2014.02.19 Wed
口移しのチョコレート
0048SS
早朝から、起こされて、休日の朝食を取る前の団欒の時間を前に楚方は心を躍らせていた。今日はチョコが貰えると勘違いしている日だと思っているからだ。アキバスターも例外では無く、世間ではバレンタインである。
「ぷいにゅ!」
「そなちー、今日のコスプレは・・・」
いつも、普段着はコスプレと変わらないものであるが、今日のコスプレ衣装は一段と奇抜と呼べるものであった。白い毛並みは抱きつけば心地良く、小さい尻尾はメカニズムでも仕込んでいるかのように動き、楚方の無邪気さとシンクロするように動きまわる。
衣服と言うより、もう、それはキグルミと呼べるほどのものであった。ぬくぬくしながら、口の部分から楚方の瞳がせせら笑うように開いている。ブロンドヘアーがアリア社長の口の部分から飛び出して、無邪気に揺れていた。
「そなちー・・・」
無理やり、楚方に身に纏わされたアリアカンパニーの制服を着込んだ鈴子を眺めている。
「アリア社長だよ!ぷいにゅ。って、鳴く猫さんなのー。アキバスターで夜中にやってた。」
アキバスターでも、ちゃんと深夜アニメと言う物は放映されている物で、偶然、見てしまった楚方はその世界に魅了されたそうだ。
「そうですか。」
「だから、リンダもお話の中に出てくるアリアカンパニーの衣装なのー。」
「そう、なんですね。」
等と、今日の、このコスプレには意味があるわけではないし、アキバスターでARIAが放映されていることも、今回は問題があると言うわけでもない。
「そして、今日はバレンタイン・・・」
「そなちー?」
「皆から、チョコを貰いに行こうー!チョコをくれなかったら、悪戯するのー!」
バレンタインとハロウィンがごっちゃになってしまっていると鈴子ははしゃぐ楚方を見て、思わずメガネがずれてしまった。
「そなちー、悪戯はハロウィンです。」
「おぉ?」
間違えをすぐに訂正し、楚方も、それを受け入れる。
「では・・・」
と、鈴子は楚方の為に作ったチョコレートを手渡そうとした。
しかし、それよりも早く楚方の言葉が空を切ったように鈴子の耳の中に入り込んできた。
「最初は、おねぃと、たかみなからー」
天真爛漫、無邪気な少女とは、まさに、このことを言うのだろう。少し、風変わりな猫のコスプレをしながら鈴子と手をつないで歩く姿は仲の良い姉妹を連想させる。しかし、鈴子の心中は、そういうわけもなく、楚方に見せないようにラッピングされたチョコレートをアリアカンパニーの衣装のポケットの中に入れた。
「りんだ?」
「何でもありません。行きましょうか。」
ふと、ばれそうになったが、冷静に切り返し、何事もなかったように歩きだす。今は、まだ、これでいいのだと自分に言い聞かせるように。
「うん!」
結ばれた者同士という物は、何処か気楽なもので、襲名という問題よりもイベントを重視する彼方がいる。基本、襲名する名前にはこだわらない。それゆえか、誰を演じるつもりもなく、自分の能力を高める姉を見て誇らしいと楚方は思う。が、そんな妹の今抱いている欲など知らずに二人の空間は出来上がりつつある。
傍から見ると、学園ドラマのような憧れが積み上げられて成就した先輩後輩カップルは、時に罪悪感を出しながら、時に一緒に笑いあいながら純粋に見えて歪な組み合わせであるとも言える。
「た、たかみなさん!」
煮え切れないとでも言うべきか。緊張の獣に捕らわれて、チョコを渡すことに凄い勇気を使っている。それだけ力強く握っていれば、仲のチョコも割れてしまいそうではあるが、今は、それどころではない。
「んー?どしたー?」
「こ、これ!たかみなさんに作ってきました!」
いつも通り、二人きりの部屋から、それは始まって乙女のような雰囲気を醸し出しながら、その後は流動的に18禁的な流れになっていくことを予測して、鈴子は制止した。
「そなちー、これ以上はいけません。」
「えー、なんでー?おねぃからチョコ、貰ってないよー!」
