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砕け散るガラス

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ユイレナ前提の、レツ→ユイ
今日、最終回だから急遽で一気に書いた。


 「もし、ユイとレナが結ばれたら……祝福しよう。」
 そう胸に決めていた。
 親友だから。
 そう。
 親友だから。
 誰もが自分の中に理想の他人を飼っている。
 人ではないかのような扱いだが、人によって、それは当然のことでもあると思う。愛の形は人それぞれ。中には軽蔑したくなるような形もあるだろうが、それも一つの形なのだろうと理解もする。
 好きな人ほど愛したい。
 そう思うのは人として当然のことだとレツ・ナルミは口にする。
 だから、誰よりも愛したくなるし、誰よりも独占したくなる。独占したくなるから、悪い妄想、他人が見たら気持ち悪いと思える妄想を人は平然としてしまうのだろうと一人口にした。
 『レッちゃん……そんな、見ないでよ……』
 白い肌を隠して、目の前で金髪が揺れる。振り向いたユイは恥ずかしそうに顔を背けながら、それでもチラチラと視線を外すことなく瞳は真剣にレツを見つめている。頬が赤くて初めて、これから行うことに対することに緊張感を抱いている。
 もじもじしてる姿がレツにとっては可愛らしくて仕方がない。
 白い肌の乳房や、内股になって擦れあっている股間と、悩ましげな表情がレツの情欲を掻き立てた。
 「なんで?可愛いよ……」
 ユイに向かって耳元で囁きながら、レツは確かに自分の中に伝わる温もりを確かめながら息を飲んだ。
 これから自分は、この国のすべての人が尊敬している女王陛下を自分色に染めるのだ。徐々に近づく、ユインシエルの肉体がレツの中で、さらなる劣情を呼び起こす。綺麗すぎる。初めてとはいえ、女同士、女王とはいえ友人ともなれば互いの肉体を見ることだって何かしらの要因であるのだ。
 ユイの家に宿泊した時から、互いに子供の戯れとして身体を見せ合い、どっちが綺麗か、なんて、そんな他愛のない会話を見せ合うことくらいはしてきた。もしかしなくても、ユイの肉体は何もかもが美しく、レツを魅了することに時間は関わらなかった。同時に、その時点で恋をしたと明確に自分の中に刻み込まれた。
 そして恋をしていたのは、もっと、もっと前のような気がしてレツはならなかった。ユイを思うとほんのりと体が熱くなる時期があったことを覚えている。
 (あの頃はユイを思うと、暖かくて苦しくて切なくて……私の中で、ユイが何なのか分からなくなってくる。)
 その感情が解らないまま、ユイの白く彩られた肉体に合わせた金色の髪を見た瞬間、理解した。それが美しいと他人が触れると思った瞬間、何か屈辱的なものが精神を抉るかのように感じ取った。そうして、レツの中に思い出が蘇る。
 『レツちゃん……』
 「あ……」
 目の前からユインシエルが消えていく。
 全ては妄想なのだと一瞬で我に返る。
 あの頃のことを思い出すだけで、ほんのりと赤くレツの頬が染まっていくのを人差し指で撫でた瞬間に悩ましい吐息を漏らしていた。ほんのりと、肉体にも熱を帯びてきて、胸の突起が硬くなってくる。じゅわっと、下半身に疼きが走るのを感じ取っていた。
 「あ……ユイ……」
 その名前を口にするたびに、身体が熱くなる。
 ユインシエル・アステリア……
 なんと、高貴な名前だろう。下着が己の蜜で濡れていることに対して気にも留めることなく、頭の中で、愛しのユインシエルを思い描く。このまま、自分を慰めてしまうことに罪悪感を抱いてしまうほど愛している相手。息苦しくなるほど愛して愛して、愛したりないほどに、思い人が脳を支配する。苦しいと思うことすら悦楽になってしまうほど。
