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Jane Doe

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クリスマスSSってことで。
0048の彼方と、たかみなさん。
なんで、この二人かってのは、あれだよ。0048で、美森がクリスマスまでに襲名しなさいーって言ってたから、それにあやかって。
なぎちえは、今月、誕生日のSSも書いたしね。
って、ことで、高橋みなみこと有沢栞と東雲彼方。
タイトルは、あの、高橋みなみのソロ曲。


「たかみなさん・・・」
「彼方・・・」
「センターノヴァ、おめでとうございます!」
「おう、ありがと。」
誓い合った夏は過ぎて行く。
変わったことは、有沢栞がセンターノヴァの座を奪ったことくらいだろうか。有沢栞は、輝いた。
「センターノヴァになった御褒美は無いの?」
悪戯な笑みを浮かべながら、唇に指を当ててキスを強請る姿が官能的に目に焼きついた。
「智恵理と凪沙だってしてるんだし、今日くらいは…ね?」
羨ましさもあって、メンバーたちが見ている目の前でキスをさせられた。
しかし、その時の表情は乙女そのものであり、とても可愛らしい自慢できる彼女になっていく。何処までも美しく、そして、優しく輝く光が人々を魅了していく。
だが、それを見て、自分はなんなのだ。突如、世界が黒に染まる。自分の周りの世界が偽りに満ちて行くように。それは、周りと見比べて他の世界が輝くどころか、他者の世界は青く美しい。
しかし、自分は醜い暗黒の世界にいる。
羨みながら他人の世界を望んだ時、自分の世界に返された。今、この人の自分の負の感情で満たされた黒い世界が別の誰かがいる世界。
貪欲になってきたつもりではあった。努力はしてきた。今まで以上に。しかし、それを嘲笑うかのように彼方は襲名はおろか、センターノヴァになって輝くことすらも出来なかった。そんな自分を誰かからみても、生き急いでいるような、そんな雰囲気から見て取れると言う。
しかし、誰にもわからない。
何も分からない。
目隠しされながら迷路の中をがむしゃらに進んでいる。

クリスマスの季節。
終わりが近づく時期。かつて、地球の日本という国で12月は師走とも呼ばれていた。
その言葉の意味通り、今の自分の状況にぴったりだと思いこむ。
この時期、何があった。
自分が報われない努力にもがいている間、楚方が松井珠理奈、鈴子が松井玲奈、織音が倉持明日香を襲名し、後輩にも妹にも置いていかれた。輝く妹を見る姿を見てあらぬことすらも抱く。「嫉ましい」と。「どうしてなのだ。」と。荒む心を隠せずに妹や、自分よりも先に襲名した後輩達との間に無意識に壁を作ろうとしてしまう自分と言う存在がいる。
これが、自分?
嫌な自分?
違う。
別人であると否定したかった。
その心情の中には、そこまで、このアイドルと言う分野に自分は日陰の存在として追いやられていくと言うのかという焦りがあった。
不運の期は自分だけのモノになってしまっている。
ますます、進まない。
目隠しされたまま、抜け出すことが困難な迷路に放り込まれて焦り出す。何が足りない。何が出来ていない。何に問題がある。泣きたくなる衝動と言う物が身体を襲い、そして、叫びたくなる。無情に満ちた声なき声を発する姿は獣にも見える。感情を吐き出す叫び声が無情にも空に舞い消えて行く。
アイドルというカテゴリをかなぐり捨てて発した醜い声がアキバスターに響き、そして消えて行く。孤狼・・・一人、センチメンタルを気取らなければ、この先、生きていけなくなるほどに彼方の精神は滅入っていた。
妹の楚方は珠理奈を襲名してから、自分を越える活躍を見せて、圧倒的な差まで付けられて、楚方の為に与えられた新曲まであると知ってから無情に叫ぶ。何故、此処まで違う。あの時の美森の「自分達を通り越して簡単に襲名してしまうかもしれない」と、言う言葉が現実になった。同じ血を受け継いだものだと言うのに、どうして、此処まで差が出た。情けなくなってくる。
与えられた世界は全て灰色に崩れ去っていく。ストレスから来る吐き気が生きる心地すらも奪っていく。視界がぼやけて、一人、サイケデリックな空間にでもいるのではないのかと本気で思うようにもなってきた。
