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マクロスLily・プロローグ「NEW FRONTIER」

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これは少女がアイドルになった過程で忘れてしまったものを取り戻す中で、自分に思いを寄せる二人の女と師匠である、あの人に出会うお話。


 「それじゃぁ、凪沙ママ、命……行ってくるから。」
 髪の色は凪沙譲りの薄い赤に少しの青のかかった色。一応、それなりに智恵理にも敬意を表してか腰まで伸びた髪が目立つが前髪は大好きな母である凪沙に合わせている。片方だけサイドポニーで、そこには凪沙の作ってくれたシュシュがある。智恵理との違いは、ふわっとしたものよりも、ストレートな部分が目立つ。
 顔立ちは凪沙の母に似ており、目元は智恵理に似ている。若い時にそっくりと言わしめるほど。何処か童顔っぽさを残しながらも、大人のような井出達の長女、園咲蘭。
 「うん。向こうに着いたら、鈴子叔母さんに宜しくね。」
 「うん……」
 口数は少なく、それが災いして近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
 これは、ある意味では智恵理の厳しいレッスンの影響によって多少人見知りになった影響、と、言えば、言い過ぎだけど、元より、そういう人だった気がする。母である凪沙の前では甘えん坊であり、普通の女の子ではあるのだが、上記のように人見知りであり、友達と言える友達が隣に住んでいる、凪沙の母の友人である友歌の娘である「ことり」と、言う少女しかいない。
 それが、私を抱く園咲蘭と言う、長女、姉の印象だった。基本、母はレッスンの時以外は優しいけど、レッスンになると、昔、映画で見た大魔神のように厳しくなる母の智恵理の怒号から庇ってくれたのが咲蘭だった。
 そういう意味では、私も姉のことは好きだったし、嫌いになることはなかった。寝るときは、いつも、姉妹で三人一緒だったし、その時、咲蘭お姉ちゃんが私と智沙お姉ちゃんを抱きしめてくれた時の温もりが凄い好きだった。でも、もう、それも暫くは感じられないのだと思うと、やっぱり寂しい。
 「それじゃ、頑張ってきて。」
 「行ってきます。ママ……」
 頭をなでられ、年相応の顔を浮かべて寂しさを感じたのか母に抱きついた。
 「お姉ちゃん、遅れるよ?」
 名残惜しいのは自分もなのにと訴えるように、智恵理譲りの青い髪で、ショートヘアの少女が声をかけた。
 「智沙…」
 「だって、そろそろ、7時だもん!」
 睨みつけるように、この時間を邪魔するな。と、咲蘭は睨むことで訴えたが、その後の口から出た言葉は正論そのものだ。それ以上に姉を独占したいという態度を隠そうともせずに恋人のように腕を組んですり寄る。不快な思いを抱くこと無く咲蘭は噛みをくしゃくしゃと撫でて、智沙は無邪気な猫のような顔を浮かべている。
 咲蘭に比べて、明らかに口数が多く、社交的な雰囲気を醸し出している咲蘭の妹である智沙。性格は言うまでもなく好奇心旺盛な凪沙譲りであり、顔すらも現役時の凪沙譲りな少女である。
 そして、ドシスコン……常に次女の智沙は、いつもべったり。そりゃ、確かにお姉ちゃんは綺麗だけど、そこまで行くと、なんだか色々と考えて、過去に「お姉ちゃんのこと愛してるの?」と、聞いたとき、「あぁ、そうなのよ。私、咲蘭お姉ちゃんのこと……」と、赤く染まった頬を見て、余計に意識するようになった智沙姉さんは、より強く愛するようになった。
 基本、姉達から可愛がられた記憶もあるし、そうなっても智沙姉さんは特別酷いことをされる訳でもなく優しくされたので、特に悪印象を抱く訳でもなく、姉は特別、自分はいつも通りに接してくれた。
 だから、嫌いということはありえない。
 「命、ママ達をお願いね?」
 「うん。智沙お姉ちゃん。」
 「それじゃぁ、行ってくる……」
