
O-50が蹂躙されている。
巨悪との戦いを終え、ウルトラマンオーブことクレナイ・ガイが帰還した時に見た異様な光景だった。
神話に出てくるような巨大な悪魔の姿をした漆黒の怪獣がO-50に住む人々を無差別に食い荒らしていたのだ。
平等に人を食らい、分け隔てなく。
容赦なく人を食らう姿に戦慄する。
まるで差別することなく食らいつくことが慈悲であるかのように。
その悪魔にとっては人が平然と家畜を食らうように人を食らう。
ガイはオーブリングを掲げ、目の前の怪獣に立ち向かう為にウルトラマンオーブオリジンへと変身を遂げて無差別に人を食らう悪魔と戦うために立ち上がる。
「いったい、こいつは!?」


ベゼルブにも似ているが、それ以上の邪悪さがあった。
異質。
怪獣や侵略宇宙人でもない異質。
今までに戦ったことが無いほどの異質。
このような巨大な邪心を持つ存在が、この宇宙に存在していたのだろうか。
そう思わせるほどの二本の角と瞳の無い白い目、小型の天使と悪魔の羽を背中に宿した醜悪な悪魔から感じた。
自らの意志を持って捕食する悪魔。
肉体から瘴気を放ち、これを他者に吸い込ませることで思考能力を奪い、餌になるための家畜にする邪悪で甘美な毒の光を巻き散らして、全ての者たちを狂わせ、大地を枯らす。
「はぁぁぁぁ!」
これ以上、蹂躙されるわけにはいくまい。
オーブオリジンは目の前の悪魔が放つ醜悪な空気を振り払うようにオーブカリバーを構えてO-50の大地を駆け抜けた。
地響きに気づいたのか、悪魔が笑いオーブオリジンに立ち向かうことを許可するように迎撃準備を取った。
まるでオーブオリジンという格下に対しての挑戦を許すかのような神を気取ったような態度で立ち塞がる。
(なめられているのか?!)
居合の要領でオーブカリバーを右腰に据えて立ち向かい様に左薙ぎの斬撃を放つも防がれた。
相手は、その程度の斬撃か?と嘲笑するように笑い余裕の態度を見せている。
斬撃をはじくと同時に口から瘴気を放ちオーブに襲い掛かるがオーブカリバーを鞘にしまうような素振りを見せて大きく体を捻りながら、回転しつつ瘴気を吹き飛ばしながら相手の背後に回り込み、その衝動に任せて勢いよく巨大な刃の斬撃が脳天から悪魔に襲い掛かる。
「!?」
「甘く見たな!」
クレナイ・ガイはウルトラマンオーブ……いくら、この醜悪な悪魔が凶悪であろうとも、それと渡り合うほどの実力を持っているのだ。
オーブカリバーをハンマーの様に振り下ろし、切り裂かれた悪魔の姿に呆気なさを覚えたが、それでも無事ならば、これで終わりならば、もう被害を出すこともあるまい。
オーブカリバーを用いて最大の必殺攻撃であるオーブスプリームカリバーで完全に滅する為に天に掲げた時だった。
切り裂かれた悪魔の死体が集まり巨大な怪獣の姿を現した。
「こいつ……」
オーブスプリームカリバーを早く放つべき。
本能がそう訴えている。
悪魔はより悪魔らしく、神話の邪悪な竜のような姿に形を変えて体中に生えた刃状の突起が表れる。
(こっちが本当の姿ってわけか!?)
オーブカリバーを天に掲げているオーブオリジンの隙を付いて、刃の様に鋭い尾が獰猛な獣のように迫る。
あの挑発的な態度も、これが狙いだったのか。
噂のヘルベロスか、EXゴモラを思わせるような強大な禍々しさ。
光を収束した刀身を振り下ろそうとしても、それよりも相手の攻撃の方が素早く鳩尾に巨大な鉄槌が襲い掛かるように怪獣の尻尾に対処しきれず思わずオーブオリジンは一撃を受けるこに甘受した。
「ぐっ……!?」