出来ない。
出来ない。
襲名できない。
何が足りないのだ。
もう、輝く素質は全部、消えてしまっているのか。
過去の英霊たちは自分を選ぶ気すらないとでも言うのか。
そこまでして、魅力の無い人間だとでも言うのか。
苦しい。辛い。苦しい。辛い。二つの言葉が交錯し、彼方に鎖となってつながれていく。そして、それは、今まで、どんな辛いことでさえも乗り切った彼方に一つの言葉を植え付けた。
逃げたい。
この場所から、全てから、現実から、自分を裏切っても全てから逃げたい。
逃避という選択肢。何から何まで逃げ出したくなる。妹が活躍しているのに自分は今の地位にとどまったまま無力に苛まれている。そして、肉親に殺したいと思えるほどにまで劣情を抱く。
光に手を伸ばしても、その空から黒いヘドロのようなものが落ちてきて自分のいる空間を塞ぎこんで行く。
嫌だ。
自分が黒に染まり、そして消えて行くのは嫌だ。
しかし、光は彼方をさすことは無い。悪意があるとでもいうのか。自分が何をした。最初に抱いていた邪な心は払拭した筈だ。それを抱いていたことすらも罪とでもいうのか。死と言う罰を受けなければならないとでも言うのか。
「嫌だ!!そんなのは、そんなのは!!!」
何故だ。
何故なのだ。
与えられた問題の答えは誰も知らない。
そんな永遠の迷宮をいつまで彷徨わなければならないと言うのか。
誰か、助けてくれ。
無意識に口から出る言葉。「死にたい」「助けてくれ」「もう嫌だ」彼方の口から無意識に紡がれる言葉。自らの耳で聞いて、初めて、そのような言葉を口にしたのだと気が付くときもある。
努力は報われる?本当に?本当に、努力した人は報われる?嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。オリジナル高橋みなみの言葉に疑念さえも抱く。嘘を言うな!!!!!そんなのは偽りだ。努力して誰もが報われると言うのなら、誰もが努力をしているのだ。努力が報われない奴は努力したとは言わないと偽りに満ちた上から目線の言葉が彼方の胸を抉る。
言葉と言うナイフは物理的なナイフ以上に人を殺すのが得意だ。
心を殺し、自分と言う物を別の存在にしようと誘って行く。
心の中に潜むもう一人の何かが無気力な瞳で偽りだと認識し始めた。
これじゃいけないと解っていても、もう、どうしようもなく辛い。
やること以上のことすらやったと言うのに、やったと言うのに。
まだ、己の首を締めろとでも言うのか。
辛いなら、逃げてもいいではないか。なら、もう、逃げてもいいではないか。逃げることは罪ではないのだ。虚ろで無気力な何かが手を伸ばす。そして、彼方は、その自分に手を伸ばして触れた時、黒が晴れた。
それは現実に帰れと言う合図なのかと思った時、気づけば、天井は部屋の豆電球が灯されて外は月光に照らされている。
凪沙と智恵理の夜伽声のようなものが多少、耳を掠めたが、すぐに小さくなって現実に引き戻される。
「襲名…してないんだった。」
自分を否定したくなるほどに、ふと、夢の中で襲名できずに追い詰められていく自分を見て、それが将来の自分だと認識していた。
刻一刻と、それまでに襲名すると宣言した日にちが近付いてくる。しかし、自分にできることはすべて行った。何から何まで、何もかも、尽くすかのように、組織に尽くして生きてきた。朝起きて、夜眠る当たり前の時間にすら恐怖を覚える。宣言なんか無視してしまえば良いが、生真面目な彼方には、そういう思考と言う物は持ち合わせていない。
だからこそ、それがプレッシャーとなって彼方の精神や肉体に疲れとなって圧し掛かる。何故、襲名できない。そんな悩みが、いつもは眠れるはずの時間に眠れない。
「たかみなさん?」
「あぁ、眠れないの?」
「はい。」
部屋を出て、いつも、皆で集まるリビングに二人きりと言うのも珍しい。
「たかみなさんも、眠れないんですか?」
「まぁ、うちも色々と、ね。」
何を考えているのか。
そんなことを聞き出そうとしている自分がいた。しかし、そこは、自分の踏みこんではいけない領域にあるような気がした。
襲名メンバー、センターノヴァであること以上に何を求めるのかと思いもする。
「彼方、こっちに来て。」
「はい。」
この人の前なら、子供のように甘えることができる。
