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マクロスLily Episode.4「Re.FIRE!!」

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第4話


 負けたというか、どうというか。ほぼ、相討ちに近い状態だったと、試合には勝ったが勝負には負けたとでも言うべきか。無事、敵戦艦に入り込んだ時に安心した。しかし、マクロス5を復活させたり、様々な兵器が、ここにはある。まるで、存在が出鱈目そのものと言うのが良く解るだろう。
 厄介な破壊兵器がうじゃうじゃと、未だに、こんな兵器の塊が、そこらにあるというのはメカニックの樹里が見たら喜びそうだ。VF-0から、流石に最新鋭のVF-30は無いものの、殆どのバルキリーが揃っているし、かつて資料で見た試作段階のYF-XXまでもが、そこにはあった。他にも試作段階、設計段階であるはずのものが、いや、まさか、もう作れる段階のプラントが、此処にはあるのだから、それは可能なのかもしれない。
 VFシリーズの技術が反体制ゼントラーディの手に渡り、それを応用して作られた兵器、フェイオス・バルキリーなるものと戦ったこともあるが、それとは違うようだ。無論、フェイオス・バルキリーもある。
 此処での生産能力などに驚きを抱く。ここでの戦力は既に海賊と言う言葉の範疇を越えていた。よく、統合軍は、こんな組織を放っておいたものだと。下手に手を出せば、他のマクロス艦隊でさえも破壊してしまいそうな、打撃を受けるだろう。噂に聞けば略奪だのなんだのとするらしいが、それとも、ボドルザー艦隊に良く似たそれなのか。
 かつてのマクロス7が遭遇したというクロエ艦隊か、それ以上の規模のような気もする。一種のハグレゼントラン艦隊が、さらに力を増した存在とも言えると陽美は踏んだ。確かに下手に手を出せば返り討ちだ。リリィ艦隊が手を出せば、まともではないだろう。
 「一国家レベルじゃない。これ。まさか、稼働段階にあったものを盗んだ?ってか、こんだけ揃えて海賊は何をするつもり?宇宙海賊バンカーじゃあるまいし。」
 かつて見た巨大ロボットアニメの敵組織の名前を口にしたくなるほど、強大だった。まさか、少女一人のために、無茶をしたくなるとは。自分の中で、やはり意外なものがある。言葉が力を与えるように、あの歌には、確かに力があるというのを感じ取ることができた。一瞬、掻き立てられた闘争本能が浄化されていくような、あの感覚は忘れられるものではない。二人を思う感情が胸の中に染み渡る、あの感覚。
 そこから感じ取る、あの確かな部分で自分を刺激してくれる人間に素気ないのは、恐れがあるからなのだろうが、その時に浮かべる表情の可愛さが、心の可愛さが、その奥にある確かな純真さが言葉から感じられた。どうも庇護欲に駆られる少女だし、そういう部分を自分からアピールしない、頼ろうとしないで一人で行こうとする危うさが、常に助けを求めたくなる。そして、今が、その状況だ。
 「奪った力で、此処でやるかぁ?」
 当然の反応であると言えよう。気づけば策略にはまって乗機が破壊された隙に、こうして入り込んだ。思い返してみれば、アスモデウスを失ってでも、此処に入り込んだ甲斐と言うのはあったものかもしれない。
 そして、なんかの儀式なのか、独自に成長した文化なのか、衛兵たちを残して殆どのメルトランや地球の女性たちは美月達の部屋にいる。命は、そのままウェディングドレスのまま美月の太ももの上で頬を赤くさせながらぐったりとしていた。
 そして、それを知らないからこそ、惑星ARIAで、その住民たちは恐怖で奮えあがっている。あの惑星の破壊映像だけで震え上がらせる敵の心理と言うものには効果的だと思わずにはいられなかった。こうして、この戦艦の中に潜入しながら、その前のことを陽美は思い出していた。そして、それを美月の艦隊を、文化を覚えた悪魔の名を冠した存在が、ゆっくりと青い髪の少女を見降ろしていた。
 「良い……」
 挫折を味わったような、そういう経験をした特有の女の顔を浮かべつつも、それでも、なお努力する姿。打算も無く努力する命の姿は、破滅的に見えて、それが愛しい。無論、それが開花すれば良いが、だが、そのまま努力が徒労に終わり自分の胸に甘えてくる姿も悪くはない。
 本来なら、マクロスリリィの存在などスルーするつもりだった。今回、惑星ARIAに降り立ったのも観光だ。侵略、破壊の意図は無い。しかし、そこで、欲しいものが出てきてしまった。それが、園命の存在だ。
 以前、一度だけ美月は偶然だが、目の前で唄う命を見たことがある。その歌声と容姿は美月にとっては欲しくなってしまう毒を持っていた。歌を聞き入れて、徐々に内面から侵略されてくるような「ゾクゾク美……って奴。」呟いてから一人、このまま、口ずさむ。
 この海賊の頭領は目を瞑り、園命の思いが充満する。
 そして、この惑星ARIAに来ていると知った時、強行偵察と同時に強襲することによって狙われていることをアピールする。自分の脚で、まずは赴き、そこに園命がいることを知った。発見したと同時に強行偵察部隊が舞い降り、あのまま戦闘になったことはタイミングの悪さだが、一つは、マクロスリリィ自体の戦力の分析もあった。あの戦闘で敗北した部下たちは帰ってきたが、白いバルキリーにはトラウマさえ覚えるような戦闘力だったと口をそろえて言う。マクロス・リリィと言う戦艦自体は脅威ではなくなっていた。
 それ以上に厄介だったのは、自分の持てるパイロットたちを一人で蹂躙した白いバルキリーのパイロットだ。それが、あの命に手を出していた時は本気で殺意を抱いた。
 「さぁ、参りましょうか。」
 自分専用のカスタムされたクァドラン・ジーリョに乗り込み、さらに、ジーリョの中に搭載されているマイクローン装置でゼントランに戻り、クァドランを送りつけたメンバーを焚きつける。
 全ては美音の華嫁のために。その彼女が選んだ女を得るための戦い、全て、彼女に心髄しているがゆえに。魅了されたがゆえに、彼女のために働く。男から逃げて美月の艦隊に加わった女もいれば、彼女の寵愛は無限に等しい。その寵愛を一心にすべて受ける者がいたとしても、自分に寵愛が向けられないというわけではない。それを理解しているからこそ美月が喜ぶことをしたい。全てが美月の美貌に魅入られているからこそ、美月の欲しい物を得るために全力で行動を起こす。此処までくるとカルト宗教のような物に近いが、メルトランの血と言う物を考えれば、そうなるのも無理は無いのかもしれない。一種のユートピアなのだ。若いまま美貌を、そのまま手に入れることを許された種族とも言えるメルトランは。
 「ありがとう。此処までしてくれたのだから、私は絶対に得なければならないわね。」
 そう胸に誓いながらクァドラン・ジーリョは飛び出した。
 欲望に満ちた、その顔で。
 それに続いて、美月・イルマの艦隊から飛び出るバルキリー、ゼントラン系の兵器。
 しかし、そこにパイロットはいない。
 バサラの歌で戦意を喪失した者たちが、あの戦場にはいた。故に、ここにあるのは全て無人機である。ジーリョにも、彼女専用のバルキリーにも、管制誘導プログラムが改編されており、ジーリョのブースター先端に設置されたフォールド通信誘導システムとDIシステムの改良型を採用。さらにパイロットの脳と機体側のセントラルコンピュータを光学回路で直結することで、さらに無人機を12機コントロールすることができる。
 むろん、その中にはゴーストも存在している。
 そこまで出来るのは、美月が戦闘・戦術に特化したゼントランだから、とでも言うべきか。メルトランとしての強さ、パイロットの技量としてはそういう部分においては一騎当千が出来るように設定されている。二人の両親の遺伝子を混ぜ合わせたゼントランの技術で生まれ、そして、遺伝子を戦闘特化型に改造された、彼女は、その与えられた力を発揮して人一倍目立つ、その紅い百合の華を駆る。多量の無人機を連れて。


 惑星アリアの上空に配置されている、その巨大戦艦の群れ。マクロス・リリィ政府が、それを確認したときはすでに星を食らう口が狙っている。
 フォールドをして、マクロス・リリィの眼の前に立ち、他の無人機達は辺りに銃口を突き付けて、下手な動きが出せないようにしている。所謂、ホールドアップと言う状況にまで、手際よく追い込まれた。それだけ、マクロス・リリィの中枢は混乱していると言うことだろう。
