PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

愛の魔法と魔法の言葉

なぎちえ
今日は、智恵理の誕生日やねん。
そんな感じで、智恵理…!誕生日、おめでとう!!
凪沙と末永く、幸せにね!!!


アキバスターの飾り付けがクリスマス一色に変わる時期。
関係性を問わないシルバーアクセサリを付けた恋人たちが多くモノレールの中で日常を謳歌し、街を歩く人達がいる。何かを共有できると言う物、何か、ペアになるものを持つと言うのは羨ましいと思うものだ。それを羨ましいと思いつつ、嫉妬の意味もあるのかと自問自答し、視線を窓の向こうにある世界へと移す。
確か、智恵理も、いつかペアで持てる何かが欲しいとか言っていたと、そんな言葉を恋人たちから思い出し、モノレールの窓というスクリーンから映るプラネタリウムのような世界を眺める。そして、智恵理とこのようなことをしていないと思いながら疎らに客が乗り込んでいるモノレールの中でため息をつく。
街は煌びやかに染められて、帰りのモノレールから見える情景は幻想のように映り込み、ふと、夢の世界に送られたのではないのかと思うほどには。つい、先日と言っていいほどにまでは、崩壊に近い状態だった、この世界は復興した。それこそ、クリスマスと言う物を享受するほどにはと言えば解ってもらえるだろう。
宇宙に人が移民する時代になったとしても、その手の風習は変わることはないのかと、地球という人の愛を育んだ惑星から根づいた文化と言うのは、何故、此処まで続くのかと疑問に思いながら、これも愛の力なのだろうと勝手に思い込み、それ以上に大切なことが、ふと、頭に過る。
考えてみれば、クリスマスと言うイベント以上に大事なことで、忘れていた自分も恥じるくらいだ。
寒さと同時に幻想的な世界が視界に映り、この世界、今自分がいる場所は幻想なのではないのかと思いながらも、夢の中に入り込んで、あたかも眠りについているのではないかとさえ思ってしまう。
夢現の世界。
全ては、幻想の中にありて、実は、まだ、自分はランカスターにいて母の胸に甘えている存在なのかもしれないと考えると瞼が自然と重くなってくる。あぁ、ランカスターに帰るのだ。言葉が走り、心地良く揺れるモノレールの中で眠りにつきそうになった時だった。扉から微かに入りこむ寒い風が、確か此処にいることを感じさせる。まさしく、この世界は現実なのだと、凪沙は再び、実感した。
夢と言う言葉ではくくれないほどに、珍しい出来事が起こり過ぎたからとでも言うべきだろうか。それを夢と見てしまうのは仕方の無いことなのかもしれない。
『私の誕生日?12月8日だよ。凪沙。』
再び車内に入り込んだ凍える風が、唐突に、その智恵理の言葉を思い出す。
寒い風が、この時期の大切なイベントを思い出させる。寒い季節に凍える風が交わるように凪沙の忘れていた物を心から思い出させる。それと同時に、この場所にいることを実感させてクリスマス以上に大事なイベントを脳裏に焼き付けた。
「プレゼント、上げなきゃ。」
何か、良い答えはないかと瞬きせずに、外の風景を眺めていた。取り残されそうな世界の中で、街のイルミネーションが凪沙に大事なことを思い出させた。なら、此処から、何かヒントを貰っても良いだろうと。
「そろそろ、智恵理の誕生日だ。」
公演を終えてから、誰かに言われたわけでもなく本宮凪沙は言葉を紡ぐ。正直、忘れていた。と、言えば、その通りではあるが、記憶の何処かにひっかかっていて思い出せたと言うのは幸運とでも言うべきか。
誕生日ということもあって、智恵理にそんなことは聞けないし、恋人同士だと言うのに、そのようなことを言ってもと、考えるだけ、どうしたら良いものかと葛藤すると同時に、目の前の景色に心奪われる。
「あぁ、そういえば智恵理の誕生日ってそろそろだっけ。あんたたちの場合、誕生日以上にスペシャルなイベントをこなしすぎてきたから、全く覚えてないけど。」
さっきの呟きを聞いていたのか、それとも、モノレールのドア越しで一人、幻想世界に老ける凪沙を放っておけなくなったのか、呆れるように友歌が傍に寄ってきた。
