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マクロスLily Episode.5「DYNAMITE EXPLOSION」

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第5話。
エピローグ含めれば、あと、2話です。


 「ファイア……」
 「私の歌、聞いてくださーい!」
 初めて、その少女が唄った時は全身に鳥肌が立ったことを覚えている。思わず全身が一瞬だけでも震えたことすらも。fそのあと、園命と言う名前を知り、熱気バサラと一緒にいる事を知った。その最初に聞いた少女の歌のタイトルは「RPG」と言ったか、日本スタイルのタイトルだったので、印象に残り、黄金の脳髄が脳内を駆け巡るほどには、自分の好みの歌だったことを覚えている。
 初めて、その歌を聞いたときは麗しの歌声とでも言うべきか、自然とリズムを取りたくなる歌と言うものが、そこにあり、最初に足を止めたのは陽美だった。ゆっくりと、聞き惚れる鍛えられた声の先にある世界。ずっと、歌を学んでいて、何かしらの枷から解き放たれた、そういう歌だった。陽美が初めて命に出会ったのはSMSの休暇で、別の惑星に飛んでいるときだった。
 こういう組織にいれば嫌でも、戦場で感じ取った黒い感情と言うものは闘争心の残り粕とも呼べるもの。それがたまればたまってしまうほど、兵士と言う存在には戦場の高揚感が黒い闘争心となって残り、所謂、サイコパスなんて存在も出来ることがある。所謂、戦場に出れば死に急ぐタイプや、狂乱する人間は、そういう闘争心の粕の塊が徐々に形を成すものである。そうならないように、戦場とは無縁に近い場所で、ある程度、忘れろとは言うが、そういうのは気休めにならない。どこかの女でもたぶらかして、性的な快感で、そういうものを遠ざけようとしていた時だ。 
 リゾートアイランドで好き勝手に遊んでいた時に、その歌を聞いた。沢山の人の前で、臆することなく、自分の作った歌を披露する少女の姿に何となく目を奪われていたことを思い出す。
 最初は、多くの人は隣にいるギターを弾いているバサラに夢中になっていた。
 しかし、徐々に、徐々に、その雰囲気を変えるように最初はバサラ目当てで、止まっているのかと思ったが、徐々に、園命の歌が浸透してきたように、その歌声が人々の中に入り込んだ。それが全身を駆け巡り、脳髄が大きな脈動へと至ったのと同時に魅了されていく。
 元より、男に興味の無い陽美はバサラよりも、少女の方に興味があったし、当然、そちらの方に目が行くのは当然のことだった。徐々に、その音楽が人を魅了し、流れていく瞬間、延々と、そこに立ちつくしていた。聞いてて、開放感のあるような、そういう歌を聞いたような気がする。
 様々なアイドルの歌と言うのを、祖父を通して聞いてきたものの、いまいち、ハマれる物が無く、そのままだった。しかし、目の前で、その歌を聞いたとき、胸の中でときめいてくる何かが、そこにある。
 何かを聞こうとしていた時は、他の女が離していたし、音楽が終わって、その後、ネットを駆使して彼女の動画を漁って音源抽出。まだ、園命の楽曲のデータはどこにも置いてなかった。ディスクもおいてすらいない。ただ、画像は多量に撮影されてネットに流出しているが故に拾える。そうして一番気に入った好みの顔を待ち受け画面にし、今に至る。好みの少女がいると言うのは良い。
 抱いていた黒い闘争心のようなものが、確かに微々たるモノではあるが、消えていくのを、この肉体は感じ取っていた。
 そして、その歌から聞こえてくる、彼女の挫折と同時に、目を隠して我武者羅に努力をしても実らない、危うさを感じるような無茶をしているのが、その歌声から、なんとなく伝わってくる。最初は気づかなかったが、徐々に、その表情に苦しさが宿っていることに気付く。無理して唄うかのような、その声色、明らかにバサラやミレーヌとは違う。
 この娘は、自分以上に苦労している。女と付き合ってきた女としての直感が、それを理解する。 その歌には、確かな落ち着かせるものを感じたが、歌の持つ言葉の力を感じることは無かった。瞳には、何かの焦りのようなもの、それが、寧ろ、聞いていくうちに苦しくなってくる。
 そういった、それに近い大きな挫折があっても、なお立ち向かう姿、その危うさに庇護欲を駆られて、気づけば守りたい存在として命は陽美の中に存在していた。
 顔から伝わってくる必死さと、言葉、そして、額から流れる汗は自分の知っている歌とはあまりにも無縁の形だった。
 戦場の高揚感から生まれる黒い残りかすが消えたのは、それ以上に、彼女のことが心配になったからだろうか、庇護欲が動いたから……ただ、陽美自身は、ただ、これを恋だと思いたかった。


 「あの娘……」
 「私の歌、聞いてくださーい!」
 美月が初めて命に出会ったのは、旅行と称してお忍びで艦隊から離れた時のこと。美月の耳の中に、入り込んだ少女の歌に足を止めて、ゆっくり腰を降ろして終わるまで聞いていた。
 久しぶりに、聞き応えのある歌声だった。
 歌声だけで言えば、様々な女性アイドルを聞いてきたし、それに並ぶほどかもしれない。
 別段、好き勝手に色々とやってきた分、何か悩みがあった訳ではないし、そういうことも無かったが、何処か、自分にとってリラックスさせるような、そういう疲れの様なものを感じていたのだろうか。
 リゾートスターに来訪して、初めて心休まる歌と言う物を聞いた気がする。今までの女性アイドルの歌に、聞き洩らしているだけかもしれないが、自分で作ったと言う部分を感じさせず、他人の人生を肩代わりして歌っているようなアイドルソングに共感はしたことはなかった。そういう部分から、彼女の歌と言うのは、いや、曲の内容以上に、その姿に惚れたと言った方が良いだろう。
 10代の少女の作る薄っぺらさと言うのも、それはそれで良いものかもしれない。考えてみれば、そういう艦隊の長をやっているのだ。それを、さらに統率している。気づけば、そう言う疲れという物は溜まっていたのかもしれない。しかし、その瞳の奥にある挫折感と我武者羅に努力し、どこか、壊れたおもちゃのようになってしまうような危険さに、気づけば夢中になっていたのだ。
 そんな危うさを持つ少女が人を癒す歌を唄う。
 そういう少女に対して庇護欲を掻き立てられる。
 「この歌、貴女が作ったの?」
 「まあ、作曲は多少、手伝ってもらいましたけど、作詞は……自分で。」
 内容は、少ない人生経験をしている女性っぽさがあって可愛らしい。そういうところも好きなのだろう。
 「ふぅん……」
 それから、調べてみれば、どうやら色々と有名になっているらしい。熱気バサラとミレーヌ・ジーナスの娘、それか、弟子。リン・ミンメイと一条輝の隠し子。
 そんなことを言われてはいるが、確証は無し。
 娘にしては似ていないし、髪はどちらかと言えば、マクシミリアン・ジーナスに似ている。
 そういうことになれば、隔世遺伝的な部分も出てくるが、名前を知って、血の繋がりは無いと片付ける。
 「何か、貴女の歌のデータは無いの?」
 「まだ、作ってないし、バサラも、そういう場所とか行かないので。」
 「そう、なの……」
 歌の内容と言うよりは……と、言う部分も多いが、しかし、バサラとの旅の影響なのか、色々と曲を出す度に良くなっている。
 「残念。」
 「気に入ってくれて、ありがとうございます。」
 「まぁ……」
 「何か?」
 「貴女の歌には力を感じない。美しい空想や純な情緒を傷つけないでこれを優しく育むような、豊かさが。奪ってしまった。貴女望んだ未知の周りにあった物が、それを封じた。貴方、楽しませるとか、そういう考えの前に野心と心の枷が歌の魅力を封じちゃってるのかしら。」
 最初は、その少女の笑顔と歌声は嬉しさに満ちていた瞬間、少女から笑顔が消えて真剣な顔つきになった。美月が、そう彼女の言葉に対して言葉を告げた。
 力を感じる歌なのに、歌に乗せて放出が出来ていない。
 バサラと同じように戦いを歌で止めたい。
 そういう部分があるようだが、この時にですら、無い物が、戦場と言う特殊な場所で唄う時には無い。所謂、そこには人間らしい俗物的な欲求がある。だが、彼女は、なぜ、そうしたいのか、戦場に出ながら歌う覚悟と言うものは何処か軽はずみに見えてしまう部分も。いや、それはバサラの「歌で山を動かしたい」と、そういう部分からも……今では銀河を響かせてはいるが。それは、きっかけとしては十分なものなのかもしれない。
 そこまですれば、あの世界で認めてくれる的なことを口にしてはいたが。それではダメなのだろう。何れ、この子は、それが出来なければ壊れてしまうのではないか。
 いや、壊れるにしても、足りない物に気づかず唄って、虚しく空ぶって才能が無いと思い込んでしまうのではないか。そうなったとき、自分と言う世界があれば。バサラは恋人ではない。ならば、自分が入る隙は十分にある。
 しかし、そんな状態の彼女に二人は拍手を送る気にはなれなかった。だから、声をかけた。歌声は14とはいえ、持っている資質は素晴らしいし、確かに人の脚を引きとめる物はいるのだが、誰もが違和感を抱くから、聞き終われば帰っていく人間もいれば、その違和感に気づかなければ聞いて終わるだけ。