 最初の襲撃と同時に、さらに、近くにあった大型惑星の消失、これはインパクトとして大きいものがあった。当然のごとく、マクロス・リリィのブリッジは大混乱である。
 「ったく!!悪徳艦隊ばっか、叩くんじゃないのかよ!?」
 「まさか、うちの艦長の不倫疑惑とか、そういうの?」
 「それだけで、大型無人惑星を消失だとか……なんか、えらい物でも隠してるんじゃないの?」
 オペレーター達は最悪の状況と、スキャンダラスなことを妄想する。
 「わ、私は知らないわよ!!うちの幕僚たちが、何かしてるんじゃないの?!」
 出来れば航海と言うものはトラブルや、そういうものなど無しで望みたいものである。思えば、この惑星ARIAに辿り着くまでバジュラや、プロトデビルン、ハグレゼントラン、ゼ・バルマリィ帝国、帝国観察軍なんてものにまで遭遇しなかった何もなかったと、言うのは奇跡そのものとでも言うべきだろう。
 それは、それで小さい海賊との小競り合いのようなものはあったが、SMSの活躍によって、それは回避されたし、最低限のもので終わった。それで、安住を感じていたら、こうなるなど。マクロス・リリィの艦長レイカ・ワカツキは頭痛が痛いという言葉が似合うほどには現状に対して異様なまでの憤りを感じずにはいられなかった。終われば査問委員会を開かなければなるまい。
 「あ、マクロス・リリィのコントロール停止。ジャックされました。」
 「そんな軽々と言わないで!」
 『スタート。』
 美月の声がブリッジに響き渡る。電子戦によるマクロス・リリィのジャック、現場は混乱しているが故に、これほど楽な侵入もない。と思いつつ、簡単な宣言をする。既に、この星全体がホールドアップ状態である。と言うことを。
 「我々とて、無暗に争いをするつもりはありません。」
 全ては自分が思った可愛い女のために。無性に手にしたくなる、あの少女の念。惚れさせたつもりが、忘れることの出来ない、あの歌声に魅了されていた。そうして彼女こそが自分の華嫁になるべきだと心髄しているかのように口にする。
 「何を言ってやがる……あんなに口を開いておいて、無暗に争うつもりも糞もないって……」
 マクロス・リリィに所属する正規の軍人が誰もが同じことを思う。宣言が続く中で、ふざけたことに対する、いや、これでもかつては戦争を終わらせたマクロスの名を冠する戦艦のエリートスタッフたちだ。舐められたと思って殺気立っている。
 『今回の要求は楽なものです。園命を此方に引き渡すこと。』
 「園命って……」
 「バサラと一緒にいる女の子の名前だろ?ってか、そんなことのために、こんなバカげたテロを済んの……?」
 しかし、誰もが、それだけのことで。誰もが、そんなことで。まさか……バカげている。と、脳裏に言葉が走る。しかし、十分な戦力を持っているとはいえ、そこは海賊。彼らも大切な獲物を得るためには、それなりに慎重にということなのだろうか。絶対的な状況を作り出し、確実に欲しいものを得る。
 そういうことなのだろう。
 それが、たかが一人の女の子であろうとも。
 とはいえ、もしものことがあれば、この組織は非合法の犯罪組織。手痛い目にあうのは、彼女たちも簡便と言うことだ。危険を冒しても欲しいと思える、一人の女の子。
 人が見れば愚かだと思えてしまうほどに、余りにも常識外れにもほどがある話……
 だからこそ、こういう連中を怒らせるのが一番怖いということも。
 『この要求に従えない場合は……』
 考える前にピッと美月が指を鳴らした瞬間、再び、あの映像が今度は完全に美月の艦隊が大型無人惑星を破壊し、そして、その大きな口が惑星ARIAをホールドしている状態の立体映像が町の上空に現れ、全ての町民に見えるように脅迫した。
 ”彼女たちの母艦が惑星を破壊した映像を見せられた。”
 市民はもちろん、全ての軍人に恐怖感を与えるには、調度良い素材であると言えよう。さらに、その母艦がエネルギーをチャージし終えて、此方に向けて大きな口を開き、いつでも殺せますよ……と言っている。
 「さぁ、惑星ARIAも、こうなってほしくなければ此方の条件を飲みなさい。要件は簡単。園命さんを私の元に。」
 (ホント、あの娘は毒ね。)
 あの場で攫えば良かったものの、近くには、常にあの金髪の女がそこにいた。それに、海賊であれば、海賊らしく奪いたいと言う、そういう無意味な拘りのようなものもある。それが、過去にもたらした結果は思えば、何故、統合本部に目を付けられなかったのかと知らぬ美月は、クァドランの中で考えていた。


 些細な言葉が人を殺し、言葉が人に力を与え、そして、言葉が浄化する。命は言葉の力強さを信じて歌に変えるのがアイドルと言うのなら、そういうものなのだろう。挫折を通して、がむしゃらに努力し、目隠しされた状態でひたすら己の道を探している。
 この世界は14歳になると、一定の子に何かチャンスを与えたくもなるのだろうか。ミレーヌ・ジーナスがFire Bomberで頭角を現したのも、この時期だ。そして、命は、その年齢の時に、この世界に来訪した。
 状況、敵機が数多く存在しているというのに、それに対して恐怖以上に勇気と言うものが満ちているのは、この状況に、余りにも慣れてしまっているからかもしれない。昔の世界から、そして、この世界において、無力でありつつも、なぜか、こういう状況に恐れを抱かないのは慣れてしまっているのと、今の命自身における確かな力、そのものだろう。最初の、本来の世界における頃は、その状況に普通に離れせずに泣いて、顔を乱して、さらには苦しいほどに声すら出なかったことを思い出すが、あのころに比べて随分と自分も変わったものだと、リラックスして静かに微笑んだ。
 近くにいるクァドランが銃口を向けている時点で、此方は何も出来ないような物。バサラは敢えて唄う。そのようなことをしても無駄だと陽美の常識的な思考が駆け巡る。そして、目の前の歌を司るアイドルは先の行為で自信を付けたのか。
 「私、行く。」
 「ちょっと、何を言ってるの?」
 さっきの表情とは打って変わって自信に満ちた顔だ。止められるという、いや、先ほど止めたという自信にも近い傲慢さが、そうさせているのだろうか。
 流石に、現実を知らなさすぎる。陽美の舌打ちだけで、どこか苦しさと苛立ちから生まれる何も出来ない悔しさと言うのは、これほど悔しさと殺意を感じたことは無い。何故、どうして。この少女は無知でいられるのか。いや、自分も、この年代は無知だった。そういうことに対する己の無力感と言うのはどうにも出来ない。
 自分が無知であったからこそ、その危険性を理解している。この年代は何でもできると思い込んで、バカなことをやらかすことが多い。そんな過去のつまらなくもどうでも良い思い出を過ぎらせながら目の前の唄うことすら、しかも不完全な少女に対して確かな苛立ちを覚えていた。兵士として、この状況、今、無力な自分が何をすればいいのか。無力だからこそ、何も出来ないからこそ、今、ここでジッとしているしかない。
 少なくとも、バカなことをしない限りは殺すことはしないだろう。既に、そうするのであれば、このようにホールドアップをするつもりもないのだ。
 殺すつもりなら、当に殺している。
 そして、目の前のくぁどらんのパイロットの目当ては。
 「それに、今の私、なんかできそうな気がするから。」
 園命。あぁ、やっぱり、そういう感情がある。
 「それで、どうにもなれるわけないでしょ。」
 しかし、その目は止めることはできない。ただ、あの声からして、さっき一緒にいた女の声だろう。妙にシンパシーを感じた、あの性格は同族嫌悪の様なものと同時に波長が合ってしまうが故の物。今、もし、命が、あの場に行けば確実に自分の物にされてしまうだろうが、陽美は命の思考が手に取るように解るが故に助け出すことが出来ると、そういうのもある。何かが切っ掛けで、そうさせたのだろうが、命の何処か輝かしい目は止めることは出来ない。ただ、周りに飛んでいる、それが輝くことは無い。
 「巨人がいるなら、普通に光の巨人とかいないんですかね。」
 「残念だけど、それは、この世界にいないよ。」
 「海賊って、どういう人達なんです?」
 話題に興味が無いのか、それとも恐怖を感じてしまっているのか、すぐに上空にいる存在の方がやはり気になるのか、そっちに話題を映してしまう。
 「無類の女好きだって。」
 「陽美さんみたい……」
 「……だろうね。私も同族嫌悪してるわ。」
