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ACT-Ⅸ「餓鬼」

少女が見た姿は、異形の姿


「がぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!」

「あなた!!ガッ…」

響き渡る。

響き渡る。

響き渡る。

断末魔の声が、一つの家に響き渡る。

「お父様…?お母様・・・?」

ティミル家の夜に、一人の殺人鬼はやってくる。

あぁ、また、この男は人を殺すのだと、容易に想像することができる。

ティミル家に響き渡る、男と女の声・・・

ここには、一人の少女も住んでいた。

そして、少女は見てしまった。

買ってもらったばかりのぬいぐるみを手に持って。

眼球を、広げるだけ広げ、その光景を少女は焼きつけている。

見たくないとわかっていながらも、子供の好奇心と言うものがあるのだろう。

嫌でも、体が動かなくなり、その光景を、一瞬たりとも見逃すなと、精神が言うくらいに、少女は、立ち尽くし、この光景をただ、ただ、見ていた。

眼球が抉りとられる瞬間も、心臓を無理やり、取り出し、自らの口へと運ぶ場面も、見てしまった。

食らう姿は、餓鬼のように見える。

ぐちゃぐちゃと、臓器、食道という名の、人間の生肉を食らう音に、ポタポタと、生肉を食らった口から流れ出る、赤い鮮血。

少女の心を閉ざす、精神を崩壊させる、全てを恐怖に染める。

十分な素材であるといえるだろう。

ましてや、人間の生肉や、骨を食らう姿など、めったにお目にかかる姿ではないのだから。

強欲で嫉妬深く、物惜しく、常に貪りの心や行為をした人が死んで生まれ変わる者。

いわば、この男は、一つの者に対して、強欲で、それを奪われて嫉妬深くなり、そして、貪り、この姿となってしまったのだろう。

この人間に、せめてもの、人の心は持っているのだろうか。

否、人の心ありといえども、それは、怨念と呼べる部分でもあるだろう。

人を食らうことこそが、最もな生きがいと言える、この餓鬼。

少女は、流石に、その光景の意味が、解らない訳ではない。

流石の光景に、吐き気が襲い、自分の汚物をその手で、何とか、受けとめた後に、近くにあった、ゴミ箱に全てを吐いた。

自分のゲロの匂いなど、いちいち、気にしている余裕など、ありはしない。

見たくない。

見たくないと思いながらも、見てしまう。

目をそらしそうな場面でも見てしまう。

未知の物を見てみたい。

怖いけど、見てみたい。

自分の親の屍を、その口に獣のように、禍々しく食うシーンなど、おぞましすぎて、見ることができないと思っていたのに、それとは裏腹で、この場面を目に焼き付けたくなった。