 そこにある笑顔は、本当の笑顔と言えるのだろうか。
 何かしらの世界で、そのスマイルは造られた物なのだろう。
 歌には惹かれる物があるが、自然と、そうなってしまっているからこそ命の歌は何処か殻に籠っているような気がして、それに気付かずに空回りしているような虚しさが、歌には秘められていた。そして、素人は騙せてしまう極限までアイドルの仕草をしながら、アイドルらしい笑顔。しかし、それは芸能界に入る人間特有の誰にでも向ける八方美人的な笑顔と歌だ。
 「聞いてくれる人はいたけど、感想を言ってくれる人はいなかったね。」
 「まだまだ、ハートを解放で来てないのさ。」
 「そういうもの?」
 「そうだよ。」
 熱気バサラは気づいているのだろう。
 命の頭をくしゃくしゃ撫でながら、アドバイスをするが、だが、敢えて口には出さずに、命が自分で気づくように促している。そして、陽美や美月のような何人も女を抱いてきた女には、その勘から解るのだろう。
 本当の笑顔ではない。
 自然と、彼女は心を閉ざしていることに陽美と美月は気づいていた。
 彼女は本当の自分を自分でも知らずに隠してアイドルと言う自分を演じて歌っているからこそ、アイドルと言うからに隠れて歌を放つ。本当の笑顔の中で花開く歌は、どんなに素晴らしいものなるのだろう。その先にあるものを陽美と美月は気になった。だからかもしれない。園命の本当の笑顔を見てみたいと言う思いから、彼女を笑顔に出来るのは自分だけという根拠の無い自身から命を、この手に収めたいと思ったのは。


 そういうことで、求めようとした瞬間、自分と同じ考えを抱いている女はそこにいた。あの陽美とキャットファイトモドキを行った後に、命の思考と言う物は理解できた。あそこで、陽美の相手ではなく命の相手をする。そうすれば、好感度は上がるだろうと呼んでいた矢先に、あの蹴りだ。
 似た者同士であるが故に、それだけは確かだと思っていたのだが、あの不意打ちは不覚だった。
 ただ、命が叫んだときに自分の状況を顧みずに、命の心配をしたことに少し興味を惹かれた。あの、自分達のことを歌で止めようとしていたこと、それが出来ないからこそ、どうにかしようと思ったこと。目の前にいる女は、そういうのを自分以上に欲しい物は何でも欲しがるタイプの、そういう相手だったようだと、そういうことを、今、実感していた。
 ドッグファイトや、ああやって直接対峙するだけで、何かしらつかめてくる物はある。
 これを陽美に対する恋心だとは思いたくはない。ただ、ライバル的な、そういう心が芽生えているだけだと思いたかった。興味は出た。
 陽美は陽美で、この画面の向こうでヘラヘラ笑い、自分を蹴り飛ばした女に向かって、互いに初めて出会った話をしてから、色々と考えていた。最初は険悪だった。だが、連絡をしているうちに気づけばライバルとなっていた。それでも、相手は相手。好きな女を巡って戦う存在だと解っていても、あの場所に出れば戦場だが、こうして、そういう戦場だと関係ない場所で会話は平然とできる。人とは不思議なものだ。
 これは、マクロス・リリィSMS支社から、直接リーリヤに交渉をしたことに他ならない。園命に関連するバカらしい理由でテロをいちいち、起こされてもたまったものじゃないという、至極真っ当な理由で、あえて、こちらが一度は白旗を上げることによって支社長が直接交渉をし、乗り込んでリーリヤサイドにも有効な条件を掲示されることによって全ての交渉を受け入れることになった。美月自身、殺されることを憂慮して、ここにいるメンバーや、全兵器をSMSマクロス・リーリヤ支部に配属させることや、その他、もろもろの条件を受け入れてネゴシエーターは成功させる。
 どうするかは、これからのことを解決させるために掲示されたものが代理戦闘という名の、美月と陽美の決闘であり、これで美月が負ければ、リーリヤサイドはSMSマクロス・リリィ支社に配属されることになり、そして、陽美が負ければ資源やVF-30のデータが提供されることになる。
 それなりの代償ということで、掲示された条件を読み込み、支社長兼隊長は、この交渉をすべて問題なく成功させると同時に互いの連絡先を交換してから円滑に全ての細かい交渉は進んだ。
 決闘までの時間まで暫くかかる。
 その間に、何をトチ狂ったのか、与えられた連作先で、暇潰しと称して互いに連絡を取り合い、そして会話を繰り返す。こうして腹の探り合いをして、相手がどういう風に来るのかと探っているものの、互いに諦め、好きな女を好きになった者同士で、園命について語り合う。気にくわない部分もあれど、やはり、共感してしまう部分があるが故に妙に話が盛り上がる。一応、連絡先を渡すついでに、美月の連絡先を盗み出し、何となく、こうして連絡を取り合っている。こういうことをすれば、どういう反応があるか、ある程度は予想通りだったが、なんやかんやで丸めこめて、会話をして見ると、意外と通じる部分があったようだ。
 そもそも、最初は、相手と言うか、美月も美月で自分の好きな女を好きになった女が、どういう人間かと言う部分は興味を持ったらしい。それが、こんな淫乱だとは……と、言うのが最初の印象だったのは言うまでも無い。その淫乱に送られた心のオアシスとでも呼ぶべきが園命の出会いだったようにも思える。
 「思えば、そこで、運命の3人は出会っていた。って事かな。」
 「だとしたら、最悪の出会いね。」
 間髪いれずに、そう返す。やはり、気にくわないが嫌いでは無い気がする。元より、盗賊的なことばかりしていたが故に、あぁ、シンパシー的な物を感じてしまうのだろう。
 こういう女がパートナーであれば危険だが役には立つだろう。画面越しの女に向かってつばを飛ばしたくなる。あのキャットファイトで、勝てるチャンスはあった。言い訳をしても意味はないが。
 「私に連絡先を送るって、どういう神経してるの?」
 「同じ女を好きになった者同士。」
 最初に、この会話をして抱いた感想と言うのは、不信感に近いものがあった。大体、この通信を許してしまっている時点で、マクロス・リリィ自体は、また混乱に陥っているらしい。どうやら、電子ハッキングをしてしまった瞬間、色々と出てきてしまってはいたようだ。
 「何で、こんな奴と……」
 「ってか、どうすんの?電子ジャックは不味いっしょ。」
 「欲しい物は何をしても手に入れるの。」
 「そうっすか……まぁ、あんたが電子ジャックしたら、幕僚たちの悪い噂はいっぱい、出てきて、現在査問中だけどね。これで、また、新統合軍からは、ある程度、目を瞑る海賊集団よ。あんた、そういうの狙ってる?」
 「んなわけないでしょ。」
 「そりゃ、そうよね。」
 園命に関すること、最初の強行偵察、一応、被害と呼べる被害は人命という観点においてはゼロという現状、全てがブラフだったのではないか。今となっては、美月の率いる海賊集団の行動すら政府の特務機関か何かなのではないかと言う噂だが、この美月と言う女は、そこまで考えていない。
 女は虜にし、男を殺す。
 そして、そうやって文化が成り立っている集団。
 女同士で子供も出来る時代、そういう女だけの社会があってもおかしくは無い。だが、世界は、この集団に神でも宿らせるかのように、この出来事は毎回、起こっている。興味が出てきたと言えば、それは、それで神と言う存在を味方にした存在に興味はある。
 「変なことね……」
 今までは奪う立場だった存在だと思っていたのに、変な方向に作用すると言うのはおかしいことではあるが、そう行くと、美月は命に出会うために、これまで、そう神に愛された物になったのではないのかと運命的な物を感じずにはいられなかった。実際、そこまで壊滅に近い状態になって相手にされてないのも、この本国とは程遠い惑星に関して、基本は報告をするも状況知らずの老人たちが自由気侭にと、でも言えば言い過ぎだが、現状、それに近い状態で新統合軍の状況は、だいぶ曖昧に伝わっているようでもある。事実、その扱いに関しては巻き込まれた側のマクロス・リリィ側に委ねられたような感じだ。
 「結構、いい加減ね……」
 「新統合軍の腐敗なんて、そんなもんよ。ウィンダミア王国との不平等条約を見ればね。また、あれは戦争になるわ。」
 だからこそ、色々とワチャワチャしてる状況で、どうにかできるのかもしれないが。
 「そろそろ、本題に入れば?」
 不機嫌な顔を崩すことなく、目の前の金髪に対して美月は言葉を紡ぐ。
 「まぁ、それもそうなんだけどさ。それよか、あんたの船にあったのフォールドクォーツよね?それも大量の。」
 「ちょっと前にバジュラの大群と偶然、遭遇した時、襲われたから返り討ちにして狩った。」
 「ゲームじゃないんだし……」
 群れの各個体はフォールドクォーツの小片を持つと言うが、そういうのを得たと言うわけでもないらしい。所謂、バジュラ戦役のころに得た杵柄的なものなのだろうか如何に企画外な船団なのかと言うのが良く解る。
 「まぁ、なんか、バジュラの方について行ったら、フォールドクォーツがいっぱいの惑星があったり……」
 「あんた、それだけで、この宇宙を手に入れられるほどの力を……」
 「興味ないし。」
 そこから、必要最低限のモノを得て今に至るらしい。
 「それより、本題。いい加減にしないと、切るけど?」