鈴子は知っている。
この後の部屋に甘い雰囲気が充満する中で、彼方が何をしようとしているのかも。楚方に見せれば教育上、よくないことは分かっているし、そんな行為を見せれば、どういう反応をするのかなんてことも分かっている。しかし、それでも羨ましいとは思っているのが鈴子の憧れ的な部分でもある。
「きっと、お夕飯の時に貰えますから。」
「そっかー。」
リンダが言うなら間違いないとあっさり引き上げて、
「次は佐江と悪人の場所―」
相も変わらずと言えば、AKB0048と言う組織の中で出来あがっているカップルと言う物は、常に、そういう物なのか?と、思うほど、甘い空気に満たされている。
「メグ、見られちゃうよ…76期の皆がいるんだよ?」
(見られてるってか、見せつけられてるっての…)
76期の人間の重いため息が聞こえるラウンジに、それはいる。
「去年は、佐江が見せてあげよう…って、言ったくせに…」
「でも、こんなキス…」
リビングであろうとも、二人の空間は変わることは無い。76期は、既に、この光景に慣れて、そこでディープキスしようが、それ以上のことをしようが意に介さずと言うのが、暗黙のルールと化している。最も、それは二人のモラルと言うモノを信じていると言うことが前提である。
「佐江の反応、可愛い…」
呆れを通り越して、そこまで人前でディープキスなどすることに感心してしまうほどで、
「ん、メグのキス…甘い…」
「佐江へのチョコレートだよ?」
小悪魔のような顔を浮かべ、いちゃつくと言う行為をやめようとしない。
今まで、嫉妬やら、そういう負の感情まで積み上げてから、一気に蟠りを解消するように復活したからか、その情愛と言う物は呆れを通り越して、尊敬の意を向けるほどには熱い。
そんな、光景を76期のメンバーと一緒に見ていた楚方は無理やり、割り込もうとしたものの、鈴子と76期のメンバーに見事に止められた。少し、頬を膨らませて不満のアピールをしたものの、正直、可愛いとしか感想は出てこない。
「楚方、メグと佐江からチョコを貰おうと思っても、今はダメだよ。」
「えー・・・」
また、もらえないのかという落胆もあり、落ち込んでいたところ、そういう部分を見せられては仕方ないと言うことで、76期は昨日、購入しておいた市販のチョコを落胆した楚方に渡した。
「よし!他の部屋にも行こう。」
と、失った元気を取り戻すかのように、この後、楚方は、渡辺麻友と柏木、小嶋陽菜と秋元才加等など、当たり障りに行ったものの、所謂、相手のいない人間からは貰えたものの、既に恋人同士であるメンバーからは貰えること等、出来るわけもなく、恐らく、この最後のカップルも貰えることは出来ないだろうと鈴子は踏んだ。
無論、楚方は、その法則事態に気づいてもいないので貰う気満々であるが。
「最後は、凪沙と智恵理だよー」
「はい。」
と、返事をした時、鈴子はふと思った。
「は。」
此処に来て、重大な問題…等とは、よく言ったもので、凪沙と智恵理のことを考えると、やはり、その性欲的なものが展開されているはずだ。
そんな物を見せられてしまえば、真似したがるのでは。と、一抹の不安を覚えた。しかし、まだ、休日とはいえ、昼まである。そんなことを良識のある二人がしないと思い、扉の前に立ち、ゆっくりと開いて中の様子を確認して見る。
「智恵理、その、バレンタインチョコなんだけど…」
すっくと立ち上がり、机の上に予め用意されていた物が目の前のものを手に取った。
「何で、はだかんぼう?」
「それは、そなちー、突っ込んではいけません…」
そして、昼だと言うのに、もう、衣服を身につけていないと言う状況から、昨日のまま、眠りについて、そのままの姿と言うことなのだろう。そして、チョコを渡すのだと、鈴子は踏んだ。
智恵理と凪沙。知らぬ者はいないほどに、互いを互いが認めあううちに愛し合うようになったAKB0048史上、最高のバカップルと言われている。良きライバルとして、良き恋人として、MCで惚気てしまうのが最近のAKBと言う組織の流行にもなるほどに。