 何かしら、別の話題で引きのばそうとしても、その目を持つ人間は無理だろうと、かつての、ミレーヌ・ジーナスと同じ瞳をしている命を止める自信は無い。あの、何処か向こう見ずな部分は言葉で制しても意味は無い。
 「行くのか?」
 「バサラ……」
 歌を止めて近くにいたバサラは、止めること無く、ただ、その信念を見据える瞳で尋ねる。今のところ、逃げても無駄だと解っているのだろう。だからと言って、何かをしない訳ではない。自由を得ることが出来ればYF-29を乗って助けると言う信念を感じることは出来た。
 「まぁ、お呼ばれしたし。もしかしたら、やめてくれるかもしれないじゃん?私の歌で。」
 「……そうか。」
 そこには不安の顔もある。
 バサラとて、本来は格納庫に戻ってバルキリーを借り、歌いたいだろうが、物理的な距離をそれを不可能にしている。歯がゆさが、この場にいる3人に負の感情を抱かせる。それでも、命を不安にさせないように父親のような笑顔を浮かべながら、くしゃくしゃと特徴的な青い髪の頭をバサラは撫でた。
 「あんまりムチャすんなよ。」
 「うん。ってか、行くな。って言ってくれないんだ。」
 「そうしたくても、そうさせてくれなさそうだからな。」
 近くに降りたクァドランは、此方を見透かしているような顔だ。いや、信じているからこそ、その見解が出来るのかもしれない。そうそう悪い連中では無いと言うのは、美月を見たからこそ解っていることなのかもしれない。いざとなれば、バサラ自身も乗り込むつもりではいるだろう。解っているかのような瞳、ある種、その父性的な瞳には、これから起こる試練に全力で挑み、そして、考えろと言う意味も潜んでいるように思えて仕方ない。ただ、何かあれば助け出すと言う信念を命は見て取れた。
 「馬鹿げてる!そんなことして、上手く行くわけが……」
 その無謀さを批難するように陽美は叫んだ。
 「でも、そうは言ってくれなさそうだけどな。」
 クァドラン・ジーリョは動きだし、先ほどの場所にいた命を発見し、その大地に降り立つ。無人機達は要所をホールドをさせながら、移動してクァドランと言う巨人用パワードスーツの向こうにいる己の巨大な体を見せつけるように介抱した。
 「解っているだろう?これから、何をするかくらいは。要求に従わなければ何をするのかも。」
 「本当に何もしないなら、私は行きます。」
 「じゃぁ、契約は成立ってことかな。」
 先ほど、一緒にいたと言うのに、どうやってここまで。あれから、まだ、少し経っていないことに対する疑問が陽美の中に過ぎる。フォールド機能を自在に使いこなせると言うのなら、それは脅威だ。厄介と言う言葉が、そのまま降臨したような技術だ。その胸中、戦う人間として面倒くさい存在になるかもしれないと言う嫌な感触が肌に触れたような気がした。
 「巨人を見るのは初めて?」
 「いえ……」
 キララが周りに飛んでいる。助けてくれる人のことを考えながら、その口で危ないことをしている自覚はある。ただ、もしかすれば、今……
 「いろんな人たちを、この宇宙で見てきましたから。」
 「そっか。」
 美月の誘導に従い、そのクァドランのコクピットの中に入り込んだ。
 『命……』
 命の脳裏に陽美の言葉を思い出す。こういう状況になって、なぜ、あの人なのか。行かせようとしない心は、本当に自分を心配してくれていたのだろう。ただ、もしかしたら、何とかできるかもしれない。あの時、二人の争いを止めたのだから、今、あの状態のままの自分なら。
 「解った。じゃぁ、行きなよ。何かあれば、絶対に助け出すから。」
 「うん……何かされそうになった時は来てくれる。って信じてる。」
 信じている。そう言われれば信じないわけにはいかなくなる。信じてくれなければ行くことは出来なかっただろう。とはいえ、陽美の場合は仕方ないからこそ、信じた。ある種、命も信じていたが、それ以上に自分が、どうにかできるという、己を信じていた。既に陽美の瞳の中の命は歩きだしていた。
 「ねぇ、バサラたちは連れて行かないの?」
 「うちは男禁制なの。」
 呆気なく言い放ち、クァドランのコクピットを閉じて完全に動き出す。まだ、その頭の上にキララが飛んでいるのが唯一のとでも言うべきか。
 そうして、陽美は命を救いだすための算段を立てるために携帯電話を取り出して、SMS本部に繋いだ。今からでも、アスモデウスを、此方に持って来てもらうことだ。これでも、バンローズの娘であると言うことには誇りを抱いている。フロンティア船団のエース、オズマ・リーの師であると言っても良い金髪の鬼畜見境無し絶倫隊長まで簡単に撃破までした女の娘である実力は確かに母から「若い頃の自分に近い」と、評されたほどだ。
 あれくらいの連中を止める自信はある。だからこそ、VF-27+アスモデウスを送ってもらうために要請を出す。随分と、SMS本部も焦っていることが、この状況からは手に取るようにわかる。
 「あたしのバルキリー、出せるでしょ?」
 『そうなんだけど、VF-30の調整で色々とさ。まだ、27+、使ってんのよ。』
 「んなもん、後で、私が手とり足とり覚えさせるから、早く送れ。」
 『いや、そろそろ、終わるし。今、焦っても仕方ないでしょ?それに、こっちには関係のない女の子一人の回収なんだし。』
 良く、冷静でいられる。
 こちとら、自分の女神が見知らぬ女に寝取られそうな雰囲気だと言うのに、こういう状況で焦っても仕方ないとは、随分な親友を持った物だと、蹴り殺してやろうかと殺意すら芽生えそうになる。確かに、今、この状況に向かって焦っても、何も無いが、それ以上に、黙って寝取られるくらいなら暴れたいと言う陽美の個人的な殺意衝動から来るものである。
 信じている。
 命から、そう告げられても、本心は信じてるなら行くんじゃないと言う傲慢な支配欲が、そこにはある。
 「あぁ、もう、早く、こっちに私のバルキリーを寄越せ!って言ってんの!私がよこせって言ったんだから、よこせ!無人誘導でも、連中に持ってこさせるとか、色々とあるでしょ!?命は、もう投降したわよ!目の前に、あいつが出てきて」
 『あぁ、もう解ったわよ。』
 命が美月の嫁にでもなれば、これから、陽美にとって不快なことが続く。惑星の命運やら、そんなことよりも、こっちの方が大切だと軍人としての本文を捨てて、心は女を優先する。
 しかし、この大胆なアクションの割には、そんなバカなことはしないだろうと言うのが樹理の考える美月と言う女の行為である。何を目的としているのか、あの集団は"毎日、楽しく過ごしたい"と、言う単純明快な理由である。そのために、欲しい物は力づくで得ようとする。そこ行くと、今まで破壊された艦隊と言うのは彼女の意見と言う物に反していた物なのかもしれない。とはいえ、統合軍から何も無いと言うのは、そこにやましい物があったのだろう。
 樹理としては、あの声だけで理解はした。あくまでも推測ではあるが。
 『大体、あれは単なるクソレズだろう?』
 「そのクソレズに可愛い女神を寝取られそうだから、こうして動いてるんでしょうが。」
 止められなかった己と、美月の元に向かおうとする命の、此方の意思を汲み取ってくれない傲慢無態度には、流石にあきれ果てた。
 『あんたも十分なクソレズだよ。』
 あの声明から樹理が感じたことはクソレズであること、同時に、一種の拘りがあること、一人の女を手に入れるために、随分と大げさなことうする大バカ者と、言うのが樹理の抱いた美月の感想だ。
 それを推して、自分の女神を守る女騎士になりたくてバルキリーのパイロットになった。と、言う陽美も樹理からすれば夢見過ぎなアホと評したことを電話で伝えずに、無人設定、光学迷彩をONにして陽美の近くにいるエリアに送りだした。


 目の前には、巨人になった命すらも一口で食べてしまいそうなほどの大きな口と豊満と呼ぶには異様すぎる巨人の胸がある。
 「胸の谷間に入りなさい。クッションになるはずだから。」
 「あ、ありがとうございます……」
 言われたまま、胸の谷間に入るが、少し汗ばんでいる。クァドランの中には冷却装置があり、多少は涼しいとなっているものの、人の体が密着されることによって生まれるジメっとした暑さは、どうにもできる物ではない。ただ、それでも、言われたとおりにした方が良いだろうと踏んで命は、それでも柔らかい感触に包まれて我慢することにした。人の持つ胸の暖かさと言うのは、そうそう変わるものでは無く、内部の湿り気よりも心地いい。
 「フォールドは、ちょっと気持ちが悪くなる。」
 「知って、ますから……」