尾の先端は己の拳と同じくらいのサイズだというのに、それでも受ける一撃は全身を鈍器で殴られてしまったかのような痛みが走り集中力が霧散し、バランスを崩してオーブカリバーを思わず手放した。
怯んだ一瞬を見逃さず、刃状の突起が赤く染まり、そこからすぐさまに無数のレーザー状の刃が飛び出した。その赤はまるで無数の人間の血を吸った証拠であるかのような禍々しいどす黒い赤だった。それだけで、この怪獣はどれだけ人の血を吸ってきたのか良く分かる。怪獣が命令するような仕草を取った後、勢いよく食らいつくようにオーブオリジンに襲い掛かる。
『コノ世界ハイイ。同胞タチヲ迎エ入レルニハ調度イイ"陰我"ガ溢レテイル。』
「何!?」
怪獣が発する言葉に気を取られたのと、先の一撃に気を取られたのか、オーブオリジンは赤い刃を避けることに全ての集中力を回すことが出来なかった。
「ちぃっ!」
オーブカリバーは吹き飛ばされて回収することは出来ず。今は対処が先と思考を回し、すぐさまスペシウムゼペリオンに変身した。
「スペリオンシールドッッッ!」
宙に巨大な円を描いて巨大なシールドを作り上げた。
間一髪、正面から襲い掛かる無数の赤い刃がスペリオンシールドに食らいつく。
群れを為した刃は、シールドに食らいついた瞬間、突然、巨大な怪物に変化し両腕に巨大な剣を持ったツルク星人を彷彿させるような姿だった。両腕を振り降ろし純白のスペリオンシールドをどす黒い赤の十字架が刻まれる。
「!?」
突如の変化、まるで今まで自分が戦ってきた存在と違う異質さを感じ、思考が翻弄される。
空腹の獰猛な獣がか弱い獲物を前にしたような残酷さ、冷酷さを前にした表情は生理的に恐怖を与えた。
今まで戦ってきた強敵たちとは違う邪悪に満ちた、この怪獣そのもの。
スペリオンシールドを砕き、更に早い一撃がスペシウムゼペリオンの肉体に食い込んだ。
「ぐぁぁぁぁ!?」
体験したことのない肉体が侵食されるような未知の痛みに思わずガイは悲鳴を上げた。
一体、この痛みは。
高みの見物をするかのように、この獣の主は一方的に蹂躙されるスペシウムゼペリオンの姿にほくそ笑む。
それは、何処か、この世界を守護する戦士は、この程度の力であり、そして自分の生み出す邪悪な心は、これほどの力を与えてくれる。
絶対的な支配者として君臨することが出来る愉悦に身を震わせるような歓喜の愉悦だった。
反撃する為の防御手段を失い、その隙を衝かれて一方的に蹂躙するように肉体を分裂させて食い荒らすように攻撃する姿はハイエナが巨大な獣の死体を食い荒らすかのよう。すぐさま反撃をしようとしてもすぐに群れは一つになって巨大な姿を作り上げて身を固めて防いでしまう。
「はぁぁぁぁ!」
だが巨大な姿を作り上げた瞬間にガイは己の姿をエメリウムスラッガーに変身させてアイスラッガー三刀流を用いて再生が追い付かないほどの攻撃を刻み込む持ち前の高速戦闘を展開し目の前の主従怪獣を破壊した。
「さぁ、次は……」
「彼等ガ、相手ダ」
目の前に現れた、それは六体の先ほど、倒した両腕に大剣を持った怪獣であった。
「そんな!?」
高みの見物で主の怪獣は分身を送り込んで絶対的な勝利のために気を抜かない。
戦術としても、この状況を作り出すための時間稼ぎだったとでもいうのか。
ガイは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべて周りを見回した。
(どうする……)
相手は止まること無く容赦なく、オーブを捉えた。集団で巨大な獲物をハントするような意志に満ち満ちている。
それでもオーブとて、この世界を代表する戦士の1人。

