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娘の心、親知らず

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うづりん・娘SS


授業参観。
子供にとっては憂鬱であったり、両親の前でかっこつけられるがゆえに妙にソワソワする空間が、教室には渦巻いている。
教師が話している最中に、ソワソワした子供が振り返って怒られる。なんてパターンもお決まりで、そういう姿を見て、とある子供の親は、そんな思い出を振り返るかのように幼いころを思い出して渋谷凛は苦笑した。
「涼花ちゃんの番ですね。」
銀髪の母親が、そっと、栗毛色の髪の少女に耳打ちした。
「はい。」
かつての二人は仲間と呼べる関係で、今は良好な関係の親友といえる。
「凛、始まりますよ。」
「わかってるよ。」
黒髪ストレート、一見するとクールな外見の母親が優しく笑顔で呟いた。
二人は夫婦。そして、その二人の子供が、これから”親”という題材の作文を発表する。
内気な子供にとっては地獄そのものに近いイベントに等しい。
そうではない子供は、どうも積極的なのか、恥という概念が薄いゆえに両手を上げて喜んで騒いでいたりする。
騒がしくなる空気を教師が両手を叩いて沈め、静かになった空気を見計らって、二人のレズビアンカップルの子供が声を出して発表し始めた。
「私には二人のお母さんがいます。」
遥かというわけではないが、少し近い未来の世界。かつて、10代のころに第一線で活躍したアイドルという称号を背負った少女たちは第一線から退いて、結婚して母になったり、まだ、女優、声優、歌手として芸能界に残っている。
シンデレラプロジェクトの一期生たちは、全員、卒業し、それぞれの人生を謳歌する。
あるものは相方と一緒にロックシンガーに。
ある者は印税生活を送り、世話焼きな相棒と暮らしたり。
ある者は食道楽が功を奏してグルメレポーターとなり、相方と店を出す。
ある者は二人の妹のような存在を連れ3人でモデルとして活躍。
ゴシックロリータの衣装に身を包んだ内面は素直で真面目な緋眼の少女だった女も、そのキャラを昇華させ、その手の衣装の専門誌専属のモデルになり、かつての組織のムードメーカーは彼女のマネージャーとなり結ばれる。
ラブライカとしてユニットを組んでいた二人は、そのまま恋仲になり結婚をし、そして子をもうけた。
「名前を渋谷凛、渋谷卯月といいます。両親は、南那ちゃんの二人のママと同じアイドルのグループで昔は一緒に働いていました。」
大学を卒業し、そこから、さらに数年経った後、渋谷凛もシンデレラプロジェクトを卒業した。
特に芸能界に未練の無かったがゆえに、オファーは来たものの、卯月のいないグループでやりようはあるのか。と、言えば、凛にはない。
もとよりアイドルになったきっかけが卯月の存在だ。そうして、恋愛をして、何年も経って、互いの良いところ、悪いところを見やってきた。それでも、愛していられるのだから、結婚しても大丈夫だろうと踏み、シンデレラプロジェクトの卒業と同時に結婚である。
それは、美波とアーニャもそうなのではあるが、それは割愛。
卯月は人妻となっても話題のママドルとしてアイドルを続けながら渋谷家が長年経営している花屋の看板娘として過ごしつつ、凛との子供を授かったというのが大まかな経緯だ。
名前は、先も述べたように涼花。
渋谷涼花は、正真正銘、養子では無く、二人の遺伝子を受け継いだ子供。時代を築いた二人のアイドルの子供であれば、当然の如く、容姿は誰から見ても一際目立つほどに、贔屓目に見なくても可愛いという言葉が似合う。
また、それは美波とアーニャの娘である南那も同じこと。
もとより、そんな同じ組織に属して、さらにご近所に住む新田の家と渋谷の家。関係は今でも続き、美波とアーニャの娘である南那は、卯月と凛の娘である涼花の親友でもある。
(凛、涼花、頑張ってるね。)
(うん。)
そうして授業参観というイベントの日に、二人がこうして、わざわざ小学校までやってきたわけだ。
先も述べたように、既に、同性カップルにも子供が出来る時代。
選択肢の幅も広がり、より、自由になったと、まぁ、そういう世間的な物は、今、説明する必要はないだろう。
順風満帆の家庭。
多少、生意気盛りな部分もあるが、そこは年相応の可愛さと呼べるので許容範囲だ。無邪気さと呼べる年相応の可愛さを持ちつつ、どこか達観したような雰囲気を併せ持つ。
(もっと、緊張しているのかと思ってた。)
(しっかりしてる。凛に似たのかな?)
(そうかな?)
小声で会話しながらいちゃつく母親を二人を前に、当の娘は、しっかりと両親の素晴らしいところを自慢する作文を読み上げて、そんな娘の両親は惜しみない賞賛を送る。親ばかそのものだ。ほっこりとしながら、卯月と凛は微笑み合った、その刹那の瞬間だった。この教室の空気を換える発言が飛び出したのは。