先ほど、手に取ったベッドの近くに置いてあった液体の入った容器を手に取り出して、智恵理は、それが液体チョコレートの入ったモノだと理解した。
凪沙は、一瞬だけ、悪戯な笑みを浮かべながら、ぬるく溶けているチョコレートの液体を胸の谷間に流し始めた。
多少の冷たさがあるのか、一瞬だけ武者ぶるいをしたが、後は誘惑をするかのように甘い笑顔を智恵理に向けている。
「私からのバレンタインチョコ・・・受け取ってくれる?」
挑発的な態度。
いや、此処まで積極的な凪沙を見るのは久しぶりとでも言うべきか。とにかく、刺激的な行為を見せられて、智恵理は息を飲んだ。
常に相手に飢えているし、幾ら、愛を貰っても、無限に欲しがるほどに。
「智恵理、こういうの好きでしょ?」
「そ、そんなわけ…」
多少の成長をし、無理に谷間を作った胸の間に液体チョコレートを流し込んで、そこから、アンダーの谷間から液体がゆっくりと流れ出て凪沙の生え揃っていない陰毛に流れ、そして、蜜と一つに溶け合い始める。昨日の残り香が漂う部屋の中に、チョコの甘い香りが混ざり合い、淫らな空気を生み出した。
「食べない訳が無いじゃない!」
一筋のブラウンカラーの液体がとろとろと凪沙の肉体を蔦って、凪沙の蜜と混ざり合う。
昨日、たくさん、愛しあった証拠のである蜜も空気に逆らえずに流れだし、それとチョコレートが繋がりあいながら凪沙の身体を支配するように流れて行く。
引き締まった肉体に流れる蜜と混ざったチョコの液体は智恵理を興奮させることに充分であった。
何より、自分が昨日、凪沙から生み出した蜜と自分にプレゼントされるチョコが混ざりあうと言う、最高のブレンドチョコレートに突き動かされない訳が無い。
「もう、凪沙ぁ…!」
「来て…智恵理…」
誘いの言葉に乗り、智恵理は凪沙を、そのまま押し倒し、肉体に流された、凪沙の液体と一つになったチョコを余すことなく、その舌先と淫唇で味わった。愛撫によって訪れる刺激が凪沙の肢体を反らせて智恵理は拘束するかのように恋人を繋ぎをする。チョコによって自らの白い肌もブラウンに染まるが、それでも、
「凪沙…私のも…」
と、誘いをかけるために…二人だけの甘い空気がチョコレートを彩り、それに比例して甘くなる。智恵理の凪沙だけでも失いたくないと言う重いが強い愛の形となって、一つの独占のような形を生み出した。それでも、放っておけないし、ライバルとして意識し始めてから、さまざまな智恵理を見てきて放っておけないから、その要素が合わせって凪沙と智恵理の愛が出来あがり、今でも無限に成長する。
「これ以上は、流石に…」
と、当初の目的を果たそうとしていたが、この二人が、こうなれば貰えるわけもなく、二人は扉の前から再び退散する。
「皆、貰える雰囲気じゃないね。」
「そうですね…」
寂しさを感じながら、とぼとぼ歩く楚方を見て、自分のプレゼントする予定のチョコレートに目をやった。
ともあれ、部屋に戻ってきて、楚方はメンバーからたくさんもらったチョコを見て、どれを食そうかと目の前の少女は悩んでいる。
しかし、鈴子は、まだ、自分の手の中にある物は渡してはいない。ただ、羨ましいと言う重いだけが膨れ上がる。恋人がいるメンバー達を見て、自分も楚方に対して前向きになりたいと思えるほどには。
だから、今が時期だと思い、鈴子は口を開いた。
「そなちー!」
声が裏返った。
その姿が妖精と呼べるものに一瞬、見えた。
お伽噺で呼んだ幻想世界の生き物が、鈴子の世界の中にいるのだと。
余りにも可憐すぎたのだ。自分が別世界にいるような、そんな気分にさせてくれる人間を自分は愛しているのだと言う自覚から、声が裏返った。
しかし、それでもちゃんと聞こえて入るはず。
楚方が、言葉を返す前に自分を刹那の瞬間に落ち着かせて、お伽噺の世界の住人に恐る恐る近づき、改めて声をかけた。
「そなちー、私からのチョコ、受け取ってくれますか?」
「おぉー!リンダのチョコー!ありがとー!」