一度、跳躍して再度スペシウムゼペリオンに姿を変えて、さも分身しているように見えるほどの高速回転をし無数のスペシウムゼペリオンが両腕を十字に組んでスペリオン光線を放った。
襲い掛かる光の刃の攻撃に瞬く間に光に飲み込まれて消滅する主怪獣の分身たちを破壊する。
この瞬間にも生まれくる分身怪獣達すらも巻き込んでスペシウムゼペリオンはフルパワー状態で咆哮を上げた。
「……」
主怪獣は随分と奮戦するものだと感嘆の咆哮を上げた。しかし、そこにはすぐに自分に倒されるという自信があった。
確かにオーブは良く戦っている。
しかし、あそこまで己を駆使して多く光線を撃ち続ければ。
いくら全ての分身を倒した処で。
「くっ……!」
いつしか絶望からなのか、膝を自然に大地に着けていた。
全ての能力を駆使して戦ったのだ。
その分、エネルギーの消費も激しい。
そうせざるを得ない状況だったとはいえ、常にフル稼働でレーシングカーを走らせるようなもの。
燃料の枯渇が早い状況。
だが、もう分身もいない。
それでも己の力を振り絞り……
「スペリオン光輪!!!」
巨大な光輪を作り上げる。何とか全ての力を、振り絞り渾身の一撃を、主に向かって放った。
相手を切り裂く巨大な光の刃が高速で迫りくる。しかし、主は、光輪の動きを見透かしていたかのように赤い光の刃で打ち砕こうとする。
だが、それこそガイの読めていたことである。
光輪は破裂したような音を上げながら、無数の小さな光輪となって主怪獣に食らいついた。
ガイは念を込めて無数の光輪たちが主の肉体に今度は食らいつく。
さっきとは違う、意趣返しであるとでもいうかのように。

ガイは立ち上がり、サンダーブレスターに姿を変えて歯を食い縛り、とどめの一撃を言わんばかりに最大出力のゼットシウム光線を放つ為に構えた。
「アァ、コレデ終ワリか。」
額から流れる汗を拭うように、この戦いを終わらせるための一撃放とうとしていた時だ。
「イヤァ、強カッタ。確カニ強イ。」
食らいついていた光輪を吸収し、それをそのままオーブに向かって放つ。
「っ!?ゼットシウム光線!!」
純白と漆黒が混ざり合った光の刃が光輪たちを破壊し、突き進む。
マガタノオロチと戦ったような絶望感を味わい、いつの間にかサンダーブレスターの巨体は主怪獣の攻撃が直撃し、吹き飛ばされていた。
この相手にどうすればいい。
まだ消えぬ闘志と絶望感が混在する感情の中でガイは見た。
O-50の岩肌に一人の男が主怪獣を睨みつけていたのを。

「鋼牙、あいつはサバト。多くの人の魂を食らい、眷属を作り出し自らの支配国を作ることに愉悦を覚えるホラーだ。まさか、ここまでデカくなっているとは思わなかったがな。」
「問題ない。」
それは今まで戦士として生きてきたガイにとって意外なことだった。
巨大な肉体を持つ敵を前にして威風堂々。
そんな言葉が似合うほどであり、天使の翼と言ってもいいほどに純白のコートを纏った男に自然と敬意を払いたくなるほどの威厳と、人としての優しさを併せ持った戦士だった。
その戦士の姿に、いつの間にかガイは無意識に見惚れている自分がいることに気づいたのだ。
しかし、それでも、その感情は錯覚かもしれない。それに、いくら、この男が強くても、あの巨体に立ち向かうのは無謀だ。
「お、おい!?あんた!」
「兄ちゃん、安心しな。この男は、これくらいのホラーとは幾度ともなく戦ってきた男だ。」