しかし、何故、この人は時折、自分を見て罪悪感に満ちたような顔を一瞬、浮かべるのか。聞きたいと思ったが、聞けない。今と言う関係がとても心地良いから。
先輩と後輩の垣根を少し超えて素直になれる人。
精神が疲れ果てても、この人なら。
彼方は栞に近づき、その差し出された太ももに頭を置いて膝枕を堪能していた。
「最近、元気ないね。」
「はい…」
自分のせいだと罪悪感を抱く。
ただ、彼方の紅い髪を撫でることしかできず、もう、目の前の彼女に負担をかけられないと一人思う。
こんなことを言えば、今、自らが行うことをすれば彼方は絶対に反対する。
だから、言えない。
言わない。
一人、孤独なままに…ソファで眠りにつく彼方を見て栞は一人、その時期が近付いていると言うことを知った。
「やっと、センターノヴァか。」
しかし、それ以上に、何処か急いでいるのは5代目高橋みなみの方であるともいえる。しかし、これで、全てのお膳立てはと整った。もう、登るところまで上り詰めたのだ。
後は、もう。全てを。
「たかみな?」
ふと、このまま眠りにつこうとした時、光が暗く閉ざされた向こうの部屋から現れる。
「ゆうこ・・・」
「あんた、何、急いでるの?」
「急いでないよ。」
「センターノヴァを智恵理から奪って、まだ、やることがあるの?」
一抹の不安とでもいうべきだろうか。
嫌な予感と言う物は一度、頭にこべり付くと離れないもので勘の良い光は栞が何を企んでいるのかは分からないが、その最近の行動には目を光らせていた。自分が何を言ってもやめることは無い。
「バカなことだけはしないでね?」
「うん。」
これ以上に言葉を紡ごうとしても、それが有沢栞の意思を歪める切っ掛けになるとは思えない。
かたくなに、その領域に入ることすら許されない意思を垣間見たような気がした。既に、そこに仲間や親友と言った人間の関係という物は表面上では一つになっていても、何処か他人事に接している部分を垣間見てきた。
距離感を感じて、何も言えなくなる。
何も出来なくなる。
既に自分の居場所が無いと悟った時、光は一人消える。申し訳ないと思いながらも、何故、このようなことを思ったのかと言えば、やはり、彼方が好きなのだと言うこと、もう、彼方とは元に戻れない関係になっていることにも気づいたときか。
身体を重ねて、そして、気づけば、お互い求めあう関係になっていた。しかし、それが原因で彼方の成長を自分が止めていることに気づいた。彼方と接するたびにジレンマに襲われる。何れは、卒業しなければならないが、彼方とは別れたくないし、今、0048以外の場所にいる以外の自分を想像できない。想像することさえも恐怖を感じる。それが何れ、自分の迎える未来であろうとも、まだ、気持ちの整理という物は出来ていないのだ。
まだ、いなくなりたくない。
しかし、それでも、自分の存在が愛する人の今後を未来を妨げていると言うのなら。襲名キララが、いつまでも、高橋みなみの存在に彼方を映しているのなら…
「居場所は失いたくない…でも…」
その後のヴィジョンは見えていない。何もかも。AKB0048と言う組織に長くいすぎた弊害とでも言うべきか。自分が、0048以外の場所に身を置くことが想像できなくなっている。そこにいるのが当たり前だと思ってしまっている自分が、この場にいない自分と言う存在を想像するだけで意識が遠くなりそうだった。長く、AKB0048という組織にいすぎた分、自分が、そこにいることが当たり前であると思ってしまう。
しかし、自分が居続ければ、彼方はいつか壊れるかもしれない。
目に見えて解るほどには彼方の心と精神は疲れているから。それが、好きになり過ぎたが故に、愛しすぎてしまったが故に辛い。今まで自分のせいで縛りつけていた枷を解き放つのが、もう、可愛い後輩と先輩と言う関係ではなく、愛しあう者同士になってしまった自分の甘さすらも解き放つことが栞自身は責任であるとも踏んだ。
これ以外の手も考えたが、考えつかない。それは焦りから来る、まともに思考できる状態ではないと言う物を栞自身は気づいていなかった。そうでなければ、自分は永遠の時をAKB0048で過ごすこともできなくなる。彼方が望めば、いつでも会える場所へと行くのだから。
多少の恐怖は覚悟の上だ。
自らに、そう言い聞かせた。