 何かしら、あの場所に行けば気になる物が出てくるらしい。興味本位からして、あのバルキリー博物館が出来るほどの試作バルキリーやら、何やらが多量にあった。試作段階で打ち切られた筈のAFC-01レギオスや、AB-01トレッド、AB-00ブレイバー、ブロンコⅡ、ATAC・01-SCAスパルタス等、何故、そんな物があるのかなどと問いかけたくなるほどには。これでも、マックスとミリアの孫であり、歴代のバルキリーを、一応全て見てきた人間だ。それでも、知らない物や、新型機があるのだから。
 それは、それで多量の話をしたくなるが、本人の眉間に皺を寄せた表情を見ていると、そうも言ってられない。
 「んで、命に会いたくない?」
 「そりゃ、会いたいけど……貴女のベッドの上にいるわけ?」
 「うーん、帰って別れてから、別行動かな。それから暫くあってないの。」
 「何で?」
 「ちと、考えさせてあげたくなってさ。」
 あれから帰ってこない。
 謎の美少女が戦艦に潜入し、そのまま、命と陽美を連れ去ってから惑星ARIAに降ろしてから、どっかに行ってしまったと言うのが現状。何かを言おうとしたが、敢えて、彼女一人にして何処かに向かってしまった。歌が通じなかったから、今頃、自殺でもしているのではないのだろうかと思って探したら、意外となれたようにサバイバルをしていたので驚いた。
 とりあえずは、場所も解ったし、そこで出した提案がこれだ。
 「会いに行かない?」
 「……それ、あの子、歓迎する?」
 「しないかもね。でも、会いたいじゃん。」
 「そう、ね。」
二人の探し求めている物、自然と母性本能を燻らせてしまう存在。だから、今は休戦をしつつ、彼女と少しだけ話をしたいと思った。
 「ところで、命のことだけどさ。やっぱ、私たちのせいなのかな?」
 「さぁ、ね。ま、私も会いたいから、会いに行きましょう。」
 一瞬的な出会いだったと言うのに、なぜ、ああも好きなってしまったのか。それこそが、彼女の持つアイドルとしての資質としての本当の力なのかもしれない。


 「お前、何も解ってないのな。」
 熱気バサラが呆れたように言葉を発したのは自分に対してではなく、偶然、遭遇した芸能関係のレポーターの取材に対してだった。正直、昼のデザートを味わいたいと思っていたが強引すぎるレポーターが席に座り話を聞き出そうとする。
 だが、バサラは、その質問に対して露骨に不快な顔を浮かべて、まともに応えようとしなかった。
 園命に対して取り扱いたいと言いながら、その核心に迫る質問と言うのはしてこなかったからだ。命のことを言いながらも、結局は、バサラに対する功績を知りたいだけと言う部分が強かったレポーターに対して失望に近い溜息を吐いていた。
 「あ、あの、何が……」
 当然、解らないし、解ろうともしないだろう。
 「お前、命のこと、命として見てねーじゃねーか。俺の弟子だなんだって、そういう部分しか見てねーから、何も解ってねーって言ってんだよ。」
 「しかし……」
 「解ってる奴は解ってるんだ。あんたも、こいつはこいつとして接しろよ。」
 それは、以前、出会った少女達のことを言っているのだろうか。
 バサラに露骨に不快な顔をされた記者は黙って立ち去って行った。
 「いつもなら、歌を聞かせるのに、今日はしなかったね。」
 とりあえず、そういう人間を前にして、いつもは歌を聞かせると言うのに、そういうことをしなかったのは一瞬、不思議だと思った。
 「デザートの時間だからな。」
 「あぁ……」
 命と一緒にデザートを食す、この時間を邪魔されたことに対しての不快感だったのかもしれない。
 「あ、嬉しかったよ。私を私として見てあげて。って言ったの。」
 「そうかい。」
 穏やかな笑顔を浮かべながら、バサラは目の前に運ばれてきたパンケーキを口にした。
 「ま、頑張れよ。」
 何かを知っているかのように、バサラは常に歌った後の自分に、その言葉を言う。頑張ることは、頑張るが……ふと、懐かしい夢を見て園命は昼寝をしていたことに気付いた。


 「私にとって歌ってなんだったんだろ。」
 陽美と美月の言葉から、考えてはいたものの、結局答えなんて、そんなものは簡単に出る訳が無く、なんとなく一人で考える時間が欲しくて外に出たモノの、やっぱり考えは出る訳が無い。
 ふと、そうして昔のことから思い返してみれば答えが出てくるかもしれない。実はいうと、AKB48の歌に、そこまで魅力を感じたことは無かった。寧ろ乃木坂であり、そういう部分から園家では異端ではあったと思うが、まだ音楽と言う文化が、あの世界では発展途上、いや、再生期の初期とも呼べる中、やはり殆どのアーティストの楽曲は捨てられた中、延々と流れるAKBだけでは正直、飽きてしまう。
 あの世界において、そういう歓声を持てる存在と言うのは、バサラのいる世界であれば当然の存在ではあるが、命のいる世界における、そういう人材と言うのは異端に近い存在である。彼らはAKBしか歌と言う文化を良く知らないからだ。
しかし、乃木坂でも、何れは聞きすぎていれば飽きてしまうこともあるという、当然の認識、まだ、音楽と言うものが全盛期だった時代、これは良い歌だけど、楽しめただろうか。そう考えることもある。それを普通にアイドルをしていた母に話した時、怒られるだろうか?そう、考えていたが、だが、母は、それ以上にもっと凄い歌手の名前を教えてくれた。熱気バサラのことだ。
 乃木坂の楽曲も好きだが、だが、それ以上に自分で歌を作り、そして、全身から激しい魂の奔流を好みに感じることが出来た。熱気バサラのように、自分でも歌を作詞して、作曲して、それで乃木坂と言うグループに自分が自分として、新たに名前を刻むことが出来たなら。
 熱気バサラの歌は、少女に、確かに、そうさせたいと思えるほどの強い力を持っていた。しかし、それでもやはり、他人の歌と言うのは物足りない部分がある。自分で何かをしたくなる。
 そういう意味でも、乃木坂0046に入れば、何か、自分自身が全てを変えることが出来るのではないのか。バサラの歌から感じ取った肉体が魂の奔流を感じ取っていた。
 何かあれば、それなりに新曲と言うものが生まれるものの、それは、自分の望んだものでもない。あの世界で言えば、そういうこと自体が贅沢な話なのかもしれないが。芸能開放の象徴としては、少し軽い曲調も多い気がするし、元より歌という文化が衰退した、あの世界では、それ以外の曲の聞きようもない。
 だからいやでも飽きが来ると気が人には必ずある。
 AKBの歌に魅力を感じたことの無いからこそ、そういう部分があったからこそ、この世界に来たのかもしれない。最初はそういうことを思っていたが、最近は、考えることも無かった。ここに来てから、熱気バサラの音楽に触れて自由な発想と情熱的な演奏の音楽と歌の楽しさを知った。
 そして、本当の芸能活動とは、こういう物ではなかろうかと、自問自答するも答えなんて、そう簡単に出てくるわけがない。
 何となく、人との接触を絶って、自分のことをおさらいしてみる。それに、何の意味があるかどうかは解らないが、ただ、昔から、そういう風にして自分を見つめ直してきた。母に怒られた時も、何処か、孤独に駆られた時も。
 「バサラって、こういうことで、歌に対して悩んでた時ってどうしてたの?」
 帰ってきた答えは、放浪していたらしい。自分の歌の存在価値や、そういう物に悩んだときは、何処か別世界に飛んだり、そういうことをしていたりと自然に触れ合うと言うことにして、新たな糧として生きていたと言う。命は、あの戦艦から脱出して陽美と別れてから、かつて悪魔の名を冠した少女の姿をした何かに礼を言い、こうして、惑星ARIAの自然溢れる場所へと自力で歩き向かう。
 自分の荷物と、一週間ほどの食料を適当に盗んでからだ。
 後は、YF-29の中にあったキャンプセットを取って、適当に、こうして自然の風を浴びて貴重な飲み水も確保できるしで、それは、それで調度良い。そして、意外だったのは。
 「バサラもいるんだよね……」
 意外と言っても、それは同じ場所でという意味だ。バサラもここで野宿をしていたらしい。陽美の部屋で眠っていた時も、こうして自然の中にあるオーラ的な物を感じつつ、唄っていた。そう言えば、こういう人間であると言うことをすっかり忘れていたような気がする。
 主にバルキリーの中で宇宙や、他の惑星の夜は一日を過ごし、こうして野宿をすることなどが当然と言うのもあるのかもしれない。
 ついでに、戦艦に入り込んでいた時、何もしなかったのは、ARIAに降りてきた美月の部下を歌で全て静かにさせたらしい。
 海賊に歌を聞かせるついでに、和平の使者となっていたと言う、ここのところ脅迫や攻撃、そういう物が全く無いと言うのはバサラの歌が良い感じに作用されていると言う物らしい。
 何気に影で凄いことを成していたのだから、この人と言うのは凄い。そこ行くと、バサラと言うのは凄いのだと、嫌でも実感してしまう。それに比べて、二人の女の喧嘩すらも止められなかった自分の歌と言うのはなんだったのか。
 改めて思う。
 ミレーヌ・ジーナスいわく、それはバサラが常軌を逸した歌バカだからこそできるということを言ってはいたが、そうだとしても、それはそれで持っている才能だから羨ましいと思ったが、実際に相手をすると違う。そして、普通の人は、熱気バサラほど歌に情熱を捧げられるものではない。