鋼牙は己の左手をオーブに翳す。オーブは、その左手、人差し指に髑髏のレリーフの指輪が飾られていること、そして、それが口を開き喋っていることに気づいた。
「ザルバ。行くぞ。」
「わかった。兄ちゃんは、そこで少し休んでな。」
ザルバと呼ばれたリングはガイにそう告げると、あとは鋼牙の意志に従うように言葉を紡がずに黙った。
「おい!?」
ガイの心配を他所に鋼牙と呼ばれた男は手に持っていた剣を真正面に構え赤い鞘から刃を抜いてサバトと呼んだ怪獣に向けた。
(まさか、あれで!?)
ガイは知らない。
この男の存在を。
一体、この男は何を為そうとしているのかも。
しかし、これから知ることになる。
この男が何者か。
冴島鋼牙……
それはクレナイ・ガイが、まだ知らない強者であり最強の戦士の名前である。
鋼牙は、そのまま上空に刃を掲げて円を描くように刃を振るう。

その次の瞬間、鋼牙は狼の顔を模した全身黄金の鎧に身を纏っていたのだ。
「黄金の騎士!?」
まさに、その姿そのものである。

「轟てぇぇぇぇぇん!!!!」

勇ましい掛け声と同時に魔法陣の出現によって金色の鎧を纏った馬が現れ、黄金騎士は、その馬に跨っていた。
それこそ魔導馬轟天、金色の身体に真紅の鬣を持つ黄金騎士のパートナーであり、ホラーを100体封印浄化した際に課せられる試練を突破し、英霊により初めて召還を許される魔戒獣である。
まさに圧倒的。
オーブからすれば小さき体であるというのに自分よりも力強さを感じる、そのいで立ちに慄いた。
「黄金騎士……」
それはクレナイ・ガイにとっては一瞬、幻に思えた。しかし、それはオーブとなった己の瞳が確かに捉えた現実でもあった。
自分の巨体の掌ほどしかないサイズの人間が持つ
威圧感。
金色の鎧は穢れの力すらも浄化するような美しさであり、その光はO-50の大地を蹂躙していた、あのサバトの放つ瘴気すらも浄化していた。
「こいつが、黄金騎士牙狼だ……!」
無口にな主に向かって黄金騎士、牙狼と呼ばれた存在に見惚れていたガイにザルバが解説をした。
「牙狼……」
多くの世界を放浪しているガイは、その噂を耳にしたことがある。
森羅万象あらゆるものに存在する”邪念"があるオブジェをゲートとして人間界へとやってきて、生物や物へと憑依するホラーと呼ばれる「魔獣」と、それを狩る騎士の存在。
そして、騎士の中でも最高位の称号を持つ者……
その名は牙狼。
だが、それはあくまでも噂であり、伝説だと思っていた。
しかし、その生ける伝説が目の前にいることは、それは、また事実。
轟天は蹄を鳴らし、牙狼の剣を斬馬刀に変化させる。
それは、オーブの腕一本ほどある巨大なサイズ。黄金騎士は、それを軽々と持ち、既にO-50の大地を駆け抜けていた。
その刃こそ大牙狼斬馬剣。
更に牙狼は、何をしたのか。
全身に翡翠の炎を纏い、敵の、先ほどまでオーブの苦戦していた攻撃を焼き尽くしていた。
これは魔導の火であり、もとより、この鋼牙の世界から来訪したサバトにとっては天敵とも言える炎である。それを全身に纏った存在が襲い掛かるのだ。
「黄金騎士!?」
サバトと呼ばれた怪獣は、その存在に驚きを隠せなかった。
「魔戒騎士ガ、何故、ココニイルノダ!?」