隣に織音がいない寂しさと言うのもあるのだろうが、孤独に耐えられない少女のようにも一瞬、見えた。
「織音は、さっしー襲名しないで、チャッチャと先に倉持明日香を襲名しちゃうし。」
あれから、色々と起こり過ぎた。と、不満を言いながら、気づけば、早い年月を思い出す余裕などなかったかもしれないと友歌と話しながら、凪沙は一人感じ取る。
「織音めー…皆、忙しいよね。」
気づけば、一緒にいるはずなのに、4人で約束したはずが分かれてきてしまっているのは、これも、一つの形なのだろうか。同期で襲名したのは、凪沙と織音だけ。
76期からは、とうとう、市岡姫子が市川美織を襲名した。等と、そんな他愛の無い世間話が続く。周りが凪沙と智恵理の無茶な行いで変わる中で、時間は絶えず絶えず流れ続け、止まることの許されない鉄道のように時間は過ぎ去った。今一度、時間を確認すると、無駄では無いとは思うし、充実しすぎている。しかし、その反面、大事なことを忘れていた。
「忙しすぎて、大切な人の誕生日を忘れちゃってたけどね。」
思い出はあるし、充実もしているし、辛いことだって、楽しい。
だが、その過程で大切なものを忘れてはいけないのだと、今、何気ない、この空間と会話の中で凪沙は刻み込んだ。
思えば、こうして友歌と凪沙が話すことでさえも、凪沙には滅多になかった。
智恵理に至っては凪沙が休みの場合は智恵理が仕事であるし、また、その逆であることが、此処、二か月ほど続いているような気もした。夜に至っては、疲れで、まともに会話することもなく一緒のベッドで眠る。
しかし、そんなことで満足等、出来るはずもないのだ。ましてや、こういう恋人と言う物を欲したがる少女の時期になると。そして、恋人を、既に支え合う存在と認識し合っていれば、そのお互いに会えない時間ほど会話すら出来ないとなると辛いのだ。
「あんた、恨まれるわよ。」
「だよね。」
「でも、あんたさ。そんな暇、あるの?」
「え?」
「智恵理の誕生日プレゼントを探すって言う、こと。」
「あぁ、それね。」
「バサラとのセッションの後、すっごい、忙しくなってるじゃん。ってか、あそこから、あんたは輝きすぎ。」
「何とか、探さないとね。私の大切な人なんだから。」
「iPS細胞でもプレゼントしたら?」
「へ?」
「なんでもない。後、あんたたち、暇になった時の夜は煩すぎ。」
「聞こえてるの…?」
「そりゃぁ、ね。嫌でも聞こえる。」
繰り返される日ごろの出来事をつづった日記のような会話を耳に入れて流すように答えながら、日々の出来事を考える。
智恵理…園智恵理。
凪沙にとっては、このイルミネーションで彩られた光の街よりも美しく映る存在とでも言うべきか。
「あ…」
帰りのモノレールの中で、光の中で、全てを掴み取ろうとした。
そして、自分の手の中の光である、彼女のことを考えると、智恵理と言う存在は心友であり、ライバルでもあるが、ソレを超越した関係。
だから、大事にしないといけないと心に刻む。
ゆっくりと恋人らしい生活を送ったことなど、だいぶ前であることを思い出しながら、外の景色に身を委ねて物思いに耽た。
「良いかも。やって見ても、良いよね。」
ふと、心に決めながら、智恵理の誕生日に送るものを考えた。
しかし、それだけでは何かが足りないと考えて、再び、視線を窓の外に移す。
「何、一人で惚気てんのよ。気持ち悪い。」
「酷い…って、言うか、友歌は嫉妬?」
「こ、こら!!バカなこと言わない!」
降りる駅のアナウンスを聞いた数分後にモノレールが止まり扉が開く。
開いたときに、心地良い夏を冷ます風であれば良かったのだが、冬の身体を小声させる風が車内に吹いて身を震わせた。
「ほら、こうすれば暖かいでしょ?」
珍しく手を出してきた友歌の手を取り、凪沙は持つべきものは友達だと感謝するように、その手を取った。
「あったかいねー。」
「ほんと。すっかり冷え込んできたからねー。」
徒歩数分で寮に辿りつく。
「それで、プレゼントは何にすんの?」
「んー、色々とね。」
考えて見ているが、中々、まとまったモノが出ないと言うのが本音とではあるが、何か凝ったモノを渡したいとは思っている。
そして、
