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マクロスLily Episode.3「TRY AGAIN」

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第3話


 「はぁ……」
 「結構、大変でしょ?バサラと一緒にいると。」
 ミレーヌ・ジーナスに、そう告げられた時、思わず、そうなのだろうか?その言葉に翻弄されそうになったことを思い出す。
 「命ちゃんも、結構、苦労すると思うよ。」
 「そう、なんですか?そんなに困ったこと、無いんですよね。」
 「嘘……」
 流石に、苦労されたこともあったのだろうか、ミレーヌの表情は扉越しの向こうにいる存在に向かって思わず凝視した。
 「なんだよ。」
 「な、なんでもない……」
 ミレーヌの反応を見てしまえばバサラは、どれだけ、ここにいる人たちを振り回したのだろうと考えたくなる。だが、命自身はバサラに振り回されたことは無い。それほど自分と言うものを目の前で迷惑をかけないように接していたからかもしれない。
 「唄うとき以外は静かだったのかな。」
 口にして少女は改めて外の世界を見た。
 惑星ARIAに来訪する前、暫く、マクロス7船団に暮らすことになった時、そこでFire Bomberのメンバーに曲作りや、楽曲の基礎などを教えてもらった。此処にいたのは、半年ほどだった気がする。しかし、楽しい時間であったことは間違いのないことだった。
 YF-29改の全体的なオーバーホールと同時に、久しぶりにFire Bomberのメンバーに会いたくなって、ライブすると言うことをバサラが想い立ち、この時、そして、マクロス7船団に暫く長く居候することになった。そこで、初めてFire Bomberの面々と出会うことになる。
 「しかし、バサラが戻ってくる時は子連れだとは思わなかったぞ。」
 レイ・ラブロックが冷やかすように、命を見てさわやかな中年の笑顔を見せて、そう口にした。ビヒータ・レイズは此方を見て、口の端をあげてドラムを叩いただけ。それが、彼女なりの歓迎なのだろう。
 「知り合いの娘でさ。降ってきたから、預かったんだよ。」
 「降ってくるって……」
 「いや、事実なので、すいません……」
 本人が、そう言っているのだから信じるしか無いのだろうが、どうもバサラの周りにいる人間は不思議な力を呼びよせると言うのは、解っているかのように溜息をついた。
 「貴女、バサラに変なことされなかった?」
 「お前なぁ!!」
 それはミレーヌなりのジョークだったのだが、流石に、そんな扱いをされればバサラだって名誉棄損で訴えかねないほどの権幕で迫って、流石に、あのころとは違うミレーヌも「ご、ごめんごめん。」と、謝る。
 この瞬間が、このマクロス7にいる時間は、今まで、一番楽しかった気がする。
 Fire Bomberと接するのは半年ほどだった気がする。そうしている間に陽美の祖父と祖母であるマクシミリアン・ジーナスとミリア・ジーナスと接して、そして、ミレーヌ・ジーナスの家に泊ることになった。
 「命を、こんな家に住まわせるわけ行かないでしょ?」
 至極、最もな思考だ。
 「前までは、ガキのお守はどうのこうのって、煩かったんだから。調度、私が、貴女と同じ年のころ。」
 「そんなこと、言ってたんですか……」
 夜は女同士、一緒に寝ることもあったし、昔のバサラの話を沢山、聞くことが出来た。そんな、懐かしくも楽しかった夜。
 「貴女の歌には感じない。美しい空想や純な情緒を傷つけないでこれを優しく育むような、豊かさが。奪ってしまった。貴女望んだ未知の周りにあった物が」
 「何?それ。」
 「昔、唄っていた時にお客さんに言われたんですよ。」
 「そっか……」
 バサラの話を聞くたびに、こうして世間話をするたびに、ミレーヌに触れあうたびに、何か、バサラと一緒の時と同じ暖かさのようなものが内に宿るのを知る。そして、一時的にFire Bomberの追加メンバーとして、ライブにして参加した。これは、バサラ切っての願いでもあり、これが、今にして思えば試されていたのだと思う。此処で、自分が何かに気づくか問うか。
 「バサラ、解ってやってるの?」
 「解ってるさ。でも、自分で気づかなきゃ仕方ねーだろ。」
 その歌は素人は騙せても、やはり、ミレーヌや、レイ、ビヒータは騙すことが出来なかった。ミレーヌが言葉の意味を理解したかのように、それが切っ掛けだったのか、だからと言うか、どうと言うかミレーヌが自分に楽器を、ギターを教えてくれたのは凄い嬉しかったのだ。
 3か月の間は、こうしてミレーヌにギターを教えてもらい、音を奏でる楽しさを学んだ。いつの頃からだろうか。久しく、こうして沢山の人と触れ合うことを忘れていた気がする。そう言いつつ、マクロス7船団で手とり足とりギターを教えてくれるミレーヌの優しさに触れながら、なんとか物になり、その後はギターも使いながら旅に出かけ、そうして改めて曲作りの楽しさに目覚めることにもなった。ただ、陽美と美月に触れた時のような、そういうものを感じることは無かった。