まだ、別の場所で自分を必要としてくれる人がいるかもしれないのに、そんなことを考えられないと言うのも、いや、0048という組織に自らが無意識に自分を縛りつけていると言うことを知らないと言うのも若さと言うものか。
今、自分は、此処からいなくなればどうなると言うのだ。
0048に自分が必要とされている自惚れくらいはあるのだから。
しかし、若さゆえに、その自惚れが強すぎた。
自分がいなくなって何食わぬ顔で全員が同じ時を過ごす。それが怖い。自分がいなくても、自分がいなくても、動く組織が怖い。
自分は、何ものになる。
臆病だと一人、思う。
怖い。
いや、怖かった。
だから、そうしたのだと覚悟を決める。彼方に恨まれるかもしれない。
でも、それでも・・・
「たかみなさん…」
「彼方?」
「むにゃ…」
「寝言か…」
これからのこと、全てのこと。自分が0048に永遠にいるためのお膳立ては済んだ。
だから・・・だから・・・もう・・・
「苦しまなくて良いから。」
だから、
「もう一人の自分を壊す自分は出さないで…」

クリスマスの日は簡単にやってきた。
望もうと望まないとしても、時は確実に刻まれる。嫌だと思っても、その一秒を刻む音すら恐怖を感じてしまうほどに。一秒を刻む音を耳にするたびに肉体が刻まれるほどの苦痛が与えられる。
クリスマス公演の日、煌びやかに妹や、襲名した後輩メンバー達を目にしながら研究生の身分である彼方は、ただ、舞台の袖から研究生達と一緒に傍観者に徹していた。
「希望について」「この涙を君に捧ぐ」等の曲になると舞台に出るが、それ以外は基本、襲名メンバー達に任せることになる。煌びやかに踊る。
珠理奈となった楚方、怜奈となった鈴子の「TWO ROSES」は芸術的で、妹が、ここまで成長したのかと思えば思えるほどに憎らしいとも思ってしまう。
「大丈夫だから。」
そっと、誰かが、いや、栞が彼方を抱きしめていた。
「もう、彼方の苦しみを、私がなんとかするから。」
送りだされる高橋みなみこと、有沢栞。
その顔に映る表情は寂しさ?それとも、悲しみなのだろうか。
有沢栞、初めてのソロ曲。高橋みなみが過去に唄ったと言う「Jane Doe」・・・イントロが流れて、有沢栞は優雅に歌う。
始まり、「君は誰なんだ。答えてくれ。」そして、サビに入った瞬間だった。
有沢栞が、これ以上になく輝いた瞬間は。見つめてしまえば失明しそうな光の中で、会場全てが光に包まれて、思わず、太陽がトチ狂って夜に出て来たのかと思えるほどに。しかし、長く続く夜を照らす光はいまだに続いていた。
意識が光に飲み込まれたのかと彼方は疑問に思った。恐る恐る目を開けた瞬間、そこは時が止まったかのように周りの時間は掻き消されていた。
自らを縛っていた物が。
そして、ステージにいる有沢栞は歌を止めて、これを予期していたかのように彼方を見つめていた。
「たかみなさん!これって!」
「凄いね。センターノヴァになると、こんなことまで出来るんだ。」
自分が仕組んだかのような物言いに疑問を覚えながら彼方は栞に歩み寄った。何故、このような状況になっている。
「これからは、彼方が高橋みなみを受け継ぐんだからね。」
「え?」
「君は誰?私の目の前にいるのは…」
「東雲彼方…」
「うぅん。もう、これからの『高橋みなみ』だよ。」
いつもの優しい瞳で栞は彼方を見た。幻となって蘇る、情熱的に求めあった愛の日々が彼方の脳裏に過る。そして、栞と意識が共有された。
「たかみなさん・・・!?」
「つらかったよね…うちが、此処にいたから。」
そして、栞の心を見た。
襲名キララが夜を遮るかのようにガラス窓の向こうに彼方を見た、あの日の光景。しかし、栞が彼方を思っているが故に腕にすり抜けて元の生活に戻ることが出来なかった自分と言う物を。
「Jane Doeって、私達の関係を唄った曲みたいだよね。」
都合の良い解釈だが、それは栞が彼方を落ち着かせるための言葉であると悟る。淡々と喋り続ける中で、彼方は栞の苦しみを知り、栞は彼方の苦しみを再度確認した。
「何を言ってるのか、よくわかりません・・・」
「もう、私の時代は今日で終わりってこと。次の世代へ…夢は何度も生まれ変わる。だっけ?この歌詞があったのは。」
「え?」
何を言っているのだと思った時、ここが意識の共有されている場所だと思いしり、その栞の覚悟を読み取った。
「そんな!!」
「私は、今日、今のステージの上で高橋みなみを卒業する。」