 「セレクション、頑張ってね。」
 「命も応援してるー」
 芸能禁止が緩和され、過去に地球ではやった映画等が解禁されたりしたとはいえ、それでも、厳しい世界。その中で、大魔神やら、ガメラなる怪獣映画が発掘されたりと、世界は徐々に快晴に向かっているとは思う。
 ただ、ツンドラスターでは未だに弾圧が続いているし、ゾディアックが変わったとはいえ、いまだに、その全体のスタイルは変わることが無い。それでも、芸能弾圧が緩和されてきたことは言うまでもなく智恵理と凪沙の起こした奇跡が生み出した成果ではあるが。
 姉たちも、私も、そういう部分から、母たちのようなアイドルになりたいと思っていた。
 それは子供心からくる純粋な憧れから来るもの。
 そして、変身願望は、純粋な憧れを昇華させて色の違う華になっていく。
 「此処で、応援してるからね。」
 「うん。」
 二人の姉が歩いて、凪沙が、かつて友歌や織音と向かった乗り場へと向かう。それを命も送り出し、そして、自分の未来と重ねている。
 「凪沙。」
 「友歌……」
 「成長するの、早いね。」
 「うん。」
 二人の母にとっては気づけば、卒業して、そして、子供が産まれて、今日まで育てて、それまでの年月が何故か今は短く感じる。今では、凪沙自身が三児の母になるとは思わなかった。そして、その子供たちが自分たちのアイドルとしての行動に憧れた。それは、友歌の隣にいる流歌も同じことだ。
 命は流歌と顔を合わせて、満面の笑みを送る。流歌は、それを見て、思わず頬を染めた。朝は、いつもこの調子で変わることなく、太陽の日差しが少し肌を焼く程度。
 この太陽の暖かさは二人の娘の祝福であるかのようだ。
 「そう言えば、智恵理は?」
 「寝てる……」
 「寝てるって……あいつの低血圧も、直らないねぇ……」
 「智恵理ママ、いつも、そうー夜中、にゃーにゃーうるさいー」
 「こ、こら、命……」
 流れる月日と変わらない日常を身を感じながら呆れつつ、そして、姿が見えない智恵理のことを放っておきながら、思い出話に明け暮れる。その中で、娘二人と行くべき、もう一人の人間が、この場にいないことに気づく。
 「そう言えば、ことりちゃんは……?」
 「あの二人よりも、先に向かったよ。私が導くんだーって、変に盛り上がっちゃって。」
 「そっか。」
 如何にも、そういうのが好きそうなあの子らしいと凪沙は頷きながら、命の頭を撫でた。朝早く起きたからか命は少し眠そうに、それでも、姉たちが歩いて行った道を、ただただぼーっと見つめていた。
 得てして、1時間ほど、友歌と思い出を語り合った後に店の準備がある友歌は凪沙と別れ、凪沙は智恵理を起こすことにした。もしかしたら、もう起きているかもしれないが。
 送り出して、家に戻れば既に智恵理が眠気眼を擦って、うとうとしながらゾンビのように徘徊し、凪沙を探している智恵理がそこにいる。
 「智恵理、おはよう。」
 「にゃぎさ……おは、よう……命も、おはよう……」
 「ままー、おはよー」
 回転しない頭をフルに発揮させることが出来ずに、ゆっくりと凪沙に誘導されてソファに座りこんだ。結婚してから、こういう部分は、もっとだらしないと思いつつも、慣れてしまえば可愛いものだ。そんな智恵理に合わせるように、命もゆっくりと智恵理の隣で眠り始める。智恵理は慣れたように、そんな命の頭を撫でながら、匂いを嗅ぐ。
 こうして、娘の中にある凪沙の感触を確かめていると、智恵理は言う。
 「凪沙、咲蘭と智沙は?」
 思い出したように長女と次女がいないことに気付き、台所で智恵理の朝食を作っている凪沙に尋ねた。
 「今日から、00のセレクション。」
 「あの子達、私に行ってきますも言わないで……」
 「だって、もう、8時だよ?出航時間は、7時半なのに……」
 「え?」
 低血圧は変わらず。こういうところは、相変わらずだ。自分でも正直、嫌になってくるものの、体質的な問題は変えようもないし、何より、凪沙が甘えさせてくれる。