 目覚めたのは、4:59だった。
 自分にとっての歌とは何だったのか、考えていた瞬間に眠ってしまっていた。
 ふと、気づけば命は自分から陽美を抱きしめていることに気付いた時は離そうとしたが、陽美も命を抱きしめており、無理に、その拘束を解除することなく夜明けの世界を部屋の窓から見ていて明け方の交差点が妙に目についた。これ以上、上手く立ち回れるだろうか、この前の結果を見て少し、自分に自信がなくなっていく。朝と言うのは人を鬱な気分にさせる力があるように命はこれまでの日々を思い返していた。
 普段着のまま眠り、隣には大人の色香を発して乱れる金髪をバラしながら眠りについているお姉さんと言う存在の頬に、そっと口づけしたくなるほどには美人だ。手を出しても、良いのだろうか。太陽の名前を持つ女性の暖かさは命の肉体と心に、忘れていた温もりを与えていた。こうして抱きしめられていることが、ここちよくて朝の憂鬱な気分が園命には何かをする気すら消えていった気もしていた。
 以前、熱気バサラに、こうなったことは無かったのか?と、聞いた時は、笑ってごまかされたことがある。どうだったのだろうと気になっても、自分の中では、今の熱気バサラのように、さわやかに新しい朝を迎えられるほど強くは無いのだと、自己嫌悪しそうになる。ただ、マクロス7船団に一度、立ち寄った時、同じFire Bomberのメンバーであるレイ・ラブロックからは色々と聞かされた。
 人を守るために歌ではなくミサイルを放出したこと。バサラも、最初からすべてがそうではなかったという話を聞くたびに信じられなくなる自分も、そこにはいるし、同時に凄いバサラも同じ人間なのだということを触れ合うだけで理解はできる。そして、今にして思えば意外だったのがミレーヌ・ジーナスが、意外と御淑やかだったことか。
 この人と比べ、どこで、ジーナスの血は狂ったのだろう。確かに、マクシミリアン・ジーナスは、そういう70を越えても20代の外見で衰えを感じさせず女性にはモテていたし、ミリア・ファリーナ・ジーナスも、この世界では巨人だったということを聞いた時は命は訳が分からなかったが、そういうことらしい。
 「なんか、まぁ、でも、良いか……って、苦い。」
 朝起きてから感じる乾いた喉の気持ち悪さを感じて、まず、無理やり陽美の抱擁を解放して軽く歯を磨いてからうがいをし、そのまま冷蔵庫の中にある麦茶を取り出して口の中に含み飲み込んだ。
 何となく、今日、この星に来てからのことを思い出し、そう答えを導き出して、もう一度、ベッドの上で横になった。
 「デートに行きましょう。」
 「いい、ですけど……」
 起きてから憂鬱な気分を消すために二度寝を決め込もうとした命に、そう呟いた時は既に決定権があったような気もする。普段着のままに眠りについていてしまったようだ。寝ぼけた頭では、何を考えているかもわからないまま、了承してしまうところがある。
 母である智恵理の低血圧を受け継いだのだ。凪沙から、そういわれたときは、心なしか智恵理を恨んだ時がある。そういうのを見抜ける人間なのか、陽美は、命の性格を理解したと言うことなのだろうか。手に取られているような感覚が気持ち悪いくせに、それと裏腹に、なぜか嬉しがっている自分がいる。そしてキララが妙に懐いていることに驚いた。
 「あぁ、この子?良い子だったよ。」
 それは、そうとして、デートもいきなりのことで了承してしまったことに後悔のようなことをしている気がする。安易に受けるべきではないだろうに。そして、気になることと言えばだ。
 「昨日、何かしました……?」
 この人の性格を見れば、どういう人なのか。それが良く解っているからこその、己の貞操の心配は無理もないことだろう。何かしていそう。そんな思考が脳裏に走った時だ。
 「してない。」
 はっきりと、嘘のない目で、それを言う。
 瞳はまっすぐに命を見て昨晩は何もなかったと訴える。
 「そう、ですか。」
 していれば、キララが懐くこともないだろう。
 調教されるような、そんな軟な存在でもない。キララを通して信じ、昨日は一緒に寝た事に関して、そこに、何か覚えることがあった。
 それ以上に寝る前の、あの会話の一連は掴まれるようなものがある。心を鷲掴みにされたかのような、そういう錯覚を、好みに覚えた、あれはなんだったのだろう。今日のデートで、それは解明されるだろうか。
 朝食を摂りながら、適当に着替えつつ、陽美と外に出ることへの楽しみを陽美は、その美女の表情を隠そうともせずに常に命を見つめてきた。さりげなく手は恋人繋ぎで、いつかは気づけば気を許してしまいそうだと、そういう何かを覚えそうにもなる。
 「唄うの、いつからだっけ?」
 「子供の時からかな。唄うのは好きだったし、でも、なんか、乃木坂0046に入って暫くしてから、なんか、つまんなくなったんだよね。んで、ここにきたらさ、バサラと出会って……って、感じ。」
 「今、歌うのどう?」