 キスしたい。
 セックスしたい。
 そう思えてしまうほどに嫌味のない素敵な人。感じる。自分の蜜の匂いを感じると官能的な匂いに支配されて、甘い吐息が部屋に充満し始めた。自分の息に匂いを、いつか嗅いだユイの息に匂いに投影し、ユイを感じ取る。
 あの匂いは、いまだに忘れることがない。
 ユインシエル・アステリアの心地よい、人を落ち着かせる息の匂い。眉を潜ませ、内股を擦るように動かすだけで、ぼわっとしたような人に抱きしめられる時のような、豊満な胸に顔を埋めているような心地よさが肉体を襲う。
 「あぁ……ユイが、私の中に……あ……」
 だが、人の思考というのは意地悪だ。
 ユインシエルの横に常に存在している黒髪の美少女が横切り、思わず、その名前を呼んでしまう。
 「レナち……」
 現実に戻される感触を取り戻してしまった時、肉体の綻びが解けたように絶頂に支配される前に、すぐに呼び戻す。ユイの心の中のには自分以上の存在がいる。レナ・ユインシエルの名前を口にした瞬間、全てのことが嘘であるかのように消えていく。今まで抱いていたことも。
 いつからのことだろう。
 恋心を抱くと同時に、ユイの中には自分には絶対に勝てない存在が、その心の中にいたということも。
 「最初から、勝ち目なんて、無かったのかな。」
 現実に戻り、ユイに抱いていた劣情が一気に消えた瞬間、ドッと疲れが襲ってきたかのように自慰する気すらもうせてくる。そうして、いつの間にか眠りにつくようにぐったりとして、唐突な眠気も訪れた。
 「ユインシエル……ユイ……」
 最初は非常に勇気を持って学園の中で女王であるユインシエルが自分に話しかけてきたことを覚えている。
 子猫のように肩を震わせて、自分の名前を呼んでくれる、その姿は、どれほど自分という存在に対して勇気をもって声をかけてくれたのか、機敏な金色に輝く髪が太陽に照らされて神々しく一瞬は見えたけど臆病な犬のように人に話しかけるのにどれだけ勇気を持っていたのか、肌で感じた緊張感というのは触れるだけで感じ取れた。
 外見は天使のような存在なのに、皆から慕われている存在なのに、彼女も人間なのだと、天使だと思っていた存在が人間だと初めて自覚して、気づけば女王という壁を取っ払ったかのように自然と話しかけてきたレツには毎日のように甘え、そして、触れ合うことを求めてきた。
 昔、どこかの国が同じ国の人間でありながら東と西に別れて、その狭間には巨大な壁が敷かれていたという。それを取っ払った時のような気持というのは、こういうものだったのだろうか。
 人懐っこくレツに甘えてくる存在は女王というよりも妹に近いものでありながら、徐々に変わっていった。妹から友人に変わるまで話していると、そう時間のかかることはない。女王でありながら小動物のように触れ合いを求めてくる。
 (あぁ、本当に嬉しかったんだ。)
 誰も女王という立場もあって、自分からユイと話そうとしない。
 最初は自分もそうだった。
 あの頃の思い出が鮮明に蘇る。周りに馴染めず、とはいえ、おどおどすることなく女王としてふるまい、知らず知らず彼女は壁を作ってしまっていた。王女として舐められてはいけないという部分もあったのだろう。だが、近づくたびに遠ざかる。誰も見ようとしないし、誰も何もしようとしないし、近づこうともしない。
 しかし、一瞬、その瞳の奥に寂しさのようなものが伝わってきた。そこで、わかったのかもしれない。ユイも普通に女学生として友達が欲しいのだと。
 「だから、ね、ユイって呼んでいい?」
 「え、あ」
 「私、レツ・ナルミ。」
 「じゃ、じゃぁ、レッちゃんって、呼んでいい……?」