「センターノヴァになった理由って、そういうことだったんですね…」
「うん。歴代のセンターノヴァ達がいる場所に、うちは行こうって思って。」
「何で、今なんですか!?」
「彼方が宣言した日が、今日だから。」
それまで、他のメンバーを襲名していればよかった。でも、そうならなかった。やはり、彼方は高橋みなみが似合っていた。誰よりも。しかし、その魂の資質は、彼方の中にいる闇の存在によって穢れて襲名は消えそうになっていた。
「だから、もう、良いんだよ。辛い思いをしなくて。」
栞が彼方に手を伸ばした。引き寄せてから強く抱きしめて優しく唇同士が触れ合った。
「もう彼方が傷つくのを見たくないから。」
「でも、栞さんがいなくなったら、私…私は!嫌です!消えるなんて、嫌です!!」
抱かれながら、抱きしめながら栞は彼方に次の夢を託そうとしていた。
栞は誰を見ている。彼方を見ているのは確かだ。しかし、その奥にある、彼方の中の高橋みなみを見ている。
「私は、どうしたら良いんですか…?愛した人を捨てるんですか…?」
「うぅん…捨てないよ。」
これでも、栞なりに精いっぱい考えた。しかし、それしか考えつかなかったのだ。未来の高橋みなみに託すための餞別のキスが、濡れた唇の感触が彼方を包みこむ。泣いているのは彼方だけ。
「彼方がうちと同じ所に来た時…彼方にはいつでも会えるから。」
だから、私はセンターノヴァになったのだと。
その言葉から、AKB0048と言う組織から離れる怖さを知った。
それが、人生の半分近くをAKB0048と言う組織で過ごした人間の背負う業、いや、呪いに近いものであるのだと知った。そして、気づけば、自分や他のメンバーも呪いに塗れる。塗れれば、そこからいなくなることなど考えられなくなるのだと。
「今、こうして消える瞬間に彼方と話しててバカなことしかも。って、思った。でも、これしか考えられなかった。」
呪い・・・それを、彼方は栞から受け継ぐのだ。
「彼方が辛くなった時、私が迎えに行くから。」
「でも・・・栞さんは・・・馬鹿です・・・」
「うん、解ってる。」
だが、呪いが卒業させて別の道を歩ませると言う思考を良しとしなかった。その呪いは長く居続けたいと思えば思うほど、今の場所に留まりたいと思えば思うほどに力を与えると同時に負の要素も強くなる。
しかし、そこで、自分の思いを全てを受け継がせるべき人間を愛してしまったが故に呪いと愛のジレンマに苦しんだ。
「栞さん・・・」
「日に日に壊れて行く彼方を、もう、うちは見てられなかったよ・・・でも、私のことを話せば関係が壊れるのも怖かった。」
呪いが助けることを良しとしなかった。好きだったはずなのに。愛していたはずなのに。
「でも、また、貴女は私を苦しめるじゃないですか・・・貴女が消えたら・・・」
「だから、ごめんね…」
笑顔で送り出されるとは思っていない。だから、栞は涙を流した。それでも、彼方とは最後、全てを共有したまま、全てを話して一時の別れを迎えたかった。結局、自分本位なのだ。しかし、0048ではない自分は想像できない。だから・・・だから・・・だから・・・
「バカです・・・私以上に、有沢栞は・・・」
「うん・・・ごめん・・・ごめんね・・・」
彼方が強く抱きしめて、栞に行って欲しくないと意思を表した。泣きじゃくり、そして、嫌だと首を振る。
「ごめん。今になって、もっと要領よく出来た・・・と、思う。」
今になって、何に拘っていたのか。
呪いが解放される瞬間になって、やっと、それが解った気がした。己の決断が、どれだけ生き急いでいたことか。いや、生き急ぎ過ぎていた。自分でも気付かないほどに。しかし、己の愚かな決断だと解った時でも、彼方の心が浄化されていくのを感じた。悲しみがある。
それでも、それでも・・・彼方が自分の名前を受け継いでくれるなら。
「彼方から、会いに来て…」
「栞さん…」
この人は、愚かだ。
しかし、愛するものであれば、どれだけ愚かでも愛しい。周りが見れば、どれだけ愚かだったのかと罵るだろう。しかし、それが、この人の受ける自分勝手な罰と罪の償いであると言うのなら、受け入れるしかないのだろうか。
ただ、
「貴女を失ったら、私は・・・」
心にぽっかりと穴が開くだろう。栞でなければ彼方の埋められない部分があるのだから。