 そもそも、熱気バサラに思春期とか、そういう物があったのかどうなのか、バサラの知人の話を聞くと、そういう時期があったのかすら怪しいと思えてくる。一緒にいても、そのバサラという人間の歌という部分ですら未知の物なのに、それ以外の部分は本当に解らない。
 いっそのこと、そうなれば楽になるのだろうが、そこまで行くにはかなりの冒険があっただろうし、命はバサラのような特別な歌を愛する物ではなく、普通の人間なのだ。普通の人間は、何処まで行って何かを越えることはない。だからこそ悩んで自分の出来ることを探すように手探りで動き出す。
 悩みとは人の持つ素晴らしい力と説くドラマがあった。自分が選んだ答えが正解なのだと言うが、そこまでの自分の選ぶべき答えに辿りつくことが大変なのだとも思う。
 「私の唄って、何なんだろう……」
 口で一つ一つ、自分の作ってきた歌を惑星ARIAの誰もいない丘で静かに歌う。
 一瞬、だけでも、キララが光った時の状況を作ろうとしても、その時、どういう心境にあったのかが解らない。 
 母である智恵理は一時的に襲名せずに、きららを最大限にまで輝かせたと言う。そして、もう一人の母である凪沙も襲名する前に暴徒になったファンの集団を輝きだけで引き止めたらしい。そういうものを目指しているのだろうと、自分は思っているし、必然的に自分も、そういう風になりたいと思っていた。
 ただ、世の中というのは、そういう風に上手く突破させてはくれないようだ。それが気怠さとなって今を生み出している。
 目指すのであれば母以上のアイドルだった筈だし、元より、襲名に拘らず、我が道を行くと言うスタイルで乃木坂0046に入ればいつの間にか白石麻衣の魂が勝手に入り込んで襲名していたと言うことが。煩わしいと思っていた物。襲名すれば、オリジナルの姿を求められる。自分と言うこを出すことは、あの世界では許されることはない。皆、アイドルの中にいる偶像を求めて、理想のことを求め、それ以上のこと、それ以下のことをすれば蜜蜂のような顔を浮かべていた連中は、雀蜂のように凶暴になり、アイドルに恐怖を与えることもある。
 そういう話しもあるからこそ、襲名せずに自分は自分で行きたいと思っていたと言うのに自分の中には、かなり厄介な存在がいたことには呪い始めた。この世界で行けば、ならば、独立していけばいいというのであるが、その術を知らなかったという部分も強いのだから……所謂、無知と言う罪……しかし、あの世界じゃ、アイドルになるということ=AKBやら、その手の派生アイドルになるということでもあるのだから、そういう思考になるのも無理はないのだろう。
 それでも、白石麻衣として生きなければならないことに窮屈さを感じていた少女は、己の心を封じてアイドルとしての自分を作り上げていた。その方が、あの世界では生きることが楽だから。襲名すると言うことには魅入られた時点で、強制的に、そうなってしまう。認められたと言えば、それまでだが、あの世界では名誉であると言うのが良く解らない。皆、それが嬉しいと良感情と言うのが解らない。
 あの本来での世界での常識が今は異様に見える。
 そして母が凄いからこそ、襲名前に二人の母親が凄いことを為したからこそ、襲名をしなくても人と言う物の持てる凄い力と言う物は、オリジナルメンバーを越えるはず。だからこそ、その部分を強く持っていた。
 「まだ、14歳だから。って声もあるけど……」
 結局は、凪沙も智恵理も襲名し伝説のアイドルと化しているし、今では3児の母である二人のアイドルとしてのポテンシャルを見ていると羨ましさもある。年を食った現役を退いたアイドルだった存在の母に負けるというのは悔しさもある。だからこそ、まだ世界にちゃんと浸かっていないからと自分に言い訳をしながらも、何も無く、がむしゃらにやっていたというのに、そのまま気に入られてしまったように白石麻衣を襲名した。
 思えば、母達だって、襲名したのは、このころだ。ただ、あの場合は、時代が今以上に芸能弾圧が厳しかった時代だと言うから、乱暴でも、そういうのが求められていた時代でもあったのかもしれない。あのころの母たちの話を聞くと暴力に支配されたアキバスターの住民が暴徒と化した存在が二人の力によって一気に暴力からの支配から心を解放した。
 一見、お伽噺のように聞こえることが本当にあったというのだから、命からすれば夢物語のような現実に頭がくらくらした。
 奇跡を実際に起こしてしまえば、その真実を知ってしまえば武装せずに歌で解決した集団についていくことに対して強い説得力がある。恐らく、あの世界の政府はアイドルがカルト宗教的な危険性が孕んでいたこと、それが実際に形になってしまったことを知っていただろう。アイドルと言うのは、そういう物だと言うのは何かしらの資料で呼んだ。
 此方が正統性を叫んだとしても暴走した何かを心に産み落とす危険な存在、それが、オカルト的なパワーを出すのだ。政府からすれば危険以外の何物でもないし、神秘的だ。聖書の物語のように人は神秘的な力に心を惹かれる。かつての、この世界も、神秘的に人の心を躍らせるアイドルを利用したプロパガンダやら、支配を目的とした洗脳が行われたということもある。だが、支配する側の思惑を持つ人の心と、その役目を帯びたカリスマ的象徴が望まぬままであれば、それは意味がなくなる。
 むしろ、反政府の象徴として面倒なことが起きることだろう。そういう意味では、あの世界で芸能弾圧ということをしたのは、支配するということでは正解そのものだったのだろうというのは、第三者的な視点で見つめていれば思うことだ。
 アイドルの宗教的な恐ろしさというのを肯定的に描く恐ろしさを描いた何とかSEEDシリーズなんてのは、特に、それだと、この世界で見た60年近く前のアニメの一片を見てアイドルの持つ力の怖さなんてものを理解した瞬間でもあったが。ただ、そういう部分から想像以上に力を持ったアイドルの力というのは制御できない神に等しい存在と同じ。
 だからこそ、自分たちの思い通りにするために。そのエゴをむき出しにした無茶苦茶な法は執行された。とりわけ気まぐれに、この世界の住民に自分の世界の話をすれば、どんなアニメの世界だと言われる。
 ただ、人の心というのは、それだけでどうにもなるものではないというのも園命は知っている。芸能という文化とともに人の世界が成り立ってきた以上、それをいきなり取り上げてしまえば予想以上に反感を買うし、より宗教観念的な強さを持ってしまう組織だって生まれるだろう。本人たちが意図しないところで、AKB0048なんてのが取り上げられたのは、そういうことなのだろう。
 もとより文化の抑圧なんてものは手っ取り早いのかもしれない。そして、それに対抗し過去の偉人扱いされているAKB0048やら他の姉妹グループのメンバーを利用している、あくまでも過去の亡霊を使い発展しようとする姿に命は憧れを感じたことはない。
 だから、自分は自分としてアイドルの力を奮いたい。
 そして新たに自分が、あの世界で過去の亡霊ではない”自分”というスタイルの、本来のアイドルとしてのスタイルを蘇らせて自分として立ち上がりたいという夢へと繋がっていった。本来の世界では異質なのかもしれない。しかし、ここの世界では、それが当たり前だ。
 襲名せずに自分は自分でいたいと言うこと。
 その考えについて、二人の母は認めて応援はしてくれた。
 だが、長くたてばファンという質は変わるように、ある程度、緩和され始めてから横暴な部分が目立つようになる。覚悟はしていたものの体験したことは自分というものを否定されたようなものだった。
 ”白石麻衣らしくしていれば良い。”
 ”それ以上のことを白石麻衣はしていなかった。”
 ”白石麻衣を穢すな”
 などと、本当の彼女を知っているのか、どうなのか、そういう発言を繰り返す。それでも反発して自分を強く出そうとすればするほど、当然、反発が来る。
 研究生であれば許されたのに、襲名すれば、それに近いことを求められるようになる。
 襲名すれば、自分は自分であると言うアイデンティティを否定されていくような気がした。自分で決めたこととはいえ、やはり、それはきつい。さらに年頃の少女が強く暴言を吐かれると言うのは予想以上に精神的に苦痛を伴うことであると言うのを知ったのも、この時からだった。
 自分の中に静かな獣が生まれたのは。
 「振り返れば、きつかったんだよね。」
 時代は、よりらしさを求める人も多くなる。魂の器として見られることに対して、他のメンバーは努力するように頑張るが、もとより、襲名というシステムに如何せん、疑問に思う命としては襲名に拘る同期の気持ちがよくわからない。
 自分として見られていないことにも等しい発言であるというのに。所謂、オリジナルのメンバーに対して疎ましく思っていたころ、キララは、この世界に導いてくれた。
 「難しいね。この世界。」
 もとより、自分には、出来る姉たちのように資質はないのだろうかとアイドルとしての魂の資質を測る未知の存在が、キララと呼ばれる物体を見て口にする。
 「もう、私からアイドルとか、そういう要素は消えたのかな。」
 バサラが歌えば楽しそうに輝く、この不定形の生物は輝くというのに、自分の前になると輝くことを忘れたかのように光を失っていく。そういうことを考える中で、様々なことを考える切欠になった。だから、襲名というのは何もない少女を輝かせるための偽りの光をもたらすものなのだろうとか。