 もじもじしながら、緊張感がありながらも幼い子供が自分に興味を持った存在に話しかけるように人懐っこい笑顔を浮かべてユイはレツに向って、頬を赤く染め、レツの両手を握って答えた。
 思えば、このファーストコンタクトから無意識の元にレツは恋に落ちていたのだと今にして思う。
 (私、そう話しかけたんだった。)
 そんな自分がユイという存在になつかれたのだ。
 クラスという名の小さな世間は自然と自分をユイ担当の人間、所謂、代弁者にしたのは言うまでも無いし、おかげでそれによって、女王として確かな存在でありながら、それが自分に甘えてくる優越感というのは独占欲が生まれる理由としては充分すぎるものを得ることが出来た。
 そういった、女王と他人の乖離が、もっと自分の中の独占欲が芽生え始めてきた。
 そして、それがユイに抱いた自分の恋心であるということを察する。誰にも取られたくないと女王という皮をかぶった普通の金髪の人懐っこく、自分に対しては小動物のように震えて話しかけてきた少女を手放したくはない。
 「レツちゃん。レツちゃん。」
 「ん?どうしたの?ユイ。」
 自然と人と絡むことで興味を持つ輩というのは出てくる。そうしていくうちに、レツ自身が周りの知らないユインシエルの顔を教室で浮かばせて自然と友人の輪が出来てくる。そんなユイを見ているのが楽しいが、それ以上にレツの中に不快感のようなものが生まれてきた。
 そして生まれて初めてこれ以上にない嫉妬という感情を知った。だが、まだ、優越感はあった。自分だけ、あだ名で呼んでくれる。他は、まだ、皆、苗字だけで呼ぶが自分は、あだ名。それだけで、自分は、まだユイの中で親友、ただ一人の親友としてのポジションを得ることが出来た。
 「レツちゃん、一緒に帰ろう。」
 「うん。今、帰りの準備をするから少し待ってて。」
 ユイとは仲良くなって、王女が自分の友達で自分を慕ってくれて、いつしか、ユインシエル・エナストリアはレツにとって恋心をいつの間にか抱いてしまっていたことに気付く。
 王女でありながらも優しい性格、人懐っこい部分、自分という存在の前でしか見せない満面の笑み。
 今すぐ抱きしめたい。
 抱きしめて首を愛撫して、そのまま、唇を重ねたい。
 余すことなく欲望は王女によって生まれ出る。女王の身体から湧き出る泉のようにレツ・ナルミを狂わせる。押し倒して、このまま。
 いつの間にかの優越感は恋心に代わる。
 誰もがユイにまとわりつこうとした瞬間に抱いた嫉妬心を恋心と気づいた。
 「レナ、私の友達のレツちゃんだよ。」
 自分の恋心は実らないと気づく。そして、その恋が一生、実らないものであるということも。今更、時代遅れの女同士の葛藤とか、そういった古臭いものではなく、ユインシエルには必ず慕ってくれている肉親がいた。ユイにとってはヒーローであり、大切なヒロインでもある。
 かつての女王を亡くしてからずっとユイを支え、慰めてきた血の繋がりのない姉。ユイの人生の半分以上を一緒にいる見た目が幼い少女のような姉の存在を見た時、一目でわかる。レツから見た二人が、どれだけ遠い存在にいるか。それは、たぶん。
 「同じ、ユイに対してどういう感情を抱いているか解るから。」
 そしてユイはたぶん……
 
 「夢……朝か……」
 夢だったようだ。
 そして、寝てしまっていたことに気付く。
 「ユイ、ほしいよ……」
 ユイが好きだ。
 思えば思うほど肉体の火照りが止まらない。
 朝から発情するとは、どれだけユイに性欲をぶつけようとしているのか、溜息を吐きながらユイの肌の感触が蘇り、思わずレツは自分を抱きしめた。だが、レナからユイを奪いとることはできない。レナはレツから見れば、途轍もない深い愛情を抱いてユイという存在を見守ってきたし、そして、レナも。そうして人懐っこいユイと接しすぎたからだと思う。
