし、掴んだ青白い手はレナの、そう言う興味本位の中にある恐怖を表すようにレナの足が前へと進めば進もうとする程、青白い手が邪魔をする。
 前を進もうとすれば、青白い手に反応するように喉の渇きが激しくなって、全身に嫌悪に近い鳥肌と悪寒が走った後に、全身から気持ち悪い汗が、べっとりと滲み出る。この先にあるものが何かなどということに興味を抱くことすら許されないような身体の反応に、ビクつく肉体は神経を失っていくように、今度は感覚というものが消えていく。いったい、あの魂の修復と体の再生、そこまでのことをしなければならない敵である、オロチ。
 完全な復活は見えなかったこと、ルクス・エクスマキナの中にあるオロチの端末の一つであるヨハンを用いて、己が復活しない間に地上の人間を、この手で支配しようとした王になろうとした古代人、完全復活したオロチという災いとも呼べる存在と、先ほどから、オロチという名前を聞くたびに頭痛が酷くなっていくのを感じる。
 「レナ、大丈夫?」
 「う、ん……」
 姫子が瞳に涙を溜めているかのように瞼を腫らして、こちらを見つめてくる。そっと、手を握りながら見つめてきて、姫子がレナを抱っこして子供を慰めるようにレナを優しく抱きしめた。こうされるのは、子供扱いされているようで、いつもは嫌うはずだというのに、今は何処か心地いい。本当に、この人とは家族だったのだろうと思う。
 ただ、それが何処か引っかかるように噛み合わない何かが自分の中にある。
 記憶を封じたのは自分、その意味、レナは目隠しされたまま迷路に放り込まれたように手探り状態だった。サラとティアは一瞬、そのレナを見てからかってやろうかと思ったが、何故だか、その光景を見るだけで言葉を詰まらせた。
 「レナ、ずるい……」
 「け、ケイ……」
 「私も、姫子さんにこうしてもらいたい……」
 「それじゃぁ、私が抱っこしてあげる。」
 「ずるい。私も乗る。」
 「ティアも。」
 太古の時代から生きてきた記憶の殻が剥がれようとしているのだろうか。思い出すのは、ただ、ああして、あの二人に抱きしめてもらうだけで蘇る微かな幸福の感情。それは、親子だからという部分も起因してのことなのかもしれない。
 だからこそ、記憶には無いというのに心地よさだけが残るアンバランスさが妙に、いたたまれなくなる。姫子の膝の上に乗ったレナを撫でて、物干しそうにレナに羨ましさを隠せないケイは隣にいた千歌音の膝の上に乗って満悦な顔を浮かべる。あぁ、あのころのままだと姫子と千歌音が懐かしげな顔と一緒に、これ以上、この新しい幸福を壊したくないというように二人を抱きしめている。
 このレナという幸福の証が出来るまでに様々な人の犠牲の上で成り立ったものであるということを噛み締めているような、それ故に覚悟のある瞳を抱いている。強い人間が持つことのできる瞳だった。
 「……」
 仮に、不完全なままで目覚めていたら不完全とはいえオロチを倒せていたか解らない。さらに復活の前兆とはいえ、ルクス・エクス・マキナに関しては目覚めることは無かったのは完全ではないからという部分もある。ましてや不完全なままで目覚めたら、この後のオロチに勝利できるか解らない。だからこそ完全に目覚めるまで待ちたかった。
 「そして卑怯な逃げ口かもしれないけど、二人の絆なら……って信じたかったの。ユイちゃんとレナの絆を。それに、貴女達はルクスの呪縛からケイを助けたことも見越して。」
 「でも……皆が死ぬようなことがあれば、私達は……」
 レナは不満をちゃんと口にしようとしたかった。しかし、それを遮るようにユイは姫子と千歌音を見て自分の考えを口にした。
 「でも、私は、それでレナと恋人同士になれたし……その、レナが前に言ってくれたでしょ?レガリアと契約したのは、私と出会うためだったのかもって……」
 もぞもぞしながら、ユイは周りを見つめてチラチラ見つめながら口にする。完全に目覚めていない、前兆とはいえ、カウンター兵器であるがゆえにとはいえ、彼女たちがオロチの力を司るルクス・エクスマキナに勝利できたことは確かな真実である。
 それだけでも、あの戦いはオロチの完全復活を妨げることに成功したのだ。まさにユイとレナを代表するエリヌースのレガリアを駆る少女たちの愛の力で。そして、それはオロチと戦う者たちの勝利の絶対条件である。姫子と千歌音も愛の力でオロチに勝利したように。
 「オロチって……」
 「さっきも言ったけど、オロチは負の感情の思念体のようなもの。下手をすればレナの思いとユイちゃんの思いはオロチに利用される。そう思っていたけど、杞憂だったみたい。」
 姫子と千歌音は、この時代に起きた大きな事件、リムガルド・フォールから始まったオロチの暗躍。思えば、ヨハンが狡猾な言葉でユイとレナは引き離されそうになった現実。
 「でも、貴女達は私のようにならずに済んだ。私も貴女のように、心を強く持てたら、あの時……」
 「あの時は、千歌音ちゃんのせいじゃないよ。」
 何かあったのだろうか。長く生きていると、それなりにあるものがあるのかもしれない。レナの知らない両親の……
 「あ、それって。」
 「れ、レナ、その時のことは話したけど、言わなくていいのよ?!嵐のことは内緒って……」
 「あ、そっか。」
 レナの表情が何かを思い出したように、あどけない表情に満ちていることを確認することもなく千歌音と姫子は触れてはならない自分達の過去の話を淡々と切り上げた。
 相当、根が深いというか、トラウマということなのかもしれないが、恋愛がらみの事なのかもしれないし、二人の秘密ということもある。ただ、それを昔、聞いたことがある気がした。脳内で処理されるレナの記憶。思えば、この話を聞いてしまったのも、ほぼ偶発的だった気がする。時折、こうして墓穴を掘っていたことを思い出しつつも、まだ、この二人が自分の両親なのかどうかは解らないでいた。
 「あ、でも、オロチが来たってことは、そろそろ、何か大きいことが。」
 「それについては、長年の友人に声をかけておいたわ。」
 「友人って……」
 「光の巨人……?」
 「そう。彼が動いてくれたおかげで、今、オロチは、そっちに行ってるわ。貴方達がルクス・エクスマキナを基礎部分を破壊してくれたところもあって、おかげで、今回はいつもよりも楽になりそう。」
 「そっか。」
 一瞬、光の巨人の姿が脳裏に走る。
 「……レナ?」
 思い出される光の巨人は母と戦ってくれた一人の巨人と、もう一人の鎧武者のような姿をした等身大の戦士が一人いた。
 「あの二体、来てるの?」
 「えぇ。」
 レナが思い出していたのは、その光の巨人と鎧武者のような姿をした等身大の戦士の姿。
 「あ……」
 あの時、助けてくれた巨大な刀を持った一人の黒のかかった巨人の戦士の存在を思い出す。しかし、前に見たのと一度違う。だが、その雰囲気は過去に出会ったことのある一人の戦士であったことをレナは自分の体験を思い出しながら思い出を脳裏には知らせて、本当の、この身体の年齢の時代を思い出していたからだ。神事などで両親が忙しかった時、色々と遊んでもらった思い出。そして、思わず、もう一人は、その光の巨神としての姿と人間としてのギャップが妙にある人だったと、そういう思い出だ。
 「……でも、前は、この力を持っても……」
 惨劇は起きたこと、それが常にレナの夢の中で流れていた。
 「そうね……」
 でも、もう、あの過ちを繰り返すわけにはいかないというかのように、そのための策を二人は練ってきたという。もう今度は苦しみが無い世界として送られたはずの世界に生まれながら、惨劇は何度も起きた。それを繰り返さないように。そして、さらに新たな戦力もある。
 「そんなのに、私たち、勝てるの……?」
 イングリッドが思わず呟く。惨劇の夢の出来事、それを引き起こした邪神オロチと呼ばれる存在、今なお、蘇る悪鬼ともいえる象徴。
 「勝つしか無いわ。それに、エリヌースのレガリアの力の源があれば。」
 「エリヌースのレガリアは私達のアメノムラクモのデッドコピー。」
 「そして、アメノムラクモを動かし、絶大な力を与えるのは私達の愛。」
 「愛の源……?」
 「愛よ。」
 「愛……」
 「愛し合ってるでしょ?特にユイちゃんとレナ、イングリッドちゃんとケイは。後、サラとティアとノアはレツちゃんとかしら?」
 思い当たる節があって思わず、二人に指摘された三組は漫画のように赤面をしてしまう。それだけで、若いって羨ましいという顔をするかのようにニヤニヤしながら見つめている。指摘された全員が全員、彼女たちは愛が神秘的な力を知らないわけではないし、信じていないわけではないが、いざ、こうして言われてみると恋人同士である関係を冷やかされているようでひやひやしてしまうものがある。
 「だって、あなた達は試練を乗り越えて強くなった。思いの強さも、何もかも。愛の力も。そして、その敵が促した試練に打ち勝って愛の力で強くなったのだから。」
 「人の愛の力だって、表と裏がある。誰だって闇を抱えてるけど、その闇を抱きしめることで、強くなるんだよ。」
 姫子が恥ずかしげもなく語る台詞に、一瞬、千歌音以外が赤面をしながらも嫌な気分ではない。ユイとレナは愛し合っている。親が、そうだからこそ見抜ける娘たちの関係。それは、その絶対的な負の感情の思念体は純粋な愛を知らない、知ろうとしない、知ろうとしても闇を抱いて光にする力が負の感情に取り込まれるオロチへの大きな武器になる。姫子と千歌音の戦いが、そうさせたように。あの頃は色々とあったが……だが、そのたびに二人の絆を強くさせて勝利へと繋がった。
 そして今度はユイとレナも、かつてと同じ手段で絶望と敗北に追い込もうとしたが、オロチの端末は、それを予期できなかった。だからこそ、敗北したのだ。ユイとレナ達のエリヌースのレガリアのパイロットたちの愛という名の絆の深さはヨハンの思考を越えていた。だからこそ、エクテレウ・アレクトという奇跡を愛の力は生み出し圧倒して孤独だった絶対的な力を持っていた存在を倒した。それを指摘すると思わず頬が赤くなる。単純だけど得るのは難しい愛という絆、其々の育んだ愛が全ての闇を抱きしめて光に変えることで起きた奇跡。それはエリヌースのレガリアが姫子と千歌音の駆る剣神天群雲のデッドコピーであるとはいえ、その織り成す奇跡の力の根本を受け継いでいたからともいえる。
 「ホント、厄介だよね。その愛って力。不安定なのに、いざとなると、こっちを滅ぼすほどの力をくれる。」
 突然、見知らぬ、いや良く知っている懐かしくもあるが思い出したくない声が響く。その存在の消滅によってルクス・エクス・マキナの消滅したはずだった存在の声。突然の声に臆することなく呟く。それは勝者の余裕なのか、敗者への哀れみなのか。
 「それで、今日は小言でも言いに来たのかしら。」
 「そうね。いつもの手段。」
 「そうさ。」
 「ヨハン君!?」
やっぱりというより、その人でありながら凶器を孕んだ笑顔を少年の顔を見つめて驚くことなく、ただ、淡々と語りだす。
 「君たちが知っているのは、前にルクス・エクス・マキナに残ってた僕のプログラム……結局、長い年月、いすぎて人の情に負けた馬鹿な奴か。おかげで、こっちは台無しだよ。上手くやってれば、祭は出来たんだけどね。あいつはルクスに取り込まれた後に解体されたよ。不必要だからね。その代わりに、ボクが来たわけ。それでさ。」
 ヨハンによく似た存在は前任者を小ばかにするような相変わらずの口調で、だが、微かな怒号を交えて露骨な憎悪の感情をレナとユイたちに向けている。どうやら、彼にとっては相当な誤算だったらしい。だが、それは此方も同じだ。
 「私たちが完全に目覚める前にルクス・エクスマキナを使って世界を消失、または荒廃に追い込もうとしたんだろうけど、でも、私と千歌寝ちゃんの血の繋がった娘のレナに、そのレナが一番愛情を注いだユイちゃんと、ケイにイングリッドちゃん、サラとティアの抱く愛情に、貴女は勝てなかった。私と千歌音ちゃんが、愛を確認した後にオロチを滅したように。」
 「どうしたの?下準備が失敗したから、こちらに来た。そういう感じかしら?」
 「いつも、貴方達のやることは同じ。人に淡い幸せを見せて、そして、波が砂の城を壊すように殺す。今回も、あの頃のようにレナ達を殺すことで勝利を得ようとしたけど、流石に、エナストリアに張り巡らされた結界から、己の力をある程度、封印されてしまったというところかしら。ナイフすらもてない程に。」
 こいつのことは良く知っている。そう言うかのようだ。正面から裂くことではなくじわじわと引き裂くことへの味を占めたオロチは攻撃を繰り返す。思い出したように、姫子と千歌音は、あの時のことも、あの時のことも全てを思い出す。娘たちを惨殺した糞野郎として認識されている。
 「そして、こうなった時のための侵略プランもあったみたいね。でも、全部、光の巨人が全てを潰したことで、殆どの予定が崩れてしまった。ってところかしら?」
 「あぁ、そうさ。キング、ノア、レジェンド……異世界の厄介な神々が君たちに加担するから大変でね。保険の為にオロチが侵略をしやすいように作っておいたプログラムが、こうして君たちの輝かしい活躍によって、こっちは苦労したんだし。後手後手に回り過ぎだよ。」
 「でしょうね。ルクス・エクス・マキナをレナ達が破壊したこと、大きすぎる痛手だったみたい。おかげで、こっちは物凄くやり易いわ。それに、私たちは、もう昔のような二の轍を踏むわけにはいかないの。」
 「世の中、ヒーロー映画のように、こちらがわざと貴方達に見せ場を作る必要はないからね。」
 オブジェの破壊に光の戦士の降臨、そして、何よりも姫子と千歌音の魂が完全に再生されるまで時間がかかった理由、何よりも、全てにおいて、この害虫に等しい邪神を滅するために。鋭くヨハンを突き刺すように言葉の刃を投げつけた。現在のオロチが現代世界に出るためには負の感情を集める必要がある。人の負の感情が媒体であり、そのものである邪神は人の中にある負の感情を吸い上げることで、己の復活を目論む。
 極微量、徐々に、徐々に、小さな蟻が家に侵入して、食物を貪り、巣を作るように醜悪な群れを生み出して、人の世界を害虫たちが支配する。そして、数が揃えば巫女を殺して己の脅威を完全に封殺し八重螺旋並行世界の新たな確立、新たなオロチシステムであるルクス・エクスマキナを完成させることが今の目的である。
 復活を得て未来永劫、自分の求める世界に書き換える。元より、人という存在、部下を捨て駒程度にしか思っていない邪神オロチがヨハンという存在を遣わせたのは、ある意味では、異例中の異例であるともいえる。恐らく、そのヨハンの中に眠る邪悪さが愛しくて仕方のない母親のような心境なのかもしれない。いや、このヨハンという存在自体が。 
 「オロチの子供っていうと、言い過ぎかもだけど、僕はオロチから作り替えられた存在なんだよ。一度、肉体が、そこの巫女様によって崩壊を迎えてね。そして、この若い身体のまま、この世界に転生したわけ。あの頃の、一万年前の僕は、あの時、何人かの人間を、こっち再度に引き寄せるために、あっちに行った人間だけど。」
 「いいえ。貴方はオロチに魅了されて、その魂を売っただけ。」
 人間世界に溶け込ませて人間を引き込み、自分達、オロチに選ばれた人間たちを使い、面白おかしく人の人生をゲームのように扱い、そして苦しめて支配する。その邪な計画に異常性すら感じずに寧ろ、愛しささえ覚えたかつてのヨハンはオロチが、ただの捨て駒にしておくにはもったいない存在だったのかもしれない。
 「いやさ、大神ソウマだって呼び出せるんじゃない?でも、僕を選んだ。ってことは、奴はオロチにとって核弾頭に等しいんだよ。呼んでも呼んでも奴は反乱するだろうし。だから、あの時、僕はソコにいるお嬢さんたちも……ふふ。」
 オロチの力を使えば、かつて、自分に唯一反乱したオロチである大神ソウマを召喚して姫子と千歌音の精神を揺さぶらせることも出来ただろうが、しかし、それを為すわけにはいかないのだ。かつて、自分達の為にオロチを裏切り、その体を蝕まれながらもオロチシステムの破壊した大神ソウマの復活は再度の裏切りの可能性がある。それは大神ソウマの人格は正義の人だからだ。唯一、邪悪に染めた筈の大神ソウマを作り上げたものの、結局は、媛子と千華音と名乗っていた時の二人の未来を許してしまったかのように。オロチにとっては人間の人生を面白おかしく左右するオロチシステムが破壊されたことは高いゲーム機を破壊された子供のようにソウマを復活させること自体が苛立ちの持つことなのだろう。この邪悪な存在を作り出すには、正義であろうとする、土壇場で裏切る大神ソウマの存在は下手をすれば面倒な障害になりかねない。
 だからこそ、邪神オロチにとっては優秀な手ごまであるヨハンの方がオロチにとっては都合がいい。
 それはオロチの気配を隠して天使と悪魔の顔を狡猾に使い分け、最悪の手によって姫子と千歌音を動揺させ、古代文明を破壊させた。今まで虜にしてきた人間の中で、最も狡猾で知識があって人間のことを自分達のように捨て駒にしか思えず、圧倒的な神の力を心髄するヨハンは大神ソウマよりも使い勝手のいい悪魔にもなれる人間だ。だからこそ、ヨハンという存在を気に入ったのかもしれない。それか、優秀な手ごまはいつでも利用できるように再生できるようにということか。ヨハンも、それを受け入れているからこそ、喜んでオロチの眷属になっている部分もあるのかもしれない。
 「今回は余裕だね。こっちの力を全て知ったかのように。」
 「ウイルスの侵入に身体の抗体は敏感な物でありたいわ。あのようなことをされても御免だしね。」
 瓜二つでありつつも、あの生意気な口調はそのままなのが別世界の自分達の関係を邪魔した、あの男と根本が変わらないレナとユイを傷つけた瓜二つの存在。オロチはもっとも不快な存在として、この男の人格を利用したのだろうと簡単に踏むことが出来る。人の嫌がることをストーカーのように徹底的にまでして精神を抉ろうとするのがオロチだ。
 「そう感じるのはヨハン、貴方が私達を恐れているからよ。私達を直接襲えば、その力を恐れて勝てないかもしれない。」
 「でも、荒廃した世界を見せれば私たちの中に絶望が生まれる。その隙をついて……と、したかったんでしょうけど、それが出来ないし、観念して、こっちに来たということかしら?それとも、人質?」
 「どちらにしても無意味だよ。あの時は、貴方達に先手先手を取られて事態が遅れたけど、今回は娘たちの活躍で、こちらの計画がかなり楽になったもの。」
 入ってきたウイルスは蘇ったウイルスはすぐさま、すぐさま駆除する。それは、自分達以外でも同じ存在である。だからこそ、姫子と千歌音はオロチというウイルスのマザーを倒すために様々な対策を打ってきた。光の巨人の存在も、その一環に過ぎない。ヨハンの中で嫌な感情が沸き上がり、ブルブルと口を震わせて姫子と千歌音の二人を睨みつけて威嚇することしかできなかった。しかし、それが虚勢であることは、この場にいる誰もが解った。
 「でも、どうかな?そこの女王様の友人も……」
 「何もしなかったとでも?」
 「貴方達が、この空白の間、この世界でルクス・エクスマキナを復活させようとしたように、私達も何もしないと思ったの?」

 
 郊外……
 緊急避難情報で未確認巨大物体の情報から家を失った国民たちは、暫くシェルターで過ごすことになった。