眩暈まで、襲ってくる。

好奇心があるとはいえ、やはり、この光景を、耐えることなど、この年では酷というものか。

全体的に、気持ち悪いという光景が走る。

彼女の名前は、コロナ・ティミル・・・彼女は、両親を失った。

残虐なまでの殺し方を終えて、精神、感覚が、全て、自分の元に帰ってくる。

現実へと引き戻される。

改めて、知った時、少女は事の重大さを、改めて実感することが出来た。

両親が、私の目の前で殺されてしまった。

実感した時、涙が止まらなくなる。

しかし、声を出せば、両親を殺した男に、殺される。

声だけは、必死に抑えてた。

声を出して泣くのは、死ぬことと同じ。

しかし、やはり、恐怖を感情に表したいと言う思いが募る。

「ひっ……」

ひっそりと、小さな声を漏らしてしまい、急ぎ、口を塞ぐが、その拍子に、ぬいぐるみを落としてしまう。

その音が、犯人の耳の中に入っていった。

両親を殺した男が、獣のように充血した、赤い目のようなものを見せる。

覆面等を、つけていない。

ただ、紅い眼をした人間の獣が次は、お前の番だと言わんばかりに、牙をむき出しにさせ、睨んだ。

しかし、両親を殺した男は、コロナのいる場所へは行かなかった。

どういうことなのだろうか。

そこには、自分以外の、何か、別の人形のようなものがいた。

それと同時に、男は、この家から出て行った。

「大丈夫…ですか…?」

「え……?」

コロナに声をかけたのは、冥王イクスヴェリアだった。

コロナの知らない少女。

同じくらいの少女。

出来うる限りの力を使い、相手に洗脳されたマリアージュのコントロールを奪い、彼が、殺そうとした、目の前にいる少女を助けたということだ。

「あなたは……?それに、この状況は!?」

「落ち着いて・・・取りあえず、今は・・・」

少女は、取り乱し始める。

いや、取り乱さない方がおかしい。

それに比べて、イクスヴェリアは、その存在自体が、あり得ないものと、コロナは見てしまった。

確かに、養子も自分と変わらないというのに、その姿は、逆に、気品に満ちている。

この事態に、焦りと言うものが見えなかった。

同時に、彼女は、後日、機動六課へと向かうことになる。

コロナ・ティミルを連れて。

説得するのは、大分骨が折れたようだった。

「仕方が…ありませんから…」

「本当に…助かるの・・・私…本当に…」

虚ろ。

失禁。

全てが、現実の出来事だった。

少女には、あまりにも過酷すぎた。

ただ、助けてくれた、目の前にいた、少女だけを信じることが出来た。

いや、機動六課と言うより、かすかに感じた、アマテラスの力。

目の前にいたのは、確かに、アマテラスだった。

「イクス・・・か・・・」

「幼い姿の中に、まだ、オリヴィエ様の姿が…」

出会い。

いや、再会とでもいうべきか。

「その子は?」

「まぁ、色々とありまして・・・」

事情を説明し、彼女は、コロナを部屋へと運び、その後、

「私は・・・お父様と、お母様・・・」

月村燈也、そして、月村すずかと名を変えた二人と再会した。

「眠りさない・・・イクス…」

「はい・・・お母様・・・」

「あの…あの子は・・・」

「もう、別室に移したわ。」

「はい・・・」













「彼女の様子は?シャマル・・・」

「相当、衰弱してるわね・・・」

もう、全てを思い出したくないとでも言いたいように、少女は、ベッドの上で、何も、何も言わずに、ただ、目と口だけを開けて、そこに存在していた。

何も、語ろうとしない。

語りたくないのだ。

「ずっと・・・この調子なのよ・・・」

「精神的に、見たものがショックだったんだろうな・・・」

その、幼い体で、何を見てきたのか。

外傷は、何も無い。

受けたのは、精神的ダメージ。

ヴィジョンを覗こうとしても、ある意味、彼女の中に入り込むようで、誰にもしって欲しくない物を掘り起こすようで、気が引けた。

「彼女の名前は・・・?」

「コロナ・ティミル・・・」

ガフに検索をかけた結果。

両親は、既に、覆面の男によって、殺害されていた。

そして、あの男が作り出した、殺人リストは、既に、無差別に並べられた物になっている。

最初の、リストから、今のリストまで。彼女と言う存在に、何があったのか、何を見てしまったのか。

我々が知ろうとも、彼等が知ることなど、まだ、無いといえるだろう。

「タリナイ・・・アノコドモヲ・・・クライタイ・・・・・・」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