 座り込んだソファに横になりながら、凪沙に膝枕を求めて猫のように頭の近くにある生地をパンパンと音を立てた。
 「でも、起こしてでも挨拶くらいは……」
 膝枕されず、そして娘に何も言われずに、不満全開な顔と不満に満ちたような顔になる。一応、腹を痛めたのは凪沙だけとはいえ自分の遺伝子だって受け継いでいるのだからと不満を漏らす権利はあると口にしたが、逆に、低血圧の状態で起こすと智恵理は……
 「そうすると、不機嫌になるでしょ?」
 「う……」
 苦虫を潰した時のような顔、智恵理の今の顔は、それがふさわしい。
 「後、レッスンの時は厳しかったから。」
 「あ、あれは、愛情を持って…!」
 「理解してるよ。多分、あの子は、智恵理の愛情を。智恵理から何かプレッシャーを言われるのが嫌だったんじゃないかな。」
 「プレッシャーか…」
 ふと、つけっぱなしのテレビから流れる、今の0048の襲名メンバーのゲリラライブの様子を見ながら、あの子達も、その年齢になったのか。と、年相応にしては若々しい外見の二人の夫婦のうちの一人、智恵理が婆臭い言葉を発して、定期年齢になったから自分達の意思で0048になるために、その世界に向かった娘達を思う。
 やはり、偉大な良心を持つと、それなりのプレッシャーというものは出てきてしまうものなのだろう。それは、レッスン中は鬼になったが、それ以外では良い母親を演じたはずだ。
 だからこそ、何も言わずに先に行ってしまうのは母として、何処か寂しさと言う物がある。
 そして、脳裏によみがえる自分の父親の思い出。一度、イテザスターの本社と実家に戻って父の書斎等を確認したときは、父は智恵理のことを全てにおいてゾディアック発展の為の道具と思っていなかったと見られてもおかしくない資料がたくさん、あった。死んだ、あんな、父とは言え自分の父だが、逆に、それで割り切れたという部分もある。褒められた存在ではない。だからこそ、自分は親として厳しく、しかし、時に優しく娘たちと接してきた。
 だから、こうして命だって智恵理に甘えているし、やはり、思春期、親に反発したい年頃なのだろうかと、目の前の巫女とも、そうなるんじゃないか?なんて不安にもなる。
 ふと、そんなことを思い出しながら、凪沙の膝枕の上で、頭をゴロゴロ出来ない不満から、頭を強くソファに打ち付けた。
 「それにしても、もう、そんなに成長したんだ……あの子達、14か……」
 「うん。智恵理も寂しい?」
 「当たり前でしょ…」
 撫でながら、かつての思い出と、これまでの経緯を思い出す。
 ゾディアックが0048支援組織と丸変わりし、すっかり、イテザスターは芸能禁止を解放してから10年以上経った。イテザスターは芸能によって活気を取り戻し、その星の領主でありゾディアックの最高責任者である、かつてAKB0048でセンターノヴァだった園智恵理と、もう一人のセンターノヴァであり14代目前田敦子を襲名した本宮凪沙、いや、園凪沙の二人。
 ゾディアックをゼロから再構成が出来たのは常に凪沙が傍にいてくれたから。ゾディアックの拠点をランカスターに移して、活動し、智恵理と凪沙は後進となる3人の娘を育成していた。
 当然の如く、0048にとって偉大なる存在を母に持つ3人の娘は、当然、母を越えようとして0048になる意思を表明し智恵理の厳しい厳しい。いや、厳しいと言う文字を壁に描けば黒に染まるほどのスパルタ訓練を練習の時は、学業や、それなりの自由時間も考慮して、1日2時間、週3ほどは放課後含めて4時間。休日は襲名メンバーの時に味わったメニューを行い、今日まで普通にレッスンを行ってきた。
 とはいえ、その長いようで短い二時間と言う時間すらも地獄と言う言葉に相応しく、凪沙にしてかつての恩師でもある牛山以上。
当然、レッスンばかりではないし、それ以外では良い母ではあるのだが、すっかり、智恵理は三人の娘にとってはレッスンの時は二重人格になると陰口を言われるほど恐怖の存在であり、凪沙は二人の娘にとって聖母のような存在であると言える存在に昇華されたのは言うまでもない。