 幸い住居が破壊されることのなかったレツ・ナルミは一度、自宅に戻ってユイたちとの思い出の回収することにした。とりあえずは警戒解除と言うことではあるものの不安な気持ちは消えることは無い。そして一日近く時間は過ぎて人は、また、そうすぐに襲撃があるとは思えないという、楽観的な部分が生まれてシェルターの中は煩く騒ぐか、野次馬のように荒廃したエナストリアを歩き回る。
 そんな緊張感の解れた状況だからかシェルターで過ごすということ以外は、世はことも無しと言う時間が続いているし、万が一ということもあって改めて大切なユイ達との思い出を回収していた時だった。ユイ達から、ずっといるようにとは言われていたものの、それでも次の襲撃で思い出を破壊されては、それはまた元も子もない。次の襲撃で思い出の品が破壊されないとは限らない。やはり、心配の気というのはある。
 「あー、お父さん、お母さん、迎えありがと。」
 破壊神の攻撃によって負傷した人たちに食事を配給する両親たちはシェルターへ。
 だから、最初は、その扉を叩く音を聞いて両親だと思った。レツ・ナルミが不安を隠せない表情で眼を擦り、その時点で異変に気付いたのは扉を開いた矢先に、無数の土くれで出来た人もどきのような存在が多く存在していたからだ。
 視線をきょろきょろ見まわしたときにコンクリートが盛り上がり、そこから二メートルほどの大男のような人形が現れて、それが飢えた男のような声を出していた。それは土を媒体して黒い体色を持って赤く不気味に血に飢えたように不気味に醜く蜘蛛のような八つ眼の顔と筋肉質な部分にある。その気味の悪さに、思わず口を抑えてしまいそうだ。土の肉体から漂う腐臭が意識を別世界に連れて行ってしまいそうなほどの危うさを感じて、扉を閉めて鍵を閉め、今すぐに避難しようとした。
 逃げようとしても何処へ。
 目の前の世界は遺物の世界、家の中が安心であっても、このまま、災害の時のように何もかもが安心だとは限らない。徐々に異世界に自分の領域を侵食されて行くようだ。明らかに、この世界のものではないものを目に焼き付けてレツは心臓を人質に取られて、このまま、この家にいることは不味い。今すぐ、ユイたちのところに行かなければと本能が訴える。
 「ちょ、ちょっと、何なの!?」
 だが、そうしたところでどうなる?その前に、どうやって、ユイたちの家まで行くというのか。本能が奴らに殺されると訴えている。人を人とすら思うことなく平気で人を笑顔で殺せるような人間の目をレツの本能は感じ取っていた。前に、そんな化け物が簡単に人を殺すアニメを見てトラウマになった一瞬の思い出がよみがえる。あれは、アニメと言う非現実だから、まだ傷は浅かったものの、今回は、現実。
 現実がレツの心理を破壊しようと動き出す。心身共に異質のものに触れてしまったことへの違和感が肉体を襲う。ユイは、あれから、ほぼ毎日、こういう世界に接していたのだと一人納得して心を落ち着かせようとした時だ。
 強烈な破壊音がレツの耳に劈くように響き渡る。その音だけで、連中が入って来たのだということを理解した。これによって家の中ですら平和ではなくなってしまう。レツの中にある世界は、何もかもが全てが一つに統合し始める。床を勢いよく鳴らして無邪気な子供のように獲物を見つけては路地で蔓延る獣を嬉々として狩る大人のような足音に心臓を鷲掴みにされそうになる。
 自室に全力疾走で入り込み急ぎ、窓から外を覗けば路地と言える路地、全てを、あの集団が埋め尽くしていることに気付き、ゾッと悪寒が背中を支配するかのような感覚を連れてくる。この部屋に来るのも時間の問題だ。
 (昼の奴と関係あるの?それとも……)
 ここ最近の事件を思い返して、明らかに、これは異常だということは、この国に住むすべての住民は思っていることだろう。エナストリアを掬って、その後すぐに起こった事件はユイを疲れさせながらも、健気に女王を続けさせた。
 だが、そのユイとレナ達の努力を無に帰そうとする、この連中はいったい何なのか。考えるだけで、虫唾が走るも、あの連中に対して自分に何が出来るのかと言うのは、解ったものではない。
 奴らが階段を上がってくる音が聞こえる。確実に自分の命を奪うために、ここに来るのだと。いや、それとも四肢をもぎ取って人質にされるかもしれない。
 レツの中であり得る可能性が何度も何度も脳内で処理された。
 悍ましい、あれはSFの世界で出てくるような地底人のような類ではない。
 アレは、生まれたばかりの赤ん坊なのだ。そして、殺すことを最初にプログラムされて、それに悦びを見出し、そして初めて与えられた役割を実行できることに嬉しさを隠せない赤ん坊のような存在。
 「ヤバいよね……」
 二階に逃げたことは失敗作だと、今更、自分の浅はかな行動について考える。何処かに隠れていればいいのだろうが、既に階段を上る、奴の姿の音は徐々に近くなってくる。抵抗しようにも下手をすれば、それこそ命を捨てる行為に等しいことくらいは解っている。あれは、人を殺すためなら何だってするし、部屋だって荒らす。
 そうやって本能さえも、一つのことに特化させられた存在なのだろう。
 緊張しているというのに冷静に分析してしまうことに一瞬、驚きながらも、それは脳が現実逃避をしようとしているのだろうと片付けた。現実逃避したくなるほどに怖がっている。思えば、この状況、部屋の何処に隠れても乱暴に扉を壊して開く部分を見れば、いなければ、入ってきて部屋を荒らして破壊するというのは目に見えている。
 「はぁ……はぁ……」
 緊張の糸を繋ぎとめて結ぶように呼吸が荒くなっていく。
 変な涼しさと妙な熱が共存して、額を腕で撫でた時、びっしょりと感触の気持ち悪い汗が、肉体を包み込んでいた。延々と本物のスプラッター動画を見せられているかのような心地の悪い気分だ。
 徐々に、何かが肉体を逆流して戻してしまいそうな気持ち悪さが膨れ上がり、それが脳髄まで犯そうとする。ストレスが溜まりに溜まった時に訪れる気持ちの悪い吐き気。
 何度も何度も、何度も、身体の中を蹂躙する気持ちの気体なのか液体なのか解らないが、いると感じるだけで気持ちの悪いストレスの塊を口の中から追い出そうとして嗚咽をしても何もなく体の中に蠢くかのようにレツの体内の中に蠢きまわる。
 極限から生まれるストレスと言うのは人に対して悪影響でしかない。しかも嘲笑うように連中は平気で肉体の中を蠢く。手足は力を失い、溺れていくように意識の中に水が溜まり消えてしまいそうになる。理不尽と言うのは個人の前兆を関係なく勝手に理不尽は理不尽として襲い掛かるようだ。じわじわと、何か、一昔前のホラー映画で見た得体のしれない気持ちの悪い白い肌の子供が自分に触れるように。気持ち悪さと言うもの、そして、その奥にある恐怖と言う存在が外道のようにレツの中に忍び込む。あぁ、襲い掛かる。連中は、個人の事情なんて全く関係がない。それが理不尽だ。
 「最悪……」
 思わず、げろを吐き出した後のように、そのトイレの中に交わった己の体内から出てきた嫌悪物と水が交わった匂いを嗅いで、ゾクゾクと気持ちの悪い感触が襲い掛かり、今日、食したものが戻されそうだ。
 此処まで長いこと考えているというのに現実は、本の数秒しか経っていないというのは地獄だ。無駄に長く感じる秒単位の時間に苛立ちを感じつつも、それ以上に勝る恐怖に脅かされる。
 階段を上る音が終わりを迎えて徐々に部屋に近づく音が耳の中で拡散された。心地よいというわけではなく、心地が悪い。
 ホラー映画の怪異に追い詰められる主人公の気持ちと言うのは、こういう気分なのだろうと理解することが出来る。静寂の中で流れるコツコツと床を叩く土塊たちの足音。砂が零れるような音がしているのは、身体の土くれが少し崩れてきている証拠でもあるのだろう。
 来る。
 来る。
 来る。
 足音が近くなるのに比例して臓物が飛び出してしまいそうだ。だが、それから、一切、足音が聞こえなくなった。代わりに激しい音ではなく風を切ったような音が響き渡り、レツを何処か安心させた。
 何が起こったのだろう。
 先ほどの恐怖を忘れて、何故か、好奇心が身体と肉体を動かして、動かなかったはずの身体が動き出す。立ち上がり、扉のノブに触れようとした時、心地よい声と一緒に扉が開いた。
 「大丈夫ですか?」
 レツ・ナルミの前に現れたファンタジー世界にでも出てきそうな大剣を振るい、一撃の下で黒い霧で出来た人の形をした存在を問答無用に縦一文字に切り裂いていた。
 どこぞの学校の制服を身に纏い、男顔負けの長身にファッション雑誌に出てきそうな美しい女性の釣り目の顔立ちで肉付のいい褐色肌、クールな表情を浮かべつつ心配するようにレツを見つめて、目の前にかかった金色の髪を大きく揺らして、強調しているかのように開けた巨大な片方だけでもバスケットボール程の大きさがある胸を揺らして一瞬にして、その場に土くれの人もどきはいなかったように葬り去った。
 「え、あ、はい……」
 驚きしかない。
 「魅零、そっちは大丈夫か?」
 「アーナス。こっちは無事。レナさんの友人は確保した。」
 「他の皆は?」
 「友奈達、なのは達は別の国に行ってる。」
 「私も姫子さんと千歌音さんの言っていた神樹による結界は、今、やっと、ちゃんと作動したようね。それまで、この街を護る私達の任務も、これで終わりかしら?」
 「えぇ。おかげで、エナストリアの大地にオロチは尖兵を産むことは出来ない。」
 「セカンドミッションを始めましょう。」
 「そうね。そろそろ、時間だし。」
 さらに、王女のように気高く振舞いながら外にいた陶器のような肌を持ち、空中で制止しながら両腕を組んで事態を見守っている。
 夜と言う存在を具現化させたような形態、いや、それは、夜の王にふさわしい堂々とした立ち振る舞いと圧倒的な攻撃力で敵をねじ伏せて土塊たちを破壊していた。
 金と銀のコントラストの二人の美女を見てレツは口をポカーンと開けることしかできなかった。
 そして、この後、一分以内にエナストリアに蔓延った土塊人形は滅ぶことになる。そして、魅零と呼ばれた存在は白いドレスのような衣装をまとい、赤い髪に変化して一気に宇宙に向かって上昇していた。
 全ては幻であったかのように。
 レツはシェルターまで駆けた。


 「そうしようと思ったんだけど、厄介な奴が出てきて殆ど、壊しちゃってさ。でも、今、オロチの使いとして蘇ったあいつらに苦戦してると思うよ。」
 「そう。それは嬉しいことだわ。」
 全ては、あの頃から、魂の再生をしている時、アメノムラクモの力を使い、修復しながら魂だけでも姫子と千歌音は共に様々な並行世界を巡り、人としての生を全うして寿命を迎えた少女たちを迎えに行った。
 そこには、かつて愛する友人の為に魔法少女になった者達、勇者と名乗り大切な友人の為に共に戦った者達や、世界を救う中で一人の少女を愛して子を為した存在、半妖となっても人の心を忘れなかった「夜の君」と呼ばれる存在の力を取り込んだ少女と聖女と呼ばれる力を持った半妖の思い人、もう一人の己の分身とも呼べる影を操る存在と一途に、そんな彼女を愛したアンドロイドの少女、大切な人を武器に変えて戦う戦乙女の異名を持つ者たち。
 数えられるほどには姫子と千歌音のシンパシーが通じる世界を救い、次世代に全てを託した者達を迎えに全世界を渡り、それらの魂と交渉してオロチを打倒するためのチームとして立ち上がった。全ては自分達と似た存在、新たな並行世界の自分ともいえる少女たちを探して仲間に加えること。
 「こっちの切り札が作用したようね。」
 「……」
 言葉を出さずに露骨な不快感を示す、その姿は姫子と千歌音の用意した何もかもが上手く作用していることを意味している。
 物事はスマートに、全てを解決すべきで、ヒーロー映画のように悪役に見せ場を与える必要はもうない。
 「オロチの復活があれば、私達は目覚める微量な動きで今回は対応が少し遅れたけどね。」
 「ただ、もしかしらの時の為に貴方達がレナ達に仕掛けたように、私達も一つの切り札を出させてもらったわ。」
 それが……
 「もう、この会話も終わりにしましょう。」
 姫子がヨハンに、どこまでも憎悪を向けるような冷酷な笑顔で言い放つ。
 「きりふっ!?」
 「この一発で地獄に落ちろ。ってな。」
 言葉を紡ぐ前にヨハンの身体を、心臓付近を一本の巨大な鉄の刃が貫き、平然とそのまま斬り降ろされた。ねっとりとした声を出した後に、戦場に入った戦士のような声を出して会話の後に黒スーツを着た男が突如、現れてヨハンの死体が刺さったままの刀を勢いよく一振りして、空気を切る音と一緒に死体を壁に打ち付けた。
 耳に煩わしい音が響いたが、それを気にすることなく、スーツの男は姫子と千歌音の二人、そしてレナに敬意を払うように頭を下げた。かつての戦友で、一度、この世界を離れた後は傭兵として戦いながら銀河の果てで決闘しつつも、最終的には元鞘に収まった男だ。
 「後で掃除をしてもらうわ。」
 「そこは、出遅れた相棒に言っていただければ。寧ろ、相棒は、そっちの方が得意ですので。」
 ヨハンから、ヨハンだったモノは簡単に切り捨てられて夥しい血を撒き散らすことなく、そこには身体に突き刺された傷はあろうとも血のつながりはない。ロボットのように心臓にコアがありとか、そういう存在なのだろうと踏みながら、興味を失ったかのように唾を吐き捨てた。余程、これが嫌いだったらしい。
 「腐っても、お前たちとは組む気はない。」
 「あ、夢の中に出てきた……」
 「レナ様、覚えていたようで光栄であります。」
 わざとらしく執事のように頭を下げる仕草をして、ただ、完全に記憶の戻っていない、あの時期の記憶に対して罪悪感のようなものを抱く。
 そして、ヨハンに対しては今までの恨みを晴らすかの如く死体の頭を踏みつける。
 子供のような外見をしていようとも、こいつは……
 「どうだ?かつて、お嬢さんたちを斬った時のように殺される気分は。」
 ジャグラーが不快な思い出を頭には知らせて舌打ちをして目の前の存在が本当に不快で仕方がないような怒号を含ませた顔を浮かべていた。
 「この一撃で地獄に落ちろ。」
 それはジャグラーが最も己を許せないと評したほどの大事件だった。側についていながら、何も出来なかった、己の最大の過ちであり、レナを、ケイを、サラとティア、そしてノアまで失う、いや、人間でなくしてしまった人としての生を送れなくなるほどのことになった最大の過ち。
 ありったけの思いを込めて、姫子と千歌音は立ち上がり、自分達の代わりに最大の下衆野郎を斬り捨てたジャグラーに頭を下げて礼を伝えた。娘たちを、この運命に誘い込んだ、もっとも許せない存在。
 「ジャグラーさん、感謝します。」
 姫子が頭を下げて柔和な笑顔を浮かべて礼を言う。ヨハンの時に浮かべていた冷酷な姫子の顔は、そこには無い。
 「いえいえ。あいつのついでに私もここに来ただけです。それに、こちらのお嬢さんには情がありますし、この糞野郎には貸しもありますから。」
 それはかつて、正義を謳いながら暴力で解決する者たちを嘆いた男と戦った後に訪れた、この世界でレナと出会い、その半年ほど後に絶望の淵に立たされレナ達を傷つけられて慟哭を上げた後にオロチの襲撃によって離れざるを得なくなった銀河の旅人である。
 一瞬、過る白銀の美しい巨人の隣にいた、もう一人の人。一見すると、どこか禍々しいものを感じるが、その中にはちゃんとした光があるような、そういう人。
 ジャグラーも過去に、この世界に訪れて姫子と千歌音の世話になった分、二人を裏切るつもりは毛頭ない。たとえ、ジャグラーが倒したい相手がいたとしても、倒せる状況であろうとも、オロチのような自分よりも醜いと感じた邪神と手を組む気は毛頭ない。
 「ルクス・エクスマキナの破壊に、光の巨人の出現とジャグラーの存在、それに、蠢く私達の味方。」
 「でも、敵にしては……」
 「お粗末とは言いたい気分は解るけど、焦っているのよ。」
 「とにかく、人の負の感情さえ取り込めて、ルクス・エクスマキナの残骸を守りきることが出来れば。ただ、今回の場合は、焦りがあるけど。それに、今回は復活しても、それほどの力は出ないでしょうし、出せても、それから何万年かは何も起きないはず。」
 「さっきも言ったけどヒーロー映画のように悪役に見せ場を作る必要はないの。だから、既に、あのオブジェが出現したり、貴女達がルクス・エクスマキナを破壊した時から、私達は、もうジャグラーを派遣してたの。」
 「今回、オロチが出てきた理由は?」
 「ルクス・エクスマキナを護るため。自分の身体が壊されたら、元も子もないでしょ?だから、貴女達がルクス・エクスマキナを壊されそうになって、慌てて出てきたんだし。それに完全じゃないから、まだ人心を掌握するほどの力は回復していないの。恐らく、奴らの本来の目的はルクス・エクスマキナを使って人の魂や負の情念を回収して復活を早めるのが目的なはずだから。」
 「私達がアメノムラクモと肉体と魂をギリギリまですり減らしてオロチにダメージを与えたのは余程、復活に支障が出る程だったのでしょう。」
 「前回は私達の油断が招いたことだからこそ、今回は、全て……」
 大したことは無い。常に巫女に絶望を与えて、そのまま本来の力を発揮できないようにするというのが仕事と言うのなら、その前に、こちらが斬り捨てればいい。それも、誰にもばれないように。暗殺を施すように。そのための行動がジャグラーの派遣であり、これまでのレガリア・ギアの暴走や、オロチ復活防止のために動いていたという訳だ。
 「なんで、そこまでしてくれるの?」
 「色々とあったが、ここで癒された時間は本物だから。」
 素っ気なく呟き、一度、ヨハンの死体の方に目を向けたが、そこにはすでになにもいなかった。だが、戦士は、その眼を使い、次に来るであろうヨハンの死体をいとも簡単に刀で突き刺した。
 巫女に手を出すこと、それを許さない、いや、そんなことを一々、仕込んだ時点で、この男を許してはならないと言うかのように、ジャグラーの持つ刀は悪意を持つものに敏感に反応しているかのようだった。主の思考に忠実であるように、長い戦いで鍛えられたことが解る刀の中には戦士の誇りが詰まっている。
 獲物を狙う獣のように用意周到に敵を食らう。夜露でも浴びれば芸術品にもなるであろうし、どこか血に飢えているようにも見える、その芸術品の破壊兵器を使いこなす男の前に、子供の体系をしたヨハンの姿と言うのは、どこまでも滑稽でありライオンに四肢を食いちぎられた獣そのものだった。
 「ぐっ……」
 「おや?まだ、生きてたのか。」
 声を出すことなく食い尽くすような刀と言う鉄の獣は主の思うがままにヨハンを食いつくしていた。それを片手で平然とやってのけて、主であるジャグラーは侮蔑の感情を込めて見つめていた。自分も、それなりに外道、いや修羅と呼ばれるほどにまで堕ちたが、それでも、こいつのように悪魔に魂を売った覚えまではない。
 戦士の誇りと修羅の狭間の中で苦しんだ男の表情を見つめたレナは、また重いものを背負った存在なのだと理解した。
 「やはり巫女様のような気品のある方は手助けしたくなる。」
 「でも、なんか、オロチだっけ?やること姑息だよね。」
 「それは、勝てないからよ。」
 「勝てない?」
 「えぇ。正攻法で戦ってもオロチは私達に勝てないから、こういうことをするの。」
 オロチがゲームのようなことを仕掛けてきた理由はオロチシステムがある。万が一の時があれば、オロチシステムを使い、再びリセットすればいい。だが、オロチシステムを失い、神無月の巫女の得てきた戦闘の経験値をリセットできなくなった。