コロナが、悲鳴をあげる。

「シャマル!?」

少女の上げた悲鳴に、燈也は、流石に驚いた。

「定期的に、叫んでしまうのよ……」

それが、定期的なものと知ってしまった時、どこか、期待していたものを打ち砕かれたような気分になった。

燈也は、イクスヴェリアの元へと向かうために、すずかの部屋へと向かう。

それから、すぐに、精神は奈落の底にあろうとも、執念が怨念を食らう、キャロという少女も、運ばれてきた。













「殺してやる・・・!!殺してやる・・・!!殺してやる・・・!!殺してやる・・・!!殺してやる・・・!!殺してやる・・・!!」

少女は、牢の中で、叫び続けていた。

あの男に対する、呪詛を吐き続けている。

その言葉は、全てを飲み込むかのように、彼女の中にある怨念を、消しつつあった。

断片的に流れる、物を、悠介は読み取った。

黒き者が、黒き者を食い始め、より、大きな、黒き者に進化し始める。

弱肉強食であるかの如くだ。

キャロの中にある、黒き者、怨念が、巨大化する。

呼ぶものは、破滅。

それと共に、手に入れるは、絶対的な力。

強者を、ぶち殺すこととて、可能である、絶対的な力。

形になろうとしたものは、キャロの怨念によって、すべて打ち砕かれる。

いや、打ち砕いているのではない。

逆に、自分の力として、飲み込んでいるのだろう。

元より、他人の霊を、力だけ取りぬいて、霊体を成仏させるという、手段なのだろう。

断片的に流れる、この光景は、キャロと言う、優しかった心を、一気に消し去り、修羅とする。

彼女が、殺したいのは、覆面の男。

名前などは、一切不明の人間と言える、全身が、怨念に包まれている男。

フリードの業火に焼かれておきながら、復活し、レイジングハートなるデバイスの偽物を作り上げ、それに似た魔術を高町なのはに似た魔術を使いこなすという荒業まで見せたものの、結局は、妨害された。

ある種、その型は、もう、古いとでも言うように。

スサノオの前に、屈服し、殺されようとした瞬間、バウータをつけた女・・・周りが言う、フェイトと言う女と、もう一人のバウータをつけた女、多分、高町なのはが登場しその男を、どこかへ連れて行った。