 元より、智恵理がレッスンに集中できるのは、壊滅的に母としての、いや、お嬢様であるが故に家庭的な才が皆無に等しいからであり、寧ろ、料理や家事全般の才能は凪沙の方があった。
 ただ、智恵理からして、そう厳しくしたのは、これからは襲名だけでは生きていけない。そのような不安が、今のアイドル時代にはある。DES軍の存在以上に、今が、恐ろしくなってくるのはファンだ。既に、その存在は時代を逆流し始めていると、一時期、家族でアキバスターのライブを見て考える。襲名だけでは物足りない、自分だけのアイドルとしての偶像を追い求める人間とて、そう当たり前だが、あの頃は共通の敵がいたからこそ、そういう意味でも繋がることはできた。
 だが、今、その意思の疎通は希薄になっているとも言えるだろう。DES軍の規模は減ったとはいえ、同時に、今度はファンが傲慢になってくる。そしてファンは推しているアイドルに理想をぶつける。
 さらに、ここ最近のDES軍との勝利によってて、どんどんアイドル組織に、その気は無くても宗教化が進んでいく。襲名しても、全ての人が全てを受け入れられるわけではない。DES軍を追い出すほどの強大な力、まさに、どこぞの宗教の象徴のような人物の力を出してしまっているのだ。信仰するには持ってこいと言えるだろう。
 今更になって、芸能弾圧をした政府の気持ちが解りたくなくても解ってしまう。この力は、世界を征服するほどの強大な危険さを持っている。
 だからこそ、娘3人には、そういうのを忘れさせるほどに人を魅了し、正しき形へと導くための何かを与えたくて、厳しくレッスンした。それが、なにかは解らない。
 しかし、そうせざるを得なかった。あの、AKB0048のライブを見てから。
 「私たちの時代とは違うね。今は、寧ろ、行き過ぎたファンにも注意しなきゃいけないなんて。」
 「うん……ある意味、あの時はファンを疑うことも少なかったから……」
 今では、辛かったが良い思い出。
 「今は、あの子たちに……大丈夫なの?」
 「どうかしら。とりあえず、行き過ぎたファンに関しても、うちの会社に、そこは任せてあるわ。……皮肉ね。」
 未だ、センターノヴァの捕獲に拘る、DES軍ではあるが離反したゾディアックの護衛もあってか、研究生候補の女の子を攫うことも無いので、ひとまずは安心と言える。しかし、それはかつて、AKB0048を捕らえるために尽力した組織である。
 それが、今では……アイドルを守り行き過ぎたファンとDES軍から守るために、そこにいる。
 「大丈夫かしら?あの子達。」
 「智恵理が、ちゃんとレッスンしたんだから、大丈夫だよ。」
 「美森さんのレッスン……もしかしたら、生ぬるい。とか、思っちゃうんじゃない?」
 「かもしれないわね。とにかく、今は、研究生、いっぱい吸収してほしいな。」
 安心して旅立つ二人を送り出したとはいえ、研究生になってからの方が本番と言えよう。しかし、凪沙から言えば、牛山先生以上にキツイレッスンを智恵理と凪沙が毎日、幼いころから二人に施してきたが故に、その心配自体、杞憂では無いのだろうか。と、思わせたが、研究生で得られることはそれだけではない。
 もっと、仲間との触れ合いから得られる大切なものがある。そこでの出会い、そして、ぶつかりから、二人も、こうして結ばれたのだから。
 まさに娘達は、二重人格なのではないか?と、疑問に覚えるほどには。
 「暫くは二人きりよね。凪沙……」
 「命もいるよー?」
 「っと、そうだったわね。」
 「とりあえず、命が出るまで、私たちもゆっくりしましょう。」
 「デートでもする?それとも、家でゆっくりする?」
 「んー……両方……かな。」
 「命もママたちとデートするのー!」


 これが、私の見た二人の姉がアイドルになりに行く世界の瞬間だった。
 こういうのを見ていると、自分もアイドルになるのだろう。いや、アイドルになりたい。そう思えてしまうのは家族として当然のことなのかもしれない。ただ、襲名と言う物ではなく自分は自分として輝きたい強く願う。