「最近、智恵理とまとも話してないな…」
日常の忙しさにかまけて、お互いに忘れてしまっていたこと。今度の誕生日にゆっくりに話そうと心に誓う。
「お帰り。二人とも。」
「ただいまー。もっちー。」
「今までと同じ、織音で良いってば。」
と、オリジナルに近付いた倉持明日香こと織音の髪型を見てやりながら変わったね。と、そんな会話をして笑いあう。
「あれ?智恵理は?」
「もう、寝ちゃったみたい。」
「あいつも、せっかく、彼女が返ってきたから迎えに来ればいいのに。」
仕方ない。
この仕事は、生半可なことで行えないし、必ず、全力でやることが必須条件でもある。だから、この時の鬱憤のようなものを含めて、全て、誕生日の時に話そうと凪沙は胸に誓う。

此処まで見れば、穏やかなことだろう。
だが、誕生日の当事者は心穏やかと言うわけではない。
彼女もまた、寮にある自室の窓から見えるイルミネーションを眺めながら、凪沙と恋人らしいことをしていないと、ふと思い、そして、悩む。そして、また、彼女も誕生日であると言うことを思い出す中で心中、穏やかではないモノを見てしまった。
それが
「凪沙…友歌と一緒…?」
ふと、それは嫉妬のなのかと智恵理の中に渦巻いた。
ただ、友歌と一緒に帰ってきただけだと言うのに、グラつく心を隠しながら信じようとする。
しかし、まともに、此処最近、一緒にいる時間でさえも少ないからこそ、自分よりも手頃な女に手を出してしまったのではないのかと思ってしまうし、それ以上に、凪沙の笑顔を久しぶりに見た。自分と会っても、そういう笑顔を見せてもいないのに。
「浮気…してないよね?」
そういうことは割り切ると思いたい。きちっと蹴りを付けてから、新たな恋人と付き合うタイプの人間だと思いたかった。
凪沙と会えない時間が、話すことも出来ない時間すらもいじらしくて、にくらしい。
過ぎ去る時間と数多くのイベント故に忘れがちになる、そして、仕事以上に今は大事だと思ってる凪沙との時間が月に一日か、いや、半日程度しかない。それが辛い。
「まさか、その辛さから逃げるため…うぅん…そんなこと…」
募る思いが眠りへといざなわせてくれない。凪沙と会話すらしていないが、忙しすぎる見であるが故に早く寝て、あす、早く起き、そして凪沙と会話せずに、また一日を終わろうとする。
「嫌だな…今日も話せなかった。」
眠りと言う物を否定するかのように、眠らなければならないと言うのに、それをさせないほどに不安と言う物が智恵理を襲う。疲れているはずなのに、それを許してくれない。
時を刻む音が無情に流れ、静かに布団の中に身を沈めれば、まだ、起きている楚方と彼方の喧嘩が聞こえてくる。早く眠りたいのに、それを許してくれず、ベッドの上で転がった。まだまだ、無情に時を刻む音が流れ、一秒が一分、一分が一時間に感じるほどの錯覚が精神的に追い詰めて、凪沙と話せない精神的な苦痛が智恵理を眠りの世界へと遠ざける。
どれくらい、経っただろうか。
ぐったりとした表情のまま、腕で目元を隠し、星の光をも遮って暗黒の世界に身を投じようとした。意地と眠気の勝負とでも言ったところか。全てを無にしようとしたところで、妄想される煩悩を遮って、新年の底へと身を置こうとした時だった。部屋の扉が開いたのは。
「智恵理、ごめんね。先に寝かせちゃって。」
凪沙の声が聞こえる。
「私も、寂しかった。」
寝たふりをしながら、そっと、抱きしめられる凪沙の温もりを感じ取る。凪沙の身体が智恵理の身体を暖めるように抱きしめる。いつものことのはずなのに、それ以上の温もりを感じ取る。母の温もりに近いようで、そうではない。
凪沙の持つ本来の暖かさと、自分の望んでいたことが満たされていく感覚。
「私、凪沙にこうされないと眠れない人間になってたんだ。」
満たされながら一人、本来、訪れる眠気に身を委ね始める。そして、愛する者同士がこうして密着することによって生まれる安心感は、誰よりも安心できる。
「そろそろ、誕生日だね…素敵なプレゼント、送るから。」
凪沙のひとりごと。
智恵理には全て、その言葉が聞こえている。