目の前の猫のコスプレをした少女は大いに一人で盛り上がり、キャッキャとはしゃいでいた。
そんな子供らしさが、まだ残っている楚方が魅力的で、そして、惹かれてしまうほどに好き。
鈴子の中は楚方で満たされていく。貴女を推しているのよ。と。まだ、自分しか見ていないから、そういう感情は解らないのかもしれないが、鈴子は、ちゃんと楚方に思いを寄せている。しかし、自分の愛と言う名のエゴで作られた鳥かごの中に、妖精を閉じ込めてしまうことに対する罪悪感と言う物さえ生まれてくる。
しかし、それゆえに、そんな背徳感が出てしまうが故に、楚方を自分のモノにしたくなる。
それが、独占欲の塊なのか、純粋な憧れから来る物なのかを天秤に諮れば、恐らく、その両方なのだろうと鈴子は思う。
それでも、誰かのモノになる前に。誰かが、楚方の心を虜にする前に。自分が、彼女のことを欲しいと強く思う。鈴子は捕らわれているのだと思う。
楚方に初めて出会った、あの日から楚方に心を奪われて、彼女の内面を知って、より、惹かれて行った。
誰よりも姉を心配する心、誰よりもAKBという組織を天真爛漫に楽しんでいる姿を見て何度、勇気づけられただろうか。そして、そんな思いを抱くたびに、その妖精を自分の手におさめたくなった。
支配欲と独占欲に溺れるほどに、目の前の女は毒素が強い。そういう考えを起こさせるほどに独占欲が控えめな部分を黒く塗り替えて、そんな物は無かった物にしていく。
「そなちー・・・」
鈴子の中にあるチョコに込めた思いなど、楚方は解ってはいないし、鈴子もそれでいい。と、思っていたが、やはり、こういう季節になることと、他のカップルたちの幸せそうな風景を見てしまうと突き動かされてしまう物がある。
だが、まだ、今は。と、自分を抑え込む。
ただ、いつかは気づいてほしいと言う思いを胸に宿して、目の前のはしゃぐ猫娘を撫でながら、一緒に時を刻む。
理性で抑えることは臆病であろうとも、何れ、二人が近い距離になった時、鈴子は楚方に告げるのだと、まだ、純粋で幼い少女を目で追いかけながら、その先にある未来を少女を妄想する。
自分の思いを伝えることも大切ではあるが、それ以上に、自分の言葉で楚方の未来を潰してしまうことは最も許されないことだから。
無理やり、自分を抑え込んで、まだ、AKB研究生と言う蛹の状態である羽ばたこうとしている楚方の運命を自分が潰してはならないのだ。だから、我慢して欲しいと自分に必死に言い聞かせた。
飲みこもうとする欲望を抑えて、鈴子は目の前の楚方の行動を目で追った。
楚方はテーブルにある、予め自分で購入していたのか、それとも、貰った物なのか、ラッピングを解いて口の中に頬張り、鈴子を見つめた。
「そうだ。リンダー」
「はい?」
「ちょっと、背を縮めてー」
そう言われて、かがんで、楚方の目線に合わせることだろうと思い、鈴子は楚方の目線に合わせるために屈んだ。キョトンとしながら待っていると楚方が顔を近づけて鈴子との距離が近くなるほどに、近づいてきた。
「昨日ね、女の子同士でキスするアニメもやってたの。」
小さい言葉で紡いだ後に楚方が鈴子の頬を掴み、一気に顔を引きよせて鈴子と唇を重ねた。
幼く甘い、チョコの匂いのする楚方の唇が唾液とあわせて、鈴子の口の奥から全体へと広がっていく。口の中にチョコを口移しで、舌に乗せたチョコが鈴子の中に送りこまれていく。
くちゅくちゅと、音を発しながら、口から、体内全てに流れ込んで来る液体を確認しながら、溺れて行くような感覚に飲まれて行く。
楚方に優しく抱きしめられて、甘美で官能的なキスの味が鈴子の肉体を解放させる。
甘いチョコの香と鈴子の蜜が混ざり合った臭いが口いっぱいに広まって、身体全体に広まっていく。チョコの奴隷にでもなったように、甘いカカオの香に身を委ねて一瞬、二人のキララが光り出して、二人の前に誰かが見えたような気がした。
「リンダ、ハッピーバレンタイン♪楚方からのチョコのプレゼントだよ。」