 そして枷を越えた神無月の巫女は無限の寿命を得て戦えば戦うほどゲームのように経験値を得て強くなる。邪神と言うよりは悪質のウイルスのようになったオロチを駆除するための地球が生み出したワクチンシステムとウイルスのオロチ。そんなオロチが出た手段が姑息にも心の隙を突くという行動である。
 「卑怯なんだ。」
 「そうね。悪なんて姑息な物よ。だから、チャチな呪いをかけたのよ。そして、ルクス・エクスマキナの防衛のために己の力を繋げて全力で守っている。自分の新しい身体だもの。」
 「だから、何か、貴方の中で、その呪いを気にさせないほどの何かが起きれないいのだけれど……ね。」
 だが、それが成功したからこそ、あの時、レナを傷つけレガリアと契約させる事態になってしまったことを、姫子と千歌音は自分を許すことは出来ていなかった。闇のオーラだけを感じ取り、取り入ろうとしたオロチの完全なる失策であるといえよう。
 「俺の本質を感じ取れなかったようだな。」
 闇を司る邪神において、それでも本来、予定していた力の半分近くを失ってしまったが故の末路である。それ自体すらもヒーロー映画のような巨悪としての力は既に、あの時、娘たちが破壊したのだから。
 「私たちの命をつないだ、娘たちが貴女達の切り札を倒した。」
 「お忘れ?オロチ。」
 「後手後手に回った時点で、今回の勝ち目は無いわ。」
 そして戦いは始まる。

 それは、過去に千歌音も姫子も成したこと。ただ、あの時以上に、今回は、自分達が狡猾にオロチの企みを打ち消す為に様々な場所から手配をしていた。姫子と千歌音からすれば、例え、それが卑怯と言われようともレナと、その大切な人であるユイを守る為に。此処まで思ってくれているのに、どうして自分はと。
 かつて一緒にいた感覚は思い出しているのに、肝心要のことは思い出せない自分が悔しいとすら思える自分がいる。不安な顔を察したのか、姫子がレナの頬を撫でた。
 もしかしたら、真実はレナにとって残酷なことは無いのだろうし、これからのことを考えれば破滅かもしれない。だが、そうなっていけないとわかる。しかし、それ以上に、先ほど感じた戦いの恐怖がレナの身体を蝕む。それを感じ取って姫子はレナの頬を撫でた。
 レナが、この世界で思いのまま愛する人と咲き誇ることが出来るのなら、この時間を幸せだと思えるのなら瞬間を全て賭けて戦おう。レナに、もう、あの時のようなことが起きないように。レナがユイと言う幸せな瞬間を花が散華するように一瞬の時間に終わらせてはいけないのだから。
 眩く輝くレナとユイ達の無限の星のように輝く今と言う時間、それを護るのが母親たる姫子と千歌音の親としての役割なのだから。
 「お母さん……」
 一瞬、そう口にしたレナ姫子の口端が上がり嬉しさが隠し切れなかった。
 「姫子、そろそろ来るわ。」
 「うん。」
 千歌音の言葉に反応して姫子がレナを膝から降ろして立ち上がる。ジャグラーはヨハンの遺体を切り捨てた。ヨハンの遺体が黒い粒子となって消滅する。オロチの端末である奴は何度も復活することだろう。だが、今度は……
 「っ!!」
 その覚悟がある人間は、突如、訪れた地響きに対して驚くことは無かった。だが、覚悟のない人間たちは、突然の大きな揺れに驚かされていた。突然、家がジェットコースターのレールに乗ったかのような揺れにバランスを崩して、落ち葉のように転ぶ少女達がいた。
 地響き、群れを出す巨大な獣たち。ジャグラーや、今、宇宙にいる己の相棒の記憶を読み取り、作り出した人類の脅威の姿である。
 これから真の戦いが始まると、その光景を見て緊張が走る。
 レナは背中に悪寒が走るのを感じて、一瞬、身震いした。記憶のフラッシュバックが始まっている。同時に、前の戦闘でオロチの集合体で受けたダメージの後が妙に疼く。これは恐怖だ。また、あの時のようなことになってしまったら……ユイを傷つけてしまうことになったら。母の話を聞いてから、より明確にいつも見る夢の内容が、今、また、憎悪の胤を植え付けられて姫子と千歌音のように、この世界を崩壊させる使徒になるかもしれないということに一抹の不安がよぎり、肉体に痙攣が走る。
 「お願い、レナ……親として、今、最低なことを言うね。」
 「え……?」
 「私達に力を貸して。」
 それは、この戦いに参加しろと言うのは嫌でも解る。親として最低なのは、戦いに駆り立てるという事。
 「勝てるかもしれない。でも、もしかしたら、二人の居場所がなくなるかもしれない。あの時のように……」
 卑怯だなと一瞬、思った。これは脅迫に近い。過去の映像と照らし合わせて……そして、レナは顔面蒼白になって恐怖で肉体を震わせた。
 「あの時の……」
 「怖いの?レナ……」
 「うん……」
 目の前に迫る大群……それはレナを殺そうとした連中。
 それに恐怖を抱くなというのが難しいことだろう。
 今朝、事実的に殺されそうになったのだから。
 正直に言えば肉体が、これ以上にない程にレナは震えている。
 怖いのだ。
 逃げようと思っても逃げられない。
 この戦いは絶対に勝たなければいけないもの。
 負けてしまえば、自分達の世界が崩壊する。
 怖いが、それ以上に、ユイとの幸せを奪われる方がもっと怖い。
 それが、今のレナを蝕んでいる。
 自分達が戦わなければ、いけない。
 解っていても、ここで自分がしに、ユイと永遠の別れになるかもしれないことにレナは恐怖を感じて仕方がない。まだ、生きていたいのだから。
 「お姉ちゃん……大丈夫。大丈夫だから。」
 不思議な力という訳ではないが、ユイと一緒にいるだけで、先ほど抱いていたものが、多少なりとも和らぐようだった。肉体が正常にと言えば、大袈裟だが、少しずつ少しずつだけ震えは収まり始めていた。
 ユイの中にある恐怖は、あの一夜で一つ越えたのだろう。レナとの肉体の邂逅は、それだけでユイを落ち着かせるのに十分だった。だからこそ今度は、ユイが、あの夜からレナに与えられた愛情を抱きしめることで今は与えている。
 今、牙無き者達の牙になると決めたのだからレナが傷つくのであれば一緒に傷つこう。
 レナが怖いのなら、今は、己がレナを恐怖から守る盾となることだってできる。
 ルクス・エクスマキナの一件、ユイの姫子と千歌音の邂逅、そして処女を捧げた、あの一夜が、今の戦いに向かうユイを作り上げて、己の中にあるユイを恐怖から成長させたのだろう。
 「恐怖を抱いたまま戦えば、それは奴らに憎悪の胤を植え付ける格好の餌になる。恐怖の感情を己の光で抱きしめて力として背負うしかない。それが無理なら、ユインシエル皇女。あんたがレナを抱きしめるんだ。あんた達ならとっておきの光があるだろ?世界を闇で照らす、愛って奴が。一人で抱えきれない恐怖も痛みも誰か大切な人がカバーしてやれば良い。奴に抱き向ける感情は純粋な愛と怒りのみ。……俺の経験談だがな。」
 柄にもないことを言ったと思い、自分が大分、今、まだ戦っているライバルのことを思い浮かべて思わず眉間にしわを寄せて、震えるレナの表情を見て心配して思わず言葉をかける自分など、今の自分らしくない。大きく深呼吸して戦場に向かう男の顔へと戻った。
 (憎悪に変わった瞬間、私達のように恐怖を憎悪に包み込まれて感情を暴走させて全てを壊してしまうかもしれない。)
 (もう、それを繰り返さないように……ユイちゃん。レナをお願いします。もう、全ての私達のようなことを、貴女達が体験してほしくないから……)
 かつての思い出が蘇る。
 憎悪の果てに選んでしまった決断が、この世界を一度、滅ぼしたこと、そして声に出すだけで幸福と重荷が交差する、かつての思い出。
 「そのつもりです。レナは私にいっぱい、色んなものをくれました。だから今度は、私がレナと、レナのいる世界を護る為に戦います。」
 ジャグラーと姫子と千歌音の忠告を耳にしてユイはレナを抱きしめた。ありったけの自分の中にある愛情をレナに流して、レナの中にある憎悪と変わってしまいそうな恐怖の感情を愛情で書き換えるように。
 「さて、話は、これで終わりだ。先に行くぞ。」
 物事を敏感に感じ取ったジャグラーは率先として、既に家の外に出て刀とは違う道具を一つ持っていた。
 それ以上の戦力を持って出現した。ジャグラーは禍々しく赤く光るリングを持ち出してカードを取り出した。
 「アグルさん、ダークメフィストさん。闇を光に変える力、お借りします。」
 ジャグラーダークレイストリーム。
 あの時、母と一緒に現れた漆黒の光の巨人の登場である。
 ジャグラーが禍々しく光るリングの中に二枚のカードを取り出してリングに通して生まれる巨人、先ほど武器として使っていた刀を巨人サイズに変化させて周りを見回した。シルバーのボディをメインに青と黒のラインが入り、悠々と勇ましく刀を構えた闇を知った光の巨人の姿である。 
 「あ、あの、私……」
 ノアが、姫子と千歌音に告げる。彼女の乗って戦ったプリムス・ピルスは事件後に忌まわしい記憶として破壊を頼み、それは三機のレガリアによって破壊された。
 「大丈夫。ノアは逃げなさい。私達に任せて。」
 「でも……」
 ノアの中に罪悪感が宿る。妹たちが戦うというのに自分達は逃げるということに対して抱いてしまうのは申し訳なさというのはあるだろう。ただ、戦えないのに、戦わせるようなことを許すわけにもいかない。ただでさえ、娘たちが死するかもしれない戦場に送ることに対して罪悪感を姫子と千歌音は抱いているのだから。
 「お願い。」
 にっこりと微笑んでから、ノアは受け入れて頷き、生き残るためにエナストリア王国のシェルターへと向かった。
 「姫子さん、千歌音さん。私、二人のこと、レナを捨てた酷い人だと思ってて許せませんでした。」
 ユイの思い言葉が二人の母親に突き刺さる。事実でも、そう思われていると甘んじて受け入れていても、それでも、やはり人として痛いものは痛い。
 「でも、二人のレナへの献身的な愛も、ゆっくり、レナから恐怖を拭い去ろうとする姿も、私を抱きしめてくれた時の温もりも、本物だと思いました。」
 「どうして?」
 「姫子さんも、千歌音さんも抱きしめる時、私の亡くなったお母さんに、そっくりな……子供を思う抱きしめ方だったから。」
 それだけで信用するし、レナのことを許すと言うのなら単純かもしれない。ただ、それでも過去の映像や、今まで、ユイの瞳の中で見てきたことを一つにまとめると、レナへの愛は本物だった。
 だから、レナと自分の関係を微笑ましく包み込むように認めてくれた。
 「あの暖かさって、本当に娘を愛している人しか出せないと思うんです。だから私は二人を信用します。」
 沢山の情報を見てきたが、それ以上に母性を感じたと、それだけでユイにとっては、レナを真剣に愛していたと十二分に伝わる信頼できる条件だった。
 「終わったか?さて、行くぞ。御嬢さんたち。」
 刃を鞘から抜き、殿を務める闇の力を正しきことに使う巨神。そして、これが、ある意味、人としてあるべき姿が、そこにある。ただ、人というのは、その極致に辿り付くまでに大きな苦労をする。その苦労を持って、ジャグラーは、この姿を手に入れた。
 「腐っても、ここまでの力はあるのね。」
 無限に湧くかつて、オロチが使役していたロボットや、恐らく、もう一人の来るべき助っ人から記憶を読み取って作り上げた怪獣軍団がエナストリアの土地を再度進攻しようと現れた。
 (シビルハンタージャッジメンターまでいやがる……)
 「どれくらいだ?無茶なことをしたもんだ。」
 「ざっと百ってところかしら?律儀なことで。でも、実際は、これを越えるでしょうけど。」
 三体のレガリアが召喚されて、さらに、剣神天群雲剣も召喚し、戦闘に現場に五体の巨人が現れた。
 全身が巨大な刀のような形を持ち、刀身のように煌びやかな姫子と千歌音の二人の駆る錦上添花という言葉が相応しい巨人の姿。
 (エクテレウ・アレクトに、どこか似てる……)
 剣神天群雲剣を見た正直なレナの感想が、それだった。 繽紛たる三体のエリヌースのレガリアを召喚し、勇ましく、これから襲い掛かる脅威に向かって戦闘態勢を取った。
 そして、機は熟したとでも言うかのようにエナストリアの東西南北の端に生えた四本の神樹はエナストリアを取り巻くようにピラミッド状の防御壁を形成した。
 「これが……」
 「そうね。これで私と千歌音ちゃんが倒れない限り、エナストリアの地に奴らの足は付けさせない。過ちは、もう二度と。でも、まだ不完全で成長しきってないの。神樹は倒れることは無いけど、この結界は突破されることがあるから気を付けて。」
 神樹は、その名の通り、姫子と千歌音の気力を培い本来の住処である社にある樹々を使って生み出した対オロチ用の防衛兵器。過去の襲撃を思い返しての反省や、そういうもの、何よりも家族であるレナと、その彼女であるユイに苦しい思いをさせたくないという覚悟の顔が見えた。
 額に汗を走らせて、これから訪れるであろう戦いに対して一瞬だけ目を瞑り、気分を落ち着かせて、改めて戦うべき相手を見据えた。このエナストリア王国を守る為に。いや、ここにいる全ての人たちを守る為に。刀身のように磨かれて輝いた戦闘によって生まれる気力を具現化したような五体の巨人が、この土地に侵攻する本能のままに敵を見据えて闊歩する悪鬼の群れたちと戦うために見据えた。
 「今度は、その力を、そこまで行使したのだし、浄化すればどれくらい眠りにつくのかしら。」
 「一生、目覚めてほしくはないもんだ。」
 「それは同感ね。」
 土があれば、それを己の物質に変換して怪獣やら、破壊神として蠢かせることが出来るオロチの力。無限に続く怪獣や破壊神の群れを何もかもを圧倒した。いくら、無限に湧こうが、それ以上の強さを持って挑めば、それは烏合の衆にしかならない。だが、敵は多すぎた。その敵の多さと、これからの手間をどう解決しながら戦おうとするか考えていた時だった。
 「オーブスプリームカリバァァァァッッッッ!!!!」
 聖なる獣の咆哮を思わせるような光の放流が、闇の群衆を切り裂いた。世界を照らす光と炎。戦士の頂から授かった聖剣と四つのエレメントの力を得ることで真価を発揮する最上位の武器を持った光の巨人の降臨を意味する。その光を見て、ジャグラーは一瞬だけ旧友の再会を喜ぶような笑顔を浮かべて、再び戦士の表情へと戻る。
 「姫子さん!千歌音さん!助けに来ましたっ!」
 「間に合ったわね。もう一人の助っ人が。」
 「祭りは終わるところだったぞ?」
 ニヤリと確実に勝利を確信した千歌音が笑い、姫子は安堵の表情を浮かべた。
 「祭りにはもってこいだろ?」
 ジャグラーは旧友の来訪を歓迎するようにオロチに告げた。
 「この世界で言えば、一万年前の完全再現だ。いや、あの時よりも派手だがな。」
 光の巨人。
 玉響を意味する、その巨人、かつて二人の母親と共に戦った黒と銀の巨人、ウルトラマンオーブオリジン。レナは見たことがあった。そうだ。あれが、自分達を助けてくれた光の巨人だと、その姿に見惚れてしまうほどには白銀の肉体は美しかった。
 「あの時、ママたちと一緒に戦った……」
 超人……レナの記憶の中に蘇る、眠りにつく前に母と過ごした最後の時間の中でアレクトの中で母の駆る巨人と一緒に見た光の巨人。
 「お前!!あの時!!」
 切り捨てた筈のヨハンが再生されて、その口から語る言葉は嘘偽りではない。確かに、ウルトラマンオーブを異空間に囚えて、その記憶からシビルハンタージャッジメントや超魔王獣を呼び出したはずだったというのに。
 「所詮は記憶で作り出したまがい物だ。その戦いを乗り越えた時点で勝てるわけがない。伊達に、俺だって長旅を続けている訳じゃない。それに、仲間もいるしな。そして赤い髪のお嬢さんにお世話にもなった。」
 「それでこそウルトラマンオーブだ。」
 「ジャグラー……?」
 「よぉ。」
 フュージョンアップした、かつての相方が味方にいるということに喜びを覚えながら、そして肩にポンと手を置いて敵が来る少し前までの対話を楽しんだ。様々な情念があるのだろう。かつては親友であり、かつては敵であり、そして、超魔王獣との共闘、ムルナウの時はフュージョンアップし手助けてくれたジャグラーと言う存在が、今、こうして、再度、肩を並べて戦えることに思い出が桜吹雪のように刻まれてフラッシュバックするかのようにウルトラマンオーブオリジンことガイを喜ばせた。
 「随分と長く戦っていたようだが?」
 「姫子さんと千歌音さんが応援を送ってくれたんだ。」
 「応援、ね。」
 「それこそ、オロチには無い力よ。力でしか全てを制御できない。」
 オロチは眠りながら他者を恨むことしか考えていなかった。だが、ここにいる戦士達は長きを得て命を繋いだり、己の力を磨き、様々な者たちと出会いを繋ぎながら強くなっていったのだ。
 オロチとは違う。
 絶対的な力の差はいくら強大であろうともひっくり返ることは無いように、邪神オロチの存在は、いつの間にか、邪神ではなく本当に迷惑でしかないウイルスに代わってしまっていった。
 「来るぞ。」
 「策は?」
 「すでに向かっているわ。」
 「勝つための算段は練ってる。後は、私達が暴れるだけ。とはいえ、エナストリア王国を護って、更に、どれくらい続くか解らない消耗戦に挑まないといけないけど。」
 戦闘開始時間エナストリア時間21時00分。
 そう言葉にした矢先に、待っていたのは地獄そのものだった。その言葉から、どれくらいの時間が経っただろうか。
 オーブスプリームカリバーが唸り、新月斬波が食らいつき、ジャッジメントアローが咆哮し、ナルカミとクズリューが大地を駆けて、クリムゾン・レイドが悪鬼を貫く。
 果てなく続く戦いと言うのは10分ほどまでは数えていたものの、それからは数えるのをやめていた。倒しても倒しても、それからは巣を破壊されて怒りの湧くスズメバチのように奴らは無限に出てくる。女王蜂の位置にいるオロチは、未だに姿を現すことは無い。そして、沸き上がる怪獣達は破壊すれば脆い砂の城のように形を保てずに崩壊する。
 ハルマゲドンなんて言葉があるが、エナストリアを守りながら、無限に湧くオロチの使いに対して、自分達は、五体と言う状況で護らなければならないのだから、力を持っていても多勢に無勢と呼べる状況だった。
 この行動は巫女の降臨に、相当、オロチは焦っているということなのだろう。
 姫子が、そう口にした。
 神無月の巫女の降臨でなりふり構っていられない状況にもなったのだろ。
 今まで、苦しめてきた敵が小物になるというのは、それほど感慨深い、寧ろ、憎む敵であった分、安堵する。
 姫子たちの思考のように、破壊神達がレナ達を狩り取るために走り始めた。
 光の巨人と四体の機械仕掛けの巨人がぶつかり合う。ぶつかり合う中でレナは思う。この光景、前にも見たことがあると。それは、己の記憶の中の断片の一つ一つがパズルのように組み上がる。オロチに与えられた命は土塊のように滅んでいく。元より、命など無かったかのように、与えられた仮初の邪悪な意思は光の巨人たちの放つ光によって浄化されて、ただの土に戻る。しかし、いかんせん、敵の数が多い。しかし、これは、空を埋め尽くす金属の巨人と空を歪な黒で埋め尽くす悪魔たちとも似ていた。
 敵は脆くも強大な攻撃を繰り返していた。
 悪魔が、そこにいるかのように。何処から、ともなく連中は襲撃をしてくる。オロチの脅威になる存在を駆るために現れた巨大な怪獣と破壊神たち。どれだけ、拳で砕いて、光線で破壊したとしても無限に湧いてくる。
 あの時と同じだ。
 何もかもが、あの時と同じだ。
 蕾が花開くように、レナの中から失われてきた過去の記憶が開花するようだった。
 これは、何?