恐れからか、この星で食らった全ての魂を使ってサバトは大量の怪獣を生み出していた。しかし、それすらも気にせずに人から見れば無謀だといえるほどに愚直なまでに正面突破を目指す。
眷属怪獣たちは主のもとに行かせまいと小さな獲物めがけて、大地が抉れるほどの光芒を打ち放つ。瘴気が漂うも、それでも魔導の火の前では掻き消されるというのに。それでいて巨大な刃によって眷属たちは倒されるが、サバトはこの現状を見て逃げることを選択していた。
眷属たちが黄金騎士によって狩られている。
自分よりも小さいはずの黄金騎士に。
これは焦りであった。
そして、戦慄でもある。
ホラーと言う生き物が意識的に刻まれる戦慄の恐怖。
金色の狼。黄金騎士への恐怖がよぎる。
「ったく!図体がでかいと、こうも違うか!」
だが、巨大であるということは、それだけでも勝手が違う現状を見て、急ぎ逃げ捕食し、いずれは黄金騎士をも食らうホラーになる選択肢は頭の中に浮かび上がる。
眷属たちを撃破しているが、それでも一体を倒すのに時間はかかっている。
それならば……
逃げるという選択肢もありだと翼を無理やり生み出し飛び立とうとしている。幸い、この世界は陰我にあふれた生物がかなり多い。それらを捕食し、吸収し、力の糧になれば、この世界の覇者になることもあり得ない話ではない。
「させるかっ!!」
しかし、サバトには見えていないものがあった。いや、倒したと思い込んでいた存在が、黄金騎士に全てを委ねて闘志を失ったはずの巨人は、まだ闘志を失っていなかったのだ。
己よりも小さなものが果敢に立ち向かう姿、そして恐れているサバトの声を聴き、負けていられまいと立ち上がり、黄金騎士の道をふさぐ怪獣軍団に向かって光の矢を放つ。サバトによって牙狼のせん滅を優先されるように命令された眷属怪獣は愚かにもまっすぐに刃の鋭さを持つ光芒に気づくことなく体内の光が邪悪な心を浄化し、肉体を崩壊させる。
「スペリオン!光輪!!!!」
両腕から生み出した光の線輪が飛び立つことを許すまいと猛撃のごとく、それこそ光を超える速さだっただろう。サバトから生えた翼を切り裂き、そこから動かさないとでも言うかのように両足の腱を切り裂いた。
「感謝する!!ハッ!!」
牙狼は果敢に声を放ち、さらに大地を駆け抜ける。
本来、それは、この世界の守護者たるウルトラマンの世界に存在しない筈の、守りし者である。
先ほどまで未知の能力だからこそオーブを苦戦させていたが、過去にサバト以上のホラーと戦い勝利したことのある黄金騎士には、この手のタイプのホラーはどうすればいいのか解っている。そして、この世界において怪獣と言う生物と融合したが故に意識を強く持ったホラーは非常に滑稽である。
「デカくなり過ぎたな。それじゃぁ、小回りも効くまい。」
ザルバが嘲笑するようにサバトに告げる。
気にすること無く牙狼は轟天を操り敵の攻撃を軽くいなす。
既に大牙狼斬馬剣には魔導火が走り、相手を焼き尽くす準備をしている。
「兄ちゃん、止めを刺す準備をしておけ。」
ザルバの言葉にガイは頷き、身体をオーブオリジンに変化させた。
止めの言葉の意味、それはオーブスプリームカリバーを放つための下準備をしておけという言葉に捉え、オーブカリバーを手に持ちサバトに向かって構えた。