 「なんか、覚えているようなんだけどわかんないんだよね。」
 「そう、か。」
 やっぱりとでも言うかのように陽美は命に足りないものを悟ったような顔を浮かべていた。陽美もFire Bomberを通して歌と言うものに興味を持った存在だ。そこに、伯母であるミレーヌ・ジーナスがいたこと、そして、バサラの弟子として園命がいる。Fire Bomberを通しての、この出会いに運命を感じずにはいられなかった。やはり唄っているときに伯母であるミレーヌ・ジーナスとは違う顔を浮かべている。あの伯母の顔は……
 「何?」
 イベントなどで、人を見ることに関しては、それなりに鍛えられた命は、その顔を見逃さなかった。そこに、何があるのかと聞こうとした時、樹里が目の前に現れた。
 「これからデートなんだけど?」
 「数分で終わる。」
 そう口にして、樹里に呼ばれた陽美は不満な顔を浮かべている。表情がころころ変わる人だと思いつつも、此方は客と言う立場なのだから、前に出る必要はない。
 だからこそ
 「あ、待ってるからどうぞ。」
 命は、そのまま本来のバルキリーに搭乗して荷物を取り出す。
 いつ、どこで歌のネタが拾えるかどうかわからないから、インスピレーションの保護と言う部分で何か形に残すためである。しかし、あの何かを言いたげな陽美の顔の自分に秘めていた部分に気付いたかのような部分になってはいるのだが。そうこうして、此方の準備は終わっても軍関係の事は簡単に終わらない。
 気になりつつも、ここにある兵器の群れを見ていると、この世界のバルキリーと呼ばれる兵器や、デストロイドシリーズと呼ばれるものは、自分の本来の世界にあるDES軍やら、昔、祖父が開発に携わっていたゾディアックの兵器類と似ていると、そういうことを思っていた。ゾディアックは新中州重工とか、そういう名前だったのを思い出しつつも、色々な意味で立場の逆転しているように見える兵器群、個々の世界と言うのは、どういうものなのかというのを考えてみたくもなるが、いまいち、興味もわかないし、そんなことよりも歌のことを知りたいから深く考えることはしなかった。
 命は暇な間、機械の音を打ち消すように無視して陽美と樹里の会話を耳にしていた。
 「YF-30くらい、こっちに寄越せばいいのに。」
 「YF-30って……あんた、何も知らないのね。悪いけど、YFじゃないけど、VF-30……先行量産型はあるわよ。ほら、そこでシートを被ってる奴。19タイプの血も混ざっているようだけどね。正式の30代はVF-31ジークフリートとして生産されるそうだ。」
 「それはまた。19シリーズの血があるなら、行けるじゃん。んで、30の新型は、誰専用なのかしら?」
 「あんたしかいないでしょ。千人斬りの女食いを達成した陽美・ジーナスに。性格に難はあるけど、リリィじゃ最高のパイロットのあんたに。」
 「そりゃ、どうも。でも、イサム・ダイソンにシュミレーターじゃ勝ったけど、本人と実際にやりあって、勝利したことは無いのよねー」
 「それだけでも十分だって。でも、運よく勝ったじゃない。」
 「あれは、手加減された……手加減されて、やっと互角よ。互角!しかも、旧式で!」
 世界最高峰のパイロットと呼ばれているイサム・ダイソンと名誉ある10番勝負をして、結果は陽美が述べたとおりだ。普通にロートルゆえに勝てると思っていた驕りが、最初はあった。しかし、負けたがゆえに、次に本調子で戦えば勝てると思ったが、やはり負けた。限界を超えようとさらに頑張ったが名誉ある敗北。イサム・ダイソンはノーマルの19で、陽美はVF-27+だ。
 シュミレーターと実戦は違う。改めて、現実の厳しさを思い知った瞬間が、陽美をパイロットとしての成長をさらに促す事件でもあったのだが。VF-19EF/Aではなく、ただのVF-19だからこそ陽美の悔しさは相当なものだったのだ。
 「大したもんじゃない。他のメンバーは瞬きした瞬間に敗北したんだし。」
 「そうかもだけどさ。ついでに、ダイアモンドフォースのガムリン大佐にも負けたし。エメラルドフォースのドッカー中佐には勝ったけどね。」
 「フロンティア船団の連中はフルボッコにしたのにねー。」
 「まぁ、ねー。死んだと思ってた人に狙撃されたから、仕返してやったけどね。」
 「あれを避けるなんて、どれだけ、こっちに負担がかかったか。シュミレーターなら、まだしも、実機を使った模擬だもん。」
 イサム・ダイソンと戦った後の出来事だ。
 フロンティア船団の連中と演習をしたものの、それは、そこまで気にされるようなものでは無かったかのように、以前の対戦相手とは違うと良い意味でも悪い意味でも、そういう意味では懐かしき思い出である。
 「んで、30の事なんだけどさ。」
 クロノスを元にした新型の制作は決まっていたようだ。これを先行量産型として何台が制作し噂の31へと繋がるのだろうというのは安易に予想できる。30代に、改めて真剣に19の思想が取り込まれたのは性能の向上によってVF-19EF/A がYF-29 デュランダルにも匹敵する性能を発揮を得たからだ。