「そなちー…こっちが抑えていたのに反則です…」
その後、見せた楚方の小悪魔な笑顔は鈴子を惑わせる
「ぷいにゅ!」
「そなちー、今日のコスプレは・・・」
いつも、普段着はコスプレと変わらないものであるが、今日のコスプレ衣装は一段と奇抜と呼べるものであった。白い毛並みは抱きつけば心地良く、小さい尻尾はメカニズムでも仕込んでいるかのように動き、楚方の無邪気さとシンクロするように動きまわる。
衣服と言うより、もう、それはキグルミと呼べるほどのものであった。ぬくぬくしながら、口の部分から楚方の瞳がせせら笑うように開いている。ブロンドヘアーがアリア社長の口の部分から飛び出して、無邪気に揺れていた。
「そなちー・・・」
無理やり、楚方に身に纏わされたアリアカンパニーの制服を着込んだ鈴子を眺めている。
「アリア社長だよ!ぷいにゅ。って、鳴く猫さんなのー。アキバスターで夜中にやってた。」
アキバスターでも、ちゃんと深夜アニメと言う物は放映されている物で、偶然、見てしまった楚方はその世界に魅了されたそうだ。
「そうですか。」
「だから、リンダもお話の中に出てくるアリアカンパニーの衣装なのー。」
「そう、なんですね。」
等と、今日の、このコスプレには意味があるわけではないし、アキバスターでARIAが放映されていることも、今回は問題があると言うわけでもない。
「そして、今日はバレンタイン・・・」
「そなちー?」
「皆から、チョコを貰いに行こうー!チョコをくれなかったら、悪戯するのー!」
バレンタインとハロウィンがごっちゃになってしまっていると鈴子ははしゃぐ楚方を見て、思わずメガネがずれてしまった。
「そなちー、悪戯はハロウィンです。」
「おぉ?」
間違えをすぐに訂正し、楚方も、それを受け入れる。
「では・・・」
と、鈴子は楚方の為に作ったチョコレートを手渡そうとした。
しかし、それよりも早く楚方の言葉が空を切ったように鈴子の耳の中に入り込んできた。
「最初は、おねぃと、たかみなからー」
天真爛漫、無邪気な少女とは、まさに、このことを言うのだろう。少し、風変わりな猫のコスプレをしながら鈴子と手をつないで歩く姿は仲の良い姉妹を連想させる。しかし、鈴子の心中は、そういうわけもなく、楚方に見せないようにラッピングされたチョコレートをアリアカンパニーの衣装のポケットの中に入れた。
「りんだ?」
「何でもありません。行きましょうか。」
ふと、ばれそうになったが、冷静に切り返し、何事もなかったように歩きだす。今は、まだ、これでいいのだと自分に言い聞かせるように。
「うん!」
結ばれた者同士という物は、何処か気楽なもので、襲名という問題よりもイベントを重視する彼方がいる。基本、襲名する名前にはこだわらない。それゆえか、誰を演じるつもりもなく、自分の能力を高める姉を見て誇らしいと楚方は思う。が、そんな妹の今抱いている欲など知らずに二人の空間は出来上がりつつある。
傍から見ると、学園ドラマのような憧れが積み上げられて成就した先輩後輩カップルは、時に罪悪感を出しながら、時に一緒に笑いあいながら純粋に見えて歪な組み合わせであるとも言える。
「た、たかみなさん!」
煮え切れないとでも言うべきか。緊張の獣に捕らわれて、チョコを渡すことに凄い勇気を使っている。それだけ力強く握っていれば、仲のチョコも割れてしまいそうではあるが、今は、それどころではない。
「んー?どしたー?」
「こ、これ!たかみなさんに作ってきました!」
いつも通り、二人きりの部屋から、それは始まって乙女のような雰囲気を醸し出しながら、その後は流動的に18禁的な流れになっていくことを予測して、鈴子は制止した。
「そなちー、これ以上はいけません。」
「えー、なんでー?おねぃからチョコ、貰ってないよー!」
鈴子は知っている。
この後の部屋に甘い雰囲気が充満する中で、彼方が何をしようとしているのかも。楚方に見せれば教育上、よくないことは分かっているし、そんな行為を見せれば、どういう反応をするのかなんてことも分かっている。しかし、それでも羨ましいとは思っているのが鈴子の憧れ的な部分でもある。