一つの文字の羅列が智恵理に温もりを与えていた。そして、自分でも忘れていた誕生日のことを凪沙が考えていた感期に包まれる。起きていたのなら、心としては、この場所で飛び跳ねたいと思うほどに、心身は暖かくなっている。
魚が水分を得て活力を得るように、智恵理はファンや仲間の言葉よりも、恋人の言葉によって智恵理の中に温もりが産まれるのを感じた。
凪沙の肉体の暖かさに宇宙の光を見たような気がした。園光を独占している自分は何よりも幸せな人間なのだと、此処でかみしめた。
凪沙と言う少女に包まれ、その暖かさに次第と精神が眠りにつこうとする。
肉体が眠りにつき、赤い光の精神体が目の前に現れ、手を伸ばす。自らは、凪沙の作り出した宇宙の中にいるのだと気づいたとき、自らが青い光の精神体であると気づき、凪沙に抱きつき、抱きしめられ、思い切り甘えた。
夢の中であろうと、意識のあるうちに、彼女に全てを委ねたい。
「凪沙…キス…して…」
夢の中なら、無限なる時間の中で凪沙に甘えることができる。
夢の中の凪沙の唇は本物と変わらない暖かさを保ち、そして、微かな潤いと凪沙の臭いが智恵理の心を癒す。
あぁ、ずっと、このままでいたい。貴女と、このまま。
心地良すぎる空間に身を委ねて、少女は自らの女神の中で眠る。
だから、だから、このまま、甘いキスのまま
「貴女の中で眠らせて…」

「それじゃぁ、お願いします。ツバサさん。」
「えぇ。二人分の休暇を取るのに苦労したんだから、楽しんできなさい?諸々のことは、こっちでするから。」
「はい。ありがとうございます。」
ツバサと何かの交渉を終えた凪沙が、部屋から出て行き、すれ違いざまに優子が気になって入ってくる。
「ツバサさん、凪沙と智恵理、色々と大変そうじゃないですか。何か恨みでもあるんですか?」
9代目大島優子は傍観者である。そうではあるが、あまりにも、二人が接することが無いので流石に同情の念は抱く。
「こればっかりは、仕事の都合としか言いようが無いわね。私だって、一緒にさせたいけど先方が片方ずつを望んでいるんですもの。仕方ないでしょう…?」
溜息をしながら、二人が今一緒にいる状態が最高に仕事ができる状況であると考えているのだが、どうも、そういうわけにはいかないのが企業と言うもので特に前田敦子として、また、センターノヴァとしての光を発した凪沙の人気はツバサですら把握できないほどだ。
「思い出すわ…13代目あっちゃんも、そんな感じだったし…一人で慰めてた…」
溜息をつきながら、こんなこともあったわね。と、愚痴るように口にし出す。
最も、キララを介して13代目の思念と会話している等と、楚方が周りに口にしていたが。真相は謎である。
「それで、凪沙から出された頼みは?」
「たまには息抜きも必要よ。オリジナルで仕事しすぎて潰れたメンバーもいるってくらいだし。」
明らかに、此処最近、休ませていないのは不味いと流石に思っている。
だから・・・

「1時間の休憩に入りますー」
時計の短針と長針が重なった時、一時間の時間の猶予が与えられた。
朝から考えている智恵理の誕生日プレゼント。
近くの公園でクリスマスの会話をする女たちは高級バッグやら、指輪やらを、男から搾取することしか考えていない身勝手な会話をしている。こればっかりは参考になるわけもない。えてして、俗物的な考えを持つ女と言う物は此処まで参考にならないものかと、表現的にはおかしいものの、頭痛が痛いと言いたくなる衝動に凪沙は駆られた。
それも含めてため息を吐く。
それは、まだ、10代前半の少女がつくには、あまりにも重すぎて、そして、婆臭く見えてしまう。
智恵理の誕生日まで時間が無い。
考えなくても、後、三日ほどで、その日は来る。時間と言う狼に追われているように、残酷にも刻々と時と言う物は刻まれていく。全力で走っても、必ず、追いついてくるのが時間というもので、どんなことを考えていても、確実に一歩一歩と時間と言う物は人を追い詰めるように出来ているようだ。
絶対に逃げられない存在に追い詰められているかのような錯覚を受け、背後から迫る時間と言う名の獣を前に頭が痛くなる。無情にも、止まってはくれないからこそ、それを時間と言う。