 「いや、30のことも大事だけど、本題は何よ?」
 「あぁ、その30をあんたのものにするから、少し、調整を手伝え。ってこと。」
 「あぁ、そういう。って、何で、そういわないのよ。」
 「あんたが、勝手にアスモデウスのことと誤解したんでしょ?」
 犬のように嬉しそうな表情を浮かべている、その顔は新しい玩具を手に入れた子供のようだ。
 「アスモデウスじゃご不満?」
 「ま、不満は無いけどね。やっぱ、つけ刃だからバランスが悪いのよ。」
 「なるほどね。」
 「楽しんるところ、悪いんだけど……」
 「あぁ、命、もうちょい待ってね。」
 母の血筋と言うのもあるし、これも大事な話だというのも解るが、やはり、誘っておいて、そういうのはーと、少女自身、大人の事情は分かっているものの、もう少しと、年相応な態度は見せてしまう。
 「ってことで、好き勝手しろ。」
 「あんた、こいつのパイロットって自覚あるの?大体、27+じゃ、綱渡りしてるようでーって言ったし、そういう意味で、回されたこいつを、あんたに渡そう。ってなったんだけど?」
 「あぁ、そうだけどさ。」 
 アレも良いマシンだというのは解ってはいるが、何となく、欲望的なものが欲してしまうのだろう。それ以上に、アスモデウスのとってつけたような感覚は、どこか綱渡りをしている感覚、バランスが悪いのだ。そういう部分も含めて、30を渡されることにはなったのだが、陽美が、この状態である。
 「あるけどね。19タイプの方がよく私の感覚にダイレクトに答えてくれるのよね。27+も、19と同じ感覚になっているとは思ってたのに。ダイレクトに伝わってきたんだけどなー。」
 それでも、全性能では大きくアスモデウスは勝っているというのに、それすらも覆したイサム・ダイソンの強さには戦慄を覚える。流石は、ギャラクシー船団の反乱時に19ADVANCEでサイボーグ専用のVF-27を噂によると1000機は血祭りに上げた存在だということが良く解る。
 「その戦績は大げさ。」
 本来はピーキーな性能であるはずのVF-27+を制御できている陽美も陽美だ。と、樹里は頭を抱えながら天才の言うことは解らないと口にする。
 「あんた、天才すぎるからダメなのよ。VF-1Jでエクスカリバーを翻弄する女傑の濃いメルトランの血が良い感じに出ちゃってるし。これくらいの性能じゃーねー。その一方で、おじいさんの女好きまで受け継いで。陽美・マリアフォキナ・フォミュラ・ジーナス」
 「考えてみれば、うちのママって化け物よね。」
 「オズマ少佐の先輩のエイジスさんも、そりゃー大変な思いをしたそうよ。」
 「ママは昔はヤンチャして「ビンディランス」なんてものを作ってたそうだけどね。」
 「ヤンチャで反統合軍組織とか……」
 「それに比べれば私はマシ。」
 「同じようなもんよ。従妹のミラージュ・ファリーナ・ジーナスに手を出そうとして拒絶されただとか、何してんの?大体、あんた、レズサキュバスの異名を持ってるのは御存じ?」
 「ほら、うちの家系って美人、多いし。可愛い子には手を出したいし。ミラージュはからかっただけだし。」
 「そりゃ、ね。でさ、命の味はどうだった?」
 「手、だしてないよ。」
 「え?」
 「あ、ホントですよ?」
 嘘だろ。このレズサキュバスが手を出さなかった。あれだけ夢中になっていたのだし、それはワンナイトラブの可能性はあったはずだ。結論としては(飲むつもりが互いに飲んじゃう状態になっちゃったか。)と、そういう答えを見出すことになった。
 「それよりも、30の調整しちゃおうよ。」
 無駄話を、ある程度、繰り返してから、YF-30のクロノスをモデルにした19の流れを含むVF-30の白銀のボディが露わになる。女性とのセックスでぎっとぎとの黒い陽美とは正反対だ。なんて内心、毒づきながら、軽い調整に入る。
 「ってか、よくバサラはあんたのような女に命を任せられたね。」
 「アタシも驚いてる。ミレーヌおばちゃんとか、エミリアおばちゃんと出会った。って言うし、そういうあれからかな。ミリアお婆ちゃんとは、最近、会ってないなー。マックスの爺も。」
 驚いたと口では言いながらも自慢するように、勝ち誇った顔を浮かべる陽美をスルーしてから、バサラは陽美のどこを信用して命を任せたのか、天才の考えることは解らないと言いながら思考することから逃げた。
 「あ、VF-30の、あんた専用のペットネームは?」
 「VF-30MIKOTO……で、どうよ?データとかは適当にやっちゃっていいよ。こっちが無理矢理、合わせるから。」
 「あんたは……まぁ、いいや。後は、こっちでやっちゃうから。」
 「え、本当に、この名前……?」
 「そりゃ、自分の名前なんて嫌よね。」
 樹里が指摘したように命は頷き、陽美はジトーッと見つめていた命を抱きしめて、その胸に埋めた。この人は、どこまで本気なのかと考えてしまうが、そういう裏が無い人間なのかもしれないとも、考えてしまうが。
 「どこまで本気なんですか?まさか、自分のバルキリーのペットネームに、一応、好きな人の名前を付けるし、貴女の性格上、手を出すかと……」