 周りは皆、誰かになりたいと言う変身願望と同時に、この世界に入る人もいる。二人の姉は優秀な技量をもっていた分、それと同じ位の強いコンプレックスを抱いていたことも覚えている。誰もが、そういう誰かになる変身願望を望んでいる。そういう意味では、AKB0048等の襲名制度と言うのは、そういうことをするには調度良い組織なのかもしれない。
 だが命は、あの世界は、自分を改革し、資質を輝かせて他者の名を借りてまで輝くと言うのは、何かが違うような気がした。かつての、地球の文化に落語や歌舞伎なんてのは、そういう風習があり、他者の名を受け継ぐことは名誉とされていたが、本当にそうなのだろうかと疑問を抱く。
 少女らしく、自分は自分でありたいと思うこと、自分は齋藤飛鳥でもなく、大島優子でもなければ、園命と言う人間なのだから。だからこそ思うのは、そこまで磨いてまで他人の名前を襲名したいと思うのだろうか。そう思う人間だって出てくる。自分は自分のまま、ここまで磨いてきたのだから自分として輝きたい。当然、そう考えるが、この世界で言えば異端でもあるのだ。そして、今は襲名しても、オリジナルを崇拝しているからこそ、より、魂の器としか見ない人間も増えてきた。それが、より、現実と理想の乖離を生んで、余計、自分は自分であろうとした。
 それが、智恵理と凪沙の言うとおり危惧していた、アイドルファンの間では宗教化なんてものが普通に当たり前になってしまっていた。
 「ママたちの時代は、他の人の名前を襲名しても、襲名した人間と自分らしさを混ぜ合わせて出していたようだけど。」
 凪沙は正式に襲名する前に、アキバスターで暴徒になった全ての人達を光で全ての怒りを抑え込んだという。そして、もう一人の母である智恵理が襲名せずにセンターノヴァになった時はDES軍をアキバスターから撤退させた。
 この出来事を知って、色々と勉強してからだ。
 襲名せずとも人は、もっと輝けるのではないか。襲名以上の領域に踏み込めるのではないか。誰かを襲名をしなくても、人は人として、自分として輝けるのではないか。そこに、誰かの魂など必要ないのではないか。そういう結論に至り、ここに来るまでの華というものは、そう昇華された。
 だが、現実は、それを許そうとはしなかった。
 襲名すれば、そのメンバーであり続けることを強要され、自分らしさを出しすぎると顰蹙を買う。しかし、その狭い世界の現状を周りのアイドルたちは平然と受け入れる。襲名の輝きに照らされてしまえば拒否も出来ない。
 それが命にとっては異様だった。そして、そういう状況であろうとも襲名の光が無ければ研究生から昇格は出来ないというシステムは未だに続いており、考えてみれば、センターノヴァになった母智恵理も襲名するまでは研究生だった。時代も変われば襲名メンバーに求める形も変わる。智恵理と凪沙が口にしていたように、まさに宗教化は悪化の一途と言える。
 「そういえば、昔、ママたちが昔、言った世界は……」
 ふと、そこで、熱気バサラと呼ばれる人物と出会ったことを思い出す。
 どういう人だったのか、そのことをよく覚えているし、母たちにかなりの影響を与えたというのも、その話のことを覚えている。既存の概念に囚われない人、だからこそ、自分は、これからどうすれば良いのか教えてくれるかもしれない人。
 嘘を言っているとは思わなかったし、ちゃんとした写真まであるが、この世界の住民ではないと言う話。合えば、何かしら影響を与えてくれると言うが、この人は、自分に出会ったら、何を教えてくれるのだろう。好奇心が呼び覚まされるような、冒険に行くかのような感覚が身を包んだ。
 「あしゅ!今日も頑張ろうね。久しぶりの故郷だもん!」
 「んー。ねぇ、流歌……」
 「流歌じゃないよ。今は、橋本奈々未だよ。」
 「あんたは、もう橋本奈々未なんだね……」