暫く、24時間ほど止まってくれれば、落ちついてアイデアも出るだろうが、そういうことを許してくれない。それもまた、時間の魅力ではあるのだが、また、人にとっては、それが時間と言うものの欠点であると言える。
凪沙は、その時間に捕らわれているのが今。出来れば、この一時間を有効に使いたいと思ったが、それでも、気づけば、時間は早く、長針は2の位置に入りかかる。本当に時間は残酷なものだと身に染みてしまう。人から見れば、これほど幸せなことを考えていることもないだろうと嫉妬する人間もいるかもしれないと、思うと、それもそれで申し訳ないと思ってしまう。
此処まで、好きな仕事をして、好きな人のことを常に考える幸せを忘れそうになるのも、また、時間の生徒でも言うのか。どれだけ恵まれているのかと、また、実感する空間と時間帯でもある。
本日の仕事は、まだ、多くあり、やっと、昼食休憩に入ったとでも言うべき状況の中で。何か、良い物はないかと探し回る。
一年に一回しかない。
世界に一個しかない、自分が一生懸命考えた物を上げたいと思う。
結婚式まがいなことをして、本当に両想いになったが、まだ、足りないと思う物があるのはなんだろう。
ちゃんとした結婚式であれば、何かすべきこともあるのだろうが、それを為していない。
ふと、何かないだろうかと思いながら、プレゼントする物を探そうとする。
大事な人の大事な日だからこそ、何かを探し求めて歩く姿は、旅人のように見える。
しかし、改めて考えてみると智恵理には何を上げると喜ぶのだろうと思い悩む。歩きながら、考えると、プレゼントと言うのは一種の自分のエゴを渡すような行為ではないのかと疑問にも思う。
自分のあげるモノは、実は自分のエゴであり、相手の望んでいないものである。そんな物を渡すとなれば、相手に迷惑がかかるのではないか。そんな風に勘繰ってしまう自分がいるのだ。
智恵理に何を上げて良いのか。
そんなことを考える中で、迷い、そして、苦しむ自分がいる。歩きながら、それに相応しいものはあるが、いい加減に選べば、智恵理自身が落胆してしまうと思うと、そんなこともできそうにない。ましてや、愛する智恵理の誕生日にいい加減なものは与えたくない。
歩きながら、考えて、歩きながら、苦しんで、今まで、織音や友歌に誕生日プレゼントと言う物を与えてきたが、これほど、辛かった覚えもない。
仮に、これがバレンタインであれば、ホワイトデーであれば、作るものを精いっぱい作る。で、終わるのだろうが、しかし、今回は、そういうわけにもいかない。好きな人の生まれた日の為にプレゼントを上げると言うことを考えることが苦行になるほどには予想以上に辛いと言うことを今になって知る。
これも、大人になったと言うことなのだろう。
こうなると、自分本意ではないからこその悩みという物が駆け回る。
近くのファストフードショップでセットを一つ買いながら、公園のベンチに座り、そして世界を見渡す中で、何か上げるものでもないだろうか。と、考えるが、そんな簡単に見つかるわけでも思い浮かぶわけでもない。此処まで、大切になると、考える方も大変なものだと悩みながら、ハンバーガーを口いっぱいに頬張った。
考えるだけ考えても、今は無駄なのだろうと、今は結論を出し、昼食に精をだすことにする。
こと、考えることも大事ではあるが、昼食を頬張る時間も大切である。
これすらも忘れて考えてばかりいたとなれば、午後の仕事に繋がらない。昼食は午後の仕事のための活力でもあると言うことを忘れそうになる。それなりに味のあるものを食して、ドリンクを飲み終えた後に少しリラックスする体制をとりながら時計を見た。既に、長針は六の時を回って、そんなに時間を消費していたのかとガックリする。
「あぁ、凪沙。そんなところにいたのね。」
「ツバサさん。」
同じファストフードショップの紙袋を持ったツバサが目の前に通り過ぎ、静かに、隣に座ることを求める仕草をし、会釈一つで凪沙は許可をした。その合図を受け取り、凪沙の横へ座ってから、凪沙の目を見てから口を開く。
「凪沙、例の話のことだけど。何とも、無茶なことを要求したものね。交渉…成立よ。」