 「好きだよ。でも、乗ってくれないでしょ?今の命は。だから、手を出さないの。でも、出したいけどね。」
 「そう、ですか……」
 「うん。」
 「ぁぅ……」
 思わず、陽美の偽りのない表情で俯く姿に、思わず肉体全体が赤く染まるような暖かさを感じ、陽美から自分の肉体を離した。何か、おかしい。一緒に寝たりとか、言葉一つで手玉に取られたりとか、何か、そういう部分を感じ取ってしまう自分の軽さ的なものに驚いてはいる。これまで、様々な女や男やら、そういうものに言い寄られてはきたものの、惹かれることは無かったというのに、なぜ、この人には。なんで、こんな思いを抱かなければならんのか。 昨日今日、いや、だいぶ前に出会って、それでいて一緒に寝ることまで許してしまった、この女をと。
 自分も、母である智恵理に似て変な部分でレズビアン的な同性には甘い部分が目立っている。惚れた弱みのようなことを口にしていたが、そういうものなのだろうかと命の中で、いつまでも変なもやもやが燻っていそうになっていた。
 「嫉妬?可愛いな。」
 「そんなんじゃないです……」
 頬を膨らませている自分に違和感を抱く。いや、違和感しかない。デートに誘っておきながら、って言うのもあるのかもしれない。樹里と仲睦まじそうに話している事がなぜか嫌になっている。約束をしておいて、そういう態度と言うのが嫌いなのか、出会ったばかりの女に、何を求めているのか。一度、あったとはいえ、まともに話してないではないかと自分で息を吐き捨てる。まさか、恋愛でもしているのではないのか。
 「そんなこと……」
 考えてから否定する。だが、考えると、妙に身体が熱くなるのを感じた。
 そのまま、こんな気分を忘れて外にデートしに行く中で、こういう感触、同じ乃木坂0046のメンバーである2代目松村沙友理と一緒にいたとき以来だと思いだした。そして、妙に、あの時以上に楽しい。
 「じゃぁ、いこうか。」


 昨日の襲撃がウソのよう。デストロイド達が、街を作り始め、昨日の戦場でビームによって抉られ、腐臭に近い不快な匂いが漂うコンクリートすらも既に舗装されて、昨日のような状況があったというのに人の力を感じさせ、惑星の発展に尽力を尽くす。そこには、バサラの楽曲や、リン・ミンメイと言った歴代の歌手たちの歌から発せられる言霊が紺碧の空に舞う。そして、惑星ARIAの気候は地球と言う惑星の春に流れる爽やかな風のような心地よさが吹きすさぶ。
 そうこうしてってわけではないが、心にたまった靄のようなものを感じ取りながらも何処か、そういったものが取り除かれるような心地よさが肉体を襲う。歩いて、歩き回って公園に辿り着き、二人でクレープを食す。何で、こんなことが楽しいのかとぼけーっと考えるも陽美の妙な手つきに思考がどうでもよくなった。
 「女神に、そういうの似合わないわよ。」
 「女神なんかじゃ……」
 「自覚ない?」
 「あるわけないじゃないですか。それに、そういうの好きじゃないです。」
 「そうじゃなくてさ、アイドルとしてーってこと。」
 「あぁ……」
 乃木坂0046時代、似たようなことを言われたことはあるが自覚と言うのは今まで抱いたことは無い。ああいうオカルト的なパワーでライブの邪魔をする連中と戦うと言えば、アイドルにあるまじきことだが、そういうことをしてきた。そこから、どこか、カルト宗教的な組織の何かになっていくことに対する何か抵抗のようなものがあった。
 「んで、嫌になった?」
 「わからないんですよね。そうして、何かに抗おうとした時にはキララのゲートの中にいて、此処にいて……」
 今にして、思えば、どういう理由で、この世界に導かれたのか。改めて色々と考えてみる。
 「逃げたかった、だけなのかな……」
 「そうかな?自分を変えたかったんじゃない?もっと、自分をさらけ出すとか、そういうこと出来なさそうだし。」
 乃木坂0046にいたときは、齋藤飛鳥になりきることを求められていたし、襲名された時点で、”流石は園凪沙と園智恵理の娘”として見られてしまう。それで、求められた以上のことをすれば、余計なことをするなと言われる。魂の器、代替品として求められることも多かった。
 己と言う個に対して非常に敏感な年ごろに、襲名と言うことをしてしまうのは、苦痛だったろうと、もし、そうではない普通のアイドルとしてデビューしていれば、この世界じゃ、運さえあればランラ・リー程にはなっていただろうと、曲がりなりにもアイドルを家族を持つ陽美は単純な分析をする。
 「じゃぁ、バサラの弟子ってあれは?」
 「どうなんでしょうね……このまま、ここでデビューしても、そういう肩書に惑わされてそう。バサラは関係ない。とか言いそうだけど。それ以上に、今の状態じゃデビューしてもうまく行かないだろうけど。」
 「変に敏感になっちゃうんだよ。ま、有名人を弟子にしたりとか、そういうのを親に持っちゃうと面倒だよね。」
 「まぁ、ね。」