 既に視線すら合わせようともせず目を閉じて集中しようとする命の姿に流歌は背筋がゾッとするかのような悪寒に襲われて異様な感触が走り、全身を身震いさせた。その表情は、どこか失望すら見せるほどの友人の瞳と顔に、流石に胸が痛くなって、呼吸が困難になりそうなほど、今日は嫌なことが起こりそうな予感が、肉体を震わせている。これからライブをするという高揚の気分をぶち壊しにするような声が響き、一瞥するような目で見ても、流歌の顔は、その言葉の意味を理解できない顔を浮かべていながらも、徐々に不安に駆られたように悲しみに包まれて変わっていく。
 何が起こるのか。
 それを知りたくもない。ここのところ、誰から見ても楽しくライブをしていない飛鳥こと命の姿を見れば、想像の出来る言葉。だが、命を愛している流歌からすれば、その言葉は聞きたくもない。
 だが、それと同時に好奇心も驚く。
 子犬のように震える流歌の口は、想像した言葉を紡いだ。
 「いなくなろうとしてるの……?まさか、卒業とか……」
 「しないよ。」
 毅然とした表情を浮かべながらも、それを崩して笑顔を向ける命の姿に拍子抜けすると同時に、安堵もした。だが、卒業しないと言うことは嬉しかった。そして言葉から臆病さが見えてくる。蒼く長い髪を振るいながら、その金色の瞳は、かつて親友だった少女に目を向ける。自分という考えを持っている少女はいないに等しい。この現状に不満を抱いている今、いつ、そういうことをしてもおかしくはないと口にする。離れないように現世に留めるように必死に抱きしめた。
 「あんたはいつまで別人を演じてるつもり?」
 ふと、抱き着いてきた存在の顔を流し眼で見つつも、そこにはキョトンとした反応しかない。だが、時折、哀しみの顔を浮かべることを命は知っている。だが、その本心を流歌は知らない。理解しようとしても、理解できないのだ。襲名メンバーを研究し、それに入れ込んで、多少、自分を交えつつもオリジナル等しい行動をする。だが、それは今まで自分の育ててきたアイデンティティを捨てることになるのではないか。だが、元よりの価値観が違えば己の価値観を解ってくれる人等少ない。
 それでも……それでも、自分は自分でいたい。多少なりとも誰かになることを強要されるのは望むものではない。器として扱えば、オリジナルメンバーの知名度なんてのは永劫的なものになるのだろうが。
 「でも、何代目かどうかで、覚えてくれる。」
 そして、本当の名前を知らないまま、7代目だとか、10代目だとか、そういう名前を残していく。そうして行くうちに理解したのは、組織やファン、そういうものを全てひっくるめて世間が欲しい物は新しいアイドルではなく、アイドルとしての器なのだと言うことを理解する。かつて、そういった人間もいたが、結局、自分という名前を覚えてくれる人もいないだろう。
 そうなると、自分が、組織に入ったのは甘えだったのかもしれないとも思う。それでも、乃木坂は好きだったからこそ、大好きなグループでオリジナルメンバーに並ぶほどに襲名した名前ではなく自分の名前を刻みたいと強く願いたいと思う以上、乃木坂に入るのは必然的なものだったと考える現在の、この世界で歴史を残すアイドルと言うのは、皆が皆、自分の名前では無くて、皆、誰かの名前を借りている。
 その状況に、誰もが疑問を抱こうとしない。彼女たちにとっては、それも光栄なことなのだろう。過去に落語家や歌舞伎なんて文化の芸能活動は、まさに、その象徴だったということを学んだことがあるが、それはそれで満足だったのだろうか。それが名誉なことと言われるのが、いまいち、ピンとこない。自分に与えられた名前のまま、そのままで駆け上がりたいと、自分は自分のままで変身したいと言う強い思念を持って、情熱を滾らせ唄ってきても、襲名してしまえば本当の自分の名前で呼ばれない、求める物が違うと、この世界のファンと言う物は言葉通り、鬼となって推していたアイドルであろうとも簡単に暴言を吐く。