誰だ、誰だという前に、デバイスが同じなのだから、明らかに、その人だろう。

高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、敵になった。

この事実を受け入れることができない人間は、あまりにも多すぎる。

しかし、敵として出たのなら、まだましだろう。

「彼女の様子は・・・?」

「精神が、汚染されている・・・と、言った方が良いわね。」

精神が汚染され、彼女の心と呼べる部分は、怨念に支配されてしまっている。

汚れた、何かに、使ってしまった彼女の瞳には、月が既に見えなくなり、光と言う者を失ってしまった。

無情にも、男の中にいた、大量の、人、人、人の黒い部分。

黒くて、醜くて、彼女から、光を奪ってしまったといえる物であるだろう。

何も見えなくて、何も、する事が出来なくなってしまうという、人の狂気が、彼女の体の中に、心の中に、彼女の闇となって、器は機能しなくなる。

全てが、奪われてしまったという事なのだろう。

光の見えない、虚ろな目が見るものは、永遠と言うなの、限りない、眠りの時間。

黒き精神に、翻弄されて、翻弄されて、怒りと言うものは、黒い精神に取り込まれて、彼女の中の力という力は、消えていく。

その姿は、ダッチワイフのように、動く事の出来ない単なる、人の器。

此処にいなければ、性処理の愛玩人形として、扱われる事もあるだろう。

ざわざわと言う音が、優しい風の音が、彼女の、耳に入ることは無い。

入るというので、有れば、怨念のみと言う事になるのだろう。

無意識に、口から発せられる言葉は、エリオと言う言葉。

呪詛のように、彼女は、エリオと言う言葉を呟き、かすかに生きているという事を、実感させてくれる瞬間でもあった。

しかし、それは、今の姿…

「早いうちに復活するさ…あの、男の怨念より、この子の怨念の方が強い…」

そして、目覚めた時には、すでに、

「修羅となっているかもしれない…」

「悠介・・・?」

スカートをはいた、一瞬、奇抜に見える衣装の少年が、キャロを見た後に、感想を述べる。

悠介と呼ばれた少年は、瞳をキッと、厳しく、その先にいる、少女、キャロを見た。

恐らく、アレは、キャロと言う少女を食いつぶすには、少なすぎるほどの要領だ。

そして、悠介の後に続くように、スバルと言う名前の少女が、入ってきた。

彼女が、ティアナに伝えた、最初の言葉は、誰もが、自分のすべき事を疎かにしてしまうほどの、衝撃的なものだった。

「フェイトさんが・・・・・・敵にいる・・・・・・」

シャマルも、その場にいた、スタッフ全員が、想像どおりに、言葉を失った。

「とりあえず、映像で見る以上に、強いよ?あの人。」

「一瞬で、悠介に近づいて・・・気づけば、いなかった…」

「そんな、そんなこと、フェイトちゃんが!!」

戸惑うことは無理な話であるのかもしれない。

一度、揺り籠の外で戦った時、ジェイル・スカリエッティの息子である、アヤ・スカリエッティに、勝利することすらできず、そして、揺り籠の中で行方不明となってしまった。

光が、あの時、揺り籠に落ちた光が、そのまま、フェイトを連れ去ってしまったかのように、粒子となったかのように、彼女の存在は、揺り籠から、完全に姿を消してしまった。

今日、スバルが言うには、間違いなく、それは、フェイトだったようだ。

バルディッシュという名の、デバイスを巧みに操り、悠介を切り殺そうと、容赦というものは、無かった。

「つまり、敵なんだろ?あんた達の、かつての味方はさ。」

敵・・・その言葉に、スバル達はぞっとした。

ティアナは、ただ、息をのみ、殺さなければならない相手が増えてしまったことに、嘆いていた。

「取りあえずさー・・・空気的には、ヴィヴィオに言わない方が良いって感じだな。それより、その前に、殺した方が良いのかい?」

そこら辺にあった椅子に腰かけながら、足を組み、簡単に、言った。

フェイトを殺すということを、知らないとはいえ、良く、簡単に言える物だと、周りは唖然としてしまった。

「殺すって!!悠介!!」

「スバル・・・あれが、フェイトさんなら…もう、敵なのよ。殺そうとするなら、殺さなきゃいけない。」