 何を知っているのだろう。なんて、そんなことを考えたくなる。いや、それなりに、アイドル未満の少女も見て愛されてきたのだろう。だから、人の心がある程度、掴めるようにわかるということだろうか。
 「お姉ちゃんが二人いるんだけど、それを言われると、一番上のお姉ちゃんは喜んでた。綺麗だけど、すっごいマザコンだったから。そして、もう一人のお姉ちゃんはね、スッゴイシスコンで、一番上のお姉ちゃんが喜べば彼女や彼氏ができること以外は、凄い嬉しそうだったんだよね。ま、一番上のお姉ちゃんは凪沙ママ以上の人がいない限りは結婚しない。って言ってたけどさ。まぁ、関係は無いけど……でも、私、解んないまま。」
 ただ、此処にいて、バサラと歌うことは、今までにない心地よさに抱かれた気がした。そして、熱気バサラのやること賛同して、今、こうして曲を作って歌ってはいるが、結果は、あのざまだ。でもバサラのように歌で戦いを終わらせる、ミサイルよりもすごい爆発音なんてものが出せない。
 「そりゃ、まだ、14でしょ?それが当然だよ。」
 街頭モニターに映った蒼い髪の男性と緑の髪の女性を突然、指さして口を開いた。
 「あれ、うちの爺とおばあちゃん。」
 「随分と若い外見の祖父母ですね……」
 「この不老を証明するために、おじいちゃんはゼントランになった。そして、寿命と若さが永遠に近いものになった。って映画が出たときは笑ったけどね。ね、命。」
 「はい?」
 「愛・おぼえていますか?」
 この言葉から、どういう意味なのかが理解できずにポカンとするが、陽美は優しく抱きしめてくれる。含み笑いもありながら、ぽんぽんと頭を撫でられるのは、悪い気持でもない。
 「は?」
 「まぁ、それはさておき。」
 構造がシンプルなのだろうか、こうして優しくされるだけで妙に心が落ち着いて嬉しい。バサラの父性的な物とは違う、そういう年の近い女性から、これがトキメキと言うものなのだろうか。そうだとしたら、これも単純なのだろうとも思うし、これこそ恋愛なんてものを体験していないからこその、そういうことを体験する年齢だからなのだろうか。
 「それで、私も、当然、パイロットになったらそういう色眼鏡で見てくる人もいたよ。」
 似たような境遇なのかもしれない。
 「だから、私は命を好きになって愛したいって思ったんだろうねー。だって、普通は私を知れば、その名声がほしくて抱かれてくる女だっているんだよ?知らないとはいえ、そういうのを気にせず、こうして接してくるの樹里と隊長と、他のメンバーと命しかいないし。ジーナス家の女……マックスとミリアの血を引く女だからね。バサラのパートナーのミレーヌおばさんや、一時的とはいえ、バサラとパートナーを組んだエミリアおばさんなんて有名人がいるからさ。」
 目的で近づく輩も多くいる。
 「だから触ってやるだけ。触らせないの。打算的なのもいるけど、それだけで好きになられてもね。」
 「あぁ……」
 「レズサキュバスなんて呼ばれてる理由は、それかな。」
 これが理由か。
 そういう部分があるから妙に親近感のようなもの、と言えば、そういうことは無いのだが、偉大なる存在を持っている者同士と言うのか、そういう名前を背負ってるもの同士と言う部分、結局は、こうした似た者同士だから。なんだか、嬉しくなって思わず命の表情から笑みが零れた。
 「やっぱ、笑った顔は可愛いね。」
 「唄って喜んでもらって、一緒に笑いあうこと以外で、こうして笑うのずっと忘れてた気がする。陽美の、おかげかもだね。」
 「命……」
 こいつめ。
 可愛い、食してやりたい。
 触れさせてやりたい。
 自分の処女を捧げたい。
 陽美の中で渦巻くサキュバス的な欲求は止まることが無い。
 真顔で見つめてくる美貌の女性を見て思わず気を許してしまいそうになる。それでも良いとは思っていル心境の変化と言うのは、どこから来たのか。ただ、何となく、秘密のようなものを共有できたのが嬉しかったのかもしれない。
 「キス、していい?」
 「で、でも……そんな……」
 「そこから始まる恋愛もあるよ。」
 手に手を取り合いながら、もう片方の手が優しく腰に触れた。そのまま、引き寄せて唇を重ねるつもりなのだろう。胸の中にかかるトキメキと言う名のエンジンは爆音のように命の身体全体に走り出す。
 そういえば、両親も恋愛した時は自分と同じ年齢だったことを思い出す。
 自分も、そういうものになってしまうのだろうか。このまま、導かれて愛されて、弱みを見せて真実を話す目の前の人に対して。
 「そういえばさ。ミレーヌおばさんがFire Bomberで活動してプロトデビルンと戦った時は14才だったらしいよ。命と同じだね。」
 そのまま、このまま、身を委ねてしまいそう。
 ただただ、同じ境遇だから、通りで解ってしまうけど、そうしたことに対する解りやすさと言うのは人と人を繋がらせるのには調度良いきっかけになるのかもしれない。だから、だから……一緒にいれば、どうにかなるだろうか。考えると、なぜか、楽しそうなヴィジョンが脳裏に流れる。