 改めて自力で輝く難しさというのを理解した。そこから、襲名とは何か、あの世界の異様な雰囲気とはと考えた意味を考えるようになった。
 「何で、輝かないんだろう……」
 目の前を飛ぶクラゲの様な生物を突いても何も起こるわけがない。悩んでいた時に、あの、言葉が、陽美と美月の言葉が脳裏に入り込む。陽美の言っていた通り自分の中に引きこもることに対する安心感と辛さは、いつの間にか、どうにでも出来なくなっていたし、それがいつの間にか楽になっていた。
 だから、歌に打ち込んでいたが、打ち込んでいたのだが、今度は美月が心に殻を作って閉じこもってしまっているから、本当に響かないと言われてしまった時は八方ふさがりになった。改めて気づかせてくれたことに対して、こうして余計なことを考えつつ、考え込んでいたが、だが、それを打ち破るためにはどうしたらいい。
 そんな自分なりの結論なんてのは出てこない。それでも余計なことの思考に対しては、何故か答えと言うよりも自分で辿りついた思考と言う物は良く出てくる。
 これは、あくまでも第三者的な視点だからなのだろう。
 自分のことに関すれば、そうそう今後を左右する物でもあるし、答えなんて出てこないし、結論を求めて、その先にある答えが怖いから思考はカバーされたかのように簡単に与えようとはしないのだろう。
 「自分か。組織もファンも政府も理想と思想を植え付けて自分の都合の良い存在であってほしいと言うのが、世界を考えなのかね。」
 余計なことを考えつつ、本来の自分の思考と照らし合わせることで、なんかしらの答えを導くことがある。さらに陽美と美月が導き出させたヒントを思考に溶け込ませて自分の導き出した未熟な結論の中で、それでも、世界はそういう物を押し付けようとしても、自分は自分としてありたいとは思うし、誰かの器では無く自分として前に出たいのだと言うことも思う。
 如何なる思想を持っていたとしても、それを押し付けられてもだ。
 それでも、己でいたいという単純な物ではあるが、立派な物だと思い込みたかった。
 そして、陽美と美月の言っていた通り、それで良いのだと単純な言葉が一つの思想になって結論となって生まれ出る。遠回りしてきて得た簡単な答えだからこそ、何処か、暖かさの様なものを感じる。だからこそ、より、そうでありたいと1人自分で見つけた答えを纏めた。
 「そういや、バサラも……」
 サウンドフォース時代のバサラは、そうなるのが嫌だったと、そんな話があるのを思い出す。
 だからこそ、あえて自分を出していたのだと。それでも無理やり、自分を出すこと、ただ、あの押しつけられた世界に汚染された己の心をどうすれば解放できるのか。自分の中に救う化け物を、どうすれば排除できるのか。
 「解らないから唄う。迷ったら唄う。ね……」
 バサラに感化されたのか、むちゃくちゃだが、そうして行けば、何かあるかもしれない。
 口を動かし唄いながら、この星で得た物を考えて、己の考えを唄ってみた。言葉にはしてはいないが、自分の理想を押し付けずに、自分と言うその物を受け入れてくれていることに対して好意に近い感情を抱いているし、陽美と美月は大切なことに気づかせてくれた、改めて本当に今の自分を気づかせてくれた人。
 だからこそ、あの二人の争いを自分の歌でどうにかしたかったのに、結果は、あの様だ。何が足りないのだろう。その思い出が脳裏によぎるたびに声を強く唄う。
 使命感を強く持って純然たる思いを持って歌ったが、それだけでは足りない。だから、今は、がむしゃらに唄った。唄っていると、やはりバサラの力なのだろうか。白石麻衣の霊がいなければ何も出来ないのだろうか。
 変な考えが頭によぎり、今度は唄うことすら辛くなってくる。短い時間の間に唄うことをやめて、地面にあおむけになって再び眠りにつこうとした時、バサラとの旅の思い出が蘇る。
 ごちゃごちゃとしていた時、この世界の様々なアイドルやアーティストと出会った時のことを思い出。バサラと旅をしてきた時に出会った人達の出会いは楽しかった。その人達の歌を聞くことも、その人達の前で歌を唄うことも。バサラの弟子として見られることに対しては、違和感もあったが、誰かの代わりとして見られることよりは何倍も良い。
 だから、唄っていたのだが、それでも、陽美と美月のようになっていたから、聞くだけ聞いて、何もせずに帰っていく。人を惹きつけながらも心に響かせることが出来なかったのは、自分が原因……
 「お前、何をしてる?」
 「シビルさん……」
 考えていた時、唐突に自分の顔を覗きこんでくるエキゾチックな美人がそこにいた。
 実は、と言う形で何度か出会ったことがある。バサラが存在していない時にテロなどに巻き込まれてしまった場合、助けてほしいと頼まれていた部分もあるようで、常に見つめていたと言う。
 思い返してみれば思い当たる部分がかなりある。あの時とか、あの時とか。
 「こうして、一人になってるんです。自分のこと考えるために。ってか、いきなり、お前って、なんなんですか……後、今回も助けていただいて、ありがとうございました。」
 バサラが、わざわざ、美月の艦隊に乗り込んでこなかった理由と言うのは地上の海賊集団に歌を聞かせ戦闘をやめさせようと唄っていたそうで、艦隊の中に入り込んだ命達に対してはシビルに任せていたらしい。シビル自身も歌を聞かせつつ、人を殺さず動いたものの、そこまでの力はまだ無いようでなるべく殺さないようにスピリチアを吸収しつつ難なく救出に成功したということだ。
 「お前、スピリチア、弱い。歌から、魂を感じない。」
 「私……そうですよね……どうしたらいいのか解らないんですから。」
 熱気バサラにも変な知り合いがいる物だと最初は思っていたが、少しだけ考えてから、隣に座りこんだシビルの膝の上に頭を置いてブツブツ喋る。最初の印象と一度接して見てからの印象はだいぶ変わり、年上の頼りになるお姉さんという側面も強く出てくる。頭を撫でながら、何かが来てくれるまで待ってくれているような優しい姉。思えば、自分の姉と言うのは、こういう部分を見せたことはなかった。
 「メイズ・スピリチア……」
 「はぁ……・」
 時折、造語を交えて何かを言うが、それが何かが解らない。
 「お前、心に何かを抱え込みすぎてる。」
 「解ってますよ……」
 そして、その後に、自分の心を手に取るように教えてくれるのだが、でも、どうすればいいのか解らない。
 「なんだよ。さっきのひでぇ歌は。」
 「うっ……聞こえてた?」
 「そりゃーな。」
 「ってか、ここに来てから、ずっとだ。」
 「へ?」
 「ここにきてからの、お前の歌を聞いてると、今まで以上に、自分のハートに迷ってる感じがするぜ。その中で、お前の今の歌は一番酷い。」
 「う……それは、解ってはいるんだけど……どうすれば良いのかわかんない……」
 「自分の中にある余計なものを取っ払うように唄ってみろよ。野望とか、そういうやつをさ。」
 実のところ、それは自分が一番わかっている。とはいえ、そういうとき、どうすれば良いのかわからない。自分の歌と言うのは通じているのか、それとも、そういう余計な部分が気になる。
 思春期特有の、他人の評価が気になってしまう、そういう年頃なのだし、それを気にしてしまう世界にいたからこそ、この問題からどうすれば良いのかわからない。それを解っているからこそ、バサラも強くは言おうとしなかった。
 そして、こういうときはあえて聞いてみる。
 「そんなときは、どうするの?」
 そして、決まった答えが返ってくる。
 「爆発させるのさ。爆発させて、余計なものを取っ払って、自分のハートに素直になるのさ。」
 「爆発か……」
 「ボンバー」
 ヘッと笑いながら、平然と口にするものの、どうすれば良いのかわからない。しかし、バサラらしい回答だと思わず苦笑する。と、さらに明確に、その答えを表示するようにバサラは
 「AHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 叫んだ。
 「コォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 それに合わせるようにシビルも叫ぶ。
 「HOLY LONELY LIGHT……」
 バサラの選曲と言うのは、そこに何が秘めているのだろうか。
 そこに、確かな答えがあるような気がする。
 随分と毒されたと思いながらも、一見、世間から理解されていなさそうな思考を持っているが、結果としてはかなり理にかなっていることをするのが熱気バサラと言う男だと言うのは、嫌と言うほど知っている。これだけは熱気バサラと言う男のつかめた部分だ。
 全てと言えば、傲慢だろうが。強烈なシャウトを響かせて、熱く歌う姿に、思わずシビルも釣られて飛び起き、一緒に唄い始める毎日。だが、そこにあるのは、曇り、迷いの無い、清々しい歌そのものだ。ギター一つだけで、人の心を動かすほどの強烈なサウンドを鳴らすバサラの歌に、思わず、命も立ち上がった。
 だが、その歌は、今、自分という立場の中、その物だと感じ取ることのできる歌詞を聞きとり、思わず口にしてしまいそうになる。
 一つ一つのパズルのピースが、自分の中で、答えを見つけてくれそうなほどには熱い何かを感じ取っていた。最初の部分を触れて、間奏の中でギターを延々とバサラはギターを掻きならし始めた。