その刹那の瞬間にも轟天が飛び上がり、牙狼は大牙狼斬馬剣を上空に掲げて重力に任せて一気に振り下ろしていた。サバトの刃状の突起が心地よい音色と共に砕けていく。
「がぁぁぁぁぁ!?」
刃状の突起の部分から翡翠の炎が吹きあがりサバトの肉体を侵食し始める。
「お前さんが一手を考えている瞬間に、既に鋼牙は三手先を考えているのさ。」
黄金の剣が暁の闇を支配する邪悪を切り捨てる。
O-50の戦士の頂の光の輪に吼えるようだった。
何処から、あの湧き立つ勇気は出てくるのだろう。それは、あの騎士の背負う終わりなき使命の為なのか。宿命を恐れずに走り続けているように思えた。
威風堂々、その姿は愛の為に戦う戦士の姿。燃え滾る誇りを抱いて黄金の剣は大地を揺るがし牙狼が刃を振るいサバトは舞い上がる。
翡翠の炎が竜巻を上げてサバトの肉体を焼き尽くす。
それはクレナイ・ガイにとっては一瞬、幻に思えた。しかし、それはオーブとなった己の瞳が確かに捉えた現実でもあった。
自分の巨体の掌ほどしかない金色の鎧馬に跨った狼を模した金色の鎧を纏った者がオーブカリバーを彷彿させる巨大な刃を手に持ち怪獣に致命傷を与えたのだ。
牙狼はキッと翡翠の瞳で立ち塞がる怪獣を睨みつけて再度、大剣を構えた。それだけで目の前の怪獣、いやホラー「サバト」は萎縮した表情を浮かべたように見えた。
消滅することを恐れているような、蹂躙し、支配欲に満ちた獣がする顔ではない。

「ハァァァァ!!!」
舞い上がり無重力状態で抵抗できないサバトに対して牙狼は真下から駆け上がるように巨体を切り裂いた。
「今だ!!」
鋼牙の言葉がオーブに響く。

「オォォォォブスプリィィィィムカリバァァァァァ!!!」
オーブカリバーを頭上で回し光の輪を描いてから、剣先から放たれた虹色の光線がサバトの切り裂かれた肉体に直撃した。
サバトの肉体はオーブカリバーの洗礼を受けて大爆発を起こし、その反動に身を任せて牙狼はオーブの元に戻って鎧を解除した。
それに合わせる様に轟天も消えて、そこには寡黙な表情を浮かべた男、冴島鋼牙がいた。
『鋼牙。あれは少々、形は違うがウルトラマンだ。お前の親父、大河も昔、奴と共にホラーに憑依された宇宙人と戦ったことがある。』
「父さんと……ならば、俺がウルトラマンと出会うのも黄金騎士としての宿命なのかもしれないな。」
戦が終わり、クレナイ・ガイが変身を解除し、鋼牙の前に立つ。
これが、あの怪獣を倒した男なのだと思うと信じられない思いがある。
だが、まずは助けてくれたことに感謝の念を抱き鋼牙に挨拶をした。


「助かりました。クレナイ・ガイです。」
「いや、こちらこそ助けるのが遅くなって済まない。冴島鋼牙だ。」
『何せ、この世界に来た時には既に、お前さんがサバトと戦っていたからな。』
ザルバも、この世界に鋼牙が来た事情を話し、あのサバトが何だったのかを話した。
ホラーは、本来、この世界には来訪が出来ない存在だった。いや、ゲートをくぐって、この世界に来訪しようにも大いなる力であるガジャリが、かつて「王」と呼ばれる超人とともに作り上げたゲートによって封印力を強めて並のホラーが潜り抜けようとすると消滅する。しかし、何者かによって悪戯にゲートが歪められ、この世界にホラーは来訪した。