 しかし、一瞬、唇を重ねようとしたとき、その脳裏に美月の姿が一瞬、入り込んだ。なぜ、あの人の影が脳裏に走ったのか。
 「お待ちなさい。」
 考えていた時、鋭くも美しい声が命の耳の中に入った。その先にいたのは、まさに脳裏で考えていた人だった、美月……明らかに不快な顔を浮かべて、細い目を吊り上げて、背中にゾッとするのが走る感覚が陽美の中に走り込んだ。確かな殺気。脅すつもりであるのだろうが、それ以上にナイフを持って、これから殺し合いすることも厭わない危険さを持っている。ただのお嬢様でないことを兵隊としての勘が見抜く。
 「ど、どうして……」
 「貴女に会いに来たから。そうしたら、変な雌猫と絡んでいるんですもの。」
 ただただ、それが不快だ。吐き捨てるように、目の前の美月にとっては金髪で下品な女がとにかく気に入らない。まして、この一日、ずっと一緒にいたような雰囲気が、自分の中に後悔を生んだ。敵を殺してしまえば、このまま、八つ裂きにしてしまえば。いや、あの出会いの時に、斬り裂いておけばと、自分の愛する姫は何処まで狙われたのかと苛立ちと同時に心配な性格が芽生えていた。
 「……失礼ね。同意の上よ。」
 「同意?この状況が?貴女が押さえつけているようにしか見えなくてよ。」
 勝ち誇ったような声、その美貌を象徴するストレートロングの髪を揺らして背中から命を抱きしめた。
 「命、こんな女の処にいないで、一緒に来なさいな。私が貴女を最高級の場所にいつでも連れてってあげるわ。」
 「財力で奪おうとするんだ。それって、自分は財産しかない。って言ってるようなもんじゃない?」
 「あら、お望みなら力づくで奪ってあげる。」
 命は、陽美と美月が出会ってはいけない二人が自分を通して出会ったことに気付く。目の前で二人が良い争いをしている。それに関して、何を思えばいいのか、ただただ、黙るだけ。
 何か、自分のことについて言い争いをしているのは解るが、それをまともには聞きたくない。ただ、何か、それが嫌だった。自分を思ってのことのケンカなんてのは、そんなのは傲慢な女の妄想だと思っていたが、どうも、こういう会話を聞いていると、そうではないらしい。
 片や天才パイロットと、片や良い処のお嬢様だ。その陶器、作られた人形のようにも見える美貌の持ち主である二人が一人の少女を巡って。二人が男であれば、一部の女性にとっては嬉しい物なのだろうが。こういう時、どうすれば良いのかわからない。経験をしていないというのもあるが、それ以上に、それが嫌だと、言うこともある。逃げ出したくなった。
 このまま、後ずさりしている自分がいた。思えば、こういう争いが、そんな好きじゃなかった。
 あの世界の時だってそうだ。芸能の解放と謳う行動のための武力行使。理不尽なのはわかるがと口にしつつも、必要であれば暴力で打って出る行動。あぁ、思えば、母たちは最後のライブで、それを為したのだ。歌の底力に酔った。だから、唄うということが好きになったんだと。バサラの思いに共感したのは、こういう部分があったのかもしれない。
 その過程で何かを忘れて、それが出来なくなった。だが、あそこにいたときは魂に縛られるだけで、望んでいたものが出来なくなったから。それに、こういう状況ですら、自分は何もできないし、歌っても無駄だ。自分の歌をどうにか出来ない自分が、目の前の二人の言い争いを止めることなど……
 後ろを振り向いて逃げようとした、そのときだった。
 「それでいいのか?」
 「バサラ……」
 神出鬼没なのはわかっているからこそ、そこに保護者である熱気バサラがいることに驚きはしなかったが、タイミングがよすぎると内心、突っ込みを入れながらも、この状況に来てくれたのは嬉しかった。同時に正直、助かったと思った。何に助かったのか。逃げるチャンスじゃない。
 その言葉を聞いた時、ハッとするものがそこにはあった。
 「ギスギスしてんな。歌でも聞けよ。そんなんじゃハートが爆発した時、とんでもないことになるぜ?」
 「関係ないでしょ。突っかかってきたの、この女なんだし。」
 「あら、貴女には勿体ないだけと言っただけで、突っかかった。訳じゃなくてよ?」
 売り言葉に買い言葉とは言うが、まさに、この状況がそれだ。その状況をどうにかしたいのか、バサラがギターをかき鳴らす。そのメロディはバサラが唄わない歌、そして、イントロと思われる部分を優しく弾き鳴らす。しかし、唄おうとはしなかった。バサラは、唄うことをしなかったのだ。
 ”どうして唄わないのか”
 そう、聞こうとしてもバサラの表情はどう見てもこたえてくれそうにもない。バサラは、何をしたいのか。命は最初は良く解らなかった。当然、喧嘩している二人は罵詈雑言を散らしながら、バサラのギターに対して聞く耳すら持とうとしない。バサラの顔を見て、どうすれば良いのかと訴える。
 顔は相変わらず優しく、知らないメロディを口にするだけ。何をすればいいの。
 教えてほしい。
 いや、答えは出ているのだろう。
 バサラの、その行動すべてがバサラの答えなのだ。
 だが、命は気づかない。
 その奏でている音楽でさえも。