考える余地もなく、ムードやら、そんな物を吹っ飛ばして、淡々と言い放つ。こういうとき、テレビ的演出を考えてしまう。何か、音楽的なものでも、こういうときはなるのだろうと。しかし、許可されたことは喜ぶべきことだろうと。素直に安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます!」
「精一杯、頑張りなさい。」
「はい。」
恋人がいる女には甘いのか、自分と同じような境遇にはさせたくないのかと思う。
「あ、ツバサさんは、誕生日プレゼントに何を上げたんですか?」
唐突に尋ねられて、答えに困る。当時の思い出を忘れたわけではないが、ツバサにとっては、しまっておきたいと言うか、思い出すだけで、次元の向こう側にいる彼女を思い出すから、あまり話したくないと言うのも事実ではある。
「私?」
とりあえず、思い出を振り返るように、今の前田敦子に視線を向ける。そう言えば、昔、私も、こういうことがあったわね。と、振り返るように。その瞳には寂しさと切なさのようなものがある。
今の凪沙は、そんな自分と被る部分もあるのだろう。
だからこそ、精一杯、応援もしたくなるという人情的なものが出てくるのだろうと、ツバサは自分の疑問を理解した。
「そうね。手作りのお菓子とか…かしら。後、結婚してたようなものだったから、それに対する必要なもの…かしらね。」
「そっか…」
気づいて、それを確認した。
一つの言葉を聞いて、すぐに思いついた。そうだ。そうすれば良いのだと。
「ありがとうございます!」
「え、えぇ?」
言葉を聞いた途端、あげる物が、まだ、あったと言うことを思い出す。
持っていた昼食のゴミをゴミ箱に捨ててから走り出す。
そういうものを取り扱っている場所があるはず。まともに、こういうとき、そういうショップを探していないことに腹を立てつつも、闇雲に商店街を走る自分を宥めてから携帯端末を取り出してアキバスターのマップで、求める条件の店を探す。
次の仕事の時間まで、20分もない。
走り、そして、見つけた場所へと。二人の関係をさらに深くするプレゼントを買いに・・・

「夕方に仕事が全部、終わって、三日ほどのお休み…凪沙からは、デートに誘われて…まだかな。珍しく夕方に終わったって言うし、あ、それよりも、服装とか髪型とか変じゃないよね?」
洒落た駅の中にある鏡を見て、自分の姿をチェックする。
自分の誕生日にデートなど初めてだし、さらに、デートをすること自体が久しぶりだ。
おどおどしながら、未だに来ない凪沙に緊張しながら、少し、髪が跳ねてるところを見つけたら、櫛を取り出してすぐに直し、バッグを見た時に財布の感触が無く、あたふたしながら、よく探して財布を見つけて安心してから安堵の表情を浮かべて身を落ちつけた。
息を吐けば白い軌跡が目に映り、この季節を感じずに過ごしていたと同時に、それは、どれだけ凪沙と接していないかということを智恵理に理解させた。
望んだ仕事だから、文句は言えない。だが、此処まで、接することが出来ていなかったと思うと、どれだけ、仕事に時間を取られていたのかと、こういう時になって実感した。
「凪沙、まだ…かな?」
と、不安になったものの、時計を見れば、まだ、30分も先であることに気づき、流石に早く来すぎたと思ってしまう。
それだけ、楽しみにしていたと言うことではあるのだが、流石に、先のようにモノローグに耽るだけで、30分費やしたのだから、1時間前に来てしまったのは、正直、やり過ぎた。と、反省した。
ふと、待つ時間が窮屈に思えて大切な人の笑顔を考える。せっかく、空いた時間なのだから、今日は楽しむのだと、あの人と何を楽しもうかと目を瞑る。考えるだけで、妄想と言う妄想がはびこり、自然とニヤつきながら駅内にいる人間は、自然と美少女を避けるようになるほどには、不気味に見える。
一応、0048の1,2を争うほどの人気あるメンバーではあるが、ばれないような変装と同時に、他人を引き寄せない不気味は笑みが聞くに聞けない環境を作り出していたのだった。
「ごめん。智恵理、待ったよね。」
ハッと、なって、声の持ち主に気づく。待ちわびていた声の持ち主。耳に入り込んで、身体全体に駆け巡る、その主の声は唯一、智恵理を安心させる。ふわりとしたような、それでいて、芯が通っている、抱きしめてくれるような優しい声色を前に智恵理も笑顔で返す。