 「気づけば、私、ユイのこと好きになってた……」
 それが恋だと愛だと知っているけど、どうにもならない、僅かな望みすらないというのを解っているのは辛いものだ。そうしてユイと友人になっていくうちに自然とレナのことを愛するふりをすることでレツはユイの恋心をはぐらかそうとした。
 そうすれば、何を言おうとしてもユイから冗談だと思われるから。そして、私は二人の親友になることを選んだ。だが、自分で選んだことだというのに実に心が痛い。
 「ユイとレナ……レナとユイ……私とユイ……」
 レナ・アステリアにとって、ユインシエル・アステリアは光であり希望である。
 ユインシエル・アステリアにとって、レナ・アステリアは光であり希望である。
 互いにとってヒーローでありヒロインである。
 レツ・ナルミは、本来の思い人を頭に浮かべて関係を思い浮かべる。
 そのように評する。
 自分しか知らないユイとレナに対する関係を、ぼーっと、いつものベッドの上で机に光る額縁に飾られた己とユイの写真をぼーっと見つめ、瞳の中にいる金髪の美少女であり女王である存在を見つめながら考えていた。自分の抱く思いを我慢してしながら、好きな人の幸福を祈る。
 何十年か前の少女漫画のような展開を経験している自分という存在に自重する気も出ない。ユインシエル・アステリアを一人の愛する人としてみたときから、自分の感情というものはすべて無に帰るという運命にあったのかもしれない。
 境界など無駄になくしてしまうと厄介なことこの上ない。
 塵芥のように他人に気付かれずに己の恋を封印してしまえば、それは物凄く楽なことだろう。しかし、そう簡単に行くことだろうか。
 「ユイとセックスしたいって言う、好き……」
 ユイとレナに長く付き合ってる分、互いの色々なところを見てるからどこか悟ってしまう自分がいる。
 (ユイはレナちが、大好きで、レナちはユイが大好き。うぅん、両片思いかな……)
 だが、気を使いあってる部分もあるし、それが遠慮となって互いに何かを言おうとしても。
 「我慢できるわけがjないじゃん。」
 本当は溶けて混ざり合ってしまいたい。
 死んでユイの血肉になり、そしてレナがユイと結ばれればどれだけ幸せなことになるのだろうか。
 互いに一番信頼し合える仲でもあるし一番互いが尊敬しあえる仲。それが何かしらの契約したことによって、ある意味、本当の姉妹であり絶対的な運命を共同する仲にもなった。信頼しあっているからこその誰よりも肉親に近い存在であるからこその、もどかしさ、身も心も一心同体になった先にあるユイとレナの尊さが、これから進化していく。
 互いにとって救いの光。
 以前、そのようなことを教えてくれた。
 両親を失ったユイにとってはレナが唯一の肉親でどんな時でも自分を支えてくれたレナが凄い光のような存在。
 レナは、どうも昔からああいう存在らしく自分の成長しない体とか、そういうことを気にせずに自分という存在を一人の姉として人として見てくれるユイが眩い存在だそうだ。血は繋がっていなくても誰よりも濃い人間関係。
 レナは自分がユイの負担になることを何よりも嫌がり、ユイの幼いころから、ずっとレナが守り続けた姉として肉親としての情念、いや、そこには肉親以上の愛がある。血の繋がりがある人間同士は結婚できない。
 なら、血の繋がりの無い家族同士の恋愛はどうなるのだろう。男っ気の見せないユイ、そんなユイのことが好きで好きで仕方ないけど、ユイの中には肉親であるのに肉親以上の感情を抱いている人間がいる。
 レナが消えることが無い限り、ユイは自分に振り向くことは無いだろう。
 姉が妹に対して恋心を抱くこと。それは、ユイ程の人間であるのなら、誰だって抱くことだろう。