 随分と優しくしてくれる人だと感じた。先ほど脅迫してきた人と、本当に同一人物なのだろうか。自分のためだけに、これだけ大掛かりなことをしたくなるのだろうか。それと、これだけ人に気を使いながら、何故、あの時、戦闘などを起こしたのか。優しさは偽りなのかもしれない。複雑な何かが命の中に入り込む。
 「どうして、惑星ARIAの上空で、私と初めて会った時に戦闘なんてしたんです……?」
 「あれは、ここの戦力を知るための強行偵察。」
 「何で、そこまで……」
 「貴女が欲しいから。それだけのためよ。」
 ドラマや少女漫画では喜ばれるシーンにもなるのだろうが、度が過ぎると流石に血の気が引いてくるほどには意識が奪われそうな発言だった。何を考えているのだろう。この人は。本当に自分を手に入れるために、そんな無茶を強行することに対して好意的に捉える人など少ないだろう。それを平然とやる。元より、ただの愚か者なのか、それともとても臆病者だからなのだろうか。
 「地球に、こんなことわざがあるでしょ?獅子は兎を狩るにも全力を尽くすって。」
 「ことわざ……でしたっけ?それ……」
 「まぁ、そこは気にしない。私は今、気分が良いから。」
 そう思っていた時に、すぐに気分を地獄に突き落とされるような奴が現れた。白いバルキリーが見えたのだ。どうやって、ここに来たのか。いや、命を完全に手に入れたと思った物から来る傲慢さが、あの白いバルキリーの潜入を許してしまっていた。
 「聞こえた。」
 不快なクァドランの音が。陽美は視線に殺意を漲らせて既に狙撃の体制に入っている敵の無人ヌージャデル・ガーをロックしていた。いつの間にか、雲を突き抜けていた白いバルキリーが隼のように自分たちの頭の上に君臨している。頭の中でイメージを描き、自分の獲物を横取りする敵を潰す方法を狩人は知っている。
 「返してもらう!」
 「あの女かっ!」
 命の意思としてより、女の勘として、美月の元に行けば命は帰ってこない気がした。身を呈して守るべきだったろうか。簡単に目の前に敵がいたとしても、行かせるべきでは無かったと自分を愚かしく思う。バサラが何もせずに送りだした理由、あそこまでしておいて、本当に何もしないと命に対して何もしないと思いこんでいたら、陽美はバサラに対して怒りに似た感情を覚える。上空から獲物を狙う隼は醜い形をした巨大な鉄の人を睨みつける。
 二人には共通点があった。この女にだけは取られたくない。それだけ、ある種の女としての意地があった。
 「テロリストに譲歩する気は無い。ましてや、あたしの女神を狙う海賊にはね!折角のキスを邪魔して!」
 出会い頭の挨拶として、いきなりマイクロミサイルポッドを敵の首領機を避けるように向かって射出した。高性能AIを使っているようだが、高度な命令は出来ない。それを見抜かれたのか!?と知った時には、既に無人機達はアスモデウスのはなったマイクロミサイルによって鉄屑になり果てている。
 クァドランを狙わなかったのは、そこに命がいるため。
 「無人機が、こうも一瞬でやられるか……命令を怠ったとはいえ、流石に……」
 「命を抱いて安心してるから!!」
 樹理から、その無人機のタイプを見抜かれて連絡が入ってきた。
 脳波コントロールタイプ、さらに脳波を送るのに少しのラグがある。そこを強襲してしまえばと、言う楽な方法だった。先ほどの統率のある動きも、何もかも、別のことに気を紛らわしている美月の前となると、そこにいるのは鉄の形をした人形に過ぎない。
 さらなる挨拶として、無謀にも戦闘機で突撃を噛まそうとしたが、そうとなる前にアスモデウスの機体全体に衝撃が走った。 
 「っ!?」
 原因を知ったときは、それよりも早く高速で回避しつつ、さらに多い量のミサイルを放ち反撃した。
 何発かは撃ち落とされた実感と言う物はある。爆発する度に機体に走る衝撃はゲロすら吐きそうになる。
 「うちの連中は、なにして……っ!」
 「自己顕示欲が強いことっ!!」
 この状況で自らが、挨拶の返しとして、さらにクァドランからミサイルが放出された。既に、顔を見なくても、あの女であると言うのは解っている。律義なことだと毒づきながら、再び別角度から襲いかかる敵の集団の攻撃に身を翻すように避けながら、見つめたとき、そこには黒い塗装のされたバルキリーが君臨していた。
 「美月様!!」
 「相手のバルキリー……」
 フェイオスに、VF-25……識別は真っ黒でパイレーツウーマンのエンブレムが特徴、しかし、VF-25はSMSにも多数所属している。同士討ちにならないかと心配になる。唇周りを舌で舐め回し1人で、何処まで相手にしようかと考えていたベストタイミングに同僚たちが戦闘に参加する。
 「助かった……!」
 すぐさま、惑星ARIAは戦場になる。青い空に似合わぬ殺意の色に空が染まることは、そう遅くは無いことだった。
 「バカね!貴女が手を出さなければ、こんな無駄な戦いは起きなかったのに!」
 「連れて帰ったら、ここからフォールドして離脱するつもりだろうがっ!」
 そうなれば、SMSに所属している陽美は追えなくなる。そんなことを出来なくなるのが歯がゆい。ならば、やはり、ここで仕留めて捉えるのがベストだと陽美は判断した。急速回転で敵の攻撃を回避し、バトロイド形態に高速変形をして一気に後ろに振り向き、そのGに脳は頭の中でバウンドしまくっているかのような衝撃に肉体を耐えながら、思わずゲロを吐きながらも、すぐ様、コントロールを取り戻す。
 圧倒的な加速や運動性能を持ってはいるが、それについていけるための身体はあるものの、やはり、きつい物はキツイ。トルネードパックを装備したアスモデウスは基部に姿勢制御用バーニア、翼端に前方に推力を向けての急減速も行える回転式の双発エンジンポッドを左右に1基ずつ装備しているが、その性能は凡人はもちろん、エースでもきつい部分がある。
 その名の如く、相手の攻撃を避けながらも反撃をして数機を撃墜する。苛烈なGがかかっているものの、コクピット全体に注入されている惑星ARIAで発見した物質を用いた特殊な混合液を満たしており、この液体に電力を通して急激なGに対応できる。さらにBDIシステムを装備し、瞬時に変形し、臨機応変に対応でき、その際に生まれる衝撃も緩和されると言うことだ。それをSMSのエースパイロット専用マシンに使用しているのだ。
 多少の人間離れした動き等、造作もないことではあるが、それ以上の過負荷には無意味な部分が多い。だが、無ければ無いで、その無茶な軌道は出来ないし、コクピットの中で死んでいただろう。陽美だからこそできることである。
 機体の性能をフルに活かし、相手を食らい殺す。敵から見れば、アスモデウスの姿は、まるで1人のパイロットからは戦闘機が縦横無尽に変形機能を駆使してダンスを踊っているかのようにも見えた。また、別のパイロットからは空を自在に泳ぐマーメイドにも見える。
 更に、今回は陽美にとって樹理に頼んでおいた命の歌をコクピットに響かせてあるシステムがある。それ以上に能力を発揮されていた。アスモデウスの、ほぼ、間近で全長約16mの長身型ビーム砲から多量の光の弾丸が放出されるが、その直前にバトロイドの拳で叩き上げて、上空に多量の弾丸を放出させている好きに精密機械のつまっている頭部を潰し、そのまま、叩き落とした。瞬間に前方からのミサイルに後方からは全長約16mの長身型ガトリング砲が火を吹いた。光の球のような弾丸がに飛び出て、全てを薙ぎ払うように周りのアスモデウスに照射したが、相手もバカではない。それを一斉に受けるほど、愚かでは無かったが、無事で済む機体は少なくは無い。
 しかし、そこまでしても、SMSが参加してもクァドランには迫れない。逃げようとしているのか、そこに立ち止まっているようにも見える。
 「流石は、統率がとれている……」
 しかし、命を顧みずにファイター形態となってクァドランに突っ込んだ。
 「バイラリーナ……!」
 思わず美月は、アスモデウスを、そのように評した。流石に、そう自分が駆ってとはいえ無意識に口にした奴を、このまま放っておくことも出来まい。だが、命がいる以上高速戦闘など出来る筈もない。
 「こいつ、人質がいるからって高速戦闘が出来ないと思って……!」
 しかし、肉体を一瞬でも仮死状態にすれば。だが、そうはさせたくない。しかし、そうさせてくれない。状況を選んでいるような場合ではない。
 「ごめん……!」
 「え……」
 一瞬だけ揺らして軽い脳震盪を起こさせ巨大な胸をクッションにさせてから、自分を確実に殺しに向か存在を相手にした。悪役の様な貪欲さに、軽く翻弄されそうになる。