「でも、凛ママは、今でも卯月ママに甘えてばかりです。私が卯月ママに勉強を見てもらおうとしたら、『涼花は、確かに卯月と私の娘だけど、でも卯月ママは、あたしだけのものだから。』と、いつも、お決まりの文句を吐いてから、卯月ママの所有権を主張して、私から奪ってしまいます。お陰で、二人きりの時じゃないと卯月ママに甘えさせてくれません。」
(涼花っ!?)
思わず、卯月が咳き込んだ。
この後、綴られていく過程の真実を恥もなく曝していく娘の姿に戦慄するのは言うまでもない。
「いまだに、一緒にお風呂に入らないと、凛ママは涙ぐみます。」
(ちょ、涼花!!)
叫びたくても叫べない。
どの道、真実。
ここで叫んでも醜態を曝すようなもの。
その無意味さなど、一番よくわかっている。
流石に、アーニャが同情するように背中を擦る。
だが、攻撃は止まりそうにもない。機関銃のように、弾が切れるまで容赦なく打ち込んでいくように、卯月と凛の私生活が暴露されていく。
「そして、この前、凛ママは、卯月ママとのいちゃいちゃに夢中のせいで御飯の準備が、かなり遅れることになりました。TPO位、わきまえてほしいものです。」
過程の内情を晒されると言うことに次第と頭が痛くなってくる。
美波とアーニャがあわてて、二人を支えるが、それを他人事だからなのだろう。
周りの親たちは笑いを堪えるように口を押さえて、涼花の読み上げる作文を聞いていた。とはいえ、中には羨ましいという声もあったのだが、そんな物を聞いている暇すらない。
熱すぎる夫婦の内情を赤裸々に語られると言うのはマスコミよりも性質が悪い気がする。
「確かに、卯月ママは凛ママの奥さんですが、その独占欲はいかがなものかと思います。私とて甘えたいのに、それを許さないのは横暴と言うものです。」
一瞬だけ後ろを振り向き、悪魔のようにニタっと笑う愛娘を見て思わず、凛の心臓は鷲掴みにされたような感触が襲いかかった。
卯月に至っては「どうして、そんなことまで……全部、見られてたの?」と、でも言うかのように混乱している表情を浮かべている。
何年経っても、可愛いと、ついつい、心を奪われてしまうが、それどころではない。血の気が引いていくのが自分でもわかる。大衆の前で暴露される恥ずかしさを承知で、このようなことをしている。
確かに、卯月への独占欲が強いのは認めるが、それとて愛しているのだから仕方ないではないか。
暴露される恥ずかしさなんてものは、身を引き裂かれそうになるほどの激しさという物が全身を電流となって駆け抜ける。
比喩では無く意識が白くなる。
セックスの時以外に、こういう感覚に陥るのは随分と久しぶりなことだ。
頭痛が痛い。そんな表現さえしたくなるほどに現実逃避をしたくなる現実が今、そこにある。
しかし、言われてみれば凛とて子供に対しては優しく扱ってきたが、こと卯月に関することに対しては娘と大人げなく対立していたことが脳裏に蘇る。
大人げなかったかもしれない。だが、それを、こういう場で公表するほどの怨みなのか?ただただ理解できない、凛にとっては理不尽な何かが付き纏う。
家に帰ったら思い切り、怒って、尻をぶったたいて、一週間ほど勉強漬けの刑にでも処そうか。
頭の中が徐々に思考が出来なくなるほどの恥ずかしさに混迷を極めつつあった。
全身から嫌な汗が噴き出る。
同時に薄れていく意識をアーニャが揺さぶることによって、なんとか保つことが出来た。
「そ、そう……渋谷さんの家は、仲が良いのね……」
そこで、教師の助け船が入ったかのように遮られ、全ては事なきを得た訳ではない。
ただ、この後、夫婦円満の秘訣は?と、見知らぬ夫からの愛情が飢えた妻から相談はされたこともあって、このことは当分、尾を引きそうだ。と、誰もが思った。
「え、と、じゃぁ、次は新田さん……」
ただ、この日、他に被害を受けたのは渋谷凛と渋谷卯月だけでは無かった。
「渋谷さんの家でも発表があったと思いますが、私の家でもアーニャママが美波ママを独占しています。」
その後の新田南那の発表にて、新田家も顔面蒼白になったのは言うまでもなく、そのあと、帰りに叱ろうとしたのだが、周りの子連れの親が「アラアラウフフ」と微笑ましい家族と言うかのように笑顔で、見つめていた。
その奥に、どういう意味を含んでいるのか、ありとあらゆる感情が込められていることがよくわかる。
子供の無邪気さは可愛らしい。
しかし、時に残酷だと、親となった4人は改めて思い知ったのだった。

| 適度なSS(黒歴史置場?) | 00:00 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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