 近親相姦、そんなことだって、あのユイを見てしまえばそうなることも。同性にすら虜にしてしまうユイの魅力は。
 「でも、好きになってもユイは私のところには届かない。」
 レツ・ナルミは、本来の思い人に対してユイとレナに対する関係を、ぼーっと天井の染みを数えながら考えていた。だが、それに対してレツ・ナルミは異常だと思うことは無かった。なぜなら、自分はユイも愛しているけどレナも好きだから。
 「レナ・アステリアにとって、ユインシエル・アステリアは光であり、希望。ユインシエル・アステリアにとってレナ・アステリアは光であり希望。互いにとってヒーローでヒロインなんだよね。だから、惹かれあうのって運命なんだよね。」
 しかし、自分の抱く思いを我慢してしまうと首を絞められたかのように苦しみを味わう。
 応援すると言いながらも、内心は降られて自分の存在にならないだろうかと思ってしまえるほど、そんな矛盾に近い思いを抱いて生きている。
 レナは常にユイのことを愛している。強くて、優しくて、母親を失って消沈中だったユイの心を両手で優しく抱きとめたのもレナだったという。
 『大切な存在なの。凄い。』
 親友だからこそ、レナがユイのことを自分に話してくれた時は胸が痛くなったと同時に羨望の眼差しがあった。惚気を聞かされているよう。
 胸が痛い。
 辛い。
 涙が出そうだ。
 『何で、私の時以上に楽しく話せるの!?私の話の時だけ楽しそうに話してよ!!』
 そう叫びたかった。 
 だが、ユイの人柄を見て、それを言えるだろうか。 
 いや、好きなら言えたのかもしれない。
 でも、それ以上に、それ以上に!
 自分がユイを傷つけることへの恐れがユイに己の本心を曝け出すことで、この関係が終わることに対する恐怖が何もできなくさせてしまう。
 「私、臆病なんだ。」
 レツの心が張り裂けそうになる。ユイに手を伸ばしても掴めない。
 掴めないからこそ、吐き気がするほど辛いし、その日は
 「大声で泣いたんだ。私、ユイが自分の手の中に納まりきらない。って知っちゃったから。」
 本心を曝け出してユイを傷つけることが怖い。だから、親友の位置に自然と自分は甘んじることにした。それほど、二人の関係というのは濃厚であり、手を伸ばしても届かない場所にいる。昔、テレビのアニメで見た二人の巫女の話であるかのよう。あれも奇しくも巨大ロボットが出ていたのを思い出す。
 そういう中でいながら、二人も……
 ユイもレナも血の繋がりのない自分を常に最優先に動いてくれるレナに対して肉親に対しての情よりもいつの間にか、恋心を抱いてしまっていた。
 「忘れたい。」
 それなりにユイへの淡い恋を忘れるようなこともしてきた。
 一度だけ自分を慕ってくれた男と付き合っては見たものの、結果は最悪だ。もとより好きではないという部分もあったけど、自分を慕ってくれるという部分さえあれば続けられると思っていたが、どうしても嫌な部分を見てしまうと、やはり嫌悪を抱いてしまう。
 そしてユイを比べてしまう。
 ユイなら、そういうことをしないのに。やはり、男と恋愛などするものではないと片付けた。
 ほんの些細な思い出。そして、本筋とは逸れるものの初恋だった男子の嫌なところを見たことを思い出し、幻滅。
 『レツちゃん……』
 再び、あの声が聞こえてくる。
 ユイが好き。
 ユイの金色の髪が好き。
 春風に靡き、高貴な服を着て、より、ユイという人間を美しく際立たせるユイの髪が好きだ。
 ユイの声が好き。
 人を優しくさせる、怒りを忘れさせ、囁きながら透き通った声はユイを心を現しているようだから。
 ユイの肌が好き。
 抱きしめてくれる感触、嫌なことすら忘れさせてくれる包容力、皇女は、この国の象徴であるようにユイの肌は太陽のように暖かいから。
 あぁ、ユイ……
 ユイが好きなの。