 白いバルキリー、アスモデウスは考えている刻一刻と近づいてくる。飛び上がり、奴と距離を取る前に、一度、拳を構えてすれ違う瞬間に、その身体に叩きこもうとした時、圧倒的な速さで、それを見きったかのようにガトリングポッドをアスモデウスは叩き込み、一度、ひるませたところで一斉発射を叩きこんでやろうと考えている。
 自由自在に、空を創作物の円盤のように動きまわる白いバルキリー、アスモデウスは厄介だ。そこまでの軌道をして、何故、人体が普通でいられるのか。考えられる最新技術を想像しても勝てるわけではないが、そこに差があると、自分に持っていない物を感じて苛立ちが出てくる。何があるのか、気になっては来る物の、こちらとて最新のバルキリーの技術等を使ってカスタマイズされたクァドラン・ジーリョであるとはいえ、それでも基本は作られて当初の設計思想のまま。最近のバルキリーの進化には、既に遅れている部分とて技術では追い詰めることが出来ない部分まで来ている。
 しかし、己のパイロット能力とて自身があるし、VF-25程度なら、このクァドランでも余裕ではあるが、あのVF-27と、そのパイロットの力量で、クァドランで当たるには、やはりキツイ恐ろしさと言う物がある。
 これほど、3次元の戦闘と言うのを体で表現しているようなパイロットは、今までの相手には存在していなかった。容赦なく奪い取ると言うことのつもりではあるのだろう。しかし、それで、殺すつもりなのだろうか。こちらには人質がいる。相手にとっては女神と評しているほどの存在が。
 そして、奴は恐らく
 「人質は殺さない。でも、私に奪われるなら殺す……かぁ?!」
 それを同じ女を好きになった人間だから知っている。それくらいのことはしそうだ。人質がいても、どういう動きをしていても、負けると言う言葉は自分の中には無い。だが、正直に言えば、今は、もう帰りたいと言う思いがある。厄介な奴からは、身を置きたいと言う心理のような物が出ていた。此処から、さらにフォールドするとなれば、まだ時間がかかるからこそ、このまま一気に上昇した方が楽にはなるが。
 「ちぃ!!」
 近接用超高機動ミサイルランチャーを一気に射出するも、その軌道を見きったかのようにアスモデウスは全てを撃ち落とす。
 「所詮、過去の機体を強化しただけじゃ、こいつには追いつけないよ!!」
 メルトランが扱う最強の機体と誉れの高いマシンであるとはいえ、確かに旧式であることは間違いない。YF-XXであれば、ある程度は、同等であるのだろうが流石にクァドランでは本当に相手にならないと言うのだろうか。そこに行くと、やはり、あの白いVF-27δ+の性能と、それを操る陽美の実力を認めざるをえない。
 「厄介なマシンを……あいつで駆ってくればよかった……!」
 回りつつインパクト・カノン、レーザーパルスガン、ミサイルランチャーを全弾一斉発射しつつ、そのまま上昇を図ったが爆発的なスピードはアスモデウスの方が早い。互いに多少のダメージを食らいながらも、どちらかが、ある程度、ダメージを与えれば。
 「ちっ……流石に、白いマシンに乗ってる訳じゃないか……伊達にカスタム機に乗ってる。ってわけじゃないのね。」
 多少のコーティングはされているとはいえ当たれば僅かな振動で気を許してしまうことになる。向こうの射撃の腕も確かなようだ。ある程度のタイミングを見計らって撃ちこんで当ててくる。人質と、確かな旧式のマイナーチェンジと言う部分は嫌でも差が出てくる。性能から来る差は確かなものを持っている。
 「パイロットの技量は恐らく、互角……そして、激情に駆られながら、判断は物凄くクールだ……蛇のように……隼のように。」
 「旧式のマイナーチェンジを持ち出すだけあって、やっぱ、強い……でも……」
 徐々に、その性能の差と言う物に寄って出てくる弊害は徐々に時間が経つたびに出てきている。向こうは、まだ、限界と呼べるほどではないだろうが、此方はフルに性能を駆使してもチーターに追われるガゼルのように食い殺されそうな危機感を抱いていた。
 「ちぃっ!?」
 一瞬の被弾が命取りになった。だが、それでも此方を劇はするような行動は取らずに近寄ってくる。それに一瞬の不信感を覚えた美月は、その判断に同じ女を好きになった存在だから解る思考がよぎり、美月も冷静に判断を下しつつ、機体を上昇させる。相手は一気に詰め寄ってきた。
 ガウォークになってハッチを引きはがし、取り戻すつもりだったのだろう。だが、それよりも早くバーニアをふかし母艦に戻る信号弾を出して、此方を援護するように味方に頼む。さらにミサイルを一気に放出して煙幕と弾幕を同時に作り上げた。向こうも向こうで取り戻す物がある分、それが甘い判断を下していた。
 ある種、同じ条件であると言うことを忘れ、自分だけで盛り上がっていたことに気づく。
 「宇宙を全部、捨てたって譲れない愛もあるって……ね。」
 その恋人を取り戻すと言う行為だけが、唯一、ここから、逃げ出せると言うチャンスを与えてくれた。そして、さらに幸運は美月の元に割り込んで来るかのように脱出のチャンスを与える。
 「HOLY LONELU LIGHT!」
 心理的な揺さぶりは成功した。そして、それ以上にバサラの歌が戦場を止めた。全てを何も無かったかのようにリセットしたのだ。そこには、かつて争いが無かったかのように。誰もがその歌を聞いて、思わず攻撃する手を止めた。そして、隙が出来る。バサラの歌が響き渡る。その隙に再び、バーニアを吹かして上昇する。
 「流石に特別なマシンに乗ってるだけはあるね……強いよ。」
 脱出しつつ、戦略的には勝利したという幸運を呼び伝えた。
 「でも、今の私の場所は、もう母艦に近い。この子は海賊らしく、頂いていくよ。離脱するよ……!」
 一つの歌が、戦場が静かになった一瞬を利用し、クァドラン・ジーリョは離脱する。それを追うように何人かは、バサラの歌で投降したかのようだが、それでも、こちらは、それ以上に大きな収穫を得た。
 「こっちも、自分の勝利の女神を奪われる訳には行かないのよね。だから、おわせてもらう。」
 「貴女も惚れているわけね。この娘に。でも、ダメ。貴女にはあげない。この子は、私の華嫁になるのだから。」
 既に隙を見て大気圏近くまで移動していたクァドランを見つめて、それでも、取り戻すという覚悟を持ってアスモデウスは独断で突っ込み始めた。
 「おい!陽美!あんた、天才だからって、そこまで出来るわけが!!」
 樹理のVF-25JSから連絡が入るも、それを無視して上昇を続ける。
 「殺されるだろ!?何を考えて!!イサム・ダイソンとか、熱気バサラのつもりでいるの!?あんたのママだって、こんなバカなことはしない!!」
 そう気取っているつもりはない。ただ、ただ……あの女に奪われるのは癪だと言う感情だけが陽美を支配していた。大気圏を突破し、目の前に現れた強大な艦隊に対して諸共せず、この場に反応弾でもあれば撃ちこんでやりたいと凶悪な顔を浮かべたが、そんな物は無いし、撃てば命も死ぬだろう。
 「ステルス機能、最大限にして。」
 そうしてVF-27δ+が敵の懐に入り込む。美月は命を求めるだけあって強い女だ。クァドランは多少のハンデを持ちながらも、それでも、VF-27δ+と互角の戦闘を繰り広げた。互いにクァドランの最新鋭とバルキリーの最新鋭に近い存在が戦いあっていたのだ。
 「嫌な奴。」
 だが、ぎりぎりで宇宙に上がることが出来た。そう、安心していたときだ。格納庫付近に入りこんだ瞬間には敵の兵器が此方をロックオンし、既にうちはなっていた。だが、爆発的な加速力は完全な崩壊を逃れながらも、アスモデウスは中破し、徐々に連鎖的な爆発が起こりそうになる。
 そのまま、陽美は爆発しそうなアスモデウスと運命を共にする前にコクピットブロックだけを射出し、宇宙空間に放り出されようとしたが、巧みにコクピットブロックを吹かせて極自然にクァドラン・ジーリョがいる格納庫の中に入り込んだ。
 「奪われてたまるか。ってのよ……」
 まさに、維持と執念である。急ぎ、コクピットブロックから出て、連鎖爆発して、大破状態にまでなったアスモデウスに対して、今までの感謝をしつつ、何処かで響く、命の歌を聞きおきながら潜入を開始した。


 大した敵だった。
 帰還したと同時にクァドラン・ジーリョが黒煙をあげた瞬間、あのパイロットの恐ろしさのような物を肌身で感じ取った。マイクローンに戻り、命を横抱きしながら、全裸のままで己の部屋に赴きベッドの上で眠りにつかして、あのパイロットの絶対に己のものにしようとする態度を隠さなかったことに対しては、同じレズビアンとして尊敬に値する。