 あの頃の記憶が、戦闘中に流れてきて集中できない。千歌音と姫子、大地と空を埋め尽くす破壊神と怪獣の群れ、あぁ、あの頃だ。あの頃の思い出だ。自分達の人生を狂わせた、こいつらは、あれと同じ。あの時、この地球で。百鬼夜行は常に牙を剥いていた。天敵である巫女の降臨に、余程、敵も焦っているのだろう。
 レナは、この行動が手に取るように解る、無茶苦茶な力の使い方に、どれほどの脅威を覚えているのか。そうして、消耗を狙うというのはどれほど焦りを感じているのか。巫女、オロチにとっては天敵が舞い降りた時点でオロチは。それ程にまで、今の二人の巫女の力と言うのはオロチにとって脅威なのだろう。
 だから、レナ達を先に巫女たちへの人質に取ろうとしたのだろうが、レナ達を人質にしようとした時点で、親として生まれる力が降り注ぐ時点で、それは、どのみち不可能に近い。巫女の絶望を招くと言うのは、子を育てずに悪鬼に堕ちたオロチからすれば解らないだろう。そして、今度は、それが出来なくなったからこそエナストリア王国の国民を人質にして巫女に死の選択を選ばせるが、それも失敗して、今度は力攻め。
 単純だが、あの質量の集団が襲い掛かるのは、それだけで一つの国にとっては地獄を招く引き金そのもの、足の生えた核弾頭の集団が闊歩しているに等しい。冷静さを奪うことで勝利を得ようとしたのだろう。だが、降臨した巫女や、それ等のタイミングの全てがオロチに対しては最悪だった。
 しかし、巫女を殺せれば、それはオロチにとっては最高のチャンスの到来ではあるが、今の状況は、そこまで芳しくない。ただ、巫女が来てしまうということは、それは、現世に玉座に収まったオロチの崩壊のカウントダウンは既に始まっているのだ。しかし、もとより、その巫女の子供がいた瞬間に、その巫女の子供が降臨するための玉座の機能を破壊した時点で既に敗北は、あの時に決まっていた。しかし、それで今という時期に出ざるを得なくなったのだろう。これは、悪あがきに過ぎない。元より、子を持ったことがないオロチが、姫子と千歌音の産んだレナに手を出そうとしたところから既に、失敗していたのだ。ああまで娘に手を出されて蹂躙しようとした瞬間に、そこにあるのは親として子を強く守る意思が働くように。
 しかし、手負いの獣とでも言うべきだろうか。それに増しても攻撃が苛烈になっている。エナストリアと言う国を人質に取られた状態で、五体と言うのは、余りにも少ない。一瞬に倒しても一瞬に復活する。どれくらい、戦ったことだろう。二体の巨人の胸にあるランプからは音が鳴り始めて、それでも、この状況を戦わなければならないというのは、質量だけの問題ではなくなってくる。
 「レナ……」
 「うん……」
 流石に、長く戦いすぎた分、疲労と言うものは出てくる。いくら、無限に近い寿命を持っていたとしても、それ以上に、溜まってしまう疲れと言うのは、どうしようもない。
 直接、オロチを叩こうとすれば、上空から防衛兵器は動きだろうとするのだろうし、それでないにしても怪鳥が行く手を阻み、盾となって攻撃を阻む。怪獣大戦争とでも言うべき状況に陥って、どれだけ、オロチが必死に、この状況を打破しようとしているのかがわかる。
 どれだけ、敵を倒したことだろう。
 その全てが尖兵であるという状況も解っていながらも、それでも巨大と言うだけで脅威であることは変わりない。破壊神の群れや、巨大生物の群れは止まることなく命を与えられていないか、命を失うことを恐れないかのように。
 「ウルトラマンさん!ティガさん!」
 流石に二人はエネルギーの問題以上に効率的に戦う為に様々な姿を駆使して戦闘スタイルを変化させ、なお、それでもオロチの生み出す群れと戦う。
 「スペシウムゼペリオン!」
 効率的に多彩な光線技が多く元のオーブオリジンにプロテクターを付けたような姿は豊富な光線技によって、この土塊の怪獣軍団を破壊するのはオーブオリジンよりも有効だと踏んだ。早めにオーブオリジンから変わっていればと後悔はしたものの今となっては遅いし、オーブカリバーの絶大的な力を思えば、と、自分で自分の後悔を振り切った。
 「ゼットンさん!パンドンさん!」
 リングに二枚のカードを通し、顔のない甲冑のような黒い怪獣と、左右対称な二つの頭を持った赤い怪獣がジャグラーに動きを合わせて一つになる。
 「ゼッパンドン……んぅ!?」
 ジャグラーは、その姿に違和感を覚えた。
 本来は、もっと王道的な怪獣の姿をしていた筈だった。
 だが、今回、ジャグラーの変身したゼッパンドンは今までと違ったものになっていた。もとより存在していたジャグラーの魔人形態の身体に従来のゼッパンドンの鎧とでも形容すべきか、鎧になった従来のゼッパンドンの身体がジャグラーに堅牢な魔人としての肉体に被さる様に身にまとい、両肩には巨大なドリルのような赤いプロテクターが炎がように吹き上がり、両肩の付け根にはパンドンの口を思わせる火炎弾の発射口、もとよりあったマガオロチの尾は自在に動き回るように灼熱の炎を身に纏い、周りを串刺しにする。両手は鉤爪に。蛇心剣の刀身が赤く染まりだす。それは、まさに、ジャグラス・ジャグラー魔獣形態とも呼べるイミテーションリングが生み出したジャグラーの新たな強さを、その今の心を示す形態だった。
 「あっちは、姿を変えたけど……レナは……?」
 泣きそうな顔でユイがレナに問いかけた。姿を変えることでエネルギーをチャージできれば楽なものはないが、残念ながらレガリアには、そこまでの力をコピーできるほど器用な兵器ではない。
 大丈夫だと口にしても、そこから不安が消えることはない。
 「うん……結構、疲れているけど……」
 だから、一時的にアレクトの操縦をやめるようにユイに向き合った。いつものような姉として妹を気遣う顔だが、今回は、そういうものではない。それは、大事な恋人がいるからこそ疲れているが無茶はさせたくないというレナの、これからの大事な彼女との未来を守るための。
 こんな場所だというのに、姉の優しい顔に思わず疲れた心身が暖かく解されていくような心地よさが戦場であることを忘れてしまいそうになる。だが、その顔は、常に自分を見守って愛してくれた。
 自分のことを信用してくれるからこそならば。
 レガリアという二人だけの感情を共有する子宮の中で、レナはユイに顔を近づけて、そっと唇を重ねて柔らかな幼い姉の肉の柔らかさを感じ取るように、絆されていく。求めていた胸のトキメキが、もっと欲しいと場所を忘れて欲求が肉体を動かした。このまま、ベッドの上のように、互いの秘密の場所にキスをし合いたいという欲情に近い感情が生まれるも、それを抑えて、ユイからレナの唇を離した。今、この場所にいることを実感できれば、まだそばに愛する人が生きているということを実感できれば、胸の内から湧き上がるものが力を与えてくれる。
 レナからすれば、ユイを元気づけるためにした行動ではあったが、どうやら、内なる不安は老廃物を吐き出すかのように取り除かれていくようだ。
 べっとりとした汗がレナの唇の体温から全身にユイの中に走って、それが冷やりとした心地の良いものに変えていく。それはユイにとって自分の都合の良いように錯覚したものかもしれない。
 だが、レナのキスが自分に力を与えてくれたのだから。
 ここでへばる訳にはいかないと、覚悟を決めてユイは改めてアレクトを動かした。
 「大丈夫のキス。終わったら、いっぱいしようね?」
 「うん……」
 レガリアとて無限のエネルギーであるルクスを使っていたとしてもパイロット自体に襲い掛かる負担と言うのはどうにもならないわけではない。
 サラとティアも、ケイもイングリッドも、そしてユイとレナも。
 姫子と千歌音も。
 この痛みと疲れは、そう言っていられる状況ではない。それは解っているからこそ、戯言を吠えながら戦うことしかできない現状は甘えではあるまい。現状にイラつきながら、敵を殲滅することが出来ればと。その覚悟でレガリアや巨人達は常に戦う。
 (!?)
 重大とも言える局面であるというのに一瞬、脳の中の血管が切れたかのような痛みがレナを襲うと同時に、一つのヴィジョンが脳裏に過った。
 あぁ、前に、この光景があった。
 ただ、今度は、傍観者側ではなく戦う人間として、この戦場にいる。空を見れば、黒く蠢く怪鳥が世界の空を醜い黒に埋め尽くす。前にも、こういうことがあった。口を開き、この光景を思い出して、あの時、確かに自分の身体が引き裂かれそうになる瞬間を思い出す。やはり、そうだ。あの時と同じ状況。
 「ねぇ……大丈夫なの?」
 レナが姫子と千歌音に訴えた。
 「えぇ。こっちに、恐らく、連中は戦力と自分の力を集中させているはず。だから……」
 ソコに策があるというのなら、どういうものがあるというのだろうか。
 (まだ?まだなの?)
 戦場の緊張感と言うのは職場や、学校や、ゲームで使われるもの以上の倍以上の力を使わされる。生死を共有やら、なんやらと、数え上げればきりのない要素が重なり合って、どれかがミスを侵せば負傷して、そして最悪、死に至る。いくら、邪神であるとはいえ戦力は無限であるわけがない。無限に湧く百鬼夜行をいくら切り裂いても、切り裂いても物足りないとでも言うかのように連中は這い出てくる。
 「ぐぅっ!?」
 「サラ!?ティア!?」
 どれくらい、戦ったのだろう。
 顔には憔悴が見えている。疲労と同時に襲う緊張感の中で仲間に与えられるダメージと言うのは、一瞬にして動揺を顔に走らせて、一瞬だけでも動きを止めてしまう。
 戦争映画になれば、ここでクラシックが流れて崩壊する味方戦線を描くのだろうが、そうなれば、この世界が終わる。一瞬にして気が抜けてしまう状況を作り上げてしまえば的な、その穴を抜けようと終らない戦いに気が狂いそうにもなる。誰かが倒れて、初めて気づくことがある。
 戦闘を開始してから三時間、現時刻24時00分00秒。
 どれだけ、二体の巨人が巫女の加護を受けて、本来の戦闘継続時間以上の力を出したとしても、この戦闘は終わることは無かった。これほどの無茶な消耗戦を為さなければならないというのは、腐っても邪神ということだろうか。
 その力は、未だに衰えていないようにも思える。しかし、この五体で、三時間近く、溢れんばかりの怪獣軍団を良く止めてきたものだとレナは感心する。べっとりと蛭のように額に纏わりつく汗を拭い、自分の口に合わないものを口にした時のような不快そのものを表す感情を表した。気を失いそうになるほどの長い戦闘時間、ぐったりとなる度にアレクトが現実に引き戻すように鼓動を起こす。死中に活ありとは良く言ったものだが、それ以上に、こっちの体力が保てるかどうか、そっちの方が不安にもなってくる。
 目の前にいる軍団が、何重にも見えてくるかのように眩暈がしては、アレクトも、恐らく、テイシスとメガエラも、剣神天群雲剣も、さらに、想像できない戦闘スタイルを取っている二体の巨人もだ。動かせば動かすたびに、べっとりの衣服の中の汗が蠢いて気持ちが悪い。既に、両腕の疲れが身体はサイレンを鳴らすように肉体をぶるぶると震わせている。
 これで終わりだというのに、やはり最後の戦いと言うのはきついものなのだろう。目元が眩む。そうするたびに、まだ、そうしてはいけないという意思を通すかのようにアレクトがユイとレナを叩き起こすパルスを送り込んで意識を正常に保とうとする。これを乗り切れば、これを乗り切ればユイと一緒にいることが出来る。
 レナと一緒に幸せになることが出来る。もっと、先の未来に行けると思えば、この疲れで負けている訳には行かないと、互いの愛情を持って肉体を奮い立たせて、津波のように襲来する怪獣軍団を迎え撃つ。
 その思いに応えるようにアレクトが二人の意思に応えて限界を超えて力が引き出されたかのように全身から闇の力が炎のように吹き出し、赤く怒れる炎へと変化する。まさに、それは荒神と呼ばれる姿であった。禍々しくもレナに応えた闇の炎を身に纏う荒神の攻撃は闇の力が剣になり、振るうたびに斬撃が形となって波を描いて土塊の怪獣軍団を食らい殺す。
 拳の一つ一つが衝撃波を生み出して、それが、レナとユイの愛の力とでも呼ぶべきものである。
 クリムゾン・レイド、ニエロ・アサルト、グラファイト・チャージ、アストラル・ブロー……多くのアレクトの拳から繰り出される技の一つ一つが食らいつくす。
 感情の昂りがそうさせているのだろうか?さらに不思議と空腹という感覚が、元より存在していないかのように抜け落ちている。このまま、己のテンションに合わせるようにアレクトは母たちの計略が成るまで殿を務めてベットリとする全身の汗を拭いながら戦い続けた。
 テイシスも己の中にあるティアとサラの感情を取り込み天雷のオーラを生み出し、刃を振るうごとに一直線に強大な光の柱が聳え立つ。まさに、神の天罰とでも呼べるような攻撃を繰り返す。
 獄炎を走らせるメガエラの攻撃にひとたまりもなく、土塊の怪獣達は形を維持できずに崩壊して三体のレガリアたちによって蹂躙という言葉が相応しいくらいには跡形もなく消えていく。
 レナ達の怒りによって、レガリアたちは、より、その力を発揮している。レナの中で、何か見知らぬ力、巫女の娘としての何かが芽生えそうだった。
 この圧倒的な力は、エレクテウの再度の復活も夢ではないが、後は、姫子と千歌音の策が成功すればと思ったのだが、改めて時間の経過を眺めてどれだけ戦っていたのか、時間の流れから感じるベットリと肉体中に絡みつく。
 喉の渇きが凄まじい。
 咳をしてしまえば、その喉の渇きに嘔吐してしまいそうなほどの不快感が喉に絡みつく。
 一瞬の疲労から気を抜くと意識を闇に引き込まれてしまいそうなほどに、刹那の瞬間に訪れた眩暈が実際に戦っている人間たちを襲いだす。今までは脳内にドーピングでもされていたかのように、疲れを感じなかったが、ここにきて時間を見てしまった分、時間の経過からじわじわと、肉体が石になってしまいそうなほどに大きな痺れが襲い掛かる。
 自由気ままに、リムガルドの崩壊した都市の時のように暴れられない。何しろ、この集団戦で防衛線と言うのは初めてなのだ。圧倒的な力を持っていたとしても。エナストリアの国を抉るように大地を膨れ上がり、大地を蹂躙する。復興には、光の巨人の力やレガリアの力も必要になるだろうと考えるだけで、舌打ちしたくもなるが、今は、そうしているほどの余裕がない。
 それ以上に敵を殲滅することを求められる。姫子と千歌音の与えた神樹のバリアがあるとはいえ、それでも油断は出来ないような口ぶりに不安の色を隠せない。これ以上の戦闘は危うい。それでも限界を越えて戦わなければならないという、その覚悟は抱くだけでもかなりの疲労だとでも言うべきか。こんな地獄をいつまで、味合わなければないけないのか。だが、その時だ。突如、敵の再生と襲来が終わりコクピットを圧迫するような衝撃がレナ達を襲ったのは。
 「な、何これ?!」
 「エナストリアに大きな隕石!?」
 巨大な、エナストリアを、落下するだけで飲み込んでしまうかもしれないような岩塊。
 こんなものが落ちれば、いくら、バリアがあったとしても、そのまま突き破り、エナストリアの大地を蹂躙するほどの大きな岩塊は背中に嫌な電流を流し、誰もが神経を一瞬、途切れさせてしまうほどの眩暈が襲い掛かる。
 重力を操作するかのように五体の巨人に重みを与えて、物理的な重圧は歯を食いしばって美しい顔が醜く歪むほどの表情を浮かばせる。この際、美しさや醜さなど言っている場合ではないし、全身に石像でも乗せられたかのような重みに動けずに跪きそうになる。隕石が落ちてくる衝動、これが明らかに普通に引責では無いことは解る。これが落ちれば、エナストリアを護る神樹の防衛壁すら破るだろう。
 (アーナスと魅零が、この国にいないということは……)
 (すでに動いているはず……こっちは、あれを……)
 姫子と千歌音の二人は、名前を口にした二人が既にエナストリアにいないことを知って、ここは自分達がどうにかしなければならないことだと覚悟する。既に、セカンドミッションの為に動き出した盟友二人の努力を無駄にしない為にも……
 「はぁぁぁぁぁぁ!!」
 剣神天群雲剣の中で気合の雄たけびをあげて姫子と千歌音が重力を振りほどき雲まで届きそうなほどの巨大な光の刀を作り出し、刀身に隕石が乗ったことを感じ取った。
 隕石は意志があるかのように、姫子と千歌音の二人を潰すように、更に子供がわざと親に体重をかけてマウントするかのように刀身を通じて隕石が与える重みに耐えながら、歯を食いしばりながら、全ての思考を剣神天群雲剣に自分達の思考を剣神天群雲剣に走らせた。この状況、猶予を争っている場合ではないし、早く解消しなければと言う焦りから、その隕石を弾くために剣神天群雲剣は大きく腕を振りかぶり、この超重力とも言える環境の中で乱暴に、それも力任せに、とにかくエナストリアの大地から隕石を引き離すべく、巨大な隕石を気合一閃で軌道を逸らし、軌道を逸らされた隕石はエナストリアの外に外に落下した。
 金色の光の剣は粒子となって消滅し、軌道が逸れたのを確認した後、姫子と千歌音はギロリと獣のような表情でぐっしょりと全身に滴る汗を拭いながら、エナストリアの郊外に落ちた隕石を睨み付けた。一瞬、光の刃で触れたソレが、ただの岩石ではないと理解したとき、その岩から滲み出ている殺気を感じ取り、すぐさま、剣神天群雲剣は戦闘態勢を構えた。この異様な殺気は何だ。今までは夜の闇に隠れて奴は、この地球に舞い降りていたからなのか、闇夜の中で活動していたから黒いオーラが隕石にまとっていることを触れることで初めて理解した。
 あれは、隕石ではない。
 明確な意思を持った存在であると、剣神天群雲剣が再度、光の刃を構えて続くように四体も武器を構えた。
 「隕石じゃない……?」
 「アンモナイト……?」
 徐々に姿を変えた、それは形を変えていく、それはクレナイ・ガイはよく知っていて、今のジャグラス・ジャグラーからは様々な要因を含めて忘れたい過去そのものだろう。アンモナイトのような、それは、この世界に君臨して現れた。オリジナルと比べると、どれほどの差があるのかはわからないが、その異様さは徐々に形を表してきた。
 「クトゥルフ神話に、ああいうのがいた気がするけど……」
 「えぇ。かつてティガさんが封じた一体です。」
 「魔王獣……」
 その名前はレナも聞き覚えがあった。何千年も人ならざるものをやって生きていれば、それくらいの外宇宙の一つや二つは嫌でも入ってくる。そして、それがどれだけヤバいことであるかも理解はしている。
 「レナ、震えてる……」
 「大丈夫、だから……」
 「マガタノゾーア……!」
 「しかし、あの時の程の強さは感じない。レプリカだな。」
 オーブオリジンが思わず、かつての強敵を口にした。
 ジャグラーは露骨に不快感を表して、嫌な思い出を振り返るように首を振る。かつての別世界でイシュタール文明で栄えたソレ。ガイは、その光景、奴の正体、名前を知っている。かつて、このオリジナルが一つの文明を破壊し追い詰め、光の巨人を石像に変えた邪神をモチーフの魔王獣の一体。ジャグラーとガイの中で、その前兆が無いのは、奴がオロチが記憶の破片から作り出したデッドコピーであることがすぐに解るからだ。マガクリスタルと呼ばれる部分に色が染まっていない。
 それだけで十分ではあるが、その思い出には苦いものが残る。オーブとの死闘の末に倒されるもイシュタール文明は周囲の砂はガラス状になり、建築物も大破したりとほぼ壊滅状態。自分が先導したこととはいえジャグラーは苦虫を潰したように口の中に溜まった唾を吐き捨てるような不快感を催すほどの心地悪さが肉体と精神を襲う。
 ゼッパンドンの片腕に己の愛刀を持たせて、ジャグラーが改めて目の前の異形と立ち向かう姿勢を示す。
 「異形……」
 「気持ち悪い……あれ。」
 サラとティアが率直な感想を口にする。それは、そうだろう。巨大なアンモナイト状の体から触手が生え、顔は下顎に目が付いているという極めて奇怪な姿をしている。また、土に浸かった体からは鋏状の触手も生えている。
 「なんで、あんなのが……」
 「お嬢ちゃん達、気にするな。アレは、そういうものとして見るしかない。だが嬢ちゃん達とあれは違うだろう?」
 所詮は人の記憶の中で作られた存在。それは、最後に戦った記憶の中で作られたものでしかなく、常に前を向いて進んでいる自分達の前では弱い。
 「ジャグラー、たまには良いことを言うじゃないか。」
 「ふん。こんな奴、早く倒して楽になった方が良いだろ。」
 素っ気なく返事しながらも、かつての、この大地を己のくだらない感傷によって生まれた闇の象徴の一つと、マガタノゾーアはジャグラーにとっては心の闇の傷とも言っても良い。今、エナストリアをイシュタール文明のように崩壊を促すわけにはいかない。
 「アーナス……魅零……まだなの!?」