 ずっと、イントロの部分をかき鳴らしながら、命を待っていることに気付こうともしない。
 心を落ち着かせて、止まることのない雑音を掻き消し、バサラのギターのメロディに耳を傾ける。どうすれば良いのか。
 (何を……)
 何をすればいいのか、その先の答えを見つけるために必死に動き出した。身動きを取らなければ行けないのに、現実から逃避したくなる自分が、そこにいる。だから、まともに考えずに逃げようとしてしまうのかもしれない。
 ただ、一度、その場でゆっくりと落ち着いて、どうしようと考えてしまっている。改めてよく聞きなおし、そこにあるのは、自分の作った歌であるというのが良く解る。熱気バサラが奏でている自分で制作した楽曲。
 これで、二人の唄を止めろとでも言うのか再び、一瞬だけバサラの顔を見た時、ニヤッと笑う。それが、バサラの狙いだったのだ。なら、唄うしかないだろう。しかし、自分に、それが出来るだろうか。
 その中で、バサラは、どう唄っていたか。
 自分を信じて、そして、争いを止められるように、そして、信念をこめていた。そして、何よりも歌うことを楽しんでいた。命の葛藤のもとにオーロラが下りてくる。あの打ちひしがれた夜を、こうして思い出す。だから、園命は己を信じた。己の出来ることを。いや、己の作った歌を、この二人に。
 目の前で自分のことで喧嘩している二人に。
 「夜は封印……戸惑い混じれば……」
 命がバサラのギターに合わせて歌い始めた。自分の唄を奏でていた。唄うこと、唄うことを、今。言葉の一つ一つを丁寧に紡ぎながら、バサラのメロディに合わせながら歌い始める。
 これで、喧嘩が止められるなら、止めたい。
 だからこそ、精いっぱい唄う。いっぱい、いっぱい、唄って、一つ一つ大切に言葉を口から紡ぐ。
 一つ一つ、そこにある言葉を大切に二人に届くように紡いだ。命の唄が響くように聞こえたとき、陽美と美月は言葉を発するのやめていた。ただただ、呆けたように命の顔を見ている。そうして、徐々に姿勢を崩し、命の唄に耳を傾ける。何か二人の肉体から浄化されるような何かを感じ取った。
 ただ、ただただ、聞き入れていた。
 その言葉を。
 そこに、どういうものがあったのか。何があったのか。
 己の心境の変化に気付かないまま、ただ、二人とも喧嘩を止めていた。
 そして、夢中でバサラのギターに合わせて歌い続ける命の姿を目で追っていた。
 リズムを取りながら、聞き惚れていた時、気づけば周りには自分たちと同じギャラリーが集まっていた。
 どこからか、聞きつけて、そして、報道のカメラマンもその命の歌う姿を映していた。
 「ソノミコト」その存在を、この世界に示すかのような歌だった。熱気バサラ目当てもいるだろうが、確かに、此処で、今、人が集まったのはその命の持っている歌の力である。周りにいる人達が命の歌に全身を震わせるような興奮を味わいつつあった。
 (え!?)
 唄うことに夢中になりすぎていた命は、その世界を見て驚いた。いがみ合っていた二人が喧嘩を止めた。たった一つの迷いがチャンスをダメにする。
 しかし、今、この些細な二人の喧嘩を自分の唄が終わらせた。
 バサラが与えてくれた前へ通し進ませるチャンスを迷うことなく行使した結果が、今の二人を生んだのだ。
 そして、周りの観客の多さに驚いた。いつの間に、夢中に唄っていたら、こんなにも多くの人が聞き惚れてやってきていた。一瞬、言葉を失いかけたが、それでも、バサラのメロディに合わせて命は最後まで気持ち良く唄った。
 証明するかのように、久々にキララが光り輝いていた。
 「中々だったぜ。命、今の、お前の唄は。」
 「う、うん。」
 自分で、何をしていたのだろう。
 ただ、目の前の最悪な状況だった喧嘩を止めることが出来たのは凄い嬉しかった。物凄い満足感が今、命の身体の中を生まれて包み込み、支配している。
 「良い笑顔じゃない。」
 「ホント、流石は私の命ね。」
 互いに認め合うように陽美と美月が命を抱きしめた。
 今は、敵味方関係なく、命を抱きしめ、そして、周りのギャラリーたちは喝采の拍手を送る。
 (だから、欲しくなるのよ……余計に自分のものにしたくなる。あぁ、私のシンボルにしたい。私の子供を、この子に産ませたい……)
 しかし、それでも邪な考えと言うものは出てきてしまう。
 美月の中に、強い欲求が確かに生まれたのだ。
 陽美の中にも、また強い欲求は生まれてくる。
 二人が考えていた時、SMSを呼ぶ連絡サインが陽美の電話に鳴った。同時に街に緊急事態を示す大きなサイレンが鳴り始めていた。そして、美月は命の頬にキスをしてから、ここから走り去った。何かを知っているような顔だった。バサラは怪訝な顔を浮かべ、陽美は美音を追おうとしたが、命が放っておけずに舌を打って命を抱きしめた。
 命の疑問の言葉が恐怖を告げようとしたとき、その回答は空が割れるように現れた多量の機械兵器の大群の登場と同時に、その意味を教えられた。

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