「どうして!?ティア!!前のティアなら、そんなこと!!」

「殺す気で来たんでしょ…?捕獲するなら、相当な腕が、必要・・・ましてや、悠介と同じスピードなら。」

額に、汗というものが流れ始める。

探していた人物は、最悪の形となって、降臨してきてしまった。

「殺す覚悟で行かなきゃ、死ぬのは、こっちよ?」

再び、スバルの背筋がぞっとしてしまった。

フェイトが、かつての仲間を殺すとは思えない。

また、ティアナが、かつての仲間を殺すと言う事を言うとは、思いたくなかった。

その、概念にとらわれてしまったが故に、それを、平気で口にしたティア、そして、それを行うであろう、フェイトの存在に、彼女は、恐怖してしまった。

フェイトに殺されてしまうということが、妄想ではなく、現実として、実際に起こりそうになるということを、受け入れることができなかった。

ティアナが、冗談を言っているようには思えないし、真顔で、冗談を言う人間も、そうそういない。

新しく出来てしまった敵というものが、知っている人間であるということに、恐れを抱いてしまう人間が、そこにいても、おかしくはない。

「皆が殺せないなら、俺が殺す。」

悠介は、今度は、確実に殺すという、気迫は、鞘を床に突き刺すように、大きな音を当てながら、立ち上がった。

草薙の剣の、鐔の部分を、器用に肩にかけて、周りを見始めた。

ここで、覚悟を決めているのは、若干戸惑っているとはいえ、自分とティアナだけが、フェイトという女を殺すことができる人間だと、確信することが出来た。

ただでさえ、強大な力を持っているほどの、危険人物が、ここに来ているというのだから。

さらに、おそらく、彼女も、高町なのはという人間も、フェイトと一緒にいるかもしれない。

いや、あの、あの、男を連れ去った女こそ、高町なのはであると言っていいのかもしれない。

確信めいたことは、ないが、ただ、そういう感じがした。

殺す事に、特に躊躇いはなかった。

「まだ、その人を知らない俺が殺せば・・・恨みを受けるのは、俺だけで済む。」

「どうして…そこまで…」

「さぁな。」

ひょうひょうとした感じで、言い放ち、部屋から出て行こうとしたときだった。

「解ってると思うけど…ヴィヴィオには・・・」

「言わないよ。母親なんだろ?あの子の。」

それくらいの礼儀は、わきまえている。

つもりだと、悠介は、その言葉を聞いた瞬間、何故だか、カチンときた。

フェイトを殺すというのは、なのはを殺すというのは、おそらく、一部を除いて、相当、恐ろしい出来事なのだろう。

それこそ、信じることなど、できないと思ってしまう位に、ショッキングなことなのかもしれない。

フェイトと、なのはという女は、相当、信用されている女たちであったのだろうと、悠介は、理解することが出来た。

「いい加減に、死なよ。敵になったんだからさぁ。」

「まだ、あれが…なのはさんっていう、保証だって…」

「あるだろ?バルディッシュっていう、デバイスを使ってる相方…バリアジャケットは、共通した、白いものを使っているとは言え…ね?」

てっとり早く、殺してしまった方が、楽だろうなどと、考えてしまうのは、敵を捉えようとして、失敗した時の怖さを知っているような気がしたから。

敵に捕らえられて、強化、改造・・・ありえることだ。

絶対に無いとも、言いきれない。

「悠介は・・・殺したいの・・・?」

「うぅん……うん。放っておくと、危ないだろ?機動六課にさぁ…」

あくまでも、助けようとしたい、スバルと、あくまでも、殺すことを主張する、悠介。

絶対的な意見の違いというもの。

二人とも、地獄は見ている。

スバルは、身近にいた人間を失い、そして、戦場に赴き、人の死を目の前で見た。

では、悠介のみた、地獄は何か。

それこそ、まさに、阿鼻叫喚・・・我等が知る地獄、そのものであったのかもしれない。

その、悠介の後に、ティアナもついていく

「俺は…厳しいのかな…?」

「何が?」

「いや、殺すって言った時、皆、あり得ない顔してた。」

「基本的に、人を殺したことのない人間の集まりなのよ…6課は・・・スバルも、結局、今までの実戦の中で殺すことできなかった…」

「命を狙われたら…危ないんだけどなぁ…」