 姫子が流石に戦友である仲間の呟いた。娘たちが、このままだと死んでしまう。だからこそ、ジャグラーは、それを察して己がマガタノゾーア戦に備えて殿を務めた。刀を前に向けて、いきなり迫りくるマガタノゾーアの触手を一人、全て捌き、その隙を突いて、三機のレガリアと剣神天群雲剣、そしてオーブオリジンが動き出す。
 「こいつ、大きすぎる……!」
 「腐っても、こいつのオリジナルは二百メートルクラスのバケモンだ!」
 「こんな奴を相手にしていたの!?」
 マガタノゾーアの、その他者を下に見下すような顔が不敵に笑いだす。それが合図であるかのように、再度、地面から再生怪獣軍団が生まれ出た。
 「また、これなの!?」
 イングリッドが流石に、この3時間以上も続いた連戦の中で悲鳴にも近い絶叫を上げた。何処まで、こいつらは戦うというのか。
 「ここまでくると、無限に再生できるものでは無いとは思うんだけど……」
 「私達がいるから必死なんでしょう。死力を尽くしたくなるのは解らないでもないけど。」
 だが、それにしても、こちらの疲労と言うものがある。
 「もうー!しつこい!!」
 流石に、疲労しないという訳ではない。マガタノゾーアに再生怪獣軍団。これほどの集まりというのは流石に、異常だ。長く続けていると自然と誰もが動きが鈍くなる。
 テイシスとメガエラ、そしてアレクト。長年生きても子供の身体であることは変わらず、その美降りかかる負担は大きい。故に処理が遅れて動きは長く電源を入れっぱなしのパソコンのように遅くなってしまう。その穴をジャグラーのゼッパンドンがバリアでフォローしながら攻撃しても無数に湧く限り、マガタノゾーアに近づくことすらできない。それでいて、距離をとっても紫のビーム、近づけば触手と鋏、シャドウミストが襲い掛かり、マシンを傷つける。
 「スペリオン光線ッッッ!!!」
 スペシウムゼペリオンが、その両腕から渾身の必殺光線を放ち、砂で出来た怪獣軍団を片付ける。そのままマガタノゾーアに対しても強靭な一撃を放ったが、一瞬だけボロッと何かが落ちたような手ごたえに近いものを感じていた時だ。無尽蔵に湧いて出る怪獣と破壊神の軍団。それを統率するかのような、巨大な気持ちの悪い何か。闇を見たものは希望の灯を消され、闇に触れた者はその肉体を姿なきものに変えられる。
 まるで、要塞だ。
 一瞬、傷つけたと思い込んでいた何かがすぐに傷を癒して目の前に君臨している。戦う中で、それは一瞬、期待した幻だったのかもしれないし、夢物語であるはずだったが、ここにいる誰もが、その瞬間を見逃さなかった。
 「ユイ。」
 「レナ……行こう。」
 それ以上に襲い掛かる怪獣の大軍団。ガイはかつて、ゼロの名前がついたウルトラマンから、こういう状況を味わったことを教えてもらったが、それ以上の激戦だ。それほど、オロチという存在が、どういうものなのか、かつての記憶に思いを馳せて、今、戦っている相手に戦慄する。
 レナやユイ、姫子と千歌音に計画を狂わされたとはいえ、それでも邪神を名乗る気持ち、わからないでもない。
 (昔なら、エナストリアを破壊する戦い方をしてたんだが……)
 ガイと同じことを感じ取っていたジャグラーは、それを為せば、また生命の樹の時になるということは本能的が解っている。
 また、あのようなことを繰り返すわけにはいかない。
 人は文化と共生する。
 その文化の象徴を破壊してまで一つの争いを止めることは、また、あの悲劇を生む。今のジャグラーにとって、更に、このエナストリアの大地でソレを為すわけにはいかない。
 それでは、奴らとオロチと同じ道に走ることを誰よりもジャグラーは知っているし、マガオロチと戦った時のガイも痛いほど理解はできるが、それでも、この戦場で、誰一人欠けるというのはあってはならないことであるのも。曲がりなりも、それが世界を護る人間の仕事というものだ。
 「こちらも、容赦しないなら、向こうも容赦しないということか……」
 「レナ……」
 「うん……ユイ。」
 「さっきのオーブの攻撃を見て傷ついた時に、すぐに再生したけど、あれは基本、奴らと同じはず。」
 ユイはレナに、一つ相槌を打つ。
 こいつさえ打てば。
 恐らく、この後に出てくるだろう奴を叩けば、暫くは自分達の栄誉は訪れるはずだと信じて互いに思考をリンクさせてからアレクトは大地を揺らして何も考えていない猪突猛進の子供のように駆けた。
 両腕を振るう。
 殿であるゼッパンドンがいる真正面を走り、息を合わせて勢い良く、再度、勢いよく大地を蹴って、砂塵を巻き上げて走り出した。
 「ジャグラー、ごめん!」
 「はぁ!?」
 その問いに答えることなく、アレクトがゼッパンドンの背中を駆けあがり、跳び上がる。
 ゼッパンドンの身体がガクッと揺れて一瞬、衝撃の走った方向へと顔を向けた。
 既に、アレクトの赤と黒の影は青い夜空に異形の存在として空を駆ける。そのまま、要塞のような肉体は動きが当然、遅い。あの動きでありつつ絶対的な火力であるのは、余程、装甲に自信があるからなのだろうが、それならば、渾身とはいえ、スペリオン光線の一撃で簡単に、一瞬だけでも脆く崩れるというのはあり得ないはずだ。
 レナの思考を読んでユイが頷く。傷の癒しはオロチによる力、そのものだろう。その名前に、一瞬、恐れて誤魔化されただけ。ガイとジャグラーのせいという訳ではないが、恐らく、こちらも、あの歴戦の戦士が、そう口にしたから同様に波に飲まれてしまった。空の彼方から二人の行動を読んだかのように異形の翼を持った怪獣達が襲い掛かる。
 「ジャッジメントアロー!!!」
 「スペリオン光線ッッッ!!!」
アレクトの動きを援護するかのようにメガエラとスペシウムゼペリオンが異形の翼の怪獣達を撃破して、さらに、その崩壊した怪獣の肉片という名の土を蹴り上げて砂になったのを確認するまでもなく踏み台にして近づいた。再生されたマガタノゾーアとはいえ、所詮は本物ではない。さらに、ジャグラーの言葉がレナの中で一つの結論を与えた。
 所詮、コピーでしかないというのなら。
 「過去程の力も無いなら……」
 あの激戦を駆け抜けてきたのだ。その戦闘データを模倣することは出来て呼び出すことが出来ても、その装甲の材質までは別のもので代用しなければなるまい。
 オロチは、記憶の底からギャラクトロンや、魔王獣を呼び出しても、結局のところ、本人たちの知るマガタノゾーアのコピーであっても、完全ではない。そこにはオリジナル劣る部分が必ずある。その片鱗を、あのオーブのスペリオン光線が見せてくれた。まさに、それはデッドコピーだ。さらに、オロチ自身は封印によって眠らされて自分の新たな肉体復活の為に外世界に出ようともしなかったし、それを使用ともしなかった。なぜなら、外宇宙からの使者の記憶を吸い上げるだけで知った気になっているからだろう。他者の記憶を読み込むことでしか外部の世界を知らないからこそ、その全ての性能を発揮できる完全なコピーはいない。
 だからこそ、あの怪獣軍団は火を噴く芸当と歩くことは出来るが、それ以上の特殊能力と呼べる部分が無い。ただ、数で圧倒しているだけ。一度、壊滅させようとしても再度、一瞬で蘇る。
 厄介ではあるが、これで良いとでも言うかのように、ただただ、目の前の怪物たちと戦いあう。だが、徐々に、その動きも脆くなっていく。いや、動けば動くほど、吸血鬼が太陽の光を浴びたかのように奴らは蘇る。
 ただ、先ほど、姫子が呼んだアーナスと魅零という名前。この二人、いや、もしかして、それ以上の仲間が今の瞬間にも暗躍しているのだろう。
 そしてマガタノゾーアのような巨大な存在になると、余程、精製に時間がかかるのだろう。オロチの力は弱まっているも言う。この考えを一瞬にして処理して、ユイはレナの考えを理解し、レナは、アレクトのエネルギーを全て右拳に集中させて、マフラーにあるチャクラムを使い、足場を使ってマガタノゾーアの攻撃を何度も紙一重で避ける。
 こういうデータはあっても、どういう風に扱うのか、理解が出来てないからこそ、コピーにはタイムラグに近いものが生じる。
 「決めるよ。ユイ!」
 「うん!レナ!」
 アストラル・ブロー。
 アレクトがエネルギーを右拳に集約させて全霊を捧げて右腕を巨大化させた。みるみると、それは異形の赤い拳を作り出し、絶対的な粉砕という意志を込められた異形の形である。ゼッパンドンの背中を利用した震脚から跳躍一閃、空から大地を割らんばかりの勢いで怒涛の拳の鉄槌を叩き込む。
 「ビクトリーさんのEXレッドキングナックルのようだ……」
 ガイは、そう表しながら、その拳の向かう先へとスペリオン光輪を多く召喚してアレクトの周りに蠅のようにたかろうとする異形の翼を持つもの、かつては地を焼き払う悪しき翼のデッドコピーを己の念動力を使いながらスペリオン光輪で切り裂き、それによって作られたルート。
 「まだだっ!!」
 いち早く戦士としての勘が、その芯がやられていないことにジャグラーが気付く。
 ガイが光線によって生み出した一時的に空いた道を疾走し、目の前に現れる怪獣の群れを乱舞するように相手のコアを正確に狙い切り裂く。一連のころよりも戦士としての矜持が蘇ったジャグラーの動きというのは無駄がなく、確実に敵を葬る。その姿にガイは、あの頃、自分が憧れた戦士としてのジャグラーを思い出していた。
 巨大なゼッパンドンの鎧を見に纏いながらも重さを感じさせないほどに素早く走り、蛇心剣で相手を切り裂く姿は最強の爽快であり、圧巻である。そこに過去の自分との決着を、この場所で着けるという確固たる意志がある。その意思がジャグラーを強くさせると同時に、イミテーションリングがジャグラーに本来の出力以上の力を与えていた。
 「お嬢さんたち、下がれ!!!!」
 ジャグラーの言葉と一緒に、レガリアがジャグラーの背後に下がった。
 「はぁぁぁぁぁぁ……」
 それを確認し、ジャグラーは一瞬の一意専心の心を作り上げて、その気合に応えるようにジャグラーの意思に応えて鎧が徐々に形状を変えていく。
 それは、過去にマガタノゾーアを復活させる為の司祭としての忌まわしい過去を振り払う、ジャグラーにとっては大事なことでもあった。
 炎で忌まわしき過去と決別する。
 強い意志が宿った。
 蛇心剣の刀身に両肩のパンドンを模した炎のドリルを重ねることで巨大な炎の剣を生み出しだ。忌まわしき過去を切り裂き振り払うための炎の巨大な刃。天まで届くほどの、その刃は危険を察した怪獣軍団が、どうにかしようと、炎の刃に触れようとするも逆に、炎に食われるように、炎の餌となるように消えていく。
 熱波襲来
 闇をダーク・ゾーンそのものに帰すかのように一気に振り下ろす。
 「地獄の炎の誘いだぁぁぁぁぁ!!!真炎月斬破ぁぁぁっぁぁぁ!!!!!!!!!!」
 まだ、マガタノゾーアがやられているわけではないことに気付いた無数の怪獣軍団が土くれに帰り、巨大なバリアを再度構成する。
 「無駄だぁぁぁぁあ!!!」
 ジャグラーの気合一線、そのようなものを撃ち砕くように、両肩の火炎砲弾発射口から、極太の炎のエネルギーを使った炎粒子バスターが発射された。これが、ジャグラーの、あの時の二の舞は踏むまいと感情のエネルギーが咆哮と一緒に炎の光線を龍の形に変えて、一気に巨大なバリアを突き破る。
 ガラスが割れるような音と一緒に、巨大な龍が真炎月斬破のエネルギーも食らい、意思を持った本物の龍であるかのように姿を現し、マガタノゾーアの内部に入り込んで一気に食い荒らす。
 数は多いが、統制が取れていない分、それは烏合の衆でしかない。すぐに空を駆けたアクレとは異様なまでの巨大な拳をマガタノゾーアに振り下ろし、それに止めを刺すようにジャグラーが炎の龍で巨大な張りぼてだったマガタノゾーアを象ったソレは呆気なく灰燼と化した。
 所詮、土塊で作られたものならば、それは容易に破壊できる。同時に、怪獣軍団の動きが鈍りだす。
 「そろそろかしら?」
 千歌音が、機は熟したと言うかのような言葉を吐いた。
 「どういうこと?」
 レナが千歌音に尋ねたが、柔和だが、計画通りとでも言ったような笑顔を浮かべてた。もう、このルクス・エクスマキナの力に振り回されるのも最後にしよう。
 そうするかのように、ルクス・エクスマキナの残骸が爆発した。突如の事ではあったものの、元より、それは計算されたことであるかのように姫子と千歌音は笑いあう。元より予定されていたことが成功したかのように。そして、土塊たちが消滅する。消滅した土塊を確認して剣神天群雲剣は急ぎ、アレクトの側に駆け寄った。気付けば、全員、ボロボロだ。ジャグラーとガイは人間の姿に戻り、皆が、一瞬で緊張が解れていく。
 これ以上、戦えと言っても、戦うことは辛いことだろう。
 最終決戦とでも言っていい、この戦い、まずは、一先ずの勝利と言うべきか。
 全ての仲間達に戦闘態勢を解くことが無いように命令しながら姫子と千歌音はデッドコピーマガタノゾーアを破壊したユイとレナに労いの言葉をかけていた。
 「大丈夫?」
 「う、うん……」
 三時間、土塊とはいえ、多くのデッドコピー怪獣軍団やらオロチロボの集団と戦ってきたのだ。細かい傷は目立つし、あの状況で全員、生き残ったことはある意味奇跡。
 「やっぱり、仲間っていうのはいると良い物だね。」
 「えぇ。態々、別世界まで赴いた甲斐があったわ。」
 「アーナス、魅零、お疲れさま。」
 労いの言葉の後に、夜の王のようなを持った女と、白いドレスの戦乙女の二人が剣神天群雲剣 の両サイドに立った。元より、これが狙いだった。アーナスや魅零を代表する姫子と千歌音の呼んだ仲間達が、ルクス・エクスマキナを内部から破壊したのだ。今まで地球を犬の首輪のように覆っていた醜いルクス・エクスマキナの残骸が轟音を立てて、静かな夜の舞台に堕ちていく。
 「やっと、これが出来たわ。」
 感慨深く姫子が呟き、千歌音が優しく抱きしめた。ある意味、これで一つの決着をつけられた。オロチによってつけられた愛娘との間に生まれてしまった溝の要因の一つをこうして倒したのだ。感無量という言葉が一つ、二人のレズビアン夫婦の心を満たしていた。ジワリと沸き上がる感情の海が暴走してしまいそうなほどだ。
 これで、終わりであってほしいが、終わることは無いだろう。ルクス・エクスマキナを破壊しても、その禍々しいオーラは消えることがない。未だに、こちらの寝首を切り取ってやろうと連中は、まだ鎌首をもたげているようだ。
 「各自は、その場で待機。」
 姫子が己の仲間達に、そう命令を出して、少しだけ訪れた静寂と蛇のように警戒音を出しているような空気の中でぐったりと、背を千歌音に委ねた。
 剣神天群雲剣サイドに全ての力をオロチが集中するように。敢えて、大型の戦力を、こちらに集中させた。囮だった。そして、面白いくらいにオロチは、こちらに戦力を集中させて、ルクス・エクスマキナの内部に姫子と千歌音の仲間達が多く入り込んで、その力の源を絶った。
 「これで、終わりなの?」
 「なら、良いんだけどね。」
 長年の宿敵だ。これで簡単に終わる奴では無いこと位は知っている。
 「空気が、重い……」
 長く戦場にいたレガリアの契約者である四人の長く生きた少女は、現状流れる空気に違和感、重圧と言っても良いほどの息苦しさを覚えた。一瞬、空気が意志を持っているかのように待機が淀んだのを感じ取った。嫌な空気だ。
 「手負いの獣……」
 今の、オロチを表するなら、それだろう。
 「まだ、来るの?」
 「私とユイの関係が新しく前に進むたびに、あいつらってちょっかい出す……」
 露骨な不快感をへの字口の不快な表情に疲れから目を血走らせてこの空気の不快感を言い表した。奴は、死んではいないのだろう。どこかに奴の本体はいる。このエナストリアに振り撒く空気、全てが悪意と言う名の毒水に満たされた水槽にいるような魚のような気分だ。必ず、奴は、ここに君臨するだろう。
 迷惑なことだ。
 このまま、諦めてくれればいいものを。
 だが、それでもあきらめないというのは、その潔さをどうして、こうも破壊にしか使わないのだろうと長い戦いの中で得られた疲労が緊張が解れた、この一瞬の静寂の空気の中でドッと、疲れのようなものが襲い掛かる。
 頭痛が酷い。
 しかし、空気は終わったとは言っていないことが辛い。大きな衝撃を受けて破壊され崩れ落ちて消滅したルクス・エクスマキナの残骸を見つめて、余りにもあっさりとした、しかし、隠そうとしない殺意を空気に乗せた今と言うものを感じ取る。
 「出てくるなら……」
 「出て来い……」
 何処から、出てくる。この崩壊したルクス・エクスマキナの残骸は、後で、この後のことが終わればと思い、レガリアの中で眠りにつこうとした。
 「消えていく?」
 「粒子になって消滅していく?」
 結局、最後の力を振り絞って、それが失敗と言う理想であればよかったのだが、違う。粒子が空に向かって上昇していくのを見て、そこに奴の本体がいるのだと理解し、姫子と千歌音は老骨に鞭打つ大人のように再度、剣神天群雲剣を動かした。しかし、動かしたときには気づいた時には既に奴の方が、この手の行動は早かったのだ。
 ソレは目の前にいた。
 機械で出来た怪獣そのものと言って良い。思い出した。その醜悪な影がアレクトに向かって赤い閃光を口から放った。突然のことに対処できずに、アレクトは動くことが出来なかった。
 「ぐぁっ!!」
 「レナ、だ、大丈夫!?」
 姫子と千歌音が悲鳴を上げた。
 「お母さん!?」
 レナは思わず叫ぶ。
 まるで、活動写真のような光景だ。
 丁寧に写真が一枚一枚撮られたかのようにレナと言う娘が乗ったアレクトを二人の母親が駆る剣神天群雲剣が庇い、そして、剣神天群雲剣は結界の向こうまで吹き飛ばされた。剣神天群雲剣自身の傷は大したことは無いが、衝撃を受けたコクピットの仲間では流石に無傷という訳ではあるまい。姫子と千歌音が悲鳴を上げたように、大きな揺さぶりが内部を襲う。無理に剣神天群雲剣を傷つける必要はない。内部にいる敵に衝撃や、何かで倒せばいいのだと口にする。
 「お母さん、大丈夫!?姫子お母さん!千歌音お母さん!」
 なりふり、構っていられなくなったのか、二人のことを母親と呼んでレナは叫ぶ。
 敵の機械仕掛けの巨大怪獣は勝ち誇ったような咆哮を上げて姫子と千歌音が吹っ飛んだ後の陣形を崩し始めた。ガイとジャグラーは再度、フュージョンアップして訪れる攻撃を防ぎ戦い始める。
 「きゃぁ!」 
 鼓膜が破れそうなほどの衝撃と攻撃をどうにもできないサラとティアが叫んで助けてほしいと訴える。
 一瞬の隙だった。
 一瞬の和らいだ空気が、六体の陣形を崩したのだ。正攻法では勝てないからこそ卑怯な手段に出るというのは常に聞いていた。警戒はしていたはずだったが、それ以上にオロチの行動の方が早かったということだ。陣形が崩されて場が乱される。
 「私達は、大丈夫!!」
 吹き飛ばされて、何とか意識を保っていた姫子と千歌音が自分の娘たちに声をかけた。
 「姫子さん!千歌音さん!」
 ユイが思わず、その名前を叫んだ。
 「今、あの時のように私達は、奴に押される訳にはいかないの!!」
 イングリッドは何とか奮起し、メガエラを羽ばたかせて再度、攻撃を繰り返す中で、レナは一つの思い出が蘇っていた。母の苦痛を表す悲鳴、その声を聴いて、徐々にプロテクトが完全に外れそうになっていた。
 ”あぁ、あいつだ。”
 地獄からの誘い……
 口をゆっくり動かして、鍵が突然、開いた金庫のように脳内の記憶が鮮明に蘇り始める。映画のように、この戦場で止まり、ただただ、アレクトはあの醜い怪物を見つめて、そして他の二体のエリヌースのレガリアも動きを止めていた。六人のパイロット達の意識の共有が始まり、メルトダウンが始まる。
 「千歌音ちゃん!アレクトに何か動きがある!私達が!」
 「解っているわ。何かあるのよ。だから、今、レナを私達が護りましょう!」
 戦線復帰した剣神天群雲剣は、今度は、エリヌースのレガリアを守る為に動き出す。
 「あの時のようね……娘たちを守る為に、戦ったように……」
 「今度は、絶対に護ろう。」
 決意を表明して無茶苦茶な攻撃を繰り返すオロチからアレクトや、そのアレクトの中にいる者達を愛するエナストリアを護るために姫子と千歌音の支持を受けて新たに参戦した魅零とアーナスを含めて戦い始めた。
 「あの時の、あいつ……!」
 過去の世界を破壊した、巨大な機械仕掛けの獣が、そこにいる。
 「あいつだ……」
 レナの中にある記憶の中に恐怖が具現化し、目の前に蘇る。
 奴は、急に世界に脅しをかけるように地ならしを鳴らして現れた。いつ、形を成したのか解らないほどに、地面を抉り、大地を焼く腐臭を放ち、ドロドロとした土がマグマのように熱くなるような、あの感触だ。
 目の前にいるのはどこぞの国の映画の黒いトカゲのような怪獣王のような姿だというのに、それはレナを初めとする古の時代を生きた人の不快感を煽るような、グロテスクな虫が巨大な怪獣になって現れたような、そういう吐き気を催すほどの憎悪を纏った悪鬼と言えるかもしれない。
 「レナ?!」
 「ユ、イ……アレは……あれは……」
 記憶が深淵の中から這いずり上るかのように、忘れていた宝物を見つけたように奴の記憶がレナの中に走る。だが、その宝箱はパンドラの箱。開けば不快な思いでしかない、開けてはならぬ不快な記憶。いや、既に記憶と言うパンドラの箱は開きかけていた。あのユイと一つの事件を塗り替えてから。ずっと、その古の時代の記憶の欠片は二人の母親が伝える言葉によって開きかけていた。
 「お前は……お前は……!また、ママを私の大切なものを傷つけるのか!!」
 レナの蘇った恐怖を抱いた咆哮が空を裂き、アレクトはレナの感情に呼応するように黒い炎を噴き出して他の二体のレガリア取り込んだ。


 「レナ……?ここは……レナの中……?」
 そこは、レナ・アステリアの古の世界の中……
 レナ・アステリアの深淵の中であり、レナの咆哮と共にユイの意識は自然と、この場所にいた。
 「これは、レナの中にある、最古の記憶の中……」
 「レナの記憶?」
 いつの間にかレガリアの契約者たちはアレクトに取り込まれて、レナの記憶の中にいた。
 ユイはもちろん、ケイも、サラも、ティアも、イングリッドも。レナの中にある人一倍強い封じられた悪魔たちが巣食っていた時代の記憶で、レナの思い出であり、黒い炎を通じて結ばれあった記憶。そして古の時代の記憶を忘れていた契約者たちは、鎖が解かれたかのように、この世界が滅んだ記憶が蘇り、そして理解する。
 「そして、私とティアと、ケイ、レナが、そして姫子ママと千歌音ママが生きた記憶の世界だよ。」
 「ケイ、それに、更にティア……貴女達……」
 「うん。ユイの憎悪の記憶で思い出したよ……私達が、何で昔の記憶を思い出せなかったのか……」
 「何で、自分達が記憶を封じたのか……って言った方が正しいけどね。レナにとっては、この記憶は、何よりも大きかったから、一度、大きなショックを見て綻びが産まれてから……」
 どうやら、この世界はレナの記憶を中心に形成されたレガリアの中の世界らしい。かつて、ケイの洗脳を解除するために二人の精神がメガエラの中に入った時のように。だが、それならば、ユイの中で肝心な人がいない。常に愛する人がそばにいない不安に苛まれておかしくなりそうだ。
 「待って。レナは?レナは何処にいるの?」
 「レナはいるよ。あそこに……」
 ケイに指を指された場所に、ユイの最愛の人はいた。レガリアの記憶によって繋がり、その中心にいるレナ・アステリアは己を黒い炎に包み込ませて、それ程の今回の敵が憎いのか、憎悪の炎に包まれていて、その炎に触れるだけで、レナが、何故、この深淵に眠らせていたのか。その忌まわしき記憶がユイの中に入りこみ、さらにはレガリアの中で全てが繋がり、契約者たちに、その記憶の全てが映画のように入り込んでくる。
 「レナ……?」
 記憶の向こうの世界にいるのは契約者になる前の普通の人間になる前の少女のレナがいた。
 「ママ……ママ……私ね……」
 昔、私が生まれた世界には暴れる怪獣や悪いことをする宇宙人がたくさんいた。
 それが、どういう意味なのか、ただ、それがそこにあるものとして、私が生まれた時間の中では、ただの自然現象と同じように私達の世界にいた。
 ただ、街を脅かす存在として、何かに支配されている、破壊衝動を増幅させられたようだったと、ママたちは言います。
 そんな怪獣を私の二人のママが白銀のレガリアに乗って倒し、戦う。
 中には悪くない怪獣や宇宙人もいて、そういう怪獣と宇宙人は助けたりして、そうやって世界を救う私の二人のママは誇りでした。
 オロチは昔、ママたちに壊されたオロチシステムと言うものを直すために、邪魔なママたちを殺すために戦うんだと聞いて、私はとても怖くなりました。
 でもママには沢山の仲間と、別の宇宙からやってきた銀河の風来坊と名乗る光の巨人に変身する人や、傭兵と手を組んで、怪獣や悪い宇宙人から、この地球を守る。
 その姿は自分の両親だからこそ何よりも誇らしかったです。
 お母さんは昔、ノアの巨人から大切なアイテムを貰って、それで、オロチと戦うための力をくれたんだよ。
 とか、どんな力を持っていても、それは万能じゃないんだよ。って教えてくれて、そんなママたちのお話を聞くのが私は大好きでした。
 ただ、いつからだろう。
 長い戦いの中で宇宙人が、この地球から逃げていく。
 何かから恐れるように。
 それは、私にとって母たちに敵うことが出来ないから逃げたのだと思ったけど、それは違いました。
 宇宙人が逃げた、ある日の夕方、私は一瞬、意識を失った。
 身体がぱっくりと開いたような感覚と、悍ましいほどの痛みと、鮮血。
 視界に入った深緑の髪の男が逃げていく瞬間と、それを切り裂き絶望の咆哮を上げるジャグラー。
 ママたちの仲間だった傭兵が私を助けて、私は、一つの空間の中に入れられた。
 みるみる痛みが消えていく。
 でも空は夕方の朱色ではなく黒い鋼と地を焼き払う悪しき翼と宇宙悪魔が地球の空を黒く染めてしまう。
 不気味に蠢く黒い空を前に、その不気味な軍団の中に、さらに不気味な存在が空から落ちてきた。
 大きい怪獣だ。
 ママたちの乗るレガリアよりも遥かに大きい。
 その怪獣は圧倒的な力で銀河の風来坊や傭兵や、ママたちが挑んでも、その強大な力に対等に戦えなかった。
 圧倒的な力に蹂躙される前に、二人のママは銀河の風来坊と傭兵を別世界に追い出して、二人のママは自分達のロボットを犠牲にして大きな怪獣を道連れにして、そのまま死んでしまっていたと思っていました。
 だって、お母さんたちは泣いていたから。
 気付けば世界は静かになっていて、子守歌のような海の水が陸を撫でる音と一緒にレナは目覚めていた。
 レガリアのコクピットの中でじりじりと皮膚を焼くような不快な匂いが鼻を刺して口の中が渇き、余りの不快感に嘔吐してしまいそうなほどに、口の中にゴキブリが蠢いているかのような心地悪さがレナを襲い、「うぇ……」と、嘔吐物は出さなかったが、身体の中に溜まったなにかを吐き出すように、自分の中から何かが消えたのを、じわじわと鳥肌が立ちそうなほどの気持ち悪さを滲み出る汗と一緒に口の中から、何か、心地の悪いものを吐き出すようにドロッとした触れたくないものを出したとき、母たちは幻のようになって消えていて、嘔吐を終えた後に、頭の中で消えていく何かと同時に、瞳の世界の中に入ったのは今までのことは夢だと思わせるほどの眩しい程に憎らしい青空だった。
 レナのことを、まるでピエロだというように嘲笑しているかのようだ。私達の幸せの隙を突いて、オロチは大勢でママたちを殺しに来たと言います。
 卑怯だな。って思ったけど、これが戦いというものなんだと理解しました。
 今までのこと、何もかもが夢であるかのように何度も何度も考えても、自分の中の姫子と千歌音の記憶は、名前のないただの母親に消えていく。アレクトから受け継がれた記憶は、その扱い方と、このレガリアに対する呪いだけ。
 誰かが護ってくれていたような気がした。
 必死になって、誰かが。何もかもが、姫子と千歌音の中の記憶が泡沫のように消えていく。
 恐らく、母親は自分を守る為に死んだのかもしれない。何のために、レガリアの不死の呪いをかけたのだろうか。自分は両親から愛されていなかったのではなかろうか。
 そんな両親なら自分は愛されていんかったのかもしれないと、そうして、自分の母親は、そうして死んでしまったという新しい記憶を植え付けて、二人の母親を憎むことを覚えて本当の記憶は消えていく。姫宮レナは、ただのレナになっていった。
 ”自分に両親はいない。”
 青空を見て、そう暗示をかけてレナは両親との楽しかった記憶を封じて一人生きてきた。いや、憎んで、その反骨心でも持たなければ生きる活力すら沸くことは無かっただろう。
 自分が生まれてきたときのこと、自分と遊んでくれた人たちのこと。母たちが出会ってきた巨人や特殊な力を使う人々、仲間、様々な人たちの話、自分達の力と時間を犠牲にして封じたオロチと名乗る敵との戦いの中で生きてきた神無月の巫女と呼ばれる過酷な宿命を持った二人のレナの母親の名前。
 そして、自分達を守る為にレガリアと契約させて自分達は犠牲になって、次のオロチの復活までに眠りについた話。
 ただ、そんなことをレナは記憶を封じて両親とオロチを憎むことでケイとサラとティアへの再会を夢見ることで生きてきた。母たちの真実や何もかもを知らないままに。実際に再会した時は、母たちの記憶を何一つ話すことは無かった。
 たぶん、彼女たちも、あのショックから全員、記憶の中に楽しかった思い出を封じたのだろうと、レナは今、目覚めて思う。
 ルクス・エクスマキナとオロチと言う潜在的な敵への憎しみを伴わせて。恐らくは、そのようにして記憶を封じていたのかもしれない。生きる中で、この状況、誰かを憎まずにはいられない。恨まれる中で脳裏に過る記憶は、まともな記憶ではなかったと思い込むことで両親を憎み、その呪いを与えたアレクトの中にある記憶、オロチとルクス・エクスマキナを呪うことで両親を憎む反骨心を持つことで辛い思い出と決別して生きてきた。
 ただ、自分の中で両親への憎しみが消えていったのはいつのころからだろうと考えながら、親というのは想像以上に大変だと知ったのはユイの母親の死を看取って、ユイと一緒に生きてきた分、何かあるのだろうとは思っていた。だが、そのレナの絶望の中に、ユイと言う名の希望がいた。だが、このぶり返してくる感情は何だ。圧倒的な哀しみが肉体を精神を蝕んでいる。
 生きていた二人の母親は、自分のことを思っている。
 それを知ってしまったからこそ、何とも言えない、今まで抱いていた自分の両親を憎んでいた記憶は何だったのかということを、改めて身体を矢で貫かれたかのような息苦しい痛みのような感触が肉体を蝕んだ。
 その後の復活の兆しを感じ取ったのはユイたちがルクス・エクスマキナの中枢を破壊してから半年近く経った時のことであり、その時に目覚めたのだ。長く幸せな時間が続いて、再び復活しようとしているオロチとルクス・エクスマキナ。
 子供の記憶は怖いものを平然と忘れるように、オロチの記憶を子供が自分の創作の中で作り上げたバケモノであるかのように創り上げて、それを子供時代の妄想として片付けていた。
 だが、レナを起こす夢と、あの破壊神、そして、二人の母親が乗ってきた巨大な兵器は、それは全て現実だということを叩き起こす。
 ただ、蘇るのは自分の住んでいた世界を大きく壊した巨大な怪獣、いや、破壊の使徒ととでも言うべきか。徐々に現実と夢の境目が一つになって意識が戻ろうとした時、レガリアとも、いつもの怪獣とも違う、凶暴で凶悪で邪悪な……
 同時にレナの中に、あの邪悪な存在と同質、いや、あの邪悪な存在が司る憎悪が募る。
 レナの中で眠る、あの破壊神への憎悪が間欠泉の様に途切れることなく溢れ出る。
 ”あいつを許しちゃいけない。”
 とドスの利いた声から、レナの中に眠る憎悪が肉体を侵食して募り、そして溜まり、アレクトに黒い炎が吹き上がる。それは徐々に黒い鬼のような姿になり、破壊神を食らいつくそうとしている。
 あいつは己の中の憎悪の感情を爆発させて……これから、奴を殲滅しなければなるまい。
 ユイの意識が恐怖から生み出されたレナの中に生まれた感情、その心と肉体に黒い炎が全身を包み込む。それは憎悪に浸食された、オロチと同じ醜い姿。
 あぁ、こいつが。こいつが憎い。
 自分を過去に呪いでしばりつけただけでなく、姫子と千歌音に苦渋の決断を負わせたことだけでなく。今、ユイとの幸せな日常を壊そうとしているこいつが憎い。そして不快だ。殺したいと思えるほど。単純だが、それほど、言葉の力は直接的で純粋な感情が垣間見えることが出来る。純粋な憎悪が生んだものは殺意の衝動となって、今、レナの中にある。
 殺意。
 たった、二文字の単純の中に生まれる言葉の恐怖、憎悪から生まれる言葉。レナの中に生まれている。刻まれた二つの文字がユイの中に走る。レナの中に共有される憎悪の感情、そして、その憎悪の中に走る黒い炎。だが、この黒い炎は今は全ての悪意を焼き尽くすだけでなく憎悪を増幅させる危険な炎。
 レナにとってはユイを含めて母たちを宿命と言う鎖に繋いで苦しめてきたオロチに対する純粋な憎悪と言うものが形となったかのようでもあった。
 レナは憎悪の炎に包まれて、あの暴走状態のアレクトとは違う、憎悪に飲み込まれる醜悪な炎。ユイは、この状態を良しとはしない。見るからに危険なレナの心に手を刺し伸ばす。
 「レナ!!それ、ダメだよ!!」
 取り込むようにレナの身体も、心も、黒い炎が凌辱しようとしている。そんなことを許しちゃいけない。声をかけるだけでも、それは……それは……それをただただ見つめていることしか出来ないのだろうか。ユインシエルの中で募る疑問はジーッとしててもどうにもならないこと位は解っている。
 「レナ!!!!」
 ユイが名前を呼んだ瞬間、黒い炎が一瞬だけ逃げるようにレナから逃げようとしていた。レナの感情と共に吹き荒れる黒い憎悪の炎の嵐が纏う。ユイがレナに触れたことで知った世界。それはレナがユイと出会う前から歩んできた記憶の奥の世界。
 「レナッ!レナッ!」
 何度、名前を呼んでも、その漆黒の炎は一瞬だけ怯むように消えるが完全に消えることは無い。今のレナは過去の出来事の恐怖に囚われて憎悪の炎に覆われた悪鬼に近い存在になろうとしている。醜悪で復讐を求めて相手を破壊しても、なお、逃走を求める獣なる前に。
 憎悪が人の負の感情、人から生まれる弱い感情であれば、それは絶対的に溢れ出るもの。否定は出来ない。だからこそ。
 「そうだ……」
 ”その恐怖は光で抱いて力に変えろ。”
 ”そうしなければ、私達のように呪いを与えてしまう……”
 解っていた。この状況、どうすればいいのか。思い出が恐怖に変わる。しかし、これまでの戦いで変わってきたのだから。乗り越えてきたのだから、越えられるはずだ。ユイは泳ぐように炎に覆われたレナに近づき、手を差し伸べた。
 「レナ!!こっちを見て!!手を出して!!」
 黒い炎に覆われたレナは、その声に反応して振りむいた。
 レナが燃えていく。
 レナの心が、身体が、何もかもが燃えてしまいそうだ。それ程思い出が見せる憎悪の炎はすさまじい。このままでは、あの思いでも、あの一夜も無に変える。そんなことがあってはいけないのだ。
 これから、レナにも、ユイにも、これから全員で生きていくためにも。この憎悪の炎は邪魔なだけ。これから生きる道に憎悪はいらない。必要なのは自分達への愛だけ。
 「だから!!レナ!!あの時、レナが私に決意させたように!!後押ししてくれた時のように!!もう、レナが辛い思いをしなくて良いんだよ!レナが苦しいなら、私も受け止めるからっ!」
 ルクス・エクスマキナの中での思い出が蘇る。
 「大好きだから!!愛してるから!!一緒に受け止めるから!!この憎悪の連鎖が続く宿命にピリオドを打とう!!」
 あの時のレナの思い得て、ルクスと一つになって、エレクテウ・アレクトに合体した、あの戦いを。その思いをぶつけるようにユイは燃える憎悪の炎を振り払い、レナを抱きしめた。燻って制御の出来ない神話の獣のように暴れていた憎悪の炎はユイと共有され始めたが、そのユイは愛を持って憎悪を否定する。
 ユイの心の奥にあるレナへの純粋な愛情をレナの中に伝えるように出して強く抱きしめることで憎悪の黒は消えていく。
 憎悪と言う闇を愛情と言う光で抱いてしまえば、自分の闇は無理やり力尽くで消すのではなく、逆に抱きしめて己の光にすればいい。一人で抱えきれない闇ならば愛する人が己の全ての光を持って抱きしめれば憎悪は消えていく。
 「ユイ……」
 憎悪の炎から解放されて、いつものレナが姿を現すが、未だに幻影の世界は消えない。
 「見たよね。私の全部。」
 「うん。」
 生々しい、レナ達が生きていた太古の時代の争い。
 だが、それが何だというのだ。憎悪の炎に飲み込まれそうになっても、今、こうして愛する人が助けてくれる。レナもユイも、それが一番大事なことだ。
 「それでも、私は、やっぱり、お姉ちゃんが一番だよ。」
 「ありがとう。」
 「うん……」
 深くは話そうとしないし、話す気は無い。
 今、思っていることは互いの心の中にある。
 憎悪から生み出された過去の思い出が司る空間が、崩れ始める。
 イングリッド達が現実に戻る。
 そして、ユイとレナも互いの身体を抱きしめあいながら現実に戻った。


 「もう、ユイと結ばれたんだから、あんな世界になるのを許しちゃいけない。だから、私とユイと皆で世界を護る。」
 「この憎悪の連鎖にピリオドをっっっ!」
 記憶からトリップして現実の世界に僅かに意識が戻るとき、レナの心に決意した言葉に応えるかのように抱いていた憎しみから生まれた記憶の牢獄が粒子のようになって崩壊し、自分の中で何かが動いた。
 今までは憎悪の宿命を撒き散らす憎しみと恐怖の象徴であるはずだったというのに、今のレナは何故だか勝てる。
 そう確信した。
 この倒しても人の憎悪が大地を満たす限り復活するというのに。
 それでも自分達は勝利を掴むことが出来ると、この忌まわしき母たちの先代の神無月の巫女から続く宿命と言う名の因縁を神の剣と邪悪な蛇の戦いを、二人の遺伝子を宿した娘であるレナと、そのレナが選んだ最愛の少女であるユインシエルが中心となって再び、輪廻のように続く憎悪の宿命の連鎖から完全に解き放つために立ち上がった。
 レナはユイと出会い、その宿命の連鎖にピリオドを打つことを、宿命を塗り替えることが己の使命と考えアレクトの中で愛する人と戦い強くなり、この今、来るべき戦いの時代に生きている意味を悟る。
 だからこそ覚悟を決めた。
 「行こう。ユイ。」
 「うん。レナ。」
 憎悪の炎から解放されたアレクトのコクピットの中で指を絡ませながら繋ぎ合う姿は戦場であることを忘れられるほど。しかし、強固な絆が、その二人の中に確かなものとして存在する。
 目覚めた時、夢の世界の通り、結界で護られていたエナストリアは攻撃によってかなりの損害を受けていた。大きな地震が国全体を揺らして壊す者は壊して満足するかのようにだ。だが、それ以上に味方陣営は、三体のエリヌースのレガリア以外は全員がボロボロだった。
 全身に青色の無数の触手のようなものがジャグラーを拘束し、放り投げて、バリアを破壊するために我武者羅な攻撃を繰り返す。オロチは、その姿で現れるや否や、体中の首から四方八方に火球を放ち、無尽蔵に発生する嵐で大地を巻き上げて様々な物質に変換して陣営を蹂躙し始めていたオロチ。
 この事態でも怯むことなく光の巨人を含めた、アレクトを除く味方陣営の攻撃に怯む事無く触手攻撃、火球、迅雷など攻撃を絶え間なく連発して、我武者羅に、とにかく此方さえ倒すことが出来れば良いと暴れ回る。
 「お嬢ちゃんは!?」
 「まだ、動かないのか!?」
 怯んだオーブを触手で動きを封じ、そのまま食してしまおうと思える意思が感じられるほどに。あの夢の世界よりも下手をすれば、もっと危険な状態だというの、何故、今、自分の気持ちは余裕のままでいられるのだろう。
 レナを含み、記憶を共有したレガリアのパイロット達の中にある違和感は、徐々に形を成していくように意識がはっきりとし始める。蕾が徐々に花の形を成しているかのようだ。トリップしている最中に護っていた、剣神天群雲剣も、オーブもジャグラーも立ち上がること自体が奇跡とも言える状態だったと言えよう。相変わらず土塊の怪獣軍団とオロチロボと称される破壊神たちが、こうも攻撃を諦めることなく攻撃を繰り返す。
 舞い降りた二人の戦士であるアーナスと魅零も傷つき疲弊していた。大地は抉れ、死臭のような臭いを発して焼け爛れて、じわじわと焼くような嫌悪感を満たす匂いがコクピットの中にも入り込んできた。
 ただ、この状況だというのにレナは、何故か、恐れのようなものが無い。確実に勝利を意味する状態にでもあるとでも言うかのような、その余裕の顔にユイは思わず、レナの方に恐怖を覚えていた。
 戦場と言う場所において、その危なさが、どういうことかは知っている。
 だが、不思議と、目の前の存在が怖くないのだ。
 徐々にオロチは異形の姿を持って、機械仕掛けのマガタノオロチから、己のデータと重ね合わせ、背中から己の取り込んだ怪獣やオロチロボの特徴を生やして歪な触手を持ったキメラへと変わり行く。目の前の巨大な黒い色をした機械仕掛けの怪獣とも、オーブの言うマガタノオロチと呼ばれる存在とも別の存在。すぐさま、これが、オロチの変化した姿だということを理解した。それでも、レナは、オロチのことに対して恐怖を感じなかった。
 「ブウォォォォオォォォォ!!!」
 レナの中にある恐怖心を感じていないことが気に入らないのか、機械音の混じった不気味な方向を繰り返すも、それはタダの負け犬の遠吠えにしかレナは聞こえない。
 どこぞの映画で怪獣王と呼ばれた黒い外見から、今度は、触手で覆われた丸い体の中央に巨大な頭部を持つ。星のすべてを喰らい尽くす伝承を持つ姿へと変化した。天の雷に似たる矢、悪しき気を持ちて、オロチ蘇らせたり。オロチが読み取った強敵の記憶から取り入れて変化した。呼び出すことなく、記憶と言う名のデータとオロチ自身が、そのデータを取り込んだ結果とでも言うべきか。
 「この戦場で……何をしているっ!」
 ジャグラーの激が飛んだ。刀を大地に突き刺し支柱にしながら、膝立ちになってでも、目の前の怨敵に立ち向かっていた。この厄介な代物を破壊するために、何度も攻撃を繰り返すも奴は何も通じない。それが、オロチの力そのものなのだろう。何か強大な皮膚に包まれているのだろうし、それは生半可攻撃を簡単に防いでいることを意味する。
 マガタノゾーアのデッドコピーよりも遥かに巨大な巨大な姿。
 だが、それが何だというのだろうか。
 今、己の中で漲る力に比べてしまえば、このオロチの姿など怖くもなんともない。
 レナを含めてエリヌースのレガリアのパイロット達は、それが負け犬の遠吠えのようにも聞こえて仕方が無かったのだ。
 あの時、記憶を共有してから何かが完全に目覚めて自覚した。あの時代を生き延びた自分達は、神無月の巫女の子供たちである。
 だからと言えば、おかしなな理由だが、奴を怖いとは思えなかった。
 何故、そのようなことを、今、思っているのだろう。
 光の巨人が地に足をついて、そして動けない記憶の世界でトリップされたような自分の揺蕩う夢魔の世界に心地よさを覚えてしまう。一般的に見れば、これは絶望的であるとも言えよう。あの夢の中の出来事が、今、こうして出来上がっているのだから。
 「レナ……!」
 「ユイちゃん……!!」
 喘ぐような姫子と千歌音の掛け声でレナが目覚めた。
 完全に、夢の世界から覚醒し、蘇り、全てにおける真実を得たことからの高揚感からか肉体全体の血液が主の器官を喜ぶように興奮していつも以上に早く循環している。
 意識は完全に冴え渡り、それは、これから勝つための未来へのヴィジョンすらもレナの高速で処理された思考の中に舞い降りて、華のように咲き誇る。あの忘れたかった思い出と言うものが、今は、越えなければならない一つの悲惨な過去として、ここにある。そして、今、また、あの悲劇が、この世界で起きようとしている。
 本当に、ユイと一つの障壁を乗り越えて幸せが訪れる時には、再度の障壁が襲い掛かる。出来れば、暫くは、これで最後にしてもらいたい。仮にユイと子供が出来た時に敵の襲来なんてあってほしくもないし、出来れば、これから出る杭は打ちたいものだ。だからこそ、一度、心を引き締めて強く持つ。そうだ。全てが、あいつを中心に回っていた。
 「こいつが……私と姫子ママと千歌音ママの関係も、私達も何もかもをを壊したんだ。」
 「レナ。」
 その言葉遣い、二人の母親を”ママ”と呼んだことからユイは、一瞬にして、あの機械仕掛けの怪獣が生まれてから、その記憶が蘇ったことに気付く。幼い外見をそのままに、どこか、いつものクールぶったレナとは違う、どこか、全てを受け止めたかのような、体格は変わっていないのに失った時間を取り戻したレナの姿は一瞬、大人に成長したレナの姿をユイの瞳に焼き付けた。
 幼窕淑女……そんな言葉が過り、戦場であることを忘れて、いつまでも見つめていたくなる。
 「レナ、記憶が……」
 レガリアの中にあるキーを通して記憶は共有された。
 全てのレガリアの契約者たちが、レナを通して古の時代の記憶を見た。あれが、この世界の真相。烏滸がましいが、あの一つで全ての記憶の封印が怒りと言う感情に解かれる形によって、一つ、一つの結果が何か枷から解放されたかのように、レガリアの巨大な肉体から黒いオーラのようなものが消えていく。
 そして、今なら、エクテレウ・アレクトになれると直感が申し出る。気持ちを強く持てば、この呪いは簡単に解き放てることが出来る。それが記憶の解放から生まれるオロチの上つけたチャチな呪いの解除。何処か、一度、肉体が生まれ変わったように蘇る記憶の連鎖から生まれた一つの怒りが簡単に植え付けられた呪いを愛が解呪する。
 「私、ママたちがレガリアと契約させてくれたおかげで、ユイと出会えたから。今は、感謝してる。だから。」
 何もかもが戻ってきた。
 「レナッ!!!」
 眠りから目覚めた。
 何処からかユイの声がする。
 夢の世界にいるレナを完全に目覚めさせるように愛する人の声が耳元に響く。あぁ、そこにいる。今、戻る。かつての忌まわしき思い出を脱ぎ捨て、今……
 「ユイ、ありがとう。行こう。」
 「うん……レナ……」
 あの時の思い出、姫子と千歌音や、ケイ達と家族で過ごした思い出。そして、これから両親と一緒にいつまでも楽しく、あの時間を取り戻すために。何よりもユイと一緒に過ごす未来。昨晩の今、誓ったユイと絶対に一緒に幸せになるという純潔を捧げあった証の為に。
 「ママ……」
 「レナ……」
 「この宿命を終えて、皆で自由になろう。」
 記憶を失っていた愛娘が記憶を取り戻し、自分達のことを母と呼ぶことに嬉しさを覚える。耳を劈くほどのマガタノオロチの絶叫にイライラしながら、レナは奴を見つめていた。歩く場所には土塊の従者たちが再度、現れる。レナの怒りの意思がアレクトを通じて光となって、テイシスとメガエラに走った。
 「ユイ、ケイ、イングリッド、サラ、ティア!!」
 あぁ、そうだ。
 こいつは倒さなきゃいけない。
 正当な理由がある。
 静かで正しい怒りを胸に秘めて、その思いに反応するかのようにアレクトが輝き始めた。
 自然とテイシスとメガエラがアレクトの中心に集まり始める。レナの中にある巫女の血が、そうさせるのか、今、エリヌースのレガリアはレナの手中の中にあるかのように制御は出来なかった。だが、それは悪いことではないということは解っていたし、自然とサラとティアとケイとイングリッドはレナとユイに、その意思を任せていた。
 しかし、それを危険とみなしたオロチがアレクト達を狙うために動き出す。
 ガイとジャグラーは、それを止めるために再度動き出した。
 「いい加減、煩い。」
 静かな怒号とでも言うべきか。どすを聞かせた声が響いてレナが両手を前に出したとき、エリヌースのレガリアの中にある三つの鍵が一つになるイメージを作り出し、さらに、白銀の刀剣を己の前に生み出した。
 ある種、自分の憎しみの象徴であり牢獄だったとも言える、あの日から成長が止まった、この幼い時の肉体が成長し始めた。
 肉体の枷を解き放ち、太古の時代から生きる四人のレガリアの契約者が成人の肉体になった。
 ドクドク……
 未来を築くための鼓動が聞こえる。その先が見えてる。皆がいる。そして、レナとユイの子供が、そこにいる。未来は、もう確約されたのだ。この先、誰一人、犠牲を出すことなく。
 レナが一度、合掌して、ゆっくりと手を開くと、そこには光のオーブが生まれて、その先には……
 「私とお姉ちゃんの未来が見える……」
 「そう。これは確約された未来。」
 「どうすればいいの?」
 「簡単だよ。オロチの呪いは、本当に姫子ママと千歌音ママの言うとおり、簡単に崩壊したんだ。そして、これから私とユイがどうすればいいのか。」
 互いの両手を繋ぎ、そして、額同士を、そっと目を瞑り目を閉じ合って意識を混ぜ合わせるように共有しあう。オロチがエナストリアを蹂躙しようとしているのに、全く怖くはなかった。アレクトを狙ったオロチの攻撃は、何かに護られているように軽く弾いて、そこに衝撃もない。いや、アレクトのコクピットの中に伝わるのはユイとレナの心臓の緊張から生まれる鼓動ではなく、こうして密着して一つになっていることに対する高揚から生まれる鼓動。
 何処か記憶の解放から流れ出る自分の中から湧いて出る力のようなものが、力の奔流が留まることを知らないような感じだ。元より、神に等しい存在である姫子と千歌音の血を受け継いだ娘である。陽の力と月の力が一つになって繋ぐ力を得てから、本来、そこにあった巫女の娘としての血が過去の記憶を見て己の存在を自覚した今、解放されたのだ。そこにある既に人でありながら人ではない巫女神と言っても良い姫子と千歌音の二人の特殊な血のハイブリットであり、剣神天群雲剣という名の子宮の中で生を受けたのだ。アレクトという名のレガリアの契約者であるということだけであり、覚醒しないこと寧ろ、不自然であるといえる。閉じた過去の記憶が夢であったのだから。そうして、互いの純潔を捧げあうことによって護りたいという感情と、ユイがレナの真の過去を知っても愛するという思い、レナが自分の光になってくれたユイを死ぬまで添い遂げたいという思いが混ざり合い、ユイがカギとなって、レナが愛の力で今、新たなる未来を導く神を創り出そうとしていた。これからの未来を壊すというオロチに対して抱く正統な怒りの感情が混ぜ合わさり、それは姫子と千歌音すらも知らない一つの力をレナは覚醒させたのだ。
 「アレクトが、あの時のようになる。」
 レナの宣言にオロチは恐怖したのか合わせるように、それまでの地球の記憶を巡るかのように様々な人型の巨大兵器が姿を現し、咆哮を上げた。地球の記憶を吸い上げて作り上げた兵士たちだった。己の存在意義のために戦い、そして、去り、または朽ちて行った者たちの記憶がオロチの手下になって甦っている。
 人の形をした、神と崇められてきた守護神たち。
 オロチの作り出したオリジナルのデッドコピーであろうとも、その力は脅威であることは確かであり、厄介な存在だ。
 「あんなに……いるのか?」
 その巨大な神たちの姿を見て、ガイもジャグラーも、この状況に対してユイもレナも、イングリッドもケイもサラもティアも落ち着きを持っていた。
 「姫子、これは……」
 「多分、変わる。」
 「ユイ、レナ……」
 アレクトを中心に展開される巨大な魔法陣。
 「共鳴してる……レナを中心に、私達が。」
 だからこそ、何をすればいいのか知っている。レナの中で組み上げられた、これからすべきことへの設計図と言うのが入り込んでくる。既に、何時間も戦ったとでも言うのに疲労を感じない。
 「私たちを使いなさい。」
 剣神天群雲が巨大な金色に輝く剣の姿に変形する。
 エリヌースのレガリアは一つになって、巨大な魔法人は白銀の夜を朝にしてしまうほどの輝きを持ってエクテレウ・アレクトは降臨する。さらに剣神天群雲がバラバラに分離して、中央にいる姫子と千歌音はアレクトのコクピットの中に入りこむと同時にバラバラになった剣神天群雲剣が鎧のように形を変えてエクテレウ・アレクトと一つになり、ユイとレナは、その力をコクピットの中で強く強く感じとれる。
 「あぁ、レナ……」
 「姫子ママ……千歌音ママ……」
 相手が永遠の闇を生み出す存在であるのなら、此方は永遠の光であり続けよう。人の絶望を司るなら、此方は人の希望であり続けよう。オロチが邪であり続けるのなら、此方は永遠の聖であり続けよう。絶対的な敵対者として常に抗い、この邪悪なジェイルの中で輝き続けよう。再度、人の闇を知り、闇を断つ。己の過去と対峙し、その闇を愛する人と受け入れ目覚める、本当の力そのものであると言えるだろう。
 絶望の記憶の中にユイがいたように。
 淡い娘たちの再会のなかで、気高き激情が散り散りに咲き、エクテレウ・アレクトに昇華したように、そして今、再度、一つの形へと昇華した。
 閉月羞花……剣神天群雲剣とエクテレウ・アレクトが融合した姿は、まさに、そのような言葉が似合う。
 「オーブカリバーが反応している……?」
 オリジンのフュージョンカードが反応し、スペシウムゼペリオンから再度、オーブオリジンに戻りオーブカリバーを取り出した。
 「こいつも持っていけ。」
 それは自分で選択したわけではないが、オーブオリジンはオーブカリバーが、今は、あの娘たちに力を貸すときと訴えているかのように聞こえたからこそ、オーブカリバーを渡した。
 手にしたエクテレウ・アレクトによって、様々なパーツが舞い降りてオーブカリバーと一つになり原型を感じさせないほどに形を変えて巨大な刀に変化する。麗しく銀の刀身が輝き、その刀身はいつまでも見つめていたくなるほどには人を魅了してしまうほどだった。それは、エクテレウ・アレクトのコクピットの中にいる者達の愛が結晶となって生まれた刃だった。
 愛が溢れて止められないほどに互いが愛しくなって求め合おうとする。
 これが姫子と千歌音の愛と、二人のレナや、サラとティア、ケイへの家族愛、イングリッドがケイを思う心。そして、何よりも、メインパイロットであるユイとレナが互いを思う心によって生まれたものである。輪廻を繰り返し世界が何巡しても必ず結ばれる運命になる永遠を誓い合った恋人同士の愛を共有し一つになったことが、さらにアレクトを強くする。そして、これはユイとレナの運命すらも……金色に輝き、聖騎士のような姿に形を変えたエクテレウ・アレクトの姿に誰もが、勝利を確信した。
 繋ぐ命の切っ先にある未来へのフレアから目覚めた存在。灰になるまで身を焦がし、邪悪の時間はやがて終わる。この誇りは誰にも奪えない。
 その想いの結晶……
 エクテレウ・アレクト‐光天‐
 レナは、今、自分達が載っているマシンを、そう評した。愛によって剣神天群雲剣が動くのであれば、そのデッドコピーとして生まれたエリヌースのレガリアも、また愛によって本来の力を発揮し、エクテレウ・アレクトを起動させた。
 片手で横一線にオーブカリバーから変化した刀を振るい、斬光が夜を朝に変えるほどの煌びやかな漣を生み出して走った。オロチの歪な触手を光の斬撃は文字通り消滅させた。
 予め、そんな触手など存在していない、それを存在しているという奴は異様であるということを訴えているかのような一撃だった。
 「凄い……」
 「元より、エリヌースのレガリアは剣神天群雲剣のコピーだもの……それが三つになってエクテレウ・アレクトに。さらに、剣神天群雲剣まで取り込んだのよ?そして、ここには、私達、八人の愛が詰まっている。」
 「でも、どうして……突然。」
 「たぶん、レナ達の愛の力じゃないかしら?」
 「レナ達の……」
 「曲がりなりにも、それなりの力を持った私達の娘と言うことから色々な力が記憶の解放と怒りと言う感情によって解放されたこともあるでしょう。それに私達の剣神天群雲剣は私達の愛の力で動くんだもの。コピーであるアレクトが二人の愛で、こうなってもおかしくはないでしょう?でも、それ以上に大切な存在が得られたこと、その誰かを愛する心が奇跡を生んだのよ。その感情が共有されて、ね。」
 「私達の娘だもの。」
 「あぁ、そうね。私と姫子の……」
 陽の巫女と月の巫女のハイブリットとして生まれたレナの中に芽生える新たな巫女としての力が記憶の解放と共に覚醒。過去から見せていた力の片鱗は、どういうものなのかはわからないが、一つの結晶のように形として、今、ここにある。
 それか、もしかしたら、それは人の持つ感情から生まれる力の為すものなのかもしれない。愛という名の力が生んだ、一つの出来事。ルクス・エクスマキナをエクテレウ・アレクトが倒したときのように。
 千歌音の愛情を受け入れた姫子が剣神天群雲剣、そしてかつての恋敵と一緒に一度はオロチの全てを破壊した時のように。記憶が感情のトリガーになって一つの決意がレナの意識が、今の、アレクトを中心に、その血筋に関係のある者達を護る力を与えていた。それが、どういう力なのかはわからない。
 だが、今は、そんなことはどうでも良い。
 目の前にいる脅威を倒すことが重要だからだ。
 オロチは恐怖を抱き初めて、よろめいた。今までの巫女との戦いの歴史の中で、このような出来事があっただろうか?ここまで追い詰められたことが。ここまで簡単に負けるという事件があったことが。いや、無い。全てが全てが予想を超えていたのだ。巫女たちの仲間、巫女たちの娘、そして光の巨人と闇の剣士のリベンジ。
 あり得ない。
 オロチにとっては何もかもがあり得ないことだった。
 己の望む戦の結果ではない。ここまで圧倒されているという事、何もかもが、何もかもが違うのだ。
 邪神が初めて抱く迷いであった。
 「この一発で地獄に行けッッッッ!!!!」
 早々悩んでいることに対して見逃すほどのジャグラーは甘ちゃんではない。そして、それは目の前の邪悪に対して怒りを憎む光の巨人と手同じだった。
 「ゾフィさん!ベリアルさん!光と闇の力、お借りします!!」
 急ぎ現状の持てる切り札以外の力の中で最大のものを生み出して二人は猛禽の表情を浮かべてオロチに対して既に先手を打っていた。
 「新月斬波ッッッ!!!」
 「ゼットシウム光線ッッッ!!!」
 内なる怪獣の力を蓄えた今までとは比較にならないほどの巨大な三日月の斬撃と光と闇の輪が展開し、放たれた赤と黒と黄の雷を纏った光線。
 その一撃は、まさに一瞬の出来事だった。
 二人の戦士の攻撃は動揺するオロチの肉体を崩壊させる程の強大な一撃だった。爆発的な二つの闇と光のエネルギーがオロチの体内を食い荒らすように暴れまわる。
 恐らく、次の一撃で完全に狩られる。あのアレクトに。巫女の娘が操る黒い嵐のような巨大なレガリアに。レガリアの一撃の恐怖を恐れてオロチは逃げるように宇宙に跳んだ。オロチからすれば、互角を演じられると思ったのだろうが、そうはいかないようだ。余りにも誤算という言葉が似合う状態に、邪神は邪神という言葉が似合わないほどに狼狽していた。
 崩壊と再生を交互に繰り返す邪神の巨大な身体。
 手負いの獣は暴れまわるように我武者羅に攻撃を繰り返すが、アレクトが前面にシールドを張り巡らし、全てが、元より攻撃などなかったかのように粒子になって消えていく。
 元より母たちの絶対的な愛が力に作用する巨人と闇の剣士からの意識と光の巨人の神秘の力を借りて、エレクテウ・アレクトはさらに進化したのだ。
 この光景を見てジャグラーとガイは思い出す。
 この宇宙で永遠のモノ、それは愛。
 マガタノオロチとの戦いで伝え、そして受けた言葉。
 エレクテウ・アレクト‐光天‐は、あの中にある八人の愛とガイとジャグラーの姫子たちに対する敬愛。その全てを一身に受けているのだ。それを持たないオロチに元より勝ち目などない。だから姫子と千歌音の二人を拐ように運命の細工と言う小賢しいことを繰り返してきたのだ。
 だが、それも、こうして拗らせることなく力に変えた時点で……
 「ユイ、飛んで!」
 「うん!レナ!」
 しかし、追いかけようとした時、オロチの作り出した置き土産とも言うべき、土塊が美しい白銀の体を掴んで離そうとしなかった。このまま、掴まれるだけでも厄介だが。
 「ギンガさん!」
 「ウルトラマンギンガ!」
 「ビクトリーさん!」
 「ウルトラマンビクトリー!」
 「エックスさん!」
 「ウルトラマンX!」
 「トリニティフュージョン!」
 「三つの光の力!お借りします!オーブトリニティ!」
 その掛け声と共に一体の巨人が降臨する。
 名前を呼ばれた光の巨人の全身に散りばめたような姿を持ち、青いクリスタルを額に持ち、かつて、クレナイ・ガイを慕った愛と友情に応えるかのように、宇宙魔女賊ムルナウの魔力で宝石化されたエックス、ギンガ、ビクトリーのカラータイマーから新たなカードが誕生し、それに応えて生まれた形態である。
 「俺はオーブトリニティ。3つの光と絆を結び、今、立ち上がる!」
 しかし、切り札を隠し持っていたのはガイだけではなかった。
 「ウルトラダークキラーさん、深淵の闇を正義に変える力……お借りします!」
 ゼッパンドンの鎧を身に纏ったジャグラーの肉体に、さらに禍々しくも、それ等は確かな戦士としての姿を持っていた、かつての闇の戦士の力を取り込んでいた。
 闇を抱いて、その力を己の光と変える戦士の姿。
 「やるぞ。ガイ。」
 「あぁ。」
 「しかし、それで大丈夫か?初戦時は随分とやられていたじゃないか。それと、レイバトスと言ったか?アイツとの戦いのことも聞いている。」
 苦々しいオーブトリニティとデアボリックと戦った頃の思い出を話しながら、妖しくフッと笑う。
 「お前が背中にいる。それだけで、勝てる自信がある。それに、お前こそ、大丈夫なのか?その力……」
 「恥ずかしげもなく、よく、そんなことを言う。それと、この力は、この力で、結構、いいのさ。」
 ウルトラダークキラーの名前を知らないわけじゃない。しかし、それはかつてのベリアルの力のように人の中にある負の要素に惹かれて暴走を生む可能性がある。だが、それを力に支配されずに暴走することなく受け入れ理性を保っているという事はガイからすれば、喜ばしいことがある。