「うぅん、今、来たところだから。」
あぁ、久しぶりに、こうしてプライベートで二人きりになるのは、どれくらいのことか。
これから、暫くの休みの間、ずっと、二人一緒なのだから。このうえ、幸せなこともないだろうと思えるほどに智恵理の心は舞い上がる。わざわざ、誕生日に、こうして、凪沙がツバサに懇願したこともツバサから聞いているし、無理やり、二人分のスケジュールを開けてくれたことにも感謝している。
「今日は、楽しもうね。」
「えぇ。凪沙…」
いたたまれないほどに、ジッと出来ないほどに、幼さを残した満面の笑みが智恵理の心をつかんで離そうとしない。
「智恵理、どうしたの?」
「な、なんでもない。」
どこか露わになっている無防備さに救われているような気がすると、差し伸べる彼女の手を繋ぎ、その暖かさを感じながら、一緒にいることで感じることができる。
これも、キララの感応的な力なのかと一瞬、思ったりはするが、それよりも凪沙の笑顔と暖かい手に心を奪われている。それは、改めて凪沙の暖かさを確認できたことと凪沙への思いと情熱が再熱し始めたことと、この連休を凪沙とずっと一緒に過ごすと言う一人の誓いでもあった。
凪沙と二人きりの時間。
誕生日前日の日に、こうしてデートと言う。
食事をし、ショッピングをし、恋人らしい恋人同士のつながりを実感し、何度も何度も、凪沙との時間を脳裏に焼き付ける。
凪沙と一緒に行った場所、凪沙と食事をした場所、凪沙とキスした場所。全てを記憶して、時間を共有する喜びを全身で感じ取った。幸福という言葉は今の為にあるのだと自分の中で、その意味を理解すると同時に、それが出来るのは凪沙と言う少女のおかげであると言うことも知る。
流麗の如く時間は過ぎ去り、そして、流れるままの時を堪能しながら、二人の時間は重なり、共有される。幸せな時間が流れるのは速い。身体と精神が、それほど、この時間に充実差を感じているのだろう。仕事とは違う、特別な時間の流れの快楽に身を委ねて、一人の少女は大事な人と一緒に街を歩く。
「そろそろ、かな。」
気づけば、既に11の時を半分以上回っている。光輝く街の中で、踊るように歩く二人の姿は誰が見ても、この街に住む一国の姫のように見えるだろう。
「智恵理、行こう。」
「うん。」
貴女となら、どこへでも。
そう、心の中で口にしながら、二人は駆けて行く。シンデレラは魔法の効果が切れる前に城を出るが、二人は魔法の条件を満たすために走り出す。イルミネーションで彩られた魔天楼の生み出す幻想世界の姫君達が目的地へと駆け抜けて、そして、連れてこられたのはアキバスターで一番、高級なホテル。
凪沙の給料で一泊二日分の予約をしたと言う。
幸福、この時間。真の意味で二人きりで過ごす場所。魔法が、今か今かと、待っている。チェックインを済ませて、エレベーターに乗り込み、今日、一番の魔法がかかる時間前に何とか、一番高い場所にあるスイートルームについて、最愛の人が一番、アキバスターの街が良く見える窓際へと連れて行く。
「そろそろかな?」
「何が…?」
日が変わる五分前。
シンデレラが城を出る時間に、二人は真逆のことをしている。
日付が変わる瞬間に紅い髪の姫君が大切なパートナーの手を改めて伸ばしてエスコートし、そこから、飛び降りるのではないのか?と、思ってしまうほどに、窓に近づき、そして、抱きよせる。
時計の針は秒針が、既に5の所に来てる。
「4,3,2,1…」
日付が変わり、そして…街一面が、いったんの光を消すと同時に再び、光を生み出した。そこには、文字が描かれている。
「智恵理、読んで…見て?」
「うん…?」
そこに描かれていた文字は、智恵理の誕生日を祝福する言葉。街のイルミネーションが魔法にかかったかのように智恵理を祝する。
【智恵理、誕生日おめでとう。By.凪沙&アキバスターの住民一同…】
と、描かれて、そして、光の言葉は歓喜に包まれる。これが、凪沙のプレゼント。自分の為に、用意した最高のプレゼント。
満たされていく。
「まだ、プレゼントがあるんだ。」
「え?」