それによって、幾つもの世界の綻びが生まれ鋼牙は、そのゲートの修繕の為に動いている魔戒騎士なのだという。
それはガイが多くの世界を放浪した時に聞いた古の怪物ホラーそのものであること、鋼牙が、そのホラーの天敵である魔戒騎士の最高位の位を持つ黄金騎士であったこと。
そして鋼牙は愛する人を探すために大いなる力と契約し、その大いなる力が与えた試練の為に多くの世界を駆け抜けていること。
この試練が終わった時、愛する人と共に家族の元に帰れるのだという。
「お疲れさんです……」
それしか言葉は思いつかなかった。
自分以上に、これほどの使命を背負って戦っている戦士に向けての最大限の言葉だった。
「こちらこそ戦いに巻き込んで済まない。随分と君を傷つけてしまった。」
「いえ。こちらが助けてもらいましたから。」
「そう言ってくれると助かる。こちらも助かった。」
鋼牙はガイに頭を下げた。
ホラーの討伐に協力してくれた偉大なる光の戦士に対する最大限の例でもあった。
「これから、また旅に?」
「あぁ。出来れば、このゲートを閉じることに協力してほしい。君の光の力があればすぐだろう。」
「はい!」
ガイは再度、オーブに変身して鋼牙を掌に乗せて、この世界と鋼牙の世界を繋ぐゲートへと向かう。
そこは純白に満ち足りつつも無数の世界を通るための穴がある世界。
「しかし、ゲートを封じれば折角出会えたのに、もう会えなくなりますね。」
『このゲートの封印は本来、ホラーを通さないもののためだ。もとより、俺たちは出会うことすらない。もっとも、メシアクラスのホラーが興味を持てば……』
ザルバが不穏なことを口に仕掛けたが、鋼牙がザルバの口を閉じて黙らせた。
「ザルバの言う通り、巨大なホラーであれば破壊される。だが、そうなった時、俺は……ガイ、再び君の世界に赴くだろう。」
「なら、俺も鋼牙さんの世界が危機に陥った時、助けに行きます。」
鋼牙は柔和な笑みを浮かべてガイに手を差し伸べた。ガイも、その手を取り鋼牙に戦士としての誓いを立てる。
「あぁ。あのホラーの生み出した多くの分身に一歩も引かずに立ち向かった意志の強さに、守りし者としての覚悟を見た。そのときは、よろしく頼む。」
『鋼牙が初対面の男に、ここまで言うとは、な。お前さん、あの戦いで大分、信頼を得たぜ?』
「はい。ザルバさん。」
(口数は少ないけど、暖かみのある人だったな。)
ガイは鋼牙の笑顔を思い出していた。鎧を纏う前は険しい戦士の表情が、戦いが終わりガイと出会った会話し、別れる時、口角を少しだけ上げただけだが瞳や表情は誰よりも優しい柔和な笑みだった。あれこそが冴島鋼牙の他者に送る最大の賛辞としての
笑顔なのだろう。
それは長い人生、多くの人と出会ってきたガイだから解ることだった。どれほど鋼牙は過酷な人生を歩もうとも出会うだけで人の希望になる。
そうした偉大な戦士に出会えたことに、この運命の導き合わせに感謝する。
鋼牙の人生に幸があることを望むようにクレナイ・ガイは手向けとして、このウルトラマンと言う魔戒騎士がいない世界から去り行く黄金騎士の背中にオーブニカを響かせた。
「黄金騎士……牙狼……」
クレナイ・ガイは忘れることは無いだろう。
数多の世界の中で常に人の希望となり邪悪な魔獣を狩る偉大なる黄金騎士牙狼……


その鎧を纏う冴島鋼牙の名を。
歩く行先は違えど進む道のりは同じ二人の戦士の物語は終わる……

しかし、その姿を不気味な蒼い影がほくそ笑むように見つめていた。
「あれが、ホラーと黄金騎士……」

「え……と……ここは……」
朝倉リクは目覚めた。
いつもと違う場所で。
此処は、何処なのだろうと考えていた矢先、突如、爆発音が響く。
「あれは……?!」
リクが見つめた先にいた存在……それは……この世のものとは思えない怨念を身に纏った……
「ドンシャインに出てくる、怪物?」
思わず好きな特撮番組に出てきそうな怪物……に、似ていたが、それは明らかに違う生々しい憎悪を身に纏ったような姿だった。
「おい!大丈夫か!?」
「え、あ、はい?」
間抜けな回答をして思わずポカーンと呆気に捉える。声の主に気づく前に、目の前に現れた怪物に切りかかる黒衣のコートを纏った男が剣を天に振りかざし金色の鎧を身に纏う戦士の姿だった。


その名は……
道外流牙
牙狼翔の鎧を身に纏う男。
「いったい、ここは……どこ?」
疑問を抱くリクを前に牙狼翔は怪物を切り捨てていた。