自分の命を脅かすもの、凌辱する者がいれば、悠介は確実に殺すだろう。

歩きながら、その真意を語る。

殺そうとするのなら、相手の真意など、関係はなかった。

自然と、そういう言葉が出てくる悠介に、ティアナは相当、厳しい戦場をくぐりぬけてきたのだろうと、思った。

あの模擬戦の顔を見た時、戦場での顔は、確実に戦場の鬼神の顔をしていた。

「せめて、殺せないあの子たちの代わりに、私たちが殺すしかないのよね・・・」

「まぁな…取りあえずは、目先にいる、あの男のことから考えよう。」

覆面の男に関すること。

しかし、管理局は単なる、殺人事件としか見ていない。

実質、これを捜査しているのは、管理局と外れた、警察組織と、六課だけだ。

ここまで、しても動かないのは、時空管理局は単なる事件として見ていないからと言っていいだろう。

怠惰なる組織と化しているといっても良いだろう。

反時空管理局組織が出来上がるのも、無理はないと思ってしまう。

正当防衛と見れば、あの男を殺すことは、できる。

多少の謹慎を受けるだけとなるだろう。

「さて・・・あの中で見たものなんだけどね・・・」

「あの中…?」

「あぁ…胸糞悪いものの、正体が、やっと解った。」

「入ったの……?」

「あぁ…思い出したからね・・・使ってた、術とか・・・」

あの、ヴォルケンリッター・ゾンビの中で、見たものは、人の顔、顔、顔・・・

「もしかしたら、あいつが殺したのは、個々の世界の人間だけじゃない…」

「別世界の人間も殺したということ…?」

「あの中にいた、人の怨念の量は、半端無いものだった……」

「どれくらい…殺してるのよ…」

「さぁね…でも、使っているのもは、殺せば殺すほど、自制が効かなくなって、何で、殺しているのか分からなくなる。自然と殺すのが当たり前になる。」

まさに、今のあの男は、その状態にあるといっても良いだろう。

既に、無差別殺人を行っているのが、良い証拠と言っても良いだろう。

「どう言う物なの…?」

「殺した人間の魂の怨念と霊体を自らの力として取り込む。そして、殺せば、殺すほど、強くなる・・・」

殺した人間の霊体と怨念。

この二つを取り込むことによって、人間の生きようとする力と、人間の恨みの力を自分のものとする。

人間の尊厳と言うものを、すべて否定しまう術と言えるだろう。

人の体を、破壊し、尊厳をも破壊し、自分のものとし、それを使い、相手の精神に入り込み、全てを破壊する。

しかし、使えば、最後。

それは、破壊の一歩。

この術を使ってしまった人間の代償であるといえるだろう。

殺し、殺して、殺したらなければ、また、殺す。

その衝動を完全に抑えることなどできずに、気づけば、その町にいる人間を全て殺していたということなど、あり得る話と言えるだろう。

「それで…?その、人間は誰だと思うの?」

「解らないね・・・元より、この世界に来たばかりだし、犯人が誰であるかなんて、さ。」

「そうね・・・」

解るはずもない。

六課の人間は、少なくとも白であると言える。

「エリオはぎりぎりだった・・・?」

「あぁ、彼、植物人間状態で助かったからね・・・元より、いつ目覚めるかはわからないが。」

そのせいで、一人の少女の運命を変えてしまった、最悪の状況・・・悔やんでも、悔やみきれないのは、あの男に対して、何もできなかったからだ。

自分の無能さが、腹立たしくなってしまう。

「あぁっ!!」

持っていた、刀を腰にマウントさせた後に両腕を組んで、思いきり、上に伸ばした。

こうして、少しは、自分を落ち着けさせることができる。

「あ、スカート汚れた・・・」

ふと、目線を落とせば、微妙に、泥がスカートについていた。

泥は人間の顔を形成していた。

既に、中に、怨念や、霊体の類は無い。もう、完全に死んでしまったのだろう。

心なしか、安らかな顔に見えた。

「これが・・・その、術なの・・・?」

「あぁ…死霊脅魔・・・術の名前と、これが、その残骸…」

「死霊脅魔・・・?悠介くん・・・?」

近くを通りかかった、燈也が、聞きなれない言葉を耳に入れ、疑問を浮かべた顔で、悠介に近づいた。

「それは・・・」

土を払い落し、悠介は燈也に、その意味を説明した。