 これが、母たちの危惧していた傲慢さとアイドルの宗教化に対する危険性だと理解した。理解すれしてしまうほど、襲名メンバーとしての名前で呼ばれることへの気持ち悪さ、現実と理想の生み出す乖離性というものは、いつの間にか少女の心の中で殻を作る。いつしか、それが、かつての少女の情熱を閉じ込めてしまう。
 次第に歌うことすら、踊ることすら、全てのイベントを行うことは自分ではなく、自分の中にいる襲名メンバーという虚像を作り、そういう世界に対して。
 いつしか、無気力に近い顔を自分は浮かべてライブ中は営業スマイルと呼ばれる笑顔を向けることが偽りの笑顔を向けることが当たり前になっている。
 「私はいつの間にか仮面を被っている。」
 「え?」
 「流歌はお気楽だ。」
 仮面を被ったもう一人のアイドルとしての自分を本当の自分が見つめている。それが意味の有無の関係なしに処世術に近いものになっていた。
 だが本来の自分のしたいことを考えれば自分を偽ることの辛さを覚え、自分であることを捨てざるを得ない状況にまで追い込まれる、この現実。そして、最初は楽しいと思っていた感覚すらも、それが何なのかわからず忘れてしまうほどには、この世界に浸かりすぎた。
 「貴女はどうして、私の中に来たの?」
 理想と現実の乖離は益々広がる。時折、自分に辛そうな顔を見せる齋藤飛鳥の顔がとてつもなく自分にとっては憎たらしい存在でしかない。辛いのはこっちなのだと訴えたいほどには。
 「良いじゃない。私を介して、貴女は、また外に出れるのだから。」
 アイドルにでもなれば苛烈な現実と言う殻の中で、生ぬるい夢を見たくなる。それがたとえ、ファンと呼ばれる人間を裏切る行為だとしても。プロ意識、そんな物は、一応、この身にあるからこそしている物の、本心では違うのだと訴える。
 羽ばたきたい。
 より、そういう思いを得たとき「私はママたちが昔、教えてくれた別世界の歌を……」ライブの雰囲気をぶち壊してまで唄った。何度か母たちが口にしていた、熱気バサラという人の歌。
 録音された、その歌を聞いたとき、全身が打ち震えるほどの衝動が全身に走ったのを覚えている。それは感動だった。PLANET DANCE、NEW FRONTIER、DYNAMITE EXPLOSION、熱気バサラの歌が、ある種、今の自分であろうとした証。
 正直、この歌は初めて聞いたとき、AKBや乃木坂などと比べ物にならないほどの尊さを命の中で感じずにはいられないほどの衝撃だった。自分が自分として、この世界にいる。何か、そう感じずにはいられない。休憩中は、もっぱら音質が悪い熱気バサラの歌を聴きながら己というアイデンティティを磨く。
 「ワンスアゲイン……」
 そう口にしつつも求めたものと違うから、ここから出ると言うのは我儘なのかもしれない。だからこそ、頑張って、ここでアイドルと言う、己のスタイルを強く確立しようとしたが、それでも潰されていく。そしてファンと呼べる存在から己を守るために未熟な精神は殻に籠り、仮面を被って園命でありながら、園命ではない2代目齋藤飛鳥を演じる。そして、それが己の中にいる仮面を付けた静かなバケモノという名のオリジナルメンバーの魂を宿した存在を封じ込めていた。そして、そいつが出てくれば毎回、嫌な汗をかいて不快になる。
 それでも、それでも……この歌を聴くことで、また己の中にある炎を保たせる。だが、爆発させることが出来なかった。爆発のさせ方を忘れてしまった。炎を表に出すことが出来ず、キララの輝きは、そのパフォーマンスだけに輝く。アイドルになると自然と仮面を被ってしまう命は、感情を爆発させることが出来ない。そうして感情を抑え込んで未熟な精神が生み出してしまった野心だけを抱いた静かなバケモノだ。そいつを制御できずに本番になれば、仮面を付けた化け物がパフォーマンスをし、自分に嫌な汗を書かせて不快の底に送り込む。べっとりとついた、あの感触は命は未だに慣れることはない。いつしか観客のいるステージで歌うことすら苦痛になり、鼻歌を歌っていたほうが、まだ楽しいと思える。
 アイドル失格だ。
 そうなってしまうことに、命は無表情のまま沈痛な思いを胸に秘めている。