 毒づきながらかつてのパートナーに背中を預け、それも悪くないと口にしながらオロチの置き土産という名の土塊人形の集まりたちと戦えることに、喜びを覚えているかのようだった。
 ジャグラーにとっては、あの時のリベンジの方が大事だし、ここにいるお嬢様たちを護ることが出来れば、それは、この土地では、ある意味ではガイとの決着以上に大事なことがある。それは、ジャグラーが戦士としての誇り、ここで失ったものを取り戻すための大事な戦であり、そして、自分が一度でも守ろうと誓った者達の未来を再度、掴むためのものである。だからこそ、その思いが力を貸して今まで以上の力を怪獣のカードとイミテーションリングはジャグラーに与えていた。
 光でありながら闇でもり、そんな二つの感情が絡み合い表に出る人間がジャグラーと言う存在だ。己の戦いを終わらせる為の手段としての行為から生まれたことにより人の善性を解らないまま、プライドも傷つけられたまま、流れ着いた、この場所で、もう一度、人を信じることが出来た。
 力で全ての争いを終わらせることに、ここで平安を持って暮らすことで忘れようとしていたが、オロチの手によって崩壊させられ、力を求めて狂う元凶にもなった、この世界。
 あの時、自棄になった自分を、それでも、己の弱さを受け入れてくれた姫宮婦妻やレナ達に感謝しているし、だからこそ、それを破壊したオロチには、再度、幸せを手にした彼女たちを護る為に正当なる怒りを持って戦う。
 それで己の過去の過ちが消えるという訳ではないのは、それは百も承知だ。ここを護ったくらいで、それが許される訳がないことなど本人が一番良く知っている。だが、それでも戦いたい。
 どうせ、そうなるのであれば「すべての命など尽きてしまえば良い」という極端な思考、戦う中で、護る中で、どうせ失うのあれば……善意と言うものが裏切られるのであれば心の痛みが生み出した歪な感情。しかし、最後まで、そこまで傾倒しなかったのはジャグラーの消えることはない永遠に灯の様に小さく輝く戦士としての信念と、この場所で出会った、レナ達の与えてくれた思いだ。まだ、この蘇った世界でレナ達が愛する人を持って生きている。あの時、失ったと思ったものが、まだ生きている。だからこそ今までの戦いではダメだし、ジャグラーとして絶対に護る為の戦いを行うものとして、自分が信じられる善意を持つ人間たちを護る為の戦いとして、ジャグラーは今、誰よりも強い戦士として、この戦場に君臨している。
 守りたいと純粋に願う思いから戦士としてここにいる。
 無意識の中で、ジャグラーは己の中の闇を光に変えて、それを力として今、この戦場にいるのだ。
 それは正義の味方、光の戦士、そんな感情を全てかなぐり捨てた守護者としての第一の感情が生み出す強さである。それが、まだ、彼にとって、かつて臨んだ力を得るための最初の条件であるとは、まだ気づいてはいない。
 悪意も善意も全てを関係なく食い荒らすオロチと言う存在に対して、今まで誰よりも守護者としてよりも破壊者として蠢いていた頃の感情を今は完全にかなぐり捨てて、闇を抱いて光になった戦士の姿、そのものだった。
 「だが、勘違いするな。これが終われば、俺は……お前を潰す。ここでは無い場所でな。」
 「解ってる。変わらないな。」
 そこはいつものジャグラーであることに寂しさを覚えつつも、どこか嬉しくなる。この地はジャグラーが再度、戦士であることを考えながら戦士であることを捨てた場所でもある。触れ合える時間は少なかったとはいえ、ガイとて、この場所で起きた惨事を忘れたわけではない。だからこそ、ここでは、ある意味、安心して背中を合わせて戦うことが出来る。ここは二人が戦ってはならぬ、かつて相棒を受け入れてくれた憩いの場所だからこそ、その恩義に報いるためにジャグラーは、ここでガイと戦うことをしないし、ガイもそうしない。かつての禍根が残る場所に再度訪れて、この場所で戦士としての誇りを持って戦っている。今、ジャグラーと相対すれば負けるかもしれない。そう思わせるほどの戦士の気迫が今のジャグラーにはあった。
 すでに、ここで失っていたものをジャグラーはオロチを圧倒すること、レナ達に再度、出会えたこと、レナ達をレガリアに乗せる元凶になったヨハンを斬り伏せることで取り戻していたのかもしれない。ジャグラーの中に出ていない答えをガイは、この場所にいるジャグラーの穏やかさから、かつての戦士としての誇りを確かに掴み取っていた。
 「手伝います。」
 敷島魅零とアーナスも再度、立ち上がり、二体の巨人と二人の戦女神が中央のエクテレウ・アレクト‐光天‐を護るように囲む。
 「皆、お願い。」
 バッと風を切る音を立ててエクテレウ・アレクト‐光天‐は一瞬のうちに天へと跳んだ。
 逃げたオロチに対して、エクテレウ・アレクトはあっと言う間、時が加速したかのように逃げたオロチの前に現れていた。両腕を組んで額のクリスタルから放出した宇宙の黒を白に変えてしまいそうなほどの眩い光を放ち、オロチの体を消滅させる。じわじわと追い詰める必要はない。生きているだけで害悪だというのなら、そのまま、滅ぼしてしまえばいい。
 「これで終わり。」
 身体を破壊されて露になったのは黒いサッカーボールのような姿。かつてはどれほどのサイズがあったというのに、今ではサッカーボールほどのサイズ。非常に弱弱しく見えるが、これが強大な化け物になっていたのかと思うと滅さなければならないと呟いた。 
 「これが、かつての……」
 怨敵だと思えば思うほど、哀れみが出てくる。人の心のを巣食う負の感情。誰の中にでもある人が持つ悪。しかし、その悪を恐れず憎まず、この胸に抱けば光となって消えていく。そうすればオロチが産まれることは無い。
 「お前は私の……」
 オーブカリバーと剣神天群雲の力、そして覚醒したレナの力を受けて所謂、極限状態になったエクテレウ・アレクト‐光天‐は、その手に持つ巨大な刀を持って圧倒的な力で宇宙を切り裂くほどの刃を振るいオロチを、そのオロチが宿っていたルクス・エクスマキナでの残骸で作られた肉体を一太刀浴びせるたびに消滅していく。
 そのまま、オロチのコアを狙っているはずだというのに奴は、その巨体の中を巧みに動いて避けている。気合一閃、その言葉は、先ほどまで光の巨人や剣神天群雲剣を蹂躙していた悪鬼とは思えない。あの強さは、太古の時代を蹂躙していた強さは、どこへと言ってしまったというのか。斬り裂いた。斬られた肉体の箇所から光が広がり、粒子となって星になるかのように消えていく。オロチの中に溜めた人の心が負の感情から解き放たれたかのように。その圧倒する姿は特撮ヒーローの主役がパワーアップして今まで苦戦していた巨悪を圧倒する姿、そのものであると言えた。
 「ちょこまかと……こいつ!!」
 肉体を失ったオロチのコアは、このまま逃走を計ろうとしていた。当然だろう。こんな存在を相手にできるほど、更には、仮に倒せたとしても、それ以上の戦力と闘うことになる。オロチとて伊達に、長く生きているわけではない。
 光の巨人と闇の巨人を叩き潰せば、必ず、その背後にいる大いなる光の戦士の集団が現れることになる。あの連中と戦うことはオロチからすれば、世界のどこかに現れては毎度、何処かで死に続ける運命に等しいことになるだろう。
 オロチとて光の国の住人と、その別世界にいる巨人達と戦えばたまったものではない。
 一人、悪に堕ちた光の巨人がいるとは言うが、身を寄せれば間違いなく、力の糧にされるだろう。この醜い姿を晒してまで、「悪」を意味する名前の悪の道へと進んだ光の巨人の前まで行く気は起きない。
 「オロチ!!」
 そして、今は、それすらも許されない状況にある。
 「逃げることは許さない……!」
 「私とレナの時間を奪ったんだから……それだけじゃない。ケイちゃんや、イングリッドや、サラちゃんとティアちゃんも……姫子さんと千歌音さんの時間を奪ったんだから……」
 ユイの怒涛の感情が、今までの因縁、その全てが籠った、それは怨念と言ってもいいかもしれない。今まで、たまりにたまった、レナという大事な人を初めとする怒りの情念というものは簡単に消えるものではないし、当事者であるレナ達はなおさらだ。
 「貴方は、どうせ消しても蘇るのでしょう?それが長引くだけ。今、消しておけば、貴方は、蘇るまでの間、完全な復活の為にしか時間を使えないでしょうし。」
 幸いにも、この宇宙と言うものは広く出来ている。
 そこで、別の生命体の負の思念を取り込んで強く復讐という魂胆もあるのだろうし、そういう意味で、今すぐにでも消さなければならないと思った時だ。オロチが残骸を寄せ集めて地球圏から逃げるためのブースターを製作しようとした時だ。
 「無理だよ。そんなことをしても。」
 レナは、既に、姫子と千歌音の、この世界を守る為の絶対的な防衛の切り札があることを知っているかのようだった。
 あまりにも、余りにも強大だからこそ、いざという時に出す存在とでも言える。
 「異次元がガラスのように……」
 突如、宇宙にガラスの割れる音が響いた。誰かが鈍器でガラスを勢いよく割ったかのような音だ。
 宇宙に響く一瞬、誰しもがビクッと背筋を伸ばして己の悪行を数えてしてしまうような音に、レナと姫子と千歌音以外のエクテレウ・アレクトに搭乗している全員が驚きながら耳に響いた不快な音がした後に、ガラスが割れたと思われた場所から、赤い手が現れた。勇ましい前奏曲が流れて気合の入りそうな行軍をしたくなるほどの交響曲が始まりそうなほどの高揚感が訪れる。
 「あれは……」
 「何……?」
 「大きい……」
 「あまりにも……」
 「地球程、ある……」
 「でも、それは、私達の味方だよ。」
 「そう。私と千歌音ちゃんが集めた、大いなる力を持つ仲間の一人。」
 「全並行世界絶対防衛用超巨大人型決戦兵器バスターマシン7号。いえ、ノノ。」
 「オロチ、貴方が眠っている間、私達も仲間を増やした。そういったでしょう?魂と意識は絶対的な切り札を得るために貴女が力を蓄えている間に彼女を呼んだ。」
 にやり、下手をすれば、それは悪役の浮かべる笑顔のようにも見える。
 勝利を確信した時のような顔は、まさに、そういうものだ。
 月の巨大な社から一つの流星が地球軌道上に白と赤。空間をガラスのように割り、出現するソレは、明らかに地球よりも大きい。地球という存在が、この巨大兵器の公園にある円形状の遊具に見えてしまうほどには、余りにも、それは大きかった。とある宇宙における人の叡智を結晶そのものであり、人の光の心が生んだ人類を護る最終決戦兵器として創造された、彼女を作り出したのは地球帝国宇宙軍。
 宇宙を消え去り幾星霜、ついに運命の女性と再会して巡り合わせ、晴れて二人は恋人同士になり、本来の世界で役目を終えて、その魂は姫子と千歌音の二人と交渉して再度、地球を防衛する存在として完成された存在が蘇った。太陽系絶対防衛システムの最終兵器。地球サイズの超巨大人型兵器ダイバスター完全型を姫子と千歌音は完成させて、現世に降臨させた。少しでも知性のある生物であるのなら、あれに喧嘩を売ろうとか、そういう愚かな思考は沸いても来やしないだろう。
 (あれに喧嘩を売りたいとは思わないわな。)
 ジャグラーは、その地球を抱きしめることが出来そうなほどに宇宙に聳え立つ大巨人を見て流石に変な笑い声を出すしかない。
 「こんなのあるなら、最初から呼んでおけば……」
 もっともな理由ではあるが。
 「この子の攻撃力は大きすぎるの。この子の場合は地球に侵略させ無いための兵器だからこそ、強大である分、地球そのものを傷つけてしまう。そうしたら、ユイちゃんの故郷のエナストリアだってタダでは済まないのよ。だから、この子が地球を攻撃するときは最後の手段。でも、オロチが今、こうして地球を出たからこそ、こうして宇宙に出る隙を狙って彼女を呼んだ。」
 「おいおい、超獣バキシムかよ。」
 思わずジャグラーは、上空に存在していた超巨大の機動兵器に戦いすら忘れて変な溜息すら出そうになる。 
 「あらかじめ、それを出しておけって言うんだ。」
 「巨大すぎるからダメだろ。下手をすれば、地球を傷つける。異空間に閉じ込められた、俺を助けてくれたのも、あの人だ。」
 「なるほど……お嬢さんたちがピンチになっても助けに行けなかった理由は、こういうのを仕込んでいたわけか。」
 無責任とは思うことだろうが、それでも、用意しないよりはマシだ。
 それに娘たちの愛に賭けるという一見、突拍子もないことも、元より愛を原動力に無限の力を生み出す剣神天群雲剣を基に作り上げたエリヌースのレガリアなのだ。
 思えば、レナが護りたいし、愛したいと思えた人が出来た時点で、この勝負は、オロチが負けていたということになる。
 ユインシエル・アステリア。
 ジャグラーは一件、見ただけだが、それでも、レナの抱くユイへの思いは触れ合いを見ただけで一瞬で分かった。レナが一緒にいる時の表情は姫子と千歌音が最高に幸せな表情を浮かべる時とよく似ている。
 無邪気で、無防備で、周りすらも降伏してしまいそうなほどの幸福の笑顔。幼いころに出会ったレナが、ああも幸せな表情を浮かべているのだから、それがどれだけ大切なのかというのは、曲がりなりにも自分を慕ってくれているストーカー女がいるくらいだ。
 解らないわけでもない。
 「勝ったな。」
 流石にジャグラーは、この戦力差というものに喧嘩を売るのは愚かな行為だと小学生でもわかるような算数の問題に近い戦いに関して一瞬にして怯んだ土塊の怪獣軍団を動きを止めた瞬間にオーブトリニティと共に破壊した。
 さらに、地球を守るようにダイバスターと呼ばれた彼女の意思に呼応するかのように多量の怪獣の形をした兵器が少女を中心に現れた。まさに、宇宙怪獣の王とでも言うべきか。オロチのような土塊しか操れない存在とは違うということになるのだろう。さらに、いつの間にか敵の土塊は再生することもない。宇宙の無限なる質量を使って、オロチはさらに自分の配下を創ろうとしたのだろうが、間に合わなかった。
 既に月の巫女と陽の巫女が光の巨人を派遣していたからだ。
 ジーッと、本来の目的さえ忘れて、これが並行世界の地球が生み出した人類の叡智の結晶の産物なのかとレナが見つめてしまうほどだ。人は、ここまでのものを生み出すことができること、そして、二人の母親が、これを仲間にしたというのは驚きとしか言いようがない。
 レナは、ただただ、それをボーっと見つめていることに夢中になった。
 「さぁ、レナさん!こいつを!」
 ダイバスターは、既に、その名前を知っていた。ダイバスターが一瞬、微笑んだように見えた。一瞬、その巨体がウインクしたように見えて、レナはノノと呼ばれた、この巨大兵器の素体の合図に相槌をする。そして、その両手にはオロチのコアが握られている。
 奴の介錯はレナの役目であることをつたえているかのように、ダイバスターは地球を包み込めるほどの両手がオロチのコアを閉じ込めるフィールドを作り上げていた。
 「うん。」
 そこにいたのは醜い化け物の姿をしていた、オロチと名乗っていた存在。改めて見る、その負の思念体はサッカーボール状の球体の中に人の様々な負の感情が入り混じった汚物と呼べる程の醜い黒に色を染めて、これに触れてしまえば人間不信にでもなってしまいそうなほどのどす黒い悪意に満ちた存在。 
 それを見つめて、姫子と千歌音は長年の仇敵に向かって、ただ、ここで潰してもいずれ蘇る存在というものを考えると、また虚しさのようなものを覚えて歯を食いしばった。
 (貴女の敗北は既に決まっていたのよ。)
 (貴女の新しい魂の器の力に、レナとユイちゃん達が愛の力で勝利した時点で。あの時点で、ルクス・エクスマキナの大半の機能は殺されて、貴方の器としてしか機能することは無かった。)
 (貴方は永遠に変わらない負の感情で動くだけ。)
 (でも、愛は常に進化するの。私と千歌音ちゃんの生み出した命であるレナがユイちゃんを愛したように。)
 (元より、人のストレスを吸い取り、それが破壊の力になって具現化するオロチの力、それを無に帰す対抗策としての神無月の巫女の力。)
 (このシステムは表裏一体なのよ。)
 (私達がいないのに器すらも敗れた存在が魂を得ても、その宿敵である私達が来た時点で、勝てる訳がない。)
 (仮に、貴方達が勝利しても、第二第三の私達が現れるだけ。)
 (それに、オロチ。貴方は最初から負けていた。)
 (私達のころから、愛する関係を引き離そうとした時から……もう、負けていたの。)
 姫子と千歌音はオロチに向かって、余りにも呆気ないほどのラスト、あの太古の時代のオロチとは何だったのだろうと思えるほどには呆気ない締め方に安堵に近い感情を表情に出していた。それでも、これまでの激戦というものを考えれば、これでも辛い方ではあるが。ただ、今回の復活は……
 「いえ、長く無いよね……レナとユイが私達の代わりをしていたのだし……」
 「そうね……」
 月の社から見つめていた。娘たちの戦いを。長く、果てない、時間の中で押しつけに等しいことをしてしまった自分達の贖罪というのは、どうすればいいのだろうか。そう考えているうちにレナとユイが片腕を頭上まで上げていた。
 「こんなものが……」
 あぁ、これで、決着か。
 「私とお姉ちゃんの幸福を……」
 「お前が……私とユイの幸せを壊そうとしたから!!」
 (二人の愛を邪魔するから二人を怒らせる……)
 (それが、どういう力になるか、オロチ。貴方は私と千歌音ちゃんの行動で、前にも経験したはず。)
 (レナとユイちゃんがルクス・エクスマキナを最初に破壊した時……)
 (あの時点で、オロチ、貴方は敗北という運命を叩きつけられていたのよ。)
 静かな二人の娘の怒りにエクテレウ・アレクト‐光天‐は光の刃を振り下ろし、オロチを叩き斬って光に浄化させた。二人の言葉に合わせるように、ユイとレナは心の中で姫子と千歌音が刀を振り下ろすタイミングを見極めたかのようにとも、振り下ろし縦一閃……邪神だった存在は巫女ではなく、その娘である姫宮レナ・アステリアによって一太刀で光の粒子になって消えていく。姫子と千歌音は結ばれた、あの時代を姫子に恋をし、千歌音を愛したことを思い出しながら、この光の粒子を見つめていた。
 本来の計画が、元よりユイたちの愛から生まれた力によって頓挫したことが全て、オロチの敗因であったともいえる。愛の力をドストレートに力に変換して動くのが剣神天群雲剣であるのなら、それを基にして作られた三体のエリヌースのレガリアも、同じ特性を持っていてもおかしくはない。静かに、ただ、静かに、寝ている赤子が起きないほど静かに、ただ、その神秘的な白い巨人はオロチを一閃、光が宇宙を駆ける流れ星のように静に光はかつての過去の思い出のような輝き、手から滑り落ちる海の砂が海水に溶けるかのように怨讐を叫んでいたソレは、一先ず、この世界から消えた。
 地球を囲んでいた醜い首輪は元よりなかったかのように粒子になって完全に消滅し、ただ、地球の上には、それを見守るような巨大な赤い巨人と白銀に輝く白い巨神が太陽の光に照らされて、その中にいる八人のパイロット達は終わった戦いを前に感嘆のため息を漏らして、ゆっくりと意識を日常に戻した。エクテレウ・アレクト‐光天‐を地球に向けて降下した時、いつも以上に機械が軋む音が聞こえた。それは、オロチという本来倒すべき敵を倒したという、エリヌースのレガリアたちが放つ宇宙や地球を代弁した歓喜の咆哮に聞こえた。
 「ね、ねぇ、レナ……」
 「ユイ……」
 か細い声で互いの名前を呼びあいながら、 地球に降下する間、互いの無事を確かめるようにユイとレナは唇を重ねた。唇の感触や、何もかもが本物だ。あぁ、今日も側に愛する人がいる。
 暖かさ、柔らかさ、愛しい人への吐息。
 生きていることを感じる。
 また、生きているということを感じられる幸せというのを噛み締める淡く甘いキス。
 もう、これ以上、命にかかわるのは御免だと思いながらも、だが、それ以上に愛する人が、またこうして生きていたということに感極まった喜びのキスは互いに生の実感を感じあえる幸福に満ち満ちていた。甘く蕩ける程に、何度も何度も感じあいたくて延々と終わることが無い幸福に体が包み込まれているようだった。
 これを感じられる今、愛する人と一夜を重ねた後に再度、訪れる夜。
 互いに共有される心地よさに身を寄せ合い、二人は帰路に……
 そして、いつの間にかレガリアの中で成長したレナの肉体は元の身体に戻っていた。魔法が解けてしまったかのように。全てのことが終わったからこそ、あるべき姿に戻ったのだろう。
 しかし、このキロで考えるのは疲れた。今は、側に皆がいることだけが幸せなのだから。
 「でも、そっちの方がレナらしいね。」
 「私も、これが一番良い。」

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