「何か・・・デメリットはないのか・・・?」

「殺し過ぎると・・・怨念が、体を支配して、術者を破壊する・・・」

術者の破壊、それは、死を意味するもの。

コップの中に水を入れ過ぎれば、溢れ出るように、その体にも、無限に怨念を蓄えることなどできるわけがない。

いずれ、溢れ出るように、怨念も、溢れ出る。

そして、術者の体を喰らい、破壊する。

「それを狙うのは・・・好ましくないわね・・・」

「あぁ。それをやっちゃいけない・・・やると、管理局は、ますます、反感を買われるからな・・・」

「あ、燈也さん・・・」

「聞いているよ・・・フェイトが敵になったことくらいわね。」

いざとなれば

「僕が殺す。高町なのはもね。君たちに、それは、させないよ。」

しかし

「対策は、あんですか?多分、燈也さんの知ってる時より強くなってるよ?」

一度、映像で見た時より、その、万倍は強くなっていると、思った。

「大体、訳わかんないですよ。仮面付けておきながら、馴染みのデバイス使ってたら、本人って言ってるようなものじゃないですか。」

「ふふ…そうだね。」

この事態を、おそらく、楽しんでいるのは燈也かもしれないと、悠介は思った。

過去にあった確執とやらで、色々とあるのだろう。

ある種、殺したい人間をためらいなく殺せるチャンスであるのかもしれない。

とはいえ、燈也の場合、完全に殺したいのは、姉だったあの女のことか。

「なのは・・・さん・・・?」

「どうだろう。」

微笑を浮かべ、誤魔化しながら、燈也は話をはぐらかす。

「大丈夫だよ。ここで、死ぬ気はないからね。」

生きるという執念があれば、勝てる。

死ぬことはない。

「そんなん、迷信ですよ?」

「解ってるよ。それくらいね。」

悠介の頭をくしゃくしゃと撫でながら、燈也はの背中を見送りながら、消えた時に、汚れた部分を眺めてめてみれば、染みになっていた。

「うわぁ・・・ちゃんと、洗濯しないと・・・」

「あんた、そんなん気にすんの?」

「服が汚れるってのは、いやもんだろ?」

「まぁ、解らなくもないけどね。」

そういう部分は、どこか、女っぽい男だと、思ってしまった。

この状況で、考えることではないが、ただ、瑠璃に似ている。

何処となく、被ってしまう。

そんな、部分が、見えてしまった。

ティアナの中で、その仕草が、どうも、女の仕草に見えてしまう。

「気になるなら、クリーニング出しておけば?悠介専用のスカートも、あるはずでしょ?」

「まぁ…ね。」

特注品ではあったが。

自分たちの部屋に戻れば、そこには、いつものように、ヴィヴィオがいた。

世話係である、アイナと一緒に、遊んでいた。

「ん…さっきまでのヴィヴィオじゃ…ないか。」

「へ…?」

「自覚が、ないなら、良いのよ。」

ヴィヴィオの頭をくしゃくしゃと撫でながら、悠介は予備のスカートを取り出して、カーテンの中に入り、そのまま、着替え始めた。

「キャロさんは……?」

「大丈夫だよ……」

咄嗟に出た、嘘。

しかし、純粋な少女をもだまさなければならない。

この世界は非常でできていることを実感させる。

「そういえば、なんで、あの子を連れてきた?」

「あの子……?」

「燈也さんをお父様って呼ぶ子…」

一瞬だけ、ティアナはその、呼び方から、瑠璃を思い出して、顔を伏せた。

ヴィヴィオは、それを見て、一瞬、悲しそうな顔を浮かべる。

スカートを穿き替えた悠介はその姿で、皆の前に現れた。

何も変わりの無い、ロングスカートだった。

「解らないの・・・どうして、あの子が、来たのか・・・あの子が、私を知っていたのか…」

「冥王イクスヴェリア・・・」

神滅大戦時に、後の希望として、ハーデスとペルセポネーが残した、最初で最後の子供。

「でも・・・・・・初めてじゃない気がした……あの子と会ったの……」

「そう・・・」

後の時代、アマテラス・オリヴィエと、イクスヴェリア・・・そして、スサノオはクローンとして蘇る。

「どうして・・・私を選んでくれなかったの・・・!!スサノオ!!!」

「え・・・?」

突如、スサノオと呼ばれる。

しかし、周りを見れば、誰も、不思議なことが起こったような顔はしていない。

では、心の中に直接?