 その奥にある物、何があるのか。
 自分の心の中にかかったもやが晴れそうなほどの清々しい音が全身を駆け巡る。それが中に入り込み、何かが消えて行きそうな、その中にある何かが消えそうだった。言葉にできない、何か、その何かが掴めそうにもない。しかし、今の自分の心、これを解き放たなければ、目がくらみそうな蒼いダイヤもガラスに変わってしまいそうだった。
 だから、急がなければならない。闇の中から、答えを見つけ出さなければなるまい。だが、その歌で命は、まだ答えを見つけ出すことは出来なかった。
 (もっと、勢いをつけて、ガーっと……バサラに歌を聴いてもらったときは、そういわれたっけ……) 
 だからこそ。
 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
 叫んだ。
 宇宙を全部くれたって、譲れない愛もある……
 全力で「HOLY LONELY LIGHT」を唄う。
 「今までの辛気臭い感情より、よっぽどいいじゃねーか!もっとハートを爆発させちまえよ!!」
 「それで、どうにかなるわけないじゃん!!」
 もう考えるのが辛いから、意味なくシャウトすることにした。
 こうして、色々としているだけで、どうにかなると言うのなら、なっているものの確かに違うような気がした。しかし、その時、生の感情に応えたからなのか、今、叫んだだけでキララが輝きを増した。
 しかし、気づかずに命は叫ぶように唄い続けた。
 全てのしがらみを取っ払って、自由に自分の叫びを、とにかく自然に言い聞かせた。
 一定の時間を過ぎれば、考えることをやめて唄うことの楽しさが芽生え始めていた。
 心の中を拘束する鎖を解き放って唄う中で、何か、光の様なものを感じ取ろうとしていた。そうして見えて行くうちに、自分に好意を寄せる二人の勝手な女のことが脳裏によぎった。
 心配をかけておきながら、刻一刻と陽美と美月の最新鋭機を使った壮大な大げんかが始まろうとしている。しかも、勝利した時の景品は自分。なんて自分勝手なことをしてくれているのだろう。
 一番、人を心配させるようなことをしていた。
 (まだ、好きとか、そういうの言ってないんだけどね。)
 だからこそ、その身勝手さを思い出すと、想い立ってくるのは苛立ち。
 「私の気持ちも考えないで、勝手なこと言って!!こっちの気も知らないで、勝手に盛り上がって!!勝手に決めるな!!まだ、好きになるかどうかんなんて、これからなんだから!!勝手に盛り上がって!!!そりゃ、私だって悪いよ!!!私だって、あの時、色々とあったんだし!!大体、まだ、付き合うなんて決めてないんだからね!!」
 なんだか、あの二人のことを考えていたらむかついてきた。
 勝手に盛り上がって、ああいうことを言う。本当に、あの二人は勝手だ。その全てを振り払うように不満を爆発させて、何度も何度も「HOLY LONELY LIGHT」を唄った。
 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!もう!!!!!!!」
 「ファイヤァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 バサラに続いて、
 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
 もう一度叫んだ瞬間、隣にいたシビルが叫んだ。
 「コォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」
 そして、シビルも吼えた。
 3人のセッションが一瞬、銀河を震わせたような気がした。続くように、風が吹いていないと言うのに木々が揺れている。しがらみも、なにもを取ろうとしている、心の中に襲いかかる鎖を解き放とうとしている。無理やり、歌で。確かに、考えるよりかは、こうした方が良いのかもしれない。自分を見つめ合うだけでは朝が遠すぎる。それだけでは、何が本当か、嘘なのか解らない時がある。だからこそ、歌に己を抱きしめさせて身体に火を付けるように唄いまくった。
 それこそ、二度と心は後ろを振り向く前に、身体の芯まで燃やすように。
 その瞬間、自然と一体感を迎えている時、何かを感じ取っていた。
 根源的な怒りと言う感情が自然とシャウトすることによって、何もかもが抜けていく。
 そうなっていくうちに自然とキララが輝きを帯びてきていたことに気づいていなかった。人類の叡智、野心、そんなものを忘れるほどに何も考えずに久しぶりに叫ぶだけの、この行為は、どこかハートが爆発するような全長が沸々と肉体に起こるような感覚。
 今まで、自分の縛っていたものさえも忘れてあふれ出てくる大きな叫びに自然が共鳴したかのように震え走る。
 そして、自分もブルブルと肉体が震えるほどのシャウト。
 何か、剥がれていくような、そういえば何も考えずに、こういうことをするのは久しぶりだ。
 命の心が震え、何か、忘れていた感情が呼び覚まされるかのようだった。なぜ、こんなことを忘れていたのだろう。今まで、普通に忘れていた自分の感情は何だったのだろう。どう過ごしてきたのだろう。いや、当たり前すぎて忘れていたのだ。普段は、そういう感情を得ているというのに、肝心な時に抜け落ちて解らなかった。
 なぜ、歌に力が入らなかったのか、なぜ、静かなバケモノが来たのか。
 今まで、野心や、そういう柵に囚われていたからこそ、今、忘れかけている感情を手にした時、それがどういうことなのか理解した。
 そして、なぜ、今、その思いを感じているのか、自分の声に合わせて揺れる自然達が震える、それに感動したからだ。自分たちは、今、自然と唄っていると、自然の歌声も身体に入り込んで一体化して唄うという、この感情を楽しいと思えたから。唄っていた時、ずっと感じていなかった感情を知り、思い出し、そして帰ってきた。少女は、まだ、それに気づいていなかった。


 「ホント、元気だ。」
 自分専用のバルキリーを美月は駆り、近くに降り立った。バルキリーのキャノピーを開けた瞬間、いきなり、命のこれ以上に無いパワーを感じる歌を聞き、流石に驚いたが。陽美はアスモデウスが大破したせいか陽美は大型バイクで登場。掛け声一つでパワードスーツにもなる優れものだ。名はガーランドと言うらしい。
 「貴女、それで私と戦うつもり?」
 「今、あたし専用の新型、整備中なのよ。慣熟飛行も、まだ、完全にしてないし。」
 先行量産型と言う部分に甘え、かなりの贅沢を振り込んだと言うが、それを慣熟飛行して無いと言うのに、わざわざ、好きな女のために頑張ると言うのは余程、惚れたと見える。
 「見慣れないマシンね。」
 「YF-XXC+BRAVER。恐らく、そっちで手掛けてるVF-31とは違うラインの新型よ。」
 「盗品って奴ね。」
 「まぁね。」
 大型にも思える、そのマシンを見つめて、陽美は「こいつがやり合う相手のバルキリーか。」と息を飲んだ。此方とて、VF-19の芸術的ラインから、YF-29、YF-30の要素を取り入れた芸術品だ。目の前の全く違う生産ラインのマシンに完勝は難しいにしても確実に勝てると、そういう自信は生まれてくる。恐らく、それは、美月も同じ思考でいることだろう。
 クァドランで、あれでも、バルキリーでは。
 未知の力を感じた。
 パイロットとしては、美月はクァドランよりも、バルキリーの方が相性が良いのかもしれないと、この扱いにくそうな大型のバルキリーを手足のように自在に振る舞う姿を見て久しぶりに恐れを抱いた。
 それに、あの時は人質もいたのだ。本来、そういう物が無いバルキリーとしてのパイロットの美月・イルマ。あの女が下りてきた時だ。
 「陽美さんに、美月さん……」
 騒動に気付いたのか、喧嘩していた二人が現れて流石に言葉ではそうは見えないが驚いている。
 「元気そうだ。」
 「そんなこと、無いし。ってか、二人とも、仲良くなってる……」
 「単なる休戦協定。」
 「戦いになれば殺しあう関係よ。」
 闘争心的なものは剥がれることは無い。バサラも流し目で二人を見つめつつも、陽美のすること、この二人の明暗はどうなるのか、陽美が握っていることに気付いていながらも、何も言わなかった。
 この後から、3人の会話は続くことはなかった。そうでなくても、自分の歌で二人の争いを止められないことを知ったし、当事者である二人は、そのことに罪悪感を抱いていたりと会話は続かないし、それでも反省することなく自分を取り合うという、人の意志を無視して話し合う。勝手なことだ。顔は大人なのに、そういう部分は自分と同じ、強情な子供なのだろうということは、こうして接してみると嫌でもわかる。
 それをワイルドとでも言う人間はいるが、当事者からすれば迷惑なことだ。
 こうして顔を見合わせているだけで、何かに遮られているようで声を発しても聞こえないだろう。そうして行くうちに、得られた感覚を忘れたそうになった。何か触れてはいけない領域の様なものが3人の間に出来あがっている。
 二人は顔を逸らし、一人は子犬のように震えているようにも見える。陽美の飄々とした部分も感じず、美月も何処か先ほどまであった気高ささえ消えているように見える。