「きっと、お夕飯の時に貰えますから。」
「そっかー。」
リンダが言うなら間違いないとあっさり引き上げて、
「次は佐江と悪人の場所―」
相も変わらずと言えば、AKB0048と言う組織の中で出来あがっているカップルと言う物は、常に、そういう物なのか?と、思うほど、甘い空気に満たされている。
「メグ、見られちゃうよ…76期の皆がいるんだよ?」
(見られてるってか、見せつけられてるっての…)
76期の人間の重いため息が聞こえるラウンジに、それはいる。
「去年は、佐江が見せてあげよう…って、言ったくせに…」
「でも、こんなキス…」
リビングであろうとも、二人の空間は変わることは無い。76期は、既に、この光景に慣れて、そこでディープキスしようが、それ以上のことをしようが意に介さずと言うのが、暗黙のルールと化している。最も、それは二人のモラルと言うモノを信じていると言うことが前提である。
「佐江の反応、可愛い…」
呆れを通り越して、そこまで人前でディープキスなどすることに感心してしまうほどで、
「ん、メグのキス…甘い…」
「佐江へのチョコレートだよ?」
小悪魔のような顔を浮かべ、いちゃつくと言う行為をやめようとしない。
今まで、嫉妬やら、そういう負の感情まで積み上げてから、一気に蟠りを解消するように復活したからか、その情愛と言う物は呆れを通り越して、尊敬の意を向けるほどには熱い。
そんな、光景を76期のメンバーと一緒に見ていた楚方は無理やり、割り込もうとしたものの、鈴子と76期のメンバーに見事に止められた。少し、頬を膨らませて不満のアピールをしたものの、正直、可愛いとしか感想は出てこない。
「楚方、メグと佐江からチョコを貰おうと思っても、今はダメだよ。」
「えー・・・」
また、もらえないのかという落胆もあり、落ち込んでいたところ、そういう部分を見せられては仕方ないと言うことで、76期は昨日、購入しておいた市販のチョコを落胆した楚方に渡した。
「よし!他の部屋にも行こう。」
と、失った元気を取り戻すかのように、この後、楚方は、渡辺麻友と柏木、小嶋陽菜と秋元才加等など、当たり障りに行ったものの、所謂、相手のいない人間からは貰えたものの、既に恋人同士であるメンバーからは貰えること等、出来るわけもなく、恐らく、この最後のカップルも貰えることは出来ないだろうと鈴子は踏んだ。
無論、楚方は、その法則事態に気づいてもいないので貰う気満々であるが。
「最後は、凪沙と智恵理だよー」
「はい。」
と、返事をした時、鈴子はふと思った。
「は。」
此処に来て、重大な問題…等とは、よく言ったもので、凪沙と智恵理のことを考えると、やはり、その性欲的なものが展開されているはずだ。
そんな物を見せられてしまえば、真似したがるのでは。と、一抹の不安を覚えた。しかし、まだ、休日とはいえ、昼まである。そんなことを良識のある二人がしないと思い、扉の前に立ち、ゆっくりと開いて中の様子を確認して見る。
「智恵理、その、バレンタインチョコなんだけど…」
すっくと立ち上がり、机の上に予め用意されていた物が目の前のものを手に取った。
「何で、はだかんぼう?」
「それは、そなちー、突っ込んではいけません…」
そして、昼だと言うのに、もう、衣服を身につけていないと言う状況から、昨日のまま、眠りについて、そのままの姿と言うことなのだろう。そして、チョコを渡すのだと、鈴子は踏んだ。
智恵理と凪沙。知らぬ者はいないほどに、互いを互いが認めあううちに愛し合うようになったAKB0048史上、最高のバカップルと言われている。良きライバルとして、良き恋人として、MCで惚気てしまうのが最近のAKBと言う組織の流行にもなるほどに。
先ほど、手に取ったベッドの近くに置いてあった液体の入った容器を手に取り出して、智恵理は、それが液体チョコレートの入ったモノだと理解した。