「太陽の光は・・・血塗られた俺の体では、明るすぎる…」

叫んだのは、アマテラス。

心の中に話しかけたのは、アマテラスだった。

異空間に引きずり込まれそうな気持ち悪さを覚えた。

「ん?どうした?悠介。」

正気に戻っていた。

「悠介・・・」

「え?」

やっぱり、正気に戻っていなかった。

しかし、今度は、周りが気づいていた。

どこか、ヴィヴィオがヴィヴィオではない。

まさに、アマテラスの様な。

確かに、アマテラスだ。

どこか、雰囲気が。アマテラスなのだ。

「あなたは…無邪気すぎた・・・」

ツクヨミ。

ツクヨミがそこにいるような感じがしてならない。

でも、目の前にいる人間は違う。

ティアナ・ランスター

ティアナ・ランスターであってティアナ・ランスターではない。

では、誰だ。

ツクヨミ・・・月の女神。

しかし、

「お前は誰なんだ・・・」

オマエハダレナンダ。

お前は

「一体」

ダレナンダ

「一体、なんなのか。」

「スサノオ・・・そうね。私がここにいることを不思議がるのも無理はないわ・・・それに…」

そうか。

貴方には

「記憶が無いもんね。」

「あなたはいつも優しかった。」

「あなたはいつも強かった。」

「記憶が無くても解放できた。」

オマエハダレナンダ

「お前は誰だ・・・」

ツキノメガミ。

そこにはツキノメガミがいる。

「私は私だよ。」

「忘れちゃったよね。」

知らない。

覚えていない。

思い出したくない。

中にいる。

ティアナ・ランスターの中に、悠介の記憶の鍵となる何かが、誰なのか、なんなのか。

「私は・・・」

「誰だ・・・」

誰なのか。

一体・・・ティアナ・ランスターの中にいるものが、それを話そうとする。

記憶の糸を手繰り合わせても、月の光は、共にいなかった。

お前が一体、誰なのか。

本当に、ツキノメガミなのか。

「ぅあ・・・」

悠介の中にいるものが呻き声を上げる。

「悠介?!」

そして、倒れそうになる。

しかし、膝をついただけだった。

眩暈が自分を襲う。

これを、ただの現象なのだろうとも思えない。

全てそれは夢うつつな幻だったのか。

全ては蜃気楼の如く。

全て、何も。

そこには何も無かったように。

そこにはいつものティアナとヴィヴィオがいた。

現実には存在しないのに、あたかも存在したかのように記憶されるもの。

実際にあった。

起こったはずなのに、その存在を二度と確認できないもの。

「悠介・・・?」

気付けば、いつものティアナがそこにいる。

そこに。

いつものティアナがそこにいるのだ。

いつもと、全くわからない。

ティアナが。

「お前、中にツキノメガミが…」

「馬鹿、言わないで。私は、確かにテスタメントだけどさ。カグツチとワルキューレ…ランダムの二段転生。」

「そっか・・・月の女神は・・・向こうの世界・・・」

消えたはずだった。

記憶の彼方にある物。

記憶の彼方にある物は、思い出したくない記憶。

破滅の世界。

「何か・・・あった・・・?」

「いや。」

咄嗟に出た言葉。

それを嘘だと見抜いても、ティアナは、深く言及はしなかった。

言及するようなことでもなかった。

ティアナは、自分の中にツキノメガミがいるとは、思わなかった。

悠介は、草薙の剣を、そのまま、壁にかけて、床に座り込み、ガタの来た親父のように、あぁーと、叫びながら、腰を曲げるのが快感であるかのように、足を伸ばしてゆっくり座りこんだ。

「ソレより、問題は敵の男でしょ・・・?」

「まぁな・・・でも、此処で話すような事じゃない。」

そして、ヴィヴィオに話すべきことでは、無いのだ。

絶対に。

「そうね・・・」

「ティアナお姉ちゃん…」

「大丈夫よ。ヴィヴィオ。私達は、大丈夫。」

「うん!」

ヴィヴィオの母親だった人間が、今、世間を騒がせている犯罪者を助けた女であることなど、言えるはずもなかった。

「それでは、後は、お任せしますね。」

「ん・・・お疲れ、アイナさん。」

床に座り込んでいた、悠介は、首だけを、動かし、背を後ろに向けながら、アイナを見送った。

ついでに、出て言った後、肩をこきこきと鳴らす姿も、本来の戦闘以外で体を動かさない人間であると、ティアナは、確信することが出来た。

どこか、年寄り的な部分があると、ヴィヴィオは、思い、そんな、悠介の伸ばした足の部分に、座り込んだ。

そんな、ヴィヴィオを、悠介が意味無く抱きしめ、リボンをといて、ストレートヘアーになる、ティアナを眺めた。

やはり、ストレートの方が魅力的だと、理由は分からないが、そう、思ってしまった。

その奥に、女としての妖艶さを見てしまったからだろう。

リボンをといた時、どこか悲しげな顔を浮かべていたことを、悠介は見逃さなかったが、聞くべきことじゃないと思い、別のことを、ティアナに聞いた。

「何で、戦場だとツインテールなのに、プライベートに入ると、ストレートになるん?」

「え・・・?そんなに、変かな・・・?」

「いや、気になっただけ・・・」

それを聞いた時からだろうか、ヴィヴィオが悠介を抱きしめる力を強くしたのは。

「強いて言うなら、愛する人の卒業・・・それ以上は、詮索しないで。」

「んー・・・わかった。」

理解した時、偶然か、何か、外に、雨が降り始める。

そしてまた、人が死ぬ…

また、悲しみが増える…

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