 何があったか解っている筈だと言うのに、いや、様子を見に来ただけのだから、このまま帰ることも出来る。出来るが、何故か、帰ることが出来なかった。何かを口にしようとしても、いざ、何をすれば良いのか、何を話せばいいのか解らなくなる。愛の台詞を囁くなんて、そんな簡単なことが出来るわけでもなく、重い空気は、ただただ流れていた。しかし、それが、命にとっては、まだ、心地が良かった。
 また、二人が余計なことでもして、喧嘩でもしてしまえば、また自分の歌で止めることが出来るだろうか。そういう不安だって流れ出てくるのだ。だから、このまま、何も無く終わってしまえば良いと思考は渦巻き、結論付け、二人は、こうなるのであれば、やはり、会いに来るべきでは無かったと思った。
 感情に任せてやってきたとしても、何か気不味い雰囲気すらも、こうして流れてくる。陽美と美月の考えつく先が、後悔という言葉に埋め尽くされていく。あまり触れ合っていないからこそ、何を言えば良いのか解らない。
 このまま、一緒にいても命と言う女に何を伝えれば良いのか。
 ここで、何か、思うことを言っても再び命を傷つけることをしてしまうのだろうとは思う。それでも、何れは決着を付けるつもりではあるとしても。そもそも、そういうことを考えている辺りで会うべきでは無かったのかもしれない。陽美は己の軽薄さに頭を抱えつつも、このままどうしたらいいのかを考え込んでいた。既に、どうにかすればどうにでもなるわけがない。
 まさか、こうも空気が重くなるとも思っていなかったと言うところがある。
 同じ女を好きになった者同士、そして、自分の好きになった女が目の前にいるのだから、何か明るいポップコーンでも食べながら話すようなことを考えていたのだが、甘かった。まだ、三人の状況と言うのは、そこまで出来るほどの時間にもなっていない。美月とは話せたが、ここに命がいると、こうも重苦しくなるものか。
 やはり、欲しい存在、ライバル、永遠のモノにすることのできない危うさ、そういうものを持った存在であるといえよう。気に入らない存在、同族嫌悪からくる、不快さ。
 友好的な雰囲気と言うのは生まれてこない。
 しかし、今からでも周りを制圧してでも、命を奪おうとすればいいのだが、そうならない。それを為せば、命に嫌われるかもしれない。肉体を奪っても、自分に靡くことは無いと、あの時の接触で、今、理解した。これが、世界を轟かせている海賊組織の首領なのだろうか。
 元より、勝手に好きになって、そこに恋敵がいる状態。命からすれば身体が張り裂けそうなほどにはと言えば、大袈裟だが、やはり自分に影響を与えた二人が傷つくのは辛い。
 命もヒントを与えてくれたとはいえ、日が浅い絡み相手、そんな友人と同じ位にしたしくなった二人が喧嘩になるなんてのは余程の性悪でも無い限り、嫌なものだろう。命にとっての立場が立場であるが故に、やはり痛い。歌を唄っても、未だに無能なままで片付いてしまうのだから。沈んだ表情を浮かべて、それをばれないように隠していたときだ。
 「お前の歌、メイズ・スピリチアから、ライト・スピリチア。」
 そんなときだ。空気を、あえて読んでいるのか、読まずにいるのか、シビルが3人の合間に入り込んでシビルが命の目の前に立った。威圧的な物は感じないが、その表情は笑みでこぼれている。
 「良い物、見せてやる。」
 優しく微笑んだとき、そっと軽く唇を重ねた。
 「「?!?!」」
 「ちょ、何をしてやがりますか!?この牝はぁぁぁぁ!」
 この状況、驚かずにはいられまい。
 二人と言う自称恋人だと思い込んでいる二人がいる前で突然、唇を重ねると言うことをする。何をしているのかと思うのは、二人だけではない。唇を重ねられている命とてそうだ。
 「え、え、え!?」
 それはいきなりだった。
 シビルの放つ光に包まれてバサラと命、陽美と美月は、文字通りに銀河に出た。
 いつ、出たのかは解らないが、恐らく、考えていた隙に、そこにいたという表現が正しい程には宇宙服を纏わず、光の球に包まれて宇宙を見ていた。
 銀河……銀河に自分の身体がいる。シビルと名乗った存在が光に己を包んで、銀河の周りを時間を飛び回る。ギラギラに輝いている銀河と言う世界、言葉で形容できないほどに、この感動は尊く素晴らしいものだった。
 「凄い……!」
 宇宙服を纏わずに、今、銀河と言う物を、今、この恐ろしくも輝かしい銀河の風を体験している。キララが輝き自分達を包みこむ。不思議と恐れの様な物は感じなかった。それ以上に、神秘的な物が勝っているのだろうか。ただ、ただ、ただ、ある物は、「楽しい!!!」自然と歌を口ずさんでしまうほどの心地良さが、この光の中にある。
 光となった己の身体が、銀河を駆け抜けていく。
 銀河、大きい、そして凄い。
 この中で、歴史を垣間見た。
 キララが輝き、人智を越えた現象を生み出して、この銀河の中で起きた歴史を映しだす。誰もが、この銀河を走る中で歴史と言う物を見た。
 「リン・ミンメイ……」
 自分に近い青い髪の女性が、そこで唄っている。
 唄い、巨人たちがカルチャーショックを受け、そして、変わろうとしている瞬間だった。それから、世界の歴史の流れが駆け巡る。この時、意識と言う物が持つ理解力は、常人の何万倍にもなっているような錯覚を受けて、宇宙の歴史を垣間見て、学んだような気がした。一番最初に南アタリア島に初代マクロスが落ちた瞬間から、鳥の人、リン・ミンメイの奇跡、シャロン・アップル、ランカ・リー、シェリル・ノーム、数々のアイドル達、そして「Fire Bomber……!」
 そして、これからの物なのか、かつて出会った
 「美雲……」
 が複数人のアイドルを率いて唄っている。
 そして、再びは進み、自分によく似た青い髪の女性が唄っている。
 手に取るように、この世界の歴史が解ってきた。人智を超えた力が歴史を見せる中で、様々な物を垣間見ていることに気づく。銀河の中でバサラ、シビルの二人と一緒に歴史を垣間見ながら歌いまくった。
 喉は枯れると言うことを知らずに、どんどん、歌いたくなってくる。
 そうだ。
 忘れていたのだ。
 唄う時、自分が楽しむと言う感情を。
 忘れていた物が、こうして解った気がする。
 熱気バサラとシビルの二人の出会いの様なものまで。
 さらに、自分の歴史をも垣間見た。
 自分の世界の歴史をだ。
 そこにあるのは、自分が知らなかった真実もあるし、遥かに違う思想もある。
 まだ、14の子供には想像もつかない世界の出来事と言うのは、この身に染み込んでくる。
 シビルは、この出来事が不思議であるかのように、あちこちを見まわしていた。プロトデビルンとしての力とキララの力が共鳴して生まれた銀河の歴史を見せる力と言うのは果てしなく凄まじい物がある。
 同じ時を生きている実感と言う物を感じているほどに、いや、下手に言葉に出してしまえば、この時の感動は……命の中で蹲るように思考が生みだされ、そして、探究心となった思いは子供のころに戻ったような、童心に戻った気分だ。
 「バサラが、ママ達と唄ってる……」
 非公式に残されている記録を見たことがあった。
 凪沙達は覚えていたが、時空の振動によって集まった0048のメンバーには唄った記憶はあるものの、そこに誰がいたのかは全く解らなかった、覚えていなかったという証言まであるほどだ。そして、暫くして歴史を見せて、自分の目の前に1人の女性が現れた。あぁ、自分の中にいる疎ましいと思っていた女だったと知った時は不思議と今まで抱いていた不信感の様な物は消えていた。
 この世界の中で入り込んでくる者と言うのは、どうやら、引き延ばされた理解力でも解らない物以上に不可思議なもので出来ている。そして、キララがオリジナルの魂と共に輝いた時、言葉通り、すべての記憶が刻み込まれた。
 白石麻衣の魂は自分を拘束させようとしていた物では無かった。
 何故、彼女の魂は、此方の世界に導いたのか。
 熱気バサラのいる場所に自分を導いたのか。
 あの世界では得られることの出来ない物を与えるために自分に力を貸していてくれたのだ。
 周りが、そう思っているだけで、命の中に入ってきた白石麻衣の魂は、命を器では無く次世代の乃木坂46を自分たちの魂では無く個々の力を使い引き延ばし、最終的には自分たちの魂やなを必要としなくなるほどに、さらなるステージに導くためにサポートをしていたのだ。
 だからこそ、その向上心が強い魂の持ち主である園命を選び力を貸した。
 そして、それは自分の意図と違って自分の魂が命にとって重荷のような存在になっていたことを、自分は心に閉じこもっていた状態までに苦しめたことに対して謝罪した。
 彼女の真意が解らない間、意固地になって使命感に囚われて自分が、まずどういう人に歌を聞かせたいのか、そして、自分が楽しんで歌うと言う最も大切なことを忘れていた。
 そして、この世界に来たきっかけが知った。
 だからこそ、だからこそ、自分の歌を戦場に響かせても戦闘は止まることは無かったのだ。
 バサラは、それに気付き、ヒントを出してくれていた。
 だが、簡単に言葉で答えを教えられても、乗り越えることは出来なかっただろう。こうして、自分が、今、心の底から楽しんで歌いながら、歴史を垣間見ることによって全てを見ることが出来た。
 徐々に心から殻が取れて行くのが自分で解る。抱いていた強い野心という闇や抱いていた負の感情が浄化されていくのを感じた。
 「もう、大丈夫?」