 貴女を誰よりも。陶酔するように語るレツの姿、誰にも見せられない。
 恋人になったユイの前でしか。
 「好きだよ。ユイ……」
 目の前の幻影のユイに愛の告白をした瞬間、胸が痛くなる。
 苦しい。
 身体が動けなくなるほどにはユイへの自分の衝動を制御できないほど。
 ぽかんと口が開き、唾液が口の中にたまり、嫌な臭いが溜まり始めているのに不快にならない。
 びりびりと走る電流のような感激にユイへの思いが走る。そして、熱くなった。ユイへの気持ちが抑えきれない。肉体がユイの魂と重なったような暖かいという言葉は生易しい。
 熱い。
 燃えるようだ。
 ユイの肉体の熱が、この小さな体に、どれだけ入り込んでいるのか。
 自分の肉体にユイの魂が全てが入り込んでいるのか、そう思いたくなるほどの熱さ。
 ユイに思いを伝えるだけで、こうまで心地よさと温かさが襲い掛かるというのか。
 それが、レツ・ナルミの中にあるユインシエル・アステリアへの愛情。
 ユインシエル・アステリア、なんて美しい響きなのか。自分が一番愛することになるであろう人の名前。恐らく、これ以上の人を愛せないと思えるほどに恋い焦がれている。
 あぁ、好きだ。
 ユイが好きだ。
 叶うことが無いと解ってしまっているからこそ、余計に、何よりも、この恋を……
 日を重ねるごとに大きくなる、このユイという王女でありながら人間であり、自分の友人である人を。
 このままユイへの感情を爆発させて、自分への思いを爆発させてしまおう。
 そう思えるほど胸の鼓動が激しい。
 このまま、一人で果ててしまいたくなるほど。
 感情は混沌の中を身を置き、そしてユイへの思いが昇華されて散らばり、混沌の世界は自分の都合の良い優しさによって包まれる。
 「こらー!レツー!」
 部屋に陽光が差し込み、いつもの騒がしさが確かな朝の感覚が自分を現実戻す。
 じわじわとレツの肌を焼くような感覚が、そして人間、生きているうちには抗いようのない空腹が今を呼び起こす。
 「ったく。なんで、こんな機能を。」
 ずっとユイの思いに更けていたかった。だが、ユイへの思いは報われないとでもいうかのように現実の世界は様々な機能で、それを否定する。
 「レツー!起きろー!ごはんだぞー!」
 「仕事を手伝えー!」
 サラとティアの声がレツの部屋に響く。
 「はいはい。今、行きますよ。」
 今日も、またユイに出会える。
 それは幸福でもあり、同時にレツにとってはある意味、実らぬ思いが募るのだから不幸だ。


 「ユイ……おめでとう。」
 大きな事件が起きて、エナストリアは再び平和を取り戻す。
 二人の感情は何よりも詳しく知っているはずだった。誰よりも、自分が一番知っているからこそ、自分の思いが届かない辛さに胸が痛くなる。だが、祝福せざるを得なかった。二人の親友だから。
 「レツ、泣いてるの……?」
 あのエナストリアにとって大きな事件があってからか、余計に、何か二人の関係は強く結ばれたように思える。それこそ、本当に言葉通り、見てわかってしまう。
 何も言わない。
 言えない。
 ただ、己のレツ・ナルミという人間の抱く感情は内側にそっとしまっておくだけ。
 「何でもないよ……サラ、ティア……」
 心では割り切っているはずだった。しかし、人間は、そう簡単に割り切れない。
 「レツには、サラと……」
 「ティアが一緒にいるよ?」
 痛む胸の奥に宿る暖かい二人の柔らかい肌の感触がレツに走り、抱いていた幸福な妄想が割れたガラスのように砕け散る。二人の少女に優しくされたくらいで、それで、どうにかなるものでもなかった。失恋によって壊れた心は簡単に治らない。

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