 「バサラって人はこういうとき、あったのかな……」
 だが、なぜか、この時、バサラの歌が自分の中に開いた。ライブ中だというのに他のメンバーの歌声や演奏が掻き消されて熱気バサラのギターの音だけが命の脳内に思い切り響き渡る。
 そして、命だけが、このライブで誰よりも大きな声で「DYNAMITE EXPLOSION」を響かせた。
 命に響いた、この状況を爆発させるほどの歌。それに応えるように、周りのキララ達は自分に集まり光で包み込み、そして別世界へと飛ばしてくれそうな程の光の渦を形成する。人の感覚を無くしてしまいそうなほどの夥しい、それは、まさに人智を超えた光であると言っても良いだろう。熱気バサラの歌を口にしていた時、忘れかけていた何かを思い出しそうになっていた。しかし、それは目の前の現実を超えた、この現象は意識と同時に忘れかけていた何かを忘れさせてしまった。


 熱気バサラは、その日、何か、予感的なものを感じ取っていた。これから、また自分の人生に何かがあるだろうということ常に歌に情熱を燃やす熱気バサラの胸に沸くインスピレーションが再び強く輝くような銀河クジラと出会った時のような衝撃、本宮凪沙、園智恵理と出会った時のような、そういう刺激的なモノ。
 「なんだ?このひでぇ歌は……」
 その出会いに胸をときめかせているバサラの隣に、凪沙と智恵理の出会いから常に隣に付き添っているキララが存在している。自分についてきていたキララが共鳴するようにバサラにとって酷い歌が響き渡る。誰かが自分の歌を唄っているが、それがバサラにとっては聞くに堪えないほど酷い歌だった。
 「ここ、何処……?」
 見知らぬ世界に私は辿りついていた。地面にへばりつき、熱いアスファルトの事など忘れさせるほど、一瞬だけ別世界にいるような感覚を覚え、そして、次第に脳の処理が落ち着きを取り戻し、ここがランカスターではないことを知る。
 この世界がどこなのか、ランカスターから消えていた己の肉体は五体満足で、今、ここにいる。
 「え、と……貴方は……」
 髪が異様に逆立ち、丸眼鏡をかけている男。
 母たちの言葉を思い出すと、まさに、この人は熱気バサラになるのだが、バサラと思われる人間は、それ以上にだ。
 「いや、それよりも、なんだよ。お前の酷い歌。」
 自分の歌を酷評する。こうしてと言えばあんまりだが、こうして園命は熱気バサラと出会い、これからの物語を紡ぎ出す。
 「酷い歌?」
 いきなり、この人は、何を言うのか。自分の歌にダメ出しをされた。
 「お前、心に面倒になることか変えてるだろ?野心とか、そういうものが、お前のハートを閉じ込めちまうんだ。だから大切なものを失っちまうし、酷い歌になっちまう。」
 「と、とりあえず、待ってください!貴方は熱気バサラさん?」
 「あぁ。」
 ぶっきらぼうに答えて自分を見下ろす、この男に対して、何を思ったのだろう。その力のある声を本能的に感じ取った何かというものを、この人は持っている。キララの共鳴から、母たちと共演した記憶が確かに入り込んでくる。間違いない。この人が熱気バサラだと理解するのは遅いことではなかった。
 「お前の本当の歌の力は、本当はスゲーのに、それをお前が殺しちまってるんだよ。」
 バサラの言葉の意味が命には解らなかった。母たちから聞いた、この熱気バサラのこと。
 「じゃぁ、私に教えてください。私が、今、どうなっているのか。」
 「それ、自分で考えなきゃ意味が無いだろ……」
 「わからないんです。」
 今の状況ほど、解らないものは解らない。ただ、この人と一緒にいれば、何かをつかめるかもしれない。
 「だから!」
 「仕方ねーな……」
何に折れたのかはわからない。しかし、バサラは頭を掻き、面倒くさそうな顔をしながら口にした。「好きにしな。」こうして、命の、この世界の旅は幕を開けた。

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