 「クァドラン・ジーリョ、暫く実戦では使えないかと。YF-XX辺りを投入されるのが妥当かと。それに、こいつの力じゃ、27クラスのバルキリーには勝てないですって。」
 「そう。残念ね。」
 「まぁ、大破したとはいえ、色々とね。」
 「あぁー、一応、クァドランは修理します?ばらしちゃいましょう。そろそろ、限界は感じてたし。」
 「そうですね。」
 「良いわ。そろそろ、本格的にYF-XXで、どうにかするわ。」
 「後、敵の白いバルキリーのコクピット、面白い物があったので、それをYF-XXに流用してみますね。」
 「えぇ。」
 メカニックの女性の話を全て受け入れ、聞き流し、全てを委ねた。出て言った後にYF-XXのことを脳裏に描き飛行させる。クァドランよりも数値上では性能は遥かに上。バルキリーの操縦も気分で行ってきたし、慣れているつもりでもある。しかし、あのマシンの性能は巨人だった存在の物たちの要求を応えてくれる。既に、アスモデウスを失った陽美に勝ち目も無いだろうと踏んだ。
 いや、それだけで、終わる人だとは思わないが。暫くしてから、命を己の太股の上に頭を乗せて起きるまで美月は待った。恐らく、潜入しているかもしれない。そういう野生的なことが出来る嫌な女。同族だから解る、そういうワイルドさは。このまますぐにフォールドと考えてはいたが、あの女がいれば、フォールドしても同じ。ただただ、気配のような物を、あのさっきか、そういう雰囲気を感じる。
 「お姉さま、命ちゃんに似合うドレスを持ってきたんですが。」
 「あぁ、じゃぁ、寝ている隙に着替えさせちゃいましょうか。」
 あの女が来ても、来なくても。妨害をしないのであれば。
 「ど、どうするつもりなんです……?」
 此処に来て、目覚めてから、いきなり下着やら身に着けていた衣服を全てを脱がされた。そうして、純白のウェディングドレスを着せられた。流石に、心は焦る。
 「美月さん……」
 「あら、覚えていたの?私の名前。」
 「それは、まぁ……印象深いですし。リゾート惑星で話しかけてくれましたよね?」
 身も震える喜びとは、まさに、このことか。
 今すぐ、彼女の歌を聞きながら、美酒を飲み抱きしめ愛でたいと思えるほどだ。あの時の会話を未だに覚えているのは嬉しさが募る。目覚めてから、こんな恰好をさせられて驚きつつも、考えてみれば、陽美と同じスタイルのレズビアンだと知った時、この格好で、即刻、意味を理解することが出来た。
 それと同じ位に驚いたのが、目の前にいる海賊の首領と言う女が、やはり、あの人だったというショックと同時に、自分以上に綺麗だと思ってしまう、その女性が美人過ぎたことに、不釣り合いなのでは?と思いこんでしまうし、あの時分に何かを考えるきっかけを与えてくれた一人の女性が、こういうことをしているというのには、流石に悲しみも出てきてしまう。それなりに幻滅をした分、ただ、今は、何処か……
 「何で、こんなことをするんです?」
 「貴女に一目惚れしたから。それだけ。」
 「それだけ?!」
 「そうね。貴女を求めた理由は言って無かったわね。まぁ、一目惚れした理由もあるんだけど。」
 「さらったのも!?」
 「貴女を私の華嫁にするためよ。」
 「んなっ!?」
 解っていたこととはいえ、やはり、そう直接言われると驚きもする。
 妖艶な顔つきで顎を優しく指先で撫でられるようにされてしまえば、嫌でも心臓の鼓動が激しくなる。頬が紅潮し、思わず、変な思考が頭脳を刺激する。このまま、愛されてしまう。押し倒されてしまっても良いと思えてしまうほどには、理性は崩壊することを望んでいるかのように思えた。
 何かをしていても、何があっても、これでは。
 こういうシチュエーションで、一糸纏わず、自分の部屋で華嫁と呼んでいる存在に対して何をしようと言うのか、いや、でも、まだ、出会って、暫くしか経っていない。数えるほどだと言うのに、どうしろとで言うのか。破裂しそうな衝動に襲われて、瞳は美月の褐色の肌と黒髪を焼きつけるように離そうとしない。
 特徴的なエキゾチックで美人な顔立ちは、確かに真髄させてしまうほどの強力な武器であると言えよう。メルトランの集団には出会ったことはあるし、確かに、全員、乃木坂0046の容姿は子供のそれと思ってしまうほどにはメルトランの美貌と言うのは反則だ。だが、その中でも、目の前の、この人は、今まで出会った……いや、陽美もメルトランの血が流れていると言ったか。そこ行くと、この二人は今、思えば、この惑星で出会ったメルトランは全員、反則的な美人だが、あの二人は特別すぎる。
 自分が惨めに思えてしまうほどには。美貌、そして、淑女的な対応だけで、こうして、この海賊の女統領に惹かれてしまうことは無理もないことだ。自分を曝け出してまで、相手に自分と言う物を見せつけると言うことは。ただ、まだ、何故、好きになったのかは言われてない。だから、まだ、完全に惹きこまれてはいなかった。いや、それを必死に抑えようとしていた。
 「薬とか、盛りました……?」
 「いいえ。貴女は私を恐れなかった。私のような存在が周りにいると、それだけで恐れてしまうか、心髄してしまう子が多い。でも、貴女は、今、こうして私と対等の存在として接しようとしてる。だから、欲しいと思った。それに、挫折しても向こう見ずで我武者羅に努力する姿も可愛いしね。」
 「それだけで……」
 「あら、恋愛するのに大それた理由はいらなくてよ。ドラマや、小説のように求めすぎる恋愛は破滅よ?どんな理由であれ、私が貴女を、どんなきっかけであれ好きになったのは事実なのだから。貴女が知らなければ、今から、私との関係を始めればいい。」
 あの時、確かに好きになってしまいそうなほどのオーラを出していたが、まだ、知らない人だから、そういう部分から何かいけない領域に入りそうにもなった。男でもここまで程ではない物の美系に出会ったことはあるが、口説かれても、そこまで来るものは無かったと言うのに、この惑星で出会った二人の美女に対しては、どうして、こうも身体の中から情熱が湧いてくるほどには。
 「貴女がラブコールを送ったからね……」
 陽美と似ている。
 そういうところも。
 外見を除けば、内面がこれほど似ている人と言うのは当たり前なのか。実は姉妹じゃないのか?と、思うほど似ているが、違うらしい。
 「そうやって無理やり人の心を自分色に染めて幸せなんですか?」
 「私の女になってくれないなら、そうね。悪くないわね。」
 そっと、顎下を指で撫でながら、思い切り顔を近づけてくる。
 「暴力的なことをするつもりはないよ。」
 「全部、服を脱がして、こんなものを着せた女の言うことですか……」
 「それもそうね……でも、それは、これから貴女は私の伴侶にするためだから、許してほしいわ。」
 強引だ。
 あの侵略的な行為まで行っておいて。首筋を舌によって愛撫され、未知の感覚は命の中に電流のように走り出すと同時に、歌のインスピレーションのようなものが心地よさによって生まれてくる。惹きこまれている気がする。近くの侍女たちが、命の感じる姿を見て甘い吐息を吐いた。その気持ちは解らなくもない。
 「何で、私を……」
 「さっきも言った。」
 「また……」
 「貴女の歌を聞いて私は解った。私が、貴女をどれだけ好きかって。」
 「歌?」
 「そうね。もう一つ理由を挙げるなら、貴女の歌が好きだから。ミンメイも、シャロン、ミレーヌも、ミルキードールズも、カナリー・ミンメイも、パッセルも、エルマも、エミリアも、シェリルも、ランカも、今まで聞いてきたアイドルは素敵な歌を唄うけど、でも、貴女のは違うでしょ?貴女のことが手に取るようにわかるみたいな歌ばかり。」
 嬉々として語る、その姿に命は惹きこまれていく。やはり、熱気バサラの部分を多くほめる人の方が多かったが、自分と言うものを語ってくれる人は少ない。常に熱気バサラの弟子として見られている記事は大きい。ただ、徐々に園命として見られていることに関しては喜びを感じていた。
 そして、この人は今、目の前で、それを伝えてくれた人。まだ、14歳の単純な心は、それだけで伝えてくれるだけで惹かれてしまう物がある。
 「それに、私は、ARIAに来る前に、貴女の歌を聞いて、惚れ込んだの。」
 「ホント、ですか……?」
 「そうよ。」
 惑星ARIAの前に立ち寄った惑星で、偶然、バサラのギターに合わせて歌う少女に出会い、その歌と歌唱力に惹かれた。まだまだ、有名どころほどではないものの、それを越えるか、並ぶほどの力を持っていると、あの時、歌を聞いて感じ取った。