凪沙は、一瞬だけ、悪戯な笑みを浮かべながら、ぬるく溶けているチョコレートの液体を胸の谷間に流し始めた。
多少の冷たさがあるのか、一瞬だけ武者ぶるいをしたが、後は誘惑をするかのように甘い笑顔を智恵理に向けている。
「私からのバレンタインチョコ・・・受け取ってくれる?」
挑発的な態度。
いや、此処まで積極的な凪沙を見るのは久しぶりとでも言うべきか。とにかく、刺激的な行為を見せられて、智恵理は息を飲んだ。
常に相手に飢えているし、幾ら、愛を貰っても、無限に欲しがるほどに。
「智恵理、こういうの好きでしょ?」
「そ、そんなわけ…」
多少の成長をし、無理に谷間を作った胸の間に液体チョコレートを流し込んで、そこから、アンダーの谷間から液体がゆっくりと流れ出て凪沙の生え揃っていない陰毛に流れ、そして、蜜と一つに溶け合い始める。昨日の残り香が漂う部屋の中に、チョコの甘い香りが混ざり合い、淫らな空気を生み出した。
「食べない訳が無いじゃない!」
一筋のブラウンカラーの液体がとろとろと凪沙の肉体を蔦って、凪沙の蜜と混ざり合う。
昨日、たくさん、愛しあった証拠のである蜜も空気に逆らえずに流れだし、それとチョコレートが繋がりあいながら凪沙の身体を支配するように流れて行く。
引き締まった肉体に流れる蜜と混ざったチョコの液体は智恵理を興奮させることに充分であった。
何より、自分が昨日、凪沙から生み出した蜜と自分にプレゼントされるチョコが混ざりあうと言う、最高のブレンドチョコレートに突き動かされない訳が無い。
「もう、凪沙ぁ…!」
「来て…智恵理…」
誘いの言葉に乗り、智恵理は凪沙を、そのまま押し倒し、肉体に流された、凪沙の液体と一つになったチョコを余すことなく、その舌先と淫唇で味わった。愛撫によって訪れる刺激が凪沙の肢体を反らせて智恵理は拘束するかのように恋人を繋ぎをする。チョコによって自らの白い肌もブラウンに染まるが、それでも、
「凪沙…私のも…」
と、誘いをかけるために…二人だけの甘い空気がチョコレートを彩り、それに比例して甘くなる。智恵理の凪沙だけでも失いたくないと言う重いが強い愛の形となって、一つの独占のような形を生み出した。それでも、放っておけないし、ライバルとして意識し始めてから、さまざまな智恵理を見てきて放っておけないから、その要素が合わせって凪沙と智恵理の愛が出来あがり、今でも無限に成長する。
「これ以上は、流石に…」
と、当初の目的を果たそうとしていたが、この二人が、こうなれば貰えるわけもなく、二人は扉の前から再び退散する。
「皆、貰える雰囲気じゃないね。」
「そうですね…」
寂しさを感じながら、とぼとぼ歩く楚方を見て、自分のプレゼントする予定のチョコレートに目をやった。
ともあれ、部屋に戻ってきて、楚方はメンバーからたくさんもらったチョコを見て、どれを食そうかと目の前の少女は悩んでいる。
しかし、鈴子は、まだ、自分の手の中にある物は渡してはいない。ただ、羨ましいと言う重いだけが膨れ上がる。恋人がいるメンバー達を見て、自分も楚方に対して前向きになりたいと思えるほどには。
だから、今が時期だと思い、鈴子は口を開いた。
「そなちー!」
声が裏返った。
その姿が妖精と呼べるものに一瞬、見えた。
お伽噺で呼んだ幻想世界の生き物が、鈴子の世界の中にいるのだと。
余りにも可憐すぎたのだ。自分が別世界にいるような、そんな気分にさせてくれる人間を自分は愛しているのだと言う自覚から、声が裏返った。
しかし、それでもちゃんと聞こえて入るはず。
楚方が、言葉を返す前に自分を刹那の瞬間に落ち着かせて、お伽噺の世界の住人に恐る恐る近づき、改めて声をかけた。
「そなちー、私からのチョコ、受け取ってくれますか?」
「おぉー!リンダのチョコー!ありがとー!」
目の前の猫のコスプレをした少女は大いに一人で盛り上がり、キャッキャとはしゃいでいた。
そんな子供らしさが、まだ残っている楚方が魅力的で、そして、惹かれてしまうほどに好き。