「私から、その時は会いに行くから・・・」
「相談してくれれば…良かったのに…」
「ホントだよね…何、考えてたんだろ…でも、それは彼方もだよ…こんなことで壊れるわけ、ないよね…」
今、こうしてお互いに思いを共有し合うことで解りあえたことは、実際に口から聞いても解りあえたかもしれない。
そう思うと、後悔の念も募る。
しかし、もう、決めたことは行ってしまったことは覆らない。栞は行かなければならなかった。その道を選んでしまったのだから。崩れるように泣きじゃくり、栞の身体が光に包まれて消えて行く。
「ごめん…時間、みたい。」
力の無い笑顔を浮かべて、もっと解り合えば良かったと後悔する。しかし、親しくなれば、親しくなるほどに言えなくなることも増えてくる。それが作用しすぎた結果が、今回のことに繋がった。
そして、あまりにも二人が理解するのが遅すぎた。
「彼方…貴女に全部、委ねる。高橋みなみの名前を。」
そこにいたのは、もう、かつての高橋みなみでは無く有沢栞と言う一人の女だった。
自分に触れて、光を託す使者のように栞は彼方に全てを託した。その時、襲名キララは高橋みなみの次に彼方を写したと言う。誰も気づかぬままに。そして、解ってしまう。直接、有沢栞から高橋みなみを託された。今、この瞬間に魂と言う物が自分の中へと入ってくるような感覚が光に満たされていく。
有沢栞は別世界へと向かっていく。光に包まれて。彼方は好きだ。しかし、0048以外の自分の居場所等、どれほど考えても思いつくものでもなかった。だから、ここで、センターノヴァの輝きを得てから、高橋みなみ、いや、有沢栞から「Jane Doe」の衣装を託された。
「嫌だ…貴女を失ってまで、私は…高橋みなみの名前なんか…!一緒にステージに立つのが!」
「彼方。」
夢は潰える。
そして、願いと言う名の思いは受け継がれる。欲しくは無かった。そんなことを受け止めても。
「待ってるから・・・ずっと、皆のいる世界で。」
「栞さん!!」
叫んだときには、もう、そこに有沢栞の姿は無かった。
そして、自らの衣装が「Jane Doe」になっている。彼方を助けてくれた誰かが消える。彼方の中に潜んでいた誰かが消える。見せていたその素顔でさえ思い出せない。失ったのだろうか。いや、消えたのではない。再び、一つになったのだ。かつて、自分の闇だったモノが。
そして、身体の中に栞がいる。そして、もう一人、自分の中にいるのは。
「誰?答えて?」
『彼方・・・それは、もう一人の自分。』
それがJan Doeだったものが、自分の闇だと知る。幻影となった有沢栞が目の前に現れ、目を閉じてキスをする。
愛しきJane Doeだった者。
抱かれながら次の高橋みなみの夢と言う名の思いを託された東雲彼方。

今、東雲彼方は、いや、6代目高橋みなみは、此処にいる。
「彼方…?」
誰もが、その場にいる人間に驚いた。ステージにいた有沢栞が、そこにはいなかった。
「おねぃ…?綺麗…」
「彼方なの?」
楚方と美森が映し出されたビジョンの中に映る相手を見てゆっくりと口を動かして目を細め、それを確認しようとした。
曖昧なのは、光に包まれている中で東雲彼方の姿を誰も確認できなかった。しかし、それでも、歌は聞こえてくる。東雲彼方の歌が。
「まさにJane Doeね・・・」
帰ってきた。
それは東雲彼方ではなく、6代目高橋みなみの輝きを宿して。現実に戻ってきた彼方は「Jane Doe」を有沢栞から託されてうた唄い始めた。有沢栞から東雲彼方へと高橋みなみは受け継がれたのだ。
『綺麗・・・』
誰もが、その姿を見て呟いた。
6代目高橋みなみになった彼方の姿は、言葉通り、蛹から蝶に成長したかのような美しさとオーラを身に纏い、光を発していた。
自然と周りにキララが集まり、光を発し続けている。歌が終わり、そして、光が弾けて、雪のようにホワイトクリスマスを表わすかのように降り注ぐ。
全てが終わった後に唄いきった表情を浮かべていた6代目高橋みなみが、ステージの上に立っている。
鮮烈に、美しく、煌びやかに、かつての東雲彼方ではなく、新生した東雲彼方が6代目高橋みなみのオーラを身に纏いステージ上で今、この場所にいない有沢栞を見つめていた・・・

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