 それを、嘘偽りなく、真っ直ぐと見つめて離しこむ。徐々に、その話を聞いて、命が自分に惹きこまれているのを感じ取っていた。
 「たぶん、他のアイドルは他人に歌を作ってもらったから歌唱力が凄くても惹きこまれないのね。」
 「そんないいかたされたら、好きになっちゃうじゃないですか……」
 「良いんだよ。好きになっても。」
 「ほ、本気にしちゃいますよ!?」
 心がかき乱されるかのような、その胸の表情、14歳、まだ、子供だ。だが、子供だからこそ、持ってしまう、その心と言う物は純情な部分がある。手に取るように伝わってくる彼女の思考と言う物は可愛らしい物があるのだろう。だが、次の美月の表情は悲しみだった。それこそ、自分の全てを知っているかのようだ。
 「でも、どうしてかしら。今の貴女の声は歌を忘れてしまったカナリアのよう。」
 「歌を忘れた、カナリア……?」
 「貴女は、自分の歌と言う心に向き合っていて?」
 言われて、思わず言葉を失った。この経験、前にもあったことを思い出す。陽美に言われた、あの台詞だ。自分にとって引っかかりを覚える言葉が常に募る。そして、短い時間の間に、どうシュミレートしても思うのだ。何かが自分の邪魔をする。そうであってはいけないと言うように。
 「貴女の歌には感じない。美しい空想や純な情緒を傷つけないでこれを優しく育むような、豊かさが。奪ってしまった。貴女望んだ未知の周りにあった物が……封じ込めていたのね。そして、自分の中にいる静かなバケモノを殺そうとして我武者羅に努力している。でも、殺せないのよ。自分の中にいる自分って。結局、自分だから。」
 「前にも、前にも、貴女に同じことを言われてました!そして、考えていました!でも、解らない……」
 考えても、考えても答えと言う物は出ない。自分が求める結果と言う物なんて、そう簡単に出るわけがない。
 「考えるきっかけ、自分でも解らず、がむしゃらにやらずにヒントをくれたのは、凄い感謝してます!」
 そこにあるのは、そこにあるのは……
 「貴女は、他人にアイドルと言う他人の望む偶像を押し付けられた子。」
 この人もそうだ。自分とあまり接していないのに、自分の心を見透かしているような表情……この人も、これだけの女性に慕われているのだから、それなりに女性を見る目と言うのはあるのだろう。
 「私は、貴女を私の女にしたい。それは、同時に、貴女の心にある……」
 これほどドストレートな愛情をぶつけられたのは二度目だったからか。思わず、心が昂った様な気がした。自分の心を燻らせる、思考を与えてくれる人……こうして見透かされて、心を丸裸にされる感覚には、妙に浮ついたようになる。美人に視姦されるのは悪いことではないなんて、こうした状況の癖に、随分と肝のある精神だと一人嘲笑する。
 「そうやって自虐して楽しい?」
 「え……」
 「自然と、そうやって人を敵として見てしまうのね。」
 「そんなこと……」
 「貴女に、そうさせたのは……哀しき風習。」
 強く抱きしめられて、初めて人の柔らかさと言う物を認識した瞬間、心の中にあった何かが融解されたような気がした。こうして触れ合うことの忘れて人を敵として見てしまう感覚が、いつの間にか頭脳でプログラムのように作られていた。
 「貴女の本当の歌は、もっと美しく気高いものであったのに、誰かに植え付けられた誰かの心が貴女の自由を拘束しているのね。」
 こうなれば、では、この因果のような物から脱するには。
 「じゃぁ、どうしてくれようと……」
 胸の中で、そっと呟く。
 「そうね……忘却によって、貴女の鎖を取り除くことはできるのではないかしら?そう思ったの。」
 「忘却って、それ、逃げることなんじゃ……」
 「逃げることは非難されることではないわ。逃げることで、その後、何をするか。それが重要なの。逃げるって、自分を見つめなおすことでもあるのよ?」
 そうして、真剣に、この人は自分と接しようとしている。その奥にある了承を得ることが出来たのなら、彼女はすぐさま行動にも映すだろう。人形のように抱きかかえられているのは、このまま、望むことをしたら
 「貴女は壊れてしまいそう。」
 「逃げて、何をしたいか……」
 「そのために、貴女は、まず思い出さなければならないことがあるでしょう?」
 「バサラも、陽美も同じことを言う!貴女も……でも、それは……」
 「言葉にしたら、余計に、言葉に囚われて貴女はできなくなるわ。だから、私は、そのサポートは出来ても明確に言葉で答えを教えてあげることはできない。」
 だからこそ、
 「自分で考えるしかない。でも、それを為すためのサポートが、忘却。私が、貴女にしてあげること。そして、貴女の中にいる、もう一つの存在を消す方法よ。」
 この人も、見抜いている。自分の中にある何かを。でも、それは殺せないと言う。自分の中に救う静かなバケモノの存在を知っている。間接的にしか言わなかったが、恐らく、陽美も気づいているだろう。この人たちは、それがどういうものなのかを知っている。だから、どうすれば良いのかも、どう対処すればいいのかも知っている。それは、言葉では理解できても簡単に実現できないことであることも。
 それが解っている。だが、どうしようもできないことがある。その壁に何度も挑んでは破れている命の顔が暗くなる。唇が犬のように震え、小刻みに震えている。あらためて、どうすれば良いのだろうかと考えても、そんなもの、今まで我武者羅に努力しても報われなかった分、迷路に迷い込んだようにわからなくなる。本当は、単純なものなのかもしれないし、思うほど以上に難しいことなのかもしれない。まさに、この世界は迷宮とはよく言ったものだ。
 小動物のようなしぐさに、思わず、美月の口の端が釣り上がった。こういう少女こそ、快楽に染め上げて、全てを忘れさせたいと思うものの、そういうことを無理やりすれば、心は完全に奪えないだろうと、自分色に染めるためには、まだ早いと決める。肉体的な緊張が伝わり、 何を考えているのか、命の思考が手に取るようにわかる。ふあっとした長い髪を揺らしながら、そっと、抱き寄せて頬をこすり合わせた。
 それが、妙な暖かさを覚えて、命は肉体の内側にいる何か、片意地の張った存在がどこかに行くのを感じた。ふわりとした、この人の温もりと言う名の感触は、やはり、陽美に抱きしめられていたかのような、そういう趣味に打ち込むような熱さではなく、不思議と、心の内から電流のような情熱がほどばしるような暖かさだった。
 己の中にいる、静かなバケモノは……何もしなかった。
 そして、それは生きる糧を得るかのように自分にとっての唄う意味を奪っていった。
 「でも、大丈夫……私の処にずっといれば、そんなものを忘れさせるくらい、甘えさせてあげる……そうすれば、良い歌は出来るわ。」
 そっと尻を撫でられ、ビクッとなった。それでも、思わずそれを行った人間に対して甘えるように抱きついてしまった。
 「年上の女性に迫られると弱いでしょ?貴女、甘えさせてもらえなかったんじゃない?」
 「どうなんだろ……でも、早めに自分の彼女は欲しいかな。ってのはあるけど……あの世界にはいなかったし……」
 母は確かに甘えさせてはくれたが、もう一人の、母親が、それ以上に独占する。姉たちから、そういうものだというのは教えてきてもらったが、それでも、理不尽に甘えさせてくれるときは、もう一人の母が入り込んでくる。思えば、そういう部分もあったし、早めに乃木坂0046に入ったのかもしれない。何もかも見透かされている。暖かい体温を持っている何かに求めてしまいそうになる。そうこうして友人はいたものの、甘えるとは違った。
 だが、それと、これは
 「関係無いよ……」
 大きな胸に顔を埋めて、でも、まぁ、考えてみれば甘えたのは陽美を含めて久しぶりって言うのはある。あの時の陽美の言葉が、その身に蘇ってくる。だから、陽美は……
 「よしよし。」
 何を考えているのか解る、だが、これからは、その思考は自由であると同時に自分が入る。だから、それで良い。だから、このまま命を。
 「随分と悪趣味なことしてくれんじゃない。」
 「陽美……」
 「アスモデウス、ぶっ壊して、わざわざ、この戦艦に入り込んだ甲斐はあったわ。」
 この手を破瓜の血で染めようとした時だった。陽美が天井を突き破り、侵入してきたのは。
 「よく、ここが解ったわね。」
 「女の勘よ。」