 「貴女は……私。」
 「私は貴女。」
 そして、目の前に現れたのが静かなバケモノだった。
 いや、静かなバケモノなんて最初からいなかったのだ。
 「大丈夫……かもしれない。でも、また、こうなったら……」
 「大丈夫だよ。」
 自分の手が触れる。目の前にいる、彼女、いや、もう一人の自分は化け物ではなかった。
 それは自分がただバケモノと称していただけで、歌うことを楽しむという感情を忘れてしまっていた自分が、その感情を取り戻すまで、自分の姿形をコピーして、自分があくまでもアイドルとしていられるために、もう一人の自分と白石麻衣の魂が作り上げた自分の精神の複製品。
 普段の生活は自分が行っているが、アイドルと言うことになると、歌やダンスを楽しめない自分がいるとなると、何も出来なくなるだろう。
 未熟な精神が、そういう願望を抱き、そして作り上げた存在が野心を糧に生きる醜い仮面を付けた静かなバケモノと呼んだ存在だった。
 静かなのは当然だ。
 自分に対して従順であるから。
 常に周りの求めるアイドルという、自分が象徴化した他者の求めるアイドルという名の醜い仮面を付けてパフォーマンスしていたのが、彼女だったのだ。
 命の負の思念をすべて受け入れて、表に出さないように、ずっと従順になって頑張っていた。
 元より静かなバケモノなどいなかったのだ。
 仮面を外して本来の顔、いわば、自分の顔が現れる。もう一人の自分は優しく微笑み、真相が解って泣きそうになる命の頬を優しく撫でた。
 「一度、思い出した日常の当たり前は忘れないから。大丈夫。歌は楽しいこと。って、思い出したんだから。」
 柔和な笑顔を浮かべて、あ、これが自分の笑顔だったと、そういうことも、忘れかけていたことがパズルのように完成していく実感に、今、体は震えている。
 高揚感というものが解る。今まで、こういうことすら唄っていた時は忘れていたのだ。
 頬に触れて、もう一度、優しく強く抱きしめた。
 そして、もう一人の自分が光の粒子になっていく。
 それが、徐々に自分の肉となり血となり、そして精神に入り込んで一つになる。
 もとより、一つだった存在が、自分の精神の未熟から、新たに己を作り上げ、パフォーマンスに対して楽しく何もできない自分の代わりにアイドルとして活動していた、静かなバケモノと呼んでいた歪な仮面を付けていた存在。
 そのまま光になって一つになる瞬間、一瞬、繭のようなもの包まれたような、そういう柔らかさが身を包み、命を一瞬だけの目覚めに置いた。あの彼女も、今の自分も、全ては大切な園命を形成する大切なファクターである。
 それが光の繭の中で一つになる。
 そして、一瞬だけ自分はこれほどまでにない開放感が全身を駆け巡った。
 体が軽い。
 背中に翼が映えたかのようにも思える。
 このまま、羽ばたけば、銀河も簡単に旅行が出来る存在になることにできるだろう。
 それほどまでに、今、自分は何でもできるような高揚感が身を包んでいた。
 輝ける。
 もっと輝ける。
 歌える。
 そう、もっと、歌えるのだ。
 手を伸ばしてしまえば、なんでもつかめてしまいそうなほどの確かな何かがある。
 少し歌を唄えば、凄く心地いい。
 自分の作った歌を、改めて口にして改めて、命は唄うことの楽しさを大切に抱くように改めて感じ取っていた。
 全身が沸騰しそうなほどに厚く、そして細胞全てが狂喜しているのを、五感で理解する。
 今なら……
 「いける。」
 少女が歌を口にしたとき、久しぶりに生気が戻った。
 傍らで見ていた陽美と美月は蛹から蝶が飛び出る瞬間を、今、目の当たりにしているのだと言う興奮が生まれていた。
 やはり、自分の好きになった女は違う。そう互いに思いながら、同じ考えに至った互いのライバルを見つめあっていた。
 「陽美さん、美月さん……」
 二人の言葉がきっかけになって、今の自分がいる。恐らく、これを見ただけでは、自分は答えに辿り着くことは出来なかったし、いあのようなことになることもなかった。二人から自分に対する真心と自分に抱く下心までも含めた好意を受け取り、自分の身体の中に取り込んだ。
 そして、落ち着いてから、改めて自分の中にある好意を再確認し、その答えをまだ出すことなく命は恋の歌を口ずさむ。
 「聞いてね。」
 バサラとシビル、そして命を交えたセッションが宇宙を銀河を震わせる。
 完全に生まれ変わった姿を見せられていた。そこにいたのは、かつての少女の姿ではない。
 向上心は大切だが、それだけではどうにでもなるわけがない。
 ただ、失くしていた物を思い出して、それを取り戻して歌う姿は命を選んだ二人の女にとっては予想以上に虜になってしまうほどの可憐さを持った少女だった。唄うたびに、何かが弾けて輝く。銀河が一緒に唄っているようだった。そして、はじけて行くたびに忘れていたことを思い出し、自分が、どうしてアイドルになったのか。
 それは単純に一人の少女にとっては嬉しいことだった。そして、陽美と美月の命に対する本心が伝わってくる。それは、それは……思わず赤面してしまいそうなほどの。
 あえて言葉に出さずに命は心の中に仕舞いこむようにしつつも、そっと頬を紅く染めながら陽美と美月を見つめた。そうすると、自然と胸が熱くなってくる。それが、どういう物なのか、知ってしまった時、それは、バサラとの旅の終わりを告げるのではないのか。だからこそ、敢えて、命は語らなかった。
 「シビルさん!凄い!!また銀河が見たいよ!!」
 地上に舞い降りて、命の瞳に輝きが戻り、銀河のすべてを見た感動に対して子供のような表情を浮かべて駆け寄った。シビルは何も言わずに命の頭を母親のように撫でた。ただ、表情は母親のように「あ……」ふと、自分の中で、既に、あの人の魂が中にいないことを知る。
 感じようと思った時には、既にいなかった。
 今までは、重荷にしか思っていなかったが、真相を知ったとたん、ちょっとだけ罪悪感を持ってしまった。ただ、この世界に連れて来てくれたことには感謝をしている。
 超常的であろうとも、元は同じ人間だったのだと言うことを感じ取りつつ内心、次の子は上手くいくように祈り未練も無く送りだした。もう少し、そういう存在と話しあえるように出来ていれば、もっと変わっていたのだろうが、世の中、上手くいかない。自分の心に鍵をかけていたのだ。
 彼女の意見に耳を澄まして聴こうともせずに。
 詫びを入れながら、軽くなった身体を改めて実感していた。
 心の枷と言うのは自分の中でも、相当、重いものだったのだと、今、実感している。
 そして、枷が取れて改めて理解する。
 あぁ、どうすればいいのか解っていたのだ。
 難しく考えすぎて忘れていた。
 使命感だなんだと囚われず、まずは自分が歌を楽しむことを根本的に忘れていたのだ。
 「これが、貴女の本当の笑顔か。」
 「とっても、可愛い……」
 自分の求めていた存在が、確かに、あの世界で外れた枷は外れて、今、こうした笑顔を浮かべている。そう簡単に陳腐な言葉で、彼女の中にある枷を取れるとは思ってはいなかった。
 「今の自分ならどうにでもできる。」
 なんて、自惚れはしないが、ただ、隣にいることで忘れてくれればと言う淡い願望はあった。
 そういう表情を見とったのか、命は二人に向けて言う。
 「でも、こうなったれたのは二人が考えさせてくれたおかげ。感謝してるし。」
 偽りの無い本心を述べたつもりだ。多少、緊張と言う物があったのか、頬が赤く染まっていて二人の女野中に強い思いが芽生え始める。
 「でも、貴女を巡る戦いはする。」
 「どうして!?」
 独占欲は、それから強くなる。
 命の声が張り裂けそうなほどに叫んだ。顔には悲痛さを浮かべて、それが、命にとって望まぬ道であることは二人には良く解っている。それでも
 「どっちが強いか。」
 「まだ、貴女には解らない牝と兵士のプライドって奴よ。」
 「こいつがいれば、貴女を手にしてもいずれは奪いに来る。」
 「それだと、こっちはあまり楽しくないの。安心して貴女が欲しいから。」
 自分を心配した二人は、一緒に命を心配していた女の表情ではなかった。
 虜になったからこそ芽生える独占欲と言うのは何よりも強い。それだけを告げて二人は互いの乗ってきたバルキリーとガーランドに乗って本来の場所へと戻っていく。
 好きな女が欲しいという欲望と兵士としての安心できない危機感が混ざり合い、厄介な存在が生まれる。
 「私が、なんとかしなくちゃ。」
 命の中には、それでも、大事な二人だからこそ。
 あの輝きは二人が考えさせてくれからこそ、今日と言う今がある。二人の自分に対する真剣な思いが、今の自分の形に戻してくれたということもあるのだから。
 だからこそ、二人とも自分の必要な物に気づかせてくれた大切な人だからこそ。自分の様な女でも真剣に好きになってくれたからこそだ。
 「バサラ、私の歌を二人に聞かせたいの。」
 「大丈夫か?」
 バサラは意地悪に微笑むが、そこには心配している様子などみじんもない。悲痛な顔を浮かべる前に、両頬を自分の手でたたき、己を立ち直らせた。
 「うん。大丈夫だよ。今度こそ、絶対に。」
 聞かせたい相手がちゃんといる。
 だから
 「なら、私は2人に歌で挑戦する!」

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