鈴子の中は楚方で満たされていく。貴女を推しているのよ。と。まだ、自分しか見ていないから、そういう感情は解らないのかもしれないが、鈴子は、ちゃんと楚方に思いを寄せている。しかし、自分の愛と言う名のエゴで作られた鳥かごの中に、妖精を閉じ込めてしまうことに対する罪悪感と言う物さえ生まれてくる。
しかし、それゆえに、そんな背徳感が出てしまうが故に、楚方を自分のモノにしたくなる。
それが、独占欲の塊なのか、純粋な憧れから来る物なのかを天秤に諮れば、恐らく、その両方なのだろうと鈴子は思う。
それでも、誰かのモノになる前に。誰かが、楚方の心を虜にする前に。自分が、彼女のことを欲しいと強く思う。鈴子は捕らわれているのだと思う。
楚方に初めて出会った、あの日から楚方に心を奪われて、彼女の内面を知って、より、惹かれて行った。
誰よりも姉を心配する心、誰よりもAKBという組織を天真爛漫に楽しんでいる姿を見て何度、勇気づけられただろうか。そして、そんな思いを抱くたびに、その妖精を自分の手におさめたくなった。
支配欲と独占欲に溺れるほどに、目の前の女は毒素が強い。そういう考えを起こさせるほどに独占欲が控えめな部分を黒く塗り替えて、そんな物は無かった物にしていく。
「そなちー・・・」
鈴子の中にあるチョコに込めた思いなど、楚方は解ってはいないし、鈴子もそれでいい。と、思っていたが、やはり、こういう季節になることと、他のカップルたちの幸せそうな風景を見てしまうと突き動かされてしまう物がある。
だが、まだ、今は。と、自分を抑え込む。
ただ、いつかは気づいてほしいと言う思いを胸に宿して、目の前のはしゃぐ猫娘を撫でながら、一緒に時を刻む。
理性で抑えることは臆病であろうとも、何れ、二人が近い距離になった時、鈴子は楚方に告げるのだと、まだ、純粋で幼い少女を目で追いかけながら、その先にある未来を少女を妄想する。
自分の思いを伝えることも大切ではあるが、それ以上に、自分の言葉で楚方の未来を潰してしまうことは最も許されないことだから。
無理やり、自分を抑え込んで、まだ、AKB研究生と言う蛹の状態である羽ばたこうとしている楚方の運命を自分が潰してはならないのだ。だから、我慢して欲しいと自分に必死に言い聞かせた。
飲みこもうとする欲望を抑えて、鈴子は目の前の楚方の行動を目で追った。
楚方はテーブルにある、予め自分で購入していたのか、それとも、貰った物なのか、ラッピングを解いて口の中に頬張り、鈴子を見つめた。
「そうだ。リンダー」
「はい?」
「ちょっと、背を縮めてー」
そう言われて、かがんで、楚方の目線に合わせることだろうと思い、鈴子は楚方の目線に合わせるために屈んだ。キョトンとしながら待っていると楚方が顔を近づけて鈴子との距離が近くなるほどに、近づいてきた。
「昨日ね、女の子同士でキスするアニメもやってたの。」
小さい言葉で紡いだ後に楚方が鈴子の頬を掴み、一気に顔を引きよせて鈴子と唇を重ねた。
幼く甘い、チョコの匂いのする楚方の唇が唾液とあわせて、鈴子の口の奥から全体へと広がっていく。口の中にチョコを口移しで、舌に乗せたチョコが鈴子の中に送りこまれていく。
くちゅくちゅと、音を発しながら、口から、体内全てに流れ込んで来る液体を確認しながら、溺れて行くような感覚に飲まれて行く。
楚方に優しく抱きしめられて、甘美で官能的なキスの味が鈴子の肉体を解放させる。
甘いチョコの香と鈴子の蜜が混ざり合った臭いが口いっぱいに広まって、身体全体に広まっていく。チョコの奴隷にでもなったように、甘いカカオの香に身を委ねて一瞬、二人のキララが光り出して、二人の前に誰かが見えたような気がした。
「リンダ、ハッピーバレンタイン♪楚方からのチョコのプレゼントだよ。」
「そなちー…こっちが抑えていたのに反則です…」
その後、見せた楚方の小悪魔な笑顔は鈴子を惑わせる
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