 目の前で、敵意を剥き出しにする二人。似た者同士。命の中に生まれるのは二人に対して抱く特別な何かが抱きつつあった。女性と、こうして触れ合い、一つ一つのインスピレーションを貰うたびに送られてくる、身体に染み込んで来る二人の何か。
 「でも、あなた、此処から逃げられて?バルキリーを破壊されて、そして、彼女を取り戻したとしても、ここの戦艦にいるのは全員、私の部下よ?」
 「どうかな。もう一人、此処に、入ったこと気づいてないんじゃない?」
 「何?」
 「や、やめてよ……」
 二人に戦ってほしくなくなっている。何処か、二人を考えると二人のことを考えると胸が熱くなる。
 「だから、私には勝算がある。やらしてもらう……!」
 陽美が拳を振るった瞬間、命の背中にゾクっとした嫌な予感が走った。美月も、それに反撃するように拳を振るう。どこぞの格闘技をマスターしているのか、その動きには、乃木坂で習った格闘技よりも実戦的に思えてきた。
 それは、互いを傷つけあう行為そのものだ。それは、望むべきものじゃない。望んじゃいけない。ここで、どちらかが倒れるなど、自分の後味が悪いし、嫌な物が出来る。だから、この場で二人の喧嘩を止めなければならない。
 何をすれば良いの解っている。
 熱気バサラは、何をしていた。
 止めるために、喧嘩をやめさせるために何をしていたのか。それは、先ほど、自分に出来たこと。だから、だから、出来る。出来ることだから……拳を握り、その拳を胸に当てて、ゆっくりと己を落ちつかせた。
 出来る。
 あの時、出来たのだから。その心を思い出せば、止められる。あの時と同じように。何か、何かをするために。ゆっくりと口を開き、その時のことを思い出す。だから、命としては心を込めて歌った。部屋が響くほどに大きな声で。だが、その先にある結果は
 「唄っても、なにも、無い……」
 さっきはできたことだと言うのに、あの時に出来たことが、今、出来ていない。それが、どういうのことなのか得られることの出来た自信が塩の柱のように見事に崩れていく。キララは再び、輝くことが無かった。
 「どうして!!!!」
 自分の歌は、通じた筈だった。通じた筈だったのに、どうして通じない。改めてぶち当たる壁に対して、絶望の咆哮をあげた。無論、それに対してキララが輝くことは無い。
 「もう!!!二人に死んでほしくないのに!傷つけあうのも嫌なのに!」
 自分の力は、無力なのか。自分の歌は、それほどに力と言う物が無いのだろうか。
 バサラは、それを解らせるために、ただただ、何も言わなかったとでも言うのだろうか。今、こうして現実を知ってしまった時点で、自分が非常に小さい物に思えてくる。二人を責めるようなことはしない。おのれの無力さがただただ嫌になってくる。
 何故か、二人の魂に響くことは無かった。
 魂よ、響けと、そこに願い、そして、二人の争いを止めると、己の中に傲慢があったのだろうか。
 すぐさま、マイナスの思考が肉体を駆け回る。
 自分の中に、あくまでもいるかのような感覚だった。どうして、どうして、歌が通じない。何がいけないのか。今までの戦闘中に歌っても、皆、そうだった。皆、歌で戦闘を止めてくれない。まだ、そこに、足りない物がある。だが、先ほど、それが出来たと言うのに、今、それが出来ていない。
 手を伸ばしても、伸ばしても、そこにある世界と言う物をバサラの見ている世界と言う物が見えない。いや、この世界で、銀河を震わせるほどの歌にも行ったことが無い。
 どうすればいけると言うのか、行けるのか。
 悔しくて悔しくて、身体が芯から熱くなって涙が頬を伝うのを感じた。やっぱり、自分は、そういう存在なのだろうか。あの組織に入れたのも、元の才能ではなく、母の二人の……
 自分と言う存在が、徐々に解らなくなっていく。
 でも、それでも、悔しいからと言って止めることの出来ないことをしている世界に入り込んだのだから、泣き言は今だけと解っている。しかし、それでも止められない。齋藤飛鳥の器だったのだろうか、そのために、あそこにいたのだろうか。
 所詮、自分は、輝けない存在なのか。
 輝く魂を導かせるためだけの器なのだろうか。そうした思考が肉体を独占した。
 二人は、流石に戦いを止めた。大切な人が、こうしてなっている状況で、各党やら、なんやらしている場合ではないが、自己中心的な思考が流れた。
 「今の歌、聞こえたでしょ?あの子、私たち二人に傷つけあってほしくないんだよ!」
 「だから、どうしたいと言うの?」
 「大人しく私によこせ。って言ってるの。」
 やはり、この女は気にしたくない。
 命の歌よりも確実性を狙っている。
 歌よりも戦闘で得られるこ高揚を求め、宣言をした後に、歌が止まり一瞬だけ絶望の表情を向けた命の方に顔を振り向いき近づいた瞬間、美月は陽美の一撃を腹部で思い切り食らい吹っ飛んで、壁に打ち付けられた。
 (不意打ちして、ごめんね。)
 「かっは……」
 ただ、この場所にいた命の歌、二人には、あの時の口論を止めたときほどのパワーを感じなかった。代わりに響いてきたのはミサイルよりも爆発力があるサウンドだった。
 「コォォォォォォォォォォォ!!!!!」
 その叫びに合わせるように美月の部屋のモニターが、その声の持ち主を映した。
 「バサラ……?」
 いや、違う。
 戦意は失っているが、それは歌によるものではない。何者かが多少の精神的な力を死なない程度、少し眠ってしまう程度に吸いながら美月艦隊の人員を眠らせていた。
 「ちぃ……」
 脱出するタイミングが既に、こうして出来ていた。
 「まさか、プロトデビルン……?」
 陽美が、その名前を呟いた。
 その名前を知らない物はいない。
 バサラが生きる術を与えて和解したという伝説を持つ、たった一つでゼントラン一個師団を壊滅させる存在。
 「ほら、先に行きな。」
 奪還し、陽美に抱かれる前に、命は意識を失わず立ち上がろうとする美月を見つめていた。不意打ちとはいえ、自らの精神動揺が招いた結果。
 「命の状態を見て、一撃、食らったんでしょ?」
 「……」
 「不意打ちとはいえ、あんたも命のことを心配するんだ。」
 「そう、ね。」
 「だから、やり直そう。同じ女を好きになった仲だ。どうせなら、今度は真剣に1対1のドッグファイトでやろう。そうすれば、あんたも満足するでしょ?」
 気に入らないが、命に対しての愛の情熱は本物だ。
 「解ったわ。切り札を出す。」
 「えぇ。楽しみにしてる。」
 気に入らないけど、シンパシーは感じる。
 同じ女を好きなった人間にしか解らないような、この感情が。3度ほど、やりあったが、それくらいでわかると言う部分は、それなりにある。戦っている間に嫌でも感じ取ってしまう物があるらしい。
 かつての、パイロットたちも、そうして解りあってきたと言うが、こうして、ファーストコンタクトからやりあい、短い日の中、まだ、最後の格闘で嫌でも、解ってしまう部分が出てきた。互いに変わらない、この他人から見ればたんなる愚かな行為にしか見えないようなやり取りの中で、感じあえる物と言う物がある。
 根底にあるのは、解りすいほど単純で人から見れば小さくて、本人かあ見れば、かなり重要なことであると言えよう。
 同じ、アイドルに一目ぼれして、そして、こんなバカなことまでやらかしているのだ。本人の気持ちも無視して、迫って、その気にさせてまで、一度、肉体的関係を持ってから真剣に付き合おうと言う卑怯なことまでして、そこまで欲した二人が。
 欲しているからこそ、渡したくないと言う感情が生まれている。そこまでして、落ちているような部分があるからこそ、あそこで歌を唄うなんてことをしてくれたのだろうが、しかし、あの時ほどの何かを感じなかったのは、それを自分達の原因だと考えてしまいそうにもなると、二人の間に罪悪感的な物も出てしまう。
 そうさせないためには争わない方が良いのだろうが。抑えきれない闘争本能の浄化解放を行うべきなのだろうが。そういうわけには行かない。だからこそ……だからこそ!
 「次で終わりにしましょう。」
 身勝手に決められた思いが駆け抜けて、陽美は命を連れていく。
 「こっちだ。」
 先ほどの謎の青い髪の少女が発した二人を光に包み惑星ARIAにゆっくりと降りて行った。

| マクロスLily | 00:00 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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