凪沙が取りだしたもの、おもむろに取り出された箱を開き、そして、取り出されたのは銀のリング。すっと、優雅に智恵理の右手を掴み、その薬にリングをはめた。
「おめでとう。智恵理。結婚指輪…と、見てほしいかも。ペアリングとか、まだ、そういう形のモノって買って無かったから。」
「凪沙、凪沙ぁ…!」
全てのイルミネーションが凪沙の光で生み出された魔法にかかったかのように、智恵理を祝福するのだから。
凪沙の仕掛けた魔法かかった智恵理は言葉で表現できないほどの歓喜の感情が智恵理を満たし、その気持ちはキララを通して、凪沙に伝わってくる。その感情の意味はプラスの意味ではあるが、凪沙は、敢えて言葉にしない。
何よりも、喜んでいる智恵理の表情を見れば、全てが解るからだ。誰にも言わない。二人だけの秘密。二人だけの時間が流れて行く。
難しく、いや、それ以上に言葉で語る必要もないだろう。
この二人の生み出す独特の空間は。
魔法で彩られた魔天楼の智恵理を祝福する言葉は消える。
しかし、智恵理の心の中には全てが刻まれたのだ。
言葉、感情、精神、そんな物を超越して幸せという物を伝え、感謝の意を述べて、凪沙は祝福の言葉を伝える。言葉はいらないのだ。
二人に、言葉はいらない。
だからこそ、そんな関係だからこそ、二人は輝ける。
誰よりも。
愛しあいながら、その愛の色を、より輝かせて。
その一室の輝きはアキバスターの誰からも見えたと言う。そして、電気の付けられていない二人だけの空間で改めて二人は恋人繋ぎをし、二人は距離を近付ける。
「智恵理…おめでとう…それと、早いけど、メリークリスマス。」
「ありがとう…凪沙も、メリークリスマス。」
近づき、そして、忘れかけていた行為を甘い二人だけの空間で、凪沙が腰に手を回し智恵理を近付けた。
「あ…」
ほんのりと、智恵理の頬が染まる。
体温すら、冬の気温を凌駕するほどにまで熱くなっていると感じた。
凪沙にリードされる喜びが、智恵理から思考を奪っていく。
熟れた唇と歓喜の涙で満ちた濡れた瞳を閉じて凪沙は智恵理の唇を重ねた。
そっと、優しく甘い、凪沙の唇の感触と、その味は、智恵理の心をより熱くさせる。
蕩けそうになるくらいに、キスの感覚と唇の感覚が熱くなり、熱中症になってしまいそうなくらいに幸せのボルテージと言う物があるのなら、今の智恵理は最大まで上がっている。
結婚指輪に、魔法で彩られた世界で書かれた光の言葉。
愛と言う物を超越して、その形は、何よりも、神聖という言葉に満たされた。
誰も近づいてはいけない。
誰も、その領域に触れてはいけない。
これが両思いの究極の愛の形なのだとしたら、この二人は、そこで止まるのだろうか。いや、そうではない。人の愛の可能性は無限に満ちている。まだ、これ以上の愛という形を超越した愛を二人は育む。
身体と心の芯まで愛で満たされ、ただ、今は、この優しい二人だけの魔法で満たされた世界の中で、二人は祝福し、そして、愛しあう。
(凪沙…私だけの…)
紡がれる唇を、永遠のものとするかのように、アイドルであることも全てを忘れ、キスと言う行為に溺れあう。
一度、唇を話して、濡れた瞳同士がお互いを見あう。官能的な表情と切なさを込めた表情。
もっと、貴女と…もっと繋がっていたい。
絆を、もっと、二人の色で満たしたいのだと伝えあう。
苦しいことなど、あるものか。
愛は永遠に満たされぬもの。
だから、もっと深めあう。
そして、愛を育みあう。
一度、満たされても、まだ、先が欲しいと思うから、だから、お互いに飽きることなく愛し合うことが出来るのだ。
互いのキララが光によって作り出した祝福の空間は深く、そして、美しい。
もっと、深く、もっと一つに、もっと…もっと…智恵理の誕生日…二人は今まで互いに与えられなかった愛を満たしていく。

| AKB・乃木坂 | 00:00 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://civer.blog122.fc2.com/tb.php/5757-83c54fcf

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT